ボロボロの飯田達が控室に到着した。
緑谷達が笑顔で駆け寄る。
「飯田君!」
「緑谷君!皆!」
「心配したよぉ~!」
「すまない。峰田君や芦戸君達に助けられたよ」
横では芦戸や砂藤達が切島や上鳴達とハイタッチをしている。
そこに放送が響く。
『え~、脱落された皆さんの撤収が終了しました。それでは皆さん、モニターをご覧ください』
「モニター?」
控室にいる全員が壁に取り付けられたモニターに目を向ける。
そこに映されたのは遠巻きに撮られた試験会場だった。
「フィールド?」
「なんだろう?」
緑谷と麗日が首を傾げる。
すると、突如ビルの一角が爆発し、それに連動するようにフィールドのあちこちで爆発が起こり、フィールドが崩れていく。
それに目を見開く受験者一同。
フィールドは無残な姿に変わり、瓦礫の山になった。
『これが最後の試験です!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます!ちなみに皆さんは仮免許を取得したものとして活動して頂きます』
「「パイスライダー?」」
「バイスタンダー。現場に居合わせた人の事だよ。授業でやったでしょ」
上鳴と峰田の誤りを葉隠が訂正する。
「……」
「やっぱり刃羅ちゃんと百ちゃんの推測通りになったわね」
「ああ」
刃羅はモニターを見つめながら考え込んでおり、その横で梅雨と障子が先ほどの会話を思い出して頷いている。
すると、モニター内に子供や老人の姿が多数見受けられて控室がざわつく。
彼らは『HELP・US・COMPANY』。通称『HUC』。要救助者のプロだそうだ。
受験者は傷病者に扮したHUCを救助を行うことになるとのことだ。
救助ポイントを評価され、終了時に基準値を超えていれば合格らしい。
控室は10分の休憩時間が与えられた。
放送を聞き終えた刃羅は百に近づく。
「乱刀さん?」
「尋ねてぇことがあっべ」
「何でしょう?」
刃羅は百にある『もの』が作れるか尋ねる。
聞いた百は一瞬目を見開くもすぐさま理由に思い至り、顔を鋭くして頷く。その後、すぐさま2人は行動を始める。
梅雨や障子も2人の傍にいて話を聞いており、2人に協力する。
その横で緑谷と飯田がモニターを見ながら、ある光景を思い浮かべる。
「緑谷君……」
「うん……神野区を模してるのかな」
誰もが記憶に新しい大事件。死傷者多数、ほぼ壊滅になった街。
現場にいた緑谷達はあの光景は決して忘れられない。
「あの時の俺達は爆豪君をヴィランから遠ざけて、プロの邪魔をしないことに徹した。その中で死傷者もたくさんいた」
「うん……頑張ろう」
「「緑谷ぁ!!!」」
すると上鳴と峰田が目を血走らせて駆け寄ってきた。
「何してんだぁ!テメェはぁ!?」
「試験中だぞ!人生舐めてんのか!?」
「わ!?何!?やめて!?」
「とぼけんな!てめぇ、あの士傑の女と裸でイチャイチャしてたらしいじゃねぇか!」
「ああ……瀬呂君か!違うよ!そんなんじゃないってば!」
慌てて弁明する緑谷だが、説得力は皆無だった。
そこにその士傑高校の者達が緑谷達に近づいてくる。先頭には毛むくじゃらの男が立っていた。
毛むくじゃらの男は爆豪に近づいて行く。
「爆豪君よ」
「あ?」
「肉倉……糸目の男が君の所に現れなかったか?」
「……ノした」
「やはり……!色々無礼を働いたと思う!あれは自分の価値基準を押し付ける節があってね。何かと有名な君を見て、暴走してしまった。雄英とはいい関係を築き上げていきたい。すまなかったね」
「……気にすんな。こっちにゃあれ以上に価値観を押し付けるイカレ野郎がいんだよ」
爆豪はギロリと離れた所にいる刃羅を睨みつける。
毛むくじゃらの男、毛原はその視線を追う。そして刃羅を見て、納得するように頷く。
「……確か彼女は体育祭で結構激しいことを叫んでいたね。なるほど。肉倉の言葉では、彼女の言葉には敵わないだろうな」
そして離れていこうとした時、轟がイナサに声を掛ける。
「おい、坊主の奴。俺、なんかしたか?」
「……ほホゥ」
轟の言葉にイナサは目を鋭くして、振り返る。
「いやぁ、申し訳ないっスけど……エンデヴァーの息子さん」
「?」
「俺はあんたらが嫌いだ。……あの時よりいくらか雰囲気変わった見たいスけど。あんたの目は、エンデヴァーと同じっス」
そう言って去っていくイナサ。
轟は言われた言葉に固まったまま考え込む。
それに緑谷が声を掛けようとするが、その時に警報が鳴り響いた。
ジリリリリリリ!!
