555EDITIØN『 PARADISE・BLOOD 』   作:明暮10番

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全体的にサブタイトルを変更しました。


薔薇の指先 1

 ベルトを担ぎ、駆けた巧だが、その先の光景に思わず足が止まる。

 

 

「……なんだこれ……!?」

 

 

 見覚えのある炎の馬が、虹色の何かに首根を掴まれていた。

 呻くように身体を震わす馬を五メートル持ち上げ、一息に地面へ叩きつけられた。

 

 力尽き、動けなくなった馬だが、虹色の何かは手を止めない。何度も何度も、引き千切る引き千切る。

 

 

 

 

「う……うぅぅ……」

 

 

 呻き声が左側から聞こえ、目を向ける。

 これもまた、見覚えのある吸血鬼がいた。

 

 

「お前……今朝の野郎じゃねぇか!?」

 

 

 オルフェノクの襲撃から助けた、あのチャラそうな吸血鬼だ。

 

 駆け寄り、状態を見る。

 右腕が欠損していた。それも千切られた訳ではなく、スパッと斬られたような切断面だ。

 腕は別の場所に落ちてある。海堂はその腕を触った訳だ。

 

 

「おい! なにされたんだ!? おい! おい!!」

 

 

 彼は荒い呼吸を繰り返した後、気絶する。

 眷獣を全力で出した事による魔力の枯渇、更には重傷と肉体的なダメージが祟った結果だ。

 吸血鬼は人間より、回復力が高い。人間にとっての致命傷も、彼らにとっては何とか生きていられる重傷程度の生命力だ。

 

 この腕の欠損も吸血鬼ならあまり狼狽えるような怪我ではないだろうが、回復にも魔力は必要。それが枯渇した状態では、魔族と言えども危険な状態に変わりない。専用の医療施設に連れて行かねばと、巧は考える。

 

 

 

 

 

 

「おや。もう一人、目撃者ですか」

 

 

 そんな彼を遮るように、第三者の声が響く。

 吸血鬼の眷獣が蹂躙され、炎が散りばめられる中、その男は逆光を浴び静かに歩み寄る。

 

 

 聖職者のような、法衣に身を包んだ、身の丈二メートルはある巨体の男。

 身体つきや顔立ちも逞しく、日本人離れした異国の人間。巧のイメージにある聖職者とは掛け離れていた。

 

 

 虹色の何かが蠢く手前、彼は巨大な半月斧を掲げ、猛禽類のような目付きで巧と吸血鬼を見据える。

 

 

「一人は燃えながら逃げてしまいましたが……錯乱に陥っていたので、状況などまるで覚えていませんか。見逃す事にしましょう」

 

「……お前か! こいつの腕を斬ったのは!」

 

 

 斧は血濡れ、滴っていた。

 

 

「その通りですが、貴方は見るからに人間ですね。魔族を助ける義理でも?」

 

「義理とかじゃねぇだろ! 魔族とか関係なくなぁ、ヒトを襲う奴があるかよ!?」

 

「単なるお人好しと言う訳ですか。献身的な態度は私としても好感が持てます……が、運が悪かったですね」

 

 

 血濡れの斧を振り上げ、ゆっくりと巧に迫る男。その姿は聖職者というより、処刑人だ。

 

 

「口封じをさせて、いただきますよ!」

 

「上等だ!!」

 

 

 肩にかけていたベルトを腰に巻き、携帯電話型のデバイス『ファイズフォン』を開く。

 それらを見た男は立ち止まり、愕然として顔で眺めていた。

 

 

「それは……何故、それを貴方が……?」

 

「……ファイズギアを知ってんのか?……なら尚更、話を聞かねぇとなぁ!」

 

 

 

 巧は『五』のボタンを三回の後、エンターキーを押して変身準備に入る。

 

 

『STANDING BY』

 

 

 設定完了の音声を確認し、ファイズフォンを閉じて天に掲げた。

 

 

 

 

 

「変身!」

 

『COMPLETE』

 

 

 垂直にソケットへセットし、変身完了。

 赤い光と共に、乾巧は仮面ライダーファイズの姿となる。

 炎が照らす中、フレーム部分は薄い赤の光を帯びていた。

 

 彼の姿を見た男は、愉快そうに顎を撫でた。

 

 

「ほぅ……それが、『新生の力』! 手合わせ願いますよ!!」

 

