不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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投稿遅くなってしまい申し訳ありません。

今回、太陽系ネタがございますので、「ドラクエには太陽と月以外の現実にある惑星はないだろ」という方はご注意ください。


夢と現実

 夢を見ていた。みんなが幸せに満ち溢れた、誰もが笑っている……そんな、優しい夢を。

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 「カロン!いい加減に起きなさい!お母さんがいつまでも朝ごはんが片付かないって怒ってるわよ!」

 

 「ううん、マァム姉ちゃん、あと5分……」

 

 とある小さな村の、とある小さな家庭。休日ということで惰眠を貪っていた少年を、一人の少女が起こしていた。

 

「今日は森の外れに住んでるヒュンケルとバルトスさんが来る日でしょ!早く起きて準備を……」

 

「え、ヒュンケルが!?今日!?バカ姉、なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」

 

「何回も起こしたのに寝てたのはそっちでしょ!ってこら!パジャマはちゃんと畳みなさい!」

 

 

 バタバタと慌ただしく準備を始める少年。ポイポイと服を脱ぎ捨てて素早く寝間着から着替える。少女は呆れた様子で、畳むというより丸めるといった風になっている弟の寝間着を綺麗に畳んであげた。

 

「サンキュー姉ちゃん!まじありがたみー!」

 

「まったく、どこでそんな言葉覚えてきたのよ……」

 

 姉に感謝の言葉を(一応)告げた少年は、両親がいる居間へと向かう。

 

 

「あら、おはようカロン、今日は早いのね」

 

「おはようお母さん……って謀ったなマァム!お母さん別に全然怒ってないじゃん!休日であることを考えると別に寝過ぎって程の時間でもないじゃん!」

 

「こらこら、お姉ちゃんを呼び捨てにしないの。まったく、誰に似たのかしら……」

 

「レイラ、なぜそこで俺を見る」

 

 どさくさに紛れて姉を呼び捨てにする少年を、やんわりと注意する女性。その女性はため息をついた後、伴侶である男性をジト目で見る。

 

「お父さん、おはよう……お父さんも姉ちゃんを呼び捨てにしてたの?あれ、でも俺に叔母さんなんていないような……」

 

「おはようカロン、まぁその、なんだ……俺も昔はヤンチャだったというかな……」

 

「お父さんはね、昔っから女の子への扱いが酷かったのよ……カロンはお父さんみたいになっちゃダメよ」

 

「レイラ、その言い方は語弊があるだろ!俺にも父としての威厳がだな……」

 

 その時、少年の服を畳み終わった少女も居間に入ってくる。少女は開口一番、弟への文句を連ねる。

 

「カロン、あなたねぇ……そんなんで独り立ちできるの?まったく、服くらいちゃんと畳みなさいよ」

 

「大丈夫だよ、そういうのはお父さんみたいに、お嫁さんにやってもらうから」

 

 ぷりぷりと怒る少女を前に、へらへらと笑いながら言い返す少年。まったく憎たらしい、と思いながらも、結局いつもいつも甘やかす自分も原因の一つか、と思い少女はため息をつく。

 

「カロン……子供は親の背中を見て育つと言うが、そういうところは俺に似なくていいぞ」

 

「はぁ……今度カロンが見ている前で、ロカには家事を手伝ってもらおうかしら」

 

「それよりさ!今日はヒュンケルが来るんだろ!俺、ヒュンケルと遊びたいゲームがあるんだよね!村長の爺さんに教えてもらったやボドゲなんだけどさ……」

 

 

 

 

 

 

 幸せな四人家族。世界中のどこにでもある、ありふれた光景。

 

 それは、とても美しく、尊く、優しく……そして、どこまでも、哀しい夢だった。

 

 

 最初から叶う見込みのある夢は、夢ではなくただの目標だ。夢は叶わないから夢。父がいて、母がいて、姉がいて、兄のように慕う友がいて……そんな誰もが幸せな世界は、夢の中でしか実現し得ない……正しく夢物語だ。

 

 

 

 

 

 俺が生まれてきた時には、母の温もりも、父の逞しさも、姉の優しさも与えられはしなかった。

 

 ただ、酷く寒かったのと……創造主であるバーンの、薄布越しの威圧感。それが、俺が生まれてすぐに感じたもの。

 

 今でも覚えている。生まれ出でた俺に、バーンが最初に言った言葉を。

 

 

 「……お前は不死の軍隊を率いることになる……言うなれば、冥王のような存在」

 

 

 いや、ただの人形に冥王など過ぎたものか……と言いながら、クツクツと笑うバーン。

 

「冥王は冥王でも、太陽系になれなかった冥王星(プルート)……いや、それよりさらに格下の衛星(カロン)、とでも名付けよう」

 

 名前……そう、俺の名前は、こうして付けられた。そこに、普通の家族が子供に名を付けるような情愛などない。

 なぜなら俺は、人形だから。所詮骨から生れたただけの魔物だから。愛や情……そんなものとは無縁の存在だったから。

 

 ああ、だけど……そんな俺を、人間のように……弟のように思ってくれる人たちがいた。

 

 

 ヒュンケル、マァム……俺は……俺は、ただ、……二人と……一緒に……

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 夢を見ていた。楽しい夢だった気もするし、哀しい夢だった気もする。何だか不思議な夢だった。

 

