不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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遺骨の剣士
その名はカロン


 ──―パプニカ王国……この国はホルキア大陸南部に位置し、世界有数の美しい町並みを誇る国と言われる。特産品である金属や布は高品質であり、各国がこぞって高値で買い取っている為国庫も豊富だ。

 また、軍事力に於いてもパプニカ三賢人をはじめとする多くの賢者や僧侶、魔法使いを有し、魔法を使えない兵士たちの質も決して低くはない。さらには王族自身も代々が優秀な賢者であり、ホルキア大陸に於いては最も国力に優れた国家であろう──―

 

「が、は……!」

 

「……こんなもんか」

 

 ……なんていうのが、俺たちが今攻め込んでいるパプニカ王国の一般的な認識だが、それはあくまで『人間』の視点から見た一般的な認識である。少なくとも『魔王軍』に於いてパプニカ王国は、有象無象の中の一つでしかなかった。

 

 強いて特別な点を挙げるとすれば、15年前の魔王にして現魔王軍司令のハドラーが、かつて拠点としていた地底魔城があるというくらいだろうか。

 

「馬鹿な……! なぜ……!」

 

「よ、っと」

 

 信じられないと言わんばかりに目を見開いている指揮官の腹から、俺は剣を勢いよく引き抜く。その男は血を吹き出しながら、ガックリと膝をついた。

 まだ辛うじて息のある指揮官の周りには、たくさんの兵士の死体……俺が殺した兵士たちの死体や、俺と共に敵陣へ攻めこみ、反撃を受けて倒れたモンスターたちの死体があった。

 

 

「何故だ……! なぜ人間が魔王軍に……不死騎団に……!」

 

 その指揮官は貫かれた腹を抑えながら、息も絶え絶えの様子で俺に聞いてくる。その余りに滑稽な質問に……俺は笑ってしまった。

 

「ク、ハハハ!」

 

「な、何がおかしい!」

 

「いや、そう勘違いされても仕方ないか、なにせ俺のナリはこんなんだからな」

 

 ひとしきり笑った後、俺は自らの身体を見下ろす。うん、どこからどう見ても、若い人間の男が戦士風の格好をしているようにしか見えない。

 

 

 だが、そう見えるだけだ。真実は違う。

 

 

「冥途の土産に教えてやるよ、俺の名はカロン……大魔王バーン様の禁呪法によって生み出された呪法生命体にして、魔王軍不死騎士団の副団長、カロンだ!!」

 

 

 人間の遺骨を依代に生み出された魔法生物……ある男がいなければ、不死騎士団団長になっていたはずの男こそ、この俺カロンである。

 

 なーんかあんまり強そうじゃないっていうか、ちょっと安っぽい名前な気がするけど、バーン様のネーミングにケチをつけるわけにもいかないよな。

 

「な、なんという……! 陛下、レオナ姫……申し訳ありませぬ……!」

 

 最期に無念そうに言い残し、その指揮官は事切れた。まぁ、結構な忠義の士だったんだろうな。弱かったけど。

 

 

「死んだか……でもアンタ、結構鋭いよ。俺は違うけど、この不死騎士団には人間がいるからな」

 

 

 

「カロン!」

 

 

 噂をすれば影……俺の上司である『人間』が俺の名前を呼んだ。

 

 

「ちょうど今終わったところだぜ、ヒュンケル」

 

「ふん……お前にしては時間がかかったな、カロン」

 

 

 ヒュンケル……この世全てを憎んでいるような瞳をしているこの『人間』こそが、俺たち不死騎団の団長である。

 

「お前こそどうなんだ? 人間を殺すのに戸惑って時間かかったりしてないか?」

 

「くだらないことを聞くな……正義こそ俺の父の仇! 人間を討つのに何を戸惑うことがある」

 

 

 俺たちは大魔王バーン様の下で人間を支配すべく戦っている魔王軍であるが、そんな中に人間であるヒュンケルがいて、しかも軍団長までしているのにはある理由がある。

 

 

 ヒュンケルは赤ん坊の頃に魔物に拾われ、魔王城で育てられたという異色の生い立ちを持つ人間だ。魔王城と言ってもバーン様の居城である鬼岩城ではなく、前述したハドラーが15年前に居城としていた地底魔城のことだが。

 

 武士の鏡のような人物であったとされる魔物、地獄の騎士バルトスの元ですくすくと育っていたヒュンケルだが……ハドラーを倒しに来た勇者アバンによって、バルトスは殺された。

 

 厳密にはアバンがその手で殺した訳ではなく、ハドラーが死んだことによる魔力供給の消滅によっての死亡だったとのことだが……ヒュンケルにとってはどちらも同じことだった。

 

