絶望を焚べたその先へ   作:カキロゼ

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グンダ戦の続き。ゲームより割りと強化していて作者もびっくりしています。


四話・人の膿

 「ああ、わかってる」

 砂ぼこりが晴れていき、ゆっくりとグンダが視界に映っていく。その様子は、うろたえるように僅かに足を後ろに寄せるも、すぐさま斧槍を構えて警戒態勢に入っていた。しかし、まだ襲ってくる気配は無い。会話するだけの時間は残っているようだ。

 「偽……騎士さん?」

 「名乗るのが非常に嫌だが、偽騎士だ。幻覚でもなんでもねえぞ?」

 「いや、でも……盾を捨てて……」

 「ちびっこはまず壁際まで下がれ。回復する時間は俺が稼ぐ」

 すぐ後ろから、かわいらしくも困惑した声。少し泣いているような声もしていてからかいたくなるが、まだ戦闘中だ。強めの口調で下がるように伝える。

 ちょっとだけ間が空くも、小さい足音が遠ざかっていく。先ほどの言い争いを思い出したのか、今回は素直に下がったようだった。

 

 (さて、と)

 一つ深呼吸。左手の短刀を逆手に、右のロングソードを水平に構える。

 目の前のグンダは会話が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、斧槍を突いてきた。今までと変わらない、高速で正確な突き。

 『わかっているだろ?』。またしても本能のような声が聞こえてくる。その質問へと答える前にまず体が反応した。

 

 〈当たるまであと0.8秒。横に躱すには僅かに遅い〉

 そんな認識と同時、右前へと鋭く踏み込む。しかし認識通り完全に躱すには遅く、斧槍が左肩を浅く貫く——。

 

 

 

 前に、薄く当てた短刀が斧槍を上へと僅かにずらしていた。

 

 

 

 『そうだ。その戦い方だ。お前に騎士の戦い方(・・・・・・)は似合わない』

 その声を意識から排除し、斧槍に沿うようにグンダへと疾走していく。グンダは後ろへ逃げようとするも、こっちはカウンターだ。間に合うはずもない。

 ロングソードを右肩に背負うように構え、思いっきりグンダへと振り下ろす。深く、より深くなるように突撃しながら。

 間髪入れず、左の短刀を逆手で横に振りぬく。体ごと右へねじりできるだけ長く切り裂き、その状態のまま振りぬいた短刀をグンダへと突き立てる。

 

 「『——ッ!?』」

 

 グンダから無音の悲鳴のような声が漏れ、斧槍を俺へ振り下ろしながら後ろへ離脱する。しかし斧槍はまるで狙いが定まっておらず、俺は左へ体を寄せて最小限の動きで回避。下がっていくグンダを兜の奥から見据える。

 (あの様子から、確実にダメージは与えた。こっちはかすりもしていない。だが……)

 

 グンダの目が、薄い赤に輝いていた。

 完全に余裕をなくし本気を出したようで、重い殺気が俺へと伝わってくる。プレッシャーで体が硬くなるが、こちらもグンダへ睨み返す。

 こっちも本来の戦い方をしているのだ。あちらだって本気になるだろう。

 『こっからが正念場だ。集中しろよ?』

 そんな声へと返すように、両手の短刀とロングソードを握り直す。

 

 

 数舜のにらみ合い。

 それを破ったのは、俺ではなくグンダからだった。

 突如として斧槍を両手で突くように構え、その巨体からは考えられないような速さで突進してくる。

 速い。だが、見切れないほどではない。

 さっきのように短刀で弾くには勢いが付きすぎていた。盾もないため、回避しかない。俺は十分な余裕をもって回避の体勢を取り、グンダを待ち構える。

 

 だが、グンダは俺の間で体を翻し、回転し始める。同時に斧槍を片手持ちへと切り替え、刃を横に傾けてきた。

 つまり、回転薙ぎ払い。

 

 「なっ——!」

 そのまま斧槍の刃が俺へと薙ぎ払われる。驚きで一瞬反応が遅れるも、ぎりぎりで回避が間に合い斧槍の下へと潜るように滑りこむ。

 頭の上を斧槍が恐ろしい速度で通り過ぎるが、当たってはいない。すぐさま立ち上がり攻撃を仕掛けようとするが、その時にはグンダは薙ぎ払った斧槍を片腕で持ち上げ、振り向いた俺へと振りかぶっていた。

