ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#53 会合

 インターン初回を終えて、翌日。

 

 梅雨達も昨日帰ってきており、本日はA組全員揃っていた。

 そして教室に入ると、

 

「刃羅!ヤオモモ!2人ともニュースに出てたよ!」

「梅雨ちゃん、麗日ぁすごいよー!!名前出てる!!」

「切島ぁ!!ネットニュースに、ヒーロー名!載ってるぞスゲェ!!」

 

 耳郎が刃羅と百に、芦戸が梅雨と麗日に、上鳴が切島にスマホのネットニュースを見せつける。

 そこには、

 

『衝撃デビュー!!アラジン&クリエティ!! インターン初日から敵団体を2人で易々と鎮圧!!』

『リューキュウ事務所に新たな相棒!! お手柄!大事件も速やかに鎮圧!実力は本物!』

『新米サイドキック!レッドライオット爆誕!! 初日から市民を背負い、単独敵を鎮圧!!』

 

 と記されていた。

 

 それを他の者達も盛り上がり、その後ろでは爆豪が歯軋りをして悔しがっていた。

 

「あぁ~……野次馬が多かったしのぉ」

「それに乱刀さんはかなり暴れましたものね」

「どこから撮ったのかしら?」

「うへぁ~!本当だぁ!嬉しい!」

「なんか恥ずいな」

 

 刃羅はうんざりとし、百はその理由に呆れる。梅雨は現場を思い出して、どこから撮影されていたのか考え、麗日が喜んでいる。切島も頬を掻いて、恥ずかしがる。

 

 その後は普通に授業を受ける。 

 数日は特に連絡もなく、通常通りに過ごしていた。

 

 数日後の夜。

 いつも通り1階のソファに女子達で集まっていると、百のスマホが鳴る。

 

「あら?乱刀さん、ヴァルキリからです」

「ズズ~……ンマンマ……ほえ?」

 

 梅雨の横でカップ麺を食べていた刃羅は、きょとんとして顔を向ける。

 それに梅雨達も百に目を向ける。

 百は内容を読んで、刃羅に顔を向ける。

 

「明日、朝に流女将が迎えに来てくださるそうですわ。コスチュームはいらないそうです」

「ズズ~……ンマンマ……はぁ?」

「ケロ?お茶子ちゃん。私達も明日じゃなかったかしら?」

「え?……あ!?ホントだ!?」

 

 百の言葉に刃羅は訝しみ、梅雨もそれに首を傾げて麗日に声を掛ける。麗日は携帯を開いて、その内容に驚く。

 その事に芦戸達も首を傾げる。

 

「どういうこと?4人とも同じってこと?」

「緑谷さんと切島さんも同様のようです。麗日さん達も流女将が車に乗せてくれるそうですわ」

「6人も?」

「どうしたんだろ?」

「とりあえずデクくんにメールしとく!」

「ケロ。じゃあ私は切島ちゃんにしておくわ」

 

 何やら通常のインターンとは違う流れに、芦戸達も変にドキドキしてきてしまう。

 その後、緑谷と切島も1階に降りてくる。

 

「連絡ありがとう」

「サンキュな!」

「ううん。大丈夫!」

「けど、なんだろうな?」

「うん……ナイトアイの事務所に集まれってことだから、ナイトアイが関係してるんだろうけど……」

「ケロ?そう言えばリューキュウも、ナイトアイのチームアップ要請があるって言ってたわ」

 

 緑谷と梅雨の言葉に、切島と百が眉を顰める。

 

「ってことは、俺達もか?けど、ファットガムは何にも言ってなかったな」

「ヴァルキリもですね」

「……ナイトアイは何を調べとるんか緑谷は知っとるんか?」

 

 刃羅が緑谷に目を向けて尋ねる。

 

「え?う、うん。死穢八斎會っていう指定敵団体を調査してたけど……」

「指定敵団体だべか……。それ関係で何かしら一気に動く必要性が出たっちゅうことだべな」

「なんだろうね?」

「まぁ、明日になれば分かりますよって」

「それもそうだな」

「じゃあ、今日は早めに休みましょう」

「そうだね!」

「葉隠は関係ないでしょ~」

「皆の邪魔をしないことも大事だよ!」

「確かにな!」

 

