不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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お久しぶりです。


不幸なる我が身、されど……

「ぐっ……!」

 

 勢いよくぶつかり合ったヒュンケルの槍とカロンの剣。

 そのぶつかり合いを制したのは……カロンであった。ヒュンケルの体が吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がっていく。

 それと同時に、ヒュンケルがもう片方の手に持っていた灰の剣が抜け落ちて、別方向へ飛ばされていった。

 

「もう限界だろ、ヒュンケル……いくらなんでも連続で戦い過ぎたよな」

 

 ヒュンケルの力がカロンに及ばなかったのは、単純な、しかしとても深刻な疲労が原因だ。

 

 バーンパレスの魔物の群れ、ヒム、マキシマムの駒たち……さらにはグランドクロスのエネルギーを2回、不発を含めれば3回も使用しているヒュンケルに残された体力は、限りなく少ない。

 先ほど槍と剣で大立ち回りを演じられた時点で奇跡だ。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 ボロボロの体に鞭打って、槍を支えにして立ち上がるヒュンケル。カロンはその瞳を見て、儚げに微笑む。

 

「変わったな、ヒュンケル……真っ直ぐな目をするようになった」

 

 

 どれだけ絶望的な状況でも、諦めずに立ち上がるヒュンケル。その瞳の力強い輝きは……

 

「俺には……眩しすぎる」

 

 

 素早く肉薄したカロンは、剣を横薙ぎに振るう。最早握力も残っていないヒュンケルの手から、槍があらぬ方向へ飛んで行く。

 返す刀でヒュンケルに斬りかかるカロンだが、ヒュンケルは武器を失って身軽になったことを利用してバク宙で回避。

 それだけではなく、バク宙の勢いを利用してカロンにサマーソルトキックを放つ。

 

「ぐっ……! やるな、最後まで油断はできないか」

 

「言ったはずだ、俺がお前を、救ってやると」

 

 互いに距離を置いて仕切り直す両者。だが、方や疲労困憊の丸腰。方や体調万全で剣を装備……どちらが有利かは、言うまでもない。

 

「……俺はずっと……心のどこかで思っていた……もう一度、お前と戦いたいと」

 

 剣の切っ先を丸腰になったヒュンケルに向けながら、カロンは心情を吐露する。

 

「だけどそれは……こんな、疲労困憊の所を狙うような、卑劣な形じゃなかったはずなのにな」

 

 そう言いながら、剣を持っていない方の手でパチンと指を鳴らすカロン。直後、何もなかったはずの中空から、突然ギロチンの刃が落ちてくる。

 

「なにっ!?」

 

 咄嗟に横に転がって回避したヒュンケルだが、続けて響いた指の音の直後、背後から突然現れた丸太によって、強かに背中を打ち付けられる。

 

「かはッ……!」

 

「キルバーンの奴から教わった……しょうもないマジックさ」

 

 態勢を崩してたたらを踏むヒュンケル。その隙を突いて、カロンは再び肉薄。その手に握った諸刃の剣……かつてヒュンケルと共に数多の戦場を駆けた剣を持って、カロンはヒュンケルの首を狙う。

 

 

「じゃあな、ヒュンケル……俺の生涯の友……兄よ」

 

 

 ────カロンは結局、どこまで行っても、誰かの操り人形でしかなかった。一度死ぬ前も、死んだ後も、変わらない。自由などとは程遠い存在。ヒュンケルのように、熱い意思を持って正義のために戦うことも選べない。

 

 

 どこまでも不自由で、どこまでも自らの意思では動けない人形。哀れで不憫なピノッキオ。

 

 だが、だからこそ……その間の悪さ、その運の悪さが……却って事態を好転させることも、ある。

 

 

「が、はッ……!?」

 

 カロンの剣が、ヒュンケルの首を落とそうという間際……突然飛んできた槍が、カロンの体を貫き、大きく吹き飛ばす。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

「お前は、まさか……」

 

 素っ頓狂な声をあげるヒム。どこか呆けたような声を出すヒュンケル。反応に多少の違いはあれど、両者共に驚いているのには変わらない。

 

 

「卑劣な戦い方をする奴には、例外なくその魔槍をブチ込んでやるのが流儀でな」

 

「……誰だ、あんた?」

 

 吹き飛ばされた状態から立ち上がったカロンは、槍を体から引き抜き、傷口から大量の灰を零しながら問うた。

 

 

 

「陸戦騎……ラーハルト推参!」

 

 

