第二種目【騎馬戦】。
1位の緑谷1000万ポイントに全員が目の色を変える。
それに緑谷は気圧され、プレッシャーを感じているようだった。
「制限時間は15分。振り当てられたポイントの合計が持ち点となり、騎手はそのポイント数が表示されたハチマキを装着!終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを奪い合うのよ。取ったハチマキは首から上に巻くこと。そして重要なのは、ハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!」
その内容に腕を組む刃羅。
「うむぅ。終了まではチャンスがあるということでござるか」
「いったんポイント取られて身軽になるのもありだね」
「それは全体のポイントの分かれ方を見ないと判断しかねるわ。三奈ちゃん」
「『個性』発動アリの残虐ファイト!でも……あくまで騎馬戦!!悪質な崩し目的の攻撃などはレッドカード!一発退場とします!それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」
制限時間を聞いて一斉に動き出す出場者達。
「んだなぁ……おいらの『個性』はあまり使えねぇだな。ポイントは190P。おいらより上位陣と組むのは下策だべ」
緑谷は論外。絶対に狙われるからだ。
轟は宣戦布告してきた相手と組むとは思えない。
爆豪も行動が読めないし、上位陣で固まると、ターゲットになるだけ。
4位もまたしかり。
すると、そこに近づいてくる者がいた。
紫の髪に目の下に隈がある男。前に爆豪に宣戦布告していた男だ。
「ちょっといいか?」
「なんじゃ?……」
「はい決まり」
男、心操の声掛けに応えると、意識が遠のく刃羅。
それに心操はニヤリと笑う。
「じゃあ、俺とチーム組んでもらおうか」
「お断りしますえ」
「!?」
「なるほどな~。呼びかけに答えると~意識を奪うのか~。いい『個性』だね~」
「な……んで?」
「俺っちの人格全部に影響しなかったんは残念だったなぁ」
心操の『個性』は強力だが、刃羅の人格1つだけしか影響させられなかった。
刃羅の人格は記憶や目的などは一致しているが、思考や判断は異なる。
そこまでは操れなかったようだ。
心操は悔しそうに歯軋りする。
それに刃羅はピラピラと手を振って去っていく。
「下手なチームはデンジャラス!!チームは2人でもオッケーデース!だったら……Ms.梅雨!」
「ケロ。刃羅ちゃん」
刃羅は梅雨に声を掛ける。
梅雨はまだチームを組んでいないようだった。
「俺っちと組もう!」
「根拠を聞かせてもらえないかしら」
「もっちやで!梅雨はんの『個性』は壁にくっつく力もあるやんな?」
「そうね」
「更に舌も伸ばせる。梅雨ちゃんには騎手になってもらいたいのだ。そして私はスケートして戦場を滑りまわる」
「ケロ。ということは騎馬は刃羅ちゃんだけ?」
「如何にも。某の『個性』では攻撃を仕掛けられぬでござる。しかし、その代わり防御や機動力は下手に組むよりは高いと考えるでござる」
「……」
梅雨は刃羅の提案を聞いて、イメージしているようだ。
「騎馬を組むことで戦略は増えるが、機動力は確実に犠牲にすることになるはずじゃ。『個性』で補っても15分ずっとはあり得んじゃろ?」
「そうね」
「私1人なら~アクロバティックな動きが~出来るから~そんな動きしてもへばり付けて~舌で遠くのハチマキを狙える梅雨ちゃんなら~勝算は高いと思うんだ~」
「……分かったわ。よろしくね刃羅ちゃん」
「こちらこそぉんよろしくねぇん」
梅雨のポイントと合わせて340ポイント。
チームを決めた刃羅と梅雨は他のチームの分析に入った。
「クソイケメンは委員長に副委員長、ビリビリ野郎か」
「爆豪ちゃんは切島ちゃん、三奈ちゃん、瀬呂ちゃんみたいね」
「ふむ。何だかんだでしっかりと考えたチームだな」
「手強いわね」
「緑谷、爆豪、轟の3組は最初は無視すんべ。他チームのハチマキ奪ってから、行ければ狙うべ」
「そうね」
そして15分が経過した。
『さぁ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』
梅雨を肩車して、仁王立ちする刃羅。
「さぁ斬り刻むぞぉ」
「駄目よ刃羅ちゃん」