 結論はもちろん出るわけもなく、とりあえず明日に備えて休むことにした刃羅達だった。

 

 

 

 翌朝、刃羅達は制服で流女将が用意した車に乗って、ナイトアイの事務所に向かう。

 

「流女将は今日、何するかをご存知ですか?」

「いえ、私もまだ詳しくは聞いておりません。あくまでも私は刃羅さんの護衛ですしね。まぁ、話し合いには参加しますが」

「なるほど」

「気になんなぁ」

「ふわぁ~」

「刃羅ちゃんは相変わらずね」

「おかげで落ち着くよ」

「ですわね」

 

 40分ほど車に揺られて、ビルの前で車が止まる。

 車を降りると、ビルの前にビッグ4の姿があった。

 

「お!緑谷くん!車かよー!ズリー!」

「わ」

「……」

「ああ!乙女がこんなにも!」

「す、すいません!けど、これには色々ありまして……!」

「おはようございます!!」

「ふわぁ~」

「刃羅ちゃん、しっかりして頂戴」

 

 ビッグ4と共にビルに入り、上階の会議室に足を踏み入れる。

 そこには多くのヒーロー達が顔を揃えていた。

 その中には相澤やグラントリノもいた。

 

「グラントリノに相澤先生……!?」

「おお!坊主じゃねぇか。それに……」

 

 グラントリノは緑谷を見て笑みを浮かべて、そして刃羅に目を移す。

 刃羅はその視線に特に反応せずに、気だるげに立っている。

 

「あ、グラントリノは乱刀さんのこと……」

「まぁ、簡単にな。安心しな。話す気はない」

「ありがとうございます」

 

 そこにガシャガシャと音を響かせて、ヴァルキリとエクレーヌが刃羅に近づく。

 

「おはよう。アラジン、クリエティ」

「おはようございますわ」

「ども」

「すまないな。突然の連絡となった」

「いえ、大丈夫です」

「それにしても何なのだ?これは。リューキュウにファットガムを始め、トップからマイナーまでヒーローをこんなにも。しかも地域もバラバラではないか」

「すぐに話があるよ」

 

 刃羅は会議室の面々を見渡して、ヴァルキリに尋ねる。

 それにはエクレーヌが答え、それと同時に眼鏡をかけたスーツの男が会議室に現れる。

 

 サー・ナイトアイ。

 

 オールマイトの元サイドキックで、今回の発起人である。

 

「お待たせしました。それでは始めましょう」

 

 その言葉にゾロゾロとテーブルに座っていく。

 刃羅達はインターン先の合わせて分かれて座る。

 刃羅達はナイトアイの正面に座る。左手には相澤とグラントリノ、右手にはリューキュウ、ねじれ、梅雨に麗日が座る。

 

 そして会議が始まる。

 

 きっかけはある強盗団の事故だった。その強盗団は現金を奪って、逃走中に死穢八斎會と接触。車は炎上などしていたのに負傷者は0。強盗団の怪我がきれいに治っており、逮捕も出来たことで警察は問題視しなかったが、現金が消えていることが発覚した。

 それによりナイトアイ達は調査を開始。すると死穢八斎會が金と他の指定敵団体を集めてたり、会合する姿が目撃されていた。

 

 なんと敵連合との接触も確認されている。しかし、どうやら決裂したようで衝突があったことが確認されている。

 

 そのためグラントリノが招集されたそうだ。

 

「さらに八斎會は認可されていない薬をシノギの1つにしていたことがあります。それ故にファットガムに協力を要請しました」

 

 その言葉と同時にファットガムが立ち上がる。

 

「どーも!ファットガムです!よろしくね!」

「「丸くてかわいい」」

「お、アメちゃんいるか?」

 

 ファットガムの自己紹介に、梅雨と麗日が感想を言う。それにファットガムがポケットから飴玉を取り出した。

 

「で、俺は昔はそういうんをゴリゴリ、ぶっ潰しとりました!そんで先日のレッドライオットのデビュー戦!!今まで見たことがない種類の薬が環に打ち込まれた!!」

 

