不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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まるで夢小説を書いているかのような錯覚に襲われました。


気づいた真実、築いた絆

「レ……イ、ラ……?」

 

 目の前の少女の顔を見た瞬間、俺の口は勝手に動いた。なぜだ?会ったことなんてないはずなのに、俺はこの顔を『知って』いる……?

 

「あなた……一体……!?」

 

 そして、奇妙な感覚に陥っているのは俺だけではなかったらしい。目の前の少女も、俺の顔と「レイラ」という呟きを聞いて、驚愕している。

 

「いてて……何ぼさっとしてんだよマァム!ヒュンケルだって人間なんだ!もう一人くらい人間がいたっておかしくはねぇだろ!」

 

 ポップと呼ばれていた魔法使いの少年が叫ぶ。ああ、そういえばこの少女の名前だけは知らなかったな……と思う間もなく、俺の頭の中は「マァム」という文字で埋め尽くされる。

 

「マァ、ム……?あ、がっ……!」

 

 凄まじい頭痛が俺を襲う。思わず左手で強く頭を押さえ、ふらふらと後退ってしまう。なんだ?俺はどうしてしまったんだ?

 

「だ、大丈夫!?」

 

 マァムは敵だというのに、俺が苦しがっているのを心配している。まったく、優しい子に育ってくれて俺は嬉し……!?

 

「お、俺は今、何を……」

 

 ()()()()()()()()()()

 

「……あなた、ひょっとして……」

「よ、寄るな!」

 

 俺に手を差し伸べてきたマァム。俺は反射的にその手を振り払おうとする。マァムの手と俺の手がぶつかり合った瞬間……

 

 

 

『ひっく、うぇえん……お父さん、死なないでぇ……』

『泣くな、マァム……ぅ、ゴホ、ゴホ!』

 

 

 

 俺の脳裏に、映像が浮かぶ。目の前で泣きじゃくる幼い少女の手を、俺の手が優しく握っていて……。

 

 

 

「う、ぷ……!」

 

 突然頭の中に流れ込んできた情報の波に、俺は思わず口元を抑えてえずく。足が生まれたての小鹿のようにプルプルと震え、気づけば俺は地に膝をついていた。

 

「あ……ベホイミ!」

「げぇ!?何してんだよマァム!?」

「ごめんなさいポップ、少しだけこの人と話をさせて!」

 

 

 意を決したような顔をしたマァムが俺に回復魔法をかける。そんな利敵行為に対し、ポップの文句が聞こえてくるが……回復魔法をかけられた俺の脳裏に、また映像が浮かんできた。

 

 

 

『✕✕✕様、△$……今回復するわ、ベホイミ!』

『ありがとうございます、いやぁ、レイラのベホイミはベリーベリー効きますねぇ!』

『……ケ、まぁ、ありがとよ』

『ちょっと△$、回復してあげたのにその態度は何よ!』

『まぁまぁ、落ち着いてくださいレイラ……彼は素直じゃないんですよ』

 

 

 新しい映像では、俺と誰かが『レイラ』の治療を受けていた。そう、今、マァムからベホイミを受けている俺のように……。

 

 

「だ、誰だ……あいつは……お、俺は……」

 

 俺の混乱が最高潮に達した瞬間……今この場で繰り広げられているもう一つの戦いの声が、俺の耳に響いた。

 

 

「ま、まだだ……!これがかわせるかぁ!アバン……ストラッシュ!!」

 

 

 ダイがアバンストラッシュをヒュンケルに放ったようだ。そう、アバン、アバンストラッシュ……だがあれは違う。あのストラッシュは未完成だ。そう、まるで……アバンストラッシュではなく、ただの光の剣と呼んでいた頃のように……

 

 

『俺はあの光の剣に希望を見た!』

『俺はあの光を信じる!』

『あなたの信じた光の剣……これがその完成形ですよ、△$』

『アバン……ストラーーーッシュ!』

 

 

 再び、俺の頭の中に知らないはずなのに知っている映像が流れ……俺は、全てを理解した。

 

「は、ははは……あはははっは!!あーーっっはっはははは!!!」

 

 

 そうだ、俺と一緒に僧侶レイラの治療を受けていたのは勇者アバンだ。勇者アバンに僧侶レイラ……ああ、なんだ、簡単なことじゃないか。どうして今まで気付かなかったんだ。ほんと、おかしすぎて、狂ったような笑いが止まらない。

 

 

 そうだ、俺は……俺の本当の名前は────!!

 

 

「────ロカ、だったんだ……」

 

 

「……!やっぱり、やっぱり貴方は……」

 

 

 俺が『(ロカ)』であるということに気づいた俺は、思わず『(ロカ)』の名前を呟く。それを聞いたマァムは、俺に何か言おうとしたが……

 

「っ!?待って!お願い、話を……!」

 

「カロン!?どうした!?」

 

 頭の中がぐしゃぐしゃになった俺は、勇者ダイ一行を倒すという任務も、団長であるヒュンケルを支えるという義務と義理も捨てて……気がつけば、そこから逃げ出していた。

 

 

 なぜ逃げ出してしまったのか分からない。いや、違うな……分かってるけど認められないんだ。俺は……俺はマァムと一緒にいることで、俺が『(ロカ)』になってしまうことを恐れたのだ。我ながら情けない。

 

 

 少しでも『(ロカ)』から逃げる為、俺はカロンとしての……不死騎団副団長としての時間を過ごした地底魔城に、逃げるように……いや、正しく逃げ帰ってきた。

 

 だがそれでも、俺の中に宿る『(ロカ)』は消えてはくれない。俺は、突然突き付けられた真実に……半狂乱になってしまっていた。

 

