ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#45 それは助けない理由にならない

 真堂の地割れで分断された百と梅雨は、障子と耳郎と共に高層ビルエリアに逃げ込んだ。

 再び奇襲されることを考えて、ビル内に入って上階に上がる。

 

「どうですか?障子さん」

「……駄目だ。クラスの奴らの姿は見えない」

「ケロ。困ったわね。どうするの?百ちゃん。攻勢に出る?」

「そうだな。もう通過者も半分を超えているぞ」

「そうですわね……」

 

 百は顎に手を当てて、作戦を練る。

 先ほど放送で通過者が56人になったことを告げられた。あまり時間を掛けると合流も通過も厳しくなる。

 

「待って。誰かが入ってきた」

 

 ビルの壁にプラグを刺して、侵入者が来ないか調べていた耳郎が顔を険しくして声を上げる。

 それに百達も警戒態勢を取る。

 

「数は分かりますか?」

「……4人。階段を上がって来てる」

「4人?随分と少ないですわね」

「他の仲間が負けて逃げてきたのかしら?」

「ううん。そんな感じじゃない。上にどんどん上がって来てる」

「他に仲間がいる?でも、何故4人だけ先に?」

 

 百は相手の狙いを推測する。

 しかし、相手の動きの方が早かった。

 突如、耳郎の耳に大音量の音楽が響く。

 

「うあああああ!?」

「耳郎さん!?」

「響香ちゃん!?」

 

 慌てて耳を抑えながらプラグを壁から話す耳郎。

 耳郎に百と梅雨が駆け寄り、障子が代わりに耳を壁に当てる。

 

「っ!音楽が大音量でなっている!俺ならともかく耳郎にはきついだろう」

「やっぱり響香ちゃんの『個性』がバレてるのね!」

「ということは、やはり狙いは俺達か!」

「やられた……!これでは索敵が!」

 

 百は先手を打たれたことに顔を顰める。

 対応策を考えようとするが、事態はどんどん悪化する。

 

 突如、窓ガラスが順番に割られていく。

 

「っ!?物陰に隠れて!」

 

 百の言葉に梅雨達は壁や柱に隠れる。

 どんどん窓ガラスが割られて、外の様子が見えにくくなっていく。

 

「ちぃ!俺の『個性』を封じる気か!?」

「……これで耳郎さんと障子さんの索敵を封じられた。2人の『個性』を完璧に把握している?」

「八百万!敵の狙いは何だ!?」

「恐らく私達をここにくぎ付けにするつもりですわ!」

「ケロ……その間に私達を包囲するつもりなのね」

「ええ!恐らく、もう近くまできているはずですわ!」

 

 索敵が機能しない以上、もはや敵の位置や人数の把握は出来ない。どのように展開されているか予測が難しい。

 ただでさえ百達の『個性』は把握している敵だ。このまま、ただ数で襲撃してくるとは考えられない。

 

「だったら急いで動かないと!」

 

 百の推測に耳郎が慌てて飛び出す。

 

「っ!?うかつに動いては!?」

 

 百が叫ぶが耳郎は両手のアンプにプラグを刺す。

 

「ハートビートファ……!」

 

 耳郎が必殺技を使おうとした瞬間、窓を割った攻撃が室内まで届き、耳郎のアンプを破壊する。

 

「ああ!?」

「耳郎!?」

「大丈夫ですか!?」

「アンプがやられた!左耳のプラグも!」

 

 耳郎は再び物陰に隠れながら被害状況を叫ぶ。左耳のプラグから少量の血が流れる。

 耳郎の言葉に百は顔を顰めて敵の行動を推測する。

 

「読まれていた……!?あの一度の攻撃だけで!?それにこの周到な作戦。かなり頭が切れる者が相手にいるようですわね……!」

 

 ここに集まったメンバーは偶然。それになのに完璧に行動を呼んで抑え込んできている。

 すでに耳郎と障子は封じられた。つまり次は梅雨と百が標的のはずだ。

 

「これまで相手は姿を見せていない。索敵を封じたからと言って、突入してくるのならば耳郎さんを攻撃した技をそのまま続けるはず。つまり、まだ遠隔操作で私達を封じる策がある……!」

