入学2日目。
午前中は普通の授業で退屈だった。
「……眠い~」
刃羅は大きくあくびをしながら、英語の授業を聞いていた。
ここはずっと前に自分で勉強していたので、今更感があった。
「……分かんない!」
しかし数学や社会などは思ったより進んでおり、ついていけなかった。
それに百は呆れた顔をする。
「昨日も思いましたが……乱刀さんは変にちぐはぐですわね」
「ぶぅ~!」
「今日は子供っぽい性格ですのね」
刃羅は頬を膨らませて不満を表出する。
昼は大食堂で芦戸や梅雨達と食事を摂る。
「ズズ~……ンマンマ……このラーメンうめぇな!」
「麺類好きなんだね!」
「6杯も食べるなんて大食いなのね。刃羅ちゃん」
「ズズ~……ンマンマ……まだ食えっぞ!でも金がねぇ!」
「刃羅ちゃんって食費半端なさそうだね」
ここの食堂はヒーローが料理長をしているため、一流の料理が安価で食べられる。
刃羅にとっては初めてレベルの食事ばかりだったので、ハイテンションで食べ過ぎてしまった。
「……このままでは今週で小遣いがなくなる」
「どれだけ食べる気なの!?」
財布を見て肩を落とす刃羅に、芦戸が突っ込んだ。
午後の授業はヒーロー基礎学。
教室にいる全員がどこかソワソワしている。
「わーたーしーがー!!」
廊下から大きな声が聞こえた。
「普通にドアから来た!!!」
入ってきたのは濃い顔の巨漢の男。
生きた伝説言われたNo.1ヒーロー、オールマイト。
オールマイトの登場にクラスメイト達もテンションが上がっている。
「ふ~ん……実物初めて見たけどぉ……なんかなぁ」
刃羅はオールマイトを見て、首を傾げる。
確かに圧は凄いが、ステインから聞いていたほどとは思えなかった。
「……教師始めたことにぃ……関係あるのかなぁ?」
何か裏がある気がすると感じた刃羅。
と言っても、すぐに何が出来るわけではないのでしばらくはアクションを起こす気はない。
「早速だが、今日はコレ!!戦闘訓練!!!」
それに全員がざわつく。
刃羅もニマァと笑みを浮かべる。
「そしてそいつに伴って……こちら!!!」
教室前方の壁から何かがせり出してくる。
「入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた……戦闘服!!!」
『おおお!!!』
全員が興奮する。
立ち上がる者もいる。
「さてぇ……私の要望は通ったかなぁ」
刃羅も少し楽しみにしている。
「着替えた順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
『はーい!!!』
クラスメイト達はコスチュームを受け取って、更衣室に行く。
刃羅も受け取って、更衣室でトランクを開ける。
「おおー!」
「凄いね!」
「……要望した案より生地が多いですわね?ん?……『あなたの要望は露出が過ぎるため却下されました』」
「えぇ!?百ちゃんのコスチュームそれでも生地多いの!?レオタードじゃん!!」
他の皆もお互いのコスチュームを見て、盛り上がっている。
刃羅も着替えて、装備を付けていく。
上は藍色の和服。深紅の帯にはいつもの武器バッジが大量に付いている。右腰には『ウルミ』と呼ばれる鋼鞭剣が吊り下げられており、左腰には鎖鎌。右背中には刃を潰した鉄刀が携えられている。
下は黒のパラッツォパンツで両太ももにはベルトが巻かれており、2本ずつナイフが装備されている。赤のブーツサンダルの足裏は縦に隙間が空いており、そこから刃を伸ばせるようになっている。
そして顔上半分には赤い髑髏マスク。髪を縛っているリボンも赤い。
「まぁ、こんなもんじゃの」
「なんか悪役!」
「芦戸嬢も人の事言えぬじゃろうに」
「うぅ~……なんかパッツンパッツンになってしもた」
「なんか麗日エロイ」
「やめてぇー!」
「ほら!皆さん!遅れますわよ!」
