ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#49 3年生

 始業式に向かう刃羅達。

 途中、物間が何やら騒いでいたので、久しぶりに飛び蹴りを腹に突き刺した刃羅。

 

「ガッフゥ!!」

「あ、スパイラルカッターにするの忘れてたのです」

「流石にそれは止めるぞ、乱刀」

「で、出来れば飛び蹴りを止めて欲しいなぁ……拳藤」

 

 腹を押さえて蹲る物間が拳藤にツッコむが無視される。その後、手刀で倒されて宍田に運ばれていく。

 その後、刃羅達はグラウンドに整列する。

 

「やあ!皆大好き小型哺乳類の校長さ!」

 

 朝礼台で根津が挨拶する。

 毛の手入れや毛並みの話など、どうでもいい話が続く。

 

「ライフスタイルが乱れたのは皆もご存知の通り、この夏休みに起きた事件に起因しているのさ」

 

 すると突然話題が重くなった。

 

「柱の喪失。君達が寮生活になったのもそうだけど、あの事件の影響は予測を超えた速度で現れているのさ。これから社会には大きな困難が待ち受けているだろう。特にヒーロー科諸君にとっては顕著に現れる。2・3年生の多くが取り組んでいるヒーローインターンも、これまで以上に危機意識を持って考える必要がある」

 

 ヒーローインターンと言う単語に芦戸達は首を傾げる。

 

「ヒーローインターン?」

「職場体験の発展形みたいなものかしら?」

「2・3年っちゅうことは仮免合格が条件みたいやなぁ」

「そうですね」

「暗い話はどうしたって空気が重くなってしまうね。大人達は今、その重い空気をどうにかしようと頑張っているんだ。君達には是非ともその頑張りを受け継ぎ、発展させられる人材になって欲しい。経営科も、サポート科も、普通科も、ヒーロー科も、皆社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ!」

 

 話を終え、スタスタと降りていく校長を見送り、その後も連絡事項が続く。

 最後はハウンドドッグが朝礼台に上がり、連絡事項を伝えようとしたのだが、

 

「グルルル……昨日……ルルルル……寮のバウバウバウッ!!ガルゥ!慣れガゥ!バウバウ!生活グルルゥ!アオーーーン!!」

「グルルゥ!」

「乱刀さん!共鳴しないでください!」

「……クゥ~ン」

 

 完全に人語を失ったハウンドドッグの声に、刃羅も反応するが百に注意されて項垂れる。

 肩で息をするハウンドドッグとブラドが交代する。

 

「えー、『昨日の夜、ケンカした生徒がいました。慣れない寮生活ではありますが、節度をもって生活しましょう』とのお話でした」

 

 ブラドが通訳した内容に1年生は唖然として、ハウンドドッグを見送る。

 

「……離島の時は落ち着いた方だと思ったのですが……」

「あ、それ多分その前に私が逃げる時に、催涙弾浴びせたからだと思うよ!」

「……乱刀さん」

「イレイザーヘッドの目を封じるのが目的だったのです。悪気は……そこそこあったのです」

「はぁ~」

 

 刃羅の言葉に目元を覆う百。緑谷達の事といい、完全に問題児が集結していた。

 その後、終了となり、各学年ごとに教室に戻る一同。

 

 そして相澤からのHRが始まる。

 

「じゃあまぁ、今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてないほど色々あったが、上手く切り替えて、まずは学生の本分を全うするように。昨日は仮免試験もあったので、今日は座学のみ。だが後期はより厳しい訓練になっていくからな」

 

 相澤の言葉を聞いて、芦戸が梅雨に顔を寄せる。

 

「話無いね」

「なんだ?芦戸」

「ひぃ!?久々の感覚!?」

 

 芦戸が肩を跳ね上げると、梅雨が手を上げる。

 

「いいかしら?先生。さっき始業式で出てたヒーローインターンってどういうものか聞かせてもらえないかしら?」

「そういや校長がなんか言ってたな」

「俺も気になっていた」

「先輩方の多くが取り組んでらっしゃるとか……」

「それについては後日やるつもりだったが……先に言っておく方が合理的か」

 

 梅雨達の言葉に相澤は髪を掻きながら頷く。

 

