ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#41 ナイトパニック

 全員が謎の音を聞いた翌日。

 もちろん緑谷達は訓練など集中出来ずに相澤達からお叱りを受ける。

 しかし、相澤達も全員が同じ状況なことを疑問に思い、事情を聴く。

 

「音ねぇ……」

 

 話を聞いた相澤達は腕を組んで訝しんでいる。

 

「私達の寮では聞こえないわねぇ」

「シカシ、全員ガ音ヲ聞イテイル。嘘トイウコトハアルマイ」

「まぁな。しかし、呪いなんて非合理的なもん本当に信じているのか?」

「なんか乱刀さんまで怯えてるのは意外よね」

 

 呆れている相澤に、ミッドナイトが刃羅を見ながら首を傾げる。

 刃羅も気だるげに立っており、寝れていないことが伺える。ミッドナイトの言葉に刃羅は腕を組んで、百を睨む。

 

「どっかの奴が抱き着きながら寝てきやがったからなぁ……!」

「……ごめんなさい。し、しかし……不可解な出来事が起きているとなると……」

「ケロ」

「そういうこと……」

 

 百達も音が聞こえると、同じ階の者同士で集まって同じ部屋で寝ることにしたのだ。そうなると初日の夜同様、梅雨と百は刃羅と一緒に寝たことになる。今回は百の部屋の大きいベッドで寝ていたが、音が聞こえた瞬間に百が隣で横になっていた刃羅に抱き着いて、そのまま眠りについたのだ。刃羅は2人が寝たら、自分の部屋に戻ろうと考えていたが、百に抱き着かれたのでそれが出来ず、そのまま朝を迎えたのだ。もちろん刃羅は一睡も出来ていない。

 それにミッドナイト達も納得する。相澤から林間合宿でのバスや宿での寝方を聞いている。

 

「先生!これは大変な事態です!我々の生活基盤に何らかの異変が起きているのは事実。このままでは我々は授業や訓練に集中出来なくなります!ここは早急に原因追求と事態の解決を望みます!」

 

 飯田がズバ!と手を上げる。

 その言葉に相澤は腕を組んで考え込む。

 

「呪いか……そういや、雄英にもそういう話があったな」

「ああ!あったあった!」

『え』

 

 相澤とミッドナイトの言葉に刃羅以外の全員が注目する。

 慌てた芦戸が相澤に声を掛ける。それにミッドナイトが指を顎に当てて、思い出しながら語る。

 

「本当ですか!?」

「え~っと……雄英七不思議の1つになってたはずよ?」

「たしか……ヒーローになれなかった卒業生の霊がさ迷ってて、それを見ると呪われるって話だったな。よく学校裏の森に出るって……ああ、丁度今寮が建っているあたりだな」

『え』

 

 芦戸達は一瞬唖然とした後、パニックに陥った。

 

「その幽霊が寮の中をさ迷ってるの!?」

「やめてぇ!?」

「ハイツアライアンスは呪われた寮なんだぁ!!」

「……ちょっとイレイザー」

「ミッドナイトさんもでしょうが……」

 

 火に油を注ぐ形になってしまい、しまったと顔を顰める相澤達。

 落ち着かせようとするが、自分が火を大きくしたこともあり、その声は届かなかった。

 

「ら、らららら、乱刀さん!!ど、どうしましょう!?」

「ぐぅえ!?く、くく、首が……!?や、やめ……!」

 

 百もパニックになり、刃羅の首元に抱き着いて締め付けながらガクガクと揺する。刃羅は首を絞められて声が出せず、顔を真っ青にしていく。

 

「お前ら……いい加減にしろよ?」

『!!』

 

 ドスの聞いた相澤の声に一瞬で鎮静化する芦戸達。刃羅も解放され、白目を剥いて倒れそうになったところを障子と梅雨に支えられる。

 そんな生徒達を相澤は見回して、仕方なさそうにため息を吐く。

 

「そんなに音が気になるなら、今夜見回りをする。今夜は嵐らしいし、寮の欠陥なら尚更必要だろう。点呼もするからちゃんと各自の部屋にいろよ」

「せっ、先生ぇ……!」

「……今日はぁ…寝れるぅ?」

「ケロ」

「多分な」

「ごめんなさい……」

 

