不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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さらば、遺骨の剣士よ

 俺がヒュンケルの腕の中で眠りについた、その後の話をしよう。ザボエラやミストバーンの妨害を受けながらも炎魔塔を破壊したクロコダインとバダックの元まで、俺はヒュンケルによって運ばれた。

 

 その後はクロコダインのガルーダで、戦闘区域外であるマトリフのいる洞窟まで運ばれた。俺を乗せたガルーダが飛び立つのを見届けたヒュンケルたちはフレイザードの元へ向かったという。

 

 レオナ姫とマリンを襲っていたモンスターたちは、駆けつけたダイによって全滅。その後2人は無事にマトリフのいる洞窟まで撤退し、ダイも急いでフレイザードの元へ向かった。

 

 

 こうして、ダイ、ポップ、マァム、ヒュンケル、クロコダイン……あとバダックと一度に戦うことになったフレイザードだが、圧倒的な戦力差を前にしても、奮戦したらしい。

 

 

 ……こう言うとフレイザードが中々大した奴に聞こえるが、実際には地中からの奇襲や部下を捨て石にした作戦……そして自らも大ダメージを受ける弾岩爆花散と、正に手段を選ばない戦い方だったとのこと。

 

 

 ……最後はダイの『空の技』でコアを破壊された後、突如現れたミストバーンに渡されたデッド・アーマーで再度戦いを挑むも……完成されたアバンストラッシュを受けてまたも敗北した。

 そして、ミストバーンにゴミのように残りカスの炎を踏み潰されて死んだ……らしい。

 

 

 最後まで自らの功名心や自尊心……空っぽな自分を満たすための虚栄を求め続けたその死に様は、どこまでもアイツらしいと思う。

 

 俺も……一歩間違えたらアイツのように、ひたすらに自分を満たすためだけに戦っていたかもしれない。

 

 その後はパプニカの気球やクロコダインの飛行モンスターたちを中心に、皆をパプニカの王城跡まで運び……不死騎団襲撃以来、長らく魔王軍の驚異に怯え続けていたパプニカは、ようやくひとまずの安定を手にした。

 

 そして、今……

 

 

「マトリフおじさん……カロンの容態は……?」

 

「……この禁呪法は既に決壊を始めている。俺にゃあ治すのは不可能だ……言っておくが、こいつがロカと同じ顔をしてるのが気に食わねぇからって手を抜いてるわけじゃねぇぞ」

 

「っ、ぐぅ……!はぁ、はぁ……!」

 

 

 

 息が苦しい。体中が悲鳴をあげている。俺ははぁはぁと荒い息を出しながら、パプニカ王城跡地の簡易診療所のベッドで横たわっていた。

 

 

 フレイザードが死んだことで氷漬けから解放された大勢のパプニカ人たちも、近くに横たわっているが……ベッドを使わせて貰っているのは俺だけだ。申し訳ないが、彼らは数が多すぎて簡易診療所ではベッドが足りないのでその辺に転がしとくしかないし、命に別条はないから構わない……とは兵士バダックの談だ。彼らが目を覚まし次第、パプニカ奪還の祝勝会を開くことも決まっているとのこと。

 

 ちなみに、作戦の途中で顔に重症を負ったマリンは、レオナ姫がベホマで治したそうだ。

 

 先ほどは憎まれ口を叩いていたマトリフだが……真剣な表情で俺の禁呪法を確かめてくれた後では、ただの不器用な物言いなのだと分かる。そういえば、俺は眠っていたので知らないが、話によれば彼は俺の顔を見て仰天したらしい。

 

「……カロン……」

 

 

 レオナ姫とマリンは、複雑な表情で俺を見ている。当たり前だ。俺は、余りにも多くの命を彼女らから奪った。そんな俺が仲間面して、こんな所で勝手に死にそうになっているのだ。思うところの一つや二つあるだろう。

 

 

「……ヒュンケル、そしてカロン……話があります」

 

「れ、レオナ……」

 

 

 神妙な面持ちで俺たちに話しかけてきたレオナ姫。ダイはそれを見て、緊張したような面持ちをする。レオナ姫には俺やヒュンケルを憎むのに、十分すぎる理由がある。この状況で何をするのか、ダイも心配なのだろう。

 

「……あなた達が仁義を持って行動していたことは、理解しているつもりです。『事故』はありましたが……あなた達は戦う力のない者や既に無力化した者には、決して手を出さなかった」

 

 事故……言わずもがな、出生を知って錯乱した俺がマリンを殺しかけたことを言っているのだろう。

 

