不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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滅茶苦茶遅くなって申し訳ございません!今年の4月から少々環境が変わりまして……
何はともあれ、待っていてくださった方、お待たせしました。ようやく新章開始です。
サブタイトルは決して言い訳ではありません、はい。



遺灰の剣士
空白の数ヶ月


 本来の歴史ならば、存在しないはずの遺骨の剣士。彼の存在によって、歴史はある程度歪んだものの、大まかな流れは変わることはなかった。

 けれど、逆に言えば……歴史書には記されないような、個人の想い……そういった小さなものは、大きく変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 パプニカで戦勝祝いの宴が開かれている頃……ヒュンケルとクロコダインは、鬼岩城へ偵察に向かおうとしていた。そこに、ヒュンケルがいなくなっていることに気づいて探しに来たマァムが追いつく。

 

 ヒュンケルとクロコダインはこのまま鬼岩城へ偵察に赴くつもりであること、元軍団長である2人だけの方が身軽に動けるので、下手に他の仲間は連れて行かない方がいいことなどをマァムに説明した。

 

 マァムは心配が抜けきらないようだが、一応は納得の姿勢を見せる。そのまま別れるかと思われた3人だが……ヒュンケルはおもむろに懐に手を入れて、鞘に入った状態の剣をマァムに手渡した。

 

 

「マァム……これを、奴に……カロンに供えてくれ」

 

「これは……カロンの?」

 

 その剣は、カロンが使っていた諸刃の剣であった。

 

「最初は、この剣で戦おうと思ったが……これは不死である奴だから十全に使いこなせたものだ。それに、下手に二刀流に手を出しても、使いこなせければ意味がない」

 

 

 流石のアバンも二刀流殺法までは残していないからな、とニヒルに笑うヒュンケル。

 

 

「……ヒュンケル……無茶はしないで。カロンも……あなたが自棄になることは、望んでないわ」

 

 ヒュンケルの影が強くなったことを感じたマァムは、改めてヒュンケルを制する。今のヒュンケルは、贖罪と敵討ちの為に、自分の身を顧みずに、死ぬまで闘いそうな危うさがあった。

 

「分かっているさ……俺は、アバンの使徒だからな。生きて罪を償うのが……俺の戦いだ」

 

 そう言って振り返り、ヒュンケルはクロコダインと共に鬼岩城の偵察へ赴く。マァムは、カロンの形見である剣を胸に抱きながら……ずっと、その後ろ姿を見守っていた。

 

 


 

 

「私……一度みんなと別れて、武道家になろうと思うの!」

 

「ええ!?」

 

 場面は代わって、ダイたちがパプニカにて今後の作戦会議をしている頃。

 

 そこでは、マァムの突然発した爆弾発言が場をざわつかせていた。

 

「なんだっていきなり……」

 

「これから、敵はどんどん強くなるわ……きっと魔弾銃だけじゃ、そのうち限界が来ると思うの」

 

「そんなことないよ! だってその魔弾銃は、アバン先生が作ってくれたものでしょ?」

 

 ポップが当然の疑問を発し、ダイもマァムを止めようとする。しかし、マァムの意思は変わらなかった。

 

「ポップがどんどん新しい魔法を覚えて、ダイだってすごく成長してる。私も、いつまでもアバン先生に頼りっぱなしってわけにはいかないわ」

 

「……そうかもしれないわね」

 

「レオナまで!」

 

 マァムの離脱発言に同意するようなことを言うレオナに、ダイは非難めいた声をあげる。

 だがレオナは、冷静な態度を崩さずに言葉を続ける。

 

「魔弾銃は確かに凄い武器よ。けれど……攻撃力の劇的なアップは望めないわ」

 

 レオナのその言葉に、マァムはしっかりと頷く。

 

「魔弾銃は出力が大きくなり過ぎると、反動で壊れてしまう……」

 

 魔弾銃に弾丸を複数込める、或いは今の何倍もの威力の魔法を弾丸にするなど……今後の戦いに向けて無理矢理攻撃力を上げる方法はないか模索しているうちに気づいた、魔弾銃の弱点。

 

