ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#50 戦ってみようよ!

「君達まとめて俺と戦ってみようよ!」

 

 突然の模擬戦発言に目を見開く緑谷達。

 ミリオはそんな困惑を無視して、相澤に顔を向ける。

 

「俺達の経験をその身で経験した方が合理的でしょう?どうでしょうね!イレイザーヘッド!」

「……好きにしな」

 

 相澤の許可も出たことで、緑谷達はジャージに着替えて体育館γに集合する。

 緑谷達は未だに状況が把握できずに戸惑っている。その横ではねじれが芦戸の触角を触って、その感覚に芦戸が悶えている。そして好女は女性陣の体操服姿に悶えており、全員からドン引き中されていた。

 

「あの……マジすか?」

「マジだよね!」

 

 ミリオは準備体操をしている。

 そこに体育館の端っこで壁に頭を付けている天喰が声を上げる。

 

「ミリオ……やめた方がいい」

「遠!?」

「形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで充分だ。皆が皆、上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

 天喰の言葉に切島達は少し目を見開く。

 今度はねじれが芦戸の触角をいじりながら、ミリオに語り掛ける。

 

「あ、聞いて。知ってる?昔、挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ。知ってた?大変だよねぇ、通形。ちゃんと考えないと辛いよ。これは辛いよー」

「おやめください」

「まぁ、ヒーローに関わる以上、綺麗なものだけ見れるわけではないからね」

 

 好女も肩を竦めて、壁にもたれ掛かる。

 その横で相澤も黙り込んでいる。

 すると、常闇が声を上げる。

 

「待ってください。我々はハンデありとはいえ、プロとも戦っている」

「そしてヴィランとの戦闘も経験しています!そんな心配されるほど、俺ら雑魚に見えますか……?」

 

 切島の言葉にミリオは仁王立ちで頷く。

 

「うん。いつ、どっから来てもいいよね。一番手は誰だ?」

「俺……!」

「僕、いきます!」

「意外な緑谷!?」

 

 切島が前に出ようとすると、緑谷が前に出て名乗り出る。それに切島が驚くも、緑谷は気にせずにミリオを見つめている。

 

「ふむ。空回りせねばよいがの」

「それをサポートするのが私達の役目だわ」

「それもそうやな」

 

 刃羅は靴を脱ぎ捨てる。

 ミリオは緑谷を見て、テンションを上げる。

 

「問題児!!いいね、君。やっぱり元気があるなぁ!!」

 

 緑谷は腰を据えて構え、全身に力を回す。

 それに合わせて切島達も準備をする。

 

「近接隊は一斉に囲んだろうぜ!」

「よっしゃあ!先輩、そいじゃあご指導ー、よろしくお願いしまーっす!!」

「お前ら!いい機会だ!しっかり揉んでもらえ!」

 

 切島が叫ぶのと同時に緑谷が飛び出す。

 

 すると、ミリオの体操服がバラァ!と()()()。 

 それに耳郎が顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。

 

「ぬあーーーー!?」

「今、服が落ちたぞ!?」

「ああ、失礼。調整が難しくてね」

(今の落ち方は……?)

 

 刃羅は落ち方に目を鋭くしながらも、緑谷に続く。

 緑谷はズボンを直している隙を逃さず、顔面に向かって蹴りを振り抜く。

 しかし、蹴りは顔をすり抜けていき、ミリオの後ろに移動する。

 

「やっぱり……すり抜ける『個性』!」

「顔面かよ」

「ならば足だべ」

「!」

 

 ズボンを整えて、顔だけで緑谷を振り返るミリオの足元に、刃羅がスライディングするように滑り込んで右脚で足払いをするように蹴り抜く。

 しかしその蹴りも足首をすり抜けて、またズボンが落ちる。

 

「っ!?」

「鋭いね!」

 

 そこに今度は芦戸達の酸やレーザー、テープが襲い掛かる。緑谷と刃羅はすぐに飛び下がる。その攻撃もすり抜けて、後ろの壁に当たり、煙を巻き上げる。

 

