絶望を焚べたその先へ   作:カキロゼ

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六話・旅立ちの準備

 

 祭祀場へと戻った俺と少女は、円形の広場で座り込んでいる男へと足を運んだ。

 チェインヘルムを被り、肩や関節を守る独特の鎧を着こんだその男はホークウッドと名乗るらしい。まあ、少女から話を聞いただけなのだが。

 俺が最初に目覚めたときに少女と言い争っていたのがホークウッドらしく、少女に頼まれて俺を祭祀場へと連れてきたらしい。「良い奴じゃねーか、どうしてあんな怒ってた?」と突っ込むと、

 

 「……偽騎士さんを馬鹿にしたので。あと、あれはもう忘れてください」と返された。

 

 そういう経緯があり少女はホークウッドに対して苦手意識、というか敵愾心を持っている。

 後ろをちらりと振り返ると、突いてきている少女は不満そうだった。そこまで嫌そうならついてこなくてもいいと思うが……。

 まあ、情報共有が楽なのは確かだ。少女からの指摘や考えも俺にとってはありがたい。別にすぐつっかかるほどでもないだろうからな。

 そんな考えを巡らせつつ、俺はホークウッドの前で声をかける。人の長さに近い剣を背負ったホークウッドは、けだるげに首を持ち上げた。

 「あんたがホークウッドか。聞きたいことがあるんだが――」

 

 「墓から出てきたばかりで、さらに騎士気取りの灰などにしゃべることなどない。他を当たるんだな」

 

 〈後方で巨大な気配。逃走を勧める〉

 認識と同時、後ろで何かが切れるような音が聞こえた……気がした。

 

 

 

 しゃべりかけてかれこれ5分ほど。少女とホークウッドの口論は未だ続いていた。

 「だから偽騎士さんは強い人なんですっ! 騎士気取りなんて言葉は撤回してくださいっ!」

 「はっ、あんたみたいなお嬢ちゃんが言うとますます嘘らしく聞こえるな。それ以上喋らない方が良いぜ?」

 「あなたこそ、いい加減こんなところから出て使命を果たすべきです! なすべきことをしないでそんな口をきかないでくださいっ!」

 「…………あんたはそう言ってるが、自分こそ相棒の役に立つべきじゃないのか?」

 「う……」

 

 少女が俺への謝罪を要求し、ホークウッドはそれを絶対に拒む。言い返した分だけ言い返し、今となっては終わりのない怒りが回っているだけだ。少女が俺のことで起こってくれるのは素直に嬉しいが、俺としてはそこまで怒っていないし、流石にそろそろ話を始めたい。

 なので、少女が言いよどんだタイミングで俺は口と体を両者の間に滑り込ませる。あんまりやりたくないし、似合わないのはわかっているがしょうがない。

 「あー。なあ、もう終わりにしねえか? ちびっこ、お前が俺のために怒ってくれているのはありがたいが、こっちだって用事をすませたい。これ以上ここにいてもまた口論が始まるだろうから、少し席を外してくれ」

 「で、でも私は」「頼む」

 食い下がろうとする少女へ、俺は引かずに頼み込む。それを受けた少女は、ゆっくりとした足取りで祭祀場の出口へと向かっていった。おおかた、不満を発散しに訓練に向かったんだろう。

 振り返って少女を見ていた俺へと、ホークウッドが話しかけてくる。

 

 

 

 「あんたが偽騎士さんか。俺みたいな半端ものに何の用だ?」

 「……一応、俺は偽物じゃなくて本物の騎士のはずなんだが。まあ、もういい」

 少女のせいで『偽騎士』が呼び名だと認識されたことに、肩をすくめて呆れる。ここまで来たら訂正するのも面倒だ。直さずに会話を続ける。

 「ホークウッド、俺たちは火継ぎの使命を果たすためにロスリックへと行くつもりだ。だから、火の無い灰として何かアドバイスをくれ」

 「……なら、一つ。『使命を果たそうなんてやめとけ』」

 