 

 「~~っ!」

 〈直撃まで0.4秒。回避不可能。致命傷。短刀で受け流すのが最適〉

 瞬間的にそんな認識が流れ、俺は何も考えずに短刀を上へ構えた。

 短刀へと斧槍が当たる。その一瞬にだけ力を入れ、斜めに構えた短刀に斧槍が誘導される。そのまま斧槍は僅かにだが軌道が逸れ、俺のすぐ横の地面へと叩きつけられた。

 

 叩きつけられた斧槍が持ち上げられる間に、俺はすぐさま距離を取る。騎士のように流れるようなバックステップではなく、荒くも素早い歩法。油断せず短刀とロングソードを構えなおし、グンダも斧槍を悠々と振り直す。

 一瞬の攻防。しかし、今までとは違ってまさしく戦いになっていた。だが、俺だけではグンダを倒すことは難しいだろう。

 

 

 しかし、俺は一人で挑んでいるわけではない。

 

 

 

 

 

 「『太いソウルの矢』っ!」

 グンダの兜から、大きく青い光が飛び散る。少女の魔術による援護だ。亡者と戦った時に教えたように、確実に命中するであろう状況で、より威力が高い魔術を選んでいる。どうやら頭の回転だけではなく、応用力も高いらしい。

 グンダの足が少しばかりぐらつく。その隙を逃さないように、俺はグンダへ走り始めた。

 

 しかし、グンダも俺に反応しすぐさま斧槍を構え右に薙ぎ払う。速度は遅いものの、当たったら確実に重傷だろう。

 迫ってくる斧槍を見つつ、俺は右手のロングソードを自然と『逆手に構えなおす』。

 

 

 『軌道に沿うように。力を入れすぎず。かつ思いっきりだ』

 頭の中の声に従うように、右から迫る斧槍へと逆手のロングソードを近づけていく。

 

 

 近づくにつれ時間の流れが遅くなっていき、より正確に斧槍の軌道を読んでいく。

 

 

 ロングソードの横の出っ張りに引っかけるように、斧槍を柄に当てる。

 

 

 そして、ロングソードを力の限り押し上げ、それにつられるように斧槍も上へと軌道がずれていく。

 全力を出すのは、ここだ。

 「おっ……らぁ!」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、火花と共に斧槍が右上へと受け流された。

 『パリィ成功。さあ、チャンスだぞ?』

 言われるまでもない。大きく腕を開けたグンダの前はがら空き。そこに走った勢いを止めずに突撃していく。

 振り上げられた斧槍の勢いを制御できず、グンダはおもわず俺へと膝をついた。灰色の兜へが、俺の眼前へと下ろされる。

 

 「終わりだあぁぁ!!」

 

 右手と左手を思いっきり振り上げる。それぞれの手には逆手に持ったロングソードと短刀。

 

 

 

 俺はそれを力の限り、グンダの頭へと突き下ろした。

 

 

 

 —*——*——*——*——*——*

 

 

 

 ついにやった。

 壁際で魔術を放とうと構えていた私は、短刀と剣をグンダへ振り下ろした偽騎士を見て思わず安堵した。おもわず手から力が抜けて、杖が地面へと零れ落ちる。

 「あっ、杖が……」

 師匠からの「いつだって杖は構えておけ。それが生死を決めることだって珍しくない」という教えを思い出し、かがんで杖を取ろうとするも足が震えてかがめなかった。もし今座ってしまったらしばらくは立てないだろう。

 

 あとで拾うことにし、視線を偽騎士の方へと向ける。

 彼はグンダへと突き刺した短刀と剣を引き抜き、地面へと落とした盾を拾い上げているようだった。途中で盾を落とした時にはついに諦めたのかと思って絶望しかけたが、結果的に二人共生き残ったことを確認し改めて安心する。

 しかし、どうして盾から短刀に切り替えたのだろう?