「厄介ねぇん!」

「っ!待て!いないぞ!」

 

 煙が晴れた先にミリオの姿がなかった。

 すると、刃羅は気配が急に移動したのを感じた。

 

「!?後ろだ!」

「「「!?」」」

「まずは遠距離持ちだよね!」

「ぎゃああああ!?」

 

 刃羅は遠距離攻撃を仕掛けたメンバーの方に振り替えりながら叫ぶ。

 一番背後にいた耳郎の後ろから全裸のミリオが出現する。

 それに切島達が目を見開いて、急いで下がる。

 

「ワープした!?」

「すり抜けるだけじゃねぇのか!?どんな強『個性』だよ!」

(どっちぃ?ワープによるすり抜けぇ?すり抜けによるワープぅ?だとしたらぁ、さっきの服の落ち方はぁ?)

 

 刃羅は走って戻りながら、ミリオの動きを観察する。

 ミリオに常闇が黒影の腕を伸ばすが、また姿が消え、直後に常闇の懐に現れて鳩尾に拳を叩き込む。その後ろにいた瀬呂がテープを放とうとするが、直後にミリオが後ろに現れて、駆け抜けざまに瀬呂と峰田の鳩尾を殴る。

 それを見ていた刃羅は、あることに気づく。

 

「梅雨!」

「ケロ?」

「投げる!壁に取り付け!」

「ケロ!?」

 

 近くにいた梅雨を抱え上げて、壁に向かって放り投げる。梅雨は訳が分からなかったが、とりあえず壁に張り付いて待機する。

 その間にも芦戸、青山、障子達を次々と鳩尾に拳を叩き込んで倒していく。刃羅は百や上鳴の後ろに現れたミリオに蛇腹剣を伸ばすが、またすり抜けてしまい今度は耳郎が殴り倒される。動き回るもあまりにも一瞬での移動に追いつけなかった。そして百や上鳴達も倒される。

 

「POWERRRRRR!!!」

 

 壁際で観戦していた相澤が呟く。

 

「通形ミリオ。俺が知る限り、最もNo.1ヒーローに近い男だ。プロも含めてな」

 

 その呟きが聞こえた轟は、相澤の横で目を見開いている。

 

「一瞬で半数が……!あれがNo.1 に最も近い男……!」

「お前、行かないのか?興味がないわけじゃないだろ?」

「俺は仮免取ってないんで……」

(丸くなりやがって……)

 

 ズボンを履いたミリオは呼吸を整えながら、緑谷達を見つめる。

 

「後は近接主体ばかりだよね!」

「何したのかさっぱり分かんねぇ……!すり抜けるだけでも強ぇのに……ワープとかもう……無敵じゃないっすか!」

「よせやい!」

 

 切島の言葉に、天喰は壁に向きながらも横目で観戦していた。

 

「無敵か……その一言で君達のレベルを推し量れる……」

「何かからくりがあると思うよ!」

「そうであるな」

 

 緑谷と刃羅が声を上げる。それに目を見開く向ける切島達。

 

「ワープの応用ですり抜けているのか、それともすり抜けの応用でワープしているのか。どちらにしても直接攻撃されているわけだから、カウンター狙いでいけばこっちも触れられる時があるはず……!」

「そうだな。それに少なくとも奴のワープは『地面に潜る』必要があるようだ」

「「「「!!」」」」

 

 刃羅の言葉に目を見開く切島達。それにミリオも少し驚いた顔をした。

 

「鳩尾を狙うのも、おそらくそれが理由と推測するのだよ。そこから考えられるのは『ワープはすり抜けの応用』であるということだね。ワープがメインならば潜る必要も、すり抜ける必要もないのだよ」

「確かに……!」

「どうやってワープしているのかはさっぱり!でも、すり抜けの応用ならワープにも制限があると思うよ!」

「なるほど!」

「全員走り回るのです!!下手に止まる方が危険なのです!!」

「おう!」

 

 刃羅の言葉と同時に走り出す緑谷達。

 