 少女へのからかいとしての声とは違う、本気の声。

 「どうしてだ?」

 「地獄を見ることになるからだよ、偽騎士。勝てるはずがない、できるわけがない、俺には無理だってな」

 俺が火継ぎの使命へと抱いた感情を言い当てられ、少し体が強張る。ホークウッドは下を向いて喋っていて気づいてはいないようだが、足の上で組んだ腕は微かに震えていた。

 「だから、俺からの善意の忠告としては『やめておけ』としか言いようがない。それでも、アドバイスが欲しいか?」

 

 

 

 「ああ、欲しいな」

 「……なぜ?」

 少し意外だったのだろう。こちらへ顔を上げたホークウッドの目は僅かに見開かれている。

 

 「いいか、俺は騎士だ。ぼろぼろのコートとフードを被ってて、盾はあまり使わず、騎士らしくない口調だろうが、俺自身は騎士だと認めている」

 「騎士の役目は、守るということ。わかるよな? そのためには、守るやつより強くなくちゃいけない。だからこそ、俺は強くなりたいんだよ」

 「これで、満足か?」

 

 一気に言葉をまくしたてたせいか、それとも興奮してなのか呼吸が少し荒い。ここまで喋るつもりじゃなかったが。

 ふと、また頭へと声が響いてくる。

 『それでいい。そうやって希望を無くすことなく、立ち上がり続けろ』

 (希望を無くすな?)

 俺がその言葉の意味を考えるよりも、ホークウッドはため息をつきこちらへと向き直る。

 

 「……お前がどれほど強いのかを、俺は見ていない。だが、ロスリックではかなり亡者が多い。囲まれないように、全方位に注意を払うことだ」

 「もし囲まれたときは、逃げることを優先して各個撃破を狙うことだな。逃げられない場合はあの嬢ちゃんを使え。魔術が使えるといっていたが、俺の知る限り広範囲攻撃の魔術もあったはずだ」

 

 

 「……意外だな、ホークウッド。あんたがちびっこを頼るよう言ってくるとは」

 「溺れる者は藁をもつかむ、というものだ。俺ならあんな嬢ちゃんは連れて行かないからな」

 そこまで言ってホークウッドは、一拍呼吸をする。まるで言うのをためらっているかのように。

 「……だが、偽騎士。どうせお前はあの嬢ちゃんについていくはずだ。お前の声には、『希望』が宿っている。これからの未来に、何かしらの覚悟を決めたやつの声だ。それを変えるほど、俺は力を持っちゃいない」

 

 「まあ、だから、せいぜいあがくんだな」

 

 「……ああ、どこまでもあがいてみせるよ。助言、ありがとな」

 「はっ、どこかで野垂れ死ぬだろうから期待はしないでおこう」

 少し頭を下げた俺へと、ホークウッドからそんな言葉が投げられる。その声に悪意はなかった。

 善意は、あったのかもしれない。

 

 

 

 ―*―*―*―*―*―

 

 

 

 「はぁ、はぁ……ふぅ。これぐらいでしょうか」

 振り回し続けたショートソードを下に向けて息を整える。訓練で熱く火照った体に、涼しい風が流れこんできた。中々悪くない爽快感だ。  

 体と同時に頭も冷えてきて、先ほどの自分がやったことが思い出される。

 ホークウッドの発言に冷静さを無くし、いろんなことを口走った私。それを止めてくれた偽騎士さん。

 思い出せば出すほど、羞恥心と罪悪感で胸がいっぱいになる。

 「一体、どんな顔をすれば……」

 

 確かにホークウッドの『騎士気取り』発言は気に入らなかった。けど、あそこまで怒るとは自分でもわからなかったのだ。

 さらにやめてくれと言った偽騎士の、あの呆れたような声。それも、思い出すたびに心へと罪悪感がずしりと溜まっていく。

 (ど、どうすれば……。謝る、ことは必要なはず。あとこれからへの反省も。それと、ええと……)

 

 考えることが多すぎて、頭の中がまったくまとまらない。被っている帽子の中から、煙が漏れ出してそうだ。

 

 

 

 

 「ちびっこ、話は終わったぞ」

 

 だから、後ろからかけられた声に私はびっくりしてしまった。

 「ひぁっ!? に、偽騎士さん!?」

 「そんな驚かなくてもいいだろ……。何かあったのか?」

 「い、いえ何も」

 謝らないといけないと思いつつも、口と表情は平静を取り繕うとしてしまう。私のいつもの癖だった。

 (師匠も言ってたなあ。『あんたはそうやってるから、助けを求められないんだ』って。……あれ?)