百の促しの声に移動を開始する一同。
グラウンドには男子達も集まっていた。
「さぁ!始めようか有精卵ども!!」
その後、授業内容を告げられる。
今回は屋内対人戦闘訓練だった。2人1組でチームを組み、「ヒーロー」と「ヴィラン」に分かれてクラスメイト同士で戦う訓練だ。
「ふむ。お互いの『個性』やコスチュームの機能を理解し、作戦を決めなければならんのか」
「そうね。確かにいつも決まったメンバーと組むわけではないものね」
刃羅の呟きに梅雨も頷いて同意する。
「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「適当なのですか!?」
オールマイトの言葉にゴツイアーマーを着た飯田が声を上げる。
そこに緑谷が補足説明し、飯田が納得する様子が見られた。
その後、くじを引いた刃羅は葉隠透という透明人間の女性と組むことになった。
「よろしくね!刃羅ちゃん!」
「よろしくねぇん。ところでぇ、それがコスチュームなのぉん?」
「凄い色気!?そうだよ!」
葉隠は手袋と靴しか見えない。服は透明に出来ないと制服などから考えると、今彼女は全裸のはずだ。
「大丈夫なのぉん?墨とかぁ水を浴びたらぁ体見えるんじゃないのぉん?」
「そうだけどね!どうせ本気になったら脱ぐし!」
「……大胆ねぇん」
「ケロ。普通は装備を固めるものだけど、真逆だものね」
刃羅すらも呆れる『個性』の使い方だ。
どうやって戦うのか逆に知りたくなる。
そして最初は緑谷・麗日VS爆豪・飯田のバトルが決まった。
刃羅達は地下のモニタリングルームに移動して、観戦することになった。
「へぇ~。いきなりあの2人か~。どうなるかな~」
周りから少し下がったところで観戦する刃羅。
他のクラスメイト達はオールマイトの近くでモニターに注目している。
開始して建物に侵入する緑谷達。
少し進んで、すぐに通路の影から爆豪が飛び出してきた。
それを緑谷は麗日を庇う様にして回避する。
「いきなり奇襲!!」
「爆豪ズッケェ!奇襲なんて男らしくねぇ!!」
「奇襲も戦略!彼らは今 実戦の最中なんだぜ!」
緑谷は覆面の左側が破れるがほぼ無傷。
刃羅は腕を組んで、それを見ていた。
「今の動作……爆豪氏を見て、すぐに動いたでござるな。緑谷氏は爆豪氏の行動を読んでいたということになるでござる」
「忍者になった!?」
刃羅の声が聞こえていた葉隠は新しい話し方に驚く。
それを刃羅は特に反応せず、モニターに集中していた。
爆豪が右腕を振ろうとした時、緑谷が素早く動いて爆豪の右腕を抱える。
そして、そのまま背負い投げして爆豪を背中から叩きつける。
それに刃羅も含めた全員が目を見開く。
その後、緑谷が爆豪に向かって何かを叫ぶ。
映像だけで声が聞こえないので会話は分からない。
それに爆豪は盛大に顔を顰め、怒りに顔を染めて叫んでいる。
他のモニターでは飯田が耳を押さえている。
それに爆豪が何やら呟いている。
「あいつ何話してんだ?定点カメラで音声ないと分かんねぇな」
「小型無線でコンビと話しているのさ!」
どうやら飯田は爆豪が1人で飛び出して、慌てているようだ。
それを無視して爆豪は緑谷に攻撃を仕掛ける。
その隙に麗日が走って移動を開始する。
爆豪は麗日を全く意識していないようだった。
「……ふむ。把握テストの時から思っていたが、爆豪は妙に緑谷に突っかかるな」
「だよね」
刃羅の言葉に頷く葉隠。
2人は昔からの知り合いのようだが、詳しくは関係を知らなかった。
ただの同級生と言うわけではないようだ。
その後も緑谷は爆豪の攻撃を見事に対応する。
それにクラスメイト達も緑谷の評価を上げる。
「すげぇな あいつ!!『個性』使わずに渡り合ってるぞ!入試1位と!!」
その言葉に刃羅も内心で同意する。
