ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#52 初日

 あの後もヴァルキリと刃羅の人格変化に、振り回されながらもなんとか無事に乗り越えた百。

 

 そして帰寮する前に流れ女将が、

 

「あまり間を開けたくないので、さっそく明日から始めましょうね」

「承知した。待っているぞ!」

「……めんど~」

「よろしくお願いします」

 

 

 ということで、翌日。

 

 今日も流女将の迎えで、ヴァルキリの事務所に向かう。

 到着して事務所に入り、コスチュームに着替えて、昨日の会議室に入るとそこには、

 

「ああ!!なんて素晴らしいコスチュームなんだ!!体のラインがはっきりとしていて、脚のむっちり感が何とも言えないじゃないか!!八百万さんは素肌で、乱刀さんがタイツで相対的なのが尚いい!!何よりもその豊満な胸!!ああ、今すぐ埋まりたい!いや埋まらせてもらお~う!!」

 

 好女が目を見開いて興奮し、鼻息荒くダイブしてきた。

 それに刃羅が鉄鞭を素早く振り、好女の首に絡ませて、引っ張り絞める。

 

「くぴぃ!?」

「ふん!」

 

 刃羅は両手で柄を握って好女を振り回し、ヴァルキリに向かって投げ飛ばす。

 ヴァルキリは飛んできた好女の顔を裏拳で殴り、横に吹き飛ばして壁に叩きつける。

 

「ぷべ!?」

「少しは自重しろ愚か者が。いきなり先輩としての威厳を汚すな」

「もう燃え尽きとるでな」

「そうか。ならば仕方がない」

「……どこからツッコめばいいのでしょうか……」

 

 好女、刃羅、ヴァルキリの言動に頭を抱える百。

 そこに近づく人影。

 

「全てに対応していたら、貴女が壊れちゃうわよ。適当にほっときなさい。あ、エクレーヌさんにもセクハラされたら言ってね」

「おいおい」

「……事実です」

「まぁ、アラジンにもやらかしてるしな」

「何にも言えないですよね」

 

 エクレーヌ事務所の一同だった。

 流女将も手で顔を覆っているが、特に口出しをしなかった。

 

「変態2人とか大丈夫なのです?」

「乱刀さんは黙っててください」

「……むぅ」

「酷いじゃないか。優しく受け止めてほしかったものだね」

 

 百にピシャリと注意されて、顔を顰めて押し黙る刃羅。

 そこに好女がケロリと起き上がり、肩を竦める。

 

 ちなみに好女のコスチュームは水色の騎士服を思わせるもので、黒いヴェネチアンマスクに肩、肘、膝、胸に鎧を思わせるプロテクター、そして赤いマントを身に着けている。

 

 全くダメージを受けていない様子に百は目を見開く。

 その様子を見て、ヴァルキリが説明を行う。

 

「変衝……ヒーロー名『オトメキシ』の『個性』は《衝撃変化》。自分の体にかかる、または放つ衝撃を増幅・反射・消失することが出来る。先ほどの攻撃や壁に当たるくらいではダメージなど一切ない」

「オトメキシ……」

 

 刃羅は好女の『個性』への話よりも、ヒーロー名の方が気になったようだ。

 呆れの視線で好女を見るが、好女はその瞬間バッ!と両腕を広げて、刃羅の視線を受け止めるようなリアクションをする。

 

「奴の事は適当で構わん。さて、アラジン、クリエティ。今日はパトロールがメインだ。最近、この周囲もヴィラングループの小競り合いが増加していてな。パトロールの重要性が高くなっている。午前と夕方以降の2回行う」

「はい」

「お前達2人は我と行動してもらう。午前は流女将が、夕方はエクレーヌが護衛に就く。オトメキシも共に行動してもらうが、余計なことはするな。帰らせるぞ」

「流石に場は弁えますよ」

「期待しないでおく」

「手厳しいな!!」

 

 ヴァルキリと好女のやり取りに不安しか覚えない刃羅と百。

 

 そしてさっそくヴァルキリ、好女、刃羅、百、流女将で外に出る。エクレーヌ達や他のサイドキック達は別グループで行動している。

 

ガシャ!ガシャ!ガシャ!