 ふとそんな疑問が頭に浮かび、本人へ聞くために声を上げようとする。そういえばさっき蹴られた件についても話さないと。

 

 

 

 「偽騎士さーん。さっき私を——」

 しかし、挙げようとした声は途中で止まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グンダが、ゆっくりと起き上がっていた。

 

 

 

 

 

 「後ろですっ!!!」

 とっさに声を張り上げ、盾を拾い終わった偽騎士へと警告する。

 その間にも、グンダは立ち上がりさらに身を震わせていた。自慢の斧槍を手放し、苦しそうに頭を抱えている。

 

 

 次の瞬間、グンダの背中から巨大な蛇がうねりながら這い出てきた。

 

 

 「あ、あれは……」

 驚きで言葉が出ない。

 知っている。記憶は無いはずなのに、私はそれを知っている。しかし、そんな混乱が広がるよりも前に、謎の『声』が聞こえてきた。

 

 『あれは人の膿。もう忘れたのですか? そこまで忘れっぽくはなかったのだけど』

 

 「人の……膿?」

 頭の中で、そんな自分の声が反響する。なんだこの声は。

 『なんだって言われても、今はそれどころじゃないでしょ? あの騎士を見なさい』

 

 声の通りに顔を上げて前へと目を向ける。

 偽騎士はグンダから出てきたそれに驚くも、斧槍を持っていないのを見て今度は盾を構える。短刀は武器を持っている相手にのみ使うのだろう。

 そのとっさの判断が彼を救った。

 

 グンダの背中からもう一つ、骨で構成されたような左手が出てくる。その大きさは人をはるかに超えていた。 

 

 出てきたと同時、その巨大な手は地面を這うように偽騎士へと振り払われる。なんとか盾で受けるものの、腕が痺れてもう一度盾は上げられない。

 「まずいっ!」

 それを見て、私は杖を拾う前に偽騎士へ走り出した。一瞬だけ「下がれ」という声を思い出したが、すぐに意識の外へと追い出す。

 

 私が偽騎士へ追い付こうとする間にも、グンダの攻撃は止まらない。

 グンダは巨大な左腕を上へと持ち上げ、斧槍と同じように叩き潰すために力を入れていく。斧槍とは違って、手を広げているので、回避するには範囲が広すぎる。

 偽騎士もそれを悟ったのか盾を上げようとするも、やはり力が入らないようだった。

 

 

 

 (間に合えっ!!)

 すぐさま偽騎士へと必死に駆ける。壁際にいたため、距離は相応に長い。しかし杖を拾う暇がないこの状況で、私に今できることはそれしかなかった。

 間に合うかどうか微妙な距離。しかし、間に合わず二人もろとも潰される、という考えは頭から完全に抜け落ちていた。

 そしてグンダの巨大な左手が偽騎士へと叩きつけようと振り下ろされる直前、私は偽騎士へと抱きついて、走った勢いのまま左手の間合いから二人共離れる。

 その直後、後ろから轟音と風圧が私を襲いさらにグンダから離れる。地面にぶつかった衝撃で偽騎士が腕から離れ、私は地面を転がっていく。

 

 「う……くっ……」

 石畳の上を転がり終わり、すぐに立ち上がろうとするも転がった勢いで体が痛む。そんな私の隣で、もう立ち上がった偽騎士の声が聞こえた。

 「ちびっこ、こっちは大丈夫だ。俺がまた引き付けるから、お前は回復しておけ」

 「あっ……」

 すでに体勢を整えた偽騎士からそういわれ、彼はすぐさま私から離れていく。

 

 待って。これじゃだめ。私は『守られる』だけじゃだめ。

 

 そんな思いが沸きだし、衝動的に偽騎士を追いたくなるもそれを理性で踏みとどまる。

 

 (……今、私がすべきことは回復して相手を観察すること)

 立ち上がりつつ、ローブの中のポケットからエスト瓶を取り出して一口だけ飲み込む。

 体に火がともったようにあったかくなり、意識がはっきりとする。杖もない私に今できることは、相手……グンダを観察すること。弱点を見つけること。

 『わかってるじゃない。さあ、前を見据えて?』

 言われなくても。心の中でそう返しながら、戦っている偽騎士へと目を向ける。

 

 

 

 

 

 偽騎士は、左手に短刀ではなく盾を持って戦っていた。やはりあの巨大な左手では、短刀で受け流せないからだろう。動きも僅かにぎこちなく、先ほどグンダを倒した時のような反応はしていなかった。