(普段のオドオドしてる様子からは考えられねぇほど判断と実行速度が速えぇ。確保テープの使い方も初めてとは思えねぇほど的確だぜ)
それに爆豪も焦ったような表情をしている。
緑谷は不利と悟ったのか一度離れる。
爆豪は両手で爆破しながら何かを叫んでいる。
「私情全開だね~。ある意味ヴィランらしいかも~」
「確かに!すっごい怖い!」
「だね~」
緑谷は通路の角に隠れながら息を整えている。
その目は普段とは考えられないほど力が宿っている。
(……一度覚悟が決まれば戸惑いが小さくなるタイプか~)
緑谷を見て、性格を理解しようとする刃羅。
その間に麗日も飯田がいる階に到着した。
入り口近くの陰に隠れる麗日に飯田は気づいておらず、何かブツブツと呟いているように見える。
「ここからだな!」
「どう飯田君を倒すのかな?」
「飯田の奴は何を考えているんだ?」
すると、麗日が急に吹き出す。
その音で飯田も麗日の存在に気づいた。
「何 噴き出してんだよ」
「面白い事でもあったのかな?」
「飯田の呟きじゃね?」
麗日は諦めて姿を現すが、飯田は両手を広げて周囲を示す。
「何をしていたのかと思えば、浮かすものを無くしていたのね」
「これで麗日はかなり制限されたな。緑谷と合流したいが……」
「それは爆豪さんを呼び込むということですわね」
「む!爆豪が緑谷を見つけたぞ!」
爆豪は右腕を前に突き出して、緑谷を睨む。
「ふむ?あやつの爆破は遠距離は無理じゃったはずじゃが……」
刃羅の呟きに周囲も頷く。
爆豪は手甲の取っ手を引っ張り、そこから飛び出たピンに指を掛ける。
それを見たオールマイトは慌ててマイクに向かって声を上げる。
「爆豪少年ストップだ!殺す気か!」
しかし、爆豪は狂気が宿った笑みを浮かべてピンを引く。
その瞬間、巨大な爆発が緑谷とビルを吹き飛ばす。
爆発の衝撃で刃羅達がいる地下も揺れる。
緑谷は何とか無事だった。
「というよりは、外したのか?」
「え!?」
「被害が大きい割には緑谷にほとんどダメージがない。あくまで牽制……もしくは挑発のつもりだな」
「だとしても、もう授業の範囲超えてんだろ!」
刃羅の言葉に切島が慌てる。
その間に麗日が動いていたが、飯田に躱される。
オールマイトが爆豪に注意する。
それを聞いた爆豪はすぐに切り替えたのか、近接戦を仕掛ける。
『個性』を使いこなした猛攻に緑谷は一方的にやられていく。
「爆豪君はぁ『個性』と合わせた身のこなしを感覚で分かってるんだねぇ。対してぇ緑谷君はぁ爆弾持ちの『個性』だしぃ。戦闘では勝ち目ないねぇ」
「うぅ~!!でもでもぉ!ちょっとやりすぎじゃない!?」
「そうだねぇ。爆豪君はどうやらぁ目的に対してはぁ変に冷静だけどぉそれ以外は目が行かなくなるみたいだねぇ」
お互い感情をむき出しにする。
しかし、どうにも爆豪の方が追い込まれている感じに見える。
「……確か爆豪はんって緑谷はんのこと『デク』って呼んどったなぁ。それにみょ~に馬鹿にしとったし、緑谷はんのことを無個性みたいなこと言うとった」
「確かに言ってたわね」
「もしかして爆豪はん、今まで馬鹿にしとった奴が強ぅなってきて焦っとるんちゃうか?それに、誰かに追いつかれたり、自分より強い奴を見るんも初めてなんちゃうか?」
「どういうこと?」
「負けるっちゅうことがなかったんやろ。『個性』も強ぉて、才能もある。小学校中学校レベルなら、学校でもぶっちぎりで1番やったんちゃうか?それが雄英で初めて揺さぶられたっちゅう感じやな」
刃羅の言葉に周囲も納得した様に頷いて、モニターを見る。
緑谷と爆豪が拳を握って、ぶつかり合おうとする。
それにクラスメイト達は慌て、オールマイトも止めようとする。
その時、飯田と向き合っていた麗日が動く。
柱に抱き着いて、何かを待つように待機する。
それに刃羅は目を細めて、緑谷とを見る。
(……っ!踏み込みが浅い!?狙いは爆豪やない!?)
