絶望を焚べたその先へ   作:カキロゼ

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五話・火継ぎの使命

 「終わった……か」

 少女の一撃でグンダと黒蛇が燃え消え去ったのを見て、俺はぽつりとつぶやく。

 危なすぎる。死んでいないのが不思議なほどの戦闘だった。

 黒蛇の口から出た左腕は、もはや一切の力が入らない。そのまま緊張が切れて、俺は全身の力が抜け地面へと倒れ伏せる。

 「はぁ……はぁ……ッ偽騎士さん!?」

 倒れこんだ音を聞いて、少女がこちらへと振り返りこちらへと駆け寄ってくる音が耳に届く。ただ緊張感が途切れたせいで、集中が一気に緩んで意識が朦朧としてきた。喋ろうとしたらうめき声が出る始末だ。

 「う……あ……」

 「偽騎士さん! そんな、大丈夫なんですか!?」

 (くそっ、ようやく勝った……て……のに)

 守らなければ、そう思う意志に反して体は動かず瞼が閉じていく。

 少女の心配そうな声と体が揺さぶられる感覚を残し、俺は落ちるように意識を失った。

 

 

 

 —*—*—*—*—*—

 

 

 

 昔から、俺は偉そうな子供だった。

 ちょっとした田舎村の中、他の子どもより少しばかり体が強く、けんかだって負けたことは無い。たった、それだけの理由で。

 親からは「他の子をいじめてはいけない」なんて言われてて、そのためか自然と誰かを守るような立ち位置に立っていた。大人からは「偉い」なんて褒められていたけど、俺はそう思わなかった。

 

 「なんであんなに偉いっていうのかな? 俺は好きで助けてるわけじゃないんだ。しょうがなくやってるんだよ。あいつらが強くなったらいいだけの話じゃないか」

 川のほとりで、隣の幼馴染の少女へと少年は文句を漏らす。不服そうな顔をしていて、不満が溜まっているようだ。それを横目で見た少女は、そっと口を開く。

 「それができない子も多いのよ。誰だって強く在るのは難しい。辛いし、苦しいの。そうでしょう?」

 「そりゃそうだけど……」

 膝に顔をうずめて、吐き出せない感情を閉じ込めようと少年はうめく。

 

 たぶん、彼は少女がいじめられているのを見たら、どんなに止められようとも助けに行くだろう。なりふり構わず、自分なんて顧みず。しかし、少女はそれが心配だった。

 だから、少女は小さな声で約束をする。

 「……だけどもし、もうだめっ、無理だよって思ったら、『――――』してね? 約束だよ?」

 「そんなことあるもんか。僕は強いんだから」

 だけど結局少年は押し切られて、少女と指切りをする。少年は内心で約束を破るつもりだったが。

 

 

 

 次の日、狩りに出かけていた少年は自分の住んでいた村が焼け落ちていくのを見た。

 

 約束は、今も続いている。

 

 

 

 —*—*—*—*—*—

 

 

 

 「――――だから、どうしてそんなこと言うんですかっ!」

 「無駄だからだよ。俺達、火の無い灰なんて結局ただの不死人。使命を果たそうなんぞ、まったく滑稽だ」

 誰かが言い争う声が聞こえ、俺は急に意識が戻る。

 体に痛みは無いものの、起き上がるのが億劫なほどの倦怠感。そんな中目を開けてみると、黒鉄の兜の隙間からは、白い雲に覆われた空……ではなくなんだか青暗い天井が見えた。

 (……つまり、外ではない?)

 瞬間、一気に先ほどの記憶が流れ込んでくる。猛威を振るった黒蛇、力尽きて消え去ったグンダ、そして俺と一緒に戦った少女。

 

 守らないと。『守り切らないといけない』。

 

 そんな衝動に突き動かされ、俺は寝ている姿勢から一気に体を起こす。あの少女はどこだ、無事だろうか。すぐにでも確認しなければ——。

 急に思考が回り始め、まずは状況確認のために周りを見渡した。そこには――。

 

 

 

 

 

 「いいですかホークウッドさん、あの騎士さん(・・・・)は私を守ってくれたんです! 審判者にも立ち向かって私と一緒に倒しましたし、戦闘のアドバイスも的確で、見ている限りかなりの実力をもっています! わかりますか!? 騎士さんはとてもすご……い……ひと……で………」

 こちらへ指と顔を向けて、俺のことを必死に庇っているらしい少女がいた。

 

 聴かれるつもりは無かったのだろう。少女は急激に顔を赤く染めながら、指した指を振るわせて俺へと質問する。

 