 

 街中を鎧騎士が金属音を響かせて闊歩する。

 その後ろを刃羅達が歩く。

 

「……威圧感が物凄いのである」

「確かにパトロールとしてはこれ以上ないコスチュームですね。なのに兜を脱ぐと、あんな風になるなんて……」

 

 百は少し悲しそうにヴァルキリの後姿を見ながら、昨日の泣いている様子を思い出していた。

 

 ちなみにあの後、食事をすることになり、ヴァルキリはコスチュームを脱いだ私服で中華店に行った。そこでは物凄く嬉しそうにニッコニコ!しながら、刃羅が幸せそうにラーメンを食べている姿を眺めていた。

 少女のように泣き、喜ぶ姿と、今の鎧を纏っている厳格な姿とのギャップがまだ受け入れられない百だった。

 

「気にしたってしょうがねぇべさ」

「らん……アラジンに言われても説得力皆無ですわ」

「アイヤ!?」

「一番変わってるのがアラジンですからね」

 

 流女将も苦笑して、百の言葉に同意する。

 そこに好女が刃羅達に声を掛ける。

 

「私も君達の体育祭の話を聞かせてもらったよ。まさかアラジンとヴァルキリが親戚だったのは驚いたよ。体育祭の後、妙にヴァルキリが君を気にしていたのは知ってたけどね。林間合宿のニュースの時は、今にも飛び出しそうだったよ」

 

 好女は肩を竦めながら、ヴァルキリを手で示す。

 話はヴァルキリにも聞こえていたようで、刃羅の反応が気になるのか、どこかソワソワしているように見える。

 それに刃羅は呆れた顔で見つめて、特に反応は示さなかった。

 ヴァルキリは明らかにガックリと落ち込むが、そこに子供達が駆け寄ってきて、シャキン!と姿勢を正して対応する。

 

「子供や若者には人気がありますからね。コスチュームや『個性』もあって」

「まぁ、ヒーロー向きの『個性』だよね」

「確かヴァルキリの『個性』は……」

「……《剣製》じゃの」

 

 流女将はヴァルキリと子供達をニコニコと見守りながら話し、好女もそれに頷く。

 ヴァルキリの『個性』に首を傾げる百に、刃羅が渋々それに答える。

 

 ヴァルキリの《剣製》は触れたモノから『剣の刃』を作り出す。生物には効かないが、風や炎などでも作り出すことが出来る。そして腰に吊られている柄に『剣の刃』を装着することで、武器として振るうことも出来る。

 まさしく騎士を象徴する『個性』である。

 そのため、子供や若い男性からの支持率が高いのである。

 

 その時、

 

「きゃあ!?」

「ひったくりよー!!」

 

『!!』

 

 悲鳴と女性の呼び声に目を鋭くして、声がした方向を見る刃羅達。

 反対車線の歩道に倒れている女性がおり、その先には鞄を持って走り出す4人の男達がいた。

 

 それを見た瞬間、刃羅が道路に飛び出す。

 

「っ!?待て!」

「アラジン!」

 

 ヴァルキリや好女が声を掛けるが、刃羅はなんと通行する車の上を飛び跳ねて、一気に反対車線に移動して男達を追いかける。

 

「何て動きを!?」

 

 好女が目を見開いて驚く。ヴァルキリは既に走り出しており、それに好女や百達も慌てて走り出す。

 

 男達は突如道路を飛び越えてきた刃羅に驚く。

 

「な、なんだぁ!?」

「ヒーローか!?」

「マジかよ!?」

「くっそ!この野郎!」

 

 男の1人が足を止めて、ポケットからナイフを取り出して構える。

 刃羅は2本の鉄鞭を振るい、1本はナイフを持つ手を叩いてナイフを落とさせ、もう1本は鞄を持っている男の首に鞭を巻きつける。

 

「だっ!?」

「うぇ!?」

 

 そして一気に引っ張り、鞄を持っている男を引き倒す。

 

「ぐぅ!?」

「ちっくしょ!ぶごぉ!?」

 

