555EDITIØN『 PARADISE・BLOOD 』   作:明暮10番

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目を覚ます

 戦え。

 戦って、勝て。

 そして、戦い続けろ。

 

 

 答えはその先にある。

 

 

 だから、戦え。

 

 

 

 

 

 

 久遠から、声が聞こえた。

 

 

 

 open your eyes, for the "NEXT FAIZ."

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

『COMPLETE』

 

 

 高速で回転するギアのような音が響く。

 その音と共に、巧の身体に赤いラインが走り、包み込む。

 

 

 閃光。

 そこにいたのは、先ほどの怪人と同じ姿。

 だが、その心は違う。溢れんばかりの闘志を燃やす正義。

 

 

 

 

「……よぉし」

 

 

 怪物の予言に反し、彼は変身を成功させた。

 

 

 

『ば、ば、ばば、馬鹿なぁ!?』

 

「か、変われた……!」

 

『おかしい……あり得ないッ!!』

 

 

 巧は姫柊の方へ手を差し出す。人間の要素を伺えない、無機物な手。

 

 

「ほら。立てよ。後は俺に任せろ」

 

「……あなた、一体……」

 

「それはお互い様だろうよ」

 

 

 その手を掴み、思い切り引く。

 姫柊は立ち上がり、呆然と巧を見た。ギリシャ文字の『φ』を彷彿とさせるマスクは、揚々と光っている。

 

 

 

 

『何故……貴様が、「ファイズ」に!?』

 

「『ファイズ』か。じゃあお前、『オルフェノク』だろ」

 

『は!? 何故、その名を……!?』

 

「知らねぇ。なんか知ってた」

 

 

 

 右手首をスナップした後に巧……『仮面ライダーファイズ』は、怪物『オルフェノク』に突撃する。

 

 

「あ、あの! 戦闘経験は……!?」

 

 

 姫柊の杞憂を吹き飛ばす、ファイズの攻撃。動転するオルフェノクの前で飛び上がり、顔面に拳を叩きつける。

 

「オラァ!」

 

『くぐっ!!』

 

 後退りさせたものの、追撃は終わらない。

 

「ハッ!」

 

 懐に入り込み、左ストレートを胸にぶつける。衝撃はオルフェノクの装甲を通過し、芯の部分まで届く。

 

 

「ハァッ!!」

 

『あぁ!!?』

 

 

 痛みに悶えている内に右足を上げ、体重を込めた前蹴り。これには獣人並みの巨体を誇るオルフェノクも耐えられない、無様に路上を転ぶ。

 

 

 

 

「ふん。どんなもんだ、戦えるぜ」

 

「……荒い、荒すぎます。武術の基礎もなっていません。まるで不良の喧嘩じゃないですか」

 

「んなこた知るか!……ったく」

 

 

 手首をスナップ。

 立ち上がろうとするオルフェノクへ、再度距離を詰める。

 

 

『こ、この……モルモット風情が……!!』

 

 

 妙な気配を感じ、ファイズは立ち止まった。

 

 

『許さんぞぉッ!!!!』

 

 

 オルフェノクの下半身の肉体が肥大化し、ケンタウロスのような形態に変貌を遂げる。

 全長も大きく飛躍。牙が湾曲し鋭く前へ突き出された。ファイズよりも二回り、巨大化。

 

 

「お前も変わった!?」

 

『ゆぅぅぅるぅさぁぁんんぞぉぉぉぉぉッッッ!!!!』

 

 

 短い足から想像も出来ないほどの駿足さで、ファイズに突進をかます。

 頭部を下げ、突き出した牙を槍の穂先のように構え、串刺しにしようとする。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 変に近付いたせいで、避ける間合いがない。仕方なくファイズは、それを受け止める為に防御姿勢を取る。

 

 

 

 

 

 

「『(ゆらぎ)よ』!!」

 

 

 窮地を救ったのは、姫柊。

 ファイズの傍を抜け、オルフェノクの真横に着いたと思えば、軸足を回転させ胸元まで曲げ、華麗な横蹴りを食らわす。

 