 天才である勇者アバンが作成したが故の複雑過ぎる構造は、魔法の威力が大きくなり過ぎると、破壊されてしまう。

 今はまだ表面化していない問題だが、これからさらに激化するであろう魔王軍との戦いを思えば、決して無視できない問題であった。

 

「もちろん、マァム自身の立ち回りである程度カバーも可能よ。けれど……」

 

 そこで一端言葉を区切るレオナ。マァムだけではなく、ダイとポップの方も見ながら言葉を続ける。

 

「厳しい事を言うようだけど、みんなには今の2倍3倍……それ以上にレベルアップしてもらわないと、魔王軍を打倒することはできないわ」

 

 レオナの理路整然とした正論に、思わず口を噤んでしまうダイとポップ。

 

「ハッキリ言うのね……貴女のそういうところ、すごく好きよ、レオナ」

 

 だが、当のマァムは気にしていない……どころか、むしろ嬉しそうにレオナの言を受け入れている。

 ダイが首を傾げながらレオナとマァムを交互に見る。純粋な少年には理解できない、『女同士の何か』が、2人の間にはあるようだった。

 

「それにマァム……カロンのこと」

 

「え?」

 

 そしてレオナは、毅然とした態度を軟化させると、優しい声音でマァムに語りかけた。

 

「供え物にしようと思ってるんでしょ? アバン先生の銃を」

 

「レオナ……どうして……?」

 

 

 自分のやろうとしていることを見抜いてみせたレオナに、マァムは目を丸くする。

 

「私も、同じようなことを考えたから……お父様が、亡くなった後に」

 

 少々遠い目をしながら告げるレオナに、マァムは息を呑む。レオナの父を殺したのは、ヒュンケルとカロンだ。レオナ本人が赦したとはいえ……その事実は、決してなくならない。

 

「レオナ……ごめんなさい」

 

「謝らないでよ、別に責めてるわけじゃないわ……二人のことはもう赦したし……そうでなくても、死者への手向けを邪魔しようとするほど野暮じゃないわ」

 

 ウインクしながら、敢えておチャラけた雰囲気を出すレオナ。マァムはレオナの心の強さに感嘆しながら、カロンの遺灰が入った袋を、ギュッと胸に抱きしめた。

 

 

「本当は先生の敵を取るまで、ネイル村に帰るつもりはなかったけど……」

 

 

 ……カロンが死んだ後、マァムは灰になった彼の体と、ロカの骨を泣きながら分けて袋に入れた。

 

 ロカの墓に骨を戻し……その隣に、新しくカロンの墓を作るために。

 

「……私は、カロンに、何もしてあげられなかったから……だからせめて、精一杯の思い出を……」

 

 

 


 

 

「あらマァム、お帰りなさい!」

 

「お母さん……ただいま」

 

 ポップにルーラでネイル村まで送ってもらったマァムは、そのまま自宅に行き、母レイラと顔を合わせた。

 

「聞いたわよ、ダイ君たちとロモスやパプニカを救って、大活躍だそうじゃない!」

 

「うん、まぁ……ね」

 

「……マァム? どうしたの?」

 

 レイラは、娘の様子が明らかにおかしいことに気付く。そもそも、いくら旅がひと段落ついたとは言え、責任感の強いマァムが、戦いの途中で家に帰ってくること自体が、考えてみればおかしい。

 ……もちろん親としては、元気な姿を見せてくれた方が嬉しいのだが。

 

「お母さん……後でお父さんの所にも、報告に行くんだけど……その、お墓の隣に……もう一つ、お墓を作っても、いいかな?」

 

「え?」

 

 マァムの突然の不可解な言動に、思わず目を丸くするレイラ。

 

「……詳しいことは、言えない……けど、父さんと一緒に、眠らせてあげたい人がいるの……」

 

 本当は、何があったのか母に話して、辛い心情を吐露したい。けれど、母を悲しませなたくない。結局マァムは、母には全て隠すことにした……ダイとポップが、アバンが死んだことを隠そうとしたのと、同じように。

 

 唇を噛み、俯きながら、辛そうにそう言う娘を見て……レイラは、喉まで出かかった疑問を飲み込むと、娘を抱きしめた。

 