「平たく言うと『校外でのヒーロー活動』。以前行ったプロヒーローの元での職場体験。その本格版だ」

 

 説明に納得したように頷く麗日。

 しかし、その後ある疑問に辿り着き、慌てて立ち上がる。

 

「では、体育祭での頑張りは何だったんですか!?」

「確かに……!インターンがあるなら体育祭でスカウトを頂かなくとも道が拓けるか」

 

 麗日の発言に飯田も疑問を持つ。

 その理由を相澤が説明する。

 

「ヒーローインターンは体育祭で得たスカウトをコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく、生徒の任意での活動だ。むしろ体育祭で指名を頂けなかった者は活動自体が難しいんだよ」

「ふむ……職場体験のスカウトが『面接』、そしてヒーローインターンが『研修』という感じかの?」

「そんなもんだ。スカウトが来なかったヒーロー事務所に『インターンさせてください』と言っても受け入れてもらうのは難しい。仮免を持ってる以上、インターンに行った者もヒーローとして活動してもらわないといけないからだ。つまり受け入れた側からすれば、活動評価に大きく関わる」

「なるほど。本当にサイドキック見習いとして参加するのですね」

「仮免を取得したことで、より本格的・長期的に活動へ加担出来る。しかし、1年での仮免取得は例が少なく、ヴィランの活性化も相まってお前らの参加は慎重に考えているのが現状だ。乱刀のこともあるしな」

 

 相澤の言葉に刃羅に視線が集中する。正確には刃羅の首についているチョーカーにであるが。

 

「乱刀も仮免を取得した以上、インターンを受けさせないわけにもいかん。しかし未だ逃亡・襲撃の可能性がある以上、そう簡単にゴーサインも出せん」

「まぁ、あんまり興味ねぇけどな」

「……まぁ、体験談も含めて後日ちゃんとした説明と今後の方針も話す。こっちも都合があるんでな。じゃ、待たせて悪かったな。マイク」

 

 相澤の言葉に肩を竦める刃羅。

 それに相澤は僅かに眉間に皺を寄せながら話を切り上げる。そしてドアに向かって声を掛ける。

 するとドアからマイクがハイテンションで入ってきた。

 

「1限は英語だー!すなわち俺の時間!!久々登場、俺の壇場待ったか、ブラ!!今日は詰めていくぜ!!アガってけー!!イエアア!」

「はーい」

「イエア!」

「刃羅ちゃんって先生達に合わせてテンション変えられるんだね。今更ながらに分かったよ」

「ハウンドドッグ先生にも対応できますからね」

 

 葉隠と百は、刃羅の新しい才能に今更気づいたのであった。

 

 

 

 そして授業を終えて寮に戻る刃羅達。

 

「インターンかぁ」

「体育祭のスカウトって言っても、私貰えてないしなぁ」

「一番貰ってた爆豪と轟が落ちてるし、そこから受けてもらえないかな?」

「爆豪が行ったのはベストジーニスト。轟はエンデヴァーやよって。ベストジーニストは未だ療養中。エンデヴァーは保須事件で教育権剥奪中や。うちのエクレーヌも同じくやね」

「あぁ~……そういえばぁ」

「流女将はどうなのですか?」

「受け入れてくれるかもしれんが……私とは毛色が違い過ぎるしな」

「まず刃羅ちゃんはインターン出来るかどうかも分からないものね」

 

 インターンの事で盛り上がる刃羅達。

 まだ出来るかどうかも分からないが、出来るようになったところで受け入れてくれるかどうかは分からない。それに芦戸、葉隠、耳郎は指名すら貰えていなかった。

 そして刃羅はそもそも論状態。

 前途多難感全開の女性陣だった。

 

「私もウワバミのところに、また行く気はあまりないですし……」

「CM出てたもんねぇ!ヤオモモ」

「あれはもういいですわ……」

「ん~……行きたいけどなぁ。コネがないなぁ」

「……梅雨」

「何かしら?刃羅ちゃん」

「流女将の連絡先はまだ残ってるべか?」

 

 突如刃羅が梅雨に尋ねる。

 梅雨は首を傾げながらも頷く。

 

「ええ。時折、刃羅ちゃんのことを連絡してるわ」

「私もです」

「……」

「それがどうかしたのかしら?」

 

