久しぶりの投稿になるので誤字脱字が一杯あったらすみません。
転校生。それも
白馬の王子様、あるいは貴公子と言っても差し支えない容貌を持つ存在は、年頃の乙女にとって、あまりに嬉しいサプライズだった。
失神する人間も出てくるのではないかというぐらい色めき立っていたクラスメイトたちも、今は完全に静まりかえっていた。
というのも、二人目の男子とともに現れたもう一人の転校生ーーラウラ・ボーデヴィッヒの言動が原因だった。
人懐っこい笑みを浮かべ、爽やかな挨拶をしたシャルルの傍ら、つまらなさそうな表情を浮かべ、軍人を彷彿とさせる立ち振る舞い。
彼女と唯一交流があり、全幅の信頼を置かれている千冬さんに挨拶を促されなければ、名前すら名乗らなかった可能性すらある。
それだけでも浮きそうだというのに、全身から放たれる冷たい空気が『お前たちと馴れ合う気はない』というラウラの意思を如実に表していた。
そこまでならまだ『近寄り難い人間』という認識で済んだだろうが、いかんせんその後の行動が問題だ。
原作同様、一夏と目が合うやいなや、教壇を降りて、ビンタをかまそうとしたのだから。
原作ならいざ知らず、今の一夏が隠す気もない敵意に気づかない筈はないし、なにかされることをなんとなく察してはいたのだろう。ラウラの平手打ちに対して、腕を上げて防御する姿勢を取った。
ーーそして、それよりも先に私がラウラの腕を掴んだ。
今の一夏がどうであろうと、なにが起きるのか知っている以上、ラウラの横暴を放っておく理由にはならない。
振り上げた手をいきなり掴まれたことに驚いて、目を見開いたラウラだったが、すぐにこちらを睨みつけてきた。
まさに一触即発の状態。
結果として、原作よりも張り詰めた空気が教室を支配することになった。
「……なんの真似だ」
「それはこちらの台詞だ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前のそれはなんの真似だ?」
わかりきっている質問。だが、はっきりさせる必要はある。
私の問いにラウラは鼻を鳴らし、剥き出しの敵意をこちらに向ける。
「貴様には関係あるまい。その手を離せ、さもなくば、貴様から」
「やってみろ。できるものならな」
ラウラの腕を掴む手に力を込めたその時。
静寂を破るようにぱんぱんと手を叩く音が教室に響き、私とラウラの視線がそちらに向く。
「篠ノ之、ボーデヴィッヒ。元気があってなによりだが、そこまでにしておけ。それ以上やるようなら、特別授業として、私が相手をしてやってもいいが……どうする?」
やや呆れ気味に言う千冬さん。こういう武闘派系教員によくある脅し文句……と思いたいが、目が割と本気だ。というか、口調とは裏腹に目が『早くやれ』と言わんばかりに危険な色が宿っている。
それを見た瞬間、悪寒が走る。本能が警鐘を鳴らしている。これ以上は折檻以前にこの人のやる気スイッチが入ると。
急いで手を離すと、「それでいい」と千冬さんが呟く。その声が少し落胆したように聞こえるのは気のせいだろう。気のせいであってくれ。
「篠ノ之……では貴様が……」
「?」
なんだ? 明らかにラウラの目の色が変わった。
『あの篠ノ之束の妹に無礼を働いてしまった』などと思う性格ではないだろうし。仮にそうだった場合、意地になって謝らないというタイプではない。
切り替えるようにラウラは瞑目した後、千冬さんの方に一礼してから、空いている席に向かっていった。
それを見届けて、私も自分の席に戻っていく。
私が直接関わった人間以外の影響や変化がほとんどないことはわかっていたことだが、やはり面倒なことになってしまったな。
あの反応が少し気になるが、あまり良い予感はしないな。
昼休み。
『屋上で昼飯食べようぜ』。
一夏発案のもと、私、セシリア、鈴、一夏、そしてシャルルの五人は屋上に集まり、軽く自己紹介をした後、昼食を摂っていた。
転校してきたばかりで右も左も分からないシャルルに同じ男子として、一夏なりに色々と気を利かせているのだろう。
いつもよくいるメンツを誘ったのも、一日でも早く、シャルルがこの学園での生活に慣れるようにという配慮からに違いない。
気心の知れた相手の有無というのはかなり大きい。それは私もIS学園に来るまでの転校生活で骨身に沁みて理解している。
その好意がプラスに働くかどうかは相手次第だが、少なくともシャルル相手には良い判断だ。
惜しむらくは、二人の転校してくる日が今日だと言うことがわからなかったことだ。
人の口に戸は立てられぬ、ということわざがあるように、転校生に関する情報は前日までになにかしら情報が流れてくるかと思っていたのだが、SHRを迎えるまで噂一つでなかった。流石はエリート校。先生方の口はかなり堅いらしい。