 こうしてヒュンケルは、父を殺したアバンを、人間を、正義を恨むようになった。アバンへ復讐する為に、魔物に育てられた子である事を隠してアバンに弟子入りまでしたヒュンケルは、とてつもなく強い……本来ならば不死騎団団長になるはずだった俺では敵わないほどに。

 

 

 

 バーン様直々の推薦でヒュンケルが不死騎団長になろうとした際、クロコダインとバラン、ミストバーン以外の六団長たち、そして魔軍司令ハドラーは反対した。人間を魔王軍の要職に就かそうというのだから当然である。俺としてもバーン様の決定に正面から反対はしなかったが、思うところがなかったと言えば嘘になる。

 

 とは言え、バーン様直々の指名に加え、六団長の半数が賛成している以上、無下にはできない。バーン様とバランはヒュンケルの人間を憎む心を、クロコダインは純粋に実力を評価していたし、ミストバーンはずっと黙っていたのでよく分からないが、まぁ反対ではないのだろう。

 

 

 そんなこんなで実力主義である魔王軍らしく、正々堂々一対一の試合でヒュンケルと俺、どちらがミストバーンから暗黒闘気を習い、ガイコツ兵士たちを指揮する不死騎団長となるかを決めることになった。

 

 結果は惨敗……いや、俺の名誉の為に惜敗と言わせてもらおう。一言言わせてもらうならば、もう二度とブラッディスクライドは喰らいたくない。不死なのに死ぬかと思った。とにかく、ヒュンケルに敗北した俺は、団長ではなく副団長という地位に甘んじることになった。

 

 バーン様の魔力に何か異変があれば戦力が低下する不死騎団を安定して率いる為に、生命ある人間を団長に据えた……というのがバーン様の説明だが、それは詭弁であろう。

 何故ならば、本来は俺が不死騎団を率いる予定だった事からも分かるように、俺もそのデメリットをある程度克服しているからだ。

 

 詳しいことは禁呪法に疎い俺には分からないが、ハドラーが禁呪法で産み出したフレイザードとは違い、俺は人間の遺骨がベースだから、ガイコツ兵士が人間のような姿をしているのに近いようだ。なので核という弱点が存在せず、バーン様からの魔力供給が途絶えても、影響を受けずに戦える……らしい。その分戦闘能力はバーン様御自ら作り出した割には控えめだが。ヒュンケルに負けたし。

 

 あと、俺がバーン様みたいな威厳たっぷりの性格じゃないのもそれの弊害らしい。基本的には呪法生命体の性格は生み出した親の性格に色濃く影響される。しかしながら俺は前述したように普通の呪法生命体とは少々気色が異なるので、性格もバーン様の影響を受けていない。

 

 ……核となる性格がないから、なんか自分でもすげぇ無個性だったりブレてるように感じることもあるが……それはもうしょうがない。そういうものだと納得している。

 

 あるいは、俺のバーン様とは似ても似つかない性格は、俺の元になった遺骨の持ち主の影響もあるのかもしれないな。特別製なのだからそういうこともあるかもしれない。

 

 まぁ、その辺りの魔王軍や俺に関する七面倒くさい裏事情は正直どうでもいい。

 何故なら俺は、ヒュンケルの凄まじい強さを知っているからだ。あれほどの男ならば、俺が下にいるのも納得するしかない。

 

 閑話休題。

 俺は周りに築かれた死体の山を見渡しながら、ヒュンケルに話しかけた。

 

「不死である俺たちと、斬られれば死ぬパプニカ軍……戦力差は広がる一方だ。パプニカにほんの僅かに勝機があったとすれば、初戦である今、後先考えずに全戦力をぶつけるしかなかったが……この国は選択を誤ったな」

 

 そう言った瞬間、俺とヒュンケルの周りで倒れていたモンスターたちの死体がガバッ! と起き上がる。そう……モンスターたちの死体ではなく、死体のモンスターたちだったというわけだ。

 不死騎団のアンデットモンスターたちは、その名の通り不死身だ。彼らは全身をバラバラにでもされない限り、どこまでも進軍を続ける。

 

 結局のところ、今回の戦いにおけるこちらの損害はほとんどゼロだ。パプニカからしてみれば絶望的であろう。

 

 

「ククク……そう言うなカロン、人間というのは、いきなり背水の陣に立つのは難しいのさ」

 

「……お前が言うと皮肉だな、ヒュンケル」

 

 

 こうして俺たちはパプニカ王国との初戦を圧勝で飾った。噂に名高いパプニカ三賢人などは残っているが……ハッキリ言って、ほとんど消化試合だろう。

 

 

 何せ、俺とヒュンケルが揃っているのだから。

 

 

 

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