 まさか報告会までしていると思わなかった刃羅。憮然と腕を組むが、今は本題について尋ねることにした。

 

「流女将ならぁ紹介してくれるんじゃないぃ?別に体育祭以外のコネはぁ使っちゃ駄目だってぇ言われてないしぃ」

「……確かにそうね」

「あの人ならぁん色々コネがあるでしょぉん」

「……いいのでしょうか?」

「いいのだよ。聞くだけならタダなのだからね」

 

 刃羅は肩を竦めながら答える。

 梅雨と百は悩まし気に眉を顰めるが、ふと横を見ると芦戸、葉隠、耳郎の3人が期待の眼差しを向けていた。

 それに顔を見合わせた2人は、行けることになったら聞くだけ聞くと答える。それに芦戸達も頷いて、とりあえずこの話はここで終わりとなった。

 

 そして寮に戻ると流女将から荷物が届いており、開けるとカップ麺がたんまり入っていた。

 段ボールを掲げて小躍りする刃羅に梅雨達は苦笑する。すると、段ボールの中を改めて見た刃羅が『A組の皆さんへ』と書かれている手紙を見つけて、梅雨に手渡す。

 手紙を受け取った梅雨は自分が開けていいのか悩んでいると、百達が読むように勧めてきたため、梅雨は頷いて封筒の封を開けて中を見る。

 

『仮免試験お疲れさまでした。イレイザーヘッドから連絡があり、刃羅さん達の活躍を見させて頂きました。仮免許を取得したことで、これからインターンに向けて動かれると思います。もし受け入れ先でお悩みならば、私でよければいつでも相談に乗るのでご連絡ください。これからも刃羅さんをよろしくお願いします』

 

 と、書かれており、内容を聞いた芦戸達がバンザイ!をする。

 スカウトがなかった男子の面々も喜び、それを見ていた緑谷と爆豪は置いて行かれた感が半端なくて内心焦りを感じた。

 しかし飯田から『授業内容の伝達は禁じられている!』と言われて、更に追い詰められる。

 刃羅なら教えてくれるのでは?と考えた緑谷と爆豪だが、梅雨と百のガードが固く、さらに『刃羅ちゃん。一緒にカップ麺食べましょう』『行く!』と梅雨の部屋へ連れていかれてしまう。

 その後も緑谷と爆豪はもんもんとしながら寮内で過ごした。

 

 翌日、授業も本格的に始まり、午後からはヒーロー基礎学だ。

 刃羅達は食堂で昼食を食べていた。

 

「今日は何するのかしら?」

「基礎訓練か必殺技を向上させる訓練じゃないかなぁ?」

「仮免試験が終わってすぐですしね」

 

 寮制になったため、生徒全員が食堂を使用することになり、人数が半端ないことになっている。そのため食堂も急ピッチで改装を行い、広くなっていた。

 

「ズズ~……ンマンマ……救助訓練とかもあるやろ。仮免試験では結構出遅れとったしなぁ」

「確かに……」

 

 いつも通りラーメンを食べながら、午後の訓練を予想する刃羅達。

 

 

 その後ろでは、

 

「ねぇねぇ!何話すか決めた?私はねー、決まらないの!知ってた?言いたい事がまとまらないの!不思議~!」

「ああ……将来有望な子達の前に立たないといけないなんて……辛い……。後ろから話してもいいだろうか?」

「駄目に決まってるじゃないか。全く君は、獣のような戦い方をするのに、心がネズミにも敗けているね。私は準備万端だよ。麗しい乙女達が待っているからね!男なんてどうでもいい!そう!私を乙女達が待っているのさ!」

「楽しみだよね!例の問題児もいるみたいだし!昨日問題児に会ったけど、とっても元気そうだったんだよね!」

「結局何話せばいいの?何伝えたらいいの?知らないの?ねぇねぇ!」

「……もう俺はいらないんじゃないかな?……辛い……帰りたい……!」

「男は通形に任せてあげよう。乙女達は私がもらうからね!ピチピチの乙女達に私だけが囲まれたい!」

「あはははは!もう失敗する気しかしないよね!」

 

 と盛り上がっている者達がいた。

 

 

 刃羅達は食事を終えて、教室に戻る。

 

