555EDITIØN『 PARADISE・BLOOD 』   作:明暮10番

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忘れられない 1

 早朝の便より乗った飛行機は、目的地まであと百キロを残すだけだった。

 窓際の席、永遠まで続く雲海を眺めていた少女。時折、鬱陶しげに隣の席を一瞥する。

 

 

 隣の席の男はだらしなく足を放り出し、口をパカっと開けながら、頭を少女の席まで乗り出させて眠っていた。

 青いベレー帽を被り、青いジャケットを羽織り、更には青いジーンズ、青いスニーカーと、青尽くしの青年。

 一見して我が強過ぎる人間だと察知させるだろう。

 

 事実、最初の内は何度も注意をしていたが、言っても聞かないので諦めた。憂鬱な表情を浮かべながら、男の頭が邪魔なので、窓際に凭れて雲海を眺める事しか出来なくなった訳だ。

 

 

「……どうして乗り合いなんかに」

 

 

 今の内に人に慣れておけと言うのが、手配者の言い分だ。無責任過ぎる。

 だが、全く手が回っていない訳でもない。自身の荷物は事前に送られし、『重要物』に至っては監視官を黙認させ、搭乗させている。

 通学、通勤に電車を利用する人はコミュニケーション能力が上がると言う話を聞いた事はあるが、今更それを実践しても意味はないと思うが…………と、頭の中で鬱憤が渦巻いていた。

 

 

「……どうして私を……」

 

 

 二日前の事が、記憶として再生される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都の某所、深夜の神社に彼女はいた。

 拝殿の中央に座り、御簾が遮る向こう側へと意識を傾けている。

 

 

 篝火のみが照らす中、その御簾の向こうにいる長老らの話に驚嘆していた。

 

 

「……第四真祖が、日本に……!?」

 

「ええ。それも、厄介な形で」

 

 

 長老とは言うが、話をする女性は存外に若い声をしている。

 

 

「厄介な形?」

 

「『スマートブレイン社』はご存知ですか?」

 

 

 何故、スマートブレインの名前が出るのか疑問だ。

 

 

「はい。医療、電子工学、食品にも関わっている、日本を代表する企業です……スマートブレイン社がなにか?」

 

「スマートブレイン社は、武神具の開発や量産化にも着手しています。政府を含め、我々とも協力関係にある、世界有数の企業です」

 

 

 その事も勿論、彼女は知っている。世間で公表すれば驚かれるが、『関係者』たる少女にとっては常識だった。

 

 

「『六式』もスマートブレイン社製でした、良く存じております」

 

「そのスマートブレイン社が、第四真祖を持ち込んだのです」

 

 

 聞いた瞬間、少女の表情には分かりやすい動揺が現れた。

 

 

「スマートブレインが……!?」

 

「詳しい事情は分かりませんが、彼らは第四真祖の『何か』を手に入れていたようです。政府も我々も、純粋な協力者と思っていたばかりに不意を突かれました。……恥ずべき有様です」

 

「しかし、その……発覚しているという事は、既に対応されているのでは? 世界的な企業と言えども、その不祥事が見過ごされているハズはないかと」

 

 

 幻の第四真祖を所持して尚も秘匿し続けていた。何に使うか知れた事ではない。

 それに第四真祖は、「実は持っていました」で「はいそうですか」で済む存在でもない。世界のパワーバランスさえ変えかねない、禁断の存在だ。発覚したならば国内外問わず、全ての関係組織が寄ってたかってスマートブレインに乗り込むハズ。

 

 事件は速攻で解決されるだろう。事後報告を、この場でするには大袈裟過ぎる。

 

 

「確かに攻魔官が送り込まれ、世間へは秘密裏に対処はされました」

 

「なら……」

 

「しかし、『厄介な形』はその時に発覚しました」

 

 

 声に神妙さが付随する。

 

 

 

 

「……第四真祖の『力』のみが奪われ、行方をくらませました」

 

 

 御簾の下より、写真が飛ばされ彼女の前に滑り落ちる。

 

 

「それが真祖の力の保持者、『村上峡児』。ご存知でしょう、スマートブレインの元社長です」

 

 

 写真の人物は、街頭の電子広告で見慣れた社長の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ」

 

「わっ!」

 

 

 突然声をかけられ、少女は身体を跳ね上げる。

 隣の席の男だ。いつの間にか目を覚ましていた。

 

 

「お嬢さん、制服だけどなに? 通学? 最近の学生て、飛行機通学とかするもんなの?」

 