「やるよね!面白い!」

 

 ミリオは笑みを浮かべて走り出す。すると、ズボンだけを残して、地面に音もなく潜り込んだ。

 

「沈んだ!?」

「来るぞ!」

 

 フッ!とミリオは緑谷の後ろに現れる。緑谷はそれを読んでいたかのように左後ろ回し蹴りを放つ。

 

「予測した!?だが必殺!!ブラインドタッチ目つぶし!!」

 

 ミリオは緑谷の蹴りをすり抜けながら近づき、指を緑谷の目に突き刺す。反射的に緑谷は目を瞑るが衝撃はなく、その隙をついてミリオは緑谷の鳩尾に拳を叩き込んだ。

 完全に隙を突かれた緑谷は崩れ落ちてしまう。

 

「ほとんどがそうやってカウンターを画策するよね!ならば当然そいつを狩る訓練!!するさ!!」

 

 ミリオはそう言いながら、再び地面に沈む。

 緑谷がやられたことに気を取られた飯田や麗日がすぐさまミリオに倒される。そして続けざまに切島達も倒されていく。

 1分もせずに残ったのは刃羅と梅雨だけとなった。

 

「残るは君だけだよね!」

「ぬ?あそこに1人おるぞ?」

「え?」

「ケロ」

 

 ミリオは刃羅が指差した方向を見ると、壁に梅雨が張り付いていた。

 

「ん~?結構~派手に叫びながら~投げたんだけどな~?気づかなかった~?」

「気づかなかったんだよね!いやぁ失敗失敗!!アッハッハッハ!」

 

 ミリオは恥を隠すこともなく笑う。

 しかし、刃羅はその情報を必死に考える。

 

「……《すり抜ける》のが『個性』だとしたら……まさか発動中は……」

「まずは厄介そうな君を倒そうかな!」

 

 ミリオは再び地面に潜る。

 刃羅は今度は動かずに、気配を探る。

 

「? 乱刀?」

「刃羅ちゃん?」

 

 轟と梅雨が首を傾げるが、その合間にもミリオが背後から現れて刃羅に殴りかかる。

 刃羅は緑谷同様後ろ回し蹴りを放つが、もちろんすり抜ける。

 

「甘いよね!」

「You too!」

「!」

「スパイラール!!」

 

 ミリオは刃羅の鳩尾を狙って拳を伸ばしていたが、当たる直前に刃羅の腹部の服が弾ける。

 

ギュルルルルルル!!

 

 刃羅の腹部でスパイラルカッターが回転し、ミリオの指を斬りつける。すぐさまミリオはすり抜けを発動したので、指が斬り飛ぶことはなかった。

 しかし、

 

「ぶ!?」

「「「!?」」」

「ヒーーット!!」

 

 ミリオの指が斬りつけたのと同時に刃羅はミリオの顔に右フックを叩き込んだ。途中ですり抜けに変わり、ミリオは地面に潜る。

 その光景に天喰達3年や相澤は目を見開く。

 

「あの変態を殴った!?」

「凄いねー!ねぇ、見た!?ねぇ!凄いねー!」

「……本当に怖い後輩だ」

「……可能性があるなら乱刀だとは思ってたが……本当にやるとはな」

 

 刃羅はトン!トン!と飛び跳ねながら、移動してミリオを警戒する。

 

「厄介ではありますが……攻略は可能ですわね」

 

 刃羅は荒刃刃鬼を発動する。

 直後、刃羅の右側に現れたミリオは目を見開いて、攻撃を中止する。

 刃羅は腕をパルチザンに変えて、ミリオに伸ばす。パルチザンはミリオの胸をすり抜けて、再び地面に潜って少し離れた場所に現れる。

 荒刃刃鬼を解除して、刃羅はミリオと向かい合う。

 

「凄いね君!さっきのは少しヒヤッとしたんだよね!」

「やっぱり……てめぇ、『個性』発動すると目や耳が使えねぇんだな?」

「ケロ!?」

「な!?」

 

