仮免試験まであと3日と迫った刃羅達。
全員、最後の仕上げとばかりに気合を入れている。そして続々とコスチューム改変を行っていた。
「また刃羅ちゃんのコスチューム、変わったわね」
「……なんで武器頼んだだけやのに変わんねん」
帯の脇に取り付けられた2本の鉄鞭。
それだけしか注文していないはずなのに、何故か脚に黒タイツが追加されている。
「しかし、破れるのでは?」
首を傾げる百に刃羅は呆れた顔で説明書を見せる。
それを覗き込んだ梅雨と百が見たものは、
『何度か入院されてた時に黙って頂いた刃羅様の脂肪組織片を培養して作った特製です!これで武器を作ってもコスチュームが破れることはありませんよ!もちろん外部からの攻撃では破れますのでご注意してください!頑張ったでしょう!?』
「「……」」
「ありがてぇけどよ。なんかもう怖えぇよ。エスパデスでコスチューム整備してもらう奴でも、こんなことしねぇぞ」
うんざりとした顔をしながら刃羅はコスチュームを確認していく。確かにスパイラルカッターを発動しても破れることはなかった。
「まぁ、裸足でいるよりはいいと思うわよ」
「そうですね」
ずっと裸足だった刃羅の事を考えるとありがたいことではある。
どうやって刃羅の脂肪組織を奪ったのかを考えると末恐ろしいが。
げんなりしたテンションでTDLに向かう刃羅達。
その途中で緑谷達とも合流した。緑谷もコスチュームを改変し、アイアンソールという脚装備を作ってもらっていた。
そして訓練を始めるA組一同。
刃羅は今日も緑谷達の体術の指導を行っていた。
そこに切島が声を掛けてきた。
「なんじゃ?組み手か?」
「……ちげぇ。いや、違わねぇが」
「はぁ?……おめぇもだべかぁ?」
「……ああ。試合して……いや、殺す気で来てくれ」
『!?』
「……何考えてるの?」
何やら思い詰めたような顔をして刃羅に申し出る切島。
殺す気で来いという言葉に近くにいた緑谷やエクトプラズム達が目を見開く。
刃羅は顔を顰めて真意を尋ねる。
「俺は皆みたいに中遠距離が張り合える技もねぇし、機動力もない。林間合宿じゃあ何も出来なかったし、あの島でも竜巻にビビっちまった。なんかパッとしねぇことばっかで、皆と実力も経験値も開いちまって……」
握り締めた両手を見下ろしながら、独白する切島。
それを緑谷達は心配そうに見つめるが、どう声を掛けていいのか思い浮かばなかった。
「それと我が殺す気で貴様に斬りかかるのと何の関係がある?」
「……俺は《硬化》だ。出来るのは体を硬くすることだけ。俺は守れるヒーローになりてぇ!また後悔したくねぇ!」
「……だから私と戦って、ヴィランと向かい合っても恐怖を押し殺せるようにしたい…か?」
刃羅の言葉に頷く切島。
腕を組んで考え込むように黙る刃羅。
そこにエクトプラズムが声を上げる。
「ダカラト言ッテ流石ニ殺シ合イヲサセルワケニモイカナイゾ」
「する気はありませんわ」
「乱刀!」
「試合はぁしてあげるぅ。でもぉ殺し合う価値はぁないかなぁ」
「っ!」
ギュウ!と俯いて両手を握り締める切島。
刃羅は相澤に声を掛けて、試合をする準備をする。
切島に上鳴や芦戸、緑谷達が駆け寄って、声を掛ける。
「切島!お前、流石に殺し合いは無茶だろ!?」
「急にどうしたのさ?」
「切島君……」
「わりぃ。でも、退けねぇんだ」
その反対側では梅雨や百、飯田達が刃羅に声を掛けている。
「大丈夫かしら?」
「殺す気はありまへんえ」
「しかし、切島君は一体どうしたんだ?」
「皆と~同じじゃない~?」
「同じ?」
「自分にとってヒーローとは何か、でござるよ」
そう言って前に出る刃羅。それを見て切島も前に出る。
今回も相澤が審判役だ。
「殺し合いは許さんからな」
「分かってるのだよ」
「……うっす」
「……本当か怪しいもんだが、少しでも怪しければ止めるからな。始め!」
開始と同時に切島が硬化して走り出す。
それに刃羅はさっそく鉄鞭を両手で握り、高速で振る。
スパパパパァン!