 

 百はまだこの危機は悪化すると結論を出す。

 それはすぐに証明される。

 

「……なんか寒くないか?」

 

 障子が気づく。その言葉に百もようやく肌寒さを感じる。

 

「っ!?これは……!空調!?」

 

 天井の空調から冷風が強く噴き出している。

 それに気づいて強引にでも動こうとしたが、今度は窓にシャッターが下りて閉じ込められる。

 

「閉じ込められた!?」

 

 冷気が逃げ場を失い、どんどん室温が下がっていく。

 薄着の百も体を震わせ始める。

 

「やばいよ!どんどん寒くなってきてる!」

「ケ…ケロォ」

「蛙吹!?」

 

 梅雨が突然倒れる。

 障子が慌てて梅雨に近づくが、梅雨は今にも眠り込みそうだった。

 

「どうしたのですか!?」

「もしかして一気に寒くなったから冬眠!?」

 

 梅雨の『個性』は《蛙》。寒さには弱かったのだ。

 百は慌てて対策を考えるが、冷気はさらに強まり、さらに非常階段の扉から火花が上がる。

 

「え!?」

「まさか……溶接!?」

「くそ!俺達の逃げ道を塞ぐ気か!」

「とりあえず毛布を!」

 

 百が毛布を創造して、梅雨に巻き付けて障子が抱き上げる。

 

「このままでは俺達も寒さにやられるぞ!」

「ヤオモモ!爆弾でドアを吹き飛ばせない!?」

「この寒さでは水蒸気爆発を起こす可能性があります」

「扉は1つだけだよ!」

「相手が確実に待ち構えてますわ。恐らく電源も抑えられているはずです」

 

 百は考え込む。

 障子や耳郎も寒さに震え始める。

 そして百はある答えに辿り着いた。

 

「耳郎さんはもはや索敵も攻撃も出来ない。障子さんと蛙吹さんも同じ。つまり打開策が打てるのは私だけですわ」

「なら早く……!」

「それこそが敵の狙いですわ」

「どういうことだ?」

「相手にとって一番の不確定要素は私の《創造》ですわ。だから相手は私に創造を使わせることで、私の動きを封じるつもりです」

 

 それに障子達も相手の作戦を理解する。

 

「なるほど。八百万の力を使い切らせた後で、悠々と乗り込んでくる気なのか!」

「ええ。ですから私は『個性』が使えません」

「でも、このままじゃここに閉じこもっていても、仮免試験に落ちちゃうよ!?」

「けど強行突破は相手も予測しているだろう」

「だったらどうやって!?」

 

 完全に八方塞がりの百達。

 百は何とか打開策を考える。

 

(どうすれば……このままでは試験が……いえ……違うわ)

 

 百は刃羅と緑谷の事が頭に過ぎる。

 あの2人ならば、どうするか。考えるまでもない。自分を危険に晒しても他の者のために動く。

 

(試験ではなく、今は耳郎さん達の安全を確保しなければ!ならば、私が考えることは!!)

 

 百は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 百達がいる部屋の外では白い制服を着た女性軍団が待ち構えていた。

 その一番後ろでは左目にモノクルをかけた白髪の女性が椅子に座って、紅茶を飲んでいた。

 

「ふふ♪もう少しね」

 

 聖愛学園、印照才子。『個性』《IQ》を駆使する天才少女。紅茶を飲み、目を閉じている間だけIQが増加する。

 これで百達の『個性』を推測して、作戦を練る。ちなみに同級生は完全に才子の配下と化している。

 

「さぁ、『個性』を使いなさい。その時があなた達の最後でしてよ♪」

 

 不敵に笑う才子。それに周囲の者達は顔を真っ赤にして震える。

 その時、

 

ギャリリリリ!ドン!ギャリリリリ!ドォン!

 

「?この音は!?」

「ふ、不明です!?」

「上から!?」

 

 突如、ビルの上から何かを削る音と何かが落ちる音が響く。

 才子達は慌てるが、確認しようにも確かめようがなかった。才子達の仲間には音に敏感な者はいるが、すでに音が聞こえている以上意味はなかった。

 

 そして、その音と振動も百達にも届いていた。

 

「今度はなんだ?」

「ヤオモモ!?」

「わ、分かりません!これ以上、相手には仕掛ける意味が!?」

 

 何かを創造しようとしていた百も創造を中断して、周囲を見渡す。

 そして遂に真上に音が響く。

 

「来るぞ!!」

 

ギャリリリリ!ドォン!!

