なんと言いますか、世の中に大量の未完SSが溢れる理由を身をもって感じてしまう数ヶ月でした。
こんな作者ですが、よろしければ今後もよろしくお願いします。
ヒュンケルは驚愕していた。目の前にいる、死んだと思っていた弟分……カロンの予想外の姿に、ただただ吃驚するしかない。
「……驚いたみたいだな、ヒュンケル。まぁなんていうか……俺にも色々あったのさ」
色々あった……そういう意味でならヒュンケルやダイたちにも色々あった。ほんの数日前までは、自分が魔王軍を裏切り、アバンの使途に協力することになるとは思ってもみなかった。
目の前のカロンの姿からの、無自覚な現実逃避からか……ヒュンケルは溶岩に呑まれて以降の自分、そしてアバンの使途たちの動向を、思い返していた。
★ ★ ★
……あの後、ヒュンケルは単独行動していたクロコダインのガルーダによって助けられた。
ダイたちが地底魔城に潜入していた間も、クロコダインはただ怪我の治療に専念していたわけではない。
彼の持つ獣王の笛……周辺のモンスターを呼び寄せ、それを倒したら自らの従者にするマジックアイテムによって、急場ながらも飛行系モンスターの集団を結成させていたのだ。
というのも、魔の森から遠いパプニカでは、魔王軍ではなくクロコダインにのみ従う魔物は少なく、飛べるモンスターで言うとガルーダが一匹いるのみであった。
クロコダインはそれを補強し、飛行系モンスター軍団で周囲を哨戒させることによって、勇者パーティーの力になろうとしていた。その結果、偶然というには高すぎる確率の元に地底魔城周辺を飛んでいたガルーダによって、ヒュンケルは救われたのである。
ヒュンケルにとっては後から聞いた話だが、その頃、地底魔城を脱出した勇者パーティの面々についても触れなければならないだろう。
彼らは、気絶していたレオナが目を覚ました時にダイと再会を喜んだものの、ムードもへったくれもなく無邪気に振る舞うダイにみんなが呆れる……などといった出来事がありつつも、バダック、クロコダインと合流を果たしていたそうだ。
ちなみに、その時クロコダインはまだヒュンケルの生存を知らなかった。ガルーダがヒュンケルを安全な場所まで連れて行くのに少々時間がかかり、報告をできていなかったからだ。
その後はバダックが神殿に隠していた信号弾で、各地に潜伏しているはずのパプニカ残党に『レオナ姫救出』のメッセージを送る。
だが、いつまで経ってもアポロやエイミをはじめとするパプニカ人たちは現れない。レオナたちが不審に思ったその時、レオナの持っていた手鏡に血文字が浮かび上がった。
それは、かつてハドラーがカール王国のフローラ王女に使用した通信魔法と同じものであり、送り主はフレイザードであった。
そのメッセージの内容は、恐ろしいものだった。なんと、レオナ姫が魔王軍に捕らえられた後もバルジ島にて潜伏していたパプニカ残党が、フレイザードの急襲を受けて敗北したというのだ。そしてそれだけではなく、フレイザードは仕留め損ねたレオナ姫を誘き寄せる為、彼らを敢えて殺さずに氷漬けにして晒し者にしているという。
レオナ姫はその血文字を見てフレイザード撃破を誓う。しかし流石王族というべきか、彼女は猪突猛進ではなく、努めて冷静に振る舞い、フレイザード撃破作戦を入念に組み始めた。
まずはクロコダインの飛行系モンスター軍団にバルジ島付近の偵察に行ってもらうよう依頼し、偵察の報告が来るまでの間、逸る心を押さえつけてクロコダインからフレイザードの情報を聞き出していた。
それにより、フレイザードの得意戦法である氷炎結界呪法をあらかじめ知ることができた。
しかし、対策を立てようにも氷炎結界呪法は禁呪法であり、魔法使いのポップはおろか、賢者であるマリンも、2つの塔がこちらの戦闘力を弱らせること以外の詳細は分からなかった。
せめて塔の出現する大まかな位置さえ掴めれば、あらかじめバダックの用意していた爆弾を持ち込んで、フレイザードが呪法を使った直後に別働隊が塔の破壊を試みる事もできるのだが……
と、彼らが頭を悩ませていた時、偵察したモンスターの一部が何やら慌ただしく帰還した。なんでも付近の洞窟から強力な魔力を探知したとのこと。気になってダイたちがその足で洞窟を調べてみれば、なんとそこには隠居状態の大魔道士マトリフがいた。
マトリフがいきなりマァムの胸を揉みしだくセクハラをする、レオナ姫に懇願されても、過去に受けた仕打ちから最早パプニカに協力する気は欠片もないと突っぱねる……など紆余曲折ありながらも、ダイの真摯な言葉によって何とか彼から助力を得られた一行は、氷炎結界呪法の詳細を聞き、塔が出現するある程度の場所を把握した。
その後数日間の修行を経て、一行はバルジ島突入作戦を決行した。
作戦自体はそこまで複雑なものではない。まずマトリフの魔法でダイとポップ、マァムの3人がボートでバルジ島へ正面から向かい、真っ直ぐフレイザードの元へ向かう。
それと並行して、フレイザードが氷炎結界呪法を使うのに備えて、クロコダインとバダックが炎魔塔が出現するであろう場所に、レオナとマリンが氷魔塔が出現するであろう場所に、クロコダインの飛行系モンスターに乗って別働隊として向かう……というものだ。
