サイヤ人のエリート兵士 作:うさぎのにくきゅう
──酷い有様だ。
空中に身体を浮かし辺りを見渡すと、僕の視界全体に映ったのは、人の気配がまるで感じられない程に荒れ果てた土地だった。
以前はこの惑星も緑が生い茂り、温和な動物達や原住民の住まう美しい惑星であった。
たった数日前の出来事だ。
異星人達が突然現れ、原住民達を襲い始めたのだ。
会話の余地は全く無かった。
温和な原住民は説得を試みたが、異星人達はまるで聞く耳を持たず、女子供問わず皆殺しにしていった。
僕は空を真っ直ぐと進みながら辺りを見渡す。僕の居た区域はまだ被害がマシな方であったが、進む先に見える区域は頭を抱えたくなる程に被害が甚大だ。
最早誰も生きては居ないのだろうか。そう考えていると、微かな気配を感じた。
まだ生き残りが居るのかもしれない。まだ、間に合うだろうか。
「お願い…お願い助けて!!」
助けを呼ぶ原住民の少女の声が聞こえた。
……罪の無い原住民がまた一人、異星人達に殺されようとしている。直ぐに声が聞こえた方向に向かって飛び立つ。
どうやら気配から察するに、異星人達は狩りを楽しむべく原住民をいたぶっているようだ。
これならば、もしかすると間に合うかもしれない。
居た。どうやら原住民の少女は岩影に身を忍ばせているようだ。だが、異星人達はスカウターを持っているし、既に居場所はバレているのだろう。
僕は急いで原住民の少女の元へ降り立ち、少女へと手を伸ばした。
「貴方は……」
「もう大丈夫だよ」
そう言うと原住民の少女は僕の手を握り、心底安心した顔をした…のだろうか。残念ながらこの原住民の表情の変化について僕はイマイチわからないけど、きっと安心してくれているのだろう。これで助かったんだ。そんな風に考えているに違いない。
「な…んで……」
だから、まさか僕に食い殺されるなんて思っていなかっただろう。
先ずは少女が僕に伸ばした腕を食い千切る。
もぐもぐ。あまり美味しくは無い。若い少女なら多少はマシかとも思ってわざわざ探してきたけれど、やはり他の原住民と比べて大して味に差は無いようだ。
「おいロトリー!!テメェオレ様の獲物を横取りしやがったなぁ!!」
「まぁまぁいいじゃん。少しくらい。あんまり美味しく無かったし、残りはやっちゃっていいよ?」
「そーいう問題じゃねぇだろぉ!!」
全く。何が不満だと言うのか。全部丸ごと美味しく頂くつもりだったのが片腕だけで済ませたのだから寧ろナッパは僕を褒めるべきだと思うのだが。
「ひ、酷い…貴方も…サイヤ人……」
「ん?そだよ?殺されかけて注意力が足りなかったんだね。尻尾が見えてなかったんだ」
個人的に食事はのんびり取りたいタイプだしわざわざヒーロー(笑)気取りの演出をしたけれど、それ程の価値は無かったかな。
ナッパももう僕に大声で怒鳴るばかりでこの少女を殺そうとしないので、あんまり美味しくは無いけれど折角だから全部頂いてしまおうと、少女に近づくと目の前をヒュンとエネルギー弾が通った。危ない。
というか少女燃えてるし。
「生きたまま生で食う奴があるか。焼いて食った方が美味いに決まっているだろう」
「おぉ!流石ベジータ君!確かにそりゃそうだ」
でもエネルギー弾はもう少し気をつけて飛ばして欲しかった物だ。もう少しで僕に当たる所だった。
ベジータ君が来たことで漸く煩く騒いでいたナッパも静かになった。
「じゃあ取り敢えず殲滅はできたみたいだし、一旦惑星フリーザに帰ろうか」
「おやおやぁ?そこに居るのはロトリー君じゃないかぁ?」
うん?何だか気色の悪い声が聞こえて振り向いてみるが、モブ顔の兵士以外誰も居ない。
なんだ気のせいか。
「おいこらロトリー!!無視してんじゃねぇよ!!戦闘力14000程度しかない分際でよ!!」
「もう。なんだよキュイ。僕は今からザーボンさんに報告に行くんだけど?」
