ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#48 高みの見物

 刃羅達は寮に戻り、風呂に入るなどゆったりとしていた。

 

「んあ~……ねむ~……」

「皆、頑張ったものね」

「なのに明日からフツーの授業だもんねぇ」

「色々ありすぎた夏休みだったなぁ」

「前期に負けないほどの濃さだったよね!」

「そうですね。林間合宿で襲われ、爆豪さんが攫われ、乱刀さんが逃げ、神野区での騒動でオールマイトの引退、雄英は全寮制になり、乱刀さんを追いかけて、仮免試験……ですか」

「……それ、1か月で起こったことなんだよね?」

 

 刃羅は欠伸をしてソファにもたれ掛かり、その横で梅雨が百が淹れた紅茶を飲みながら微笑む。

 その向かいで芦戸がげんなりとして、横にいる耳郎が感慨深げに振り返り、葉隠が同意する。それに百が羅列していき、内容に麗日が呆れている。

 

「そのほとんどに刃羅ちゃんが中心にいるわね」

「悪いんは……わっちもやな」

「そうね」

「……」

 

 刃羅は梅雨の言葉を否定しようとして出来なかった。自分がやらかしたのも事実だったからだ。その言葉を梅雨が肯定して、刃羅は腕を組んで顔を顰める。

 それに百達が笑う。刃羅は話題から逃げるためにカップ麺を開けて、お湯を注ぎに行く。その後ろ姿にさらに笑う梅雨達。

 お湯を注いで戻ってきたときには話題は仮免試験に変わっていた。

 

「でもさー、轟と爆豪が落ちたのは意外だよね~」

「あの試験だと爆豪ちゃんはある意味、当然かもしれないけどね」

「轟さんも口下手ではありますが……」

「轟の場合は夜嵐との因縁が嫌なタイミングで出ただけでござる。爆豪とは少し毛色が違うと思うでござるよ。まぁ……爆豪もまた色々と抱えておるようでござるがな」

「爆豪が?」

 

 刃羅の言葉に首を傾げる芦戸。耳郎や麗日も首を傾げる。

 

「……相澤は結局間に合わなかったか」

「相澤先生がどうしたの?」

「ズズ~……ンマンマ……前、爆豪と手合わせしたときにな。爆豪がどうにも迷っているように感じてな。相澤教師に見ておくように言ったのだ」

「それが上手くいかなかったと?」

「ズズ~……ンマンマ……そういうことじゃろうな。まぁ、仕方がないことかもしれんがの」

 

 刃羅は肩を竦めてカップ麺を食べ続ける。

 梅雨達は気にはなるも、幸せそうにカップ麺を食べる刃羅の姿に苦笑するだけに留める。

 

 そこから少しだけ離れた所で爆豪が緑谷に声を掛けていたことには誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 そして深夜。

 寮にいる者達が寝静まっている。

 

 その中を2つの影が動いていた。

 

「かっちゃん……!どこまで行くんだよ?まずいよ、こんな夜中に出歩いて……」

 

 緑谷と爆豪だった。

 

『デク、後で表出ろ。てめぇの『個性』の話だ』

 

 爆豪にそう言われて、緑谷は冷や汗を流し、鼓動が早まるのを感じながら後ろを付いて行く。

 爆豪は緑谷の声には答えず、黙々と歩いて行く。

 

 そして2人が向かった先はグラウンド・βだった。

 爆豪はあるビルの前で足を止める。

 

「グラウンド・β……」

「初めての戦闘訓練でてめぇと戦って、負けた場所だ。……ずっと気色悪かったんだよ」

 

 爆豪はビルを見上げ、緑谷に背中を向けながら語る。

 それを聞いた緑谷はもはや完全にバレていると理解した。

 

「無個性で出来損ないのハズのてめぇが、どういうわけだか雄英に合格して、どういうわけだか『個性』を発現しててよぉ」

 

『人から授かった『個性』なんだ。いつかちゃんと自分の物にして《僕の力》にして君を超えるよ』

 

「わけのわかんねぇ奴が、わけわかんねぇ事吐き捨てて、自分1人で納得してドンドンドンドン登ってきやがる。ヘドロん時から……いや……オールマイトが街にやって来たあの時から……どんどんどんどん……しまいにゃ仮免にテメェは受かって、俺は落ちた。なんだこりゃあ?なぁ?」