 

 天井を何かが突き破り、百達の目の前に落ちてくる。

 天井に穴が開いたことで空調が止まり、その穴から冷気が逃げていく。

 そして現れたのは、

 

「YEAHHHHHHHHH!!」

「刃羅!?」

「乱刀さん!?」

 

 刃羅が地面に逆立ちして回転しながら叫んでいる。

 それに目を見開いて驚く百達。

 刃羅は飛び上がって、回転を止めて立ち上がる。

 

「随分とのんびりしとるやないか」

「どうやってここが?」

「他のビルの屋上からお前達が入っていくのが見えてな。合流しようとしたら、お前達の後をつけて入っていく連中や周囲を包囲する連中がいた。だから少し様子を見ていたのだが、随分と好き勝手にやらせているようだったからな。割り込ませてもらった。あぁ、ちなみに外の狙撃犯はもう潰したぞ。全く、お前達がのんびりしているせいで一次試験通過が遅れたのだぞ?どうしてくれる」

「……乱刀さん……!」

「このまま上から逃げるのは簡単じゃがのぅ。馬鹿にしてくれた礼はせねばなるまい?雄英がこの程度の策略でやられると思われては、雄英とオールマイトを追い詰めた敵連合に失礼じゃろう」

「あはは……それはそれでなんかヤダ」

「全くだ」

 

 刃羅の軽口に耳郎達も苦笑して緊張が解れている。

 それに肩を竦めた刃羅は、百を見る。

 

「私が一番槍を務めるわ。援護と後ろは任せるわよ?」

「……はい!お任せください!」

「では、教えてあげましょう。こざかしい策略は所詮大きな力の前には平伏すしかないのだと!!」

 

 刃羅は敵が待ち構えているであろう扉に走り出し、テンペスタ・ラーマを発動して一気に扉を破る。

 

「っ!?あ、あなたは!?」

「雄英の!?」

 

 刃羅の出現とまさかの特攻に慌てる聖愛学園の一同。

 刃羅は止まることなく、才子に迫る。

 

「っ!?」

「やらせない!」

「読んでましたわ!」

「「!?」」

 

 周囲の者が才子を守ろうと動くのを読んでおり、百は創造で捕獲銃を生み出していた。それを障子が大量に構えて一斉に捕縛網を発射する。

 捕縛網を避けようとした者は冬眠から目覚めた梅雨が舌で攻撃して打ち倒し、耳郎も足のスピーカーで音波を放つ。

 百は棍棒で刃羅の後ろについて殴りかかっている。

 

「そんな……!?私の作戦が……!?」

「別に不思議ではない」

 

 慄く才子の前にザシャン!と全身を刃で覆われた刃羅が立ち塞がる。

 才子は尻餅をついて後退りする。

 

「ひぃ!?ど、どうしてここに……!?わざわざ試験に落ちる危険を冒してまで……」

「下民の策など、敵連合の殺意があるものに比べれば可愛いものだぞ?何、嘆くことはない。余らが異常であることは理解している。その異常さは下民の頭では考えることなど出来んだろうよ。それに余は仮免試験に合格しに来たのではない。()()()()()()()()()()()()。試験に落ちる?それは助けぬ理由にならん!」

 

 才子は目を見開いて固まる。周囲の者も刃羅の言葉に目を見開いている。

 百や梅雨達は笑みを浮かべて、刃羅の背中を見つめる。 

 刃羅はニイィと口を吊り上げながら、才子を見下ろす。

 

「覚えておくがよいぞ、下民。確かに策とは弱き者が強き者に挑むためのもの。されど大いなる力の前には、策など紙切れに描いた空想に過ぎぬ。盾にもならぬし、壁にもならぬ」

「あ……ああ……!」

 

 刃羅の言葉に打ちのめされる才子。

 

「さて、終わったか?余らが軍師」

「ええ!」

 

