ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#47 試験終了!

 

『ヒーローは!!雄英にいる!!』

 

 その言葉を聞いた時、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 

(俺は……本当に……なにしてんだ)

 

 くだらないことに囚われて、試験だからと甘く見て、最悪を招いた。

 これがもし神野区だったら?本番だったら?

 父親であるエンデヴァーが認められないということすら、どうでもよくなるほどの悲劇が待っているだろう。

 そうなればヒーローだなんて名乗れるはずがない。いや、名乗らせてもらえるはずがない。

 今の声の主は、絶対に許さない。本当に殺しに来るだろう。

 

(情けねぇ……あれだけあいつの覚悟を見てきたのに……まだ最低の私欲に拘ってた)

 

 本当のヒーローを取り戻す。

 

 そのために悩み続けて、抗い続けている刃羅に比べて、自分は何と小さな事ばかりに目を向けているのだと己を恥じる轟。

 

(30秒耐えればいい?馬鹿か……俺は!!)

 

 轟は未だ痺れてる体に活を入れる。

 

(最後まで!!こいつらを倒すまで!!放ち続けろ!!!)

 

 ゴオォ!!と轟の右半身から炎が噴き出す。

 

「ぬ!?」

 

 ギャングオルカは飛び下がり、再び轟に超音波を放とうとする。

 すると風が舞うのを感じた。

 

「っ!?」

 

 風で炎が巻き上げられて炎の渦を作り出し、ギャングオルカを閉じ込める。

 

「動けない身体でここまで……!フフ……いいじゃないか」

 

(まだだ!!まだ温度を上げろ!!)

 

 動けないならば体が動けなくなろうと関係ない。

 しかし反対側からサイドキックが駆けつけてくる。それを轟は氷結を生み出して邪魔をさせないようにする。

 

(動けねぇなら……同時に使っても関係ねぇや)

 

 轟はただ炎をさらに大きくすることに集中する。

 それに合わせてイナサも風を操って、それを補佐する。

 

「くっ!」

 

 流石にきつくなってきたギャングオルカ。

 ギャングオルカは乾燥に弱い。

 

「……見事だ。並みのヴィランであれば諦め…泣いて許しを請うだろう。ただ、そうでなかった場合は?」

 

 ギャングオルカは徐に水が詰められたペットボトルを取り出して、体に水を掛ける。

 それを見た轟とイナサは顔を顰めるも『個性』は止めない。

 しかし、体を濡らしたギャングオルカは強めに超音波を放ち、炎の渦を掻き消した。

 

「で?次は?」

「余が務めよう」

「「「!?」」」

 

 轟達を見下ろすギャングオルカの頭上から声が響く。

 目を見開いて見上げた先には全身を刃で覆い、両腕をトゥ・ハンド・ソードに変えて振り被りながら飛び迫る刃羅の姿があった。

 

 ギャングオルカは慌てて飛び下がる。

 刃羅の大剣は地面に叩きつけられ、地面を砕く。

 

「よく耐えた!褒めて遣わすぞ!ショート!」

 

 刃羅は両腕をロングソートに変えて斬りかかる。

 ギャングオルカは腕のプロテクターで防ぐがヒビが入る。それを見てすぐさま振り払い、超音波を放とうと頭を向けるが、それを読んでいたかのように刃羅は右脚を振り上げて顎を蹴り上げようとする。

 

「ぬ!?」

「やはり頭頂部からの放射か!それに随分と重そうよな!その装備!!」

 

 ニイィと笑いながら腕を振るい、蹴りを放ち、ギャングオルカの頭を下げさせないように動く刃羅。

 さらにギャングオルカの動きと装備から、それが防具ではないことを見抜いた。

 

「っ!……やはりお前は噂通り厄介なようだな」

 

 刃羅の動きの良さは情報に挙げられていた。

 実際に相対すると『良い』なんてレベルではなかった。

 