 

 緑谷はどう声を掛けていいのか分からなかった。

 

「ずっと……気色悪くてムカついてたぜ。けど、神野でなんとなく察しがついた」

 

 爆豪は緑谷に振り合える。

 

 そして確信的な言葉を放つ。

 

「オールマイトからもらったんだろ?その『個性』」

「っ……!」

「オールマイトと出会って、テメェが変わって、オールマイトは力を失った。『次は君だ』……てめぇだけが違う受け取り方をした」

 

 そこまで見られているとは思っていなかった緑谷。

 両手を握り、顔を俯かせる。

 それを見て、爆豪は事実であると改めて確認した。

 

「……クソが」

「……聞いて……どうするの?」

「……てめぇも俺もオールマイトに憧れた。なぁ……そうなんだよ。ずっと石ころだと思ってた奴が、知らん間に憧れてた人間に認められてて。……だからよ」

 

 爆豪は左手を緑谷に向ける。

 

「戦えや。今、ここで」

「なんで!?」

 

 突然の宣戦布告に緑谷は《ワン・フォー・オール》がバレたこともあって混乱気味に叫ぶ。

 

「ええ!?待ってよ!なんでそうなるの!?いや……マズイって!ここにいるだけでもマズイんだし……!せめて戦うにしても……自主練とかで……とっトレーニング室とか借りてやるべきだよ!今じゃなきゃダメな理由もないでしょ!?」

「……ガチでやると止められんだろうが。イカレ女の時みてぇによ」

 

 爆豪は今までのように怒鳴ることもなく、静かに緑谷を睨む。

 

「テメェの何がオールマイトにそこまでさせたのか。確かめさせろ。……テメェの憧れが正しいってンなら、俺の憧れは間違ってたのかよ」

「っ……!かっちゃん……」

「怪我したくなきゃ構えろ。蹴りメインに移行してんだろ?イカレ女に鍛えてもらってよ」

「待ってって!こんなの駄目だよ!!」

 

 緑谷は未だに事態が受け入れられない。

 しかし爆豪は左手で後ろに爆破を放ち、飛び出す。そして右腕を振り被る。

 緑谷はフルカウルを発動しながら、右腕の攻撃がフェイントかどうか考える。

 爆豪は緑谷の考えなど見抜いているように、右腕を叩きつけながら爆破する。緑谷は飛び上がるが右脚に爆破を浴びる。

 

「った……!」

「深読みするよな。てめぇはぁ……!来いや!!」

 

 爆豪は緑谷を挑発する。

 それでも緑谷は未だに構えない。

 

「待ってって!本当に戦わないといけないの!?間違っているわけないじゃないか!君の憧れが間違っているなんて誰も……!」

 

 緑谷は説得しようとするが、爆豪は飛び込んで爆破を放つ。

 それを緑谷は躱すことに専念するが、爆豪の機動力に追いつかれてしまう。

 

 爆豪は緑谷に詰め寄りながら左腕を振り被る。緑谷はそれを掴もうと腕を伸ばすが、爆豪は左腕を直前に止めて、左脚を振り上げて緑谷の顎を蹴り上げる。蹴り上げた脚を振り下ろす勢いを利用して、前に出て両手を緑谷に伸ばす。緑谷は仰け反った勢いでバク転して、爆豪の両手を蹴り上げて爆破を躱す。

 爆豪は爆破の勢いと両手を蹴り上げられたことで、後ろにたたらを踏んで尻餅をつく。

 

 それに緑谷が慌てて手を伸ばそうとして、爆豪はそれを振り払う。

 

「俺を心配すんじゃねぇ!!戦えよ!何なんだよ!なんで!!なんで!!ずっと後ろにいた奴の背中を追う様になっちまった!!クソザコのテメェが力をつけて……!オールマイトに認められて…強くなってんのに!なのに何で俺はっ!!」

 

 爆豪は立ち上がりながら、自分の胸元を掴みながら泣きそうな表情で叫ぶ。

 

「俺は……オールマイトを終わらせちまってんだ!!」

 

 爆豪の叫びと表情に緑谷は衝撃を受ける。

 

「俺が強くて、ヴィランなんかに攫われてりしなけりゃ、あんなことになってなかった!!イカレ女にもあんなみじめな真似させることもなかった!!イカレ女は攫われることもなく、戦い抜いたのに!!俺だけが弱かった!!」