「ぐぅ!?」
切島が両腕を顔まで上げて防ぐが、痛みに呻いて足を止めてしまう。
刃羅は容赦なく鉄鞭を振るい、容赦なく切島を叩き続ける。
「容赦ねぇ~」
「殴り合う以前に近づけさせてもらえねぇのかよ」
「……あのバカが」
瀬呂、上鳴が刃羅の攻撃に慄き、爆豪は切島を見て顔を顰める。
「どうしたのです?この程度で足を止めるのです?まだ斬りかかってないのです」
「くっそぉ!!」
切島は叫びながら飛び出す。
近づいてきた切島に、刃羅は鉄鞭を振るいながら左脚をパルチザンに変えて切島の右脇腹を狙う。それを硬化して何とか弾くが、少し肌が斬れて血が噴き出す。
「つぅ!」
「呻いている場合か」
顔を顰める切島の首に鉄鞭を巻きつけて引っ張る刃羅。
それに切島はあえて逆らわず、硬化して殴りかかる。
「だぁ!」
刃羅はそれを紙一重で躱し、膝蹴りを叩き込む。
「っ!効っかねぇ!」
「ほう。少しは強くなったようだな」
痛みに呻くことなく、刃羅に掴みかかる切島。それに感心したように声を上げながら、刃羅は鉄鞭から手を放し、切島の右腕を抱える。
「だが、まだ甘いのである」
刃羅が切島を背負い投げをして背中から叩きつける。素早く鉄鞭を掴み、鉄鞭を解きながら後ろに下がる。
切島は顔を顰めながらも、すぐに起き上がる。
再び刃羅が鉄鞭を振るい、切島を連続で攻める。
「ぐぅ!?」
「下がるな!この程度で!お前は何のために、硬化で耐える!?」
刃羅の言葉に歯軋りをして足に力を入れて耐える切島。
「はぁ!……はぁ!……守るためだ……!」
「だったら、もっと硬くせぃ!この程度で退き、あの程度の刃で傷つき、足を止める!それで守るなど片腹痛いわ!」
「ぐぅ!」
「何より!その『守る』は何を指している!?」
「っ!?」
刃羅は鉄鞭を止めて、回収する。
切島は刃羅の言葉に目を見開いたまま、足を止めている。
「お前が本当に守りたいのは何かしら?言ってたわね。『もう後悔したくはない』と」
「っ……!?」
「もう一度聞くわぁん。あなたがぁん守りたいのは何ぃん?」
「……」
「切島……」
顔を俯かせる切島を芦戸が心配そうに見つめる。
それを横目で見た刃羅は中学時代に何かあったのだろうと推測する。
「……ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得られる称号である」
「……ヒーロー殺しの……」
「えぇ。ステインは『ヒーローは私欲で戦ってはならない』という考えを持っているわ」
刃羅の言葉に飯田が顔を顰め、それを緑谷や麗日、轟が心配そうに見つめる。
「実はわたくし、そこだけは賛同していませんの」
「え?」
その言葉に全員が刃羅に注目する。
「質問しよう。切島」
「え?」
「『誰かを助けたい』。その気持ちは私欲か否か」
刃羅の問いに目を見開く切島。それに飯田や緑谷、轟は刃羅が保須でステインと対峙したときに話していた言葉を思い出した。
「わっちの考えは私欲である、やよって。綺麗だろうが醜かろうが、願望である以上、それは私欲や」
「……」
「さて、いかなる願いでも私欲である以上、我らの行動は全て己が第一であるということになる。己が傷つくことを厭わないものであってもな」
刃羅の言葉に切島はもちろん全員が考え込むように唸る。
「誰かを守りたいのは、助けた人の笑顔を見たいから。傷ついたり、亡くなった人の顔を見たくないから。結局、人である以上、全ての行動は己が最も前にいるのだよ。ただ、その願いの先にどれだけ犠牲が出るかで『正義』か『悪』かが決まるのだよ。だから君達はお師匠や吾輩の信念が認められない」
その言葉に爆豪はベストジーニストの『ヒーローもヴィランも表裏一体』という言葉を思い出した。
「さて、切島。お前は『守りたい』と言った。ならば、どうすれば守れると思う?」
「……敵を倒す?」
「違う。
「え?」
刃羅の答えに切島が目を見開く。