 その言葉と同時にファットガムは飴玉を握り潰す。

 

「『個性』を壊す【薬】」

 

 その言葉にざわつく出席者達。

 刃羅は目を鋭くして、ヴァルキリに目を向ける。

 

「……先日、捕まえた連中のあの弾丸は、それかいな?」

「……ああ」

 

 ヴァルキリは刃羅の言葉に頷く。

 撃たれた環は翌朝には回復したそうで、それに周囲は少しホッとする。

 

「回復すんなら安心だな。致命傷にならねぇ」

 

 褐色肌のドレッドヘアのヒーロー、ロックロックが声を上げる。

 それに周囲も頷いていると、

 

「どこが安心なんじゃ」

「ああ?」

「ら、乱刀さん……!?」

 

 刃羅の声が響き、ヒーロー達が刃羅に注目する。

 百は慌てるが、刃羅は変わらずに腕を組んで呆れたように、声を上げたロックロックを見ていた。

 

「なんだと?実際回復してるんだ。問題ねぇだろうが」

「それを八斎會が使っているならば、な」

「なぁ?」

「分からないのかね?一晩とはいえ『個性』を壊す薬が入った弾丸を、そこらへんのチンピラや敵グループが所持しているのだよ。製造元はすでに量産できる体制にある。つまり……八斎會では完全に破壊する薬が出来ていてもおかしくはない」

『っ!?』

 

 刃羅の言葉にほとんどのヒーローが目を見開く。もちろん緑谷達も。

 ナイトアイとファットガムは刃羅の言葉に頷いて、話を進める。

 

「そういうこっちゃ。そして、その事件で切島君が身を挺して弾いたおかげで、中身が入った1発が手に入ったんや!」

「俺が!?」

 

 ファットガムの言葉に切島が驚く。

 ただどういうことかはよく分かってはいない。

 

「そうや!!お手柄やで!けど……その中身はむっちゃ気色悪いもんやった」

 

 ファットガムは誇らしく頷くが、すぐに顔を真顔にして周囲を見渡す。

 そして次の言葉で全員の背筋に怖気が走る。

 

「人の細胞や血ぃが入っとった」

『!?』

「えええ……!?」

「別世界のお話のよう……」

「そんな……!?」

 

 そこにリューキュウが声を上げる。

 

「つまり……その効果は人由来……『個性』ってこと?」

「そうだとして、それが八斎會が元であるという根拠は?」

 

 ヴァルキリも声を上げる。

 それにファットガムが話を続ける。

 

「残念ながら、切島君が捕らえた男のは八斎會が捌いとった証拠はないけど、その中間売買組織の1つと八斎會は交流があった」

「少し根拠には弱いのでは?」

 

 流女将も流石に眉を顰める。

 それにナイトアイも頷いて、説明を引き継ぐ。

 

「先日リューキュウ、そしてヴァルキリ達が対峙した敵グループの抗争。その片方のグループの元締めが、それぞれ交流がある中間売買組織だった」

「最近多発している組織的犯行の多くは、八斎會に繋げようと思えば繋げるのか」

「けど、まだこじつけだねぇ。疑惑の範囲を抜け出さないよ」

 

 ヒーローの1人の言葉に、エクレーヌが証拠不十分だと異議を出す。

 それに数名が同意するように頷く。

 

「若頭、治崎の『個性』は《オーバーホール》。対象の分解と修復が可能です。分解……一度『壊し』『治す』力。それに『個性』を破壊する弾」

 

 ナイトアイは隣のミリオと緑谷に目を向ける。

 2人は顔を真っ青にして、顔を俯かせている。

 

「治崎には娘がいる。出生届もなく詳細は不明ですが、この2人が遭遇した時には手足に夥しく包帯が巻かれていたそうです」

 

 その言葉に、刃羅から一瞬殺気が噴き出す。

 それに全員がバッ!と顔を向けるが、刃羅は顔を俯かせて黙っていた。

 

「アラジン……」

「だ、大丈夫ですか?」

「……確証はあるんだろうなぁ?ナイトアイ。あぁ?」

「お、おい。どうしたんだよ……!?」

 