 

 爆豪は顔を俯かせながら叫び続ける。

 

「オールマイトが秘密にしようとしてた……誰にも言えなかった!考えねぇようにしてても……フとした瞬間湧いてきやがる!どうすりゃいいか……わかんねぇんだよ」

 

 神野区では誰よりも中心にいた。 

 オールマイトが出てこなければいけない理由を作った。

 自分1人では逃げ出すことも出来なかった。

 

 その結果がオールマイトを引退させ、緑谷達に助けに来させて、刃羅にヒーローを失望させて『エスパデス』に戻してクラスメイトと戦わせ、何より……あの神野区の甚大な被害を招いた。

 

 自分が捕らえられたから。

 

 そんなことを招きながら助けられた今、自分に出来ることはなんだ?

 

 強くなること?でも、そんなの攫われる前と変わらない。

 

 じゃあ、どうすればいい?

 

 誰が……その答えを持っている?

 

 分からない。

 

「だから……戦えぇ!!!」

 

 爆豪は改めて緑谷を見据えて叫ぶ。その眼には、涙が浮かんでいた。

 

 そして爆豪は緑谷に飛び掛かる。

 緑谷は歯を食いしばって覚悟を決めて、爆豪の顔を全力で蹴る。

 

「……丁度いい……シュートスタイルが君に通用するかどうか……」

 

 緑谷は爆豪を見据えて構える。

 

「やるなら……全力だ!サンドバッグになるつもりはないぞ!かっちゃん!」

 

 

 

 2人が戦っているグラウンド・β。

 2人を発見して相澤に連絡している警備ロボの他にも、眺めている者がいた。

 

「……やっぱ追い詰められてたわねぇ」

 

 刃羅である。

 刃羅は近くのビルの屋上付近の非常階段の踊り場で、腕を組みながら2人の戦いを見下ろしていた。

 

 

 

 気配に敏い刃羅は、夜中に殺気にも近い闘気の移動を感じて目を覚ました。

 部屋を出て、気配がする方向を見ると、爆豪が部屋を出て下に降り始めていた。

 

「……爆豪?」

 

 訝しむように爆豪を見つめていた刃羅は、もう1人部屋から出てきた者を見つける。

 

「……緑谷。……偶然ではなさそうじゃのぉ」

 

 少しオドオドしながら下に降りていく緑谷を見つめながら、厄介事の気配を感じて腕を組んで顔を顰める。

 しかし、あの2人は放っておくには少し危険だとも思う。

 特に今の爆豪は仮免試験に落ちた直後であり、尚更嫌な予感がする。

 

「……はぁ~。まぁ、様子だけでも見ておくか」

 

 刃羅は音を出さないように追跡を開始する。

 出来る限り気配を消して、グラウンド・βに入ったところでビルの屋上に上がり、2人と警備ロボに見つからないように移動した。

 

 

 

 そして今の場所で爆豪の叫びと2人の戦いを見ていた。

 

「相澤もオールマイトも……あの強さや性格の理由を考えたことはないのかしらねぇ?せっかく忠告したのに」

 

 確かに元々の才能が大きい。子供の頃から誰よりも優れていたのは緑谷から聞いたことがある。

 常にトップで居続けた爆豪。

 

「それはぁ素晴らしいことだけどねぇ。でもねぇ、見た事ないんだよねぇ。彼がぁ()()()()()()()()()()()()()

 

 誰かに悩みを話す姿も、弱みを見せたのも見たことがない。

 

 恐らくは雄英に入るまで、自分より優れた者が近くにいなかったことによる弊害だろう。

 しかも10数年見下して、ずっと後ろにいた緑谷が迫ってきた。それは轟達との出会いよりも衝撃だったはずだ。それを戦闘訓練で実感し、期末試験では競うどころではなかった。

 そして今回の仮免試験で明確な差として見せつけられた。

 しかも轟とは違う形で、轟よりもどうしようもない形で。

 

 よく知っている相手だからこそ、恐ろしかったのだろう。追いかけられることが、差が縮まることが、追いつかれたことが。

 

「まぁ……ある意味、うちのせいやろかねぇ。うちが雄英を離れてしもたことで、爆豪から目が離れる形になってもうた。被害者っちゅうのも大きかったやろうしな」

 