「マァム、貴女がそこまで言うってことは、本当に大事なことみたいね……いいわ、村長には私から言っておくから、お父さんの所に行ってらっしゃい」

 

「お母さん……ありがとう」

 

 

 母に抱きしめられながら、マァムは、カロンの遺言であると同時に、ロカの伝言でもある言葉を思い出していた。

 

「お母さんは……再婚とか、しないの?」

 

「え? どうしたの、急に? マァムがそんなこと聞いてくるなんて珍しいわね」

 

「別に……ただ、なんとなく」

 

 レイラは娘の突拍子もない質問に益々目を丸くするが……きっと、旅を通じて思うところがあったのだと、暖かく微笑んだ。

 

「そうねぇ……あの人は口では『俺のことなんて忘れろ』とか言うでしょうけど……きっと、拗ねちゃうと思うのよね」

 

「そんなことないよ」

 

「え?」

 

「そんなことない……お父さんもきっと、母さんが幸せになることを……願ってるよ」

 

 確信めいたはっきりとした口調で語るマァム。それを見て、レイラは感慨深そうな表情をする。

 

「マァム……なんだか少し見ないうちに、大人っぽくなったわね」

 

「そう、かな……」

 

「ええ、前よりお姉さんっぽくなったわ」

 

 お姉さんっぽくなった、という言葉に、マァムは息を呑むと……母の胸に顔を埋めて、ゆっくりと泣き出した。

 

「マァム、大丈夫? ……旅の中で、とても辛いことがあったのね……」

 

「ごめん、お母さん……でも、今は……今だけは、甘えさせて……」

 

 

 マァムは母の胸の中で、子どものように、泣きじゃくり続けた……。

 

 

 


 

 

 

 人々の心に傷を残しながらも、消滅していったカロン。

 だが……彼の数奇にして悲劇的な運命は、まだ終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

『目覚めるがいい、異端よ』

 

 

「……ここ、は……?」

 

 カロンが目覚めたのは、どこまでも暗い、地の底を思わせる場所であった。どこからか謎の声が響いているが……不思議と、声の主の姿は見つからない。

 

「俺は、死んだ、はず……」

 

『今の貴様は魂だけの状態……本来ならば忌まわしい天界の精霊共が貴様の魂も持って行ったのだろうが……異端故、見捨てられたようだな』

 

「な、に……?」

 

 謎の声に困惑しながら、カロンは自分の手を見つめる。すると……自分の体が半透明になっていることに気づいた。

 

「これは、一体……お前は、何者だ……?」

 

『……オレは、冥竜王ヴェルザー……名前くらいは聞いたことがあるだろう? かつて大魔王バーンとこの魔界を二分せし竜よ』

 

「ヴェルザーだと……待て、この魔界?」

 

 思いもよらぬ名前が出てきて驚愕したカロンだが、それよりもさりげなく発せられた言葉が引っかかった。

 ゆっくりと周囲を見回したカロンは、今自分がいる場所が、文字通り地の底……魔界であることを察した。

 

『察しがいいな、小僧……天界に行けなかった貴様の魂は今、魔界に囚われている』

 

「……呪法生命体は、死ぬことすら許されない、ってことか……」

 

『いいや、それは違うぞ』

 

 自虐めいたことを言うカロンを、以外にもヴェルザーは否定した。だが……それは決して、優しさなどからではない。

 

『貴様は、自分が思っている以上に異端な存在だ……自然の理どころか、世界の摂理に逆らって産まれ……貴様の存在そのものが、この世を冒涜していると言っても過言ではない』

 

「……随分酷い言い草だな……魔界に君臨する冥竜王様にそこまで言われると、自分が大した奴に思えてくるよ」

 

『クク、目覚めて早々言うではないか、生意気な小僧よ……』

 

 カロンの皮肉を気にした様子もなく、クツクツと笑うヴェルザー。それに対しカロンは、ヴェルザーの言葉の意味を考えるが……答えは見つからない。

 

『貴様には到底理解できん話だ……神の座に手をかけた、オレやバーンでもなければ、貴様の異端さを正しく理解することはできん』

 

 

