骨は燃やされて灰となる。灰は風に飛ばされる。風に乗って、灰はどこまでも登っていける。
人は、人が死ぬことを星になると表現する。或いは、空の上で見守っているとも……
どちらにせよ、死んだ人間が高い所へ行く……というのは、一般的な考えなのである。
ならば、天高くそびえるバーンパレスに……『彼』がいても、不思議ではないのかもしれない。
「フフフ……ようやく君も使い物になるみたいだね……それじゃあ早速、一働きしてもらおうかな」
「ハドラー様を……生かしたかった……この……あの方に頂いた命にかえても……」
「……アルビナス……」
「さぁ、お離れなさい……そして私の代わりに見届けて……あの方の、最後の雄姿を……」
バーンパレスへと辿り着き、大魔王バーンとの最後の戦いへ向かう勇者一行。だが、彼らの前に突如現れたハドラーとハドラー親衛騎団によって、ダイたちは分断されてしまう。
マァムは最強の駒である女王アルビナスと単独で戦い、ボロボロになりながらも奥義猛虎破砕拳で撃破した。
駒という作られた命でありながら、一途にハドラーの為を想って行動していたアルビナス……マァムも本当は戦いたくはなかったが、彼女にも譲れないものや守りたいものがあった。
作られた命でも、命は命……核を破壊されたアルビナスの起こした爆発の風を受けながら、マァムの脳裏に、『作られた』弟……カロンの姿がよぎる。
後ろ髪を引かれながらも、ハドラーと戦っているであろうダイの元へ走ろうとするマァム。
だが、その時……ガシャン!! という、金属のぶつかり合うような音が響いた。それと同時に、マァムの右足首を凄まじい激痛が襲う!
「あぁああっ!? ぐ、っ……! これは……!?」
突然マァムを襲った衝撃の正体……それは、いつの間にか足元に現れていたトラバサミであった。
突然の謎の出来事に混乱するマァム。何とかトラバサミを外そうとするが……
「……ふん」
「っ! 誰!?」
近くで鼻を鳴らす音が聞こえたマァムは、激痛に耐えながら音のした方を見る。
そこには、怪しげな仮面……キルバーンが被っているものと似た仮面を被った男が、武器も持たずに佇んでいた。
(あの仮面、キルバーンの物と似てる……おそらくは彼の配下……!)
見たことのない敵でも、その外見的特徴からおおよその見当をつけるマァム。
だからといって、それが事態の打破に繋がり得るわけではない。
仮面の男がスッと手をかざすと……今マァムの足首を捕らえているものよりも一回り大きいトラバサミが、マァムの左太股を噛み千切らんばかりに、深々と食い込んだ!
「うあ"ああ"あ"あ"ぁあああっ!?」
マァムが万全であれば、突然の奇襲にも対応できたであろう。
だが、ハドラー親衛騎団の中でも最強である、クイーンアルビナスとの激闘で疲弊しきっていたマァムには……攻撃を避けることができなかった。
「はぁ、はぁ……! こ、のぉお……!!」
再び手をかざす仮面の男。
また攻撃が来ると感じたマァムは、激痛に耐えて無理矢理足をトラバサミから引き抜くと、すぐさま横に跳躍する。
直後、先ほどまでマァムがいた床から、剣山が生えた。
「…………」
「ぐっ、痛……!?」
攻撃自体は避けれたが、トラバサミから抜け出す為に無理をした足にはさらなる痛みが襲い掛かる。
そして仮面の襲撃者は、休む暇など与えないと言わんばかりに、罠を生成する能力で執拗にマァムの足を狙う。
機動力を削ごうとしているのは、一目瞭然だった。
「……」
「さっきから、罠ばっかり……!」
黙ったまま、遠くから罠でマァムをじわじわと追い詰める仮面の男。
遠距離攻撃手段を持たないマァムにとってはかなりやりにくい、卑怯かつ合理的な戦法であった。
マァムも接近しようとするが、次から次へ現れるトラップを避けるのに精一杯なのと、仮面の男の立ち回りに隙がなく、常に一定の距離感をキープされている。
「……みんなのためにも……アルビナスのためにも……! こんなところでぇ!!」
だが、ずっとこのままではジリ貧だ。マァムは多少のダメージは覚悟して、まだ動けるうちに勝負に出る。
迫りくるギロチンの刃や、足元に現れるトラバサミを、致命傷になり得るものだけ避けて、一気に仮面の男へ肉薄する。
今まで数々の戦いをくぐり抜けてきたマァムにすれば、コソコソと隙を伺って、罠だけでしか攻撃してこない「小物」など……その気になれば、負けるような相手ではない。
「…………悪魔の……目玉…………」
「ぐ、っぅうう!?」
……本来のマァムであれば、だが。
アルビナスとの戦いのダメージが色濃く残り、回復魔法をかける暇もなく仮面の男の猛攻に晒されていたマァムの動きは、本来のものよりかなりスピードが落ちていた。