 刃羅が振り返ると、才子以外の者達は全員倒れていた。

 百が少し肩で息をしながら刃羅に近づいてくる。

 

「この下民は貴様に譲ってやろう。余はこの余興に満足したのでな」

「はい」

「でも、どうするの?ここにいる奴らじゃ2人足りないよ?」

 

 才子も含めると倒れているの8人。

 誰かが余ってしまう。

 

「許す。貴様らで好きにせよ」

「いいのか?」

「下民共の仲間はまだいるだろうし、屋上で転がしている奴もいるのでな」

「ケロ。刃羅ちゃん。助かったわ」

「それは早くターゲットを押してから言うのだな」

 

 そう言って刃羅は屋上を目指して入ってきた穴から出ていった。

 

 それを見送った百達はターゲットを押していく。そして百は才子と向かい合う。

 

「……ここまでですわ。最も私達も自分達で突破したわけではないので、少し申し訳なく思いますが、これが戦いというものです」

「……そうね。救援と言うイレギュラーを甘く見ていた私達のミス。そして目先の目標に囚われた私達が小さかっただけ。……流石は雄英。完敗でしてよ」

 

 才子は目を瞑って肩を落とす。

 百は頭を少し下げて、才子のターゲットに当てる。

 

 こうして百、梅雨、障子、耳郎、刃羅は一次予選を通過したのだった。

 

 

 

 

 刃羅達は指示に従い、控室を目指していた。

 

「はぁ~、まだ一次試験なのにアンプ壊れたのはイタイなぁ」

「左耳は大丈夫ですか?」

「まぁ、右耳が残ってるしね」

「乱刀が来てくれなかったら、どうなっていたことか」

「ヤオモモが無茶する直前だったもんね」

「本当に助かりましたわ」

「ケロ」

「あいつらが策略家を気取っていたから間に合っただけだ」

 

 ヴィラン相手だったら、あんなチマチマしたやり方をしていたら確実に他のヒーローがやってきて混戦になると刃羅は考えていた。

 

「確実を狙うのは悪かねぇがな。こんな混戦状態であんな作戦が完璧に出来るって思ってる方がおかしいんだよ」

「……それに俺達は完封されたわけだがな」

「助けが来てくれる運を持ってはるのも大事なことやで」 

「……他の皆さんは大丈夫でしょうか」

 

 百は他のクラスメイトの事を心配する。

 

「ケロ。控室に行ってみないと分からないわ、百ちゃん」

「そうだよ。轟や爆豪達ならもう通過してるよ」

「他の連中だって合流を目指して動いているだろう。飯田や緑谷が何もしないとは思えないしな」

「そうですわね」

「良くも悪くも雄英は目立っておる。ターゲットがいないということはあるまい。多すぎる可能性はあるがの」

 

 肩を竦める刃羅に苦笑しながらも頷く百。

 通過した以上出来ることは何もない。今は信じて待つだけだった。

 

「それにしても一次試験でこの過酷さ。二次試験はどうなるのか」

「やめてよぉ!緊張しちゃうじゃん!」

「ケロォ。でも、考えとかないとまた出遅れてしまうわ」

「乱刀さんはどう考えますか?」

「……一次試験で試されてんのは情報力、チーム内での連携、そしてリミットがある中での判断力と行動力と制圧能力ってとこだべな」

 

 刃羅の推測に頷く百達。

 

「でもこれじゃあヴィランとの戦闘しか想定して無いアル。ヒーローの本質は『人助け』ネ。次でそれを見ないとヒーローの素質が問えないアル」

「……確かに」

「ってなると次は人命救助を想定した試験ってこと?」

「ええ、恐らくは」

「ここで考えるのは最初の公安委員の話なのです」

「ケロ?」

 

 首を傾げる梅雨に障子、耳郎。

 百は自分で答えを出そうと考えている。

 

「お師匠……ステインの名前と思想をわざわざあそこで話したのは何故?一次試験の趣旨のため?それにしては内容が重すぎるわ。別に後半の話だけでも良かったはずよ」

 

 刃羅の言葉に腕を組んで考え込む障子と耳郎。

 

