ステインの弟子は多重“刃”格で雄英生   作:岡の夢部

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#6 襲撃その2

 刃羅はヴィラン達を鋭く睨みつける。

 

「い、言うじゃねぇか……!ガキが!」

「強がったって結果は変わんねぇぞ?」

 

 ヴィラン達は冷や汗を流しながら強がりを言う。

 嫌な予感がするが、数では間違いなくヴィラン達が上。

 焦ることはないと落ち着かせる。

 

「ふむ。流石に殺すのは問題があるか。まだここを追い出されるわけにはいかん」

「あ?」

「しかし……そうだな」

 

 独り言をつぶやく刃羅を訝しげに見るヴィラン達。

 すると、フッと刃羅の姿が掻き消える。

 

「は?」

「ぎゃあああ!?」

「あぎぃ!?」

「ひゃああああ!?」

「「「なぁ!?」」」

「手足の1本くらい斬り飛ばすくらいで十分だろう」

 

 刃羅の一番近くにいたヴィランがポカンとする。

 すると、後ろから悲鳴が上がる。振り向くと3人のヴィランが手や足が1本ずつ傍に転がせて、痛みに悶えていた。

 それに他のヴィラン達は目を見開く。

 刃羅は涼しい顔で次の標的を決めていく。

 今度は右手を刀に変える。

 

「ほれ、呆けておる場合か」

「ひぃ!?ぎゃあ!?」

「む?すまぬ。両腕を斬り落としてしもうた。まぁ、肘から先じゃ。許してたもれ」

 

 一瞬ですぐ近くのヴィランに近づき、両肘から先を斬り落とす。

 刃羅は軽く謝罪して、次の相手に向かう。

 次々とヴィラン達を斬り倒して行く刃羅。

 

「おらぁ!!気合入れて来いやぁ!!」

「な、なんだよ!?こいつは!?」

「話がちげぇ!?」

 

 指をナイフに変えて斬り刻む刃羅。

 狂気染みた笑みを浮かべながら戦う姿にヴィラン達は完全に及び腰になっている。

 

「……斬」

「いぎゃああ!?足ぃ!?足がぁ!!」

「きひひひぃ!!斬るよぉ!!」

「ぎゃあ!」

 

 大剣を生み出して両膝から下を斬り飛ばし、足を鎌にして蹴り上げるように腕を斬り落とす刃羅。

 刃羅が腕や脚を振るたびに、悲鳴と血と手足が飛び回る異常な光景。

 他にクラスメイトやヒーローがいたら、間違いなく刃羅を攻撃するだろう。

 10分もしないうちにヴィラン達は床に倒れて、手足を押さえて悶えている。

 

「これでここは終わりやな。さて、どないしょ?まぁ、これなら他の場所の連中もそない問題やないやろなぁ」

 

 仮にもヒーロー志望者。戦闘訓練を見ている限り、ある程度は戦闘に心得もありそうだった。

 

「ほな、イレイザー・ヘッドのところに加勢するべきやな。その途中で誰かおったら助けたればええか」

 

 刃羅は火災エリアから出ると、隣の山岳エリアで放電を確認した。

 

「かなりの放電でござるな。上鳴氏か?行ってみるべきでござるか!」

 

 ダン!と山岳エリアに向かって走り出す刃羅。

 周囲に注意しながら鎖鎌を引っ掛けて、山肌を登る。

 登り切って、中を確認する。

 

「……3人、って人質取られてるじゃないのぉん。周り倒して油断したのかしらぁん?でも捕まってるの上鳴ちゃんじゃなぁい。なんで放電しないのぉん?……さっきの放電で使い切ったぁん?」

 

 他には百と耳郎。完全に手が出せなくなっている。

 

「……2人では『個性』を使う前に上鳴君殺されちゃうか~。仕方ないな~」

 

 刃羅は右手の親指を握り込む。小指側から脇差程度の小刀が生えてくる。

 目を鋭く細める刃羅。

 

「……参る」

 

 脚に力を込めて、ギリギリまで身を低くしながら足音を消しながら一気に駆けだす刃羅。

 そして、上鳴を捕まえているヴィランの右斜め後ろに移動すると、一気に飛び上がる。

 