 相澤の言葉に感動して目を潤ませる芦戸達。その後ろで刃羅は意識朦朧としながら話す。それに刃羅を支えている梅雨と障子は頷き、隣で百が申し訳なさそうに顔を俯かせながら謝罪する。

 そうして本日は帰宅となった。

 

 

 

 夕方から雨が降り出し、夜には嵐になった。

 風で窓がガタガタと揺れ、木々が今にも倒れそうなほど傾いている。

 刃羅達は既に各部屋で就寝している……ことになっている。もちろん相澤が見回っているからと言ってすぐに寝れるわけがない。しかも外の嵐が尚更不安を煽る。ちなみに刃羅はすでに寝ている。嵐はどうでもいいし、音も実害がないので興味を失っていた。

 

 相澤はすでに1階に訪れていた。本来なら消灯をしているのだが、見回りもかねて電気をつけている。

 雷が落ちたこともあり、ブレーカーの確認や懐中電灯もすでに準備している。

 問題は停電による生徒達のパニックである。自分が火を大きくしたとはいえ、ヒーローになるつもりの雄英生が幽霊と停電如きでパニックになっていたら、ヒーローどころではない。

 停電にならないことを祈る相澤だった。

 

「しかし……いったい何の音だ?」

 

 音の正体を考える相澤。

 その時、

 

ヴィ……イィ……

 

「!!」

 

 僅かにだが雨や風の音の合間に奇妙な音が耳に届いた。

 相澤は息を潜めて、音の発生源を探る。音が聞こえる方向が変わっていく。つまり動いているということだ。

 

(生き物?……しかし、これは機械音……まさかな……)

 

 そして神経を研ぎ澄ませて、食堂で音の正体を見つける。

 その正体を見た相澤は目を見開く。

 

「嘘だろぉ……」

 

 それに手を伸ばした直後、相澤は後頭部に衝撃を感じた。

 

 

 

 

 時間が経過して、飯田は峰田の部屋の訪れていた。

 相澤が回ってこないのだ。

 

「来てねぇよ……上から回ってんじゃねぇの?それか女子の方からとかさぁ……」

 

 峰田はビクビクしながら答える。しかし、飯田同様様子を見に来た轟や砂藤、瀬呂は首を横に振る。

 

「来てねぇぞ」

「峰田の部屋から音がしたのに、女子からは回んねぇだろ」

「そうだとしても上にも下にも来てねぇのは遅すぎんだろ」

 

 状況を訝しむ飯田達。その時、隣の部屋の緑谷も顔を出す。

 

「みんな……やっぱりおかしいよね。相澤先生が時間通りに来ないなんて」

「怖えこと言うなよぉ……!また乱刀がなんかしてんじゃねぇのか!?」

「とりあえず1階に降りてみよう」

 

 緑谷の言葉に峰田は震えながら声を荒げる。

 そして飯田の言葉に頷き、飯田達は連れ立って1階に降りる。

 降りたと同時に雨と風が窓ガラスを叩く。

 

「それにしても嵐やべぇな」

「万が一に備えて、避難の準備や明かりの準備はしているか?駄目だぞ!雄英生たるもの、そういう事態にも備えていなければ!」

 

 瀬呂が窓を見ながら呟くと、飯田が声を上げる。

 それに緑谷や砂藤は苦笑していると、ふと食堂のテーブル付近で視線が止まる。

 

「あれ?……あそこ……っ!?相澤先生!?」

『え!?』

 

 緑谷の声に目を見開く飯田達。

 緑谷が指差した方向を見ると、相澤がテーブルの横に倒れているのが発見された。

 

 

 

 相澤が倒れているのが発見されて、全員が1階の談話スペースに集まる。

 ソファでは相澤が寝かされていた。

 

「どうしてこんなことに……」

「ふわぁ……ねむ~」

「刃羅ちゃん。しっかりして頂戴」

 

 百が相澤を見ながら、深刻そうに右手で顔を覆う。その横では百達に叩き起こされた刃羅が眠そうに目を擦っている。

 全員が顔を強張らせて互いに顔を見合わせていた。

 

「ふわぁ……ほんで?先生は気絶しとるだけかいな?」

「うん……特に怪我はしてなさそうだけど……」

「ふ~ん」

 