『START!!!』
開始と同時に駆け出す全チーム。
刃羅は直ぐに足を止めて、戦場の動きを見る。
やはり緑谷、轟、爆豪をターゲットにしている組がチームが多い。
「A組は面倒な組み方アルね」
「そうね。他のチームから行くべきね」
「よっしゃ!行くぞゴラァ!」
足裏に刃を生やして滑り出す刃羅。
猛スピードで滑り、頭から角を生やしている女子のチームに迫る。
出来る限り蛇行するように滑り、相手がバランスを崩した瞬間、一気に後ろに回り込む。
その瞬間を狙って梅雨が舌を伸ばしてハチマキを奪う。
さらに両脚を槍に変えて飛び上がり、体を捻りながら手を巨大化している女子チームの真上に飛ぶ。
下を向いた瞬間、梅雨がまたも舌を伸ばしてハチマキを奪う。
「あ!?しまった!?」
「2つ!次でござる!」
「アクロバティックね刃羅ちゃん」
『スケーティーング!アーンドアクロバティーーック!!蛙吹チーム!縦横無尽な動きでハチマキを奪う!!騎馬ってなんだっけ!?』
地面に下りた瞬間に再び滑り出す刃羅。
周囲を見て他チームの状況を確認する。
「ん~?なんか~B組連中の~ハチマキ多いね~」
「本当ね」
『7分経過した現在のランクを見てみよう!』
そしてモニターに表示された点数に観客席がどよめく。
『……あら!?ちょっと待てよコレ……!A組緑谷以外パッとしてねぇ……ってか爆豪あれ……!?』
刃羅と梅雨はモニターを見ると、爆豪のポイントが0だった。
「うちらは6位やな。っちゅーか爆豪はん獲られたんかい!?」
「B組みたいね」
「ほな!狙いはこのままB組や!」
「分かったわ」
刃羅は続いて轟に向かっている2人組のチームに迫る。
一気に後ろから迫り、抜きざまに梅雨が奪う。
「げ!?」
「イヤッフー!!Ms.梅雨パーフェクト!」
「サンキューよ刃羅ちゃん」
「ぬ?っ!?いかん!?飛ぶぞ!梅雨嬢!!」
「え?」
いきなり飛び上がった刃羅。
直後、電撃が襲い掛かった。
「びばばばばば!?」
刃羅と梅雨は空中で痺れる。
今度は地面が凍り始めるのが目に入る。
「シィーット!バット!ノープロブレーム!!」
両足先をスパイラルカッターに変えて、回転させて着地して氷を砕く。
その周囲のチームは騎馬達の足が凍り、固定されてしまう。
刃羅は急いで飛び出し、氷の範囲から脱出する。
「梅雨ちゃん!大丈夫!?」
「痺れたわ。でも大丈夫。刃羅ちゃんは?」
「まだまだ行けますえ。せやけど……」
「そうね。もうハチマキ持ってるチームがほとんどないわ」
現在、ハチマキを持っているのは緑谷、轟、B組のキザ男、B組の切島みたいな男、さっきハチマキを奪った巨大な手になる女、そして刃羅達。
緑谷と轟チームが向かい合い、キザ男は爆豪とやり合っている。
切島みたいな男のチームも他のチームに囲まれている。
「選択としてさっきの女だね~」
「でも彼女もこっちを警戒してるわね」
「そうよねぇん」
刃羅達は現在5位。
「……緑谷と轟の所は避けたいな。あの影に氷に雷は厄介だ」
「爆豪ちゃんの所も荒れてるわね」
そのまま状況を見ながら残り1分になる。
その時、
『逆転!!轟が1000万!!』
『さらに爆豪チーム2本奪還で3位に!!』
「でかい手の女に行くぞ!」
「了解よ」
まだ5位のまま、一番可能性があるのは動けない者。
刃羅は一気に滑り出す。
『ここで蛙吹チームも動いたぁ!狙いは……拳藤か!?』
後ろから迫るが、手を巨大化させて振り回す拳藤。
動き回り、舌を伸ばすが払われてしまう。
「だぁ!クソイケメンの氷が邪魔だゴラァ!!」
「ちょっと厳しいわ」
「これは奪わせないよ!」
『爆豪容赦なしーー!!物間チームのポイント全奪取ーー!!』
それを聞いた刃羅と梅雨。
「これで4位か?」
「そうね」
「残り時間は~?」
「30秒もないと思うわ」
すると爆豪チームが轟と緑谷達の所に迫る。
「厳しいのぅ!」
「このまま狙うべきだわ」
「んだな!」
「くっ!」
脚を槍に変えたりと縦横無尽に動く刃羅。
拳藤も取られまいと両手を振り回して、舌や接近するのを防ぐ。
そして、時間が過ぎていく。
『TIME UP!!』
その声と同時に足を止める刃羅。
「お疲れ様ね刃羅ちゃん」
「梅雨ちゃんもね~」
梅雨を下ろして互いを労う。
『早速上位4チーム見てみよか!!1位轟チーム!!』