 ヴァルキリと百が声を掛けるが、刃羅はそれを無視してナイトアイに話しかける。

 その様子に切島も慌てるが、他の者達もナイトアイに顔を向ける。

 

「答えよ。その娘の体が弾丸の材料であるという確証があって、ここに集めたのだろう!?」

『!?』

 

 刃羅の怒りの言葉に、梅雨、麗日、切島もようやく理解をした。

 百は刃羅と同じく気づいたが、流石に問い詰める勇気は出なかった。信じたくなかったからだ。

 

「……確証はない」

「……じゃあ、どうするのだ?」

 

 ナイトアイの言葉にヴァルキリが声を上げる。

 

「実際に売買しているのかも分かりません。しかし、先ほど言った通り、この動きが完全に『個性』を壊すモノの完成だとしたら?悪事のアイデアはいくらでも湧いて出る。しかし……少しでも疑いがあるなら、逆にここで動かなければ、それこそ手遅れになる」

 

 ナイトアイの言葉にロックロックが、緑谷達を見て舌打ちする。

 

「こいつらが保護しておけば一発解決だったんじゃねぇの?」

「それは私のミスだ。2人を責めないで頂きたい。その時はまだ娘の存在すらも知らなかった。それでも2人はその娘を救おうと行動したのです」

 

 ナイトアイのフォローに緑谷とミリオは立ち上がる。

 

「「今度こそ必ずエリちゃんを……保護する!!」」

「それが私達の目的になります」

 

 2人の力強い言葉にナイトアイが頷きながら、今回の作戦の目的を宣言する。

 

 それに誰も異論を唱えることはない。

 

「ケッ、ガキがイキるのもいいけどよ。推測通りならその娘は隠しておきたかった核なんだろ?それがどういうわけか出て、ヒーローに目撃されたわけだ」

 

 ロックロックが僅かに顔を顰めながら、問題点を上げる。

 

「素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない。どこにいるのか確定してんのか?」

「確かに。そこはどうなの?ナイトアイ」

 

 リューキュウも同意して、ナイトアイに尋ねる。

 するとナイトアイの後ろのモニターに映された地図にマーカーが出現する。

 

「八斎會と接点のある組織・グループ、および八斎會の持つ土地。可能な限り洗い出し、リストアップしました!皆さんには各自その箇所を探って頂き、拠点となりえるポイントを探って頂きたい!!」

 

 ナイトアイの言葉に、数名のヒーローが納得したように頷く。

 彼らはリストアップされた土地に詳しいヒーローだった。

 

「オールマイトの元サイドキックのわりに随分慎重やな!!回りくどいわ!!こうしてる間にもエリちゃん言う子、泣いてるかもしれへんのやぞ!!」

「我々はオールマイトではない。だからこそ分析と予測を重ね、助けられる可能性を100%に近づけなければ」

 

 ファットガムが怒鳴るが、ナイトアイは冷静に反論する。

 そこに相澤が手を上げる。

 

「どういう性能か存じませんが、サー・ナイトアイ。未来を《予知》できるなら俺達の行く末を見ればいいじゃないですか?このままでは少々……合理性に欠ける」

「それは……できない」

「?」

 

 ナイトアイの言葉に全員が首を捻る。

 

「私の予知性能ですが、一度発動すると24時間のインターバルを要する。つまり1日1時間1人しか見ることが出来ない」

 

 ナイトアイの『個性』《予知》はフラッシュバックのように一コマ一コマは脳裏に映される。発動してから1時間、相手の生涯を記録したフィルムのようなものが見られる。

 ただし、そのフィルムは対象となった者の行動と周辺状況しか映さない。

 

 その言葉に相澤は更に首を傾げる。

 

「いや、それでも十分色々と分かるでしょう。出来ないとはどういうことなんですか?」

 

 その言葉にナイトアイは少し黙り込んで、手で眼鏡を覆う。

 

「例えば、その人物に近い将来。死。ただ無慈悲な死が待っていたら、どうします?」

 

 ナイトアイは思い詰めたように言葉を捻り出す。

 その言葉にヒーロー達は訝しむ。

 

