555EDITIØN『 PARADISE・BLOOD 』   作:明暮10番

5 / 9
怒りの日

 スマートブレイン本社へ、数人の攻魔官を引き連れ、優雅なドレス姿の少女が堂々と入り込む。

 

 依然、スマートブレイン本社は調査体制が敷かれている為、中心人物でもある彼女ならば顔パスで入り、自由に社内を探索する権限が与えられていた。

 勿論、今回の案件とは関係のない企業秘密は守る事や、業務を停滞させる事はしない等、最低限のルールはある。

 無論、元より調査対象以外の事柄など興味はない。

 

 

 

「現社長は?」

 

 

 村上が失脚した後、社長の座についた男の事だ。

 元々は若き投資家だった。類い稀なるビジネス感覚により、スマートブレイン社の筆頭株主として君臨していた。

 

 村上の凶行とは無関係と判明している。彼が選出された理由としては、政府高官らと太いパイプがあった事と、株主総会に於ける発言力からスマートブレイン上層部も逆らえない立場だった事が理由だ。

 その他、大学在学中にビジネスプランコンテストで優勝を果たしており、そのまま起業もしていた。経営学について知識は十分と判断された。

 

 

 

 以上の点と、半ば政府が封殺する形で、『二十八歳』と言う異例の若さで社長に就任する。現在、ビジネス界隈はこの出来事に湧いていた。

 若さ故に株価の下落が発生はしたが、日本全土を震撼させるほどではなく、ブランドに傷が付くようなものでもない。現状は安定しており、彼の優れた経歴から期待値が上がったようで、株価は回復傾向にあるらしい。

 

 

 

 

「はい、いらっしゃいます」

 

 

 エントランスの案内係が在室を告げる。

 

「しかし、事前のアポイントが必要でして、申し訳ありませんが……」

 

「関係ない。社長室を調査したい」

 

「……え? 社長室を、ですか?」

 

 

 第四真祖の件については、無関係社員の多くには秘匿している。村上の一件にしても、「体調の著しい不良により、社長の座を降りた」と言う事になっている。

 攻魔官らが調査している件については、魔族研究による魔族の扱いに条例違反がないかの定期監察が建て前だ。元々、スマートブレインは武神具の開発にも着手していた為、こう言った定期監察の話は違和感がなかった。

 

 

 だが、彼女からの発言は違和感の塊だ。

 その傍若無人な態度には、流石に他の攻魔官たちも焦る。声を潜め、少女に話しかけた。

 

 

「あ、あの、社長室は既に調査済みですよ? コンピュータ類も押収していますし……」

 

「社内は調べ尽くした」

 

「なら……」

 

「いいや。まだ残っている。あの外道の事だ、何かしらの盲点を作っているに違いない」

 

 

 そう言い切り、彼女はインフォメーションを囲う台に両手を置き、強い意志を表明する。

 

 

「あの、監察に社長室は……」

 

「関係ない。早く連絡しろ」

 

「は、はい!」

 

 

 小さな背丈と幼い見た目と相反した、百戦錬磨の貫禄。

 それに気圧される形で、受付係は社長室へ内線を繋ぐ。

 

 

 

「夜間閉鎖中に伺うのは、いけないのですか?」

 

「待っていられるか」

 

「……まさか、事態は一刻を争うのですか……!?

 

「夜から生徒指導の見回りだ。待っていられるか」

 

「成る程、それは…………え、えぇ?」

 

 

 絃神市の攻魔官は、教師を兼任している者もいる。

 魔族特区内の教育機関は、生徒の保護の為に国家攻魔官の教師を配置する事が義務付けられていた。

 

 

 

 

 

「あの、社長のお返事ですが…………」

 

 

 彼女はジッと、返答を待つ。

 

 

 

 

 

「……はい。許可が下りました。社長が通すようにと」

 

 

 話が分かる。政府の目があるのだから、状況を把握している社長が従うのは当然だ。内心、少女はそうほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレベーターを上がり、最上階。