 No.1ヒーローになる。

 

 その言葉は神野以降、爆豪にとって物凄く重い言葉になった。

 しかし、それを目指すためにはどうすればいいのかが、はっきりしない。でも、誰にも尋ねることなど出来はしない。

 

 No.1ヒーローになるにはどうすればいいか?など、誰が答えられるのか。誰が教えられるのか。

 教えられるのはただ1人。しかし、そのただ1人は憧れの人で、自分のせいでその座を降りた人。

 

「聞けるわけねぇよなぁ。てめぇにゃあ」

 

 だから刃羅に挑んできたのだろう。何かしらの形が欲しかったのだろう。

 

 下での爆豪の戦い方は刃羅との戦いの時よりも反応が早く、動きに迷いがなく、攻撃が鋭くなっている。

 

「……今の爆豪には勝てるかどうか分からぬでござるなぁ」

 

 それほどまでに爆破のタイミングや次への攻撃への繋ぎ方が恐ろしくスムーズだった。

 

 その時、緑谷から感じる力が膨れ上がったのを感じた刃羅。

 すると緑谷は今までよりも数段速いスピードで動き出して、飛び上がって蹴りを放つ。

 それに爆豪も目を見開いて、迎撃が間に合わずガードするだけで手一杯だった。

 

 爆豪は不完全ながらも両腕で頭をガードし、倒れるまではいかなかった。

 すぐさま反撃に移り、右腕を振り被る爆豪。それを読んでいたかのように振り抜いた勢いで、左後ろ回し蹴りを放つ緑谷。

 爆豪は左腕で防ぐが、緑谷はそれを利用して前に飛び出ることで、爆豪の右手の爆破を躱す。

 

「無茶苦茶な動きばかりであるな……!?」

 

 刃羅はもはや呆れるばかりだった。

 特に緑谷に関しては、飛び回る蹴りばかりで結局まだまだ一撃一撃が必殺技のつもりのようだ。

 

「まぁ、爆豪には下手な小技は反撃の材料になりかねないでありますが……。それでももう少し教えた事を活かしてもらいたいでありますなぁ」

 

 再び飛び上がって右脚を振り被る緑谷。

 それに爆豪は左腕を頭の横に掲げて右手だけで爆破して飛び上がる。

 その時、緑谷が左拳を握った。

 

「っ!?そういうことかえ!」

 

 刃羅は緑谷の狙いに気づいた。

 緑谷は右脚は蹴り出さず、腰を捻って左フックを爆豪の顔面目掛けて放つ。

 最初に爆豪にやられたフェイントの仕返しだった。

 

 爆豪の顔に緑谷の拳が突き刺さる。

 

「敗けるかああああ!!!」

 

 すると爆豪が殴られながら吠え、右手で緑谷の左袖を掴む。

 そのまま吠えながら右腕を引き、緑谷と上下を入れ替わる。そして左手を上に向けて爆破を放ち、地面に叩きつけると同時に右手で爆破を放つ。

 

 煙が晴れた先では、緑谷が仰向けで爆豪に押さえ付けられていた。

 

「ハァ!ハッ!ゲホッ」

「ガハッ!ゲホッ!」

「……俺のぉ……勝ちだぁ!」

 

 爆豪は緑谷を見下ろしながら勝ちを宣言する。

 

「オールマイトの力……そんな力ぁ持っても、自分のもんにしても、俺に敗けてんじゃねぇか。なぁ……何で敗けてんだ……!」

 

 爆豪は勝利したことを全く喜ぶ様子を見せなかった。

 

「そこまでにしよう。2人とも」

 

 そこに近づく人影が1つ。

 

「悪いが……聞かせてもらったよ」

「オール……」

「マイト……」

 

 現れたのはオールマイトだった。

 爆豪は緑谷から離れて立ち上がる。

 

「……乱刀少女の事と言い、本当に情けない。気付いてやれなくて……ごめん」

「っ!……今…更……!」

 

 オールマイトの謝罪に顔をクシャっと歪める爆豪。

 