 緑谷の言葉に欠伸をしながら頷きながら、刃羅は相澤に近づく。

 確かにパッと見では怪我をしているようには見えない。息も落ち着いている。

 刃羅は相澤の手首を掴んで脈を測り、服を捲ったりしていく。

 

「乱刀さん?」

「刃羅ちゃん?」

「……服の下にも外傷は見当たらんのである。脈も普通であるな。……ん?後頭部が少し腫れているであるな?熱っぽいのである」

 

 刃羅は冷静に相澤の診察を行う。

 その行動に少し落ち着きを取り戻す百や梅雨だが、他の者はそうはいかなかった。

 

「な、なぁ!先生の首に金髪絡まったりしてねぇよな……?ひぃ!?金髪!?って、なんだ。俺の髪か……」

「だまっとれ阿呆」

 

 上鳴の1人コントに刃羅がジト目でツッコむ。

 刃羅はなぜ金髪が気になるのか知らない。しかし、怪談に参加した者達は顔を真っ青にする。

 

「そういうこと言うんじゃねぇ!アホ面!」

 

 そこに爆豪が怒鳴る。それに対抗するように峰田が叫ぶ。

 

「やっぱり呪いだ……!呪いなんだあああ!!」

「それよりもヴィランなんじゃねぇのか!?相澤先生が気絶させられてるんだぜ?」

 

 峰田の叫びに切島が反論する。

 それに感化されて周囲の者も「幽霊!」「ヴィラン!?」などと慌て始める。

 その声はドンドン大きくなり、パニック寸前である。

 飯田や百が落ち着かせようと声を上げるが、その声は騒ぎと雨風の音で届かない。

 その時、

 

いい加減にせぃ!!!

 

『!!?』

 

 刃羅の声が轟き、全員が動きを止める。

 刃羅は腕を組んで顔を顰めている。

 

「今は正体が何かではなく、どう動いて行くかが重要だろう」

「そうね。まずは相澤先生の事を他の先生にも伝えないといけないわ。私達だけで動くわけにもいかないもの」

 

 刃羅と梅雨の言葉に、我に返る一同。

 

「その通りだな!乱刀くん!梅雨ちゃんくん!確か先生の部屋に内線が通っているはず……」

 

 飯田が言いながら動こうとした時、雷が轟き、次の瞬間に寮の明かりが全て消える。停電のようだ。

 

「ひゃあ!?」

「こんなタイミングで停電かよ!?」

「っ!?落ち着け!?黒影……!」

「ちょ!常闇!?黒影出すなよ!?」

 

 突然の暗闇で目が慣れず、誰がどこにいるのか分からなくなる。それにより、恐怖が爆発して再びパニックに陥る。

 

「皆!落ち着くんだ!」

「百!懐中電灯か何かを出すでござる!」

「っ!は、はい!」

 

 飯田が落ち着かせようと声を上げ、刃羅が百に指示を出す。

 飯田同様落ち着かせようと声を上げていた百は、それにハッとして懐中電灯を作り出そうとする。

 その時、百の足元を何かが通り過ぎた。

 

「きゃあああ!?」

「うわっ!?ヤオモモ!?どうしたの!?」

 

 百の悲鳴に耳郎が声を掛ける。未だに居場所が分からない。

 

「な、何かが足元を通って……!?」

「何かって…ヒャア!?……なんかおる!?」

 

 百の言葉を聞いた麗日の足元にも何かが通り過ぎる。

 それに更にパニックになり、あちこちでも悲鳴が上がる。どうやらそれは動き回っているようだ。

 

(なんだべ?……あの音はしねぇし、気配ははっきりしてんべ)

 

 刃羅は目を凝らして気配を探る。しかし、今までのと違う様子に困惑している。集中したくても、クラスメイト達も悲鳴を上げて動き回っているので、気配が追えないのだ。

 

「誰か明かりを!」

 

 飯田の声に爆豪が舌打ちをしながら《爆破》を起こして、明かりを照らす。

 その一瞬に全員が白い何かが宙を素早く移動して闇の中に消えていくのを目撃した。

 

「ななななななななななんかいたよぉ!!?」

「あれが幽霊か!?呪いか!?」

「っ!」

 

 葉隠と上鳴が叫び、刃羅は白い何かが消えた方向に駆け出して追いかける。

 