 ギャングオルカは捕まえようと腕を伸ばすと、刃羅はスライディングで下に滑り込んで腕を躱す。

 そしてギャングオルカの股を抜けようとしながら、両腕をコルセルカに変えてギャングオルカの腹部に突き立てて打ち上げる。

 

「がぁ!?」

「な!!シャチョー!?」

「あいつを止めろ!!」

 

 ギャングオルカの腹部プロテクターにヒビが入る。それにサイドキック達が慌てて、セメントガンを発射する。

 刃羅は立ち上がりながら荒刃刃鬼を解除して、体を捻り回転を始める。セメントガンを躱し、当たってもテンペスタ・ラーマの回転で張り付くのを防ぐ。

 

「効かねぇ!?」

「いつまでも回らねぇだろ!そこを狙うぞ!」

「そうはさせないわ」

「「「!?」」」

「ケェロォ!!」

「「「ぐわぁ!?」」」

 

 突然サイドキックの真後ろに現れたのは梅雨だった。舌を振り、サイドキック達を振り払う。

 

「やべぇ!増援だ!」

「おぉらぁ!!」

「うわぁ!?」

「黒影!!」

「アイヨォ!!」

「ぎゃあ!?」

 

 サイドキックに砂藤が岩を投げつけて当て、常闇が黒影で振り払う。

 

「……」

「まだ起きれないのかしら?轟ちゃん」

「俺が運んでやるぜ!」

「危ない!下がれ!」

「「!?」」

 

 砂藤が轟を抱えようとすると、セメントガンが砂藤達に放たれる。それに一度離れざるをえない砂藤達だった。 

 

「くそ!」

「ここまで乱射されたら舌も伸ばせないわ」

「やっぱ多いな!」

「刃羅ちゃんがギャングオルカを抑えつけてくれてるだけありがたいわ」

「でも、いつまでも1人じゃ!?」

「……いいえ。大丈夫よ」

 

 刃羅に目を向けた梅雨は何かを感じ取った。何か狙いがあるようだ。

 その時、梅雨と砂藤の耳からある声が響いた。その声に耳を傾けた2人は聞こえた内容に目を見開いた。

 

 ギャングオルカはすでに立ち上がっており、再び刃羅が動き回って攻撃を仕掛けている。

 

「ちぃ!(無理に捕まえようとすれば先ほどの二の舞!しかし、遠くから放とうにもこいつの方が速い!離れられん!)」

「しぃ!ふ!」

 

 刃羅はギャングオルカの正面に立たないようにしながら、斬りかかり続ける。少しでも頭を下げる素振りを見せれば蹴り上げを放ち、腕を伸ばすならば腰を落とす。完全にギャングオルカの超音波を封じ込んでいた。

 その間にもサイドキック達には受験者達が押し寄せてきていた。

 その時、

 

「轟ぃ!!」

「っ!?馬鹿な!?まだ動けるわけが!?」

 

 刃羅が轟の名前を叫びながら後ろに下がる。

 それにギャングオルカは驚いて、轟を振り返る。しかし、轟はまだ倒れていた。

 ギャングオルカはすぐさまブラフであることに気づいて、刃羅を振り返ろうとするが、その前にギャングオルカの体に2本の鉄鞭が巻き付く。

 

「な!?っ!?しまった!?」

「油断しよったなぁ!」

「この程度!!」

 

 ギャングオルカが鞭を引き千切ろうと力を入れる。

 それをさせまいと腕を引く刃羅。

 

「梅雨!!砂藤!!今じゃあ!!」

「!?」

「砂藤ちゃん!!」

「おうよぉ!!轟!!行くぜぇ!!」

「な!?」

 

 ギャングオルカが再び前を見ると、砂藤と梅雨が轟を抱き起して轟の右腕を支えてギャングオルカに向けていた。

 

(ブラフではなかったというのか!?)