今まさに、拳を放とうとしたマァムの腕を、触手……悪魔の目玉から飛び出した触手が、絡みついて止める。
本来ならば謎の男の仮面を砕くはずだった拳は、仮面の直前で停止してしまう。
そして悪魔の目玉から伸びる触手は、マァムの首に巻き付き、ギリギリと激しく締めつける。
「ああぁああああ!?」
気道を締め付けられ、悲鳴をあげるマァム。
だが、以前クロコダインとの戦いで悪魔の目玉に捕まった時とは、マァムも比べ物にならないほどレベルアップしている。
力尽くで振り払おうとするのだが……
「ぐっ、ぅ、つっ!!」
動きの止まったところを、四方八方から生えてきた剣山で貫かれてしまう。
「う、ううぅ……!」
咄嗟に体を捻って急所は外したものの、血を流しすぎた手足からはダラリと力が抜け、自らを拘束する触手に身を預けてしまっている。
「はぁ、はぁ……! ぐ、ぅうう……!」
「………………ぁ……」
「う、ぅ……?」
しかし仮面の男は、完全に拘束されたマァムを前にして、突然動きを止めた。
いつでもトドメを刺せる状況でありながら、何もせずに立ち尽くす仮面の男を見て、マァムは怪訝な顔をする。
「…………ぇ……ん」
「え?」
何か小さな声で呟いた仮面の男は、フラフラと無防備にマァムに近寄って来る。
「……その……鎧……」
マァムのボロボロになった鎧……魔甲拳に、ゆっくりと手を伸ばす男。それを見て、マァムは敵の目的がロン・ベルクの作成した強力な装備、ないしはオリハルコンに次ぐ強度を持つ素材そのものだと推測した。
「っ……! そうは、させないわ!」
男の手が鎧に触れるか否かの瞬間、マァムは気力を振り絞って腕に力を込める。
当然、未だマァムを捕らえている悪魔の目玉の触手も、彼女の動きを抑えようと締め付けてくるが……
「はぁっ!!」
男の方へ向かうマァムの力と押さえつけようとする触手の力が拮抗した瞬間……マァムは敢えて触手の締めつけに身を任せた。
すると必然的に、マァムの腕は男と反対……マァム自身の体へ向かう。
そう、先ほどアルビナスとの戦いで行ったのと同じように……わざと自分の鎧を砕いて、金属の石礫を相手に浴びせようとしたのだ。
消耗しきった今は、鎧を砕くほどのパワーが出るか不安だったが……敵の力を利用することで、マァムはその問題を解決したのである。
「……ぐっ!」
砕けた鎧の破片が仮面を掠り、男はくぐもったうめき声をあげる。男はマァムの攻撃によってヒビの入った仮面を手で押さえると、すぐにバックステップで距離を取った。
「…………ふん……」
現れた時と同じように鼻を鳴らした仮面の男は、そのまま逃げるように走り去っていく。
仮面の男が去ると同時に、マァムを捕らえていた悪魔の目玉の触手と、肩や足を貫いていた剣山も消滅した。
「……ぐ、っ…………」
支えを失ったマァムはそのままドサリと地面に倒れる。度重なるダメージでとうに限界を超えていたマァムは、既に意識を手放していたのだ。
そしてその表情は、どこか驚いているように見える。
なぜなら……
マァムが意識を手放す瞬間に見たものは……男の壊れた仮面の隙間から覗いた、桃色の髪であったからだ。
「やれやれ、使えないなぁ……確かにボクはダイ君とハドラー君を共倒れさせる時に、あの駒……アルビナスが邪魔になるだろうから殺せと命令したよ?
既に駒が死んでたからって、あの駒を倒した武闘家ちゃんを放置するなんて……」
バーンパレス内の、どこか。
ダイとハドラーの一騎討ちの最中、消耗した両者を殺す為のキル・トラップ……『ダイヤの9』を仕掛けてきたキルバーンは、仮面の男と向き合っていた。
「…………あの武闘家は……大したことない……」
「確かに、魔法使いクンほど機転が効くわけでも、ヒュンケルほど強いわけでもない武闘家ちゃんがボクの脅威になることはないだろうけど……」
キルバーンは納得がいっていないような声を出しながら、手元でトランプを弄んでいたが……しばらくすると、嫌らしい笑みを浮かべる。
「まぁいいや、ヒュンケルの体を欲しがってるミストのサポートをするための、ただの道具……それが君、『スペードのQ』だ……くれぐれも変な気は起こさないようにね」
そう言ったキルバーンは、スゥっと影に消えるように、どこかへと去っていった。
「…………俺、は……どう、ぐ……」
後には、壊れた仮面の隙間から桃色の髪を覗かせる……一人の男だけが残された。
ロカがピンク髪って滅茶苦茶分かりにくいですよね。アニメで一瞬出た時は兜被ってましたし、単行本だと当然白黒ですし……
wiki以上の明確なソースあったら教えて頂きたいくらいです。