 刃羅の言葉に梅雨と轟は目を見開く。

 それにミリオは特に隠す気もない様子で笑う。

 

「アッハッハッハ!バレたかー!」

「それでよく正確に移動出来るわね。しかも部分的に『個性』を解除、発動も出来る。恐ろしい戦闘技術がいるわ。まさにNo.1足りえる実力よね」

 

 刃羅はジト目で呆れたようにミリオを見ながら、周囲を見る。

 緑谷達はまだ呻いてはいるが、起き上がろうとしていた。

 

「ふむ……このままでは負けることはなくても、勝つのも難しそうでありますな。さて、どうするでありますか?続けるならば……小官も少し気合を入れなければならないであります」

 

 目を細めて、鋭い気配を纏う刃羅。それに気づいた相澤は捕縛布を構える。

 

バアァン!!

 

『!!』 

 

 突如、爆音が響く。

 刃羅が目を向けると、そこには両手を合わせた好女がいた。どうやら今の音は好女の仕業のようだった。

 手を離した好女は肩を竦めてミリオを見る。

 

「そこまでにしようじゃないか。流石に説明会の域を超えそうだね。そう思わないかい?変態獣」

「アッハッハッハ!どんどん呼び方が酷くなってるよね!」

「乱刀。そこまでだ。それ以上は俺も止める」

「やれやれ。仕方ありまへんなぁ」

 

 相澤の言葉に刃羅は肩を竦める。

 刃羅の横に梅雨も飛び降りて、舌を首に巻き付ける。

 

「くびぃ!?」

「やりすぎよ。刃羅ちゃん」

「じ……じまっでるぅ……!」

「絞めてるのよ」

「さて!それじゃあ、ジュル!乙女達の介抱をしよう!邪魔しないでおくれよ!私の至福の時間を!ジュルル!ぐぅ!?」

「やめろ、変衝。鳩尾殴られただけだ。すぐに起きれる」

 

 顔を青くする刃羅。それでも梅雨は舌を緩めなかった。

 その横で好女がよだれを拭いながら、倒れている百達に近づくが相澤に捕縛される。

 好女が叫んでいる横で、無理矢理にでも体を起こす百達。このまま本当に介抱されるのだけは避けたかった。百は腹を押さえながら、梅雨を制止して舌を外させる。轟も緑谷達に声を掛けている。

 

 そこにミリオ達が近づいてくる。

 

「ギリギリちんちん見えないように努めたけど!!すみませんね女性陣!」

「普通にド正面にあったわ阿呆」

「アッハッハッハ!マジゴメン。とまぁ、こんな感じなんだよね」

「訳も分からずほぼ全員腹パンされただけなんですが……」

「まぁ、そこの子にはほとんど見抜かれたみたいだけど、俺の『個性』強かった?」

「すり抜けるし、ワープだし!轟みたいなハイブリッドですか!?」

 

 ミリオの言葉に力強く頷く芦戸達。

 痛みに呻いていて、刃羅の声はあまり聞こえていなかったのだ。

 

「いや1つ!」

「はーーい!!」

 

 ミリオが答えようとすると、今まで我慢していたねじれが笑顔で手を上げる。

 

「私知ってるよ『個性』!ねぇねぇ!言っていい!?言っていい!?トーカ!!」

「波動さん。今はミリオの時間だ」

「何言ってるんだいノミ。世界はいつでも乙女であるねじれの時間だよ。変態獣如きが甚だしい」

「……ひどい……!?」

 

 輝く無邪気な笑顔で答えるねじれを注意する天喰。しかし、すぐさま差別全開の好女に反撃される。その好女の言葉に項垂れる天喰。

 その横でミリオが再び前に出て、話を続ける。

 

「そう。《透過》なんだよね!君達がワープと言うあの移動は、推察・看破された通り、その応用さ!」

「どういう原理でワープを……!?」

 

 ミリオの言葉に緑谷は手でエアメモの動きをしながら質問する。

 

