ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#40 夜中に響く音……?

 土曜日。

 訓練が終わり、へとへとで帰る用意をするA組一同。

 相澤達教師陣が今後の予定を話している。

 そこに刃羅が歩み寄る。

 

「どうした?」

「聞きたい事あんねん」

「なんだ?悪いが、外出はまだ認められんぞ」

「ちげぇよ」

 

 相澤の言葉に顔を顰めながら否定する刃羅。

 それに首を傾げる相澤達。その後の刃羅の言葉に、顔を顰めて腕を組むことになる。

 

「別にぃん駄目なことじゃないでしょぉん?」

「……まぁ、そうだな」

「で?いいの?駄目なの?」

「……いいだろう。ただし、監視は付くぞ?」

「分かってんよ」

 

 相澤の言葉に頷いて、着替えに向かう刃羅。

 その後ろを姿を見て、顔を見合わせる相澤達。

 

「……厄介な奴だな」

「あの事情が無ければ、文句なく応援したいけどねぇ」

「しかし止めることも出来ないでしょう。仮免試験を考えれば、間違ってはいないですからね」

「ソウダナ。ソレニ彼女ノ存在ハA組ニトッテ、色々ナ意味デ欠カセナクナッテイル」

「『個性』での力押しに頼ってしまう轟君、センスの高さ故に中々並ぶものがいない爆豪君。あの2人に戦闘において一番刺激になるのは彼女だけだものね」

「それに緑谷君や切島君などにとっては、体術や戦闘スタイルの手本にもなってますしね。彼女の指導や組み手での指摘は的確ですし」

 

 ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスも悩まし気に眉間に皺を寄せる。

 未だにステインの元に戻ることを捨ててはいない言動を時折している刃羅。しかし、それを注意すれば仮免試験を受けるかどうかも怪しい。厄介なのは刃羅の存在がA組のモチベーションに関わっているということだ。もちろん全員ではないが、数名ほどは間違いなく集中出来なくなると相澤達は考えている。

 それは問題ではある。しかし集中できない一番の理由は、刃羅が語る『本物のヒーロー』への答えが出ていないからだ。それは相澤達も同様だ。

 オールマイトと同じでは意味がないのだ。なので、刃羅を納得させられる答えが出ない限り、刃羅がいなくなる恐怖を抱えている。そして、その答えは本人の将来のヒーロー像にも直結している。

 資格ではなく、存在でヒーローを見ている刃羅との意識の差を、緑谷達は時折見せつけられているのだ。

 

「あの子達はオールマイトも、敵連合も、乱刀さんにも深く関わっているからこそ、難しい問題よね。私達だって今までみたいに『まずは資格を!』ってわけにもいかないわ」

「……全く。だからあの人は教師に向いてないって言ったんだ」

 

 相澤はオールマイトを思い出して、顔を顰める。それにミッドナイト達は苦笑するだけに留める。

 とりあえず、今日は飲もうと相澤に声を掛けるミッドナイト。それを聞いたセメントスは、『プレゼントマイクとオールマイトだけは絶対に巻き込もう』と心に決めたのであった。

 

 

 

 

 

 日曜日。寮生活初めての休日にして、週1日だけの唯一の休みだ。

 朝7時前。

 

 飯田はいつも通り目覚ましが鳴る5分前に起床した。

 

「休みとはいえ、生活リズムは崩していけない。寮生活だからこそ、自己管理は徹底せねば!」

 

 カーテンを開けて、トイレを済ませて、洗面用具を持って1階の洗面所に降りる飯田。

 その時、中庭に人影が見えた気がして目を向ける。

 

「ん?……乱刀くん?」

 

 中庭にいたのは刃羅だった。刃羅はTシャツにホットパンツという軽装で、柔軟をしていた。

 

「体操か?しかし、平日は見たことがないな」

 

 首を傾げながらも、まずは顔を洗い、歯磨きを行う飯田。

 歯磨きをしながら中庭を伺うと、刃羅は深呼吸をしており、終えると唐突に拳を構えて正拳突きを思わせる型を始める。その後も下段蹴りや上段蹴りなど様々な型を、始めはゆっくりと行い、徐々に鋭くしていった。

 

 その様子を歯磨きしながら見ていた飯田は、『やはり、あの体術は日々の鍛錬の賜物なのだな』と理解する。

 そこに障子や口田、常闇が洗面道具を持って降りてきた。

 

「おはよう」

「今日も早いな。委員長」

「おはよう。……奮励努力……か」

「……すごい」 

 