ぶつかり合うと思われたその時、緑谷は腕を爆豪ではなく、真上に向かって振り上げる。
爆豪は右腕で緑谷を殴り、爆破する。
緑谷の攻撃は麗日の目の前の床を吹き飛ばし、瓦礫が舞い上がり、麗日が掴んでいる柱も砕けてバットのように持ち上げる。
すると、柱を振り回して瓦礫を飯田に向かって打ち飛ばす麗日。
飯田はそれに慌てて対処しようとするが、瓦礫に合わせて麗日がターゲットに向かって飛び、貼り付いた。
「……なんと!」
刃羅は決着に目を見開く。
攻撃を受けたように見えた緑谷は左腕でガードしていた。爆破までは完全に防げなかったのか、フラフラでゆっくりと倒れていく。
(あの状況で!自分が傷つき倒れることよりも、パートナーのアシストに終始した!しかも打ち上げる位置も正確に把握して!)
刃羅は緑谷の行動に笑みを抑えられなかった。声を上げて爆笑するほどではないが、興奮を抑えられず歯を見せて笑みを浮かべる。
(この結末をあの状況で考えつくだと!?一体どんな思考回路をしているんだ!?)
自爆確定の策。今のヒーローの何人が実行できるのだろうか。
刃羅は狂気ともいえる笑みを浮かべて、倒れ伏す緑谷を見つめ続けていた。
(面白い!こいつ面白い!)
ステインを初めて知った時に近いほどの興奮だった。
その後緑谷は保健室に運ばれた。
残りの3人はモニタールームで講評されていた。
百が飯田以外を酷評していたが、爆豪は訓練終了から心ここにあらずという様子だった。
刃羅は興奮冷めやらぬ状態だったが、そこに更なる興奮材が投下される。
「それでは場所を変えて、第2戦だ!次はこの2組だ!」
選ばれたのは轟・障子と刃羅・葉隠だった。
刃羅達はヴィラン側となった。
「うおー!刃羅ちゃん私ちょっと本気出すわ。手袋もブーツも脱ぐわって、ひぃ!?」
葉隠は気合を入れて、素っ裸になって刃羅を見る。
しかし刃羅の顔を見て、引きつった声を上げる。
「……そうだなぁ。ちょっと、本気でやろうかぁ。私もぉ火照ってきちゃったぁ」
ニマァ!と狂気が滲む笑みを浮かべている刃羅。
それに葉隠は恐怖を感じて、震える。
「ど、どどどど、どうどう刃羅ちゃん!殺しそう!ホントに人殺しそうだよ!?ヴィランになり切り過ぎだよ!?」
「大丈夫ぅ。ちゃんと加減はするからぁ」
「ホントだよ!?お願いだからね!?」
スタートして、葉隠が裸で移動を始める。
刃羅は核の前で待機していたが、突如ビルが凍り始める。
そのビルの廊下を歩く1人の男。
轟 焦凍である。
「そっちは防衛戦のつもりだろうがな。こうなったら関係ない」
涼しい顔で目標に向かう轟。
目標の核まで後1階と言うところで、
「随分と余裕そうだなぁ!!クソイケメンよぉ!!」
「!!」
「オラァ!」
柱の陰から刃羅が飛び出てきた。
轟は目を見開いて構えるが、その前に刃羅は背中の鉄刀を振り下ろす。
轟は転がってギリギリで躱す。
「くっ!あの氷を避けたか」
「この程度で俺っちの脚が止まるかってんだ!」
刃羅はもう一度刀を振るう。
轟はそれもまたギリギリで回避する。
「なら、さっきよりきつめで行くぞ」
刃羅の膝下まで厚めの氷が覆う。
「あぁん!?」
「悪りぃな。これで終わりだ」
轟は喜びもせず、当たり前と言った顔で刃羅に告げる。
すると刃羅は笑顔を浮かべて叫ぶ。
「ホワッツ!?何を勝手にジ・エンド!にしてるデース!」
「!!」
キュイイィィィン!!