 

「ショォォトォォオ!!」

 

 刃羅が全力でギャングオルカを締め付けながら叫ぶ。

 それに轟は痺れながらも、しっかりとギャングオルカを見据える。

 

『俺っちがギャングオルカを捕らえる。誰でもいい。轟の右手をこっちに向けさせろ。そうすれば轟が決める』

 

 それが先ほど全員の耳に届いた刃羅の言葉。

 近くにいた梅雨と砂藤はその言葉を信じて、ギャングオルカを縛ったのを見てすぐさま動いたのだ。

 

(本当に……お前は……)

 

 轟が何もしないとは全く思っていない言葉。

 失敗しかしていない自分に何故そう思えるのか。

 

(馬鹿か……今は……()()()()()()()()()()()()…!)

 

 轟は右手に意識を向ける。まだ痺れているが意地で動かして手のひらをギャングオルカに向ける。

 まだまだコントロールは甘い。同時に使うことばかり目を向けていた。刃羅に言われて意識は変わったが、まだ1か月も経っていない。だからまだ『ベタ踏み』だ。

 それでも。

 

(右手!……いや!()()()()()()で!!ベタ踏みする!!)

 

 ジワリと右手のひらが真っ赤に光る。

 それでも腕を掴んでいる砂藤や梅雨、そして手を向けられているギャングオルカと刃羅は物凄い熱を感じていた。

 

「撃てええぇ!!!」

「っ!!」

 

ドッパアアアァァン!!

 

 刃羅の叫びと同時に轟の手のひらから真っ赤なレーザーが発射される。

 レーザーはまっすぐギャングオルカに向かう。

 

「うおおおおおお!?」

「我慢比べだゴラアアアァァ!!!」

 

 刃羅はギャングオルカの背中に飛びついて、ギャングオルカを逃がさないように抑え込む。

 ギャングオルカを縛る鞭はすぐに熱で千切れてしまったので、火傷をしているのを感じながらギャングオルカの両腕を抑える。

 ギャングオルカは熱と勢いに耐えられず、刃羅ごと後ろに吹き飛んでいく。そして岩場に叩きつけられる。

 

 炎が止まった轟の右手のひらは真っ赤に火傷して爛れていた。

 

「はっ!……はっ!……はっ!……」

「なんて……威力だよ……」

「ケ……ケロォ……」

 

 腕を抑えていた2人も熱波だけで皮膚が火傷したようにヒリヒリしている。

 そして、それを見ていた周囲の者達も噴き出した汗を拭いながら、唖然として轟を、そしてギャングオルカが吹き飛んだ先を見つめている。

 

「……あれが……雄英……」

「なんて熱量だよ……!?ここからでも喉が焼けるかと思ったぜ?」

「ギャングオルカは!?」

「乱刀さんも!」

「シャチョー!!?」

 

 緑谷と飯田、そしてサイドキック達が慌ててギャングオルカ達の元へ駆け出す。

 その時、

 

ビーーーー!!

 

「「「!?」」」

『えー只今を持ちまして、全てのHUCの方が危険区域より救助されました。まぁ、ヴィランもほぼ全滅ですが、これにて仮免試験全行程終了となります!!』

 

 終了の合図が鳴らされて、動きを止める受験者達。

 緑谷達は土煙が上がる場所に走る。

 

ガラガアァン!!

 

 2人が叩きつけられた場所から岩が吹き飛ぶ。

 そこから現れたのは、ギャングオルカを肩に担いだ荒刃刃鬼状態の刃羅だった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ぐ……!」

「乱刀さん!!」

「シャチョー!!」

 

 荒刃刃鬼状態を解除した刃羅はドシャン!とギャングオルカを地面に降ろす。ギャングオルカは仰向けに倒れる。

 そして刃羅はその横に座り込む。

 

「イタイー!!びゃ~~ん!!」

「……泣きたいのは……こっちだろうが……」

「シャチョー!!大丈夫ですかぁ!傷は……深いっすね!?」

「乱刀君は!?」

 

 ギャングオルカのプロテクターは完全に砕けており、服もボロボロだった。

 そして刃羅は服もボロボロで手足や顔は火傷で真っ赤だった。

 

「荒刃刃鬼で途中から覆ったけど溶けそうだった!死ぬかと思った!このシャチいなかったら死んでた!」

「ってことはシャチョー!!死んじゃだめですー!!」

 