『ヴィランによるテロが発生!!規模は○○市全域。建物倒壊により傷病者多数!!』
「演習のシナリオね」
「え!?じゃあ……」
「始まっぞゴラァ!!百ぉ!手筈はぁ!?」
「問題ありませんわ!」
するとまた控室が開いて行く。
『道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ!!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う!1人でも多くの命を救出すること!!START!!!』
そして全員が走り出す。
走り出してすぐに刃羅は耳元に手を当てる。そこには小さな機械が取り付けられていた。
「聞こえるでありますか!?」
『問題ありません!』
『聞こえるよー!!』
『うるっせぇ!黙れ!』
刃羅が百に提案したのは『小型無線機』。それをクラスメイト達に配ったのだ。
刃羅の耳に全員の返答が聞こえる。1人は怒鳴っていたが。
「よし!では、適時連絡を!他校との協力はもちろんだが、身内での連携が最も手早い!連絡は密にしろ!」
『了っ解!』
『行くぜぇ!』
『まずは一番近く、遮蔽物が多い都市部エリアへ行きましょう!』
『了解だ!』
『あ!爆豪!?だから1人で行くなって!』
『うるせぇんだよクソがぁ!!』
結局爆豪や切島達は単独で動き出したらしい。
それにため息を吐きながらも刃羅は都市部エリアに入る。
エリアは完全に倒壊しており、どこもかしこも今にも新たに崩れそうだった。
「ヴィランによるテロじゃ!!爆破物などに注意せぃ!儂はまず周囲を確認してくる!」
『あ!子供が!?』
早速緑谷が負傷者を発見したらしい。
刃羅は不審物の有無を確認しながら走り回る。
すると瓦礫に下半身が挟まれた老人が倒れているのを発見する。
「ヒーローや!意識はあるかいな!?」
「う……た、助けてぇ……」
老人の男は呻きながら刃羅に手を伸ばす。
刃羅はその手を握る。そして見える限りの観察をする。
「もちろんなのです!頭から出血はないけど痛みはあるのです!?どこが特に痛むのです?」
「うう……あ、足がぁ……痛いぃ」
「……脈は大丈夫。呼吸は……少し速い。体は……手足からの出血のみですわ。おじい様、上半身は瓦礫に当たってないかしら?」
「だ、大丈夫だ……」
「ちょっと太もも触りますよって。……脈はしっかりしてはる。瓦礫をどかしても血栓とかはなさそうやね。瓦礫除けますえ?」
「あ、ああ……(ほう、思ったよりしっかり見るねぇ。声かけもしてる)」
刃羅は瓦礫を除けて、老人の両足を確認する。
歩行は不可能と判断して、耳元の無線機に手を当てる。
「……歩行は無理だべ。百!負傷者発見しただ。周囲に簡易救出所や救護所は出来てるべか?」
『了解です。控室が救護所になってます。こちらの近くには負傷者を集めてトリアージを行っています』
「了解!そっちに行く!おじいちゃん!ちょっと体持ち上げるよ!大丈夫!すぐに安全なところに運んであげる!」
「おお……ありがとぉ……」
刃羅は横抱きに老人を持ち上げて、移動を開始する。
出来る限り衝撃が行かないように注意しながらも素早く移動する。その移動方法に運ばれている老人は目を見開く。
(ほとんど揺れがない。それに少し遠回りになっても崩落に巻き込まれないルートを素早く選んでいる!何より……)
「ご老人。どうだ?痛みがひどくなったりところはないか?苦しくなってきてはいないか?」
「大丈夫だ……(常に儂の変化に注意を払っている!中々!)」
そして刃羅はエリアに設定された簡易救出場に辿り着く。
「負傷者1名であります!両脚負傷!頭部、胴体の出血はなし!呼吸、脈も著名な異常はないであります!」
「ご苦労様!そちらに!」
「それと途中で2名負傷者発見したのだよ!手が空いている者はいないかね!?」
「どこだ!?俺が行ける!」
「私も!」
刃羅は示された場所に老人を寝かせながら、周囲に声を掛ける。
それに他校の者が手を上げて、刃羅に近寄る。
「おじいさん!もう大丈夫アル!ここで待ってほしいアル!」
「おぉ……ありがとぉよぉ(なんと……走りながら他の負傷者も見つけていたのか)」
「では御免!こっちでござる!」
「「「おお!!」」」
刃羅は数人率いて走り出す。