 常闇達も中庭の刃羅に目を向ける。刃羅の動きはどんどん激しくなっており、今は中国拳法の型を流れるように行っている。ビタ!と止めた腕や脚からは空気が弾けるような音が聞こえそうなほど、緩急がはっきりしている。

 刃羅はすでに汗びっしょりで、それだけ集中して全身の動きを細かく意識して、型を行っていた。

 

 飯田達は歯磨きを終えても、しばらくは刃羅の鍛錬を見学していた。そこに百や麗日、梅雨、緑谷、轟達も降りてきた。

 

「刃羅ちゃん。部屋にいないと思ったら」

「おはよう。皆」

「おはようございます。……乱刀さんはいつから?」

「俺が部屋を出たときには、もう中庭にいた。その時はまだ準備運動程度だったが」

「そうですか」

「ケロ」

 

 百と梅雨は起きた後、刃羅の部屋を訪ねて姿が無かったので少しパニックなっていた。音がしたので中庭を見ると、刃羅が型稽古をしていてホッと座り込んだのだ。

 飯田は洗面道具を部屋に置きに行き、緑谷達は歯磨きをしながら刃羅の稽古を見学する。

 すでに刃羅は型稽古の域を超えて、シャドーに入っている。殴蹴組み合わせて、バク転などもしながら激しく動いている。そのスピードはどんどん速くなっていく。

 

「……ヒーロー殺しをイメージしてんのか?」

「え?」

 

 轟の呟きに緑谷達は首を傾げる。

 

「あのシャドーの相手だ。あれだけ激しく動いて、しかもあの回避行動。ヒーロー殺しと戦ってるみてぇだ」

「……確かに」

「あ!?」

 

 麗日が突如、声を上げる。その声に緑谷達は目を向けると、空中にいた刃羅が突如無理矢理体を捻り、バランスを崩す。刃羅はそのまま背中から地面に落ちて、芝生を滑る。

 

「刃羅ちゃん!」

「乱刀さん!」

 

 梅雨と百が中庭に飛び出す。それに緑谷達も付いて行く。

 刃羅は荒く息をしながら、仰向けに寝転んでいる。

 

「はぁ!……はぁ!……はぁ!……くっそ!やっぱ、きっちぃなぁ……」

「刃羅ちゃん!」

「大丈夫ですか!?」

「ほえ?」

 

 顔を顰めて起き上がると、梅雨達が駆けつけてくる。

 それに刃羅は不思議そうに首を傾げる。

 

「どないしたん?」

「あんな落ち方して驚かない方が無理よ。刃羅ちゃん」

「それにしても激しすぎんだろ」

 

 梅雨と切島が呆れて声を掛ける。それに百達も頷く。

 

「そう言われてもねぇ。怪我しないからこそぉ全力でやらないとねぇ」

「ヒーロー殺しを思い浮かべながら戦ってたのか?」

「そうでござる。接近戦ではやはり一番想定できるでござるからな。まぁ、負けたが」

 

 立ち上がり、ベンチに置いてあったタオルで汗を拭いて行く刃羅。

 その言葉に梅雨が眉尻を下げて声を掛ける。

 

「部屋を訪ねていなかったから驚いたわ」

「いくら何でも我の鍛錬のために朝5時半から起こすなど出来るか。それに寮生活全てを監視されるのはたまらん」

 

 刃羅は水を飲みながら顔を顰めて、トントンと発信機である首のチョーカーを指で叩く。

 それに梅雨達は悲し気に眉尻を下げる。未だに相澤達からは外すことを許されていない。それに刃羅も逃げ出さないとも言っていない。

 

「まだヒーロー殺しの元に戻りたいのかしら?」

「当たり前じゃろ?儂はまだお主らからなんの答えも聞いておらんし、ヒーロー達は何も変わっておらんではないか。何故お師匠の思想を捨てねばならん。今はただ儂の力を高めるのに丁度いいから、大人しくしておるだけじゃ」

「……」

 

 そう言って着替えに戻る刃羅の後ろ姿を、梅雨達は見送ることしか出来なかった。

 

「……そうだよね。僕達はまだ何も答えを見せてないんだよね」

「そうだな。……すぐ出せるもんでもねぇが……」

「乱刀さんは一度答えを出してしまった。だから私達の答えを待ちながら、ヒーロー殺しの元に戻る機会も伺っているのですね」

「ケロ……」

 

