不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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おお、愛しうる限り愛せ

「ゲヒヒヒ!!レオナ姫を殺せぇええ!」

 

 

 クロコダインが集めたガルーダは精鋭揃いだったが、人間を2人も乗せた状態での飛行で戦闘などできるはずもない。レオナやマリンの放つ迎撃の魔法も虚しく、2人は徐々に、ザボエラの配下のモンスターたちに追い詰められていった。

 

「こうなれば……!姫様!私は今から飛び降ります!乗せているのが一人ならば、このガルーダも逃げ切れるでしょう!」

 

 魔力の少なくなってきたマリンは、自らを犠牲にして少しでもレオナの生存率を上げようとする。彼女は今までも執拗にレオナを狙う魔物たちの攻撃から主君を庇い続けており、その若く瑞々しい肌に大量の生傷を付けていた。

 

「ダメよ!命を懸けることと、命を安易に扱うことは違うわ!」

 

 マリンの献身によって比較的軽傷なレオナだが、それでもダメージを受けていないわけではない。

 

「しかし、このままでは……!姫様!危ない!フバーハ!」

 

 大量に飛んできたメラミを、何とかフバーハで防御しようとするマリン。だが、既に彼女の魔力はほとんど底をついていて……

 

 

「抑え、きれないっ……!きゃあああぁああああああ!!!!」

 

 

 防ぎきれなかった炎系呪文がマリンを襲い……彼女の端正な顔を炎で焼き尽くした。

 

 

「ま、マリン!!今回復を……!」

 

 

「ゲハハハ!鬱陶しい賢者が消えた!今こそレオナ姫を殺す時!」

 

 

「くっ、こんのぉ……!ヒャダルコ!」

 

 

 マリンを治療する暇もない、魔物たちの連続攻撃。マリンが戦線離脱したことで、辛うじて保たれていた均衡が崩れ……大量の炎や氷が、レオナに殺到する!

 

 

(こ、こんなところで……!お父様……!ダイ君……!)

 

 

「止めろぉおおおおおおおおお!!!ライデイーーーーーン!!」

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 俺は、なぜ俺がこんな姿になってしまったのかを……死神キルバーンに襲われたことを、ヒュンケルとポップに説明した。

 

 

 

「……俺は結局……バーンの作った操り人形に過ぎない。そして今は、死神の玩具さ……俺は……魔王軍の中でしか、生きられない」

 

 あまり顔を出したくなかったから、俺は再びフードを被って顔を隠す。

 

 

「で、でもよぉ、お前はさっき、ハドラーを倒したじゃねぇか!ならいっそのこと、俺たちと一緒に……!」

 

「……俺は、バーンの気まぐれ一つで、元の骨に戻る……そんな俺に、バーンと戦えとでも?」

 

 自嘲気味に笑いながらポップに答えてやった。

 

 

「それにさ……この顔を見れば分かるだろ?俺はもう、ぐちゃぐちゃになってるんだ……今も、身体中が滅茶苦茶痛くて、吐き気が止まらないんだよ」

 

 

 それを聞いて、ポップが悲痛そうな顔をする。ポップとはほとんど接点がなかったはずだが、それでもそんな表情をしてくれることに、胸が傷んだ。随分と、優しい性格のようだ。

 

 

「……俺はもう、魔王軍にいるしかない……」

 

 

 自分に言い聞かせるように、もう一度言う。俺が生きていくにはもう、手柄を立ててバーンに認められ、もう一度禁呪法をかけてもらうしかない。これは絶対に変わらない事実だ。

 でもこれ以上、罪もない人を殺したくない。俺の心の中にいるロカ……そして何より俺自身が、もう人殺しに耐えられない。

 

 けれど、なまじ不死身であるが故に、自害もできない。

 

 

 

 

 

 だから俺は……俺は、ヒュンケルに殺されたい。その為に痛む全身に鞭打ってここまで来て、気力を振り絞ってハドラーを倒した。

 

 

 

 だけど……ヒュンケルに、これ以上重く深い業を背負わせたくはない。つまり、どうするのかというと……

 

 

 

 

「ヒュンケル……なぜフレイザードが、レオナ姫が生きていることを知っていたと思う?それはな、俺が教えたからだよ」

 

 

 俺の独白を受けて、それまで一言も発さなかったヒュンケルが、ピクリと反応する。

 

 

「手柄を立ててバーンに認られれば、また術式を書き換えて貰えて、この気持ち悪い顔ともオサラバできるし、生きられるからな……ハドラーを殺したのも、お前を倒す手柄を独り占めする為さ」