「そして、カロンがフレイザードにアポロたちを撒き餌にするように進言したことで、彼らが生き残ることができたことも聞いています」

 

 ……あれに関しては博打もあったから、そう言われるとこそばゆい。だが当然、礼を言うつもりなどではないだろう。

 

「けれど、あなた達がパプニカを滅ぼしたことは、拭いようのない事実です」

 

「……ああ。その罰だけは受けねばならない。レオナ姫、貴女に今ここで斬り捨てられても、俺は構わん。だが叶うならば……今ここで、その命を枯らそうとしているカロンには、天寿を全うさせてやってほしい」

 

 ヒュンケルは、俺を庇うようなことを言うと、まっすぐにレオナ姫の目を見つめる。

 

 

「ヒュンケル、そりゃないだろ……お前がレオナ姫に裁かれるなら、俺も……っ!ぐぅ……!」

 

「カロン!無理しちゃダメよ!」

 

 キルバーンに体を無茶苦茶に作り変えられて以降、俺を苦しめ続ける激痛。それに耐えながらベッドから身を起こすが、姉さんに止められてしまった。

 

「……ならば、パプニカの王女、レオナが判決を下します。カロン……あなたは、その歪な、けれど美しい命を、最期の時まで懸命に生きなさい……父もきっと、それを望むでしょう」

 

 

 それを聞いて、俺は目を見開いた。王族とは言え、14の子供が……父親や臣下の仇である俺たちを、許すという。

 

「ヒュンケル、貴方は……残された人生の全てを、アバンの使途として生きることを命じます。友情と正義と、愛のために、己の命を懸けて戦いなさい」

 

 そしてヒュンケルも俺と同じように、僅かに目を見開く。

 

「そして、むやみに自分を卑下したり、過去に囚われ、歩みを止めたりすることを禁じます」

 

「レオナ……!」

 

 ダイが嬉しそうな声をあげる。

 

「……これでいいかしら?」

 

「……はい……!」

 

 

 僅かに声を震わせながら頷くヒュンケルの目元が光っているのは……きっと、気のせいではないだろう。

 

 

「……良かったな、ヒュンケル……お前の罪は、許されたんだ」

 

 本来は正義に属する人間でありながら、父への愛から魔王軍についてしまったヒュンケル。俺は万感の想いを込めて、ヒュンケルに告げる。だがヒュンケルは、悲しそうな表情で俺を見やる。

 

 

「カロン……俺は正直、今の苦しんでいるお前を見ていると……あの時、介錯してやるべきだったのではないかと、少し後悔している」

 

「ヒュンケル、お前まだそんなこと……!」

 

「やめて、ポップ」

 

 ポップが突っかかるが、姉さんが止める。

 

「いいんだ、ヒュンケル……闘い続けることが、お前の罰であるように……ここで苦しんで最期まで生き抜くのが、俺の贖罪なんだ」

 

 

 それを聞いて、姉さんが悲痛そうな表情をする。違うんだ。俺は、そんな顔をしてもらいたいわけじゃない。

 

「それに、嬉しいんだ……バーンの人形として、生きていたら……姉さんやヒュンケルと、出会えなければ……こんな風に、満たされる気持ちになることは、なかった……」

 

「……たとえ、それで死んでも……か?」

 

「ああ……フレイザードと、一緒さ……奴も俺も……この空虚な心を埋める為に……自分の命よりも大切な何かを、探していた……それが、栄光か……絆か……違うのは、それだけだ」

 

 

 フレイザード……俺と同じ呪法生命体。アイツの強い心に……俺は一種の憧れさえ抱いていた。

 

「ヒュンケル……思えば俺の生のほとんどは……不死騎団の副団長だった……命のほとんどを……このパプニカとの戦いで費やした……けど、争いじゃあ……空っぽな心は、埋まらない……お前と姉さんが、教えてくれたんだ……だから、ヒュンケル……思い出を、ありがとう……」

 

 俺の言葉を聞いたヒュンケルは、唇を噛みしめると……一筋の涙を流しながら、首を振った。

 

「……礼を言うのは、俺の方だ……お前がいてくれたから……俺は、かつて父がくれたような温もりを、感じることができた」

 

「……そう、か……」

 

 そう言って天を仰ぎながら、自分の手を見てみれば……少しずつ、皮膚が灰になっているのが見える。そして灰の下からは、俺の……いや、ロカの骨が見え隠れする。

 いよいよ、俺の命の灯が消えかけている。この体を、ロカに返す時が来たのだ。けれどもう、やり残したことはない。

 