「しぃ!!」

「!?ぐぅあ!?」

「「!!」」

「ウェイ?」

 

 百達が気づく直前にヴィランの右腕を肘から斬り落とす。

 痛みで上鳴を離した瞬間、刃羅は上鳴を思いっきり蹴り飛ばす。

 

「ウェイ!?」

「ふぅ!!」

「ぎゃああ!?」

 

 蹴り飛ばした勢いで、左足を斬りつける。斬り飛ばすまではいかなかった。

 ヴィランは後ろに倒れて、痛みに悶える。

 

「乱刀さん!」

「助かったよ!」

「構わぬ。ところで……」

「あぁ、うん。電気の使い過ぎでこうなるみたい」

「知りませんでしたわ。油断もしてしまいました」

「ならば急いでこやつを連れて離れるでござる。どうやら各ゾーンに振り分けられているようでござる。中央広場を避けて通路に隠れてるでござる」

「刃羅は?」

「某はこのまま中央広場に向かうでござる」

 

 そう言ってすぐさま移動を開始する刃羅。

 百の呼び止めるような声が聞こえたが、それを無視する。

 中央広場が視界に入ると、刃羅は違和感を覚える。

 

「戦いが止んでいる?……まさか!」

 

 刃羅は走る速度を上げる。

 すると、脳が露出しているような巨漢が相澤を抑え込んでいた。

 その横には首謀者と思われる男もいた。

 

「ちぃ!!」

「あ?」

「ひゃあ!!」

 

 刃羅は首謀者を無視して左足を大鎌にし、相澤を抑え込んでいる巨漢の両肘を斬り落とす。

 すぐに足を戻して、相澤を掴んで飛び下がる。

 

「なんだ?お前」

「てめぇが敵連合の頭か?……随分と馬鹿みてぇな行動に出るじゃねぇか」

「あぁん?」

「死柄木弔」

 

 相澤を抱えて首謀者を睨む刃羅。

 首謀者は首元をガリガリと掻きむしりながら、刃羅を睨み返す。

 そこに黒い靄が現れる。

 

「黒霧。13号はやったのか?」

「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

「……は?」

 

 死柄木と黒霧の言葉に刃羅は助けが近いことを悟る。

 その時、さっき腕を斬り落とした巨漢の腕が再生していくのを目撃する。

 

(マジかよ!?あの怪力のくせして再生!?くそが!後ろにもまだ雑魚がいやがる!)

 

「脳無。あれを殺せ」

 

 すると死柄木が刃羅を指差す。

 それに脳無と呼ばれた巨漢は刃羅に顔を向ける。

 

「ちぃ!先公!ちょっくら投げっぞ!」

 

 ポイッ!と少し離れた場所に相澤を投げ捨てると、大剣を作り出して斬りかかる。

 

「……突!」

 

 しかし、その大剣を両腕で掴まれて止められる。

 

「!!ぐぅ!?」

 

 掴まれたまま振り回される刃羅。叩きつけられそうになった瞬間、大剣を解除して回避する。

 体勢を整えようとした瞬間、脳無が殴りかかってくる。

 空中だったが、脚を槍に変えて無理矢理回避する。

 

「身体能力も高いですわねぇ!!鬱陶しいですわ!」

 

 脚を戻して着地する刃羅。

 すぐさま脳無が右腕を振り上げ、刃羅の頭を目掛けてパンチを繰り出す。

 

(っ!武器は間に合わない!)

 

「乱刀さん!!」

 

 遠くで緑谷の声が聞こえたが、それに答えることなく、刃羅は体を捻りながら拳をギリギリで躱す。

 そのまま後回し蹴りの如く脚を真上に蹴り上げて、脳無の喉元に蹴りを放つ。

 それに目を見開く緑谷達に死柄木。

 

「っ!?こいつ!?」

 

 刃羅は手応えの無さに目を見開く。

 ギロリと何事もなかったように刃羅を睨む脳無。

 そして刃羅の脇腹に脳無の左拳が突き刺さった。

 

「ごぉ!」

 

 ガァン!と殴り飛ばされる刃羅。

 数回地面でバウンドする。

 