 刃羅はその隙に男達に迫り、ナイフを拾おうとしゃがんだ男の顎に蹴りを叩き込む。続いて男を蹴った足に刃鱗を展開し、地面に落ちているナイフの刃を踏み折る。蹴られた男は仰向けに倒れて、そのまま起き上がらなかった。

 刃羅は次に引き倒した男の腹に、鞭を持ったまま右拳を叩き込み、鞄を回収する。そして左手指2本をレイピアに変えて、男の顔の上に切っ先を向ける。

 

「ひぃ!?」

「大人しくしとくのである」

「そいつらを放せ!」

「後ろを見てから言うのである」

「「え?」」

 

 残った仲間の男の1人が腕を棘に変えて、飛び掛かろうとするが、刃羅の言葉に男達は後ろを向く。

 そこには走り迫る鎧騎士がいた。

 

「ヴァ!?」

「ヴァルキリぃ!?」

「大人しくせよ!抵抗は罪を重くするぞ!」

 

 ヴァルキリの姿に慌てて、逃げ道を探そうとする男達。

 

「ど、どうする!?」

「逃げるしかねぇだろ!!」

「逃がしませんわ!」

「「うわぁ!?」」

 

 百が腕を振って、網を創造して男達に飛ばす。男達は網に絡まり、地面に倒れる。もがけばもがくほど網が絡まっていき、ヴァルキリ達に抑え込まれる。

 刃羅は鞄を被害者の元に運ぶ。

 

「怪我はないアルか?」

「ありがとうございます!はい。大丈夫です」

「良かったのであります。では、気を付けるのであります」

「はい!本当にありがとうございました!」

 

 刃羅はぺこぺこと頭を下げる女性に、ひらひらと手を振りながら背を向けて、ヴァルキリ達の元に歩み寄る。

 すると、野次馬の中から「あ!」と声が上がる。

 

「あの子!雄英の子だ!」

「え!?……あ!?あっちの子も体育祭中継で見たことあるぞ!」

「あの子、ウワバミとCM出てた子じゃん」

「ヴァルキリのサイドキックになったの!?」

「え!?まだ1年生でしょ!?すごーい!!」

「頑張れよ!!」

 

 一気に周囲に広まり、刃羅と百の事が知られていく。

 それに刃羅と百はむず痒い思いをする。

 

「やはり雄英は凄いですね」

「今年は色々あったかんなぁ」

「アラジン。見事の一言ではあるが、せめて一言言ってくれ。サポートも出来ん」

「善処しますよって」

 

 ヴァルキリの言葉に肩を竦める刃羅。

 それにヴァルキリは少し唸るが、迅速さが重要だったのも事実なので、それ以上何も言わなかった。

 その後、警察に引き渡して、パトロールを再開する。以降は特に問題もなく、午前のパトロールを終える。

 

 事務所に帰り、昼食となった。

 

 刃羅は出前のラーメン。百も出前の天ざる蕎麦を選んだ。

 百はこれが初めての出前であり、物凄く興味津々であった。

 

「……これが出前ですか」

「ズズ~……ンマンマ……百って卒業したらどうする気なのだ?」

「事務所を設立するつもりですが……流石に1年目では早い気もしてきています」

「ズズ~……ンマンマ……働き始めたら、出前とか当たり前ちゃうのん?」

 

 刃羅はラーメンをすすりながら、流女将やエクレーヌに目を向ける。

 それに同じく出前麺を食べていた流女将達が、少し思い出すように少し上を見ながら答える。

 

「事務所の方針によりますねぇ。私は出前も取りますが、ヒーローによっては料理人を雇う者もいますよ。雄英のランチラッシュのような料理好きのサイドキックもいますからね」

「弁当だったり、外食も多いね。パトロール中に食べさせて頂く事も多いしね」

「助かりますよね~。申し訳ないですけど」

「まぁ、人気があるっていうか支持されてるヒーローだからこそだけどな」

「私達はエクレーヌさんのおこぼれみたいなものだからね」

「……ありがたい」

 

 その言葉に刃羅達は頷いて、刃羅は百を見る。

 