「手加減はしてやるぜ」

 

「はっはっはっ! それは私の言葉になるやもしれませんねぇッ!!」

 

 

 手首をスナップ。

 

 男とファイズが駆け出したのは、ほぼ同時だ。

 戦斧を構え、ファイズを両断しようと振り下ろされる。

 重たそうな見た目とは裏腹に、とてつもない攻撃速度だ。ファイズはそれに反応し、身体を逸らして回避する。

 

 

 斧は地面に衝突した瞬間、コンクリートを砕き、辺りに衝撃を発生させた。人間離れした剛力、何かしらの魔法を使える人間だと察知させられる。

 

 

「しゃあッ!!」

 

 

 ファイズはそれらを横目で見ながら、男への攻撃を重視。

 懐に入り込み、腹部を思い切り殴り付けた。

 

 

 チタン合金などを、軽く穴を開けられる威力のハズ。

 しかし彼の拳は、男の鎧が難なく受け止めた。

 

 

「硬っ!? ッぐぁ!」

 

 

 懐に入った彼を、男は蹴り付ける。

 瞬時に腕で防御したものの、流し切れない衝撃により横へ吹き飛んだ。

 

 

「我が聖別装甲は防護結界で守られています! 貴方と言えども、打ち破るのは不可能のようですねぇッ!!」

 

 

 態勢を崩した彼の元へ、再び戦斧を構え斬りかかる。空気が切れるほど、一閃。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 斜め右方向より降ろされた斧を、地面を転がり何とか回避。

 

 

「ぬぅううッ!!」

 

 

 しかし斧は地面へ刺さる事はなく、僅か一ミリ程度地面を掠め、振り子のようにファイズが転がった先へ上昇。

 立ち上がろうとしていた彼にはそれを避ける事が出来ず、胸に一撃を食らう。

 

 

「うぐぁあっ!!??」

 

 

 胸部装甲に火花が散る。

 異常の威力によるインパクトは彼の身体を浮かし、倉庫の壁へと叩きつけられる。

 

 

 いや、叩きつけられる程度ではない。

 猛スピードで吹き飛んだファイズは壁を突き破り、倉庫内へ。

 

 

「イッつぅ……に、人間ならどうかなるって思っていたが……」

 

 

 男もまた、壁を破壊して彼の前へ再来。

 

 

「……化けもんだな」

 

「ほぉ……装甲車さえスライスする我が一撃を耐えますか。頑強さのみなら、私の鎧に匹敵するようですね」

 

「分析してんじゃねぇよ!」

 

 

 立ち上がり、彼目掛けて蹴りを放つ。

 その蹴りさえ、装甲を付けられた腕部に遮られる。

 

 

「ぐぅっ……!!」

 

 がら空きの懐に短く握った斧を叩き込まれ、ファイズは衝撃で後退。

 

 

「……やろぉッ!!」

 

 

 顔ならば鎧がないと、顔面へストレートを放つ。

 しかしそんな彼の思考はまるで読まれており、拳を男の大きな手の平で捕まれ阻止。

 

 腹を蹴られ態勢を崩された隙に、斧による袈裟斬り。

 

 

「ぐぁあッ!!」

 

 

 大きく身体を後ろに反らせ、倒れた。

 全くこの男に歯が立たない。聖職者の癖に、戦闘経験が豊富なようだ……本当に聖職者か怪しく思えてくる。

 

 

「本当に頑丈ですね……少し、私の自信と言うものが失われてしまいますよ」

 

「神父の癖に、慈悲とかねぇのか!?」

 

「私の慈悲を受けたくば、その『悪魔の鎧』を解きなさい。苦しみもなく、一撃で……『介錯』と呼ばれる処刑法ではありせんでしたか?」

 

「んな日本語覚えんなッ!!……てか、悪魔の鎧だと?」

 

 

 ふらりと立ち上がるファイズに、余裕の笑みを浮かべる男。

 だがその笑みには、微かに憎悪が含まれていた。

 

 

 

 

「貴方が思う以上に、その鎧は忌まわしき物と言う訳です。この世に存在してはならない物でした……我が宿望の為とは言え、あの『男』の協力を得てしまった事は軽い屈辱ですよ」

 

「……あの男?」

 

「少々、喋り過ぎましたか。到底、貴方では辿り着けませんよ」

 

 