打てる限りの手を打ってフレイザード戦へと赴いた一行。だが、フレイザードのいるバルジ島には、なんと残る六軍団長のうち、バランを除く全員と、ハドラーが集結し、待ち伏せをしていたのだ。ある程度の罠は予想していたレオナだが、流石に六軍団長がほとんど揃っているのは想定外であった。
レオナはそれでも作戦を強行しようとしたが、危険が大きければ退却するという約束をダイやマリンと事前にしていた事もあり、王族として生き残る義務を優先して後ろ髪を引かれながらも撤退。例えパプニカの仲間たちを救出したところで……旗印であるレオナ姫が生きていなければ、意味がないのである。
しかし撤退中、ザボエラの配下である飛行能力を持った悪魔系モンスターの追撃を受ける。マリンとレオナは応戦したが数の差は如何ともし難く、徐々に追い詰められていった。
その頃、どういうわけかゴメちゃんが島に蔓延る邪悪な力に気付き、必死にダイへそのことを伝える。罠が張られていたこと、つまりはレオナが危ないことを知ったダイは無意識のうちに紋章の力を解放。フレイザードの元へ向かう作戦を中止して、トベルーラでレオナの元へ急ぐ。
ポップとマァムはジッとしていても仕方がないと、レオナとマァムが向かうはずだった氷魔塔へ向かい、とりあえず偵察を行うことにした。
しかし、そこで彼らが見たものとは……
ここでようやく、視点はヒュンケルのものへと戻る。
「……ばか、な……!貴様、なぜ……!」
「……あの時と同じだな、『魔王』ハドラー……あの時もお前は、『俺』に腕をやられてたっけな」
「な、に……?貴様、何の、話、を……」
「……お前も知らなかったのか?意外だな」
ハドラーは信じられないとでも言わんばかりに目を見開きながら、ドシャリと音を立てて倒れ、息絶えた。
彼の左腕は、肘から先がキレイさっぱり切断されていた。いや、それだけではない。
ハドラーの両胸……それぞれの心臓がある位置には、ぽっかりと穴が……剣で突き刺された穴が開いていた。
意気揚々とアバンの使途を待ち伏せていたハドラーだが、死んだと思われていたヒュンケルが現れて、いざ一騎討ち……というタイミングで、後ろからカロンに腕を斬られたのである。そしてその直後、ヒュンケルに心臓を刺され……心臓が二つあることを『知っていた』カロンに、もう一つの心臓も突き刺されたのである。
「後ろから斬るとは卑怯……とは言うなよ。人質だの待ち伏せだのを先にやり出したのはこいつだ」
「カロン、お前……生きていたのか」
「……久しぶり……でもないな、ヒュンケル……まだ数日しか経ってないなんて、信じられないよ」
ゆっくりとヒュンケルの方へ向き直るカロン。だが彼は、黒いローブ……かつてダイたちと初めて遭遇した際に着ていたのと同じ種類のローブを着ていた。同色のフードを深く被っており、その表情を伺い知ることはできない。
「お、おい、どうなってんだぁ、これは!?」
「あれは、ヒュンケル……!?それに、まさか、ひょっとして……!」
そこに、偵察に来たポップとマァムが到着する。
「……マァムか……タイミングが良いのか悪いのか、分からないな」
「生きてたのね……!カロン!」
何が何やら理解できていない様子だが、とにもかくにも兄弟子のヒュンケルや弟のカロンが生きていたことに、心底嬉しそうな顔をしてカロンとヒュンケルに駆け寄るマァム。
しかし……
「ぐっ!?」
駆け寄って来たマァムの腹部に鋭いパンチを放つカロン。マァムは濁ったうめき声をあげ、カロンの体に倒れ込んでしまう。
「カ、ロン……?」
「ごめんな……姉さん」
マァムを抱き止めたカロンは、そのまま気を失った彼女をゆっくりと地面に横たわらせた。
「て、テメェ!何しやがる!?やっぱり悪い奴だったのか!?」
カロンの突然の凶行を前に、ポップは思わず叫ぶ。マァムから、カロンが彼女の弟……戦士ロカの骨から禁呪で生み出された存在というのは聞いていた。
その生い立ちには同情すると共に、魔王軍としての所業は許せないという思いも抱いていた。
「ポップとか言ったか……そうだな、今さらいい奴ぶるつもりはないけど、俺なりに姉さんを思ってのことだよ……いや、悪い。それは、違うな」
そう言った後、カロンはかぶりを振った。
「ただ、姉さんに今の俺を見て欲しくないだけなのも、否定できないな……」
「さ、さっきから何をわけわかんねーこと言ってやがるんだ!?」
「……カロン、説明してくれ」
「そうだな……こういう、ことだよ」
ゆっくりと、顔を隠していたフードをまくり上げるカロン。
その下の素顔を見て……ポップは僅かに眉をひそめただけだったが、それとは反対にヒュンケルは、とてつもなく驚愕したような表情をする。
「カロン……!?」
「あの日……お前とアバンが出会った日のこと……覚えてるか?そりゃ覚えてるよな。お前にとっては父親を亡くした日だ」
それを見て悲しそうな、切なそうな表情を浮かべる『カロン』。
「確かあの時に、ちょっとだけ会ってたよな、ヒュンケル……なら、分かるだろ?」
カロンの顔は元々、見る者が見れば驚くほどにロカと似通っていた。
だが、今は……
「これが……ロカだよ」
似通っているというレベルではない。正真正銘……ハドラー討伐の頃のロカと全く同じ顔をしていた。
「……驚いたみたいだな、ヒュンケル。まぁなんていうか……俺にも色々あったのさ」