 

 彼女の着ていた服は、綺麗な水色が印象的の可愛らしいセーラー服。

 調査先の学校に編入する手筈となり、そこの制服を着用していた。

 何故、社長を探す為に学校へ通わねばならないのかは、また別の要因になるが。

 

 

「……転居するんです」

 

「『絃神島』に? 頭良いの?」

 

「おじさんには関係ないじゃないですか……」

 

「おじさッ!? 馬鹿! 俺まだ二十六だ!! 失礼な学生だな!」

 

 

 彼女にとって苦手なタイプだ。周りの目を憚らずにテンションだけ高い人間は特に。

 

 

「……ちゅうか、親は? 一人か?」

 

「一人です。親元を離れて」

 

「わっかいのにやるなぁ! そーゆー独立心強い人好きなのよ、俺」

 

 

 中学生相手に口説いているのかと警戒したが、男のぼんやりした目からは好色の念が見て取れない。

 感じからして、姪っ子が遊びに来た時の叔父と言った雰囲気だ。少し興味が湧いた。

 

 

「……貴方は何しに絃神島へ行くんですか?」

 

「俺か? 聞いて驚くなよ? ビッグになる為だ!」

 

 

 聞いた自分が馬鹿だったと呆気に囚われる。

 

 

「お前今、馬鹿に思ったろ!?」

 

「……島へは厳重な入島審査が敷かれています。おいそれと一般人が行ける訳ないじゃないですか」

 

 

 その審査を突破する為に、『絃神市関係者の学生』として絃神島に行く事になった。『上』は他の組織の目に非常に敏感だ。

 

 

「つまり、おじさんにも理由と、それなりの経歴があるって事です」

 

「だからおじさんはやめい!……本当に頭良さそうだな。良いぜい、教えてやるぜい」

 

 

 剽軽な性格だが、不思議と嫌味に思えないのは、彼には『自信と生真面目さ』があったからだ。

 

 

「俺が滞在するのは、ほんの二週間。謂わば! 俺様の力試し……ってか?」

 

「なんではぐらかすんですか……」

 

「グレード上げて教えても良いが、ネタバレには厳しいんもんで。かんこーれい? っての?」

 

「……はぁ」

 

「ほらあ! プロほど多くは語らないって言うじゃん? 俺、プロだし?」

 

「……………………」

 

 

 口では軽いが、人懐っこい笑みと目の奥には純粋な輝きがある。

 本当に彼は何かのプロフェッショナルだと信じられるほど、その輝きは眩い。

 

 

「まっ! お嬢さんが島に行くなら、会う機会はある。そん時はよろしくぅ」

 

「結局、貴方はなんですか……」

 

「んじゃ、もう一眠りする!」

 

 

 そう言って彼はまた、間抜けな顔で眠り出した。

 嵐のような人だなと思いながら、またコテリと乗り出して来た頭を避ける為、窓際に凭れる。

 

 

 

 

 内心では、『電車で通勤通学云々』の話を信じても良いとも感じた。

 少し肩の荷が下りた気がする。

 

 厚い雲が晴れそうになる。それに気がつくと、彼女は窓を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 それから一時間もしない内に、飛行機は絃神市の空港に到着した。

 着陸し、上部のライトからアイコンが消灯すると同時に、ベルトを外して通路に渡る。

 アテンダントの案内に従いながら流れるままに行くと、預けた荷物を流すコンベアが見えて来た。

 

 

 しかし、彼女はそこで荷物を待たない。別の出口に行き、待機していた乗務員に名前を言う。

 

 

 

「『姫柊雪菜』です。例の物を」

 

 乗務員が一瞬消えると、ギターケースを持って来た。確かに自分の物だ。

 貴重な品物を、検品中に盗まれるなんて事があってはならない。プライベートコンテナと呼ばれ、検品から荷物の受け渡しまで顔の割れた信用の出来る人物が行う。だから彼女の『荷物』は、黙認された。

 

 

 

 

 ケースを担ぎ、早々に空港を出ようとした。

 

 

「あ、お嬢さんお嬢さん」

 

 

 それを呼び止めたのは、あの男だった。

 大きなキャリーバッグと、少女と同じギターケースを持っている。

 

 

「あら? もしかしてギター? 俺の関係者だったりした?」

 

「……奇遇ですけど、関係はないですよ」

 

「まぁ、確かに指も長いしさ。上手い?」

 

「趣味の範疇です」

 