 

『ォッ!?』

 

 

 横腹に彼女の蹴りを受けたオルフェノクは、自身よりも明らかに小さい少女に容易く倒される。

 

 

「ふぅ……今のが、正しい姿勢の蹴りですよ」

 

「……お前、足に何か埋め込んでんのか?」

 

「『呪術』です。ご存知でしょ?」

 

「オカルト話かよ……ん?」

 

 

 オルフェノクは再び、立ち上がろうとしている。だが、その間が大きな隙であり、命取りだ。

 

 

 

 

「……よし。これだ」

 

 

 ベルト右部に掛けられていた装置を手に取る。ライトのような……ポインター装置。

 携帯電話からチップを抜き、その装置にスライドし装着する。

 

 

『READY』

 

 

 

 装置は右足にセットが可能だった。装置にある固定部を、足首のプロテクターに嵌め、ポインターの先端部が地を向くように回す。

 

 バックルの携帯を開き、Enterボタンを押した。

 

 

『EXCEED CHARGE』

 

 

 モスキート音と共に赤い光がラインを伝い、装置を目指して進む。

 巧はその間、腰を深く落とす。右腕を右膝に乗せ、左手はダランと気怠げ。ジッとその時を待つ。

 

 

 

 

 右股関節から大腿、脛を通り、装置に到着。

 オルフェノクは既に、態勢を整えていた。だが、全く問題はない。

 

 

「立ちます!」

 

「もういい。勝った」

 

「へ?」

 

 

 準備完了と共に、ファイズは走り出した。

 オルフェノクが彼を視認するより先に、宙高く飛び上がる。

 

 

 

 飛びながら身体を丸め、綺麗な一回転。

 ファイズが地上を走っているのではなく、跳躍していると気付いた頃にはもう遅い。

 

 ポインターの先端がオルフェノクに向いた瞬間、そこから赤い光線が射出。

 

 

「これは……!?」

 

 

 光線は眼前で円錐型に尖り、静止。まるで矢がオルフェノクを突き刺さんとするようだ。

 

 

『く、「クリムゾン・スマッシュ」まで……!? 使いこなし……ッ!!』

 

 

 ファイズは円錐の後方から空洞部目掛けて、飛び蹴り。

 靴底には、『Ø』の字が赤く輝いていた。

 

 

 

「やあああああああああッ!!!!」

 

 

 

 雄叫びをあげ突っ込む。

 円錐に入った瞬間、静止していたそれは急速回転し、ドリルのようにオルフェノクの腹部に突き刺さる。

 

 

 

 

『うぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??』

 

 

 断末魔の叫び、成す術はもうない。

 

 

 

 全てが消失した後、ファイズも消えていた。

 いや、赤いホログラムを纏わせながら、オルフェノクを突き抜けている。溶けたアスファルトを滑り、着地。

 

 

 

 オルフェノクの背面に、巨大な『Ø』が現れたと同時に、身体中から青い炎が燃え上がる。

 

 

『あぁぁ…………!』

 

 

 そのまま砂の城のように、オルフェノクは身体の各部をボロボロに崩し、灰と化す。生命はもうない。

 

 

 

「…………灰……」

 

 

 

 風に舞う灰の中、巧が姫柊の方を向く。

 白く、物悲しい欠片の向こう、陽炎に揺らめく赤き戦士。

 

 

 舞い上がった灰は憎たらしいほど青い空へ羽ばたき、雪のように散り落ちる。黒いアスファルトが、パールグレイを帯びていた。

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 暫し二人は見つめ合い、一瞬の沈黙が場を支配する。

 あの巨大な怪物を一撃で灰にしたこのファイズの力に、放心していた。

 

 

 

「終わったぞ。どうする?」

 

「………………」

 

 

 姫柊は灰を踏み越え、ファイズの傍へ。

 

 

 

 

 

 

 

「……話は、じっっっくり聞かせてもらいますからね!」

 