 モニターが天井に点々と設置された、薄暗い回廊を進む。そのモニターには、『SMART・BRAIN』の文字が延々と浮かぶ。

 

 すでに彼女の中でスマートブレインの株は落ちている。何があってもスマートブレイン製の物は使いたくないと思うほど、その嫌い様は極まっていた。それほど今回の事件は衝撃的だったと言える。

 

 

 

 回廊を進み、先にある扉を開ける。

 

 

 そこは太陽光が注ぐ、白の世界。

 大理石の床、透明度の高いガラスに包まれ、網目状の白いオブジェが中央に据えられる。

 

 

 社長は、その下だ。白の世界のただ一点、高級感溢れる机とハイスペックのコンピュータ、横にはミュージックプレイヤーまである。

 それらに囲まれた中で、座り心地の良さそうな椅子に深々と腰を沈めている男性が一人。

 

 

 

 攻魔官らに気がつくとスッと立ち上がり、もてなした。

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました。社長室を、調べたいそうですね」

 

 

 

 

 少女はすぐに見抜いた。

 何が二十八だ。もっと若い……二十代前半だろう。こちらへ歩み寄る新社長を見て、精査する。

 

 

 

 確かに三十路前にしては、若過ぎる。

 柔らかい笑みを浮かべる彼の顔は、皺が殆どなく、瑞々しい。髪も多く、オールバックにして洒落めかしている点も若者らしい。

 

 

 

「……二十八と聞いたが、恐ろしいほど若いな。吸血鬼か?」

 

 

 不遜な態度は変わらない。

 しかし新社長はムッとする事もなく、気の良い表情で自嘲気味に笑ってみせた。

 

 

「まさか、人間ですよ! 貴女の仰る通り、僕はまだ齢二十一です。最初から二十少しの若者が社長になると広められれば、色々と混乱を招きますから……あぁ、一定の信頼を得た時に、正直に公表する予定ですよ」

 

 

 次に彼から、やり返しが来る。

 

 

「そう言う貴女も、小学生のような見た目ですが、僕より歳上のようですね。二十六辺りでしょうか?」

 

 

 若き天才……と讃えられているだけある。優しく紳士的な雰囲気の癖に、食えない強かさがあるようだ。転んでもただじゃ起きないような。

 新社長による新体制になったからと言えど、スマートブレイン嫌いは治りそうもない。

 

 

「ご名答。確かに社長としての気質に恵まれているようで」

 

 

 褒めているようで、皮肉のようなニュアンス。

 本人も彼女の言葉に毒があると気付き、あからさまに笑う……人懐っこい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初にお目にかかります、攻魔官の皆様。新社長に就任しました、『木場 勇治』です。僕に協力出来る事があれば、是非お申し付けください」

 

 

 

 

 

“ PARADISE・BLOOD "

 

 

 

 

 

 スマートブレインは元々、東京都新宿に本社を構えていた。

 それが、絃神島の完成と共に、島の発展に貢献する為として現在の絃神市に移転した。

 この壮大な社長室も、その本社からの物をそのまま持って来たらしく、亡くなった創設者こと『花形社長』の趣味が伺える。

 

 

「お話は色々と聞いております。まさか、第四真祖を前社長が保持していたなんて……」

 

「そんな曰く付きの会社に良く社長として入ろうとしたな」

 

「スマートブレインは、前々社長……つまり、創設者の花形さんの頃から父がお世話になっていました。僕に声がかかったのも何かの縁だと、意を決して社長になろうと思ったんです」

 

「見上げた根性な事だ」

 

「へへへ!……昔から、自分がこうだと思った事は絶対だと、考えていまして」

 

 

 少女は木場から離れ、良く良く社長室全体を一望する。

 机、椅子、コンピュータ、ミュージックプレイヤー、オブジェ、大理石、ガラス、壁、扉……それ以外には、一切の小物はない。

 

