刃羅は元気よく教室に入る。
「おっはよう!」
「あ!刃羅ちゃん!」
「もう大丈夫なの?」
「もちろん!骨が肺に刺さったくらいだった!」
「全然大丈夫じゃないよ!?」
「元気になったなら良かったわ」
葉隠と梅雨が声を掛けてきた。
腕をグルグルと回して、元気一杯をアピールする刃羅に、2人や周りはホッとする。
「ん?あれぇ?緑谷君もう治ったのぉ?私より大怪我だったのにぃ」
「うん。リカバリーガールのおかげだよ」
「あれ凄いよねぇ。凄く疲れるけどぉ」
「僕はずっとお世話になってるからね。また怒られたけど」
緑谷は苦笑いする。
確かに訓練の度に保健室に運び込まれている。
「それにしてもさ!乱刀さんって凄く強いね!あのヴィランにも立ち向かってたし」
「結局は負けたがな。奴らも逃がしてしまった」
緑谷が興奮したように刃羅の活躍を語る。
それに刃羅は顔を顰めて腕を組む。
そこに切島や耳郎達も加わる。
「いやいや!十分だっただろ!」
「だよね。うちらも助けられたし」
「私や峰田ちゃんは動けなかったものね」
「次は斬ってやらぁ!」
「それはダメだろ!」
「爆発や氷は良くて斬るのはダメなの!?差別だぁ!?びゃ~~ん!」
「あ~あ。泣かした~」
「ぐっ!」
「相変わらずせわしない性格な奴だ」
コロコロ性格が変わる刃羅に振り回される切島達。
「皆ーー!!朝のHRが始める。席に着けーー!!」
『へ~い』
飯田の号令に従って席に着く一同。
そこに入ってきたのは、
「お早う」
「相澤先生復帰早えええ!!!」
包帯ぐるぐる巻きの相澤が入ってきた。
全員が目を見開いて驚く。
流石に刃羅も目を見開いていた。
「俺の安否はどうでもいい。っと、そうだな。乱刀」
「ぬ?」
「無理させた。すまん。助かった」
「構わぬ構わぬ。儂もあ奴にぶん殴られたしの。オールマイトが来ねば助けた意味はなかったかもしれんしの」
「それでもだ。お前がいなかったらオールマイトが来る前に死んでただろうしな」
相澤が刃羅に頭を下げる。
それに刃羅は顔を顰めながらピラピラと右手を振る。
その様子を爆豪や轟が見ていたが、刃羅は特に反応しなかった。
「ただな……」
「ほえ?」
「殺意を込めた攻撃を仕掛けたと言うことで反省文の提出だ」
「嘘やぁーん!?」
「明日までだぞ」
「シィーット!!ボンバーマンは!?エブリデイ殺すって言ってるそこのボンバーマンはぁ!?」
「あぁ!?んだテメェ!喧嘩売ってんのか殺すぞ!イカレ女!!」
「ほれ!今も言ったべ!あれは良いんだべか!?」
「おお!?新しい!?」
「爆豪も問題ではあるが、行動までは起こしてないからな」
「アイヤーー!」
「おお!?また新しい!?」
頭を抱えて崩れ落ちる刃羅。
隣の葉隠は初めて聞く話し方に驚く。
前の席の百も頭を抱えている。
「それは置いといてだ。まだ戦いは終わってねぇ」
『!?』
「戦い?」
「まさか……」
「まだヴィランがー!?」
相澤の言葉に刃羅を除く全員が訝しむ。
「雄英体育祭が迫ってる!」
『クソ学校っぽいの来たあああ!!』
全員がホッとする。
刃羅はまだ机に突っ伏している。
「待って待って!ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ」
雄英体育祭は日本のビッグイベントの1つだ。
『個性』が生まれ、人口が減少した現在では、オリンピックに代わるものとなっている。
テレビ中継もされ、全国のヒーローが注目している。
将来のヒーローのスカウトのために。
「ふ~ん。要はオーディションみたいな感じぃ?」
「え!?刃羅ちゃん知らないの!?」
「あるのは知ってたけどぉ中身は見たことないねぇ」
「なんてこった!」