「み、緑谷……幽霊には氷と炎、どっちが効くんだ……?」

「へ?い、いや、流石に考えたことはないけど!?で、でも氷は効くイメージないし、炎なら……。でも、幽霊は実体がないから物理攻撃が効かないんじゃ……!?」

 

 意外と動揺している轟の質問に、緑谷も動揺しながらも分析する。しかし、その答えに轟は絶望する。

 

「!?ど、どうすりゃいいんだ……!?」

「もうだめだーー!!!おいら達みんな殺されるんだーー!!」

 

 峰田の泣き叫ぶ声が響く。それに更にパニックになる一同。

 刃羅はそれを無視して必死に気配を追っていた。

 

「えぇい!うるさい……!くそ!どこに行った!?」

 

 その時、玄関の扉が開いた。

 それに悲鳴も止まり、凍り付く一同。

 その時再び雷が轟き、稲光で姿が見える。

 

 その姿は長い金髪だった。

 ペタリ、ピチャリと水が滴る音を響かせて、寮の中に入ってくる。

 刃羅が気配に気づき、声を掛けようと金髪に近づいていく。

 

「ん?お前……」

「ぷれ……」

『金髪の幽霊だー!!!!』

『いやあああああ!!!』

 

 金髪が刃羅に気づき、刃羅もその正体に気づいた瞬間、クラスメイト達は叫んで一斉に『個性』で攻撃を仕掛けた。

 もちろんパニックになった常闇は黒影を抑えられるわけはない。

 

「ソノ獲物ハ俺ノモンダアァァ!!!」

 

 そして金髪に襲い掛かる。

 

「ちょ!?ぎゃあああ!?」

「ぴぎゃああああああ!?ごぶぅ!?」

 

 2つの悲鳴は、パニック状態で加減などされていない攻撃の音でかき消された。

 

ドサッ!

ドガァン!!

 

 何かが倒れた音に、ハッと我に返る一同。

 すると電気が復旧し、明かりがつく。それに黒影が涙目になって常闇の中に戻る。

 

 それにホッとした上鳴達は、すぐに顔を引き締めて攻撃をした先を見つめる。

 あたりは炎や氷結、爆破、酸、電気、テープ、峰田のモギモギ、百の大砲が入り交じり、もくもくと煙が立ち上がっている。

 その煙は攻撃により壊れたドアや窓からの風に吹き飛ばされていく。

 煙が晴れた先では、金髪が大の字で倒れていた。

 

「ゆ、幽霊なのに消えてねぇ……」

 

 峰田は愕然として呟き、一同は互いに腕を組んだりしながら恐る恐る金髪に近づく。

 その時に麗日腕を組んでいる梅雨が「ケロ?刃羅ちゃんはどこ?」と周囲を見渡すが、姿が見えなかった。

 そして近づいた金髪を覗き込むと、だらりと垂れた金髪の隙間から金色のちょび髭が見えた。

 

「……え?女じゃない?……」

「……げっ!プレゼント・マイク先生じゃん!」

『え?……あーー!!』

 

 芦戸が訝しんでいると、後ろから覗き込んだ耳郎が目を見開いて青ざめて叫ぶ。

 それに芦戸達も改めて見て、声を上げる。

 普段の逆立った金髪ではなかったので、気づかなかったのだ。

 

「せ、先生!?プレゼント・マイク先生~!!」

 

 麗日が慌ててプレゼント・マイクに近づき、声を掛ける。その横に耳郎も近づき、耳のプラグで心音を確認する。

 

「大丈夫。生きてる」

「もしかして停電で見に来てくれたのだろうか?」

「相澤先生を探しに来たのかもね」

 

 耳郎の言葉にホッとする一同。

 それに飯田と緑谷が推測していると、

 

「ケロ!?刃羅ちゃん!?」

『え!?』

 

 壊れた玄関の扉の上に、刃羅が雨風に打たれながら倒れているのを梅雨が見つける。

 それに慌てて駆け寄った梅雨達によって寮の中に運ばれた刃羅は、プレゼント・マイク同様ボロボロになっていたが気絶まではしていなかった。

 

「刃羅ちゃん!」

「乱刀さん!」

「うぅ~……痛い~……」

「なんで乱刀まで巻き込まれてんだ?」

「白いのぉ追いかけてたのぉ……」

「なるほど」

「んあ~……そした~……プレゼ~……来た~……声かけ~……やられた~」

「……そしたらプレゼント・マイク先生が来たから、声かけようとしたら僕達にやられた?」

「なのですぅ」

 