「終わらせろ。脳無」

 

 死柄木の命令をすぐさま実行に移す脳無。

 刃羅に向けて走り出す。

 

「くそっ!」

「緑谷ちゃん!」

「おい!?やめろ緑谷!!」

 

 池に隠れていた緑谷は飛び出そうとしたが、梅雨達に止められる。

 その間にも倒れ伏している刃羅に脳無が迫る。

 

「やめろぉ!!」

 

 緑谷が叫ぶが、脳無は止まらない。

 死柄木はこれから起こることを想像してにやける。

 脳無が刃羅を踏みつぶそうとした瞬間、

 

「……淘汰」

 

 ゾワァ!!と緑谷達や死柄木達に寒気が襲い掛かる。

 フッと刃羅の姿が消えたと思ったら、いつの間にか脳無の後ろに立っている。

 直後、ズバン!と脳無の手足が斬り飛ばされる。

 

 目を見開いて固まる死柄木達に刃羅は顔を向ける。

 その顔は無表情だったが、眼が恐ろしく鋭く、冷たい光が宿っていた。

 

「ら、乱刀……さん?」

「な、な、なんだよあいつぅ……」

「刃羅ちゃん?」

 

 すると死柄木が再び首元をガリガリと掻きむしり始める。

 

「はー……はぁーー。ゲームオーバーだ。今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

 

 死柄木は上を見上げながら話す。

 それに緑谷達は訝しげに見つめる。

 

「何を考えているんだ?……こいつら」

 

 緑谷は死柄木達の行動が理解できなかった。

 その時、刃羅が死柄木に向けて走り始める。

 

「!!」

「とっとと起きろ。脳無」

 

 刃羅の後ろに脳無が腕を振り被って現れる。

 刃羅は後ろに目を向ける。

 脳無の拳が刃羅の背中に叩き込まれ、刃羅は地面に叩きつけられて倒れ伏す。

 

「っ!!」

「はぁー……帰る前に平和の象徴の矜持を少しでも……」

 

 死柄木が一瞬で緑谷達の前に現れる。

 

「へし折って帰ろう!」

 

 そして梅雨に手を伸ばす。緑谷は全く反応出来ずに梅雨の顔が触られる。

 しかし、何も起きなかった。

 

「……本っ当かっこいいぜ。イレイザー・ヘッド」

 

 相澤は顔だけを動かして死柄木を睨んでいた。

 そこに脳無が近づき、相澤の頭を踏む。

 

 その隙を突いて緑谷が死柄木に殴りかかる。

 

「脳無」

 

 思いっきり腕を振り抜いた緑谷。

 手ごたえを感じたが、そこには無傷の脳無が立っていた。

 

「え……」

 

 呆ける緑谷の腕を脳無が掴む。それを助けようと梅雨が舌を伸ばす。

 その時、施設のドアが突き破られる。

 

「もう大丈夫」

 

 声の主を全員が見る。

 

「私が来た!」

『オールマイトぉ!!!』

「あー……コンティニューだ。待ったよヒーロー。社会のゴミめ」

 

 オールマイトは全く笑っていなかった。

 オールマイトは飛び出した瞬間、近くにいたヴィラン達を一瞬で倒し、相澤と刃羅を回収する。

 

「相澤君、乱刀少女。すまない」

 

 その時、刃羅がピクリと動く。

 

「あ……あぁ~……くっそがぁ。降ろせやぁ先公。1人で立てる」

 

 先ほど地面に叩きつけられた際に頭を打ったのか、額から血を流しながらオールマイトの手を振り払って立つ刃羅。

 

「無理をするんじゃない」

「2人抱えて、あそこの3人を助け出すよりは無理じゃねぇよ」

 

 刃羅は額の血を腕で拭いながら、緑谷達を見る。

 それに気づいたオールマイトは何も言わず、相澤を担ぎ上げる。

 そして、一瞬だけ強く死柄木達を睨みつけると、次の瞬間死柄木を殴りながら緑谷達を回収し、元の場所に戻るオールマイト。

 

「皆、入口へ!相澤君を頼んだ。意識がない。早く!」

 

 死柄木は顔から飛んだ手の仮面を回収しながらボソボソと何かを呟いている。

 