『集計の後、合否をこの場で発表します。怪我した方は医務室へ。他の方々は着替えて待機しといてください』

 

「急いで医務室へ!」

「うん!」

「シャチョー!!気をしっかりー!!」

「している……」

「イタタタタ!?掴まないで~!いたい~!びゃ~~ん!!」

「や、火傷が酷くて触れないぞ!」

「た、担架持ってくるよ!」

「持ってきたぞ」

「あ、士傑の……ありがとうございます!」

 

 毛原が担架を抱えてやって来た。頭を下げた緑谷と飯田は担架を広げて、ポイ!と刃羅を乗せる。

 

「いっったーーー!!」

「が、我慢してくれ!」

 

 刃羅が痛みに叫ぶが、それを無視して飯田達は医務室へと運んでいく。

 轟やイナサも医務室に運ばれる。

 

 公安委員会に依頼された治癒系『個性』の医師に治療を受けて、すぐに火傷は治った。

 轟はセメントを除去されて、手のひらの治療を受ける。

 そこに相澤やクラスメイト達が訪れる。

 

「大丈夫か?無茶しやがって」

「イエア!」

「それにしても、まさかギャングオルカに勝っちゃうなんて……」

「プロテクターを~付けてたし~本気じゃなさそうだったけど~」

「そりゃ試験だからな。元気になったなら着替えてこい」

「了解であります!」

 

 轟は終始声を出さずに頷くだけだった。

 それに相澤は特に声を掛けることはなかった。

 

(まぁ、まだ合否は出てねぇしな。最後の攻撃を試験官達がどう見るかだが……)

 

 相澤は隣の医務室に顔を出す。

 そこにはギャングオルカがベッドに横になっていた。

 

「……お前は…イレイザーヘッドか」

「お久しぶりです。ギャングオルカ。大丈夫ですか?うちの連中が随分と暴れてしまって……」

「フフ……最後のは焦ったな。神野と同じ思いをまさかヒヨっ子でもない卵から味わうことになるとはな。轟と乱刀……だったか。あれは末恐ろしいな。それに……『ヒーローは雄英にいる』か。あれはやられたな」

「まぁ、まだまだ未熟ですがね」

「そうだな。まぁ、それはお前や雄英に任せるとしよう」

 

 ギャングオルカは起き上がり、服を着替えて外へ出ていく。

 それを見送った相澤は頭を掻く。

 

「……簡単に言ってくれる。はぁ~……乱刀に関して、また話し合わねぇとな。インターン、今のままじゃ行かせられねぇしな」

 

 刃羅の今後の処遇を考えて、ため息を吐く相澤。

 若干気落ちしながらも、合否を見に行くために席に戻るのであった。

 

 

 

 刃羅達は着替えて、しばらくのんびりしていた。

 そこに轟が近づいてきた。

 

「乱刀」

「ほえ?」

「迷惑かけた」

 

 轟が頭を下げる。突然の謝罪に百や梅雨、緑谷達は目を見開く。

 それを刃羅はジト目で見つめる。

 

「それは火傷させたことにか?トドメを譲ったことにか?」

「……両方だ。それに……またお前に情けない姿を晒したことも」

「……」

「親父の事は乗り越えたと思ってた。けど、あいつの言葉で、結局誤魔化してただけだと気づいた」

「……簡単に乗り越えられるものではないから家族なのよ」

 

 轟は頭を上げて刃羅を見る。

 

「私だって両親の死を乗り越えられていないわ。あんな死に方が受け入れられないから、ステインの元にいるの」

「……」

「刃羅ちゃん……」

「私は多分……乗り越えられない。だからせめて背負い続ける。そう決めたの」

「……背負い……続ける」

「生きていくことを受け入れている以上、過去を忘れるなんて出来ないのよ。それが出来るのは……きっと死んだときよ」

「……」

「あんたがヒーローを目指す以上『エンデヴァーの息子』という事実は決して目が離せないことよ。私が『エスパデス』なこと……『ステインの弟子』という事実が消えないのと一緒」