刃羅の両脚からズボンを突き破って、スパイラルカッターのように回転する刃が出現し、氷を削り割る。
それに轟は目を見開く。
「この程度のジ・アイス!ミーのジ・スパイラル!の前には効かないデース!」
回転を止めて鉄刀を振る刃羅。
それを轟は躱すが、すぐに切り返されて右脇腹に鉄刀がめり込む。
「がぁ!?」
「ヒーーット!!」
轟は脇腹を押さえながら、氷を生み出して壁を作って距離を取る。
刃羅は氷の壁に構わず、左手で貫手を放つ。
その左手が槍に変化して氷の壁を貫いて、轟の右肩をかすめる。
「!!」
「言っているでしょう。この程度の氷では止められませんわ」
刃羅は左手を戻し、鉄刀をレイピアのように構えて轟を見つめる。
轟は左手で右肩を押さえながら、右手を離握手して調子を確かめる。
「残念。靭帯までは届きませんでしたか」
「……槍まで作れんのか」
「刃が付いている近接武器ならばなんでも。殺さないように注意しなければいけないので、厄介ではありますが」
そのため、刃を潰した鉄刀を作ってもらったのだ。
非殺生が絶対のヒーローでは、刃羅の『個性』は使いどころが難しい。
加減をしようにもどうやっても刃が生まれる以上、斬り所で失血死してしまうからだ。
「それにしても……コスチュームは作り直しですわねぇ。何か考えないと裸になりそうですわ。百様のようなコスチュームは流石に恥ずかしいですし」
刃羅のズボンはホットパンツのように短くなっており、美脚が露わになっていた。
サンダルも壊れており、裸足である。
「まぁ、今はいいでしょう。……そろそろ続きを始めても?」
「……ああ」
刃羅が独り言を話している間に、轟は傷口に氷を張って止血していた。
「……なんでわざわざ待ってやがった?」
「決まっているではありませんか。もっと戦いたいからですわぁ!」
ドン!と突きを放つ刃羅。
轟は再び氷の壁を作りながら、後ろに滑って距離を取る。
「戦闘狂かよ」
「強敵との戦いは次への糧ですわ!」
氷を避けながら、轟に詰め寄る刃羅。
近づいた瞬間ヒュヒュヒュン!と高速で連続突きを放つ。
すぐに氷の壁を作り出し、そのまま氷を伸ばして刃羅を拘束しようとする。
刃羅も足裏に刃を生やして、滑って回避する。
(八百万と同じで刃を生やす場所は全身か!けど、こいつは身体能力と武器捌きは八百万より上!飛び道具がないことが救いだな)
「今、飛び道具を有せぬことが幸運とでも思ったでござるか?」
「!!」
「別に『個性』だけで決まるわけではないでござるぞ!」
刃羅は左手を振ると指の間に手裏剣が現れる。
「!!」
「しっ!」
手裏剣を放つ刃羅。
数枚の手裏剣が放物線を描いて轟の左右から迫る。
轟は左右にも氷の壁を生み出して防ぐ。
「ちぃ!」
「……隙」
「!!」
真上から両腕を大剣にした刃羅が斬りかかってくる。
轟は足元に氷を張って滑りながら急いで下がる。
「……砕」
刃羅は床に大剣を叩きつける。
床が砕けて、2人の足元に大穴を空ける。
「くっ!」
「……隙」
「!!」
轟は足元に注意を向けて、刃羅から意識がそれる。
その隙を刃羅は逃さずに大剣を振った勢いで詰め寄る。そして大剣を重りにして、体を捻り轟の体に蹴りを打ち込む。
「ぐぅあ!?」
「……終」
「っ!!」
下の階の床に叩きつけられた轟に、刃羅は両腕を戻して追撃する。
それに轟は目を見開く。
『そこまで!ヒーローチームWIN!!』
すると訓練終了の放送が流れる。
刃羅は攻撃を止めて、轟のすぐ横に下り立つ。
「……謎」
「……俺達が勝った?」
「轟!」
上の階から現れたのは障子だった。