「オールマイト!駄目です!あの脳みそヴィラン!僕の腕が折れないほどの力だけどビクともしなかった!それにあいつきっと……!」

「緑谷少年」

 

 緑谷がオールマイトに声を掛けるが、それを遮ってニカッと笑う。

 

「大丈夫」

 

 そして死柄木達に向かって飛び出す。

 やや意識が朦朧としていた刃羅は、オールマイトに再生能力について話す余裕がなかった。

 

「くっ!」

「刃羅ちゃん!大丈夫?歩けるかしら?」

「ああ。問題ない」

「じゃあ離れましょう」

 

 相澤を緑谷と峰田が担ぎ、移動を開始する。

 オールマイトの攻撃に脳無はやはりビクともしていなかった。

 

「……やっぱりあいつぅ打撃も効かないぃ」

「うん。……でも、それだけでオールマイトに勝つには。何かあるんだ他にも……」

 

 ドォン!!と脳無をバックドロップして、爆発のような衝撃が走る。

 それを見ていた刃羅は、

 

(……?黒霧って奴はどこ行った~?)

 

 先ほどまでいたはずの黒霧がいなかった。

 それに嫌な予感を覚える刃羅。

 

 すると地面に叩きつけられたはずの脳無の上半身が、バックドロップの姿勢になっているオールマイトの真下から腕を伸ばしてオールマイトの脇を挟み込んでいる。

 よく見ると、叩きつけられた地面に靄が掛かっている。

 

「!!ワープゲート!!」

 

 それを見た瞬間、緑谷は梅雨に相澤を担ぐのを交代すると、飛び出した。

 

「っ!?馬鹿者が!」

「刃羅ちゃん!?」

「オールマイトぉ!!!」

 

 刃羅も慌てて飛び出す。

 緑谷の目の前に黒霧が立ち塞がる。

 刃羅は足のナイフを抜いて、投擲しようとする。

 

「どっ!け邪魔だぁ!!デクゥ!!」

 

 真横から爆豪が現れ、黒霧を殴りつける。

 そして、そのまま実体部分を掴んで抑え込む。

 さらに脳無の半身が凍り付き、死柄木に切島が攻撃するが躱される。

 脳無が凍り付いた隙にオールマイトは脳無の手から逃れる。

 

「かっちゃん!皆!」

「平和の象徴はてめぇら如きに殺せねぇよ」

 

 轟が死柄木に告げる。

 形勢は一気に逆転した。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷……凄いなぁ最近の子供は……恥ずかしくなってくるぜ敵連合」

 

(……余裕じゃの。しかしオールマイト……やはり弱っておるのか?あの手からも逃れられず、ダメージが多すぎるように見える)

 

 刃羅は油断せずに戦況を確認していく。

 死柄木の能力は知らず、脳無はあの程度の氷では止まらない。恐らく命令待ちなだけ。

 黒霧は爆豪が見てはいるが、自爆覚悟でワープゲートを使えば危険。

 まだまだ油断できない状況である。

 

「脳無。爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」

「!!」

 

 死柄木の命令で脳無が動き出す。

 それに刃羅は刀を作り出して、飛び出す。

 

「乱刀!?」

「奴は再生持ちじゃ!!逃がすな!!」

「「「!!」」」

 

 脳無は氷漬けになった体を割りながら立ち上がる。

 

「あの状態で動いてる……!?」

「いかん!乱刀少女下がれ!なんだ!?ショック吸収の『個性』じゃないのか!?」

 

 刃羅はオールマイトの制止を無視して斬りかかる。

 再生中の腕を斬り飛ばすが、すぐにまた再生する。

 

「っ!!再生が速過ぎるじゃろ!リスクなしか!?ぐご!」

「乱刀さん!」

 

 刃羅は脳無の再生速度に目を見開いて愚痴る。

 脳無が左腕を振り、刃羅を弾き飛ばす。

 そして、爆豪に向けて走り出す。

 

「超再生だからな。おまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバック人間さ」

 

 高速で爆豪に向かって走り寄る脳無。

 爆豪は全く反応出来なかった。

 

ゴォウ!!