 

 刃羅とて、いつかはこの事実が必ず牙を剥く。

 すでに敵連合にはバレているだろうし、少しずつヒーローの中でも広まっていくだろう。

 ステインが逃げ出したこともバレた以上、必ず誰かが刃羅の存在に辿り着く。『ステインの弟子』という事実に。

 果たしてその時、この社会はどのような結論を出すのか。雄英が庇えきれることなのか。

 その時にならないと分からない。

 

「いい機会じゃない。今回を機に答えをちゃんと出しなさいよ。別にエンデヴァーと和解しろなんて言う気はないわ。エンデヴァーとあんたのヒーロー像との差をはっきりさせなさい」

「あいつとの差……」

「恐らくその答えがあんたの『ヒーロー』に対する答え。いい答えを期待しているわ」

「……ああ」

 

 刃羅の言葉に頷く轟。刃羅はそれに肩を竦める。

 

「まぁ、その前に仮免が受かっておればよいのぅ」

「……」

「台無しよ。刃羅ちゃん」

「へぶっ!?」

「だ、大丈夫ですよ!あのギャングオルカをハンデありとはいえ倒したのですから!」

 

 梅雨が舌ビンタを刃羅に浴びせて、百が慌ててフォローする。

 それに緑谷達も頷くが、内心では不安だった。

 それだけ轟とイナサの仲違いのタイミングは最悪だった。特に緑谷の場合、期末試験で同じ経験をしているので尚更だ。期末試験では合格にしてもらえたが、あれが仮免試験だったら絶対に落ちている自信があった。

 刃羅のトドメを撃たせるというフォローは効果があったと思うが、果たしてそれがどこまで評価されているのか。

 

「まぁ、わっちもあの最後の捨て身はどう評価されるんやろなぁ?」

「……あれはなぁ」

「必要と言やぁ必要だったけどな」

 

 緑谷と砂藤が腕を組んで唸る。

 そこに耳郎がジュースを飲みながら、刃羅に顔を向ける。

 

「刃羅の場合、あの指示と号令は評価高いんじゃないの?」

「そうそう!あれ!かっこよかったぁ!」

「なんかオールマイトがいるみてぇだったよな」

 

 耳郎の言葉に葉隠と瀬呂が頷く。

 瀬呂と一緒にいた障子、百、麗日、砂藤は同意するように頷く。あの時刃羅の近くにいた瀬呂達は、刃羅の背中がオールマイトのように大きく見えたのだ。

 

「くっそ~。ちょっと見たかったぜ」

「こっちは負傷者にケンカを売る爆豪の相手だったもんな」

「馬鹿にしてんのか!」

「だってよぉ……『勝手に助かれや!』とか『無事だろ!無事だな!歩けや!』とか『俺のヴィラン退治の邪魔だ!』とか言うんだぜ?」

「……爆豪さん……」

「それはないのです」

「うるっせぇ!!」

 

 全員が爆豪をジト目で見る。

 爆豪は不機嫌全開で椅子に座って足を組んでいる。

 

「……拙者ですら人命救助を優先したというのに……」

「いや乱刀。お前は前から人命優先だ」

 

 刃羅の言葉に障子がツッコむ。それに百達も同意するように頷いている。

 USJの時から刃羅は人命を優先している。本人はついで気分だったが。

 

「あの慟哭を聞いて、ついでなんて感じる者の方が少数だと思うが?」

 

 常闇の言葉に口田も頷く。

 それに刃羅は不思議そうに首を傾げる。

 その様子に苦笑する百達。

 

「そう言えば……」

「どうしたんだ?緑谷君」

「うん。Ms.ジョークの所の……傑物高校の人達は見なかったなと思って……」

「ああ。真堂?じゃったか?あの地面を砕いた男なら儂が失格にしたのでな。あ奴が司令塔だったのかもしれんな」

「あの人を!?」

「砕いた後隙だらけだったのでな。鞭で釣り上げた」

 