「全身『個性』発動すると、俺の体はあらゆるものをすり抜ける。あらゆる!すなわち地面もさ!」

「あっ……!じゃあ、あれ……潜ってたんじゃなくて、落っこちてたってこと……!?」

 

 ミリオの言葉に麗日がハッと気づく。

 それに頷くミリオ。

 

「そう!地中に落ちる!そして落下中に『個性』を解除すると、不思議なことが起こる。同じ質量のあるものが重なり合うことは出来ず、弾かれてしまうんだよね。つまり、俺は瞬時に地上に弾き出されているのさ!これがワープの原理。体の向きはポーズで角度を調整して弾かれ先を狙うことが出来る!」

「ゲームのバグみたい……」

「ブハ!言いえてミョー!」

 

 芦戸の感想に噴き出すミリオ。

 顔を顰めていた刃羅の前で、説明を反芻していた緑谷が慄く。

 

「攻撃はすべて透かせて、自由に瞬時に移動できる……!やっぱりとても強い『個性』だ……!」

「どこがじゃ」

「え?」

 

 緑谷達は刃羅を振り返る。刃羅は腕を組んで、顔を顰めていた。

 

「あらゆるものを透過する。それはつまり酸素は肺を通り抜け、光は目を通り抜け、音は耳を通り抜けるということだ。1mm先すらも見通せない闇の中を動いているということだぞ?」

『!?』

「そんな中で記憶と感覚だけで移動先を狙うやと?その上で透過する部分を選択し、攻撃するやて?ベストジーニストも真っ青なほどのコントロールが要求されとる。『強い』なんちゅう一言で終わらせられるもんちゃう」

 

 刃羅の言葉に緑谷達は目を見開いて、想像してゴクリと唾を飲む。

 

「そう。それは何も感じず、ただただ質量を持ったまま、落ちる感覚だけがあるということなんだ。わかるかな!?そんなだから、壁1つすり抜けるにしても、片足以外発動、もう片方の足を解除して接地、そして残った足を発動してすり抜け。簡単な工程にもいくつかの工程があるんだよね」

「急いでるほどミスるな。俺だったら……」

「おまけに何も見えなくなってるんじゃ動けねー……」

「そう!案の定、俺は遅れた。ビリっけつまであっという間に落っこちた。服も落ちた。この『個性』で上に行くには遅れだけは取っちゃ駄目だった!!予測!!周囲より早く!!時に欺く!!何より『予測』が必要だった!」

 

 額をトトトト!と指で叩きながら力強く話すミリオ。

 

「そしてその予測を可能とするのは経験!経験則から予測を立てる!長くなったけど、これが手合わせの理由!言葉よりも経験で伝えたかった!インターンにおいては我々はお客ではなく、1人のサイドキック!プロとして扱われるんだよね!それはとても恐ろしいよ。時には人の死にも立ち会う……!けれど怖い思いも辛い思いも全て学校じゃ手に入らない一線級の経験!俺はインターンで得た経験を力に変えて、トップを掴んだ!」

 

 ミリオは左手をギュ!と握り込んで、緑谷達に語りかける。

 

「ので!恐くてもやるべきだと思うよ!1年生!!」

 

 ミリオの演説に緑谷達は身震いをして、拍手をする。

 

「お客かぁ。確かに職場体験はそんな感じだったよな」

「危ない事はさせないようにしてたもんね」

「インターンはそうじゃないってことかぁ」

「仮免を取得した以上、プロと同格に扱われる!」

「上昇あるのみ……!」

「気合入っとりますなぁ」

「刃羅ちゃんも入れるのよ」

「……嫌」

「じゃないのよ」

「ぷぺぇ!?」

「最近梅雨ちゃん激しいね!?」

 

 飯田達が気合を入れている横で、刃羅は他人事のように見つめていた。それに梅雨がツッコむが、刃羅が拒否した瞬間、舌ビンタを浴びせる。梅雨の激しさに麗日が驚き、百がため息を吐く。

 その様子を轟は後ろから見ていた。

 

(急がねぇと……置いて行かれちまう)

 

 轟は両手を握って、更なる躍進を誓うのであった。

 