 そして昼休みが終わり、ヒーロー基礎学の時間になる。

 教室に相澤が入ってくる。

 

「じゃ、後期最初のヒーロー基礎学は……救助訓練だ」

 

 予想では出ていたが、初っ端からとは思ってなかった。

 

「先日の仮免試験で、やはり他校との差が露呈したからな。記憶が新しい内にやれることをやるべきだと思ってな」

 

 相澤の言葉に頷く一同。

 

「コスチュームに着替えて、運動場γに集合しろ」

「へ?USJじゃないんですか?」

「この後は現場で伝える。急げよ」

 

 芦戸が首を傾げるが、相澤は答えずにさっさと教室を出ていく。

 

 刃羅達はコスチュームに着替えて、運動場γに集合する。

 

「よし。全員、集まったな」

「あの……相澤先生?」

「じゃ、中に入るぞ」

 

 質問を無視して、どんどん中に入っていく相澤。芦戸達は嫌な予感をしながらも、後ろを付いて行く。

 そして中心にある工場に入ると、中には人を模した人形が並べられていた。よく見ると人形はそれぞれ所々血を思わせる赤い痕が付いており、人形ごとで付いている痕の場所が異なっていた。それを見て、嫌な予感が高まる一同。

 すると、

 

ドドドドドオォン!!

 

『!?』

 

 突如、周囲で爆発音が響き、建物が崩れる音が滝のように響く。さらに芦戸達が入ってきた入り口も瓦礫で遮られる。

 

「何!?何ですか!?」

「何か見覚えあるぞ!?」

「そういうことだ。……お前ら!周囲のビルが崩れた!ここに18人の負傷者がいる!俺は周囲の確認に行くから、お前達は各1人を選んで、それぞれ脱出しろ!いいか!?急いでな!相談している場合じゃないぞ!」

 

 急に相澤が雑な演技を始める。相澤は大雑把な指示を出して、走り出す。

 それに芦戸達は未だに事態が飲み込めずにパニくっている。

 

「え?え!?どういうこと!?」

「どうすればいいんだ!?」

 

 刃羅は素早く人形を見渡して、赤い痕が最も少なく、頭部や腹部など致命傷の可能性が高いところに痕がない人形を見つける。

 刃羅は人形に駆け寄り、素早く状態を確認する。

 

「乱刀?」

「先に行くよ!一番はもらった!」

 

 障子が問いかけると、刃羅は素早く人形を背負って駆け出す。刃羅は瓦礫で穴が開いた隙間から外に出る。すると、ドン!と刃羅が出た個所が塞がれた。

 それを見て、ようやく把握した百達。

 

「救助訓練レース!?」

「マジで!?」

「出口が限られてるぞ!急げ!」

「ケロ。私はこの人にするわ」

「あ!?梅雨ちゃんズルい!」

「早く助け出したいもの」

 

 梅雨も刃羅を真似て、傷が浅い人形を選んで舌でくるんで背負い、走り出す。

 そしてやはり梅雨が出た個所も塞がれた。

 

「やっぱり1人1個だ!?」

「やっべ!急がねぇと」

「ぬあああ!どの人形もおいらよりデケェんだよぉ!!」

 

 峰田が叫びながら人形を担ごうとする。しかし、どうやっても体のどこかが地面に擦りついてしまう。

 

「誰かぁ!手伝ってくれよぉ!」

「そこになんか道具たくさんあんぞ!」

「マジで!?助かった!」

 

 上鳴が建物の端に台車やはしごなどが置かれているのを見つけた。

 そこに駆けつけた峰田達を横目に飯田や百、轟、障子達が脱出を開始する。

 

 外はとことん破壊されており、普通に走るのも難しい状況だった。その上で人形を背負って、走って行かなければならない。しかもこの人形、しっかりと重さもある。なので、普通に走るだけでもかなりの負担だった。

 飯田達は負傷者と言う想定を守りながら、無茶をせず、さらに瓦礫に巻き込まれないように走らないといけない。百も体力を温存するために創造を控えている。

 

 そして、30分後。

 外では息を荒げて座り込んでいる飯田達の姿があった。

 

「まだ半分か……。やはり個人になったら途端にもろくなるな」

 

 相澤は時計を見ながら、座り込んでいる生徒達を見る。

 