 

 周囲に爆風を起こして腕を振り抜く脳無。

 

「かっちゃん!!」

 

 緑谷が爆豪の名を呼ぶが、その爆豪がいつの間にか緑谷の隣に唖然と尻餅を着いていた。

 殴り飛ばされたと思われた先にはオールマイトが腕でガードをしているポーズで立っていた。

 

「……加減を知らんのか……」

「仲間を助けるためさ。仕方ないだろ?さっきだってそこの地味な奴が俺に思い切り殴りかかろうとしたぜ?他が為に振るう暴力は美談になるんだろう?そうだろう?ヒーロー?俺はなオールマイト!怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ善し悪しが決まるこの世の中に!!」

 

 両腕を広げて演説する死柄木。

 

「何が平和の象徴!!所詮抑圧のための暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだと。おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」

「めちゃくちゃだな。そう言う思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ。嘘つきめ!」

「バレるの早……」

 

 そこに轟達も改めて参戦の意思を示す。

 そこにオールマイトがストップをかける。

 

「プロの本気を見ていなさい!!」

「脳無、黒霧やれ。俺は子供をあしらう」

「やってみればぁ?」

「「!!」」

「ひょう!!」

「お、おい!乱刀!!」

 

 刃羅が前腕に鎌状の刃を生み出して、黒霧に後ろから斬りかかる。

 黒霧はワープゲートで回避する。刃羅はそれを無視して、死柄木に斬りかかる。

 死柄木は紙一重で躱し、後ろに下がろうとする。

 

「まだまだぁ!」

「ちっ。うぜぇ」

 

 今度は逆立ちして開脚しながら体を回す刃羅。その両足を大鎌に変えて斬りかかる。

 それに死柄木は舌打ちをしながらも避ける。

 

「ひょろい見た目のくせにぃいい動きするねぇ」

「……」

「けんども!!これはどうだべか!?」

「あぁ?」

「うおんりゃあ!!」

 

 急に方言全開になった刃羅に訝しむ死柄木。両腕を振り上げた刃羅の両前腕から刃が生まれ、斧のようになる。

 両腕を思いっきり振り下ろす。

 死柄木は目を見開きながら横に飛んで躱す。

 追撃しようとした際、オールマイトから恐ろしい気迫が放たれて2人は一瞬動きを止める。

 そしてオールマイトは脳無と拳を合わせる。

 

「うおぉい!?策無しに正面からだべか!?」

「ショック吸収って、さっき自分で言ってたじゃんか」

「そうだな!」

 

 次の瞬間、脳無と拳の連打を打ち合うオールマイト。

 その衝撃に周囲の者達は吹き飛ばされそうになる。

 

「無効ではなく、吸収ならば!!限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を耐えるなら!!さらに上からねじふせよう!!」

 

 よく見ると血を吐きながら殴り続けるオールマイト。

 しかしその拳打はさらに勢いを増す。

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!ヴィランよ!こんな言葉を知ってるか!?」

 

 ついに脳無がオールマイトについていけなくなった。

 そこにオールマイトが大振りの拳を脳無に放つ。

 

「Plus  Ultra!!!」

 

 ショックを吸収する脳無が、思いっきり吹き飛んで施設の天井に穴を開ける。

 

「さてとヴィラン。お互い早めに決着をつけたいね」

「チートがぁ……!」

 

 死柄木は悔し気にオールマイトを睨む。

 その背中に黒霧が現れる。

 

(……衰えたとしても、元がデカかったから多少てこずったってレベルで収まんのか。しかし……)

 

 刃羅は先ほどの殴り合い中の吐血を思い出す。

 今の様子を見ると、吐血するまでのダメージがあるようには見えなかった。

 

(つまり()()()()()()こそが、オールマイトの衰えの原因と考えるべきか。それをどう探るか……それは此処を乗り切ってからだな)

 

「衰えた?嘘だろ……完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を……。チートがぁ……!」

 

 ガリガリと体を掻きむしりながらブツブツと呟く死柄木。

 

「全っ然弱ってないじゃないか!!あいつ……俺に嘘を教えたのか!?」

「どうした!?来ないのかな!?クリアとか何とか言っていたが……出来るものならしてみろよ!!」

 