 本来ならば俺は、存在しないはずの……存在してはいけないはずの存在だ。自然の摂理に逆らって産まれた俺が、こうして、姉さんやヒュンケルに見守られながら……それ以外にも、ポップやダイ、レオナ姫に、悲しんでもらいながら死ねるなんて……これ以上を望むのは、流石に贅沢というものだ。

 

 

「でも、そうだ……姉さん……最期に、ロカから……レイラに、伝言……」

 

 俺は、ロカの記憶を持っている。彼が死の間際に一つだけ、レイラに伝えきれなかったことがある。それを伝えなければ。

 

「父さんが……?」

 

「『俺のことなんて忘れて、再婚してくれ。お前みたいな美人が未亡人は勿体無い』……ってさ」

 

「……マトリフおじさんと、同じこと言うのね……」

 

「昔から付き合いのある大人同士なんて、そんなもんさ……やれ結婚だやれ再婚だ、子供はまだか……とか……さ」

 

「……カロン……私……あなたともっと、こういう、普通の話を……たくさんしたかった……」

 

 涙目でそう言った姉さんが、俺の灰まみれで薄汚れた手をギュッと掴む。

 

 

 「カロン……!短い間だったけど……!私、あなたと会えてよかった!」

 

 

 

 姉さんが、また何か呼びかけてきている。けれど、彼女が何を言っているのか……もはや、それすら聞こえなくなってきた。仮初だった命が、それでも本物の命として触れ合ってくれた人たちに囲まれながら、零れ落ちていくのを感じる。

 

 

 そして、段々と……今まで見えていなかったものが、見えるようになってきた。

 

 

 

「……ああ……なんだ、ずっと、そこにいたんだ……」

 

 

 

 

 姉さんに握られていない方の手を、ゆっくりと天に向けて伸ばす。最早灰すら、その手にはほとんど残っておらず、骨がどんどん見えてきている。

 見えているのは、綺麗な青空。けれどそれだけじゃない。俺には『彼』が見える。

 

 『彼』は俺のことを気にかけ、ずっと見守っていてくれていたんだ。今になって、その姿が見える。

 

 少し照れくさそうに、ぶっきらぼうに、天に昇っていく俺に手を伸ばしてきたのは……俺は消え入りそうな声で、『彼』を呼ぶ。

 

 

 

 

 「とう……さん……」

 

 

 

 

 

 こうして、不死騎団の副団長としてヒュンケルと共に戦った遺骨の剣士は、ヒュンケルがアバンの使途として戦うことが決まるのと入れ替わるようにして、命を落とした。

 

 多くのものに翻弄された、たった一年近くの、余りに短く……けれど、幸せな、人生であった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「へー、カロンくんの骨はロカの墓に戻して、灰をその隣に埋めたのか……しかも魔弾銃も一緒に、ねぇ」

 

 鬼岩城ではない、どこか薄暗い謎の場所。大魔王バーンですら全ては把握していないであろう、キルバーンの隠し拠点の中の1つ。

 そこで、黙って椅子に座っているキルバーンの隣にいるピロロは、顎に手を据えながら意味深に呟く。

 

「思い出の武器を死者の手向けに、か……相変わらず人間の感傷っていうのはよく分からないね」

 

 ピョン、とキルバーンの肩に飛び乗るピロロ。その直後、キルバーンは椅子から立ち上がる。

 

「まぁいっか、全てボクの想定通り。手品の種は蒔いておいた……もしも勇者クンたちが思ったよりめんどくさかったら……彼には精々、ボクの役に立ってもらおうかな」

 

 ピロロ……否、キルバーンが懐から一枚のトランプを取り出す。それは、キルバーンの得意とする、相手を徹底的に追い込む死の罠(キル・トラップ)の中の1つ。

 

 今はまだ、このカードを使う機会が来るかは分からない。だがもし、このトラップを鬼岩城かバーンパレスに仕掛ける日が来たら……きっと、愉しいものが見れることだろう。

 

 

「ククク……クフフフフフ……!フハハハハハ!!」

 

 

 キルバーンが笑いながら懐にしまったトランプ……それは、トランプ占いで『裏切り』を意味する……スペードのクイーンであった。

 

 

 

 

To be continue……

 

 




というわけで、第一部完です。
この前3ヶ月近く放っておいてすぐ言うのも申し訳ないですが、次もちょっと空くと思います。

追記
裏切りはどちらかというとスペードのJじゃなくてQだったので修正しました。
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