「……なんでデクだ?」

「……非力で……誰よりもヒーローだった。君は強い男だと思った。既に土俵に立つ君じゃなく、彼を土俵に立たせるべきだと判断した」

「っ!……俺だって弱ぇよ。あんたみてぇな強えぇ奴になろうと思ってきたのに!弱ぇから……あんたをそんな姿に!!」

「これは君のせいじゃない。どのみち限界は近かった。こうなることは決まっていたよ。君は強い。ただね、その強さに私がかまけた……抱え込ませてしまった。すまない。君も少年なのに」

 

 オールマイトは爆豪の頭を胸元に抱き寄せる。

 爆豪はそれを振り払い、後ろに下がる。

 

「でもね、長い事ヒーローをやってきて思うんだよ。爆豪少年のように勝利にこだわるのも、緑谷少年のように困っている人を救けたいと思うのも、そして乱刀少女のように理想を追い続けるのも、どれかが欠けていてもヒーローとして己の正義を貫くことは出来ないと。緑谷少年が爆豪少年に憧れたように、爆豪少年が緑谷少年の心を畏れたように、そして君達や私達が乱刀少女の覚悟に揺さぶられたように……もう、分かっているんだろ?互いに認め合い、まっとうに高め合うことが出来れば、勝って救ける、救けて勝つ最高のヒーローになれるんだ」

 

 オールマイトの言葉を聞いた爆豪は座り込んで顔を俯かせる。

 

「お前……一番強えぇ人にレールを敷いてもらって……敗けてんなよ」

「……強くなるよ。君に勝てるように……」

「はぁ……あんたとデクの関係を知ってんのは?」

「リカバリーガールと校長……生徒では、君だけだ」

「バレたくないんだろ?オールマイト。あんたが隠そうとしてたから、どいつにも言わねぇよ。クソデクみてぇにバラしたりはしねぇ。ここだけの秘密だ」

「秘密は本来……私が頭を下げてお願いすること。どこまでも気を遣わせてすまない」

「遣ってねぇよ。言いふらすリスクとデメリットがデケェだけだ」

「こうなった以上、爆豪少年にも納得のいく説明が要る。それが筋だ」

 

 そうして、3人は歩き始める。

 オールマイトは爆豪に《ワン・フォー・オール》のこと、そのオリジン、オール・フォー・ワンとの関係、その戦いで体がボロボロになったこと、そしてデクを選んだことを話す。

 その内容に爆豪は顔を顰めて、秘密にしていた理由を理解する。

 

「曝かれりゃ力の所在で混乱するって……ことか。なんでバラしてんだ、クソデク」

「全くじゃのぅ」

「「「!?!?」」」

 

 突如聞こえた声に3人はバッ!!と声がしたビルの上に体ごと顔を向ける。

 ビルの屋上には刃羅が腰に両手を当てて呆れた表情で立っていた。

 

「ら、ら、乱刀さん!?」

「て、てめぇ!いつから……!?」

「寮を出たところからなのです」

「最初から!?」

「い、今の話は……?」

「聞いとったに決まっとるやろ」

 

 3人の前に飛び降りる刃羅。

 オールマイト達は予想外の登場に汗をダラダラと流す。

 それを見て、刃羅はため息を吐いて半目で見る。

 

「焦らなくても誰にも言わないわよ。というか、少なくともステインや私にはバラす利点がないわ。それに……ある程度は予想はしてたしね。USJと体育祭で」

 

 刃羅の言葉に目を見開く緑谷と爆豪。

 オールマイトは体育祭での話を思い出して、頭を抱えた。

 刃羅はそんな3人を尻目に話を続ける。

 

「最初の戦闘訓練の時から、オールマイトから感じる圧に違和感があったでござる」

「そんな時から……!?」

「そしてUSJ事件でオールマイトと脳無の戦いを見て、オールマイトが衰えていること、そして……戦う時間に制限があること、体にどこか異常があることに気づいた。脳無を失ったのに死柄木達を捕らえず、妙に吐血していたからな。脳無を倒した時点で限界だったのだろう。だから……緑谷が飛び出した」