「そしてぇわざわざ100人にぃ絞ったのは何故かぁ」

「……流石に1500人もの受験生全てを見るのは不可能に近い。しかも屋内まで入れるのですから」

「そうだな」

「ということは……二次試験では私達の言動を細かくチェックするため?」

「そう考えるのが妥当であるな。つまり、二次試験は少なくとも競争ではないと考えられるのである」

 

 百と刃羅の推測に耳郎は分かったようで分からなかった。

 

「う~ん?つまり……どんな試験?」

「ヒーローはいつも仲間内だけで戦うわけではありませんわ。時にはその場で初対面の方々と協力しなければなりません」

「ケロ……つまり他校と協力するような内容ってことね」

「そだね!他校の人達とすぐさま協力して、役割分担できるか!?ってとこかな!」

「なるほど」

「……ムズイなぁ」

 

 おおよその予想を立てながら、刃羅達は控室に到着する。

 中に入り、見渡すと轟が座っていた。

 

「轟さん!」

「お前らも通過できたのか」

「ああ。他の奴らは?」

「いや、ここにはまだ俺だけだ」

「そうですか……」

「まだ30人近く空きがあるんだからさ!大丈夫だよ!」

 

 耳郎の励ましに笑みを浮かべて頷く百。

 ターゲットを外して、ボールも返却し、お菓子や飲み物を飲んで休憩する。

 

 5分ほど休憩していると緑谷、麗日、瀬呂、爆豪、切島、上鳴が現れる。

 

「皆さん!よくご無事で!心配してましたわ」

「ヤオモモー!ゴブジよゴブジ!つーか早くね!?」

「俺達だってついさっきだ。轟が一番だな」

「刃羅が来てくれなかったら、やばかったけどね」

 

 刃羅はハグハグとテーブルの上にある軽食を頬張っている。

 その姿に耳郎達は苦笑して、談笑する。

 

「これでA組は12人か」

「後8人」

「先ほどのアナウンスでは通過者は82名。あと18人です」

「……ちょっとマズイんちゃうか?」

「え?」

 

 緑谷達は刃羅に目を向ける。

 刃羅は緑谷達を見渡して、ハグハグと食事を続ける。

 

「残ってる面子で~指揮を取れるのが~実質飯田君だけだよ~。全員が集まっていれば~いいけど~バラバラなら~誰かが焦って崩れるかも~?」

「飯田君……」

「あ、あいつらなら大丈夫だろ?」

「終盤になればなるほど、混戦になって激しくなる。開始時から攻められ続けていたんだ。集中力も体力も限界に近づいているだろう」

 

 刃羅の言葉に不安そうに顔を見合わせる上鳴達。

 そして続々と控室にやってくる受験者。

 

『えー……これで通過者は90人。後10人ですねー。早くー』

 

「後10人……!?」

「A組は……」

「後8人。これ……もう全員は無理かなぁ……」

「飯田君……!皆……!」

「頑張れ!頑張れ!」

 

 通過しているが焦り始める緑谷達。

 放送以外では情報が分からないので、もどかしい思いになる。

 刃羅は腕を組んで目を瞑って立っている。

 

「……ここで倒れるか?A組。インゲニウム」

 

 そして、

 

『ここで2名通過!残り8名!』

 

「うう~!」

「みんなぁ!」

 

『7名!……5名!続々と!この終盤で一丸となった雄英が!!コンボを決めて通っていく!!』

 

「雄英ぃ!!続々ぅ!!」

「いっけー!!」

 

 放送に麗日、瀬呂、上鳴を筆頭に一喜一憂する。

 

『そして……残った雄英2名が通過!0名!!100人!!今埋まり!終了!です!ッハーー!!』

 

「「「ッハーーー!!」」」

 

 目良の叫びを真似して飛び上がる麗日達。

 百や梅雨達もホッと息を吐く。

 

「全員一次通過ぁー!!」

「ケケロォ!」

「やったな」

「すげぇ!こんなんすげぇよ!」

「……これくらい出来てもらわないと困るわよ」

 

 刃羅は飛び跳ねる麗日達を横目に小さく呟く。

 その声は障子には聞こえていたが、障子は特にツッコまなかった。

 

 こうしてA組は全員一次試験を通過した。 

 

 


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