 グンダの方も、斧槍をもっていたときのような鋭い動きではなく、まさしく獣のように暴れまわるような荒い戦い方をしていた。人の膿、が原因だろうがその弱点を見つけようと、私は必死に目を凝らす。

 

 上から生えている蛇の飲み込み、左手の振り払いのグンダの連続技を、偽騎士は大きく避けていく。踏み込めば蛇による飲み込み、引けばリーチのある左手の叩きつけ。この二つのせいで、偽騎士はあまり深く攻められないようだった。

 「ウ"ォ”ォ”ォ”ォ”!!!」

 しかし、避けてばっかりいる偽騎士に業を煮やしたのか、黒い蛇は雄たけびを上げる。そして、左手を地面につけ、自分の体ごと持ち上げ大きく飛び上がった。

 

 「——ここだっ!」

 それを見た偽騎士は、逆にグンダの方へと踏み込み始める。直後、先ほど偽騎士がいた場所へグンダが着地し、地面が大きく陥没する。だが、偽騎士はグンダへと踏み込んだため、グンダの後ろで体勢を整えた。

 自分が作り出したグンダの隙を見逃さず、偽騎士はグンダへ切りかかる。上へ振りかぶり縦切り、剣を引いて深く突き刺して二撃目。グンダの体が僅かにだが崩れる。

 

 だが、すぐさま体勢を立て直し、力をためるように足を曲げる。と、その巨体が上へ飛び上がり、真下にいる偽騎士へと着地に合わせて腕を振り下ろしていく。

 偽騎士はとっさに後ろへと転がり、腕の叩きつけを躱すも着地の衝撃でふらついた。

 

 その隙を逃さず、グンダは再び偽騎士へと左手を横なぎに叩きつけようとする。しかし、偽騎士も見事な反応速度で盾を構え、さらに右から迫る左手へと剣を突き立てようと腕を振るった。。

 だが、骨のようなグンダの左手はかなり堅いらしく、剣は軽々とはじき返される。その剣が構えていた盾に当たり、一瞬だけ火花を散らす。

 

 その瞬間だった。グンダが……いや、グンダから生えている巨大な黒蛇が本当に僅かにだが身を引く。

 

 その結果偽騎士を狙った薙ぎ払いは上へと逸れ、偽騎士はすぐさま後ろへと下がっていった。それを見つつも、私の頭は恐ろしい勢いで弱点を暴こうと、理論を組み立てていく。

 (……火花、ということは光? いや、それならば私の魔術でもう怯えているだろう。ならば……熱! つまり炎!)

 完全に偶然だが、人の膿の弱点を発見する。私はそれを偽騎士に伝えようとした。

 「偽騎士さん! あの黒い蛇の弱点は——」

 しかし、この時になって私は気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 火をつけられる装備や道具も、今の私たちは持っていない、ということに。

 

 

 そう、グンダと戦闘に入る前の作戦会議で偽騎士が言っていたように、『私たちには手持ちがない』のだ。

 ここに来るまでの道では、一切の武器も道具も拾っていない。二人共、手持ちのポケットやポーチに入っているのはエスト瓶ただ一つだけなはず。偽騎士が何か持っていたとしても、さっきまでの追い詰められようからして戦闘中で使っていなければおかしい。

 

 つまり、ここで人の膿の弱点がわかっても、それを突く方法が無いのだ。

 

 それに気づいて、私は目の前が一瞬だけ暗くなる。だめなのか。やはり、私たちはこのまま死んでいくしかないのか。

 今の私は杖も持っていない。それでも私は顔を前に向け、グンダと必死に対峙している偽騎士を見つめる。他に何かあるかもしれない。なにか、この状況を打開する何かが——。

 

 

 

 『ちがう。見るのはそっちじゃない』

 また、頭の中で謎の声が聞こえる。私の声で聞こえるのだが、心の声ではない。そう、まるで冷静な私(・・・・)ような声。

 だけども、そんな疑問もすぐに外へ追いやり『声』に対して心の声で返す。

 

 (……ちがう? そんなことない! この状況で私にはそれしか——)

 私の必死な反論に、『声』は被せるように続きを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 『あなたの左手を見て。何か気づくでしょう?』

 

 (……?)