「……恐れ入ったよ」

「それで体育祭じゃの。儂を追いかけてきた時に『緑谷はオールマイトの後継者的存在か』と言ったら、オールマイトは否定せなんだ。そして神野じゃな」

「……オール・フォー・ワンの言葉が聞こえてたのかい?」

「あの時、一番近くにおったのはわっちやよって。『譲渡先は緑谷出久だろ?』。その言葉と緑谷の『個性』の出現の話を思い出して、繋がったということですわ。それに……」

「それに?」

「緑谷に『オールマイトを意識過ぎている』と言ったら、『職場体験先でも言われた』と言ってたべ。つまり、オールマイトと深いつながりがあるヒーローということだべな。グラントリノ。神野でもかなり頼りにしていたべな?そんな人がデクを唯一指名していたべ。ここまで情報が揃って疑わねぇ方が無理だべさ」

 

 刃羅のほぼ完ぺきな推理に頭を抱えるオールマイトと緑谷。爆豪は呆れと怒りが混じった視線を2人に向ける。

 そんな3人を眺めながら苦笑する刃羅。肩を竦めて、両手を上げる。

 

「だから~誰にも言う気はないよ~。オールマイトはもう象徴ではないし~、私とステインからすれば~緑谷君はヒーロー足りえるって~判断してるからね~。それを私達が~邪魔する気はないよ~」

「……けっ」

「で、ようやく溜まり溜まったモノを吐き出せて、ひとまずは満足したかね?爆豪君。よかったではないか。ようやく本音を曝け出せる相手が見つかって」

「……てめぇ……!」

 

 爆豪は顔を顰めて刃羅を睨む。

 刃羅はまた肩を竦める。

 

「あんたと私は似ているわ」

「似てねぇわ!殺すぞ」

「そうね。似ていた、が正しいわね。あんたは上に向かう分かれ道を見逃す前に相手を見つけた。私は……見つけられなかった」

「……」

「今はまだ駄目だけど、せいぜい緑谷と競い合いなさい。そうすれば少なくとも私の粛清対象からは外れるわ」

 

 刃羅はそう言うと3人に背を向けて歩き出す。

 その後ろ姿に3人はどう声を掛ければいいか分からず、黙って歩き始めた。

 

「……やっぱりまだ……ステインの元に戻ろうと考えてるんですね」

「ああ……でも、悔しいけど……私は何と声を掛けていいのかが分からない」

「……けっ(……見つけられなかった、か。俺はたったひと月…いや、半年足らずでここまで溜まった。なら、あいつはどれだけ耐えてきやがった?)」

 

 刃羅は頼れる者がいなかった。

 刃羅の事情は切島や上鳴から一通り聞いた。親が死んだ後も周りに当たり散らしたら、誰も近寄らなくなったというのも。

 

(『似ていた』。それは俺が誰にも話せなかったのと同じってことか。胸糞わりぃが俺には……デクがいた。けど、あいつにはいなかった。だから……ヒーロー殺しに手を伸ばした)

 

 爆豪は優れていたために頼れる者が見つからず、刃羅は底辺まで落ちたために頼れる者が見つからなかった。

 真逆だが、似ている。

 刃羅はそう言いたかったのだと爆豪は理解した。

 

「あ、そうなのです。緑谷」

「へ!?はい!?」

「てめぇ……今回はパンチのフェイントを狙ってやがったのは褒めてやるがよぉ。あんなピョンピョン飛び跳ねる蹴り、誰が教えたゴラァ!!」

「ひぃ!?ご、ごめんなさい!?」

「爆豪や前のオールマイトのように空中でも移動できる手段があるならいいが、貴様にはないだろう!だから拳でのコンビネーションを意識しろと叩き込んでやったのに、まっっったく出来てないではないか!一撃一撃大振りしよって!!」

「すいません!?」

 

 刃羅は緑谷にズンズンと詰め寄りながら怒鳴る。

 緑谷は刃羅が近づいてきたことと、注意された内容に顔色が赤くなったり青くなったりと世話しなかった。その様子をオールマイトも呆れて見ていた。

 その後、教職員の寮に向かい手当を行う緑谷と爆豪だったが、

 

「試験終えたその晩にケンカとは元気があって大変よろしい」

 

 ギリギリと相澤が捕縛武器で2人を締め上げる。

 2人は問題を起こしたのも事実なので、大人しく耐えている。

 その横で刃羅は腕を組んで呆れており、オールマイトも相澤を制止する。

 

「相澤君待って、捕縛待って。原因は私にあるんだよ」

「原因?……何です?」

 

 相澤の言葉にビク!っとする緑谷と爆豪。

 オールマイトは相澤に近づき耳打ちする。

 