「オールマイトがあそこまで支持されて、恐れられた理由は何だと思うアルか?」
「……強いからだろ?」
「違うのです。誰よりも前で戦って、誰よりも最後まで立っているからなのです」
「……あ……」
「USJでも、神野でも、オールマイトは先頭で戦って、最後まで倒れなかった。その姿に誰もが憧れて、誰もが目を離せない。ステインやオール・フォー・ワンでさえも」
No.1であろうと、どんな小さな事件であっても、目や耳に入れば誰よりも早く駆けつける。そして、必ず勝つ。
その姿に人々は『ヒーロー』を夢見るのだ。
そしてヴィランは恐れるのだ。『自分が暴れたときに現れるかもしれない』と思ってしまうから。
「勝つだけなら、努力をすれば誰でも出来るわ。でもね、倒れないのは簡単じゃないわ。ヒーローなら尚更よね」
ヒーローの背中には弱き人々がいるからだ。
「……」
「戦いにおいて、倒れないほど目障りなことはないの。どうしたって目が離せんからの」
立っている以上『何かある』と考えるのが人間だ。
「切島。この中では誰よりもてめぇがそこにたどり着けんだよ」
「俺が……」
「故にもう一度問う。貴様が守りたいのはなんだ?」
その問いと同時に刃羅は荒刃刃鬼を発動し、両前腕から鎌、両腕をロングソードに変えて、ゆっくりと歩み寄る。
切島はその姿を見ながら、聞かれた答えを考える。
(俺が守りたいのは……一般人?いや……ちげぇ。そんなのは当たり前だ)
ヒーローなのだから。
(誰よりも前で戦って、誰よりも最後まで立っている。倒れないほど目障りなことはない)
刃羅の話を反芻する。
倒れないためにはどうすればいい?敵を倒す?違う。それでは不十分だと言われた。
倒れるということは自分が負けたということだ。
(俺が……負けた……?)
切島は中学時代の後悔を思い出す。
危険が迫る人を前にして足が竦んで動けなかった。だから、もうそんな思いをしたくないから雄英に来た。
入ってからも怖い思いを一杯してきた。
オール・フォー・ワンが現れたときなんて息をするのも苦しかった。戦おうなんて気持ちにすらならなかった。
(そうだ……負けたら駄目なんだよ。敵にじゃねぇ。俺の心が!!俺自身に!!!)
「俺が守りてぇのは……」
グ!と両手を握り、刃羅をまっすぐに見据える。
それを見た刃羅は口を吊り上げて、駆け出す。
「さぁ!見せてみよ!レッドライオット!!」
切島は体を硬化する。
(まだだ!もっと!もっと!!身体も!!心も!!硬くしろ!!)
「俺自身だぁ!!!」
絶対倒れぬ壁となれ!!
切島の体からガキ!バキ!と軋む様な音が響く。
その姿に緑谷達が目を見開く。
「はああ!!」
刃羅が両腕を振るう。
切島はそれに防御をする素振りすら見せなかった。
ガッッキイイィィン!!!
刃羅のロングソードは切島の肩と顔に当たるが、完全に弾かれ、むしろ刃が欠けてしまう。
それに目を見開くが、その瞬間切島が刃羅の両腕を掴む。
刃羅は慌てて鎌とロングソードを戻して、両腕をスパイラルカッターにして回転させるが、切島は手を放さなかった。
「安無嶺過武瑠!!俺はぁ!!倒されねぇ!!」
ガン!と刃羅の額に頭突きをする切島。
流石にくらっと意識が一瞬遠のいて、スパイラルカッターと荒刃刃鬼が解除される。
それを見逃さなかった切島は右腕を振り被る。
「必殺!!烈怒頑斗裂屠ぉ!!」
「ぐふぅ!?」
最硬度状態の切島の右拳が、刃羅の腹に突き刺さる。
刃羅はくの字になって吹き飛び、地面を転がっていく。
その光景に相澤を始めとする全員が驚く。
「完全に決まった!?」
「あの乱刀の刃を完璧に止めたぜ!」
「爆豪や轟でも出来なかったのにやりやがった!」
「凄いよ!切島君!」
「……けっ!あれくれぇ出来て当然だろうがドアホ」
刃羅はすぐさま立ち上がるが、ふらついてたたらを踏む。
「ごほっ!ごほっ!……今のは……効いたべぇ……」
額と両腕から血を流し、ペッ!と血混じりの唾を吐く刃羅。