「ズズ~……ンマンマ……ならぁ百ちゃんの実家がぁ用意しそうだねぇ」

「そこまでは……」

「ズズ~……ンマンマ……入寮時の段ボールピラミッドを思い出しなはれ」

「う……」

 

 刃羅はジト目で百を見つめながら麺をすする。それに百は何も反論出来ずに顔を赤くする。

 その内容に流女将達が首を傾げる。

 刃羅は麺をすすりながら、入寮日の事を話す。

 

「……お金持ちは凄いわね」

「サイドキックになったら、事務所乗っ取りそうだな」

「……お金は怖い」

 

 内容にローテリア達は呆れるしかなかった。

 それに流女将やエクレーヌは苦笑するが、特に何も言わなかった。

 しかし、そこに好女がぶっ込んでくる。

 

「乱刀さんはどうするんだい?君の実力ならサイドキックも引手数多だろうし、自分の事務所を出しても成功しそうだけど」

 

 百やローテリア、ミラミラは顔や体が強張るのを感じる。

 しかし、刃羅は何でもないように答える。

 

「自分の事務所になんざ興味ねぇな。適当にサイドキックでもするだろうよ」

「ふむ。もったいなくも感じるねぇ。私の事務所でもいいかい!?」

「死ね」

「これ以上ない断り方だね!」

 

 好女の勧誘を切り捨てる刃羅。

 それに百達は小さくホッとするが、同時に少し悲しくもなる。

 今の刃羅の言葉は、ヒーローとして活動する気がないという意味でもあるからだ。事情を知らない者が聞けば、ただ欲がない、または甘く考えているだけのどちらかに捉えられるだろう。

 しかし、百達からすれば違う意味となる。

 

「……ふむ。やはり何かきっかけというか、今までの価値観を変える出来事がないと厳しそうですねぇ」

「しかし……それほどの出来事となると、間違いなく大事になるでしょうね。前回のように裏で動く、というわけにはいかないでしょう」

「確かに。……ヴァルキリでも厳しいかな」

「やはり遅かったということでしょう。両親の死から、ここまで時間が経っていると親戚であろうと難しいでしょうね」

 

 エクレーヌと流女将は刃羅を見ながら、小声で会話する。

 刃羅を受け入れる事が出来ると分かった時のヴァルキリの様子を思い出すと、どうしても2人の中を取り持ちたいと思ってしまう。

 それだけ刃羅の事が判明するまでのヴァルキリは、常にピリピリしていた。兜を脱いでも眉間に皺が寄っていて、笑顔などほとんど見なかった。

 

「まぁ、もうしばらく様子を見ましょう」

「そうですね」

 

 流女将の言葉にエクレーヌが頷く。

 まずは刃羅がステインと決別すること。それが大事であると認識する2人だった。

 

 1時間ほどすると、ヴァルキリが戻ってくる。

 夕方までは事務所待機だった。

 

「流女将、エクレーヌ。少しいいだろうか?」

 

 ヴァルキリに呼ばれて、流女将とエクレーヌはヴァルキリの執務室に連れていかれる。

 

「で?どうしたんだい?」

「先ほどサー・ナイトアイからチームアップの要請があった。死穢八斎會という指定敵団体の調査と検挙だそうだ」

「ふむ。……それだけなら行けそうだが」

「他に何かあるのですね?」

 

 流女将の言葉にヴァルキリが頷く。

 

「……敵連合との接触が確認されている。決裂したらしいがな」

「……それは」

「……難しいところだね」

「話を聞いている限りでは、もう敵連合がアラジンを標的する可能性は低いと考えている。ステインが脱走し、オール・フォー・ワンと敵対した以上、ここで仲間にする理由はないだろう」

「そうだね」

 

 ヴァルキリの推測にエクレーヌが同意する。

 しかし流女将が眉間に皺を寄せて、問題点を上げる。

 

「しかし、決裂したことで逆に闘争が起こる可能性もある、ということですか」

「それがナイトアイの作戦をきっかけにされる可能性があるということで?」

「もちろんナイトアイの作戦次第ではあるだろうがな。林間合宿、USJ事件を考えると馬鹿に出来ん」

「……確かに」

 