 刃羅の言葉に申し訳ない気持ちになる一同。プレゼント・マイクも未だに起き上がらない。

 

「おい、お前ら……」

 

 その時、後ろから声がかけられる。緑谷達が振り向くと、相澤が起き上がっていた。先ほどの攻撃の音で目を覚ましたのだ。

 相澤に芦戸達が駆け寄る。

 

「金髪の幽霊が来たと思って攻撃を……!」

「先生、一体何があったんですか!?幽霊ですか?ヴィランですか?」

「白い幽霊もいるんですー!」

 

 未だに興奮している生徒達に相澤が「落ち着け」と一喝する。それに条件反射の如く静まる芦戸達。

 すると相澤が天井を見上げながらウロウロと歩き出した。刃羅は障子に背負われて移動する。内心「もう、あのまま寝かせてくれや」と思っていたが。

 

「……あった」

 

 しばらく歩いた相澤が何かを見つける。それに耳郎も何かに気づく。

 

「あの音がする……!」

「え!?」

 

 耳郎の言葉に目を見開く芦戸達。その言葉に頷きながら、相澤は天井を指差す。

 

「蛙吹。あのちっこいの分かるか?とってくれ」

「……あの黒い点かしら?ええ、もちろん」

 

 相澤の言葉に頷いて、舌を伸ばす梅雨。何とか掴み、舌の上でもよく見ないとあるかないかどうかも分からない黒い粒のようなものを相澤に渡す。

 その黒い粒からヴィーと機械音が響いている。

 

「これが俺が気絶した原因で、謎の音の正体だ。天井についてたのを取ろうとしてテーブルに上がったら、出しっぱなしにしてあった台布巾で滑っちまってな」

「あ、私だ!早く部屋に戻らなきゃと思って、片付けるの忘れてた!」

 

 「てへ!」っとぶりっ子ぶる葉隠に相澤がジト目を向けるが、ため息を吐くだけで収め、生徒達によく見えるように差し出す。

 目を凝らす生徒達。しかし、よく見えなかった。そこに百が拡大鏡を作り出して、それを通して改めて確認する。

 それは極小サイズの機械のようだった。

 

「……なんでこんなものが?」

「峰田が絡んでるとなれば、あれだろ」

 

 そう言って相澤は女風呂の入り口に近づく。

 そして最近設置されたのぞき対策セキュリティアイテムの近くにその機械を置く。すると、その機械はセキュリティアイテムの中に入っていき、「充電中」と声が響く。

 

『……』

「確か造ったのは……サポート科の奴だったな」

 

 相澤はパワーローダーに連絡を取る。そして作成者に変わってもらう。

 

「フフフ。それはですねぇ、夜中も勝手に見回りをしてくれるドッ可愛いベイビーなんですよ!そちらの寮にはどえらい変態さんがいるとのことでしたので、その方……名前はどうでもいいので忘れましたけど!……その方だけ、ちゃんと部屋のにいるか確認機能も付けてあります!フフフ、凄いでしょう!可愛がってあげてください!それでは私はベイビーの開発がありますので!」

 

 一方的に話し、そして一方的に切られた。

 

「……発目さん……」

「また彼女か……」

「やっぱり嫌い!」

 

 緑谷と飯田は肩を落とし、刃羅は電撃と爆発を思い出して顔を顰める。

 発目の言葉に峰田が憤るも、内心では「呪いじゃなくてよかったぁ~」とホッとしている。

 しかし、まだ残っている謎がある。

 

「で、でもあの白いのは!?みんな見たよな!?」

 

 上鳴の言葉にハッとする芦戸達。

 それに刃羅が声を上げる。

 

「口田。お前の声で呼びかけろ」

「え?」

「あの白いのははっきりと生き物の気配があったのだよ。だから君の声に応えるだろう」

 

 刃羅の言葉に、口田は戸惑いながらも頷いて声を出す。するとソファの陰から白いものが飛び出してきて、口田の胸に飛び込んでくる。

 それは口田が飼っているウサギだった。

 

「あ……もしかして……ドア閉め忘れてたかも……ごめんなさい」

 