 ギロンと死柄木達を睨むオールマイト。

 それに気圧される死柄木達。

 

 それを見た轟達は下がり始める。

 刃羅もジリジリと下がりながら死柄木達の死角に周り、死柄木達から目を離さない。

 

(……オールマイトは何故終わらせぬのじゃ?このままでは逆に追い詰めて何をするか分からぬ)

 

 実際に死柄木はまた苛立ったように首筋をガリガリとし始めた。

 

(先ほどのあやつの言葉からすると、気分や快楽が前に出る性格じゃ。状況やセオリーでは退かぬ可能性があるぞ!黒霧もまだ撤退を進言せぬし、強行もせん。つまり、()()()()()()()()()()()ということ!)

 

 すると死柄木の雰囲気が変わる。

 それを見た瞬間、刃羅は飛び出す。

 

 轟達が目を見開くが、声は出さなかった。緑谷はブツブツと何か考え事をしているようだった。

 オールマイトも目を見開いているようだが、動かない。

 刃羅はフゥーと息を吐き、右手を貫手にして構える。

 

「何より……脳無の仇だ」

 

 すると死柄木と黒霧も飛び出す。

 そこに、

 

「信念無き社会の屑……」

「「!!」」

「死ね」

 

 刃羅が死柄木の胸に向けて貫手を放ちながら、腕をパルチザン風の槍に変えて伸ばす。

 

 さらにそこに反対側から緑谷が高速で飛んできた。

 

「オールマイトから離れろ」

 

 目を見開いて拳を握る緑谷。

 死柄木は体を捻り、刃羅の槍を脇腹に掠めながら、黒霧に腕を突っ込んで緑谷に伸ばす。

 それにオールマイトと刃羅も目を見開いて動こうとしたその時、死柄木の手に銃弾が撃ち込まれた。

 

『!!!!』

「ごめんよ皆。遅くなったね。すぐ動けるものを集めてきた」

 

 声が響く。

 緑谷は勢いのまま飛んでいき、地面に落ちる。

 

「1-Aクラス委員長 飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」

 

 飯田の後ろにはプロヒーローの教師達がズラリと並んでいる。

 

「帰って出直すか。黒霧……」

 

 逃げようとする死柄木達に銃弾が浴びせられる。

 それでも黒霧に潜り込んで逃げようとするが、黒霧が突如何かに引き寄せられ始める。

 13号だ。

 しかし、それでも徐々に靄に体を埋めていく死柄木。

 

「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」

「何を逃げ切る気でいる」

『!?』

 

 死柄木の目の前にパルチザンの腕を構えた刃羅がいた。

 目を見開く死柄木に、刃羅は冷え切った眼を向ける。

 

「粛清対象だ。逃がさん」

 

 腕を振り抜こうとした刃羅。

 その槍に銃弾が撃ち込まれて弾かれる。

 

「がぁ!?な!?」

「それはヒーローの行動ではないぞ」

「ちぃ!」

「な!?」

 

 刃羅は帯から苦無4本取り出し、ワープゲートに向かって投げる。

 それに驚いた教師は再び銃撃する。

 2本撃ち落とされたが、2本はワープゲートに入る。

 しかし、すぐさまワープゲートが閉じて結果は分からなかった。

 

「ちぃ……!っ!?ごほっ!」

 

 歯軋りをして苛立つ刃羅。直後、口から血を吐いて崩れ落ちる。

 

「ゴホッゴホッ!……ギリギリ……だったか。化け物……め……!」

 

 脳無の攻撃で刃羅の体は限界だった。それをただ気迫で耐えていた。

 粛清すべき犯罪者がいたから。

 

「緑谷ぁ!乱刀ぁ!大丈夫か!?」

 

 そこに切島が近づいてくる。

 

「切島くん……!まっ!」

 

 何やら慌てる緑谷。

 そこに緑谷とオールマイトを隠すように地面から壁がせり上がる。

 

「生徒の安否を確認したいからゲート前に集合してくれ。けが人はこちらで対処するよ」

 

 セメントスと言う教師が切島に声を掛ける。

 

「そりゃそうだ!ラジャッす!!」

 