 釣り上げたという言葉に目を見開く緑谷。

 

「……やっぱりすごいや」

「全くだな」

 

 緑谷の言葉に飯田が頷く。

 自分達は怪我しないようにするだけで精一杯だったのに。

 

『えー、お待たせしましたぁ。集まってくださーい。早くー。寝たいー』

 

「行きましょう」

「よし!行くぞ皆!」

 

 百と飯田の号令にゾロゾロと移動する一同。

 会場に入ると流石に緊張感が高まってきた。

 

 いつの間にか会場にはモニターとステージが出来ており、ステージ上には目良が立っていた。

 

『えー。長い事お疲れさまでした。これより発表ですが……その前に1つ。二次試験の採点方式についてです』

 

 目良の説明を聞きいる一同。

 

『我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり……危機的状況でどれだけ間違いのない行動を取れたかを審査しています』

 

 その説明に緑谷達は轟に目を向けてしまう。

 

『とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載ってます。今の言葉を踏まえてご確認ください……』

 

 そしてモニターに名前が表示される。

 受験者達が緊張した顔で名前を探す。

 刃羅は『ら』なのですぐに見つかった。

 

「おお、あったあった」

「ケロケロ。私もあったわ」

「私もです!」

「よっし!」

「麗日ぁ!!」

「あった!」

 

 続々と見つけて喜びの声を上げるA組。

 しかし、

 

「……ねぇ!!」

「……」

 

 爆豪が盛大に顔を顰め、轟は悔しくもどこか当然と納得してる顔をしていた。

 やはりあの失態は決定的だったようだ。

 

「轟!!」

 

 そこにイナサが近づいてきた。

 轟が目を向けると、イナサは再び頭を地面につける程、腰を曲げて頭を下げる。

 

「ごめん!!あんたが合格を逃したのは俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」

「元々、俺がまいた種だし……よせよ。お前のおかげで気づけたこともあるから」

 

 轟はイナサを申し訳なさそうに見つめる。

 

「轟……落ちたの?」

「うちのツートップが両方落ちてんのかよ!」

 

 イナサの言葉に芦戸達も轟の不合格を知る。

 それに峰田が「ヒエラルキー崩れたり」と轟に声を変えるが、飯田に離される。

 百や梅雨が刃羅に目を向けるが、刃羅は肩を竦めるだけだった。

 伝えることは先ほど全て伝えたからだ。

 

『えー、全員確認出来ましたでしょうか?続きましてプリントを配布します。採点内容が詳しく書かれたますんで目を通してください』

 

 目良の言葉と同時に公安委員の者が名前を読んで配り始める。

 

『ボーダーラインは50点。減点方式で採点しています。どの行動が何点引かれたか等、下記にズラーっと並んでます』

 

 刃羅の得点は92点だった。

 

「ふむ。思ったよりも……」

「どうだった?刃羅ちゃん」

「92点やね。最後の自己犠牲が引かれた感じやわ。それともう少し安心感を与えろみたいな感じやね」

「凄いわ。私は89点よ。入水前と後の確認がまだ甘かったみたい」

「十分じゃろ」

「ヤオモモ。94点!!」

「むぅ~……65点かぁ。もう少し考えろってばっかり」

 

 互いの点数や減点された理由で盛り上がる一同。

 

「我の自己犠牲でもそこまで減点されていないのに、轟には結構な減点をしたのだな」

「そうね。……刃羅ちゃんの場合、最後に立ち上がったからじゃないかしら?ギャングオルカを助けた形にもなったもの」

「そうだべか?」

 

 梅雨の推測通りで、刃羅の減点が少ないのは、あの攻撃を行うまでの行動と荒刃刃鬼によって行動不能までのダメージを負うのを防いだこと、そしてギャングオルカを抱えて立ち上がったからだった。

 そしてあの演説と指示がかなりの好印象を与えたのも大きかった。

 

 ちなみに刃羅を採点した公安委員の者は『俺、あの子のファンになった』と裏で話していたりする。

 