 

 ベルトを掴み、そのまま引っ張る。

 

 

「ちょ、ちょ、おい!? おいっ!?」

 

 

 途中、離脱させていたギターケースとアタッシュケースを拾い上げ、路上を去る。

 巧はファイズの姿のまま、意外と力の強い姫柊に驚きつつ、連れて行かれるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曲がった街灯、融解したアスファルトとガードレール、焼け焦げた街路樹と、限りなくグレイの灰。

 そこに生命は何もない。あるのは、死だった。

 何もない、死。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

( PARADISE・BLOOD )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異常事態だった。

 魔族による攻撃魔力の感知が起こり、指令のまま攻魔官は現場に急行する。

 しかしそこは、平和な繁華街。情報とは微塵も違っていた。

 

 

 結局は住民らの通告と、避難勧告が鳴らされていた一つの地区の報告により、彼らはそこに向かう。知らされていた場所と、完全に真逆。

 

 

 

 

「……これはどういう事か?」

 

 

 現場に着けば、溶けたアスファルトに謎の灰と、理解出来ない状況だった。

 真夏の熱波の中、場違いなドレスに身を包み、優雅に日焼け傘を差した少女が厳しい表情で、検分している。

 

 

 

 本当は彼女が来る予定は無かったが、以上の事態の為に急遽、呼び出された。

 

 

「こっちも、意味が分からない状況でして……魔力の感知場所は全く関係ない地区でしたし、急行すればこの有様で……」

 

「この島に限って機械の誤作動はないだろ」

 

「ハッキングによる妨害工作を視野に入れて調査しています」

 

「……絃神島のネットワークに入り込むハッカーなど、化け物か」

 

 

 彼女が気に留めたのは、灰。

 

 

「なんの灰だ」

 

「木じゃ、ないですか? ここら一帯の街路樹が燃焼していますし」

 

 

 確かに街路樹はチリチリに焦げていた。しかしそれにしては、灰の量が多過ぎる。バケツに溜めてひっくり返したかのようだ。

 また灰に触れてみるが、全く熱を帯びていない。炎天下と言うのに、その灰は不気味なほど冷たい。

 

 

「……………………」

 

 

 

 この事態だけで、二つの思惑がある。

 

 

 一つは、この異常空間を作った存在。

 もう一つは、情報操作による妨害。

 

 

 偶然ではないハズだ。この二つは、繋がっている。

 

 

 

「……むっ」

 

 

 灰の中から、彼女は何かを見つけた。

 それは彼女にとって、忌むべき物となった。同時に確信と、困惑を呼び込む。

 

 

 

 

 

「……『スマートブレインのバッチ』……」

 

 

 現在、スマートブレイン社は、渦中の社員を全て確保し、政府主導と監視の下、国民へ守秘しつつ体質改善が図られていた。

 結果、多くの重役や研究員が連行されたが、政府にとって信用のおける人物がポストとして就任された。スマートブレイン社はあまりにも大きくなり過ぎた、頭ごなしに解散させれば日本経済は大打撃を受ける。致し方のない処置だ。

 

 

 連行された元社員らは情報を提供したが、残念な事に政府側が入念に調査していた内容以上の情報は、一つのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の脳裏には、あの日の光景が蘇る。

 紅い光を宿し、暗闇に落ちた研究所内で佇む……異形の存在を。

 

 

 

 

 

「そう」

 

 

 異形の存在は、こう告げた。

 

 

 

「『我々』は、『新たな王』を確立する。この力は謂わば、『血の代償』ですよ」

 

 

 

 

 

 彼の言った「我々」。つまり、他に仲間が存在している事を示唆しているに他ならない。

 薄々気付いていたが、もしや捕らえた社員らだけでは足りないのではないか。もっと巧妙に隠れた、底の存在がいるのではないか。

 

『新たな王』とは、『血の代償』とは……異形の存在は言うだけ言う。それ以上を語らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん」

 

 