 そして俺は、ゆっくりと目を開ける。キルバーンに体を弄くり回されたはずだが、不思議と気分はいい。

 

 俺は起き上がって、周囲を見回した。

 

「……テムジン?」

 

「起きたようだな」

 

 俺の近くには、一人の中年男性……テムジンが佇んでいた。だが、何やら様子がおかしい。

 

 「お前、目が……?」

 

 テムジンの目には真一文字の痛々しい傷があり、その瞳は固く閉ざされていた。恐らく、もう光を取り戻すことは不可能であろう。

 

 「これは奇怪な魔族にやられたのだ……マグマに呑まれて死ぬよりはマシだろう」

 

 「……キルバーンのことか?それにマグマだと?何があった?」

 

「うむ、それをお前に伝える為に、ワシはあの魔族に生かされたらしい……お前には辛い話だろうが、落ち着いて聞いてくれ」

 

 

 あの奇怪な魔族から聞いた話故、全て鵜呑みにするのは危険だが……と前置きするテムジンの声は穏やかだった。

 

 盲目となったことで、最早成り上がることは不可能だと踏ん切りがついたのか……今までの権力に妄執したギラついた雰囲気は鳴りを潜め、ただただ穏やかな老人になっていた。

 

「不死騎団は、壊滅した」

 

 その後、テムジンから聞かされた話は……眠りから覚めたばかりの俺にとっては、正に寝耳に水だった。

 

 「な……!?どういうことだ!?」

 

 「突然マグマが噴火したのだ……ワシは奇怪な魔族に目をやられた上で助けられたが、モンスターは全滅だろう」

 

 「そ、そんな……じゃあヒュンケルは、マァムは!?」

 

 「落ち着け、モンスター『は』全滅と言っただろう」

 

 宥めるようなテムジンの声。なんか調子狂うな。モンスター『は』全滅ってことは、人間であるヒュンケルとマァム、ついでに勇者と魔法使いも……

 

 「生きてる、ってことか……」

 

「重ね重ね言うが、あの奇怪な魔族に聞かされたことをそのまま伝えているだけだ……鵜呑みにするのは危険だぞ」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 だがどちらせにせよ、モルグを始めとする気心の知れた連中はほぼ全滅してしまったのだろう。そう思うと、俺の胸に悔しさが滲む。

 

「……全ては、不死騎団長ごと勇者一行を亡き者にしようとした半炎半氷の魔物の仕業だ」

 

「フレイザード、か……は、あいつらしいよ」

 

 フレイザード……人間であるヒュンケルを疎んでいた代表みたいな奴だ。

 武功を挙げることを第一にしているあいつなら、味方を巻き込むことを何も躊躇わずにできることだろう。

 

 モルグたちを殺したのはもちろん許せないが……奴の歪んではいるが強固な精神に、一種の憧れさえ抱いていた俺は、あまり心から憎むような気持ちにはなれなかった。

 

 

 その後、テムジンから色々と話を聞いたが、やはり確実なことは分からないままだ。

 

 足で情報を集めることにした俺は、とりあえず人も情報も集まるであろう人里を目指すことにした。

 

 

 「テムジン、お前はこれからどうするんだ?良かったらどっかの村まで送ろうか?」

 

 「そこまで世話にはなれんよ。それにワシは権力や命欲しさに、二度も祖国を裏切った……目も見えぬまま彷徨い、どこかで野垂れ死ぬのがお似合いというものだ」

 

「そうか……それがアンタの選択なら何も言わないさ。運よく生き残れたなら、もう悪事すんなよ」

 

「……魔王軍のお主に悪事するなと言われるのも、妙な話だがな」

 

 奇妙な縁もあったものだな……と思いながら、俺はテムジンと握手をして別れる。多分、もう会うことはないだろう。

 

 マァムだったら、きっとテムジンすら助けようとしただろうが……死に場所を探しているように見える相手を無理に助けるほど、俺は熱い性格じゃない。

 

「とりあえず、ヒュンケルたちがどうなってるか情報を集めるが……その前に水でも飲むか」

 

 なんとなく喉が渇いた俺は、近くの川に向かう。真水を飲んでもお腹を壊す心配がないのは、この体の良いところだな。

 

「…………な、に?」

 

 そして俺は、水辺に移る自分の顔を見て驚愕する。瞬間、俺は全てを理解した。

 

 キルバーンがどんな風に俺の体を弄ったのか、なぜ説明役として生かしておいたテムジンの目を潰したのか……

 

「そういうことか……!」

 

 道化にして死神であるキルバーンの行った『遊び』を理解した俺は、何かの間違いであって欲しいという一抹の願いを抱いて手を頬に這わせるが……水面に写る『俺』は、全く同じ動きをした。

 

「っ、ぐぅ……!」

 

 自分が好き勝手に改造された事を理解した瞬間、俺の体を鋭い痛みと相当な不快感が襲う。

 

 怪我や病気を自覚した瞬間に痛みに襲われるという話は聞いたことがあるが、自分の身で味わうことになるとは思わなかった。

 

「は、はは……結局、こうなっちまうのか」

 

 同じなようで違う、『俺』の顔を見ながら……俺は、痛みに蹲り……悲哀の涙を流した。本当に、俺は……あんな目に逢っても、人間ぶるのが大好きらしい。

 

 しょせん俺は、仮初の命でしかないのに。




カロンとは冥王星の衛星です。
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