「だよね!」
『2位爆豪チーム!!』
「やっぱり強いわね爆豪ちゃん」
『3位鉄て……アレェ!?おい!!!心操チーム!?』
「あれぇ?」
『そして4位は緑谷チーム!!』
「ホワッツ!?」
「やられたわね。どうやら轟ちゃんのハチマキを取ったみたい」
『以上4組が最終種目へ進出だああーー!!』
ギリギリで逆転された刃羅達は5位。
順位が低いチームを狙ったことと、元々の持ち点が低い事が勝敗を分けたのだった。
そして1時間の昼休憩となった。
刃羅は観戦に来ている流女将の元に向かうことにした。
その途中で、
「ん?緑谷に轟?」
2人が連れ立って離れていく。
興味を惹かれた刃羅は隠れて付いていくことにした。
そして陰に隠れて2人の会話に耳を澄ませる。
「……親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが……それだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方がなかったらしい。自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は次の策に出た」
何やら思いつめたように話す轟。
刃羅は関係者入り口の陰で隠れて聞いている。
「個性婚、知ってるよな。自身の個性をより強化して継がせるために配偶者を選ぶ。実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の『個性』を手に入れた。記憶の中の母はいつも泣いている……「お前の左側が醜い」と母は俺に煮え湯を浴びせた」
轟の話に緑谷は息を飲む。
「ざっと話したが俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父の『個性』なんざなくたって……使わずに一番になることで奴を完全否定する」
轟の誓いに緑谷は何も言えなかった。
刃羅もそれを腕を組んで聞いている。
轟は話を終えたようで刃羅がいる入り口側に歩き始めて外に出る。
「言えねぇなら別にいい。お前がオールマイトの何だろうと俺は右だけでお前の上を行く」
その言葉に緑谷も続いて入り口から出てくる。
「僕は……ずぅっと助けられてきた。さっきだってそうだ……僕は、誰かに助けられてここにいる。だから僕だって負けらんない。僕を
助けてくれた人達に応えるためにも!だから……僕も君に勝つ!」
改めて宣戦布告する緑谷。
それを刃羅は入り口真上の建物の屋根にしゃがんで座っており、2人の様子を見ていた。
「青春ってやつだねぇ。それにしてもぉ……微妙な信念だねぇ。轟はぁ」
刃羅は轟を冷めた目で見つめる。
「まぁ~同情するに~値するかもだけど~そこで親父さんに張り合ったら~同じじゃんね~。結局~親子は親子か~」
刃羅は立ち上がり、移動を始める。
「轟は実力があるが信念が足りず、爆豪は才能があるが資質が足りず、緑谷は信念があるが実力が足りない。見事に三角関係だな。故にいがみ合う……か」
歩きながら3人のことを考える。
似ているようで似ていない。
「実力は時間をかければいい。されど信念と資質は?難しい。それ故に2人には緑谷を忌み嫌う。眩しいだろうな。あの信念は」
間違いなくオールマイトに似ているのは緑谷だ。
今いる全ての英雄も、英雄を目指す者もオールマイトを意識せざるを得ない。
だからこそオールマイトに似ている緑谷の行動は、自分達に思い知らせる。
自分達はオールマイトのようにはなれないのではないかと。
それは1番に拘っている轟と爆豪には認めがたいものだろう。
「……不適格」
刃羅はゆっくりと歩き続ける。
「偽物は……粛清する」
刃羅は流女将と合流し、食事を共にする。
「ズズ~……ンマンマ……おかわり!」
「……本当によく食べますねぇ」
「ズズ~……ンマンマ……だって動いたもん!」
「そうですね。頑張ってましたね。惜しかったですが」
「ズズ~……ンマンマ……悔しかった!」
「ふふふ。それは大事な感情ですよ」
流女将も本日は警備に来ていた。
刃羅の後見人として知られているので、学校側が休憩時間を配慮してくれたのだ。
「ズズ~……ンマンマ……なんかぁ轟君に宣戦布告されちゃったんだよねぇ」
「轟?エンデヴァーの息子さんですね。何かしたんですか?」