 納得した切島は離れていく。

 

「えぇ~……私くらい運んでくれても~いいんでないか~」

 

 口から血を流しながら仰向けに倒れてグデェっとしていた刃羅は、目の前まで来ていたのに引き返していく切島に抗議する。

 その声は届かなかったが。

 痛みもヤバいが、『個性』の使い過ぎで筋肉痛もヤバかった。

 

「酷いな~……先生~助けて~コフッ!」

「血ぃ!?あんたもボロボロじゃない!?」

「……俺の銃弾が当たったか?」

 

 ミッドナイトとガンマンハットを被ったヒーロー『スナイプ』が走って近づいて来た。

 

「銃弾は手だけぇ。でもぉデッカイ奴にぃ体をボッコボコにぃされたぁ。骨イッてるかもぉ?コフッ!」

「血ぃ!?あんたも病院行くわよ!無茶して!」

「それに最後の行動についても帰ってきたら反省文だからな」

「うえぇ」

 

 担架に乗せられて運ばれる刃羅。

 それを梅雨達が見つけて駆け寄ってくる。

 

「ケロ……大丈夫なの?刃羅ちゃん」

「あたぼうよ!この程度で死ぬ俺っちじゃゴフゥ!」

「いやーー!!刃羅ちゃーん!?」

「じぬぅ~!!私はもうダメだぁ~!びぃえ~ん!!コフ!」

「もうしゃべらないで。刃羅ちゃん」

「性格が変わるせいで、いまいち心配出来ないですわ」

「でも、血ぃ吐いてるしね」

 

 そのまま刃羅は病院に連れて行かれた。

 

 

 その頃、調査をしていた警察や教師達は、火災ゾーンの惨劇に顔を顰めていた。

 

「状況的に乱刀刃羅だろうな」

「見事なほど動脈や急所は避けてますね。命の危険がある者はいません」

「……そこは守ったことを褒めるべきなのかどうか」

「聞イタ話デハ、ココニ飛バサレタノハ彼女ダケダソウダ」

「命の危機があったと言えばそれまでだが……」

「最後の行動を見ている限りでは、それまでとは言えんな」

「ステインに攫われていたことが原因……の可能性がありますね」

 

 戦いで完全に無傷で五体満足で捕えろと言うのは無茶であることは承知しているが、ここまであからさまだと逆に問題とされそうである。

 しかも最後の明らかに殺意を持った攻撃はかなり問題だった。

 状況によっては殺す事を厭わないと言うことだからだ。

 

「彼女の『個性』も強力なようだしな」

「これはここで話してもしょうがない。校長や相澤先生も含めて話してみないと」

「そうですね」

 

 こうして刃羅は良くも悪くも注目を集め始めたのであった。

 

 

 その後、病院の検査で右手の骨折、肋骨5本の骨折が確認された。その内の1本が肺に刺さっており、地味に危なかったそうで駆けつけた流女将を泣かせて地味に焦った刃羅だった。

 翌日、リカバリーガールに治療してもらい、すぐに退院出来たのでホッとした刃羅であった。

 

 

 

 

 退院した夜。マンションの屋上にて。

 

「怪我したそうだな」

「うるさい。あんな化け物がいることがおかしいんだ。責任を取れお師匠。結婚してください」

「元気そうだな。で?どうだった?」

「ちぇ~。……なんかね~オールマイトのために~改造した人間を連れて来てた~。複数の『個性』持ってたし~結構ヤバい奴が~バックにいるかも~」

「……なるほどな」

「お師匠とは合わんじゃろうなぁ。儂も殺したくなったしのぅ」

「ならば粛清するのみよ。お前はこのまま好きにしていろ」

 

 そう言って去っていくステイン。

 

「……来てくれただけぇ良しとしようかなぁ。連絡先も挟み込んだしぃ。()()()()とも連絡とらないとなぁ」

 

 刃羅も部屋へと戻っていく。

 

 こうして敵連合との因縁が始まったのであった。

 

______________________

新!刃格!

 

バトルアックス:「だべ」口調マックスの樵。一人称は「おいら」

パルチザン:必殺をポリシーにしている。一人称は「我」

 

 


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