(……死が待っているならぁ回避できるようにぃすればいいよねぇ?……ん?あれぇ?じゃあ、なんでぇオールマイトはぁ引退することになったのぉ?神野の事件もぉ防げたよねぇ……まさかぁ……)

 

 刃羅はナイトアイの《予知》における最悪の欠点に気づいてしまう。

  

 そこにロックロックが声を上げる。

 

「はぁ!?死だって情報だろう!?そうならねぇ為の対策が講じられるぜ!?」

「占いとは違う。回避できる確証はない!」

 

 ロックロックの言葉を強く否定するナイトアイの言葉に、刃羅は自分の推測が事実であると理解する。

 

「ナイトアイ!よく分かんねぇな!いいぜ!俺を見てやろ!いくらでも見てやるよ!」

 

ガァン!!

 

 ロックロックが更に強気に言葉を発した直後、会議室に音が響く。

 全員が目を向けると刃羅が机に拳を叩きつけて、机を凹ませていた。

 

「っ!またお前かよ……!?」

「いい加減、黙れ」

「あぁ?んだとぉ?」

「今のナイトアイの言葉で何も気づかぬ愚か者がイキるな!!!」

『!!?』

 

 刃羅がロックロックに向かって怒鳴る。

 その気迫に全員が目を見開いて固まる。

 ロックロックは顔を顰める。

 

「……てめぇは分かったのかよ……?」

「ナイトアイは誰のサイドキックか知っておるか?」

「オールマイトだろ?馬鹿にすんのも……!?」

 

「じゃあ、そのオールマイトは、何故引退するほどの怪我をしたのよ?《予知》が出来る相棒がいたのに」

 

『!?』

 

 刃羅の言葉に再びロックロックは目を見開いて固まる。

 刃羅は顔を顰めたまま、ナイトアイに目を向ける。

 

「今まで死を見た者は、どんな策を講じても必ず死んだ。違うか?そして、その中にオールマイトがいたのだろう?」

「……」

「お前がサイドキックをやめたのは、怪我をして、死を知り、神野のことも知ったからではないか?オールマイトを引き留めたのだろう?しかし、やはりオールマイトは止まらなかった」

「……」

 

 ナイトアイは苦し気に顔を顰めて俯く。

 その様子に全員が刃羅の言葉が正しいと理解する。

 

「そうなると下手に《予知》をして、失敗や死の未来を見るのは出来る限り避けたいのであるな?何故なら、ここにいる者達は《予知》されること前提の未来を歩むことになるからである。君はその未来を見る。その未来が失敗と死だったら?作戦そのものが破綻する可能性が出るであるな」

「……その通りだ」

 

 ナイトアイは絞り出すように、刃羅の言葉を肯定する。

 

「何度も何度も試した。しかし、結局何も変わらなかった。変わっても長くて数分。フィルムが追加されただけで、帳尻合わせのように元の流れに戻る。分岐したことは……ない」

「……そんな……!?」

 

 ナイトアイの言葉に緑谷は何やら絶望的な表情を浮かべる。

 刃羅はその様子に、緑谷もオールマイトの死が《予知》されていることを知っているのだろうと推測する。

 

「私は思った。『もしかしたら私が見ることで未来が確定するのではないか?』と。だから私は必要最低限しか使わないことに決めた」

 

 ナイトアイの推測を否定出来る者は誰もいない。

 死が訪れると分かっており、それを阻止するために全力で動いても、結局死んでしまう。

 その絶望は計り知れない。

 

「理由は理解したわ。その懸念も十分に考えるべきもの。未だに否定することが出来ないなら、確かに不用意に《予知》は私達に使うべきではないわ」

「……そやな」

 

 リューキュウが流れを戻すように声を上げる。ファットガムも頷いて、椅子に座る。

 

「……アラジン。お前も座れ」

「……」

 

 ヴァルキリの呼びかけに、刃羅は大人しく座る。

 

「とりあえず、やりましょう。最重要なのは『困っている女の子がいる』ってこと。それが判明している以上、ヒーローとして動かないという選択肢はないわ」

 

 リューキュウの言葉に、顔を強張らせながらも頷く一同。

 

 その後、資料が配られて一時解散となる。

 