 

「広い割には寂しい部屋だな。スペースの無駄だ」

 

「それは僕も思うんですけど……」

 

「何か、ここで仕事していて、感じた事とかあるか?」

 

「いえ、それは全く……と言っても、会議とかで出ずっぱりですから、この部屋を使う頻度も少ないんです」

 

 

 ミュージックプレイヤーに目が移る。意識が高く、スマートブレイン製だ。

 

 

「これは私物か?」

 

「僕の物ではありません。社長就任祝いで、スマートブレインの株主総会から貰ったんです。何故か『モーツァルトのレクイエム』が入っていましたから、中古品かなと思うんですけどね……」

 

 

 そして肩を竦めながら続ける。

 

 

 

 

 

「誰からは分からないんですけど、『我々は、祝福されますように』って大袈裟なメッセージが添えられていましたっけ」

 

 

 

 

 

 少女の表情が険しくなった。

 

 

「…………『我々』は、『新たな王』を確立させる……この力はいわば、『血の代償』……」

 

 

 村上の言葉。

 モーツァルトのレクイエム。

 そして株主総会。

 

 

 

 少女の想像は最悪な物だった。

 そして同時に、核心に至れる糸口でもあった。

 

 

「……物は試しか」

 

 

 腕にかけていた日傘を机に立てると、ミュージックプレイヤーの電源を入れる。

 突然の事で木場も困惑しており、社長室を調査していた攻魔官たちも何事かと近寄って来た。

 

 

「ど、どうしました?」

 

「あの! 何か見つけましたか!?」

 

 

 キッと、木場を睨む。

 刺すような視線にも怯まず、彼は構えられた。流石は若き天才社長、肝は据わっている。

 

 

「株主総会の名簿を即刻渡せ。抜けた者も含めてだ」

 

 

 

 

 事件の関係者は、経営チームや意思決定機関と外れた研究者チームに偏っていた。第四真祖の存在を秘匿する思惑も祟り、会社の最高意思決定機関『株主総会』がノーマークだった。

 

 そも、筆頭株主だった木場さえも知らなかった点、無関係扱いされていた。

 

 

「株主総会の……ですか?」

 

「だから調査は停滞している。奴らの仲間は底ではなく、天にいたからだ。隠れていやしなかった、だから見つからなかった」

 

「しかし、守秘義務が……!」

 

「この件は秘匿する。あくまで調査利用の為だ。ルールには抵触しない。信用出来ないのならば……」

 

 

 まだ渋る木場に向かい、彼女は告げた。

 

 

 

「今から証明してやる」

 

 

 

 

 

 プレイヤー内に保存されていた、モーツァルトのレクイエムを再生させる。

 そのまま曲を進め出し、『十二曲目ベネディクトゥス』を選曲。

 

 意味は『祝福されし者』或いは、『祝福されますように』。

 

 

 

 

「あの外道、何を思ったのか……ヒントを残していたようだ」

 

 

 次に『五曲目レックス・トレメンデ』。を選曲。

 スピーカーから『レックス!(王よ!)』と讃える、力強い合唱が轟く。

 

 

 

 

「事が済んだ後に送られたとなると……これしかないだろ」

 

 

 最後に『十曲目オスティアス』……『聖なる生贄』。

 

 我々は『祝福されますように(ベネディクトゥス)』、新たな『(レックス・トレメンデ)』、血の代償……『生贄(オスティアス)』。

 

 

 あの男に弄ばれている気もしないでもないが、四の五も言っていられない。

 彼女は三曲の、関連性を伺える曲目を選ぶ。行って戻ってを繰り返す形になっており、普通に使用していればこんな特殊な操作は必要ない。

 

 誰にも知られない、『キーストーン』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十曲目を流し続けていたハズなのに、突如音が止まる。

 液晶のデジタル文字がブラックアウトし、次に表れた時には三曲目が選ばれていた。

 

 

「えっ!? か、勝手に……!?」

 