そして崩れて少しだけ隙間が空いたビルと半分だけ崩れているビルの上の階を指し示す。
「そこのぁビルの奥ぅ!もう1人はぁあのビルの上ぇ!」
「どうやって入り込んだんだよ!?」
「私が中に入る!どいて!」
「クソ!入り口の瓦礫どかすと崩れそうだ!」
「だめだ!このビル、階段崩れてる」
「あ!あっしが登るよい!」
どうやら飛行系の『個性』持ちはいないようだった。
刃羅はひょいひょいと倒壊したビルを登っていく。
登った先には50代の女性が蹲っていた。
「遅くなったのである!ヒーローである」
「助けてーーー!!死ぬぅーーー!!」
刃羅を見た瞬間、パニックになったように叫んで飛び込んでくる女性。
刃羅はそれを受け止めて、声を掛ける。
「もう~大丈夫だよ~。この下にも~ヒーローが来てるからね~」
「早くー!早く助けてーー!!」
「もちろんじゃ。どうじゃ?手足が痛んだり、血が出ている所はあるかの?頭は打ったりしたかの?」
「早く!!早くーーー!!(落ち着いて声かけ出来てるわね。でも、まだ不十分よ!)」
「……頭に少量の出血。右腕からも出血。あまり動かせんか。脚は大丈夫で、胴体も出血はなし」
「いやー!!(そう、まずは状態確認よ!)」
「大丈夫なのです。深呼吸するのです。一緒にここを出るのです。少しだけ協力してほしいのです」
女性の状態を確かめながら、背中をさすって落ち着かせる刃羅。
それに泣き叫んでいた女性は少しだけ落ち着いた様子を見せる。
「おーい!大丈夫か!?」
すると、下から声が聞こえてくる。
「大丈夫だ!頭部に少量の出血!右腕も負傷している!それ以外は大きな負傷はない!」
「そうか!良かった!」
「誰か着地を受け止められる奴はいねぇか!?壁のヒビが酷ぇ!」
「士傑の毛原だ!!私が受け止める!」
「イエア!」
刃羅は女性を再び抱き上げる。
「目を瞑ってくださいませ。少しだけ我慢してください」
「大丈夫なの!?大丈夫なの!?(さぁ、どうするの?)」
「絶対に大丈夫やで!これ以上怪我はせぇへん!」
「出来る限り上で捕まえる!見えるか!?」
すると、刃羅の視界に束になった毛が見えた。
それを確認すると刃羅は飛び出して、その毛の上に飛び乗る。
「見事!」
「もう大丈夫よぉん」
「え!?ホント!?ホント!?(衝撃がほぼ無し!?それに行動が速いわね。時には落ち着くのを待つ前に危険な場所から移動することは大事よ!)」
「ほら、下を見ろ」
刃羅の言葉に女性は目を開ける。下に目を向けると、すでにビルの外で多くの受験生が下に待機していた。
下に降りた刃羅は近くにいた受験者に改めて状態を確認してもらい、女性を救護所に連れていってもらう。
「A組。状況は?」
『現在小チームに分かれて救出活動中です』
『他校の人と行動中だ!』
『ケロ。こっちは湖で救助しているわ。まだ何人か残ってるわ』
「そうか」
他のA組も順次救助中のようだ。
刃羅は周囲を見渡し、このエリアではほとんど救助を終えていると判断する。
「……順調と言えば順調である。しかし……」
「どうした?」
刃羅の呟きを聞いた毛原が刃羅に声を掛ける。
毛原に目を向けて刃羅は少しだけ顔を顰める。
「……嫌な視線を複数感じる。敵意だ」
「っ!!それは……」
「元々この崩壊はテロじゃ。つまり……まだ脅威は去っておらんはず」
刃羅が言いたいことを毛原も理解した瞬間、
ドオオォォン!!!
「「!?」」
『なに!?』
『爆発!?』
エリアでも爆発が起こり、試験場の壁が吹き飛ぶ。
『ヴィランが姿を現し、追撃を開始!現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ、救助を続行してください』
「救護所に近い!?」
「ちぃ!?A組!救護所に誰かいるか!?」
『僕!緑谷!』
「敵は!?」
『数十人規模!!しかも…ギャングオルカがいる!』
『はぁ!?』
「とことん神野区意識か!」
刃羅は走り出して緑谷の元に向かう。
緑谷は避難を手伝いながらも敵の動向を観察し続ける。
「近すぎる!?このままじゃ間に合わない!」
緑谷は飛び出してヴィランの注意を引こうと考える。
ただ問題がある。
(ギャングオルカの『個性』は《シャチ》!確か超音波が使えたはず!僕だけじゃあ全員なんて止められない!)