「乱刀が1位、飯田が2位、瀬呂が3位。まぁ、速さで言えば順当ではあるが……」

「あるが……?」

「飯田と瀬呂は途中負傷者の扱いが雑だったな。負傷者を背負いながら、随分とスピードを出して走り、テープで飛んでたな」

「う!」

「く!」

「というわけで、減点。ということで4位の蛙吹、5位の障子が繰り上がりだな」

「ケロ」

「それにしても、仮免ではどちらかと言うと役割分担が課題だったと思うが?」

 

 相澤が評価しているところに刃羅が首を傾げて質問する。

 刃羅はあまり疲れてはいなかった。

 

「まぁ、それは緑谷と爆豪が復帰してからだな。今回は個人の課題を改めて洗い出す。仮免のように壊滅的な状態からの救助は、常に助けが得られるかどうかは分からないからな。個人でも1人くらい救えてもらわないと困る」

 

 相澤の言葉に飯田達は納得するように頷いている。

 

「特にこういう工場地帯では、いつ爆発が起きたり、有害物質が噴出するか分からん。こういう場合はプロでもパニックになりかねない。その場合、1人でも行動しなければならん」

「まぁの」

 

 その後、峰田と葉隠が70分かけて最後にゴール。

 すると、

 

「まだ救助者がいるかもしれん。スタート地点まで戻れ。走れよ」

「「嘘だアアアア!?」」

 

 と地獄の宣告をされて、泣き叫ぶことになった。

 ちなみにこの時すでに刃羅や梅雨達はスタート地点でのんびりとしていたのであった。

 

 

 

 そんなこんなで3日が過ぎ、緑谷が復帰した。

 

「ご迷惑をおかけしました!!!」

 

 フシュー!と鼻息を荒く吹きながら、頭を下げる。

 

「デク君!オツトメ、ご苦労様!」

「オツトメって。つか、何息巻いてんの?」

「乱刀さん!!飯田君!!ゴメンね!!」

「ほえ?」

「うむ……反省してくれればいいが……どうした?」

 

 緑谷は何やら気合を入れながら、刃羅と飯田に謝罪する。その気合の入れように刃羅は首を傾げ、飯田も戸惑っている。

 緑谷はやや目を血走らせながら、鼻息荒く拳を握る。

 

「この3日間でついた差を取り戻すんだ!」

「あ、良いな。そういうの好き!俺」

 

 緑谷の気合の入れように切島が同調する。

 それを席から眺めていた刃羅はジト目を向けながら、

 

「あいつは空回りするタイプや思うんやけどなぁ」

「あははは……確かに」

「ケロ。そんな気配はあるわね」

 

 前の席にいる百は苦笑し、百と世間話していた梅雨が頷く。

 

 そしてHRになり、連絡事項を伝えた相澤が徐に話題を変える。

 

「じゃ、緑谷も戻ったところで、本格的にインターンの話をしていこう」

 

 その言葉に背筋を伸ばす緑谷達。

 すると、相澤は扉に顔を向けて、声を掛ける。

 

「入っておいで」

「ん?」

「?」

 

 それに首を傾げる緑谷達。

 相澤の呼びかけ後に扉がスーっと開く。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか、直に経験している人間から話してもらう。多忙の中、都合を合わせて来てくれたんだ。心して聞くように」

 

 入ってきたのは4人の男女。

 短い金髪に筋肉質な男子生徒、水色の長髪でスタイルがいい女子生徒、前下がりの黄緑色のベリーショートにスレンダーでスラックスを履いている女子生徒、そして黒髪に目つきが鋭く、耳が尖っている男子生徒。

 

「現雄英生の中でもトップに君臨する3年生4名……通称、BIG4の皆だ」

 

 相澤の言葉に騒めく緑谷達。

 目の前に立っている4人はこの学園で最も優秀な者達ということだ。

 

「びっぐふぉー!」

「あの人達が……的な人達がいるとは聞いてたけど……!」

「めっちゃ綺麗な人達いるし、そんな感じには見えねー……な?」

「あの人……思い出した!」

 

 緑谷は謹慎中に金髪の男子生徒と出会っていた。その時は顔だけでよく分かってはいなかったが、ようやく思い出した。

 昨年の体育祭で成績は良くなかったが、突然裸になったので記憶に残っていたのだ。

 

(他の3人も確か上位にはいなかったと思うけど……)

 

 他の3人も見たことはなかった緑谷。

 

「じゃ、手短に自己紹介よろしいか?まず天喰から」

 

 相澤の言葉に黒髪の男子生徒が突如ギンッ!!と緑谷達を睨みつける。それに刃羅を除く者達は気圧される。

 

(なんて目つきだ!?)