 刃羅や緑谷達は1階のテーブルがあるスペースに集まっていた。

 そして、そこで緑谷とミリオから少女との遭遇した時の話を聞く。

 話を聞いた切島や麗日は、その時の緑谷達の悔しさを想像して、顔を顰める。

 刃羅は椅子に腕を組んで目を瞑っている。

 その様子を梅雨と百は心配そうに見つめている。

 

 そこにエレベーターから相澤、流女将、エクレーヌが現れる。

 

「……通夜でもしてんのか」

「まぁ、緑谷君達は仕方がないでしょう」

「あそこで悔しがらないヒーローはいないだろうね」

「先生!」

「あ、学外ではイレイザーヘッドで通せ」

 

 緑谷達の所にゆっくりと近づく相澤達。

 

「まぁ、しかし……今日は君達のインターン中止を提言するつもりだったんだがなぁ……」

『!!』

 

 相澤の言葉に切島達は目を見開く。

 切島が慌てて立ち上がる。

 

「ええ!?今更何で!!」

「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。そうなると話が変わってくる」

 

 相澤の言葉に悔し気に顔を顰める緑谷。

 その様子に相澤は後頭部を掻きながら、話を続ける。

 

「ただなぁ……緑谷、乱刀。お前達はまだ俺の信頼を取り戻せてないんだよなぁ」

「っ!」

「……」

 

 緑谷はハッ!とし、刃羅は僅かに目を開いて相澤を見る。

 切島も入寮時の相澤の言葉を思い出す。

 梅雨や百は刃羅の首にあるチョーカーを見る。

 

「けど……ここで止めたらお前達はまた飛び出してしまうと、俺は確信してしまった」

 

 相澤は緑谷と刃羅を見る。

 

「俺達が見ておく。するなら正規の活動をしよう。緑谷、乱刀」

「そうですね」

「そのための私達だからね」

 

 流女将とエクレーヌも相澤の言葉に頷く。

 

 相澤は緑谷の頭にポン!と手を置く。

 

「気休めを言う。掴み損ねたその手は、エリちゃんにとって必ずしも絶望だったとは限らない。前を向いて行こう」

「……はい!!」

 

 相澤の言葉に緑谷は力強く頷く。

 その様子を見て、環もミリオに声を掛ける。

 

「ミリオ……顔を上げてくれ」

「ねぇ、私知ってるの。ねぇ、通形。後悔して落ち込んでてもね、仕方がないんだよ!知ってた!?」

「悪いが私は獣を慰める趣味はないよ。取り戻したいなら、ちゃんと自分でやるんだね」

「……ああ!!」

 

 環達の言葉にミリオも頷いて顔を上げる。

 

「……とは言ってもだ」

「?」

「プロと同等か、それ以上の実力を持つビッグ4と……乱刀はともかく、緑谷やお前達の役割は薄いと思う。八百万、蛙吹、麗日、切島、お前達は自分の意志でここにいるわけじゃない。どうしたい?」

 

 相澤の言葉に麗日が立ち上がる。

 

「先っ……イレイザーヘッド!あんな話を聞かされて、やっぱやめときましょとはいきません……!」

「イレイザーがダメと言わないなら……お手伝いさせてほしいわ。小さな女の子を傷つけるなんて許せないもの。それに……刃羅ちゃんを放っておくのも出来ないわ」

「その通りです!助けを求める声に応える!それこそがヒーローですわ!貸せる力がある以上、貸さないわけにはいきません!それに私は乱刀さんの監督役です!乱刀さんが行くのに、私が行かないわけにはいきません!」

「俺らの力が少しでもその子の為になんのなら!!やるぜ!!イレイザーヘッド!!」

「分かってるなら良い。……乱刀、お前もいいな?」

 

 相澤は切島達の言葉に頷いて、刃羅に目を向ける。

 刃羅は俯いたまま、声を上げる。

 

「聞くまでもないでしょう?イレイザーヘッド。助けを求めることすら諦めかけている少女を目の前に、私が我慢出来ると思ってるの?」

「……」

「刃羅ちゃん……」

「もし私を止める気なら、その瞬間私はこのムカつく発信機を斬り落として、治崎を殺しに行くわ」

 