 

 私は、いつそんなことを思い出したのだろう?

 

 そんな疑問が急に湧いて出てきて、何かを考えるよりも先に私は口を開いてしまう。

 「偽騎士さん。私達、いつの間にか記憶が――」

 「ああ、分かってる。それについても火守女に聞きたいし、また祭祀場に戻るぞ」

 私の質問を右手を向けて止め、すぐに返答してくる。『それについても』と言っているから、別の用事もあるのだろう。

 「わ、わかりました」

 私はすぐに言葉を返し、右手のショートソードをソウル化して偽騎士へとついていく。

 

 『ほら、もっと考えて。答えを探し続けるの。それがあなたの決意だから』

 そんな声が、頭で反響していた。

 

 

 

 ―*―*―*―*―*―

 

 

 

 偽騎士に連れられて私たちがやってきたのは、祭祀場の奥で鉄を叩いている巨漢の男性の前。かなり白ひげが目立っていて、顔は明らかに老年の男性に見える。しかし、その体は全く衰えていないような体で、なぜだか『同じ人間』とは思えないほどの存在感を放っていた。

 「あんたらが二人組の火の無い灰か。俺はこの祭祀場の従僕、アンドレイ。見ての通り、武器を打つ鍛冶屋さ」

 見た目とは違って、とてもおおらかな笑顔で挨拶をするアンドレイ。その挨拶へ返したのは偽騎士でした。

 

 「鍛冶屋のアンドレイか。俺は……灰の騎士だ。早速だが、このちびっこの剣を見てくれねぇか?」

 「私は灰の魔女、です! 偽騎士さんはいい加減、魔女って呼んでください」

 「ちびっこが俺を灰の騎士って呼ぶまで、絶対に言わねえ」

 「はっはっは。なるほどなるほど、偽騎士にちびっこか。今後はそう呼んでもらうことにしよう。よろしくな」

 「……」「……」

 

 そんなやり取りをしつつ、私は右手にショートソードを物質化させた。祭祀場の侍女、というおばあさんから買い取った(ここでは通貨ではなく、ソウルで買い物をするようだ)ショートソードは、まだ何も切ったことが無い。刃こぼれも汚れも全くなかった。

 取り出したショートソードをアンドレイに預けると、アンドレイはショートソードと私を交互に見て、何かを考えこみ始めた。その様子を見た偽騎士は、アンドレイへと提案を投げかける。

 「頼みたいことは、剣の縮小化だ。このちびっこの体でも振り回せるように小さくしてもらいたい。あとは、何か装備についての助言も欲しいところだな。……頼めるか?」

 アンドレイはショートソードから偽騎士さんへと目を向けて答える。

 「あたぼうよ。件をちびっこの体に合わせるんだったら、ショートソードよりもレイピアに近くなるな。その方が握りやすいし、そもそも筋力が無いから切るよりも突くようにしたほうが攻撃しやすいはずだ。それでいいか?」

 「ああ、頼んだ」

 

 「後は、装備の助言か。偽騎士は問題ないだろうが、ちびっこの方は盾を持ったほうがいいな。鎖帷子も着込んだ方がいいだろう。祭祀場の婆さんが売っているだろうから、買ってきといたほうがいいぞ。こっちはすぐに終わらせておこう」

 「わかった。剣に関しては任せる。とにかく使いやすいようにしてくれ。アンドレイ、助言ありがとな」

 「剣のこと、よろしくお願いします」

 

 二人とも礼を言ってアンドレイから別れ、すぐそこの祭祀場の侍女へと向かう。 

 アンドレイの助言通り、鎖帷子を買って黒いローブの下から着込む。けっこう重く感じるが、走れないほどでもないし、大丈夫そうだ。

 他にもグンダから手に入れたソウルのあまりを全部払い、投げつけるための火炎壺や鉄製の小さく丸い盾を買う。私に渡された盾は、すぐにソウル化しておいた。私はソウル化・物質化する速度が偽騎士よりも早く、体に装備するよりも物質化した方がより早く構えられるからだ。

 

 

 