(一瞥だけでこの迫力!!おおおおおお!)

 

「……駄目だ。ミリオ、波動さん、変衝(かしょう)さん……!」

「ん?」

 

 天喰の言葉に3人は天喰を見る。天喰は猫背になって震え始める。

 

「ジャガイモだと思って臨んでも……頭部以外が人間のままで、以前人間にしか見えない。どうしたらいい?言葉が……出てこない」

「ほえ?」

「……え?」

「頭が真っ白だ……辛いっ……!帰りたい……!」

 

 天喰は背を向けて、黒板に顔を向ける。

 それに緑谷達はポカンとする。

 

「え……?ヒーロー科の……トップですよね……?」

 

 耳郎が首を傾げながら、恐る恐る尋ねる。

 それに女性2人が反応する。1人は何やら楽しそうに、もう1人は右手で目元を覆って。

 

「はぁ。全く……獣のくせに情けないな」

「あ!聞いて天喰君!そういうのノミの心臓って言うんだって!ね!人間なのにね!不っ思議ぃ!」

「おお!流石、私のねじれだね!そうか!彼はノミだったのか!ならば、仕方がないね。ノミならば無様を晒しても、見守ってあげないとね」

(((ええー!?なんかボロクソ言ってるー!?)))

 

 笑顔で貶すねじれに、変衝は演劇でもしているかのように大げさに動きながら何やら納得しながら更に貶す。

 それに引く緑谷達。

 すると、ねじれが緑谷達に顔を向ける。

 

「彼はノミの天喰環。それで私が波動ねじれ。今日はインターンについて皆に話してほしいと頼まれてきました。けどしかし……」

 

 ねじれは唐突に耳郎に近づく。

 

「ねぇねぇ!貴女のその耳は音楽プレイヤーに繋げるの?」

「え?あ、は……」

「あ!あとあなたは轟君だよね!?ね!?何でそんなところを火傷したの!?」

「っ!?……それは」

「芦戸さんはその角折れちゃったら生えてくるの?動くの!?ね?峰田君のそのボールみたいなのは髪の毛?散髪はどうやるの!?蛙吹さんはアマガエル?ヒキガエルじゃないよね?」

 

 質問を仕掛けておきながら、答えを聞く前に次々と人を変えていくねじれに唖然とする一同。

 ねじれはそんな反応知ったことかと好奇心全開で周囲を見回している。

 

「どの子も皆気になるところばかり!不っ思議ぃ!」

「天然っぽーい。かわいー」

「……幼稚園児みたいだ」

 

 上鳴が何やら和み、芦戸が戸惑う。

 名前を上げられた峰田が何やら悶え始める。

 

「おいらの玉が気になるってぇ!ちょっとちょっとぉ!セクハラでずぅ!?」

 

 突如、変衝が峰田の顔を()()で挟む。そしてギラン!と睨みながら、

 

「おい、獣。私のねじれで興奮しないでくれ。穢れるじゃないか」

「……ひゃ、ひゃい……」

 

 殺意しかない視線に固まる峰田。

 

「その目も汚らわしいな。ああ、その目はいらないかな?抉ってもいいかい?いいよね?私の乙女達がこれ以上穢される前に、害獣は滅ぼそう。それが私のヒーローとしての天命だと今理解したよ。ありがとう。感謝しながら、その目と舌を抉ってあげよう。死ね」

「ひぃいいいい!?」

「こ、怖っ!?」

 

 男装が似合いそうな端麗な顔で恐ろしい言葉を発する変衝に、全員が顔を真っ青にして震える。峰田は涙と鼻水を垂れ流しながら、震えている。恐らく漏らしても誰も馬鹿にはしない。すでに峰田は林間合宿で漏らした前科があるが。

 