 緑谷、轟、百が刃羅の行動の理由を推測する。それに梅雨は俯き、切島達も悔し気に顔を歪める。

 確かに刃羅はA組に戻った。しかし、それは本当に梅雨達がヒーロー殺しの事を知る前の状態に戻っただけで、解決になっていないと改めて理解する緑谷達だった。刃羅は未だに『エスパデス』の名前を捨てていない。それが出来ない限り、刃羅が梅雨達の隣に立つ未来は訪れない可能性が高い。

 『ヒーロー』という存在の重さを改めて実感した緑谷達だった。

 

 その後、朝食を食べて、一度シャワーを浴びる刃羅。

 出てきた刃羅はジャージに着替えて、鞄を持って出かける準備をしていた。

 それを梅雨は首を傾げてみていた。

 

「どこかに行くの?」

「学校!昨日、先生に施設使わせてって頼んだの!」

「ケロ……休まないと体に毒よ?」

「むしろ今の方が休み過ぎなんだよ。体が鈍る」

 

 そう言って玄関に向かう刃羅。

 梅雨も付いて行こうとするが、

 

「今回は付いてきても一緒に出来ることじゃないべ。先生達が監視につくだろうから、別にいいだよ」

「でも……」

「夕飯までにはぁ戻るよぉ」

 

 梅雨の答えを聞く前に出ていく刃羅。

 梅雨は朝の事もあり、追いかけることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 刃羅が校舎に入ると、相澤とオールマイトが待っていた。

 

「おはよう。乱刀少女」

「悪いが12時までだ。俺達が監督につくからな」

「……へぇ~い」

「他にはいないのか?」

「来たってどうしようもないのです」

「……まぁな」

 

 刃羅の言葉に僅かに顔を顰める相澤だが、すぐにいつもの気だるげの表情に戻り、歩き出す。

 刃羅もそれに続き、オールマイトも付いて行く。

 

「……寮生活はどうかな?乱刀少女」

「別に~。普通~」

「友達と一緒だろ?楽しくないのかい?」

「別になぁ。どうでもええわ」

「……そうか」

 

 そして着いたのは小さなドーム状の部屋。壁一面に穴が開いている。

 刃羅は隣の控室に鞄を置き、上着を脱いで中に入る。

 相澤とオールマイトは別室にあるモニターの前に座る。

 

『じゃあ、こっちで操作するからな』

「了解だ」

 

 相澤がマイクを通して、刃羅に語り掛ける。

 それに刃羅は頷くと【荒刃刃鬼】を発動する。それとほぼ同時に壁の穴から何かが発射される。刃羅は頭を庇い、発射されたものを右腕で受け止める。

 

「ぐ!」

 

 刃羅が受け止めたのは軟式ボールのようなものだった。

 

『どんどん行くぞ』

 

 相澤の言葉の直後、大量に壁からボールが発射される。それを刃羅は腕や蹴りで弾いたりするも、開始の場所からは動かない。もちろん全てを弾くことなど出来ず、体中にボールが叩きつけられる。

 

「ぐぅ!……が!……ぶ!……ぐ!……」

 

 痛みに耐えながらも動き続ける刃羅。特に刃が展開出来ない頭部を重点的に庇う。それ以外は出来る限り刃鱗を維持して、直撃を避けて逸らすことを意識する。

 

 刃羅はこの訓練で痛みに耐えながら荒刃刃鬼を維持し、叩きつけられることで刃鱗の硬度を高めるつもりなのである。本来なら刃は鉄なので、熱した状態で叩かれることがベストなのだが、そうすると髪が燃えてしまう。さらに目や口などの粘膜もやられてしまうので、切島のように全身に攻撃を浴びるしかないのである。

 そして耐えるだけでなく、荒刃刃鬼を維持して攻撃を浴びながら動き続ける訓練にもなる。

 

「づぅあ!?」

 

 しかし防ぎきれずに後頭部にボールが当たり、一瞬動きが止まる。全身にボールを浴びて、持ち直すタイミングを失った刃羅。頭を両腕で庇うが、どんどんボールの量が増えていき、ただ耐えるだけになる。

 

「おのれぇ!!」

 

 刃羅は回転して【嵐の刃】を発動しようとするが、それには荒刃刃鬼を解除しなければならず、回転に乗り切る前にボールを全身に浴びて倒れる。

 それを見た相澤がボールの発射を止める。

 

「はぁ!……はぁ!……はぁ!……」

『まだ始めて10分だが……どうする?』

「まだやるに決まっておるだろう……!」

 

 刃羅は荒く息をしながら立ち上がり、再び部屋の中心に立つ。

 

『そこにいろよ。ボールを回収する』

 