「そろそろ戻るぞ。挨拶」

『ありがとうございました!!』

「頑張ってほしいんだよね!」

「ねぇ。私達がいる意味あった?知ってる?」

「何もしなくてよかった。ミリオに感謝しよう」

「その前にそのノミの心臓を兎並みに直しなよ」

「……酷い……!?」

 

 その後、着替えてそれぞれの教室に戻る刃羅達。

 

 ミリオ達も制服に着替えて、教室に戻るために廊下を歩いていた。

 

「ミリオ……手は大丈夫なのか?」

「ああ!かすり傷なんだよね!」

「ねぇねぇ!無駄に怪我させるかと思ってたの知らなかったでしょ!」

「怪我などさせてたら、私が変態獣を懲らしめていたよ」

「いや、しかし危なかったんだよね!ちんち……」

「誰か面白い子いた!?気になるの!不思議~」

「そりゃあ、あの女の子だろう。彼女は別格だったねぇ。あの鋭い目で見つめられたい……!」

 

 好女は刃羅の鋭い目を思い出して、体を抱いてゾクゾクと震える。

 それにミリオも頷く。

 

「最後列の人間から倒していく。俺の対敵基本戦法だ。彼女はそれをすぐさま見抜いて、対策を講じてきた。しかも俺の《透過》の弱点も突いてきて、最後にはカウンターをくらった。それに最後の雰囲気……プロにも負けないほどの圧だったんだよね」

「下手したら負けてたかもねぇ。変態獣」

「アッハッハッハ!そろそろやめてほしいなぁ!それと、件の問題児君。彼も俺の初手を分析して予測を立てた行動だった。2人とも!サーが好きそうだ!!」

 

 ミリオは自身がインターンさせてもらっているプロヒーローを思い出して笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 刃羅達は寮に戻って、ソファでのんびりとしていた。

 その後ろでは爆豪が最後の務めとばかりに、イキりながらゴミ袋を広げていた。

 

「くぅー!通形先輩のビリッけつからトップってのはロマンあるよねぇ!」

「インターンが楽しみだね!」

「どうなんだろうね?インターン、1年はまだ様子見って言ってたけど」

「とりあえず相澤先生のGOサイン待ちですわね」

「んあ~……」

「刃羅ちゃんはどうなるのかしらね?」

「別に~どうでもいいかな~」

 

 刃羅はソファにもたれてダラけていた。その姿に苦笑する百達。

 刃羅はインターンで得られそうな経験は、すでにエスパデスとして活動していた頃に得ていると考えていた。なので、正直インターンに行く利点も魅力も感じていなかったのだ。それにまだカンパネロ達の目論見を推測しきれていないかったので、下手に襲撃される危険性を減らしたいというのもあった。

 ステインが依頼を出していたなど思いついてさえいないのであった。

 

 

 

 

 相澤達は1年生のインターンについて会議を行っていた。

 

「どうしますか?今の所、敵連合には大きな動きはないと言われていますが……」

「仮免取れたからと言って、今すぐインターンを始める必要もないのでは?正直、2年生になった春からでも早いくらいですし」

「そうだね。少し急ぎ過ぎな気もするよ。まだ敵連合を始めとするヴィラン全体の動向が見通せない状況では危険が大きい」

 

 相澤の言葉に13号とオールマイトは否定的な意見を述べる。

 それにミッドナイトが声を上げる。

 

「でも、元々リスク0なんてありえないわよ?」

「しかし、ただでさえ雄英の風当たりは未だに強い。ここでまたとなったら元も子もないぞ。爆豪のケンカ騒動では神野区でのケアが不十分であることも露呈した。それに乱刀の問題もある。それはA組全員に牙が向く可能性がある」

 

 スナイプも慎重論を掲げる。

 特に刃羅とステインの仲間との問題は未だに教師内では議論が尽きない状態だった。

 

「確かに彼女の仮免試験での言動は素晴らしかったですが……」

「それはステインの野郎にまで届いてるわけじゃねぇしな」

 