 林間合宿の場所をどうやって突き止めたかも未だに不明であり、USJにもどうやって時間を突き止めたのかも判明していない。

 黒霧の存在により、どのタイミングでも襲撃が可能なため、一度でも接触が確認されている以上リスクがある。

 

「……今、一番注意すべきはステインとその仲間です。あまり危険から離しても、刃羅さんの意識を変えることは出来ません」

「……そうだが……」

「イレイザーヘッドに相談するのもありなのでは?」

「それはナイトアイの作戦を聞いてからでもいいでしょう。オールマイトの元サイドキックだった彼とは交流もありますが、無用意な作戦を立てる人ではないですからね。刃羅さんの実力や判断力は意外と重宝されるかもしれません」

「……我々がしっかり守ればいい、か」

「そういうことです。それに……刃羅さんが参加するならば、もれなく私達も付いてきますよ?」

 

 流女将の言葉にエクレーヌが頷き、ヴァルキリは腕を組んで唸る。

 とりあえずヴァルキリは流女将の言葉通り、ナイトアイの作戦を聞いてから判断しようと決めて、しばし保留とした。

 

 その後は通常通りのインターン通り、事務作業や活動における細かい作業について教えていく。

 そして、夕暮れになり、再びパトロールに出動する。

 

 今度は流女将の代わりにエクレーヌが護衛に就く。

 

「夜はやはり人目に付きにくくなる。それはヴィラン同士でも同じだ」

「厄介なことに、一番捕らえるべき連中はそういう諍いを隠れ蓑にするのさ。どうしたって私達ヒーローはまずは目に映る犯罪を収めないといけないからね。そこを利用されてしまう」

「ヒーロー飽和社会。それは必ずしも社会全てに目と手が届くというわけではない。……だからこそステインや敵連合のような者達が生まれるのだろうな。有象無象。それは残念ながら事実かもしれん」

 

 ヴァルキリは己をヒーローとは思えていない。

 なので、刃羅ほどではないが、ステインの主張にも同意する思いもあるのだ。

 だからこそ、今はがむしゃらに手を伸ばす。そう決めたのである。

 

 その時、少し先のビルで爆発が起こる。

 

「っ!?行くぞ!」

 

 刃羅達は走り出す。

 

 すると、ビルからゴロツキ風の男達とスーツを着たヤクザ風の男達が飛び出してくる。

 

「分かりやすい奴らじゃの!」

「エクレーヌは反対側に出て、連中が逃げ出さないように!オトメキシは反対車線側!クリエティはここから!連中を逃がすな!」

「了解!」

「イエッサ!」

「はい!」

 

 ヴァルキリの指示に3人はすぐさま動く。

 そしてヴァルキリは刃羅に顔を向ける。

 

「我らはあの中に飛び込む!行けるな!?」

「問題ない」

「行くぞ!」

 

 ヴァルキリは柄の1つを掴み、柄を振る。すると風が渦巻き、剣を形成する。それを振り下ろし、鎌鼬のように斬撃を飛ばしてヴィラン集団の近くに当たる。

 それに集団もヴァルキリ達に気づく。

 

「げ!?もう来やがった!」

「しかもヴァルキリかよ!?」

 

 刃羅は左手で鉄鞭を掴み、ゴロツキ風の男達に向かって振る。

 

「あっちはあっしが受け持つよい!」

「無理はするなよ!」

「無茶を言うでねぇだ」

 

 刃羅はスピードを上げて、ゴロツキ達に飛び掛かる。男達は6人いた。

 

「あぁん!?ガキじゃねぇか!舐めやがってぇ!!やっちまえ!」

 

 真ん中にいたサングラスをかけているゴロツキが頭のようで、周囲に指示を出す。

 それにすぐさま反応して、腕を大砲に変えたり、ナイフや銃を構える男達。

 すると、六本腕の巨漢の男が飛び出してくる。

 

 刃羅は鞭を戻して、そのまま走り迫る。

 

「このガキがぁ!」

「ボキャブラリーないでござるな!」

 

 掴みかかってきた六本腕に、刃羅は一気に懐に飛び込んで鳩尾に右肘を叩き込む。

 

「ごぇ!?」

「はぁ!!」

 