「魔力の類ではないな。プログラムされていたらしい」

 

 

『第三曲・怒りの日(ディエス・イレー)』。モーツァルトのレクイエムで、一番有名な楽曲。

 地獄の底から鳴り響くような、鮮烈で重厚、厳格で情緒的なアレグロ・アッサイ。

 アルト、ソプラノ絡み合う合唱が高らかに叫ぶ。

 

 

 怒りの日なる彼の日は、 世界を灰に帰すべし、 ダヴィドとシビルとの告げし如く。

 

 

 

 

 

 オブジェが振動している、恐怖に震えているかのように。

 

 

 

 次の瞬間、プレイヤーのCD挿入口が開き、そこから光が漏れ出す。

 光は映写機のように広がり、何もない空中に立体映像として投影される。

 

 

 音がピタリと止んだ。次に響くは、女性の声。

 

 

 

 

 

 

 

『はぁあ〜い! 社長さんのクイズに見事大正解した攻魔さん、こんにちは〜! ここからはお姉さんが進行いたしまぁ〜す!』

 

 

 子どもとでも話しかけるような、かわい子めいた話し方。

 映像の向こうには、奇抜な服に身を包んだ女性が笑って手を振っていた。

 

 

 誰もが見覚えがある女性だ。スマートブレインのCMに出ているイメージキャラクター、『スマートレディー』。

 

 前社長の秘書も兼任していたとされるが、事件後より行方をくらませた『最重要人物』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! なんでこんな昼間から鍋なんだよ! しかも夏だし!!」

 

 

 巧は怒り心頭で凪沙を睨み付けた。

 大きな鍋の中、グツグツ煮え滾る出汁にて毛ガニと牛肉、野菜諸々が犇めき合っている。

 燦々と照る夏日。やや季節を先取りし過ぎている感じもあるが、冷房を効かせた中で食べる鍋と言うのも面白い……凪沙の言い分だ。

 

 

 

 だが、巧には生理的な問題があった。

 

 

「フーフーしなきゃ食べられないだろ!!」

 

 

 彼は極度の猫舌だ。

 

 

 

「オホーツク海の毛ガニだってさ。お肉もお徳用で買っちゃったし、二人じゃ食べ切れないかなぁ〜って。だから雪菜ちゃんの歓迎会も兼ねて、贅沢に鍋にしました〜!」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

 

 凪沙の服を着た姫柊が、申し訳なさそうに頭を下げる。

 いいよいいよと笑って具をよそう凪沙。完全に巧の不満を無視していた。

 

 

「だから食べられないだろって! アツ過ぎる!」

 

「じゃあ食べなきゃいいんじゃない?」

 

「こっちは朝から何も食べてないんだぞ!」

 

「朝は寝惚けたたっくんが、用意してたのに抜いちゃったじゃん。自業自得?」

 

「このッ……ふっざっけんなよ……!」

 

 

 受け皿に盛られた肉や野菜からは、湯気がモンモンと立ち昇っている。

 笑顔でパクパク食べて行く凪沙を憎々しげに睨みながら、フーフー息をかけ始めた。

 

 

「ほら、雪菜ちゃんも食べて食べて!」

 

「いただきます」

 

 

 この二人、細く小さな身体の癖に、どんどんパクパク食べ進めて行く。

 冷まして食べる分、時間がかかる巧に具が残るか不安なスピードだ。

 

 

「お前ら早過ぎるだろ! 良く噛んで食えよ!」

 

「……巧さんが遅過ぎると思うのですが」

 

「そーだよ! たっくんが猫舌だから悪いんでしょー! 知ってる? 猫舌男子は情け無い人だってさ!」

 

「言ったな中坊! 食ってやるよ!!」

 

 

 受け皿の上の牛肉を睨む。

 まだ湯気が立ち昇り、アツアツだと主張している。

 

 

 箸で掴み、眼前まで持って行く。やはり熱気を感じる。

 