 腰を落とし、斧を立てる。

 顔は影が隠していたものの、不気味に赤く光る左目のモノクルが、ファイズを捉え続けていた。

 

 

 

「……私一人も倒せない以上ねぇッ!!」

 

 

 男は飛びかかり、ファイズの苦悶の叫びが響く。

 

 

 

 

 

 

 

# PARADISE・BLOOD #

 

 

 

 

 

 

 

 

 巧が行った後、怯える海堂を突然揺さぶりながら姫柊が叫ぶ。

 

 

「それより!『雪霞狼』!! 雪霞狼を返してくださいっ!!」

 

「せ、せつかろー!?……ちゅーか嬢ちゃん、今朝の飛行機の!……待て。じゃあ、あの槍っぽいのは嬢ちゃんのか!?」

 

「貴方がギターケースを持ったまま、ここに来ていた事は知っているんですよ!」

 

 

 タクシーの運転手が、ギターケースごと担いで飲みに行った海堂の姿を教えてくれた。

 だからこそ姫柊は終電間近なのにここへ来た訳だ。彼は今、持参しているハズだ。

 

 

 しかし今の彼は、そんな物を担いでいない。

 親に説教される子どものように、目線を落としてモジモジ。

 

 

 

 

「どっか……落とした」

 

「何処ですか!? 何処に落としたんですかぁ!?」

 

「なんか、武器っぽかったから、攻魔官に渡せたらなって、思っとりましたけど……うん。落とした……」

 

 

 遠くで激しい衝突音が響く。

 巧になにか起きたのなら助けに行かねばなるまいのに。

 

 

「……あれ? そいや嬢ちゃん、同じケース……も、もしかして、持ってる!? マエマエちゃん!?」

 

「うぅ……!」

 

 

 巧のある前方と、雪霞狼が落とされているであろう後方へと視線を行ったり来たりさせる。

 助けに行くか、武器を探すか。しかし探している内に、巧はやられてしまうのではないか。

 

 二択なのに、多岐亡羊。

 

 

 

 巧の悲痛な叫びが響く。

 その声が彼女を決心させた。

 

 

「……っ!!」

 

「へ? じょ、嬢ちゃん?」

 

 

 マエストロを海堂に返上し、姫柊は倉庫の方へ走る。

 愛しのマエストロを胸に抱えた海堂は、彼女の後ろ姿を呆然と見るしかなかった。

 

 

「……あ、あれと戦うのかよ……無理だろよ!? 絶対!」

 

 

 自分には関係ないと、海堂はさっさと逃げようとする。

 お気に入りの上着が燃えたが、マエストロは返って来た。なら、長居する必要は全くない。

 

 

 酔いは覚めた。さっさと退散しようとした海堂だったが、後ろから聞こえた呻き声で振り向く。

 

 

 襲われた吸血鬼が、何とか持てる力を振り絞って逃げようとしていた。欠損し、片腕でゆっくりと這っている。

 

 

 

「…………」

 

 

 海堂は仕事柄、魔族の前でも演奏する事が多く、魔族の演奏家とも共演したりもする。

 一般的な人間よりも、魔族に対する思い入れはある人間だった。

 

 

「…………あーもう!!」

 

 

 逃げる為の足を、吸血鬼を助ける為に使う。

 意識が朦朧としている彼の腕を肩に乗せ、立たせて逃げようとした。

 

 

「ほらー! しっかりしろー! おめーさん吸血鬼だろ! んな怪我、軽傷だ軽傷ー!」

 

 

 足が覚束なくなり、最終的には海堂に引かれて引き摺られる。

 その分彼に負担がかかり、少し後悔の混じった表情で身体全てを駆動させ走る、走る。

 

 

「お、オレ、救急隊じゃなくて、ギタリストなんすけど……でも待て。天才ギタリスト海堂直也、絃神島で人命を救う……ヌハハ、話題になるな!」

 

 

 ぶつくさ独り言を喋りながら、追手を恐れつつ前へ前へと進んで行く。

 

 

 

 視界が地面ばかりに集中している為、前方に立っていた存在に気付かなかった。

 黒い地面に、色白い素足が見える。

 

 

 

「……え?」

 

 

 恐る恐る顔を上げた彼は、そこに立ち塞がる者に驚愕する。

 

 