それは良いことだと思う。悩みも相談しやすいしな。
ただ、結果としてお弁当を渡すというヒロイン力が高いイベントを逃してしまった。それどころか、なぜか今日に限ってお弁当を作っていた一夏が私にお弁当を渡してきた。しかも、想像以上においしい。ヒロインかお前は。
いや、私とて手料理自体は小学生の頃から何度も振る舞っているし、お弁当を渡す機会も探せばいくらでもある。
とはいえ、だ。
それを渡すところを誰かに見られれば、十中八九大騒ぎになる。それはもう千冬さんを呼ばないと収拾がつかないレベルの。
では見られなければいいという話になるが、私たちを含め、一夏の周りに人がいないことなんてほとんどない。十秒もあれば、三人ぐらいは確実に近くにいるだろう。
実際にその光景を見た時、ヒロインたちが慌てて、実力行使、もしくは抜け駆けを図ろうとする気がわかった。
二、三日静観していたら、ある日突然「あ、この子、俺の彼女なんだ」とか言い出しそうな気がするのだ。
原作の一夏の鈍さを考慮するとそんなことが起きるわけはないと思うが、それはあくまで客観的に見ての判断。恋する乙女にしてみれば、年頃の近づく女は全て敵に見えてしまう。
原作の篠ノ之箒同様、一夏に告白されず、今も幼馴染のままだったら、私とて少なからず焦燥感は覚えていたかもしれない。こちらの一夏はどういうわけか鈍感ではないようだし、相手からの好意を無碍にしないはずだ。
…………むぅ。やはりさっさとバラしてしまった方がいいような気がしてきた。騒ぎになるのは避けられないが、一夏に言い寄る人間はほぼいなくなるだろうし、一夏と一緒にいて違和感や疑念を持たれることもないはずだ。
いや、別に危機感や焦燥感があるわけではなく、ただ、女子が一夏を囲っているのを見ると少しもやっとするというか……これが嫉妬というものなのだろうか。面倒くさい。
「……き。箒」
「……ん。なんだ、一夏」
「手が止まってたからなんかあったのかと思ってさ。ほら、今朝あんなこともあったし」
心配そうにこちらを見る一夏。いかん、皆といるというのに、少し考えに耽ってしまった。
「そういえば箒。あんた、転校生と揉めたらしいわね。なにがあったわけ?」
「揉めた、っていうのは、語弊があるな。箒はその転校生から俺を庇ってくれたんだよ。な、セシリア、シャルル」
「そう、ですわね。状況的にはそうだと思いますわ」
「あー、うん。僕にもそう見えたし、ボーデヴィッヒさんの反応的にもそうだと思うよ」
「状況的とか、反応的とか、回りくどいわね……あんた達は目撃者でしょうが」
なぜか歯切れの悪いセシリアとシャルルに鈴がツッコミをいれる。
「そうなのですが……その。わたくしには箒さんがいつボーデヴィッヒさんの後ろに立っていたのかわかりませんの」
「そう、だね。僕もボーデヴィッヒさんの方はちゃんと見てたはずなんだけど、気づいたら箒が立ってたんだよね」
二人がそう答えるとなぜか鈴は苦虫を噛み潰したような表情で「うわぁ」と呟いた。
なんだ、その『聞かなきゃ良かった』的なリアクションは。
「誤解がないように言っておくが、私は普通に近づいただけだぞ」
呼吸の間をつくというか、意識の間を縫うというか。隙を狙いはしたものの、瞬間移動したわけではない。
「まさか、その手の言い訳を千冬さん以外から聞くとは思わなかったわ」
言い訳もなにも、事実なのだが……というか、千冬さんも千冬さんでそんなこと言ってるのか。しかも、全然言い訳になってない。
「普段の立ち振る舞いから只者ではないと思っていましたが、わたくしの想像を遥かに超えるば……んんっ。超人ぶりでしたので、驚きを隠せませんでしたわ」
「本当に見えなかったもんね……よかった。びっくりしたのは、僕だけじゃなかったんだね」
「俺や鈴みたいに千冬姉の化け物っぷりを見てないと驚くよな」
一夏がそう言うと、共感するように鈴はうんうんと力強く頷く。
確かに千冬さんの化け物じみた動きは初見だと顎が外れそうになるぐらい驚く。しかし、それと同列に扱われるのは過大評価というか、遺憾というか。かなり鍛え上げたつもりではあるが、あくまで人の範疇に収まるものだぞ。
非難する意味も込めて、一夏にジト目を向けると、一夏が露骨に話題を逸らした。
「ま、まぁ、それはともかく、同じ男子同士、仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうし、協力してやっていこう。たった二ヶ月って言っても、俺の方が先に来てるわけだし、わからないことがあったらなんでも聞いてくれ」