 カロンの考えを見透かしたようにそう言ったヴェルザーは、ゆっくりと姿を現した。その姿は……一言で言えば、石化された竜。

 かつて竜の騎士バランに敗れ、転生して復活しようとした所を、天界人によって魔界に封印され……それでもなお地上支配を諦めない、強欲な竜。

 

『天界の精霊共によって魔界に魂を封じ込められたオレは、行動のほとんどを制限された……だが、精霊の加護もなく魔界を彷徨う魂……貴様という例外だけは、オレも好きに干渉できる』

 

 

「……悪いが、さっきから何が言いたいのか分からな……!?」

 

 カロンがそう言った瞬間、ヴェルザーの瞳が妖しく輝き……一筋の閃光が、カロンを貫いた。

 

 

「……っぐああああああ!!」

 

 

『キルバーンが貴様の体に細工を施した。あとはオレが貴様の魂を消耗させ、抵抗力を削げば……手駒にすることができる』

 

 

「が、はっ……!」

 

 命の危険を感じるほどの凄まじい威力だったが、カロンは死ななかった。魂だけの存在となった今、カロンは以前とは別の意味で不死身と言えた。

 

 ……それがいいことだとは、決して言えないが。

 

「俺を、手駒にだと……!? それに、キルバーン……!? まさかキルバーンは、お前の……!」

 

『賢しいな、小僧……察しの通り、キルバーンはオレの部下だ』

 

「っ……う、あああああぁぁぁぁぁあああっ!!!」

 

 再び、閃光がカロンの体を貫いた。カロンは絶叫をあげる。

 

『バーンに地上を破壊されては叶わん……オレの目的は、地上すら支配してみせること……その為には、猫の手すら借りたい状況なのでな』

 

 

「ぐ……! 俺が簡単に、従う、とでも……!?」

 

 

 カロンが必死に抵抗の言葉を紡ごうとした瞬間……先ほどの閃光とは違う衝撃が、カロンを襲う。心臓……左胸の辺りに激しい痛みを覚えたカロンは、息を荒げながら胸を押さえる。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

『言ったはずだ、キルバーンが貴様の体に細工を施したとな……地上で灰となった貴様の体は、オレの配下として復活しようとしている……』

 

「ふざけるな……よりによって、キルバーンの、野郎や……お前なんか、に……!」

 

 

 心臓を無理矢理動かされているかのような劇痛を抑え込み、カロンは必死に耐える。

 ここで屈したら、自分はヴェルザーやキルバーンの手駒として復活し、ヒュンケルやマァムの敵となってしまう……2人への想いが、カロンを奮い立たせた。

 

 

『ククク、面白い……オレも久しぶりに好きに甚振れる相手ができて嬉しかったところだ。簡単に屈してもらっては困る』

 

「ぅあ、あ゛っぅあっあ゛っ! ああうっ! うあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

 

 ……こうしてカロンの、ヴェルザーから拷問を受け続ける日々が始まった。

 

「うあ"ああ"あ"あ"ぁあああっ!」

 

 何度も何度も、何日も何日も……

 

 

「ああぁあぁぁあ!!! っぐ、あああぁ……!!」

 

 なまじヴェルザーがほとんどの行動を制限されているが故に、唯一行える行動(拷問)に、彼は全精力を注いだ。

 

「っぐっがあああああああぁぁあああっ!!!」

 

 バーンと互角の力を持つヴェルザーの全力の拷問に、カロンはよく耐えたと言えるだろう。だが……数ヶ月後、限界が訪れた。

 

『……ここまで持つとは思わなかったぞ。悪くないオモチャだった……だが、ここまでだな』

 

「あ、ぅ……」

 

 元々半透明だったカロンの体が、ゆっくりと透明になっていく。キルバーンの施した『仕掛け』により、地上にあるカロンの本来の体……数ヶ月前に灰になった体が、再び形作られようとしている。

 

 

『今、バーンと勇者共の戦いは、最終局面を迎えようとしている……すぐにバーンパレスに急行し、オレの役に立つがいい』

 

 

 ただし、今度は不死騎団の副団長ではなく……ヴェルザーの尖兵として。

 




こいついっつも魔界勢にボコボコにされてんな
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