 その言葉の直後、刃羅が立っている場所以外の床が開き、ボールを回収する。そして閉じて真っ新な床に戻る。

 

「ふん……金だけは掛けているな」

『じゃあ、いくぞ』

「来い!」

 

 刃羅は手の込んだ施設に呆れていたが、相澤の言葉と同時に再び荒刃刃鬼を発動する。

 そしてボールが発射され、再び攻防が始まる。

 

 それを眺めている相澤とオールマイト。

 

「……確かにこの訓練は他の皆がいるところでは出来ないね」

「まぁ、『個性』伸ばしは同時にやるには限界がありますからね」

「それに彼女の場合、普段は他のクラスメイトに時間を割いている。彼女の『個性』が伸ばしにくいのもあるが」

「ですね。必殺技も爆豪との戦いで弱点が露出しましたが、彼女の必殺技の構想はやはり命を奪う危険性が高くなる」

 

 複雑なことを考えれば考える程、1つのミスが大きな怪我に繋がりかねない。それが教師陣の刃羅の『個性』への評価だ。どうやっても刃物である以上、扱いをミスれば、人の命を奪ってしまう。複数の武器を発現することは、それだけ扱いに注意が必要となる。そのため、刃羅の『個性』をこれ以上伸ばすことに否定的な意見を述べる教師も少なくない。

 

「だからと言って、今の弱点をそのままにさせておくのも問題……か」

「ええ。厄介な奴ですよ。本当に」

「彼女の思想は私達ヒーローと社会が生み出したものだ。それを否定するのは難しい。間違ってはいるが、間違っていない。それは彼女にも、今のヒーロー社会にも当てはまる」

「……ですね」

 

 オールマイト達も「再びヒーロー達を信じてもらうにはどうすればいいのか」とよく職員室や寮で話題にしている。結局最後には話が脱線して、結論が出たことはないが。

 

「あ!」

 

 お互いに顔を顰めていると、再び刃羅がボールに耐え切れずに床に倒れる。

 

「ここまでか」

 

 それを見て相澤が装置を止める。

 刃羅は荒く息を吐きながら立ち上がり、再び部屋の真ん中に立つ。

 

『……次だ』

「……休憩しろ」

『黙れ下民。むしろここからが本番であろうが。早くしろ』

 

 再び荒刃刃鬼を発動して、ギロリとカメラがある位置を睨みつける刃羅。

 それにため息を吐いて、ボールを回収する相澤。

 

「次が終わったら休憩しろ。いいな?」

『……ちっ。生温い……いいだろう。早く始めぬか』

 

 相澤の言葉に舌打ちをして、渋々頷く刃羅。

 それに顔を顰めながら相澤は再びボールを発射する。

 

「……生温い…か。一体ヒーロー殺しはどんな訓練をさせてたんだ?」

「林間合宿での森での活動を見ていると、合理的ではなさそうですがね」

 

 その後も12時ギリギリまで、相澤が止めない限り続けようとする刃羅に、改めて今後の指導方法について頭を悩ませる相澤達だった。

 

 時間が来た刃羅は相澤に言われてリカバリーガールの元を訪れ、簡単に治療されて寮に戻る。

 入ってすぐのソファに梅雨や百達がいた。

 

「お帰り刃羅ちゃん。お昼ご飯来てるわよ」

「はいな」

 

 洗面所で手洗いをした刃羅は、昼食を食べる。梅雨達もまだだったようで刃羅の横や前に座る。

 

「食べてなかったのであるか?」

「今日は学校もやってないから、刃羅ちゃんが返ってくるまで待ってたの」

「午後も学校に行くのですか?」

「いや、教師共に午後は禁止にされた」

「ケロ。それがいいわ」

 

 顔を顰める刃羅に梅雨達は「先生グッジョブ!」と内心感謝する。

 そして午後は百や葉隠達に捕まり、耳郎の部屋で楽器を触らせてもらうことになった。その後も様々な部屋に連れ回されて、訓練をさせまいと躍起になってる梅雨達に呆れる刃羅だった。

 

 

 

 その夜。

 刃羅はベッドに胡坐を組んで座って寝ていると、唐突に目を開ける。

 

「……何の音だ?」

 

 奇妙な音が廊下から聞こえてきたのだ。

 ヴィーンという昨日までは聞こえたことがない音だ。

 刃羅は廊下に顔を出すが誰もおらず、また何もなかった。

 

「……?なんや?エレベーターやないやろうし」

 

 特に気配もなく、首を傾げる刃羅。

 その後も時折聞こえるが、結局誰もおらず、刃羅は無視して眠ることにした。

 