 敵の追手かと肝を冷やしたが、目の前にいたのは少女。

 夜の闇と青が融合した、インディゴの長い髪。海風に吹かれふわりと靡き、風が止むとスッと落ち着く。

 白い肌、海堂の腰までも行かない背丈。一見すれば普通の人間の女性だが、こんな夜中の渚に一人はまずおかしい。

 

 

「…………え?」

 

 

 服装はケープコート一枚。

 それよりも海堂の目を疑わせたのは、肌だ。

 

 

 青白い彼女の肌に、虹色の光が蠢いている。海堂はそれを見て、口をあんぐり開き立ち竦んだ。

 

 

 

「………………」

 

 

 ひたり。

 少女は一歩、海堂へと近付く。

 怯えた海堂は手負いの吸血鬼を抱えている事を忘れ、情け無く尻もちついた。

 

 

「ひ、ひぃぃぃっ! ちょ、ちょ、ちょっと待てーい!! お、俺は通りすがりのギタリストだぁ!!」

 

「…………」

 

「ゆ、許して……ぎ、ギターしか弾けないけど……!」

 

「………………」

 

「ちくしょー! こんな島来なきゃ良かったーっ!!」

 

「……………………」

 

「うわぁぁぁ!?!?」

 

 

 少女は眼前。

 

 

 殺される……そう思い、頭を抱えた海堂だったが、少女は彼と吸血鬼にも目を向けず、ゆっくり横を通り過ぎて行った。

 

 

「…………へ?」

 

 

 少女の後ろ姿を見る。

 彼女は一旦立ち止まり、抑揚のない冷たい声で話した。

 

 

 

 

 

警告します(ウォーニン)

 

「も、モーニン? 夜ですけど……」

 

「ただちにここから退去してください」

 

 

 表情のない顔が、海堂へ向く。

 

 

「こ、ここ? 倉庫の事か? 言われなくても逃げるっての!」

 

否定(ネガティヴ)。対象は、この島全体です」

 

「……は? 島? 絃神島か?」

 

 

 明滅繰り返す街灯の下。

 少女は無表情を貫いていたが、一瞬照る光の中の彼女は、寂しげにも見えた。

 

 

 

 

 

「この島は近く、沈みます。なるべく遠くに……」

 

 

 

 それだけ告げると、少女はまた前へ向き直り、歩き去って行く。

 

 

 与えられた情報量の多さから、後ろ姿を眺める事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイズは未だ、男を攻略出来ずにいた。

 立ち向かえば受け止められ、隙を探せば回避で精一杯となってしまう。更に男はファイズにチャンスを作らせない。

 

 そして最後は、あの巨大な斧で蹂躙されるまで。

 

 

「うあああ!!」

 

 

 無様に転がり回るファイズ。

 男はモノクルを弄りながら、退屈そうに呟く。

 

 

「貴方のそれは、私の知る物よりかなり劣化していますね。データを取るまでもない」

 

「ぐぅ……か、かてぇ……壊せねぇ……!」

 

「強度は高いようですが、衝撃までは流しきれないようですね。魔法由来ではない……本当にデータを取るに値しない」

 

「データデータってうるせぇなぁ!」

 

「しかし貴方の肉体へダメージが行くのなら、リミッターがかかるまで斬るのみです……そう言う装置には、過剰なダメージを負った場合に緊急停止する機能があるものですよ」

 

 

 

 斧を構え、迫る。

 最早、「あの手」しかないのかと、しかし生身の人間に使うのはどうかと……ファイズは迷っている。

 

 

 

「巧さんッ!!」

 

 

 男の背後なら、姫柊が現れる。

 突然の乱入者に、男は即座に対応し、身体を大きく捻り彼女へ斬りかかった。

 

 

 だが、巧と違い彼女は実戦の鍛錬がされている。

 男が自分に攻撃すると読み、横から迫る斧を身体を反らして回避。

 そのまま垂直に態勢を整え、斧の柄に乗った。

 

 

「なんと!?」

 

 

 男が動揺した隙に柄から飛び、装甲のない顔面へ膝蹴りをお見舞いする。

 

 

「ぐぅッ……!!」

 

 

 男の視界を潰した、隙を見せた。モノクルが割れ、光が消滅。

 迷っていたファイズだったが、もう四の五も言わない。姫柊の登場で決心を固める。

 

 

 

 

 左腰に着いた、デジタルカメラ型のユニット『ファイズショット』を右手に握る。

 メモリーをバックルからショットに移し、フォンを開いてエンターを押す。

 