「いやいやいや! それにしたって荷物それだけですやん?」

 

 

 これ以上追及されては不味い。相手に出来ないと考え、さっさとタクシーを捕まえに行こうとする。

 

 空港前のロータリーに行こうとした時、顔の横にサッと何かが飛び出た。後ろから彼が、チケットを渡した。

 

 

「ペアチケ。絶対見に来い! 上等な席だからな、ラッキーガール!」

 

 

 おずおずと受け取ると、彼はバッグを引きながら鼻歌交じりにロータリーへ消える。

 

 チケットを眺めてみた。

 

 

 

 

 

『クラシックギタリスト海堂直也 ワールドツアー・IN 絃神市』

 

 

 世界的なクラシックギターの奏者、『海堂直也』。

 さっきのちゃらんぽらんな恰好とは打って変わり、ピシッとスーツを着た彼がプリントされている。あの、人懐っこい笑みを浮かべた彼が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《 PARADISE・BLOOD 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから! 流石に一時間待たせはおかしいっての!」

 

「うるせーなぁ! 俺じゃなくて料理している奴に言えよ!」

 

「はぁ!? あんた店員じゃん!? 料理以前にその態度は非常識過ぎ!」

 

「おめーがウダウダ言うから言ってんじゃねぇか! てか食い過ぎなんだよ! さっきから何回も何回も頼みやがって! そんだけ食ったら一時間くらいどーでも良いだろ!」

 

「うっわ……マジでムカつく……!」

 

 

 時刻は正午、ランチタイム。

 頼んだ料理が一時間……本人が言うには一時間と四十二分らしいが、それを言ったら店員が不遜な態度を取った。

 怒った客が語気を強めて攻めたら相手も躍起になり、口喧嘩に発展してしまった訳だ。

 

 

「浅葱……威力業務妨害とか言われたら面倒よ。後は店長さんを呼んで……」

 

「あっちが先に突っかかってんだから相殺じゃん相殺! 第一飲食店員の癖に、この不潔な髪が気に食わない!」

 

「髪は関係ねぇーだろ! 身なりで言ったらそっちがバリバリじゃねぇか!」

 

 

 付き添いの少女が仲裁しようとするも、互いにムキになっており、収拾がつかない。

 結局は事態を聞き付けた店長らしき男が現れ、平謝り。

 

 

「も、申し訳ありません! 彼、今日が初出勤でして……ほら、謝って!」

 

「フンッ!」

 

「だから、ほら!」

 

「イッテェ!」

 

 

 後頭部を鷲掴みにし、無理やり彼の頭を下げてやる。

 ギャルっぽい少女は不機嫌そうに腕を組み、どかっと席に座った。

 黙り込んだ彼女の代わりに、付き添いの真面目そうな少女が代弁する。

 

 

「……お騒がせした事は謝罪しますが、この店員さんは問題があります。キチッと処罰を与えてください」

 

「は、はい! 誠に申し訳ありませんでした!」

 

「だから俺はなぁ!」

 

「君は黙ってて!!」

 

 

 

 

 

 

 そんな悶着を起こしたとあり、彼は帰される事となった。

 

 

「やっぱ接客は向いてねぇや。もっと楽な仕事ねぇかなぁ」

 

 

 早々に辞める気持ちで、帰り道。

 巧は全く反省の色を見せず、不貞腐れながら歩いていた。

 

 

「面倒な他人と関わらない仕事……さっさとこの島から出てぇな」

 

 

 

 

 絃神島ないし絃神市は、日本中の有名企業や大学の研究機関が集結する。最早、島丸ごとが巨大な研究所と言っても構わないほどだ。

 ここにいる人間は研究員か、高度な技術を持ったプロフェッショナル、或いはその子どもが殆ど。なので自ずと、「この島での企業就職はエリートに限られる」と言う事態に陥る。

 前述の子どもたちをエリートに育て上げ、それを待ち構えているとも言える。彼にとっては忌々しい話だが、悶着を起こしたあのギャルも何かしらの有名企業社員の娘か、有名学者の娘だろう。

 

 

 

 

 乾巧のような男は、相手にされない。接客業ばかりのアルバイトか、小売業系に就職するしかない訳だ。

 勿論、彼も父親は有名な…………………………

 

 

 

「……やっぱ、なんか違う」

 

 

 父親に母親、そして妹。全員の立ち場を理解しているし、昔の姿も知っている。

 しかし、何故か違和感が生まれる。思い出としてある家族の記憶も、海馬では納得してもそれ以外の脳部位では否定が起こっていた。

 