 「い、いつから……聞いて……」

 

 

 

 「…………あー、そんなに褒めなくてもいい――「『ソウルの矢っ!!!』」

 

 

 〈直撃まで0.3秒。回避不可能〉

 そんな認識と同時、少女の杖から恐ろしい速度で発射された『矢』は頭へ直撃し、俺は再び気を失う事となった。

 

 

 

 

 「お目覚めですか? 灰の騎士様」

 二度目の気絶ののち、俺は意識が覚めてゆっくりと体を起こす。声が聞こえた方へ目を向けると、そこには装飾付きの眼帯を付けた薄い金髪の女性が俺の方へかがんでいた。

 二回も意識を失ったためか、ずきずきと鳴る頭痛を振り払うように頭を振って答える。

 「騎士……ああ、俺のことか? 一応大丈夫だが……」

 あんたはだれだ? と質問する前に、後ろから少女の声が聞こえてきた。

 「ようやく目覚めましたか、偽騎士さん。……この人は火守女(ひもりめ)。私達のような、火の無い灰への従者……みたいです」

 

 声がした後ろへ振り返ってみると、階段のような段差に座って休んでいる少女が視界に入った。 声の様子からしてさっきのは完全に無かったことにしたようで、こっちへ視線を向けず杖の手入れをしている。

 火守女、と呼ばれた女性は俺の隣でかがみながら話しており、黒いローブを纏った姿は儚げながらも優雅さを感じさせる女性だった。

 「はい、灰の魔女様がおっしゃられた通り、私は火守女。篝火を保ち、火の無い灰に仕える者です。何か聞きたいことがあったら、何なりとお申し付けください」

 「仕える者……」

 なるほど、流石に火継ぎなんて儀式をやるためにはそれを執り行う者が必要だ。おそらく火守女は、火継ぎの儀式を行う司祭であると同時に火の無い灰へと仕える従者、みたいなものなのだろう。

 

 そんな推測が頭をよぎりながら俺は腰を上げて立ち上がり、周りを見渡そうと視線を巡らせる。

 薄暗く、古ぼけた石でできた柱や壁。俺がいる場所から円形に空間が広がっていて、左右に分かれた階段の先には外へと続くだろう門が見える。その下は洞窟のように道ができていて、そこにいる巨漢の一人は鉄を叩いており、もう一人の婆さんは道具らしきものを整理している。

 上にある入口を確認した後、俺はまだ見ていない後ろへと振り返った。

 

 

 

 そこには巨大な玉座が、五つ。俺へと向けて階段状に配置されていた。

 一つ一つ装飾や形、大きさが違ってはいるが確かに玉座、と呼ぶにふさわしい腰かけ。それらの玉座は、そこに座る者たちの偉大さを示すように違和感なくこの場所に置かれていた。

 「これは……」

 「王達の玉座、と呼ばれています」

 思わずつぶやきをこぼした俺へと、火守女から説明が入る。

 「はるか昔に初めて火継ぎが行われてから、幾度もなく火継ぎは繰り返されてきました。しかし、この世に火の力を持った王はもはや一人しかおらず、火継ぎをしようにも火の力そのものが足りないのです」

 「……じゃあ、どうするんだ?」

 

 「そのために火の無い灰が生まれるのです、灰の騎士様。火の王がいないのならば、『昔に火を継いだ王を、墓から呼び出して再び王とする』と火継ぎの伝説に残されています。僅かにですが、その身に宿した火は今だ健在。今回はこの玉座に座る『王の薪』を五つ焚べれば、正しく火継ぎが行われるでしょう」

 「墓から呼び出してって……つまり、昔の火の王を蘇らせたのか!?」

 まるで火の無い灰と同じだ。しかも、最終的には火継ぎをさせるわけだから『再び死ぬために蘇らせられた』ことになる。俺達よりももっと状況が悪い。

 「はい。しかし、再び火継ぎをしたくはない、とほとんどの王はここ、『火継ぎの祭祀場』から逃げ出してしまいました。唯一残ったのが、小人の王であるルドレス様のみ……」

 「…………」

 

 無言のまま、五つの玉座へとちらりと視線を向ける。すると、確かに左から二番めの玉座には、小さいながらも確かに炎を身に宿している老人が座っていた。後ろから、火守女が話を続ける。

 「火の王がいなければ、火継ぎも当然できません。さらに、この『ロスリック』の地は火継ぎの影響で時空がゆがみ、逃げ出した王達の故郷が寄り集まった土地になってしまいました」