 その後、目良から不合格者には特別講習の後、個別テストに受かれば仮免が取得できると知らされる。

 爆豪と轟もやる気を出して、特別講習を受けることにした。

 

 そしてその後、仮免許交付される。

 顔写真とヒーローネームが記されている本格的なものだった。

 

「乱刀」

 

 外に出ると相澤が声を掛けてきた。

 

「仮免を取ったことは嬉しい。けど……あんまり言いたくはないが、逆に言えばお前はこれで色々と後戻りは出来なくなった」

 

 その言葉に近くで聞いていた梅雨や百、耳郎が目を見開く。

 刃羅は無表情で相澤を見つめ、その後仮免を見る。

 

「まぁ、こうなった以上、次に『エスパデス』を名乗れば雄英は庇えないわよね。仮免を取った者がヴィランを名乗るんだもの。ヒーローを育てるからこそ、受け入れることは出来なくなる」

「そう言うことだ」

 

 犯罪者を名乗った警官が、警察に戻れるわけはない。

 もはや特別扱いは出来ない。オールマイトであろうとも、根津校長でも。

 

「ま、今の所は雄英に付き合ってあげてもいいと思ってるわよ。戻れる確証もないしね」

「……連中か」

「そ。連絡する手段は私にはないし、多分向こうもしばらくは私に興味ないでしょ」

「だといいがな」

 

 相澤の言葉に刃羅は肩を竦めるだけ。実際、何も情報はない。携帯は壊してから買い直せてないし、今回のような場合でもないと外に出るのも認めてもらえていないのだから。

 

「今回の試験については公安委員会に取り合って、流女将とエクレーヌに映像を送る。近々一度、寮を訪ねると思う。ちゃんと会話しろよ」

「……むぅ」

 

 流女将の名前に顔を顰める刃羅。

 あの事件以降顔を合わせていないし、話もしていないのだ。それに試験でこっぱずかしいことも叫んだので、あまり見せたくはなかった。

 

「諦めろ。言っとくが、雄英の教師陣でも見るからな」

「……むぅ」

 

 そこにジョークが近づいてきた。

 

「イレイザー」

「!」

「せっかくの機会だし、今度合同の練習でもやれないかな」

「ああ。それ、いいかもな」

「うちの奴がそこの子にリベンジしたいみたいで気合入れてるしさ」

 

 ジョークが刃羅を見て苦笑する。

 それに相澤も納得して頷く。

 

 その後、イナサや毛原もやってきた。

 イナサは轟に律儀なのかケンカを売っているのか分からない言葉を掛けて、毛原と共に刃羅の前にやってくる。

 

「ほえ?」

「ギャングオルカとの戦い!マジ半端なかったっス!今度自分とも手合わせお願いするっス!」

「と、言うことで今後は士傑とも合同練習などをお願いしたいと思ってね。わだかまりも解消したいし」

「そこはそっちの髭に言えや」

「ブハッ!」

「……髭」

 

 刃羅のイレイザーの呼称にジョークが噴き出し、相澤は顔を顰める。

 その後、毛原と話して「検討する」と答える相澤。

 

 刃羅はうんざりとした表情で相澤達から離れる。

 その横を梅雨がニコニコしながら歩く。

 

「ケロケロ。人気者ね。刃羅ちゃん」

「全く嬉しくないのだよ」

「けど、良い事よ」

「あん?」

「それだけ皆が刃羅ちゃんがヒーローとして相応しいって思ってくれてるのだもの」

「……ふん」

「ケロケロ」

「ふふ」

 

 公安委員会やHUCの人もあの点数から刃羅を認めている。そして他校の者も刃羅をライバル視している。

 それは刃羅がヒーローになるべき人と認めてもらえている何よりの証だと梅雨は思った。

 それに刃羅は顔を顰めるだけだった。

 梅雨と百は誤魔化したことに気づいて笑う。

 

 こうして仮免試験は終了し、刃羅達はヒーローへとまた1歩近づいて行くのであった。

 

 

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