 くの字に体を曲げて、口から胃液を吐き出す男の腕を、刃羅はすかさず抱えて背負い投げる。

 背中から叩きつけられた男は仰向けに倒れる。刃羅は投げた勢いを利用して飛び上がり、空中で前転して、両足を揃えて再び男の鳩尾に踏み込む。

 

「ぐぼぉあ!?」

 

 男は再び胃液を吐き出す。

 刃羅はすぐさま駆け出して、残ったゴロツキ達に迫る。

 

「撃てぇ!!」

 

 サングラスの男が指示を出し、大砲や銃を発砲する。

 

「アラジン!?」

 

 スーツ連中と戦っていたヴァルキリが発砲音に振り返る。

 好女や野次馬も慌て、中には撃たれる姿を思い浮かべて目を瞑る者もいる。

 

ギャィン!ギィン!カァン!ギン!

 

 刃羅が両腕を高速で振ると、大砲の玉が2つに割れ、銃弾が弾かれたように地面に叩きつけられる。

 

「「「「は?」」」」

 

「下らん。たかが大砲と銃弾如きで、余がやられるものか」

 

 ズシャ!ズシャ!と刃羅は荒刃刃鬼を展開して、右腕をロングソード、左手指をナイフに変えて、男達を見据える。

 刃羅はニイイィと口を吊り上げる。

 

「好きなだけ撃つがよい。全て斬り落とす!!」

 

「「「ひぃ!?」」」

 

 刃羅の形相にゴロツキ達はビビッて後ずさりながら銃を構える。

 直後、両腕を鎖鎌に変えて飛ばし、2つの銃を破壊する。すかさず駆け出して、腕を戻しながら大砲の男に迫る。

 

「く、来るなぁ!」

 

 大砲を構えて叫ぶ。

 刃羅は右腕をパルチザンに変えて、大砲を弾いて肩に突き刺す。

 

「ぎゃああ!」

 

 腕を戻して、男の腹に蹴りを叩き込む。男はくの字に吹き飛んで地面を転がり倒れる。

 そして残りの男達も殴り倒す。

 残ったのはサングラスの男となった。

 

 ヴァルキリの方も残り1人だった。

 

「なんと苛烈な……」

「あの変態獣の時とはまた違うね」

 

 ヴァルキリと好女は刃羅の戦いに呆れるやら感心するやらであった。

 

 サングラスの男は歯軋りをして、刃羅を睨む。

 

「こ、このガキがぁ……!ぶっ潰したるわぁ!!」

 

 男は叫ぶと、全身がロボットのような姿に変わる。

 それに刃羅は少しだけ目を見開く。 

 

「ほう。面白い『個性』ではないか」

「余裕かゴラァ!!」

「余裕に決まっている。撃て、クリエティ」

 

ドガァン!!

 

 男が右腕を刃羅に向けるが、刃羅は涼しい顔で立っている。

 直後、爆発音が響き、男はそれに目を向けると、目の前に大砲の玉が迫っていた。

 

「は?……ごぶぉ!?」

 

 男は一瞬唖然として、装甲を凹まして砲弾に吹き飛ばされる。

 ヴァルキリや好女、野次馬達が目を向けると、そこには大砲の横に立つ百がいた。

 刃羅は不敵に笑って、百に目を向ける。

 

「良きサポートであったぞ。我が参謀」

「あくまで念のためでしたが……」

「問題なかろうよ。さて、この屑共の拘束は任せるぞ」

「はい!」

 

 刃羅は振り返り、ヴァルキリが相手をしていた連中の残りに目を向ける。

 残っているのは顔に傷がある坊主のスーツ男で、完全に腰が引けている。

 荒刃刃鬼を解除した刃羅は、ヴァルキリの横に歩み寄る。ヴァルキリは左手に風の剣、右手にコンクリートの剣を携えていた。

 

「で?どうするの?」

「……うむ。もはや勝敗は決まっている!大人しくせよ!」

「うるせええ!!ここまでされて引き下がれるかよぉ!!」

 

 男はポケットから注射器を取り出して、自分の首に突き刺す。

 プシュ!と音がした直後、男の様子が変化する。

 