「卒業後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回……計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ」
相澤の言葉にクラスメイト達が気合を入れる。
(スカウトか。私は目指したいヒーロー像がない。どこかの事務所に入るのはイメージ出来んな)
というか、いつかここに居る者達と敵対する可能性の方が高い。
(あれかな~?目指す理由とかなんかでっち上げとかないといけないかな~)
まだステインに攫われていたという情報は伝わっていないらしい。
それについてももう少し矛盾が生じないようにしとかないといけない。
体育祭もどう過ごそうかと考える刃羅だった。
昼休み。
体育祭に燃えている面々を横目に、刃羅はマイペースだった。
というより、落ち込んでいた。
「ズズ~……ンマンマ……あぁ……もう終わっちゃう」
「今日は一杯だけなん?」
「ズズ~……ンマンマ……お金がないのぉ」
「そう言えば言ってたね」
「ズズ~……ンマンマ……あぁ……終わっちゃったぁ」
刃羅は空っぽになった器を眺めて、肩を落とす。
ジィ~っと器を眺め、今にも舐めだしそうなほど顔を器に近づけている。
「それにしても体育祭かぁ~」
「楽しみだね!」
「そうね」
「何を準備すればいいべか?」
「いつも通りね。『個性』を伸ばしておくことだと思うわ」
「センキュー!」
「もう新しいのかどうか分からん」
「だね!」
芦戸と葉隠が刃羅の性格変化に遂に匙を投げた瞬間だった。
その放課後、ヴィラン騒動の余波の大きさを知ったA組だった。
教室の前に物凄い人が集まっていた。
「うおおお……何事だあ!?」
「何しに来たんだよ」
「敵情視察だろ。ザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてぇんだろ」
峰田の言葉に爆豪が貶しながら説明する。
爆豪は邪魔だと告げると、1人の男が前に出て、宣戦布告する。
それにB組だと名乗る男も声を上げて、A組に対して喧嘩を売る。
「盛り上がっとんなぁ。うちらに勝ったらなんかあるん?」
「周囲の評価は上がるでしょうね。ヴィラン襲撃を乗り越えた生徒を倒したとあれば、スカウトも増えると思いますわ」
「ほえ~」
「他人事ですわね。乱刀さん」
「勝つことよりさぁ目立てばいいんでしょぉ?」
「その目立つ場所を確保するのが大切なのですわ。勝ち上がればそれだけアピールする時間が増えますから」
「そんなもんだべか」
刃羅は机で筆を走らせながら、百の話に頷く。
「ところで刃羅ちゃんは何してるの?」
「反省文デース!シィット!!」
「明日までですものね」
「納得いかないアル!あそこの爆破男何も言われないアル!」
「まぁ、爆豪さんも問題ですが」
少しだけ同情する百達。しかし教師達の言い分も分かるため、何とも言えない表情をする。
死柄木に迫る刃羅は確かに怖かった。
普段の言動からは想像出来ないくらいに。
「頑張ってください」
「どチクショウ!」
「乱刀」
「相澤先生」
ガリガリ!と書いていると相澤がやって来た。
「まだ出来てないよ!」
「少し話するだけだ。その分、少なくしてやる」
「何を話すのだ?」
「あの戦いについてだ」
「めんどいのぅ」
「体育祭の前に終わらしときたい」
「はぁい」
相澤に付いていく刃羅。
その後ろ姿を少し心配そうに見送る葉隠達だった。
連れて行かれた部屋にはオールマイトもいた。
「で?何を話しゃいいんだ?」
「何故最後に殺す事に拘ったのかと思ってね」
「……あいつはステインより危険だ。オールマイトも言っていただろう?あいつには信念もないし、気分屋の悪党だ」
「……そうだね」
「黒霧という奴と組まれたままでは、何を起こすか分からん」
「かもしれねぇが、すぐには動けねぇだろ」