 買い物が終わったのち、私は一人でアンドレイに向かう。そのころにはもう剣の改造は終わっているらしく、到着してすぐに細長い剣を渡してきた。

 「ほらよ。これがちびっこの剣だ。銘はちびっこ本人がつけた方がいいだろう」

 そう言って渡されたショートソードは、見る影もないほど細く薄くなっていた。私の小さい手にもよくなじむ。柄の形や剣の長さは変わっていないけど、とても細身になっていて貫きやすいように先端がかなり鋭くなっている。なるほど、レイピアと呼ばれるのも納得した。

 最後にこの剣に銘をつけるようで、私は少し悩む。正直、名前には思い入れが無く持っている杖にも名前はつけていなのだ。

 「ショートレイピアでいいんじゃないですか?」

 「……まあ、ちびっこがそれならいい。これで大丈夫だろう?」

 「はい、ありがとうございました」

 「気にするな。これが鍛冶屋の仕事ってもんだからな。これからも頼ってくれ。じゃあな、無事でいろよ」 

 そういって、またアンドレイは金床の鉄を叩き始めた。これで話は終わりなのだろう。

 偽騎士のいる広場へ戻りつつ、手元のショートレイピアを観察してみる。横にしてみると、ちょうど私の体の横幅ほどの長さだ。確かに扱いやすいだろう。

 

 (これで、少しは役に立てるでしょうか)

 しかし、あくまでも私の本分は魔術師で、接近されない方が良い。できれば、ショートレイピアを使わないことが最善だ。

 円形の広場へとたどり着き、偽騎士と火守女へと視線を向ける。二人共目を隠す装備や装飾をしているためあまり感情が伝わりにくいが、偽騎士の方はもう準備が出来ているようだった。

 「さて、と。準備できましたよ、偽騎士さん」

 「わかった。火守女、この捻じれた剣を灰の中へ刺せばいいんだよな?」

 言いつつ、偽騎士はグンダから引きずり出した捻じれ剣を物質化させる。剣は先端の方が黒くなっていて、焦げ付きた灰にまみれているようだった。

 「はい。それによってこの祭祀場に篝火ができ、彼の地ロスリックへの道が開かれます。ここに戻るにも、篝火を通してお帰りください」

 

 「なるほど……篝火でここへと戻れるのか。なら、ためらう必要なねえな。いくぞ」

 

 そう言ったかと思えば、偽騎士はためらいもなく捻じれた剣を広場の中央にある灰へと差し込んだ。

 ゆっくりと剣が進み、少しずつ赤熱していくのが見える。

 そして。

 

 

 

 『Bonfire lit』

 

 

 

 そんな声が頭に響くと同時、半ば埋まった剣と灰が一気に燃え上がった。

 「……これが、篝火か」

 「灰の騎士様、灰の魔女様。その篝火に手を出して、ここから出る『意志』を思い浮かべください」

 後ろからの火守女の指示に従い、私と偽騎士は燃え上がった螺旋状の剣へと手を突き出す。

 

 「……多分、ここが最後の辞め時だが、どうする?」

 隣の偽騎士からの声。その声は、心配そうなそれでいて強さを持った声だった。

 その声に、私は強い決意で返す。

 「私が意志を曲げると思ってますか? 行きますよ。もちろん」

 「……だよな。じゃあ、さっさと行くか」

 

 

 

 

 

 「『希望を胸に』」

 なんの迷いもなく、偽騎士が宣言する。

 

 

 (ここから出る『意志』……)

 それは。

 「『決意を抱く』」

 私も、それに続いて『意志』を答える。

 

 

 私と偽騎士の宣言と同時、体が凄まじい勢いで軽くなっていくのを感じる。

 

 そして、次の瞬間には私と偽騎士の体は消えていったのだった。

 

 

 

 ―*―*―*―*―*―

 

 

 

 二人の火の無い灰が消えた広場で、火守女は呟く。二人へと縋るように。祈るように。

 

 

 「……どうか、炎の導きのあらんことを」

 

 




少し感覚を広めにとってみましたが、これで読みやすいだろうか……。
とまあ、これでチュートリアルは終了です。次回から本格的にロスリックの旅が始まります。さてどうなることやら。
受験がもう近いため、しばらく投稿できないと思います。
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