 少女は立ち上がり、踵を返す。現場から立ち去ろうとした。

 咄嗟に別の攻魔官が話しかける。

 

 

「何処へ行かれるんですか?」

 

「………………」

 

 

 鋭い眼光が、遠くの高層ビルを捉える。

 

 

 

 

「……『スマートブレイン社』。あそこにはまだ、何かある」

 

 

 調べ切れていない何かが、あるハズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、巧と姫柊。

 変身を解除した彼はベルト一式をアタッシュケースに入れ、それを片手にマンションの階段を登っていた。

 その後ろに、姫柊の姿。

 

 

「公共じゃ話せない内容だからって……普通、ウチに来るかぁ?」

 

「近いそうですし、こんな姿で出歩けませんよ。『雪霞狼(せつかろう)』をよもや紛失するなんて……ぐぅぅ……!」

 

 

 姫柊の制服はオルフェノクとの戦闘により、汚れている。胸元のリボンも切れて外れてしまい、何処かに行ってしまった。

 

 巧もそうだ。吸血鬼より顕現した眷獣の熱量で、髪と服の裾がチリチリになっている。人前を出歩ける恰好ではない。

 

 

「すぐ空港と機関に問い合わせなくては。すみません、電話を貸していただけませんか?」

 

「持ってねぇよ……てか、持っとけよ!」

 

「支給された物を取りに行く前にこんな事になりまして……持っていないのはあなたもじゃないですか」

 

「俺は紛失したんだよ」

 

「私より情けない理由じゃないですか」

 

「うるせぇな! お前も何ちゃらっての紛失してんじゃねぇか!」

 

 

 そんな事を言い争いながら、七階に到着。

 七◯四号室の前に来ると、巧は立ち止まった。表札に『暁』とあるが、彼の家らしい。

 

 

 

 

「……あなた、『乾』って言ってませんでした?」

 

 

 お互いの名前は途中で言っていた。

 巧は馴染みのある『乾』の苗字で自己紹介していた。

 

 

「暁だけど、乾だ」

 

「居候でもしているんですか?」

 

「まぁ、そんなもんだろ」

 

 

 ドアノブに手をかけ、開く。鍵はかけていないので、誰か別にいるらしい。

 

 

「ただいま」

 

「えと、お邪魔します」

 

 

 中に入るとリビングから、エプロン姿の凪沙がやって来る。

 

 

「たっくん、ファミレスのアルバイトにしては早過ぎない? もしかして、またブッキングでもして……」

 

 

 玄関先に立つ、ボロボロの兄と、彼以上にボロボロの見知らぬ少女の姿を見て、理解に至らず一瞬フリーズ。

 

 

「…………え? どうしたの、たっくん? あと、その人は……」

 

「……説明はするから、取り敢えずお前の服貸してやれ。あと、風呂も」

 

 

 何もそこまではと躊躇する彼女の様子に気づいたのか、断りを入れられる前に背中を押す。

 

 

「入っとけ入っとけ。あいつには説明しておくからさ」

 

 

 ここに来るまでのぶっきらぼうで粗暴な口調から、少し柔らかくなった表情と声色。

 呆然としている内に巧は靴を乱暴に脱ぎ、アタッシュケースを持ったまま自室の方へと歩いて行く。

 

 

 彼は兎も角、同居人の彼女から変に思われていないかと表情を伺うが、凪沙の表情には好奇の念がある。

 

 

「その制服、彩海学園中等部の、だよね?」

 

「え? そうですけど……」

 

 

 自分が籍を置く予定の学校だ。

 

 

「あたしも彩海学園中等部なんだ! お歳は?」

 

「十四……四ヶ月後には、十五になります」

 

「あ! じゃあ、同級生だね! でも、見覚えがないけど……」

 

「今日、絃神市に来たばかりです。夏休み明けには会えると思いま……」

 

 

 姫柊が言い切る前に、凪沙は彼女の手を握った。

 

 

 

 

「あたし、『暁凪沙』! 転校生ちゃんって事だよね? 名前は?」

 