 ゾワァ!と再び刃羅から殺気が噴き出す。

 

『っ……!』

「上の連中に伝えときなさい。不甲斐ない結果を出そうものなら、私は容赦なく治崎を殺す。敵連合や逮捕なんて知ったことじゃないわ」

 

 ギロリと鋭い視線を相澤に向ける刃羅。

 それに相澤は顔を顰めるが、止めようもない状況であることにため息を吐く。

 

 そこにヴァルキリ、リューキュウ、ファットガムが顔を出す。

 

「……なんや随分と殺気立っとるな」

「……アラジン」

「……確かに今回の話は、あの子には荷が重いかしら」

 

 相澤は3人に目を向ける。

 

「とりあえず、1年生も作戦に参加します。もちろんあくまでもエリちゃん救出が目的で、それ以上は手を出させません」

「了解や」

「うむ」

「分かってるわ」

「基本的にはインターンの事務所で動きます。流女将とエクレーヌは引き続き、乱刀をお願いします。敵連合は来なくても、他の連中が来るかもしれないので」

「はい」

「もちろん」

「それについては心配せんでよろしおす」

「なに?」

 

 刃羅の言葉に相澤達は訝しむ。

 刃羅は百に手を差し出す。

 

「スマホ、貸してほしいのです」

「え?」

 

 刃羅の言葉に、百は戸惑い相澤に目を向ける。

 相澤は少し考え込んで、小さく頷く。

 それを確認した百は、スマホを取り出して刃羅に手渡す。

 受け取った刃羅はスマホを操作すると、それをテーブルの上に置く。

 

プルルルル!プルルルル!

 

「電話?しかもスピーカー?」

「しばらく黙ってろや」

「え?」

 

『ハイ。ドナタ様デショウカ?』

 

「「「「!?」」」」

 

 切島が首を傾げると、刃羅が指示を出す、それに周囲が首を傾げた直後、スマホから変声機を通した声が響く。

 それに相澤達は目を見開くが、刃羅はそれを無視して通話を始める。

 

「この前はいきなりやってくれたでありますな」

『……刃羅サンデスカ?』

「そうやで」

『……何用デ?オ支払イ頂ケルノデ?』

「もうそれはいいよ~。お師匠にでも頼まれたんでしょ~?私を雄英に~戻しやすいようにって~とこかな~?」

『……ヨク分カリマシタネ』

 

 会話の内容に目を見開く相澤達。

 

「じゃあ、もう私に手を出す気はないわね?」

『ソウデスネ。当分ハ静観スル予定デシタ。ヴァルキリノ所ニ行カレテイルヨウデスシ』

「まぁの。ところで死穢八斎會の情報はないかのぅ?ちょっとその辺でひと悶着ありそうでの」

『……八斎會デスカ』

「テメェとは交流ねぇだろ?けど、情報くらいは集めてんだろ?『個性』を壊す薬とかよ」

『エエ。アレハ少々厄介デスカラネ。確カニアノ薬ハ八斎會ガ出所ノヨウデス』

「中身は?治崎の娘だべか?」

『娘?血縁関係マデハ知リマセンガ、少女ヲ利用シテイルノハ掴ンデイマス。緑谷君デシタカ?彼ガ接触シタノモ知ッテイマス』

「その後ぉ、逃げたとかぁ知らないぃ?」

『……多分逃ゲテハイナイデショウ。本拠地ノ地下ニ隠シ施設ガアリマス。マダソコニイルハズデス』

 

 ドクトラの情報に頷く刃羅。

 

「おおきに。近々暴れるさかい。駒がおるなら逃がしや」

『分カリマシタ』

「で!気づいてるだろうけど、この会話聞かれてるから!この番号消しといてね!じゃ!」

『……ハァ。仕返シニシテハ悪質デスヨ。デハ、頑張ッテクダサイ』

 

ブツッ!ツー!ツー!