「クソ、違う、俺は……俺は……!!」

 

 俺はロカだ。ああ、なんてことをしてしまったんだ。大勢の人を殺してしまった。まさかこの俺が、魔王軍の手下になっちまうなんて……。

 

 違う、俺はカロンだ、バーン様に生み出された魔物だ。だから俺が人間を殺すのは、魔王軍なのは当たり前のことなんだ……。

 

「俺の……俺の中に入ってくるなぁああ!!」

 

 頭をブンブンと振り、俺の中の『(ロカ)』を振り払おうとする。だが、できない。『(ロカ)』を意識すればするほど、アバンやマトリフ……そしてレイラやマァムのことが頭から離れなくなる。

 

「なんでだ……なんで今さら……!クソ、マァム……レイラァアアアア!!」

 

 地底魔城の壁を殴るが、そんなことで気分が治まるわけもない。俺の頭の片隅には、レイラマァムがいる。2人は何かを伝えたそうな表情で、じっと(ロカ)のことを見つめていて……。

 

「か、カロン様、どうなされました!?」

「女を殺す……連れてこい」

「は、はい?今なんと……」

「捕虜の女がいただろ!連れてこい!」

「は、ははっ!」

 

 俺の命令を受けたガイコツ兵が慌ただしく去っていく。何かに激情をぶつけないと、俺が壊れてしまいそうだ。そうだ、ならばぶつければいい。殺せばいい。

 魔物が人間を殺して何が悪い。女を殺せば、きっと俺の中のレイラとマァムも消え去ってくれる。殺せば人間(ロカ)の心をなくし、魔物(カロン)として生きていけるはずだ。

 

 

 自分の考えが支離滅裂であることに、心のどこかで気づきながら……俺は、縛られた状態で引っ立てられてきたマリンの姿がどこかレイラに重なって、冷静さを完全に失くした。

 

 ああ、そういえば……レイラの法衣って、帽子以外はちょっと賢者っぽかったよな……。

 

 

「レイラ……レイラァアアア!!」

「あぅ!?」

 

 俺はマリンの胸ぐらを掴んで、地面に叩きつけると、その上にまたがって剣を振り上げた。

 

「な、何を……ぁが!?」

「クソ、死ね、消えろ……消えろぉおおお!!」

「や、やめ……ぐぁあああぁああ!!」

 

 俺はマリンの体に思いっきり剣を突き刺す。技量も何もない、子供の癇癪みたいな攻撃。持っているのが剣でさえなければ、きっと微笑ましくすらあっただろう。

 

「ぎ、が、あぁあぁ!!」

「クソ、クソ……!うぉおあぁぁあ!!」

 

 心臓を一突きすれば死ぬのに、首を切り落とせば殺せるのに……俺はただ何も考えず、我武者羅にマリンの体を剣でめった刺しにする。返り血を浴びるのも気にしない。

 

「い、や゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!止めてぇええ゛え゛え゛!!」

「レイラ、マァム……!俺は、俺は……!」

 

 マリンの腹に剣を思いっきりぶっ刺した後、剣に身を預けて体重をかける。

 

「死ね、レイラ……死ね、マァム……死ね、俺の中の『(ロカ)』!」

「ぅ、が、は……ぁ、ぁ、ぐ……」

 

 口から吐血し、顔を青褪めてピクピクと痙攣しているマリン。とても危険な状態に見える。だが、関係ない。俺が力を込めてマリンの腹から剣を引き抜き、トドメを刺そうとした瞬間……!

 

「カロン!止せ!」

 

 いよいよマリンが断末魔の叫びをあげようとした瞬間……俺の背中を、人肌の暖かさが包んだ。骨である俺には持てない暖かさだ。あぁ、この暖かさは……。

 

「止せ、カロン……無抵抗の女は殺すな……お前は不死騎団の副団長だろう?そのお前が、ここのルールを忘れたか?」

「ヒュン、ケル……?」

 

 背中から組み付いて俺を止めたのは、いつの間にか帰って来ていたヒュンケルだった。

 

「ヒュンケル、俺は……」

「何も言うな……お前はお前だ……死人の骨から産み出されたことなど、最初から知っていただろう?その死人が誰だったかなど、今さら関係ない」

 

 その優しい言葉に、俺は思わず、俺の背中から首もとに伸ばされているヒュンケルの腕にすがり付いてしまう。

 

「でも、俺は……まさか戦士ロカだったなんて……」

「それが関係ないと言っている、何度も言わせるな……まったく、世話の焼ける弟分だ」

 

 弟分。ヒュンケルはたまに俺を世話のかかる、出来の悪い弟かのように扱うことがあるが……直接、面と向かって言われたのは初めてだ。それを聞いて俺は……胸の奥が暖かくなるような感情を覚えた。

 

「おと、うと……分……か」

「お前は俺にとっては背中を預けるに足る戦友であり、信頼する副官であり……手間のかかる弟分だよ」

 

 ヒュンケルは赤ん坊の頃からバルトスが死ぬまで、ずっとこの城で暮らしてきた。こいつにとっては魔物こそが友であり、仲間であり……家族、ということか。

 

「……すまない、ありがとう……ヒュンケル」

「……団員の世話を見るのも、弟分を守るのも、俺の仕事だ……気にするな」

 

 ぎゅ、とヒュンケルの腕にすがり付いたまま震えている俺だったが……その頬を、温かい何かが伝った。

 

「……はは」

 

 ああ、俺もつくづく、人間ぶるのが好きな魔物だな……。

 

 

 

 涙を流すなんて、本当に、人間みたいじゃないか。

 




男2人がピッタリ引っ付いてるのを、瀕死の状態で眺めさせられるマリン……流石に可哀想になってきましたね。

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