全く。本来なら報告はリーダーのベジータ君、若しくは皆で行う筈なんだけど、ナッパとか直ぐにカッとなるからなぁ。
そうでなくとも敬おうという気はまるで無いだろうし、僕が行った方が色々と丸く収まるので報告は僕一人で行う事となっている。
「というか、いい加減僕らを目の敵にするの辞めたら?どうせ大猿化でもしたら勝ち目無いよ?君」
「へっ。月の無い所では満足に実力も出せない猿共が」
……はぁ。どうしてキュイはこうなのか。
昔から僕達サイヤ人…特にベジータ君に対してはやけに好戦的だ。
まぁ、どうせ僕達を敵視する事に大した理由なんて無いんだろう。
確かキュイの戦闘力は18000。我らがベジータ君とほぼ同程度だった筈だ。
とは言え、元はキュイの方が高い戦闘力を持っていた。
その差を縮めたのは僕らサイヤ人の持つ戦うごとに力を増す特性。そしてベジータ君の持つ圧倒的なまでの戦いのセンス。
極めつけはキュイ自身のトレーニング不足だろう。
奴は、というか基本的にフリーザ軍の上層部は皆だけれど、トレーニングなんてしなくても生まれつき戦闘力を持つ人間が多い。突然変異で高い戦闘力を持って生まれるタイプだ。ギニュー特戦隊もそうだし、フリーザ様なんて正にそうだ。
それ故に彼らの殆どは訓練とは無縁の存在なのだ。
散々キュイやザーボンさん、ドドリアやフリーザ様に見下されていてもベジータ君の態度が大きいままなのはつまりそう言う事だ。
いつかは超える。その自負がある。
事実、そうやって既にベジータ君はキュイと並んだ。
もうあと何回か死にかければベジータ君は確実にキュイの戦闘力を超えるだろう。
「まぁ、精々猛っていなよ。そうやって笑っていられるのも今だけなんだからさ」
「な、なんだと!?」
猛っていろと言ったのは僕の方だけれど、あまりぎゃーぎゃーと煩くされてフリーザ様にでも見つかって幻滅されたくは無い。
なのでさっさとザーボンさんの元へ向かうとしよう。
「──と、まぁそんな具合で原住民の殲滅は完了。星への被害は……ベジータ君は兎も角、ナッパの殲滅区域はランクを含めると多少ランクは落ちそうですね…」
「全く。奴らには困った物だな。無遠慮に暴れおって……」
「彼らにも言い聞かせてはいるのですが……」
「いや、わかっている。奴らが多少苦言を落とした所で品良く戦える筈の無い事くらいはな」
さっすがザーボンさんわかってるぅ。もしドドリアが上司だったらこうはいかないだろう。
ザーボンさんはフリーザ軍にしては珍しく道理を理解している。
僕らサイヤ人もそうだけれど、フリーザ軍はその性質上荒っぽい連中が非常に多い。
ドドリアなんてその典型だ。もし今回のような事をドドリアに報告すれば言い訳するんじゃねぇ!!と、感情任せに何も考えずただ怒鳴られる結果になるだろう。
「正にその通りだろうな。ドドリアの奴は知性の欠片も無く、その上に短気だ。そして醜い。……だと言うのにわが軍では奴を支持する者も多く居る。一体何故なのか……」
「我らがフリーザ軍で先ず優先される事項は腕っ節ですからねぇ。恐らくはあの知性の欠片も無いドドリアだからこそ何やら通じ合う物があるのでしょう」
「嘆かわしい事だな……その点、お前の事は評価しているぞ。知性もあるし、他のサイヤ人共は反抗的だが、お前はフリーザ様への忠誠心も強い。サイヤ人としておく事が勿体無いくらいだ」
「そんな。ザーボンさんのおかげですよ!」
ふふふ。周りに居るのが問題児ばかりだと相対的に僕の評価がぐんぐん上がって実に良い。
「フリーザ様もお前の事は気に入っていらっしゃる。何時かベジータも超えて欲しい物だな」
「ふふ。誠心誠意努力させて頂きますよぉ」
その後もフリーザ軍のこの先の事についてやフリーザ様の御家族についての噂についてなんかの雑談をして別れた。
ザーボンさんは中々にフリーザ軍の奥深い所まで話してくれていたし、思いの外僕の評価も高いようで僕の野望も少しずつ成就へと向かっているようだ。