 「逃げ出した火の王は、その自分の故郷へと逃げ帰った、というわけか」

 火守女へ振り返りつつ、俺がそう口を挟む。火守女は小さくうなずき、続きを話した。

 

 

 

 「はい。ですから、火の無い灰であるお二方には、ロスリックの地を歩き周りこの場所へ王達を連れ戻してもらいます。それが、今回の『火継ぎの使命』です」

 

 

 「…………」

 俺は、何も言えなかった。

 『火継ぎの使命』というのはつまり、『世界を救う』ということ。

 今まで火継ぎをし本当に世界を救ってきた英雄は皆、死んで死んで死に続けて、それでもなお諦めずに挑んだ者たちだ。そんなことが、俺にできるとは思えない。

 あのグンダでさえ、これから戦っていくバケモノに比べればかなり弱いのだろう。それに死にかけた俺に、世界を救うなんてできるのか?

 

 背負った使命の大きさを改めて感じ、その重圧で体が重っていき心臓の鼓動が速くなっていく。

 その時だった。

 

 

 

 「……わかりました。要は、私達二人でその火の王を連れ戻せばいいんですね?」

 後ろから、会話に口が挟まれる。

 振り返ると杖の手入れをやめた少女が、階段から立ち上がり俺へと向かって歩いているのが見えた。その足取りは堂々としており、まるで乱れていない。少女はさらに火守女へと質問し始める。

 「じゃあ火守女さん、あなたは私たちに何ができますか? 私たちに仕える、と言ってましたが」

 「火の無い灰に対して私ができること、それは灰のお方の内にあるソウルを糧として、灰のお方のソウルを強化することです。主なきソウルがあれば——」

 「なるほど、だとしたら次は——」

 火守女へと次々に質問するその態度は、不安が一切見えずただ目の前だけを見ていた。

 

 それはつまり、火継ぎの使命を諦めていないということであり、これから死に続けるであろう戦場へ臨む、ということだ。おそらくそれがわかっていて、それでもなお戦うための質問をしているのだろう。

 俺を気にせず火守女とのやり取りを続ける少女を見て、思わずつぶやきが零れる。

 

 「……怖く、ないのか?」

 そのつぶやきは少女の耳へと届いたようで、少女は黒鉄の兜の奥にある俺の目へと顔を向ける。

 「……確かに、さっきみたいな戦闘をこれからもやっていくのだと考えると、私だって怖いです。でも」

  

 

 

 「偽騎士さんが、いますから」

 

 

 

 少女の強気そうな眼に映っていたのは、最初に見せた『決意』の色。俺が変えられるわけがないほどに、強く固まった決意。

 それを見て、俺は言葉を漏らす。

 

 「……勝てねえなぁ」

 「ん、なんて言いました?」

 「いや、そんなこと言って恥ずかしくねえのかなぁ、ってな」

 「えっ、あっ……!」

 みるみるうちに頬が赤くなっていく少女を見て、俺は思う。

 

 

 

 (多分、ちびっこはこの『使命』を諦めない。これから先も地獄のような戦いの連続だろう。なら俺は…………こいつを、ちびっこを守るために戦っていきたい)

 

 俺が戦う理由は、しばらくそれでいいはずだ。黙ってそっぽを向く少女をからかいながら、俺はそう納得する。

 

 

 

 今は、まだ。

 

 

 

 —*—*—*—*—*—

 

 

 

 あの後、俺と少女は火守女へと質問を繰り返しいろんな情報を得た。

 特に気になったのは、どうして俺たちは二人いるのか、という点だ。それに対して火守女は――。

 

 

 「なぜ此度(こたび)の火の無い灰が、お二人なのかはわかりません。しかし灰の騎士様と魔女様のソウルを見てみましたところ、どうやら一人分の灰の力が二人へとわかれているようです」

 「灰の力?」

 「灰の力とは、ソウルを操る力。物質に宿る本質、物質の源をソウルと言います。今までの灰のお方は、その力を利用して自分の中に武器をしまい込んだり、主なきソウルを己の力へと変えてきました」

 「……でも、私達にはその灰の力が半分ずつ分けられているんですよね?」

 「はい。そのため本来一人に与えられる主なきソウルは、二人へと平等に分け与えられます。灰の体も一人に比べたら弱く、物質をソウルとする術もより時間がかかるみたいです」

 「じゃあ、二人で戦えること以外はデメリットしかないってわけか」

 「……いえ、他にも一つだけお二人には有利な点があります」

 

 「それは、体のもう半分は人間で出来ている、ということです。火の無い灰が強くなるには、主なきソウルを取り込んでいくしかありません。しかし、お二人にはそれ以外にも強くなる可能性が秘められています。それをお忘れにならないように……」