「ああ……やはり男なんて獣でしかないな。だから私は乙女だけと話したかったんだ。どうだい?八百万さん。この後、私と2人っきりで個人相談でもしないかい?安心して、その柔らかそうな肌を傷つけたりはしないよ。私は乙女の騎士だからね」

「え……えっとぉ……」

 

 峰田をペイ!と投げ捨てた変衝は後ろの百に近づいて、顎クイをしながら話しかける。それに百は峰田とはまた違う身の危険を感じながらも、どう答えたものかと言葉に詰まる。

 その後ろで刃羅と葉隠が呆れた目で見つめていた。

 

「……生粋のレズビアンなんじゃなぁ。エクレーヌと気が合いそうじゃのぉ」

「……この人がトップの1人……」

「おお!君が葉隠さんかな?」

「ひぃ!?」

 

 百にキスしそうな程、顔を近づけていた変衝は、ねじれと同じようにコロコロとターゲットを変えていく。

 目の前にやってきた変衝に葉隠は悲鳴を上げる。

 

「ふふ。その透明感、というか透明な姿。暴きたいな。隅々まで……」

「ひぃ!?」

「いい加減にしとけ。変衝」

 

 変衝の両腕を相澤が捕縛武器で縛る。

 それに変衝は抵抗せず、肩を竦める。そして左手を掲げ、右手を胸元に当てながら自己紹介をする。

 

「やれやれ。愛には障害が付き物だ。では、乙女諸君。私は変衝(かしょう) 好女(このめ)という。乙女だけを愛し、乙女だけに愛される騎士さ。ああ、獣の男衆は今すぐ忘れてくれ。そして乙女達のことは忘れて、獣同士で交わってくれ。はい!ナウ!」

『無理だわ!!』

 

 パン!と手を叩いて、ペット躾けるように恐ろしいことを言う好女。

 流石に叫び返す男性陣。

 もはやカオスでしかない状況に、相澤が目を光らせて髪を逆立てる。

 

「……合理性が無いな」

 

 それに最後の金髪の男子生徒、ミリオが慌てる。

 

「イ、イレイザーヘッド!安心してください!大トリは俺なんだよね!」

 

 すると、ミリオは唐突に右手を耳に当てながら、緑谷達に声を掛ける。

 

「前途ー!?」

(ゼント……?)

「多難ー!っつってね!よぉし!ツカミは大失敗だ!アッハッハッハ!」

 

 高らかに笑うミリオに緑谷達は困惑しかない。

 

「……4人とも変だよな……BIG4という割には……なんつうか……」

「風格が感じられん……」

「プッシーキャッツとええ勝負やな」

「それはそれで失礼な気が……」

 

 ミリオは何やら思案するように顎に手を当てる。

 

「まぁ、何が何やらッて顔してるよね。必修てわけでもないインターンの説明に、突如現れた3年生だ。そりゃわけもないよね」

「この空気どうするんだい?変な目の獣くん」

「アッハッハッハ!責任転換に他人事かよー!でも、そうだよね。1年から仮免取得だよね。今年の1年って凄く……元気があるよね。そうだねぇ。なにやらスベり倒してしまったようだし……」

「?」

「おや?」

「ミリオ……?」

 

 ミリオの言葉に違和感を持った天喰達。

 するとミリオは左手を掲げて、

 

「君達まとめて俺と戦ってみようよ!!」

 

「え……ええ~~!?」

 

 こうしてインターンの説明会は混乱を極めていくのであった。

 

 

___________________

人物紹介!

 

変衝(かしょう) 好女(このめ)

 

 誕生日:3月14日。身長:169cm。B型。

 好きなもの:乙女、ミルクティー

 

 黄緑色のベリーショートヘアを前下がりで整えている。AAカップ。

 髪型と体格、そしてスラックスを履いていることから『男装の麗人』として有名。

 

 レズビアン全開で女全てを『乙女』、男全てを『獣』と呼ぶ。女性は年齢関わらず乙女扱いする。男性は嫌いだが、排除まではしない(女性に危害を加えなければ)。寮生活でウハウハ中。他の寮にどうやって忍び込むか画策中。ファンクラブあり。

 

 




BIG4って言い方が(-_-;)
TOP4、四天王も何か違う気もする……。

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