しかし、動かなければどうしようもない。
そんな緑谷を見てギャングオルカは鼻で笑う。
「この戦力差に殿が1人だと?舐められたものだ……!」
「くっ!」
「下がれ!緑谷!」
「「!?」」
ギャングオルカの横から氷結が押し寄せる。
緑谷は飛び下がり、ギャングオルカは超音波で氷を砕いていく。
現れたのは轟だった。
「轟君!」
「手伝う。……ん?」
「ふぅきィイイ飛べえええっっ!!!」
轟がギャングオルカを見据えると、ふいに風が舞う。
すると、更に横から突風が襲い掛かり轟の氷ごとヴィランを吹き飛ばす。
現れたのはイナサである。イナサは空中で止まり、ヴィランを見下ろす。
「ヴィラン乱入とか!!!なかなか熱い展開にしてくれるじゃないっスか!!……ム」
「ム」
しかし轟の姿を見ると、顔を顰める。それに轟もつられて顔を顰める。
緑谷はそれを見て、とりあえず避難を優先する。
(あの2人なら僕よりも多数への制圧に向いてる!ここは下手に邪魔するより避難が優先だ)
『緑谷!!状況教えやがれゴラァ!』
「乱刀さん!今、轟君と士傑の夜嵐君が来た!僕は避難を優先するよ」
『ならええか。こっちも負傷者見つけてしもて、すぐに行けへん!』
「了解!」
緑谷は負傷者を抱えて走り出した。
ギャングオルカを見据えた轟。
そこにイナサから声を掛けられる。
「あんたと同着とは……!」
「……お前は救護所の避難を手伝ったらどうだ?お前の『個性』的にも適任だろ。こっちは俺がやる」
「……ムムム」
轟はイナサに若干苛立ちながらも声を掛けて、ギャングオルカに右腕を向ける。
イナサは轟の言葉に唸りながらもギャングオルカを見下ろす。
そして轟が炎を放つ。すると同時にイナサも風を放出して、炎と風が逸れる。
それにギャングオルカ達は首を傾げる。
「なんで炎だ!?熱で風が浮くんだよ!」
「さっき氷結が防がれたからだ。お前が合わせてきたんじゃねぇのか?俺の炎だって風で飛ばされた」
「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「は?誰がそんなことするかよ」
「するね!だって、あんたはあのエンデヴァーの息子だ!!」
いがみ合うイナサと轟。
それにギャングオルカやギャングオルカのサイドキック達は顔を見合わせる。
「……さっきから何なんだよ。お前……!親父は関係ねっ!?」
イナサに顔を向けた轟にベチャ!と灰色の塊が当てられる。
「セメントガン!すぐ固まって動けなくなるぜ!」
「敵を前にケンカするとは。論外だな……!」
サイドキック達が2人に向けて右手に取り付けられた銃でセメントを発射する。
それを2人は躱すが、いがみ合いはやめなかった。
「俺はあんた達親子だけはヒーローとして認められないんスよぉー!以上!」
2人は再び風と炎を放って逸らし合ってしまう。
「はぁ~……とりあえず」
ギャングオルカがため息をつきながら轟に腕を伸ばす。
轟は回避行動をとるが、ギャングオルカは超音波をイナサに向けて放つ。
「邪魔な風だ」
イナサはそれを避けようとするが、避けた先からセメントガンを当てられて超音波を浴びてしまう。
「がぁ!?」
超音波とセメントで風のコントロールを失い、地面に落ちていくイナサ。
それに轟は気を取られ、ギャングオルカに超音波を浴びて膝をついてしまう。
それを偶々振り返って目撃した緑谷は目を見開いて足を止める。
そして背負っている負傷者を近くの受験者に任せて戻ろうとするが、サイドキック達がこちらに走り始めたのを目撃する。
「くそ!」
『緑谷君!状況は!?』
「飯田君!轟君達がやられた!ヴィランがこっちに来る!!」
『轟が!?』
「夜嵐君といがみ合ってたから……!」
『何を……!』
「とりあえず足止めを……!絶対に行かせない!」
『デクくん!』
状況を説明しながら構える緑谷。
状況は最悪だった。
麗日達は負傷者を抱えながら焦りを顔に浮かべる。
その時、
「スゥ……雄英A組イイイイイ!!!」