 

『READY』

 

 

 赤い光がバックルより流れ、フレームを辿り右手へと向かう。

 その間姫柊は男の顔面から宙を舞い、ファイズの隣へ降りる。

 

 

 

『EXCEED CHARGE』

 

 

 ショットのメモリーが赤く光り、姫柊が華麗に着地。

 

 仰け反る男目掛け、ファイズは右腕を振りかぶりながら突撃。

 

 

「ぬぅ……!? まだそんな芸当が……ッ!?」

 

 

「ヤアアアアアアッ!!!!」

 

 

 男の腹部目掛け、渾身のフック。

 ファイズショットに充填されたエネルギーが、聖別装甲へ流れ込む。

 

 

「こ、このエネルギーはあぁぁ……!?」

 

 

 身体が浮き上がる。

 滲む赤いエネルギーを放出し、ファイズの伸び切った右腕に合わせ、男の身体は離れて行く。

 

 限界まで伸びた時、男は宙へ吹き飛び、自分がファイズにしたように壁を突き抜け、外へ。

 

 

 

「ハッ! ざまぁ見ろ!」

 

「あの男の法衣……まさか、『祓魔師』……!?」

 

「ん? 祓魔師?」

 

「有り得ません……祓魔師は高位の聖職者。彼らが市街地で……まして、魔族特区の絃神島で戦闘を行うハズは……!」

 

「……良くわかんねぇが、偉い人って訳か?」

 

 

 口では強気に振る舞うが、この力を人間に使ってしまった。

 心の底で恐れを感じながら、男がどうなったのか、外へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 だがその足はすぐに止まる事になる。

 男が、立ち上がってまた倉庫に入って来たからだ。

 

 

「……素晴らしい」

 

 

 身体を保護していた聖別装甲が、ヒビ割れボロボロと、老朽化した壁画のように崩れて行く。

 

 

「アレ喰らわせても、おっさんは倒れねぇのかよ……」

 

「実に興味深い……! 防護結界が破られました! 私とした事が、してやられた! 仲間の存在と、そのような隠し手があったなどと!!」

 

 

 怒りではなく、賞賛と歓喜。高らかに笑いながら、男はファイズたちの六メートルも前で立ち止まる。

 

 

「どのような術式か、興味深い所ではあります!……観測機が壊れてしまった事が悔やまれますねぇ」

 

「その法衣、強化鎧……『西欧教会』の祓魔師ですね」

 

 

 姫柊の分析に、男は片眉を上げた。

 

 

 

 

「ご存知でしたか。如何にも! 私こそ、『ロタリンギア』の殲教師、『ルードルフ・オイスタッハ』!!」

 

 

 

 男……オイスタッハは自らをそう呼ぶ。

 姫柊に再び、動揺が訪れる。

 

 

「ロタリンギア……何故そんな遠方の祓魔師が、絃神島で攻撃行動を……!?」

 

「目的として不埒な吸血鬼を狩っていたのですが。昼間に街中で眷獣を解き放った愚か者と聞きましてね……今頃片腕を失くし、這い蹲った所を『彼女』が喰らっている頃でしょうね」

 

「……仲間いるのか!?」

 

 

 オイスタッハ一人の犯行と思い込んでいた彼は、吸血鬼の保護に向かおうと駆ける。

 

 しかし、彼は宣告した。

 

 

 

 

 

「さぁ!!『アスタルテ』!! 貴女の力を見せる時ですッ!!」

 

 

 

 ファイズが向かう先にあるシャッターが、自動的に開く。

 思わず立ち止まった彼の前に、インディゴの髪の少女。

 

 

 艶かしく蠢く、虹色の光を白い肌に映される。

 念じるように、されどその時まで眠るように、目が閉じられていた。

 

 

「こ……子ども!?」

 

「巧さん!! 離れてッ!!」

 

 

 姫柊が忠告を叫んだと同時に、目が明く。

 無機質な目に、淡い青の光が宿る。

 

 

 

 

 

「……命令受諾(アクセプト)

 

 

 ケープコートをはだけさせる。

 

 

 

 

執行せよ(エクスキュート)、『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』」

 

 

 コートの隙間より、何かが現れる。

 ファイズが見た、『虹色の何か』。その正体が、彼自身へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いた頃には、彼は宙を舞っていた。

 そして意識を、手放してしまう。

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