「うん。頼りにさせてもらうね、一夏」
「って言っても、ISに関しては俺も教えてもらってる身だから、偉そうなことは言えないけどな」
「一夏さんは頑張られていると思いますわよ。授業には普通についてこられているようですし。ISの操縦技術についても、この短期間でかなり上達していますわ」
「そうそう。この間までISの『あ』の字も知らなかったような人間にしては良い線いってると思うわよ」
二人の言う通り、一夏の知識や操縦技術の成長には目を見張るものがある。
模擬戦の勝率こそ鈴やセシリアより低いものの、二人が代表候補生であることを考慮すれば、当然のことだし、最近は徐々に上がってきている。
むしろ、模擬戦の戦績が一番悪い私こそもっと精進せねばなるまい。これから起こることを考えれば、強ければ強いほどいい。その分だけ、原作よりも良い結果に繋がる。
ない……と思いたいが、姉さんの性格からしてこちらが勝てるギリギリ、死ぬ気で頑張ればどうにかなるくらいのラインを攻めてきてもおかしくはない。姉さんはそういう人だ。
……もう姉さんをどうにかしてしまった方が早い気がしてきたな。私個人では無理かもしれんが、千冬さんもいればなんとかなるだろう。
しかし、そうなると、最悪殺し合いに発展するし、辺り一帯が焦土と化すかも……うん。これはあれだ。最後の手段にしよう。後、その時のために場所も考えておかなければなるまい。
「箒? また眉間に皺寄ってるけど……もしかして、弁当不味いか?」
「まさか。どれもこれもおいしい。また腕を上げたな、一夏」
「おう。でも、早く箒に追いつきたいし、もっと頑張らないと」
「いつも言っているが、ほどほどにな。あまりうまくなられると私の立つ瀬がなくなる」
「了解。ほどほどに、な」
冗談ではなく、本当に。
一夏の場合、家庭環境を考えれば、家事が得意なのは良いことだ。千冬さんは千冬さんで完璧超人だが、家事スキルは皆無だし。
しかしながら、
なので、ほどほどにとだけ言っておく。個人的に一夏の努力を否定したくもないし。
と、シャルルが不思議そうな表情でこちらを見ているのに気づいた。
「シャルル? どうかしたか?」
「あ、ううん。別にどうかしたってほどでもないんだけど……二人の空気感? っていうのかな。慣れてるっていうか、すごい自然な感じがしたっていうか。うまくは言えないんだけど…… そういうの良いなって思って」
うぅむ……私にはよくわからないが、セシリアは力強く頷いているし、鈴は複雑そうな表情を浮かべているので、おそらく周囲からそう見えているのだろう。
ちなみにいまいちピンときていない私とは対照的に一夏は照れ臭そうにしつつも、嬉しそうな表情を浮かべていた。
なんだろう。私一人だけ置き去りにされている感が否めない。
この疎外感。普通、
「驚いたよ。一夏もそうだけど、箒もここまで動かせるなんて。とても入学するまで触ったことがなかったとは思えないよ」
「そ、そうか? この中で一番戦績が悪い手前、そう手放しに賞賛されると面映いな」
「それは仕方ないんじゃないかな? 箒以外はみんな専用機持ちだし、第二世代の訓練機でこの戦績ならむしろ誇るべきだよ」
二人が転校してきて早五日。
生来のコミュニケーション能力の高さか、はたまた処世術か、シャルルは早くもいつメン(私、一夏、セシリア、鈴)に馴染みつつあった。
土曜日はアリーナが全開放されるということで、運良く訓練機を借りることができた私は、シャルルと模擬戦をした後、軽くレクチャーを受けていた。
「とはいえ、なにか直すべきところはあるだろう? シャルルの目から見て、どこか修正したほうが良いところはあるか?」
「そうだね。これは所感だけど、箒は鋭すぎると思うんだよね」
「?」
「勘が良いっていうか、避けられる攻撃は全部避けようとしてない? さっきの模擬戦でも僕が張った弾幕も全部避けようとしてたし」
「それはセシリアにも言われたな。かえって誘導しやすいと」
「仮に全部避けられるのなら確かに驚異的だけど、実際にはそういうわけにもいかないから、避けなくてもいいモノーーダメージの少ない攻撃はあえて受けて、機を伺うのも一つの手じゃないかな。打鉄は実体シールドもあるから」
「シールドで受けて、間合いを詰めるか。一応理解してはいるが……どうにもな」
当然のことながら、ISに乗るまでは盾を使うような試合をしたことがなかったし、受ける時は自分の得物だった。そのせいか、反射的に近接ブレードで受けようとしてしまう。
後々の事を考えるとそれで正しいかもしれないが、かといってそういう『癖』を残しておくのも良くはないか。