「グガオオオオ!!」

「あれは!?」

「ブースト薬なのです!!離れるのです!!」

「エクレーヌ!!オトメキシ!!避難範囲を広げろ!」

 

 男は目を血走らせて叫ぶ。

 その様子に百が目を見開く。

 刃羅とヴァルキリがすぐさま声を上げて、指示を出しながら後ろに下がる。

 

 直後に男の周囲の地面が盛り上がり、槍のように尖って刃羅達に襲い掛かる。

 

「地面操作系『個性』か!」

「妾が斬り込みます!!続きなさいませ!!」

「アラジン!?」

 

 刃羅が飛び出して、独楽のように高速で回転しながら突き進む。

 それにヴァルキリが慌てながらも背後に就く。

 

 土の槍は刃羅に襲い掛かるも、突き刺さる前に砕かれる。ヴァルキリにも襲い掛かるが、風の剣や腕の盾で防ぐ。

 

「来んじゃねえええ!!」

 

 男は錯乱したように叫びながら、刃羅の目の地面を壁のように盛り上げる。

 

「っ!アラジン!!」

「問題ありませんわ!!」

 

 刃羅はヴァルキリの声に応えながら両腕を上げて、直角に壁に突き刺さる。

 

「エリセ・ランサ!!」

 

 そして刃羅は土の壁を掘り進んで、突き破る。

 男は目を見開いて固まる。

 回転を止めた刃羅は素早く男の足元に飛び込んで、真上に向かって後ろ回し蹴りを放ち、男の顎を蹴り上げる。

 男は仰け反って、僅かに宙に浮く。

 

「ごぉ!?」

「頼むで。ヴァルキリ」

 

 刃羅が開けた穴からヴァルキリが、両手の剣を振り上げて飛び出してくる。

 

「本当に!!厄介な子だ!!」

 

 そして男の両肩に剣を打ち付けて、男を地面に叩きつける。

 そこに更に刃羅が払い蹴りを振り抜き、男はビルの壁にまで吹き飛んで壁にぶつかり、気を失い白目になってうつ伏せに倒れる。

 

 男が気絶したのを確認したヴァルキリは、男達を一か所に集めて、百に縄や手錠を作らせて捕縛する。

 

「やれやれ。初日から大活躍だね。アラジン、クリエティ」

「先輩として鼻が高いね」

「あら?らんと……アラジン?どうしました?」

 

 エクレーヌと好女が男達の監視を務める。

 百も同じく監視をしていたが、刃羅が地面にしゃがんでいるのを見つけて近づき、声を掛ける。

 

「確かぁ……この辺にぃ叩きつけたはずぅ……あったぁ」

 

 刃羅は地面からあるものを見つけて、拾い上げる。それを百も覗き込む。

 それは小さな針が付いた筒のようなものだった。筒は割れており、中身は空だった。

 

「これは……?」

「奴らがショットしてバレットの1つデース!」

「よく見えてましたわね」

「はっきりとは見えてねぇ。けど、形が違って見えてな。やっぱ、あれじゃ割れちまってるか」

「どうした?」

 

 刃羅が舌打ちすると、ヴァルキリが近づいてきた。

 刃羅はヴァルキリに渡して、説明する。

 

「まだあるかもしれんな。奴らの拳銃にも残っているかもしれん」

「ほな、そこは任せますよって」

「もちろんだ。丁度警官も来たから、お前達はエクレーヌ達と事務所に戻ってくれ。流女将も戻ったら、今日は解散だ。次はクリエティに連絡する」

「分かりました」

「へ~い」

「2人とも。今日は素晴らしい動きだった。またよろしく頼む」

 

 ヴァルキリの言葉に2人は頷いて、男達を警察に引き渡しているエクレーヌに駆け寄っていく。

 それを見送ったヴァルキリは色々と思いが頭に過ぎるが、今はこの弾丸を警察に知らせることを優先した。

 

 その後、ヴァルキリも事務所に戻り、全員で報告書を書き上げる。

 再び出前で晩御飯を食べて、刃羅達は寮に戻る。

 

 こうして刃羅達のインターン初日は終了した。

 

 


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