「前にぃ訓練で戦ってぇ決着ついてないからかなぁ?」
「なるほど。白黒付けたがる子なのですか」
「ズズ~……ンマンマ……そうみたい~」
「エンデヴァー自体も上昇志向の塊ですからねぇ。彼の消火を何度したことか」
ため息を吐く流女将。
流女将の『個性』は《水流操作》。水の流れを操る能力だ。水そのものを操るわけではないため、流れている水がないといけない。
故に彼女のサイドキックには水を生み出す者が多い。
「彼ももう少し落ち着けばいいのですが……」
「無理じゃね?家庭荒れてるみてぇだしよ」
「……知ってるのですか?」
「さっきな。緑谷に話してんのを盗み聞きした」
「……そうですか」
再びため息を吐く流女将。
どうやら流女将もエンデヴァー親子の問題を知っているようだ。
刃羅は特にそれ以上追及せずラーメンに舌鼓を打つ。
結果7杯のラーメンを食べて、流女将や周囲を呆れさせた刃羅だった。
時間になり、スタジアムに戻ると、
「……なんでチア服着とるんや?」
「峰田さん!上鳴さん!騙しましたわね!?」
刃羅以外の女子全員がチア服を着て、死んだ顔をしていた。
百の言葉からどうやら峰田達の策略であるようだ。
「ってゆーか!!なんで乱刀は着てないんだよ!?」
「あぁん!?誰が着るか!斬るぞゴラァ!」
「ぎゃああああ!?」
「落ち着いて刃羅ちゃん」
「どうどう!刃羅ちゃん!」
騙したことを棚に上げて、峰田が刃羅を指差して抗議してくる。
それに刃羅はキレて、指をナイフにして追いかけ始める。
峰田が悲鳴を上げながら逃げる。
もう少しでナイフが届きそうになると、梅雨の舌が刃羅の胴体に巻き付き回収される。
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「アホだろアイツら……」
「まぁ本選まで時間空くし、張り詰めててもしんどいしさ……いいんじゃない!?やったろ!!」
「透ちゃん好きね」
「離せ梅雨!あの屑葡萄を斬らせろ!」
「駄目よ」
刃羅はバタバタと暴れているが、梅雨の舌を振り解くことはなかった。
なんだかんだで無理矢理振り解くことはしないことを知っている梅雨は、刃羅の後ろでニコニコと刃羅を見ている。
『さぁさぁ皆で楽しく競えよレクリエーション!!それが終われば最終種目!進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!1対1のガチバトルだ!』
「トーナメントか!」
「楽しそうじゃのぅ……」
「そうね」
「それじゃあ組み合わせのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」
ミッドナイトがくじの箱を取り出す。
すると、進出が決定していた内の2人が辞退を訴える。
尻尾が生えた男と少しポッチャリした男だった。
それをミッドナイトが認める。
「ということは5位の蛙吹チームの繰り上がりね!丁度2人だし」
「どうしましょうか刃羅ちゃん」
「せっかくでござる。出させていただくでござる」
「じゃあ私も出るわ」
「おっけい!!これで16名よ!」
「あれ?ヒーロー科A組しかいなくね?」
「しかたねぇだろ。結果だし」
そしてくじを引き、組み合わせが決まる。
刃羅の1回戦の相手は、
「上鳴はんか」
「乱刀とかよ!?」
「さっきの電気の仕返ししたる!」
「手足は斬り落とさないでね!?」
「レクに関しては進出者16名は参加するのしないも個人の判断に委ねるわ!」
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間!!楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
刃羅はレクリエーションに参加せず、人がいないところでのんびりすることにした。
「上鳴君か~。あの電気は厄介だよね~」
林の木の根元に腕と座禅を組んで考える。
「どうやっても私では触れなければならない。相性は最悪だ」
放電も帯電も刃羅には防ぐ手段がない。
顔を顰めて悩む刃羅。
しかし解決策は思い浮かぶことはなかった。
「……仕方ないの。やれるだけやるかとするかのぅ」
そして刃羅は目を閉じて瞑想に入る。
掴んだチャンスを活かすために、戦いに向けて集中するのだった。