「爆豪少年は私の引退に負い目を感じていたんだ。そのモヤモヤを抱えたまま試験に臨ませて、彼の劣等感が爆発した。気づけずにメンタルケアを怠った私達大人の失態が招いたケンカだったんだ」

「相澤先生殿には爆豪に注意するように伝えていたはずであるがね。『緑谷とオールマイトのことで焦っているように見える』と」

「ら、乱刀少女……!?」

「…………んん」

 

 オールマイトの言葉が聞こえた刃羅が、堂々と『教えてやったのに蔑ろにした相澤にも責任がある』と言い放つ。

 それにオールマイトが慌てるが、2人の言葉を聞いた相澤は顔を顰めて唸る。

 実際、爆豪のメンタルケアを怠ったのも事実であり、刃羅に注意するように言われていたのも事実である。それを甘く見ていたのは間違いなく相澤であった。

 

「まぁ……確かにそうだな。で、乱刀がそこにいたのは?」

「もちろん行き過ぎるなら止めるためアル。アタシにも責任があると思たからネ」

「……」

「まぁ、あんまり止める気はなかったがね。オールマイトが近づいてると気づいたから放っておいたのもあるが」

「おい」

「仕方なかろう?我だけ暴れまわったのでは、不公平だと思ったからな。どのみちとことん発散させねばいけなかったのだ。話を聞いていて、我では役不足というのもあったがな」

「……はぁ」

 

 肩を竦める刃羅の言葉に、相澤はため息を吐くしかなかった。

 

「事情は分かった。こちらの責任も認める。しかし、だからルールを犯しても仕方ない、で済ますことは出来ない。然るべき処罰は下します。先に手ぇ出したのは?」

「俺」

「僕も結構……ガンガンと……」

「爆豪は4日間!緑谷は3日間!寮内謹慎!その間の寮内共有スペースの清掃!朝と晩!!プラス反省文の提出!乱刀!お前も反省文を提出しろ!」

「アイヤ!?」

「寮を抜け出したのは事実だ。それだけで済ませてやる」

「ノォーーーウ!」

 

 ビシ!と2人を指差しながら処罰を伝える相澤。刃羅も夜間の無断外出でも処罰を与えられて、崩れ落ちる。

 それで解散となり、各自部屋に戻る緑谷達。刃羅は顔を顰めながらガリガリと反省文をさっさと書く。

 

 

 

 

 そして翌朝。

 緑谷と爆豪は掃除機を構えて清掃を始めていた。

 

「ケンカして」

「謹慎~~!?」

「馬鹿じゃん!」

「ナンセンス☆」

「骨頂ー!」

 

 クラスメイトからの言葉に顔を顰めて耐える爆豪。緑谷は恥ずかし気に顔を俯いている。

 

「ええ!?それ、仲直りしたの?」

 

 麗日が心配そうに眉尻を下げながら声を掛ける。

 

「仲直り……っていうものでも……うーん……言語化が難しい……」

「殴り合って叫び合って認め合って、ようやくまっとうなライバルになったって感じやな」

 

 緑谷がどう表したものかと首を傾げて唸っていると、刃羅が簡単に説明する。

 それに麗日達が首を傾げる。

 

「なんで刃羅が分かんの?」

「拙者もその場にいたのでな」

「なんでお前は謹慎じゃねぇんだ?」

「眺めておっただけじゃからのべぇ!?」

「乱刀さん!?」

 

 刃羅の頬に梅雨の舌ビンタが炸裂する。

 

「何で止めなかったの?刃羅ちゃん」

「いたい~……体育祭や~訓練時の試合と同じさ~。ぶつかり合って~ようやく言えることも~あるでしょ~。他の目があると~満足いくまで戦えない~時もあるしさ~。今回のは~爆豪君には~必要かな~って思ったの~」

「もう大丈夫なのですか?」

「儂が見る限りではの」

 

 刃羅の説明を聞いて、一応安心する梅雨達。

 

「では、これからの始業式には君達は欠席だな!全く!」

「ご、ごめん」

「後期初日からお前ら話題が絶えねぇな」

「うるっせぇ!」

「皆!遅刻する!そろそろ行くぞ!」

「「「へ~い」」」

 

 飯田の号令にゾロゾロと玄関に向かう一同。

 

 こうして波乱?から新学期は始まったのであった。

 

 


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