「ひ、姫柊雪菜です……」

 

「雪菜ちゃん! あたしの事は凪沙で良いよ、よろしくねっ! 何があったか分からないけど、困った時はお互い様だもんね! さぁさぁ、上がって上がって! 荷物は端に置いてて構わないから!」

 

 

 秒速で懐く凪沙に手を引っ張られ、急いで靴を脱ぐ。

 そのまま引かれるままに玄関へ上がり、廊下の隅にギターケースを置いた後に困惑したまま用意されたスリッパを履く。

 

 

「おい。俺のケータイは?」

 

 

 浴場まで案内される途中、自室から顔を出した巧が止める。

 凪沙が呆れたような声を出した。

 

 

「たっくん、殆ど電話使わないから、この島に来る前に解約されちゃったじゃん!」

 

「ハァ!? 誰に!?」

 

「誰にって、お母さん! 四年も前の話だよ! 就職するまで要らないとも言ってたじゃない、まだ寝惚けているの?」

 

 

 間抜けな顔で唖然とする巧をほっぽり、脱衣所の扉を開けて姫柊を入れる。

 

 

「バスタオルと服は用意しておくから! 浴槽沸かしていないから、シャワーだけになっちゃうけど、大丈夫?」

 

「えと、構わないですけど……使わせて貰っても良いんですか?」

 

「良いよ良いよ! お掃除も済ませているし! あ、シャンプーとかコンディショナーはあたしの使って良いよ! 女の子だから髪の毛のケアは大事だよ! 浴室の上の棚があたしのだから! あとボディーウォッシュ用のタオルは固めと柔めがあるけど……」

 

「おい凪沙。早く入れさせてやれよ」

 

 

 口が止まらない凪沙を見かねた巧が、彼女の後ろから注意する。既に服を着替えていた。

 

 

「あぁ、ごめんね? 雪菜ちゃん! 何かあったら、浴槽の側に呼出ボタンがあるから呼んでね!」

 

「い、色々と気を利かせてもらいまして……」

 

「大丈夫大丈夫! じゃあっ、ごゆっくり!」

 

 

 脱衣所の扉を閉めるとパッと振り返り、巧を顰めっ面で見つめる。

 

 

「たっくん、何かしたの?」

 

「俺じゃねぇよ!……まぁ、大変な事に巻き込まれてな。魔族に襲われて……」

 

「えっ!? ま、魔族に……!?」

 

 

 凪沙が魔族にトラウマがある事を、巧は思い出した。また覚えのない記憶だ。

 

 

「……ちょっとしたボヤ騒ぎだよ。ほら、怪我はないだろ」

 

 

 本当はオルフェノクに殴られ、服の下に痣が出来ていたが。

 恐らく、雪菜も同じ事になっているだろう。彼女の方がより酷いと思うが。

 

 

(……よくもまぁ、痛がった様子を見せなかったな……)

 

 

 ふと、彼女の様子を想起して物思いに耽るが、すぐに凪沙によって引き摺り戻される。

 

 

「で、でも、無事そうで良かったよ……たっくんに何かあったら、あたし……」

 

「だから大丈夫だって! それよりバイト、辞めた」

 

「…………は?」

 

 

 リビングに入ろうとした巧は、辞職を告げる。

 

 

「え? 辞めた? だって、まだ三時間しか経ってないよ?」

 

「接客は合わねぇ。もっとマシな仕事を探すぜ」

 

 

 ソファにフカッと身体を落とした。

 

 

 

 

「おい。昼飯」

 

 

 凪沙は身体をプルプル震わせていた。無論、怒りによるもの。

 

 

 

 

 

 

 

「たっくんの、馬鹿ぁぁぁぁッ!!」

 

 

 着ていたエプロンを脱ぎ、投げ付ける。




ジオウ5、6話は永久保存版です。
キャラクターの口調、仕草、設定での矛盾がありましたら一報ください。

誤字報告を何度かいただいております、本当にありがとうございます。

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