 セメントスとマイクも腕を組んで唸る。

 

「寮や学校内ではそこまで逃げ出すような素振りは見せてないんだろ?」

「ええ。しかし、それは襲われたことに対する安全が校外では確保されてないからだと思いますが……」

「う~ん」

 

 校長も腕を組んで悩まし気に唸る。

 そこにブラドも声を上げる。

 

「それにインターンに行かせるにしても、2,3年と同じというわけにもいくまい。安全性を確保しておかねば、事は雄英だけではなくなってしまう」

「そうだな……」

「出来ればB組にもせっかくの仮免取得を無駄にさせたくはないですな。校長。あの子達とて林間合宿での経験を糧にしています」

「そうだね……。乱刀さんだけ行かせないというのも教育としては差別さ。けど、だからといって誰も行かさないとなると、乱刀さんが責められかねない」

 

 B組担任のブラドの言葉に、根津や他の教員達も中々答えを出せずにいる。

 そこに相澤が声を上げる。

 

「乱刀についてですが……流女将から、ある連絡を受けています」

「どんな?」

「乱刀のインターン受け入れを強く希望しているプロヒーローがいるそうです」

「誰なんだい?」

「ナイト・ヒーロー『ヴァルキリ』。BIG4の1人、変衝のインターン先でもあります」

 

 告げられた名前に目を見開く一同。

 ナイト・ヒーロー『ヴァルキリ』。エクレーヌと同期で、ヒーロービルボードチャートJP:25位の女性ヒーローである。

 

「なんで彼女が?」

「ヴァルキリはマイスタードのはとこでもあるそうです。職場体験の時期はチームアップによる仕事で受け入れが出来なかったそうで、流女将と後輩のエクレーヌから話を聞いて、受け入れたいと。乱刀の事情も把握しています」

「……なるほどね」

「乱刀のインターンが可能なときは出来る限り、流女将とエクレーヌもチームアップによる護衛という形で協力をすることも検討してるようです」

「……受ケ入レ体制ハ整エテイルト」 

「ヴァルキリはインターン受け入れ実績も多く、そこに流女将も参加されるならば一概に『危険』だけで行かせないのも、難しいところでしょう。なので、インターンの受け入れ実績が多いところに限り許可する、というのはどうでしょうか?」

 

 相澤の提案に再び思案する根津達。

 オールマイトは眉間に深く皺を寄せながら、声を上げる。

 

「……やはり私は反対です。あの事件からまだ2か月も経っていない。まだ時期尚早かと」

「僕もです」

 

 オールマイトの意見に13号も頷く。

 

「けど、だからと言って保護してばかりでは、それこそ強いヒーローが育たないわよ?いずれ危険に身を投じる以上、逆に今だからこそ子供達の気も引き締まるんじゃない?」

「そうだな。それにプロヒーローだけでなく、必要なら我ら教員もバックアップに動けばいい」

「それに待ったからって、いい方向に向かうどうかわからねぇぜ?なら、ここでヒーローと学校との連携体制をある程度作っておくのも大事だぜ?3年間インターン行かせられませんとか、それこそ本末転倒じゃん?」

「子供達ノ頑張リヲ否定シタクハナイデスネ」

 

 ミッドナイト、ブラド、マイク、エクトプラズムは賛成する。

 残りの教師陣は『好ましくはないが、ミッドナイト達の意見も無視できない。イレイザーヘッドの提案ならば、まだ学校もバックアップしやすいだろう』との意見でまとまった。

 

 それに根津も頷き、相澤の方針で実施することになった。

 

「乱刀に関してはもう1人、生徒を監督役で受け入れてもらおうと思います。今の乱刀なら、他のクラスメイトを巻き込んでまで騒動を起こさないでしょう。……あいつもクラスメイトには期待しているようですし」

 

 刃羅に関してはちゃんと対策を考えることを改めて伝えて、インターン実施に備える相澤。

 

 こうしてA組(轟、爆豪以外)はインターンに向けて動くことになった。

 

 


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