「あくまで参考程度にね。さっきも言ったけど基本的な操縦技術は高いし、僕たち代表候補生を除けば、頭一つ抜けてる。後は『慣れる』しかないよ」
「わかった。ありがとう、シャルル」
「どういたしまして」
一通りレクチャーを受けたところで、今度は射撃武装に関するレクチャーを受ける一夏と交代する。
この間の無人機の一件以降、一夏のISに関して学ぶ姿勢はより貪欲になった。苛烈と言ってもいい。放っておいたら、そのままアリーナのど真ん中で寝ていそうなほどだ。
あれはあれで必要なことだったのだが、私の行動の結果、一夏に無理を強いるような事になっているのなら、心苦しい。
「箒ー。この後、どうする?」
「わたくしたちで、よろしければお付き合いいたしますが」
「そうだな。返却までまだ時間もある、少し付き合ってーー」
と、その時、アリーナ内が急にざわめき始める。
来たか、そう思って、アリーナ内で注目されている張本人のいる方に視線を向ける。
その視線の先にいるのは、ドイツの第三世代型ISーー『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラ・ボーデヴィッヒ。
絡んでくるのなら、やはりこのタイミングか。
「セシリア、鈴。すまない、急用ができた」
そう断ってから、一夏を庇うようにこちらに向かってくるラウラの間に立ち、しっかりと見据える。
機体性能、操縦技術、ISでの戦闘経験。
なにより向こうには一対一では無類の強さを誇る固有兵装『
以上の要素を踏まえても、私がラウラに勝つ余地はない。戦いになるかも怪しいだろう。
だが、それは問題ではない。こと今回に限ってはIS戦をする必要はない。一触即発の『空気』にしてしまえばいいだけだ。
後は向こうが一撃入れてくるかどうかだが……来るとわかっていれば、一撃くらいは私でもどうにでもなる。
「おい」
その時、ISの
「なんだ? 言っておくが、一夏に貴様の相手をしている暇はないぞ」
「そうか。では、そちらは日を改めるとしよう」
予想外にもラウラは呆気なく引き下がった。
絶対、『邪魔だ』とか『関係ない』とか言って、一夏に喧嘩を売るものと思っていた。もしくは力づくで私を退かせるか。
いずれにしても、すんなり話を聞いてくれると思っていなかった。
「それよりも篠ノ之箒。貴様だ」
「……私?」
思わぬ指名に僅かに反応が遅れる。
「見たところ、貴様が装着しているのは訓練機のようだな。専用機は持っていないのか?」
敵意や悪意を感じない純粋な疑問。
意図はわからないが、答えない理由もないので正直に答える。
「ああ。なにせ、ここに入学するまでISに触れる機会がなかった。そんな人間に専用機など渡されるわけがないだろう」
「……なに? 貴様は『篠ノ之』だろう?」
「逆だ。私が『篠ノ之』だから、ISに触れる機会はなかった」
厳密には、私が強く望めば、姉さんが用意してくれた可能性はあるが、その後がどうなるかわからない手前、大人しく入学を待つほか無かった。
パワードスーツとはいえ、私のような転生した人間からすれば、ロボットと似たようなものだ。憧れは当然ある。
だが、そんなモノのために他人の人生を踏み躙りたくはないし、わざわざ原作知識があるのに、不確定要素増やしてどうするという話にもなる。
しかしながら、事情を知らないラウラは納得のいかない様子で嘆息する。
「教官のことと言い、貴様のことと言い……理解に苦しむな。この国の
「随分と私を買ってくれているのだな。嫌われているものとばかり思っていたが」
「好みの問題ではない。貴様は教官が認めた人間ーーいや、好敵手だ。相応の評価を下しているに過ぎん」
「そうか……ん? 待て。好敵手?」
なんだ、その不穏な単語は。あの人、ラウラに一体何を吹き込んだ!?
「貴様ならば、近い将来専用機も与えられるだろう。その時を楽しみにしている」
「そ、そうだな。ところでお前に聞きたいことがーー」
「ああ、それと。織斑一夏に言伝だ。『私は貴様の存在を認めない』」
「ああ。わかった。伝える。だから、お前に千冬さんが一体なにをーー」
「ではな」
不敵な笑みを浮かべて、その場を去っていくラウラ。
待て! 一方的に話すだけ話して、不吉な謎を残して去ろうとするんじゃない!
くっ、
がくりと肩を落としていると、肩の辺りにポンと手を置かれる。
振り返ると一夏たちがなんとも言えない表情でこちらを見ていた。
そうか。
「その……大変そうだね。一夏も、箒も」
「心中お察しいたしますわ」
「まぁ、うん。千冬さんなら言ってそうよね。ご愁傷様」
「あー、えっと。なんていうか、千冬姉がごめん」