 

 そのまま震える手と顎で、熱いままの牛肉を食べようと頑張り始めた。

 

 

 

 

 

 舌に触れる。

 

 

「あッッッつぅッ!!!!」

 

 

 箸から落ち、牛肉が受け皿へ戻る。

 すると受け皿内の出汁が飛び散り、巧の皮膚を焼く。

 

 

「あッッッちぃッ!!!!」

 

 

 堪らず立ち上がり、テーブルから離れた。

 情け無い様を見て、ケタケタ笑う凪沙と、控えめながらも吹き出す姫柊。

 巧の怒りは爆発する。

 

 

「もういい! 食ってくる!!」

 

「お金あるの〜?」

 

 

 財布を開く。二十五円。

 絃神島は人口島であり、食料や生活用品は殆ど輸入に頼っている。つまり、物価が頗る高い。

 最悪、二百円が無ければ。

 

 

「……ちょっと貸せ」

 

「働かないニートに渡すお金はありませ〜ん」

 

 

 プルプル怒りに震える巧だったが、諦めたのかまた席に戻り、受け皿の具をフーフーし始めた。今度は両手をパタパタさせる、奇行も添えながら。

 

 

 

 

 

「……そういや、電話したのか。姫柊」

 

 

 雪霞狼を紛失した姫柊。

 預かっていた空港と、渡した本部へ連絡したいと言っていたが、お風呂から上がって尚もその様子はない。

 

 

「いえ。誰が持っているのか、分かりましたので」

 

「誰だ?」

 

「この人です」

 

 

 彼女が取り出したのは、チケット。

 クラシック・ギター演奏会の招待券だった。

 

 

「あっ! 海堂直也! 市場の小さいクラシック・ギターのCD業界なのに、アルバムが初登場時点でオリコンにランクインしたって話題だっけ。欧州じゃ既に有名で、何度も公演しているらしいよ。『アルティギア王国』の王族さんの前でも演奏したとか何とか!」

 

「そんな凄い人だったんですか……」

 

「え? 知らずにチケット持っていたの?」

 

「その海堂直也さんに、今日空港で貰ったんですよ」

 

「えぇ!? じゃあ海堂直也、絃神市に来てるんだ!! てか、雪菜ちゃん凄いね!」

 

 

 チケットにプリントされている海堂の姿を、何故か巧は凝視している。

 そんな彼に気付かず、彼女は続けた。

 

 

「……恐らくあのギター、海堂さんの物です。ギターケースも私の物と似ていましたから、取り違えたんでしょう」

 

「か、海堂直也のギター!? え、もしかして、玄関の……!?」

 

 

 凪沙は青い顔で、食事を中断し廊下に出る。

 有名人のギターを、目の届かない場所に放置するのはまずいと判断したからだ。

 

 

「なので、コンサートの会場に行けば会えると思います」

 

 

 演奏会は明日、夕方六時。市内のホールで行われるそうだ。

 

 

 

 ここで姫柊は、やけに海堂直也の顔を凝視する巧に気が付いた。

 

 

 

「……どうしました? 巧さんも、ファンだったり?」

 

「ん?……いや、そんなんじゃねぇけど……」

 

 

 顔を離す。その表情に一瞬、懐古の念が宿ったように見えたが、すぐに消失した。

 

 

「……見た事あるんだよなぁ。でも覚えてない……んー……?」

 

「有名人ですから、何処か広告とかで見たのでは?」

 

「いや、そうじゃなくてなぁ……」

 

 

 玄関先から、凪沙が巧を呼ぶ声が響く。

 大事なギターだから、慎重に運びたいのだろう。

 

 

 

「ペアチケットですので、妹さんと一緒に行かれます? 私は、ギターを返せば良いので」

 

「いや、音楽に興味ねぇし……アレなら凪沙を連れてけ。喧しい奴がいなくなる」

 

 

 そう言って彼も、玄関先へと向かう。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。