 

 俺はそう言って、剣をヒュンケルへと向ける。

 

「……俺は最初から、『魔王軍不死騎団』だった……お前やマァムに情が沸いてるのは否定しないが、まぁ別に無関係の人間がいくら死のうが、俺には関係ないからな」

 

 どうか、どうかこの挑発に乗って、俺と戦って欲しい。そうすれば、ヒュンケルだって気負うことなく俺を殺せるだろう。

 

 

「カロン……嘘が下手だな」

 

「……なに?」

 

 

 それまで黙って俺の話を聞いていたヒュンケルの発した言葉に、今度は俺がピクリと反応する番だった。

 

「大方……フレイザードに殺されそうになったパプニカの者達を助ける為に、殺さずに人質として使うように勧めた……といったところか」

 

「……おいおい、そんなの……それで勇者たちが負けたら、本末転倒じゃないか」

 

 内心冷や汗をかきながらも、俺は悪足掻きをする。ああ、でも……あの冷静なヒュンケルが、こんな安い芝居に引っかからないことなんて、本当は分かっていたのかもしれない。

 

 

「……お前の中のロカが、アバンの信じたダイを信じ……お前自身が、俺とマァムを信じたのだろう」

 

 

「……やっぱり、なんでもお見通しか……いや、確かに俺の嘘が下手だったな……最初からもっと悪役ぶればよかったぜ」

 

 

 ヒュンケルの言う通り……俺は自分の顔がロカのものになっているのを確認した後、顔を隠した上で魔王軍に戻った。そして、フレイザードにレオナ姫やヒュンケルがまだ生きていることをリークして、パプニカの人間たちが奴に殺されるのを先延ばしにしたのだ。

 

 だからこそ、先ほど俺に斬られたハドラーはあれだけ驚いていたのである。

 

「カロン、お前は……魔物として生きるのではなく、人として死ぬつもりだな?その為に、わざわざ露悪的な言動をした……」

 

 努めて表情を変えないように、でも傍から見たら唇を強く噛んでいるのが丸わかりの表情で、ヒュンケルが言う。

 

 

「ああ、そうだよ……俺はもう……魔王軍には死んでも戻りたくない。だから……死ぬしか、ないんだ」

 

 

 俺はそう言いながら、氷魔塔を背にするようにして立つ。

 

「それに、あの死神のことだ……どんな術式を書き込んだのか、分かりゃしない……不測の事態を防ぐ為にも、さっさと死んだ方がいい。それに何より……滅茶苦茶痛くて苦しいから、楽にして欲しい」

 

 おちゃらけた感じでそう言う俺だが、当然というべきか、ポップもヒュンケルも笑わなかった。

 

「本当は、姉さんには会わないつもりだった……あのまま城で死んだってことにした方がまだマシだ、ってな……けど、会ってしまった……だから俺のことは、上手く誤魔化しておいてくれ」

 

 

「……カロン……分かった、後のことは、俺やダイに任せろ」

 

「……ああ、塔ごと、バッサリやってくれ……悪いな、死んで俺だけ逃げるような形になって」

 

「……俺が死んで逃げるならばいざ知らず……お前の死を逃げだという人間などいないさ」

 

 ヒュンケルが口を噛みしめながら、ゆっくりと剣を構える。いくら不死身の俺でも、バラバラにされれば復活できない。

 

 

 

「…………弟のように思っていた。かつて父が俺にしてくれたように……愛し、慈しんでいた」

 

「……知ってたさ、そんなこと」

 

 そんなの、わざわざ言わなくても、伝わっているに決まっているのに……まったく、バカな奴だ。

 

 

「俺もお前のことを、本当の兄だと思ってたよ」

 

 

「ふ……知ってたさ」

 

「……だよな」

 

 そして俺も、わざわざ言わなくても伝わっているに決まっていることを言う、バカな男だ。

 

 

「……さらばだ、カロン……我が弟よ!お前の命……!俺も全身全霊……命を賭して、それと向き合おう!」

 

 ヒュンケルは剣に手を添えて十字を作る。すると、十字になっている部分が光り輝き始めた。ヒュンケルの闘気が、十字にどんどん溜まっていくのを感じる。

 

 

 

 

「アバン、技を借りるぞ!グランド……!」

 

 

 

 

 

「ばっかやろおぉおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 ヒュンケルが今正に闘気を解放しようとした瞬間……それまで黙っていたポップが、横合いからヒュンケルの顔を思いっきり殴って止めた。

 

「ぐっ!ポップ!何をする!」

 

「そりゃあこっちの台詞だ!そいつはマァムの弟で……お前の弟でもあるんだろ!何アッサリ殺そうとしてるんだ!このキザ野郎が!!」

 

 ポップは、涙を流しながらヒュンケルの胸ぐらを掴む。その姿を見て、俺は胸が締め付けられるように感じた。

 

 

「お前もお前だカロン!ちょっと顔が変わったくらいで、気を使い過ぎなんだよ!マァムが、そんなこと気にするわけねぇだろうが!!アイツは……たまに女の子っぽいところもあるけど、そこまで繊細じゃねえよ!」

 

 ポップは、今度は俺の方に向き直り、俺の目をまっすぐ見ながら怒鳴る。

 

「でも、俺は……もう、どうせ長く生きられないんだ……!俺を作ってる術式は、ボロボロだ……!」

 

「長く生きられないなら、なおさら自分から死のうなんてすんじゃねぇ!!」

 

「ポップ……」

 

「生きろよ、最後まで……!お前はアバン先生の仲間でもあったんだろ!アバン先生は、残り少ない命だからって、自分から投げ出せなんて言うような人だったか!?」

 

 真っ直ぐ瞳を見つめて問うてくるポップに……俺は、何も言えなくなってしまった。

 

「ポップ、そう言ってくれるのは、すごく嬉し……ぅ、ぐ……!」

 

 何とか、ポップへの感謝の言葉だけでも伝えようとした俺の体に、再び激痛が走る。元々戦えるような状態じゃなかったのに、無茶をし過ぎたのだ。

 

 立っていられなくなった俺の体は、ゆっくりと後ろに倒れていき……柔らかく、暖かな感触に包まれた。

 

 

「カロン……大丈夫?」

 

「姉さ、ん……?どうして……」

 

 

 倒れかけた俺を優しく受け止めたのは、先ほど気絶させたはずのマァム……姉さんだった。

 

「私だってあなたと同じ、ロカ父さんの子供よ……体の丈夫さには自身があるんだから」

 

 倒れかけたことでフードが捲れ、中の顔がハッキリと見えているにも関わらず……姉さんは変わらずに、俺に向けて慈悲に満ちた笑顔を浮かべている。

 

「姉さん、俺……俺は……!」

 

 咄嗟に顔を逸らして、フードを再び被ろうとするが、姉さんが俺の手をそっと包んだことで、それは阻まれた。

 

「カロン、ごめんね……あの時、あなたが私を庇ったから……こんな事になってしまって」

 

 

「謝らないでくれ、姉さん……!」

 

 

 あの時俺がキルバーンに負けたのは、単純に俺の実力不足だ。俺が魔王軍を抜ける覚悟がなかったのが原因だ。

 

「ポップもありがとね、ヒュンケルとカロンを止めてくれて」

 

「お、おう!」

 

「け・ど・ねぇ~!そこまで繊細じゃないってのはどういうことよ!」

 

「げぇ!?聞いてたのか!?」

 

「ふ……失言だったな、ポップ」

 

「ヒュンケル!なにキザに決めてんだよ!お前だって俺が止めなきゃ大変なことになってたんだぞ!」

 

 

 ギャーギャーと騒がしいながらも、どこまでも暖かいやり取り。先ほどまで全身を襲っていたはずの痛みが、不思議と和らぐのを感じる。

 

 

「あぁ……やっぱり……たとえ短い生命だったとしても……最期まで、みんなと……一緒に、いたいな……」

 

 

 そう言って見上げた空に……勇者の証である(ライデイン)が走った。

 

 

「お!ダイの方も多分姫さんを助けたみたいだな!じゃあいよいよ、フレイザードの野郎のところへ乗り込むぜ!」

 

「俺はカロンをクロコダインに預けてから追う。ポップとマァムは先に行っていてくれ」

 

「分かったわ!カロン!それじゃあ行ってくるわね!」

 

 マァムが俺をヒュンケルに預け、ポップと共にフレイザードのいると思しき中央の塔まで走っていく。

 

 その、眩しい背中を眺めながら……俺は兄の腕の中で久方ぶりに、安らかで穏やかな眠りについた。

 




マリンごめん……!でも、君がケガをして、それをレオナに治させないと……マァムが安心して、武道家の修行に行けないんだ……!
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