「お前……」
「お前が戦っている間に壁をよじ登って上の階に潜り込んだんだ」
「マッジかよぉ!?透明露出狂はどうしたぁ!?」
「見えんから分からん」
「あの露出狂!無線まで外して、行きやがったのに!!どこいやがんだぁ!!」
「……すまん。俺の氷で足止めされているのかもしれん」
すると、轟が左手から炎を生み出して氷を溶かし始める。
それに刃羅は目を見開く。
「あぁん!?てめぇ!炎も使えんのかよぉ!?」
「……ああ」
「どクソイケメンが!!なんで使わねぇ!」
氷だけでも厄介なのに炎まで加われば間違いなく刃羅はもっと早く負けていた。
それに轟は刃羅から目を逸らす。
「すまない。だが、俺は戦いで左を使う気はない」
「……ふん。くだらん信念だな。人を馬鹿にしたいなら戦いではなく、普段の生活でも徹底して使うな」
轟の言葉に刃羅は冷めた目で見て、吐き捨てる。
そこにペタペタと音が響いてくる。
「ごめーん!刃羅ちゃん!」
「……どこにおったのじゃ?」
「上!裸足だったから氷漬けにされちゃって動けなかった!」
「……そうか」
「っていうか!刃羅ちゃん、脚がエロイことになってるよ!」
「全裸のお主に言われとうない」
刃羅は右手で顔を押さえながら、ため息を吐く。
そして地下のモニタールームに戻る。
「おかえり!!では!講評の時間だ!!」
「その前にぃ轟君を保健室にぃお願いしたいですぅ」
「む!そうだね!轟少年!はいこれ!」
「……どうも」
保健室利用書を手渡すオールマイト。
受け取った轟は軽く頭を下げて、保健室に向かう。
「さて!では講評だ!今回のベストは障子少年だな!」
「……轟では?」
「確かに轟少年も素晴らしかったが、接敵後の戦闘が減点だ。障子少年は轟少年に頼ってはいたが、途中で戦闘に気が付いて、すぐさま動いた」
「……私が何も出来なかったな~」
「そうだな!葉隠少女は確かに透明であることは有利ではあるが、今回はそれが足を引っ張ってしまった!しかも無線まで外したから、自分の状態を伝えられなくなってしまったのが一番の敗因だ!」
「はい……」
「そして最後は乱刀少女だ!戦闘は見事だったが、それに集中しすぎたな!葉隠少女がどうなっているのか確認出来たならば、もう少し対処が出来ただろう!」
「えぇ~ん。轟ちゃん相手にぃ他の事に意識逸らすなんてぇ無茶言わないでよぉん。オールマイトぉん」
妙に体をクネクネして色気を醸し出す刃羅に、オールマイトも顔を少し赤くして目を逸らして咳払いする。
「お、おほん!と、とりあえず!これで2組目も終了だ!で、ここも穴が開いたから、次のビルに行くぞ!」
「お色気も意外と効くのねぇん。……DT?」
「だまらっしゃい!」
「ぶべん!?」
「刃羅ちゃん……。今のは叩かれても仕方ないわ」
ドゴン!!と音を立てて頭にチョップを叩きつけられ、倒れ伏す刃羅。
ピクピクとする刃羅に梅雨が呆れたように声を掛ける。
その後、障子に背負われて運ばれ、モニタールームの端っこに転がされる刃羅だった。
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刃羅の新しい刃格!
脇差:忍者しゃべりになる。一人称は「某」
スパイラルカッター:英語交じりのハイテンションガール。一人称は「ミー」。使用時イメージは『ワンピースのMr.1【スパイラルホロウ】』
*ちなみに生み出した武器でなければ性格は変わらない。なので装備している刀やナイフでは性格は変化しない。
スパイラルカッターは武器ではないですが(ーー;)お許しを