 

 通話が終わり、刃羅はスマホを手に取って、番号を消去して百に返す。

 

「センキュー」

「……今のは誰ですか?」

「知り合いアル。情報通だし、武器も扱てるからネ。お得意さんアル」

 

 刃羅のあっけらかんとした態度に、百は唖然とするしかなかった。

 刃羅は相澤達に顔を向ける。

 

「ほれ、何をしとるんじゃ?早うナイトアイに伝えに行かぬか。それともう警戒態勢はいらんじゃろ?狙われることはないと分かったしの」

「……お前な……」

「なんか聞いとる話と違わへんか?」

 

 パタパタと手を振る刃羅に、相澤は手で顔を覆い、流女将とエクレーヌも頭を抱える。

 それにファットガムが首を傾げ、ミリオ達やリューキュウも頷くが、相澤達は何も言えなかった。

 エクレーヌは盛大にため息を吐いて、相澤達に顔を向ける。

 

「はぁ~……とりあえず、ナイトアイ達に伝えてくるよ。重要な情報なのは間違いないしね」

「すまない」

「お願いします」

「アラジンについては任せるよ。違う問題が発生したようだしね」

 

 エクレーヌは苦笑しながら、エレベーターに向かう。

 それを見送ったリューキュウは、相澤達に顔を向ける。

 

「説明はしてもらえるわよね?流石に今の電話は学生だからと見逃せるものではないわよ」

「……」

「あっしが話すかよい?」

「刃羅ちゃんは黙ってて」

 

 相澤が顔を顰め、どう話すべきか考えていると、刃羅が声を上げる。

 それに梅雨が真顔で押さえつけるが、刃羅は肩を竦めるだけだった。

 

「我の事だろう?我が話すのが筋だ。別に問題視されるなら、ここから去るだけだ」

「刃羅ちゃん!!」

「乱刀さん!!」

 

 梅雨と百が叫びながら立ち上がる。

 その様子にリューキュウ達はかなりの厄介事のようだと察する。

 

「どうするのだ?イレイザーヘッド。我はアラジンの力は借りるべきだと思うが?」

「ヴァルキリ……」

「ここでアラジンが離脱すると、それこそ敵が増えるぞ。情報源はともかく、今の情報が重要であるのは疑いようがない」

 

 ヴァルキリの言葉に相澤は盛大に顔を顰めて唸る。

 

「とりあえず話聞かせんかい?切島君は知っとるんか?」

「え!?い、いや……そのぉ……」

 

 ファットガムは眉を顰めながら、切島に詰め寄る。

 切島は冷や汗を流して、しどろもどろになる。

 相澤はため息を吐いて、リューキュウ達に顔を向ける。

 

「他言無用でお願いします」

 

 そして相澤は刃羅の事を説明する。

 両親の事、オール・フォー・ワンの事、ステインとの関係と神野区以降の事。

 

 その話を聞いたリューキュウ達は目を見開いて、刃羅を見る。

 

「……それは一概に問題とは言えないわねぇ」

「せやな」

「問題はステインとの関係よね」

「アラジンは雄英に入り、仮免を取得出来ている。我らとて時には命を奪ってしまうこともあるし、救えない命もある。悪の元にいたから悪であると決めつけることは出来ぬ。それではヴィランの子供は永遠に救われぬではないか。その者達を見捨ててヒーローなど名乗れるものか」

「ヴァルキリ……」 

 

 ヴァルキリは腕を組んで、力強く語る。

 リューキュウはヴァルキリやエクレーヌとは年齢が近いので、交流が多かった。なのでヴァルキリが苦悩していたことも知っていた。

 刃羅は肩を竦める。

 

「問題にしたけりゃすればいい。俺っちは別にヒーローでなくてもいい。ヴィランと呼びたけりゃ呼べ。糾弾される覚悟なんざとっくに出来てっかんな」

 

 刃羅の迷いがない瞳に、緑谷達は改めて刃羅の覚悟の強さを思い知る。

 

「エリって子は間違いなく、私以上の苦しみを味わっている。それを救うためなら、血を浴びることも流すことも厭わないわ。だから……絶対に救ける」

 

 自分に誓うように言葉を紡ぐ刃羅に、緑谷達も力強く頷く。

 

 こうして刃羅達はエリ救出に向けて、準備を始めるのだった。

 

 


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