 

 

 

 「人間の可能性ねえ……」

 今俺達は、『火継ぎの祭祀場』から外に出ている。理由は、これから先戦っていくための訓練だ。

 火守女からの話でわかったことは、物質をソウルに変換する術、ソウルを使って得た魔術や身体強化を扱うことが、火の無い灰の基本的な戦い方ということ。それらを戦闘に生かすには、まずその技術を体に覚えこませるしかない。

 特に少女は杖と呪術の炎(左手にある炎のことらしい)以外を扱ったことがないためか武器に苦手意識があり、それを直してもらう必要がある。そのために俺が用意したのは―――。

 

 

 

 「……それにしても、本当にショートソードって扱いやすいんですね。軽いから、あまり腕に力を入れなくても振り回せます」

 「それもある。だが、本命はちびっこでも片手で振り回せる、というところだ。魔術や呪術と一緒に持つことが出来て、なおかつ邪魔にならない。盾をいつか装備することも考えれば、片手でショートソードを扱えるようになっておいた方が良い、と思ってな」

 火継ぎの祭祀場から出て、上に登ったところにある石畳の道。そこで、俺たちは武器を扱う訓練をしていた。

 少女は、祭祀場の侍女(というおばあさん)から買ったショートソードを扱う訓練。今も、かけ声とともに1メートルもないだろうショートソードを片手で振り回している。正直、結構力任せに振り回している姿はかわいらしくも危なっかしいが。

 

 (まあ、最初はこれでいい。体重移動や回避に防御なんてのは後だ。今は、『武器を扱える』という自信を持ってもらうのが目的だからな)

 

 そんな俺の方はというと火守女から聞いた、武器をソウルへと変える術、というのを試していた。ロングソードをソウルに変え、またロングソードに戻す、という具合だ。

 この術は基本的に、右か左の手に武器を出現させるというものらしく、どちらかの手の中にしかソウルを物質化できないようだ。とっさに武器を変えるなど使い道はあるが、俺の場合5秒ほど時間がかかるため戦闘中では扱いづらい。

 ただ長く時間使用している物や、何度も練習した物は瞬時に物質化できるようなので、俺は地道にソウル化と物質化を繰り返しているわけだ。

 

 

 

 「……にしても、うまくいかねえなあ。なんでだ?」

 俺が少女へ細かいアドバイスをしながら、物質化訓練を始めてかれこれ一時間。少女の方は割とショートソードに慣れ始めているのに対して、俺の方はというと物質化が早くなる気配が一切ない。

 訓練にも少し飽きてきて、俺は思わずそうぼやく。それを聞いた少女は、振り回しているショートソードを止めて俺へと顔を向けた。運動していたため、顔が熱くなっていて息も少し荒い。

 「ふぅ……、物質化のことですか? 私の方はすぐさま杖を取り出せますけど、他はどうやったら……」

 そう言いつつも、右手のショートソードをソウル化して杖を物質化する。特に杖を物質化する速度は速く、まさしく一瞬で出現させた。

 

 

 「それ、本当にどうやってるんだ? 文字通り一瞬じゃねえか」

 「頭で杖を思い浮かべたらすぐできましたよ? こう、細部まで思い出して自分から引っ張り出すように……」

 「それで出来たら苦労しねえよ。他に戦闘について聞ける奴いたかぁ……?」

 まったく苦労してないような声でアドバイスしてくる少女を受け流しつつ、祭祀場にいた人達を思い出していく。

 

 (……一人、戦闘について聞けそうなやつがいたな)

 そいつにアドバイスしてもらうために、俺は少女へと呼びかけながら降りる階段へと足を向けた。

 「よし、訓練は終わりにして祭祀場に戻るぞ。またいろいろと話を聞かねえとな」

 「……ホークウッドさんですか?」

 「そうだな。グンダの所で眠っていた俺を祭祀場まで運んだって聞いたし、そのお礼も兼ねてだ」

 それを聞いた少女は少しむくれた顔をするも、階段を降り始めた俺についてくる。そこまでホークウッドとやらが気に入らないらしい。

 

 

 「……私が助けを呼んだのに……」

 

 

 「何か言ったか?」

 「いえ、なにも」

 

 そんなやり取りをしながら、俺たちは祭祀場へと戻っていった。

 

 




戦闘シーンが難しいと前回まで嘆いていましたが、今度は日常シーンが難しいです。人間ってわがままなんだなぁ……。
次回も日常シーンですね。冒険はもうちょっとお待ちください。
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