「そうでもなかろう?あ奴は言っておったぞ?『あいつは嘘を付いたのか?』とな。それにあの化け物をあ奴が1人で用意できたとでも思うておるのか?あ奴の後ろにはすでに何者かがおる。あんな化け物をあんな作戦で使わせるくらいにのぅ」
「「……」」
刃羅の言葉に考え込むように黙るオールマイトと相澤。
「イレイザー・ヘッドはすでに敗れた。オールマイトも追い込まれるほど。捕獲が難しいならば……殺すことが最善と判断した。それだけのこと」
「……それはヒーローのやり方ではないよ」
「それで悪を逃して被害者を増やすぅ?それならヒーローも悪だよねぇ?被害者からすればぁ」
「っ!」
「俺っちはよぉ、弱えぇ奴が殺されるくらいなら悪を殺す。同じ命が失われるなら、その時最も屑な奴を殺す。ステインに攫われて、扱かれて、そう思った」
刃羅は2人の目をまっすぐに見つめて断言する。
それにオールマイトと相澤は子供と思って対応するべきことではないと悟る。
それほどまでに信念が込められた覚悟を決めている者の目つきだった。
「……お前。本当にヒーロー殺しから逃げて来たのか?」
「だからここにいるの~。あいつは嫌いだけど~教えること全てが~間違ってたわけじゃないし~。私の『個性』を~見極めてたみたいだし~」
「……そうか」
「……」
「もういいだべか?」
「最後だ。体育祭では殺すな。それに極力殺さねぇように捕らえらるような手段を考えろ」
「分かってるわよぉん。殺すに足る理由がなかったらぁん、殺さないわぁん。血に飢えてはないわよぉん」
そう言って部屋を出ていく刃羅。
オールマイトと相澤は、今の話を考え込んでいる。
「洗脳というほどではないみたいですが……」
「影響はバッチリ受けているみたいだね」
「……彼女の父親とは何度か会った事がありますが……」
「縮尺ヒーロー『マイスタード』さんだね。私も何度かご一緒したことがあるよ」
縮尺ヒーロー『マイスタード』。
物体を小さくして持ち運ぶことが出来る《縮小》の『個性』の使い手で、瓦礫を小さくしたり、武器やアイテムを小さくして大量に持ち運び、使いこなしていたベテランヒーローだった。5年ほど前にヴィランに殺されてしまった。
「娘さんがいたなんて知らなかったよ」
「俺の知り合いも誰も知りませんでした」
「……もっと彼女の事を知らないとね」
「……そうですね。他の教員にも注意してもらう様に伝えておきます」
「頼むよ」
今、下手に刃羅の考え方を否定すれば、間違いなくヴィランとなってしまう。
それは防がなければならなかった。
刃羅は家に帰って『個性』の鍛練をしていた。
「どうしたもんかのぅ。武器を増やしても使えるのは1種だけじゃしのぅ」
同時に使える数を増やせる鍛練はずっとしているが、まだ形になる感じはない。
しかも武器を増やすには実物を手に入れないといけない。
流石に流女将に武器を手に入れてもらうのは無理だろう。笑顔で凄まれることは確実だ。
「流石にそれは無理だよねぇ。今ぁ、使った事である奴でぇまだ作ったことがない奴はぁ……鎖鎌かなぁ?出来るかなぁ?」
体から引き離す事は出来ない。鎖を繋げればいけると考えるが、問題もある。
もし鎖が千切られた場合、体も欠損してしまう。
「……痛いのは嫌!今回は武器形成を速めることに集中!」
と言うことで、方針を決めた刃羅。
その他にも格闘術の練習を流女将やサイドキックに頼んで相手をしてもらうことにした。
その結果……。
「刃羅さん……これでは活動に支障しかないのですが……」
「……アイヤー」
サイドキック全員をボッコボコにしてしまい、翌日のヒーロー活動が休みにさせられた流女将が頭を抱えていたのであった。
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新!刃格!
偃月刀:中国娘。一人称は「アタシ」