 あまりに予想外な返答に、私はつい自分の左手へと目を向ける。

 そこまで杖を握らなかったために、少しばかり固い右手と違ってすべすべしている白い手のひら。しかし、意識を向けてみると僅かにだが左の手がほのかに暖かい。

 同時に、数十分前の記憶が再生されていく。

 

 

 

 それは、私が亡者を倒したあとの偽騎士の言葉。

 『あと、ちびっこ。お前左手になんか策があったようだが、多分接近されたときに使うもんだろ?』

 そう。言われた通り策があった。それは——。

 

 

 

 (…………これだっ!!!)

 左手に向けていた視線を、今も戦っている偽騎士へと向ける。その彼へと、今度は迷いなく声を張り上げた。

 「偽騎士さん! 私に作戦があります! 私のところへ誘導してください!」

 「——っ!?」

 声は届いたようだが、こっちを振り向いた偽騎士は明らかに動揺していた。しかし、すぐさまこちらへと走り始める。グンダもそれに追従するようにこちらへと迫ってきていた。

 

 こっちへとたどり着く時間を使っても、会話する時間はせいぜい数秒間。時折振り返ってグンダの攻撃に対応する偽騎士へと、作戦内容を必死に伝える。

 「私が接近して隙を作ります! 次の飛び込みを避けて偽騎士さんは準備してください!」

 「~~っ! わかったぁっ!」

 一瞬だけ何か悩むような声が聞こえるが、次の瞬間には決心がついたような声音で偽騎士は言葉を返す。

 

 そして偽騎士がグンダから一気に距離を取り、私の横へとたどり着く。グンダはそれを狙っていたかのように、巨大な左手を地面に叩きつけその反動で一気に飛び上がった。

 

 「二人とも右です!」

 「わかった。3、2——」

 『二人共右に避けるのが作戦』という私の意図を瞬時にくみ取り、偽騎士はグンダの着地タイミングを計る。

 そして。

 

 

 「ウ”ォ”ァ”ァ”ア”!!」

 「1!」

 黒蛇の唸り声と偽騎士のカウントが同時に響き、私たちは右へと身を投げ出していく。

 先ほどの位置にグンダが着地し、地面には大きなくぼみと亀裂が生まれる。だが、その時には私達はもう体勢を立て直していた。

 「一緒に前へ!」

 その言葉と共に私と偽騎士がグンダへと突撃し始める。

 

 

 

 あと五歩。

 

 しかし、それを防ぐかのように私の前に影が差した。上へ視線を向けると、大口を開けた黒蛇が私へと向かってくる。確実に人一人は入れるほど開けた口を見て、一瞬だけ速度が緩む。

 

 

 あと四歩。

 

 だが、足は止めない。迫りくる恐怖を振り切って前へと踏み込む。そのすぐ横を、偽騎士が一瞬で通り過ぎていく。

 

 

 あと三歩。

 

 私へ襲い掛かろうとする黒蛇の口を、前に躍り出た偽騎士の盾が防いだ。しかし、防いだと同時に黒蛇の口が閉じて、偽騎士の左腕もろとも盾が口の中へ呑み込まれる。

 

 

 あと二歩。

 

 「騎士さん(・・・・)!?」

 「行け、魔女っ子(・・・・)!」

 そのわきを私は通り過ぎていく。それを追って首を横に向けようとした黒蛇に、偽騎士が右手の剣を逆手にもち、黒蛇の口へと剣を突き下ろした。

 

 

 あと一歩。

 

 動けないグンダへ、私はの手のひらを向けて、最後の一歩を踏み切る。

 そして灰の鎧へと左手を押し付けて、思いっきり声を上げ『詠唱』を言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「呪術『発火』ッ!!」

 

 

 

 「ク”ャ”ァ”ア”ア”ア”ァ”!!!」

 グンダの内側が燃え上がる。その炎は黒蛇へと伝って襲い掛かり、黒蛇は最後の雄たけびを上げていく。

 

 その声と共に、ついにグンダは膝を屈して黒蛇と一緒に消え去った。

 

 




ストックがなくなったので、これからは週一で1、2話投稿になります。前より増えてる? 知るかぁ!

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