切島は動く度にベキゴキ!と音を響かせる。
「いいじゃろう。それを儂は乗り越えねばならん!!」
刃羅は駆け出し、体を捻ってテンペスタ・ラーマを発動して高速で回転しながら切島に迫る。
切島も走り出して拳を構える。
「おおおおお!!」
そしてぶつかり合う直前。
「気張りなさいませ!!」
「!!」
刃羅は回転しながら右脚を振り上げてバトルアックスに変え、左脚だけで回転して蹴りを放つ。
「はぁ!!!」
高速で迫る斧を切島は両腕でガードする。しかし、回転による遠心力とそれに乗せたパワーに堪え切れずに蹴り飛ばされる。
「ぐぅ!?」
ガン!ガン!と地面を転がる切島。10mほど転がって止まり、うつ伏せで倒れる。
刃羅も足を戻して着地するが、右脚に痛みが走り、片膝をつく。
「つぅ!……斧でなければ折れていたであるな」
刃羅は血を流す右脚を見て、冷や汗をかく。
それほど切島のアンブレイカブルは硬かった。
「ぐ……!」
切島はふらつきながら立ち上がる。両腕からは少しだけ出血していた。
「そこまでだ!」
そこに相澤が試合終了を告げる。
これ以上は本当に殺し合いの域になると判断した。
「はぁ!はぁ!くそ!」
「それはこっちのセリフやドアホ」
悔しがる切島に、座り込んだ刃羅がジト目で言い返す。
両腕と右脚を負傷した刃羅の方が、どう考えても劣勢で負けだった。
ゴロンと仰向けに大の字で寝転がる。
そこに梅雨達が駆けつける。
「大丈夫かしら?」
「そう見えるでござるか?」
「ボロボロだね」
「お腹も痛い!頭も痛い!手足が痛い!」
「つまり全身ですわね」
「イエア!」
その後、ハンソーロボでリカバリーガールの元に運ばれる刃羅。切島は自分の足で歩いて移動した。
「またあんたかね。緑谷よりも来てるじゃないか」
「試合挑んでくる野郎が多いんだよ。俺っちに言うな」
「……わりぃ……」
「まぁ、この子との相性は悪いからね。しょうがないか」
刃羅の言葉に項垂れる切島。
「で~?少しは~すっきりした~?」
「ああ!ほんとにありがとな!」
「ほなら、よろしおす」
切島の言葉に頷く刃羅。
そこに梅雨、百、芦戸、緑谷、飯田、轟、上鳴が顔を出した。
「どうですか?」
「すぐに終わるよ」
「良かったですわ」
「切島ぁ。あんたはどうなの?」
「……これからだな」
「そっか」
「それにしても、バキバ切島ヤバかったな!乱刀の全身刃よりキバッてたじゃん」
「アンブレイカブルだ!」
そして治療を終えて、保健室を後にする一同。
他のクラスメイト達はすでに引き上げているようだ。
「それにしても、やはり刃が通じなくなると厳しくなるな。どうしたものか」
「いやいや!最後の蹴りはヤバかったからな!?アンブレイカブルじゃなかったら、腕斬り飛んでたぞ!?」
「あの回転と乱刀の全力の蹴りだもんな~」
「飯田君並みの蹴りだったよね」
「ああ」
「もしあそこがガードじゃなくて、カウンターだったら完全にヤバかったわ。それにあんただって、あれ以上硬くならないってわけじゃないんでしょ?」
「そうだけどよ……あれをカウンター出来る自信はまだねぇよ」
「防がれた時点で、十分可能性があるのです。それだけで十分改善の余地があるのです」
「……相変わらず向上心高ぇな」
腕を組んで考え込む刃羅に、切島達が感心するも呆れた視線を送る。
緑谷、飯田も顎に手を当てて考え込む。
「でも、切島君のアンブレイカブルは脅威だよね」
「そうだな。俺や緑谷君も攻撃手段が限られてしまう」
「あれの持続時間が課題だぜ。1分保たねぇからなぁ」
「それに轟ちゃんや上鳴ちゃんの攻撃も完全に防げるわけじゃないものね」
「そうなんだよな~」
完全なものなどありはしない。
それぞれの課題に頭を悩ませる一同。
「ケロ。無いもの強請りをしてもしょうがないわ」
「まぁの」
「そうだな」
「少しでも仮免試験で活かせるように高めるのみだ!」
「うん!」
こうして刃羅達は仮免試験当日を迎えるのであった。