 

 子どもの頃の出来事が、現実にあった事か夢の世界だったのか思い出せない、あの感覚に似ている。彼の場合は、その感覚が記憶全部を対象としている訳だ。

 

 

「……そもそも『暁』って名字はなんだ? 俺は『乾』のハズ……乾って何処から来た?」

 

 

 自身の名字すら疑うほど、この違和感は異常だった。

 

 

「……俺はなんなんだ?」

 

 

 

 

 路上を歩いていると、向かい側から来た二人組と対面し、互いに立ち止まる。

 

 二人組は若く、見るからに素行の悪そうな男。並列して歩いていた癖に、前から来た人間を譲る気はないらしい。睨み付け、道を外れろと主張する。

 それは巧もそうだった。

 

 

 

「……どけよ。俺が歩いてんだぞ」

 

「あ? お前、誰に口聞いてんのか分かってんのか?」

 

「知らねぇよおめぇなんざ。通行の邪魔なんだよ! 一列に歩け!」

 

 

 バイトでの一件で、彼は苛ついていた。

 それにチャラそうな二人を見ると、言い争ったギャルが脳裏を掠め、怒りが勝る。

 

 

「……なぁ、あんた? 今なら許してやるから謝れよ」

 

 

 片割れがニヤニヤしながら、そう告げる。

 また謝罪してたまるかと、彼も躍起になる。

 

 

 

「なに言ってんだぁ? これに関しては俺は……」

 

 

 すると視線が、彼ら左手に移った。

 二人組は左手に、金属製の腕輪を嵌めていた。

 

 

 

 

 

 この世界には、『人間』と『魔族』の二種がいる。

 人間と魔族は昔から対立した事もあれば、畏怖の対象とした事もある。

 

 

 今も関係自体は変わらないかもしれないが、比較的穏便で平和な物になっている。強大な力を持つ魔族が減り、彼らよりも力が劣る人間が増えた。これにより魔族は人間に数の多さで押し負ける事を恐れ、人間も魔族が決起を起こして全面戦争になる事を恐れている。

 

 現代が選んだ両者の関係は、『不可侵』。人間は人間、魔族は魔族と割り切るべきだとした。

 だが一方で、魔族の減少化も深刻な事態。生き残るには、人間社会に参入しなければと必要を感じ始めた。

 

 

 

 

 絃神島は、そのモデル都市だ。人間と魔族の共存が実現出来る証明としての側面がある。

 

 人間は魔族の研究を行い、魔族は安定な生活を得る。Fifty・Fiftyの関係を、実現していた。

 

 

 

 

 

 しかし、魔族が暴走を起こし、危害を加える事があってはならない。

 彼らが街中で不当に魔力を行使しないよう、腕輪を嵌める義務が課せられる。魔力を使えば、攻魔官がやって来る仕組みだ。その腕輪を、巧の前の二人は嵌めていた。

 

 

 だが攻魔官が来るのは、魔力を使った場合。使わずとも、魔族の物理的な力量は一般人間を凌駕している。

 喧嘩をすればタダで済まない。しかも二人、巧に勝ち目はない。

 

 

 

 

 

 以上の事を、巧は今、思い出した。

 

 

「…………すまんかった」

 

 

 分の悪い事態に、彼は謝罪する。

 しかしそれでも、意地が勝っているのか、太々しい。

 

 

「なんだよその態度! キチッと土下座しろよ!」

 

「は? 土下座?」

 

「ああ。それなら許してやるぜ?」

 

 

 真夏の路上。太陽光に蒸された道は、鉄板のような熱さを持っている。

 そんな場所に土下座するのも、そもそも相手が悪いのに土下座する事も、彼には納得いかなかった。

 

 

 

 

「……誰がするか! してたまるか! 火傷するだろ!」

 

 

 結局、突っかかる。

 魔族と知りながらも強気な態度を取る彼に、二人組は驚嘆三割、怒りが残りだ。

 

 

「てめぇ、もういっぺん確認するが、俺が誰か分かってんだろうな!?」

 

「魔族だか何だか知らねぇし、関係ねぇよ! 悪いのはそっちだろ!!」

 

「言い切ったなお前!?」

 

 

 片方が巧の胸倉を掴む。

 強大な力だ、彼の身体が持ち上がり、踵が浮いた。

 

 

「離せよオイ! 服、破れるだろ!」

 