『!?』
突如、刃羅の声が無線機から、そして試験場に響き渡る。
百達は上を見上げると瓦礫の上に刃羅が立っているのが見えた。
それに思わず足を止める百や麗日達。
「ターボヒーロー!!インゲニウム!!」
『っ!?な、なんだ!?』
「お前は今どこだ!周囲にはA組の誰がいる!?」
『……救護所からは少し離れている!近くには常闇君、蛙吹君、芦戸君、葉隠君だ!救助者は1名!』
「よし!!インゲニウム!お前はツクヨミを連れて、今すぐデクの救援に全速力で迎え!!」
『っ!!』
刃羅の指示に目を見開く飯田やクラスメイト達。
ヒーロー名で呼ぶ。その意味を飯田は理解した。
「今度こそ!!駆けつけてみせろ!!」
『……もちろんだ!!』
「ツクヨミ!!林間合宿のリベンジだ。今度は連中を抑え込め!!」
『承知!!』
『行くぞ!!ツクヨミ!』
「オールマイトオタク、デク!!」
『へ!?な、なんで今それ……!?』
「1人も通すな。オールマイトに憧れてるならな!」
『っ!』
その言葉に思い浮かべるのは神野区でのボロボロになりながらも、オール・フォー・ワンの攻撃から一般人を守るために立ちはだかったオールマイトの姿を思い出す。
刃羅はそれをやれと言っているのだ。
『了解!!絶対に守ってみせる!!』
「よし!!クリエティ!!」
『はい!』
「リアカーを出せ!そこに負傷者を乗せて移動しろ!途中で会ったヒーロー達から負傷者を受け取って、そいつらを応援に動かせ!」
『了解です!』
「テンタコル!お前はリアカーを引きながら索敵!
ウラビティ!リアカーを浮かせて衝撃を消せ!
グレープジュース!セロファン!お前達は負傷者をリアカーに固定し同行!近づいてきたヴィランの足止めをしろ!!」
『任せろ!』
『了解!』
『やけくそだあああ!!』
『見せ場ぁ!!』
「トゥインクリング!イヤホン・ジャック!お前達はレーザーや音で敵を引きつけろ!!アニマ!鳥を操って敵の周囲を飛ばせろ!インビジブル・ガール!お前は負傷者を運べ!」
『お任せ☆』
『やる!』
『うん……!』
『地味だけど頑張る!』
「レッドライオット!お前達は!?」
『わりぃ!救護所とは逆側だ!それに負傷者も2人抱えてる!』
「ならば構わん!!そっちにも敵が来るかもしれん!お前が壁になれ!その間にチャージズマと爆豪が敵を排除してくれる!」
『おっしゃあ!』
『やるぜー!』
『指図すんなぁ!!』
『アラジーン!!私達は!?』
『ケロ』
『俺もだ!』
どんどん指示を出す刃羅。
名前をまだ呼ばれてない芦戸や梅雨、砂藤が声を上げる。
それに刃羅はニイィと口を吊り上げる。
「決まっているだろう……!ヴィラン退治だ!!斬り殺せ!!」
『駄目よ。アラジンちゃん』
『斬り殺さないけどやるぞー!!』
『よっしゃあ!!』
「ショート。聞こえているか?」
『……』
「聞こえているなら1分……いや、30秒でいい。死ぬ気で抗え!!」
『……?』
「よいか?30秒全力で抗え。……余らが行く!!!」
『っ……!』
無線機越しでも伝わる刃羅の自信に満ちた声。
それに全員が嫌でも鼓舞される。
「見られているならば、見せつけてやろうではないか!ここにいる全ての者達に!!」
刃羅はヴィランがいる方向を見据える。
「ヒーローは!!雄英にいる!!」
まだヒーローに対する答えなど出ていない。
未だにヒーローへの不信はある。ステインが間違っているなど思っていない。
それでも、少なくともここにいるA組はまだ信じられる。応えようとしてくれている。
それを無駄にされるのは、馬鹿にされるのは嫌だった。
「仮免!?それがなんだ!助ける行為に仮も偽もあるものか!!目の前に助ける命があり、目の前に倒すべき敵がいる!!ただそれだけで十分だ!!」
試験だろうが、偽物だろうが関係ない。
助けを求める声があるなら答える。誰かを傷つけようとするから倒す。
今はそれが最も重視すべきこと。
「行くぞA組!!乗り越える!!」
『おう!!』
そして刃羅は走り出した。