 

 

 翌日。

 刃羅が聞いた音は他の者達も聞いており、訓練の休み時間に顔を引きつかせながらもその話でもちきりになる。

 他には梅雨、瀬呂、芦戸、上鳴、常闇、障子、峰田が聞いていたそうだ。

 特に峰田はドアをノックされて名前も呼ばれたらしい。

 

「刃羅ちゃんも聞こえたの?」

「うむ。しかし誰もおらんかったぞ?気配も特にせなんだな」

「ふむ……乱刀が気配を感じなかったのだから、人というわけではないのだろうな」

「や、やめろよ障子ぃ!!じゃ、じゃあ誰がおいらの名前呼んだんだよ!?誰がノックしたんだよぉ!?緑谷は聞こえてねぇのか!?」

「うん……昨日は特訓で疲れてぐっすりで……」

「……やっぱり昨日の怪談話?でも乱刀はいなかったしな……」

 

 上鳴が顔を引きつらせながら話す。

 刃羅以外の者達の共通点は、昨日の昼頃に常闇の部屋で怪談話をしていたということだ。

 それに瀬呂が「や、やめろよ」と笑いながら言うが、その顔は引きつっていた。

 

「怪談話だなんて本当に信じてんのか?寝ぼけてたんじゃねーの?」

「べ、別に信じてねぇよ!?でもさぁ、常闇のは本当にあった話かもしれねぇって……!」

「どんな話なんだ?」

 

 砂藤が笑いながら上鳴達に声を掛け、上鳴の反論に切島が興味を持つ。

 それに近くにいた爆豪と轟がビクッと僅かに震え、爆豪は突如「けっ!うっせぇんだよ!」と歩き去っていく。

 その後ろ姿を見て緑谷は「もしかして、ちょっと怖かったのかな?」と思った。

 そこに耳郎が手を上げる。

 

「あ、あのさぁ……ウチも聞いた。変なヴィーンって音」

「ほ、ほら!やっぱ本当にしてたんだよ!?」

 

 耳郎、障子、刃羅と音や気配に敏感な3人が証言したことにより、信憑性が高まる。

 特に刃羅の姿も気配もないという言葉が恐怖を煽り、全員に戸惑うような気配が流れる。

 

「呪いかどうかは置いといて、複数人が音を聞いているとなると、これは由々しき事態だぞ。もしかしたら寮の欠陥の可能性もある。音の正体を確かめねばなるまい。ここは委員長の俺が責任をもって起きていることにしよう!」

「こんな話聞いて爆睡できる奴おりますのん?」

「ケロ」

 

 飯田がフシュー!と鼻息荒く、宣言する。

 それを刃羅は壁にもたれながらジト目でツッコみ、隣にいた梅雨も同意するように頷いていたが、飯田には届かなかった。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 飯田は自室の扉の前で、タオルケットに包まって座っている。睡魔と戦いながらも、百達が差し入れしてくれたコーヒーを飲みながら耐えていた。

 緑谷や百達は交代制でやろうと言ったが、飯田は「皆の睡眠は俺が守る!」と力強く宣言し、1人で行っている。

 

「……今の所は何もないな」

 

 眠気に襲われながらも、飯田は異常がないことを確認していた。

 その時、

 

ヴィィ……

 

「!?」

 

 突如聞きなれない音がして、周囲を見渡すが何も見えなかった。

 飯田が立ち上がると、同じ階の上鳴と口田も部屋から出てきた。

 

「君達、起きていたのか」

「う、うん」

「あんな話されたら寝れねぇって……!なんだよ、この音は!?」

 

 飯田達はウロウロビクビクしながら周囲を確認するも何も見当たらず、顔を見合わせて首を傾げる。

 その時、

 

『ぎゃああああああ!』

 

 小さく叫び声が聞こえた。

 

「峰田か?」

「行ってみよう!」

 

 飯田達が2階に降りると、峰田が緑谷に抱き着き、青山と常闇が顔を青ざめながら周囲を見回している。

 

「どうしたんだ!?」

「ま、また呼ばれたんだよおぉ!」

「僕も聞こえた。ノックしてから……」

 

 それに青山と常闇も頷く。その表情は真剣そのものだった。

 そこに他の男子達も降りてきた。全員聞こえたようで顔が真っ青だった。

 

「いったい、何が起こっているんだ……」

 

 飯田が愕然と呟く。

 

 梅雨達女子陣も音を聞いており、朝食時にはどんよりとした空気が流れていた。

 

 


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