「服の心配より自分の心配しろよなぁ! ああ!?」

 

「うっせぇコノヤロ! やるか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 喧嘩秒読みの所へ、止めに入る人間がいた。

 

 

「あの。失礼します」

 

 

 三人は一切に、そっちを見る。

 会社員風の、スーツの男だった。線は細く、強そうには見えない。

 しかも腕輪を嵌めておらず、巧と同じ人間だった。左手に、アタッシュケースを握っている。

 

 

「なんだ? お前も俺らにぶっ飛ばされてぇのか?」

 

「……おい、あんた! これは俺たちの喧嘩だ! 横槍入れんな!」

 

 

 巧も含め、部外者を跳ね除けようと声をあげた。

 男三人に睨まれ糾弾、しかも弱者と思われている巧さえ拒否するのなら、助けに来た身ならさっさと退散するだろう。

 

 

 

 

「いえ。喧嘩をしに来た訳でもなく、貴方を助けに来た訳でもありません」

 

 

 男は首を振りつつ、ケースを地面に落とす。

 

 

「『コレ』の性能を確かめたい所……ですが、人間の貴方を、『試さねば』なりません」

 

 

 当惑する巧、怪訝な顔をする二人組。それらの反応を楽しみながら、男は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 胸に付けられた、バッチに気が付いた。

『SMART BRAIN』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方がた全員が、モルモットです。では、実験を始めます」

 

 

 

 

 

 男の顔に、赤黒い模様が表出する。

 模様に驚いている隙に、男の身体が変化を始めた。

 

 身体の内側から盛り上がるように肉体が隆起し、その肉体が固まって行くかのように白く、別の形へと変貌する。

 胸、腹部、頭部、下半身……同じプロセスで隆起と硬化を繰り返し、男の姿は別の存在となる。

 

 

 

 

 燃えるような目が、三人を睨む。口から出た二本の牙は天へと尖り、鋭さを察知させるかのように鈍い輝きを放っていた。

 胴体はまるで中世騎士のような鎧を纏い、足と腕は太く獣の物。だが体色は一切なく、灰白色一色。まるで石像が、意思を持って動いているかのようだ。

 

 

 

 

 突然、現れた怪物。その怪物を見た瞬間、巧の記憶は逆流するかのように廻り始めた。

 だが、延々と思い巡らしていた訳ではない。彼が意識出来るほどではなく、無意識で気付けた程度だ。

 

 

 

 

 

「『オルフェノク』!?」

 

 

 巧はそう叫んだ後、「オルフェノクってなんだ?」と自問自答した。

 この事態には、魔族である二人も動揺したらしく、膠着している。巧の胸倉を掴んだまま。

 

 

 怪物は一歩踏み込んだと思えば、顔面前方部の、豚のような鼻穴から六本の触手を飛ばす。

 

 

「ッ!! 離せ!!」

 

 

 力の緩んだ隙に、巧は魔族の腕から引き抜け、地面に倒れ込んだ。

 さっきまで彼の頭部があった所に、触手は集まっていた。彼を狙っていた訳だ。

 

 

 

「うわっ!? 気持ち悪っ!!」

 

「お、お前、魔族……なのか!?」

 

 

 触手を収納し、怪物は溜め息混じりに続ける。

 

 

 三人は目を疑った。怪物の影の上半身部に、人間の姿の彼が青白いオーラとして浮き出ていたからだ。

 

 

『……人間を取り逃がしてしまうとは、私とした事が』

 

 

 そのオーラが、喋っているようにも見える。

 

 

「お前、腕輪をしてねぇのに!?」

 

『魔族と一緒にしないでください。私はまた、新たなる者です』

 

「わ、訳分かんねぇ事、言いやがって!」

 

『君たちは「コレ」の試験体ですが……良いでしょう。相手を致します』

 

 

 オーラが消失したと同時に、怪物は拳を構え、二人に襲いかかる。

 二人の内、一方が手前に躍り出る。男の身体は服を破き、筋肉が膨れ上がった。

 

 

 

 

 

 腕輪がサイレンを鳴らす。疎ましく思った男は腕輪を剥がして捨てた。

 巧の目の前には灰白色の獣人と、茶色い狼男が対峙している。

 

 辺り一面のスピーカーなら鳴る避難警報を背に、巧は路上に置かれたままのアタッシュケースを、意味深に眺めていた。

 その目には、闘志。




別作品たる仮面ライダークロス作品、『COCODRILO ー ココドゥリーロ ー』もお願いします。
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