 ウサギを抱きかかえて、恐縮しながら謝罪する口田。

 それに上鳴達は謎が解けたとホッとして笑う。

 

「よかった~」

「この状況のどこがよかったんだ……?」

『え……』

 

 地を這うような相澤の言葉に緑谷達は周囲を見渡す。

 玄関付近はドアも吹き飛び、窓ガラスも割れて、部屋の中には雨が降りしきりビショビショだった。さらに爆破、炎などでカーペットも所々焦げている。そして未だに気絶しているプレゼント・マイク。

 

 改めて見た寮の状況に顔を青くする一同。

 

「まだ建って間もねぇって言うのに……。原因は怪談だったな?それだけでここまでパニックになるとは……」

 

 髪を逆立てて、目を光らせて睨む相澤。眉間も顰めて、怒りのオーラ全開で、相澤の背中に鬼が見えた緑谷達。

 それに幽霊の時とはまた違う恐怖に襲われて、全員が直立不動になる。

 

「……状況的に乱刀は被害者だな。乱刀以外、全員明日までに反省文提出!しばらくの間、就寝時間は八時!以降、この寮で怪談話は禁止!!いいな!」

『はい!!すいませんでした!!』

 

 呪いも幽霊も怖いが、見えている恐怖の方が怖いのだと理解した芦戸達だった。

 

「やっと……寝れるわ……」

「乱刀は痛みが引かないならリカバリーガールのところに行け。ただ、その前に服を着替えろ」

「まずはグッナイしたいデース。今日はスリーピングしてたのに……」

『……ごめん(なさい)』

「……風邪をひく前に一度風呂にでも入れ。蛙吹、八百万。責任もって看病しろよ。お前ら2人はそれで反省文無しだ」

「「はい……」」

 

 障子の背中でぐったりとしている刃羅に、プレゼント・マイクを肩に担いだ相澤が声を掛けるが、刃羅はそれよりも寝たかった。

 服もボロボロでビショビショの刃羅のボヤキに、全員が謝罪をする。

 ちゃんと寝ている所(ベッドに座ってだが)を叩き起こされて、解決しようとしたらクラスメイト達に総攻撃をくらう。そして吹き飛ばされてビショビショになったのに、原因は全て峰田のスケベ心のせいだったなど、刃羅にとっては理不尽でしかなかった。

 流石に不憫に思った相澤は、監督役の2人に看病を命じる。

 誰よりも冷静に動いていた刃羅に申し訳なく思っていた百と梅雨は、相澤の指示に頷く。

 

 そして解散となり、同じく申し訳なく思った芦戸達も刃羅の看病を手伝うと言い、怪我の確認ついでに女子全員で風呂に入る。すると、刃羅の腹部が腫れ上がっており、左腕は僅かに火傷、右脚には切り傷を負っていた。

 それに慌てた百達は急いで刃羅の体を拭き、ジャージに着替えさせて全員で抱え上げてリカバリーガールの元に連れていく。この間、刃羅は眠り(気絶とも言う)についていた。

 リカバリーガールの診断の結果、腹部は肋骨が折れているのと打撲、左腕は酸によるもので、右脚はガラスで斬ったのだろうとのこと。それの診断に百と芦戸が更に顔を真っ青にする。酸は芦戸、腹部に関しては百が造った大砲の玉であると理解したからだ。

 

 リカバリーガールにより治療された刃羅は、再び芦戸達に抱えられて寮に戻る。

 そして百と芦戸が目に涙を浮かべながら「私達で刃羅を看病する」と言い出し、梅雨達は寝るように伝える。それに梅雨が「だったら皆で交代で看病しましょう。2人ずつで刃羅ちゃんを見ながら反省文書きましょう」と提案し、刃羅の部屋に机や布団を持ち込んで女子6人で反省文を書きながら、刃羅を看病する。気絶している刃羅は大人しくベッドで横になっており、安らかな顔で寝ていた。

 

 翌朝、刃羅は目を覚ますと、ベッドの周囲に寝転がっている梅雨達を見つける。まさか全員いるとは思わず、しかも体の痛みが引いていることに首を傾げる。

 刃羅はとりあえず掛布団がはがれている芦戸や麗日にかけ直し、ベッドに座って胡坐を組んで目を瞑る。

 

 百達が起きて、刃羅に飛びついて泣きながら謝るまで、後30分。

 

 


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