 カロン、ヒム、ラーハルト……それぞれの面識はないが、ヒュンケルに影響を受けた男たちが、一堂に会した。

 

 

 

 

「アバン、カロン、そしてラーハルト……どうやら今日は、冥府の門は開き放題になっているらしい」

 

「おいおい、さっきから訳分かんねぇぞ! 結局誰なんだよアイツら!」

 

「陸戦騎ラーハルトか、名前くらいは聞いたことがある。超竜軍団長バランの直属の部下、竜騎衆の一人だったな」

 

 ヒムの疑問に答える形になったのは、意外にもカロンであった。魔槍に貫かれた部分は、いつの間にか元通りになっているが……ほんの僅かに、服に灰が付着していた。

 

「カロン、お前、その体……」

 

「今の俺は、骨じゃなくて灰だからな」

 

 以前とは違う不死身性に対するヒュンケルの疑問にも、カロンは端的に答える。

 

「俺も名前くらいは知っているぞ、不死騎団副団長カロン……死んだと聞いていたが、まだ魔王軍に与していたのか」

 

「不本意ながらな」

 

 そう言って剣の切っ先をラーハルトヘ向けるカロン。もう片方の手には、先ほど引き抜いた槍がしっかりと握られている。

 

「かなりの手練れらしいが……ヒュンケルを救うためとはいえ、いきなり武器を投擲したのは失敗だったな」

 

「救う? ふん、俺は負け犬を助ける趣味などない。あの状況では、投げ槍が効果的だったというだけだ……相手が不死のアンデッドである可能性を無視したのは、確かに失態だがな」

 

「そういうことにしておくよ。だが俺も、丸腰の相手に負けるつもりは……!?」

 

 ない、と続けようとしたカロンの言葉は噤まされる。ラーハルトが一瞬で距離を詰め、素手で攻撃してきたのだ。

 

「どうした、随分鈍いんだな」

 

「っ……! なら!」

 

 ラーハルトは武器を取り返すつもりだ。そう考えたカロンは……力の限り槍をあらぬ方向に投げ、バーンパレスから地上へと落とそうとする。

 

「ふっ!」

 

 当然ラーハルトはそれを凄まじいスピードで追い、槍がバーンパレスを出る前にキャッチする。

 わざわざ武器を相手に返すような行為……だがあのまま打ち合っていても遅かれ早かれ槍は取り返されていただろう。ならば……取り戻される前に利用した方がいい。

 

「『そこへ行く』と分かってれば……いくら速くても、当てられるよな! ギラ!」

 

 カロンが素早く懐から取り出したのは……魔弾銃。マァムがカロンの墓に供えた、魔法を込める拳銃である。カロンは復活した後の記憶が朧気だが、この銃をしっかりと回収していたのである。

 そしてそれに込められたギラの魔法を、ラーハルトに向けて既に射出していた。

 

鎧化(アムド)!」

 

 それに対しラーハルトは、当然というべきか魔槍を鎧にして魔法を弾こうとする。ほとんどの魔法を弾く鎧がある以上、その選択はなんらおかしいことではない。鎧に頼り切るのは論外だが、有効な手段をわざわざ捨てるのもまた論外である。

 しかしここで一つ誤算があったのは……ラーハルトが鎧の魔槍を使うのに、ブランクがあったこと。

 

「いくらお前が速くても……武器の変形スピードまでは、変わらないだろ!」

 

 ラーハルトがバランの血で強化されているが故に、以前の感覚で槍を使っても……以前よりも、鎧化状態への移行が遅く感じた。

 無論それはラーハルトがそう感じているだけで、実際には変形スピードは変わっていない。強くなったが故に感覚的に遅く感じているだけだ。

 一度でも鎧の魔槍を事前に使っていれば、容易く修正できたであろう、ブランクによるタイムラグ。

 それがたまたま……悪い方向に作用しただけのことだ。

 

「がはっ!」

 

 

 鎧化は成功したが、鎧化しきる前にギラの直撃を受けたせいで態勢を崩したラーハルト。とは言えこれだけなら、カロンが接近してくるまでに立て直すことができる程度だ。

 

「さらにもう一発!!」

 

 ……ダメ押しの如く、カロンが足元にあった剣……先ほどヒュンケルが落とした灰の剣を、ラーハルトに向けて蹴り上げていなければ、の話だが。

 

「ぐあああ!?」

 

 いよいよもって、大きく体勢を崩したラーハルト。ダメージ自体はそこまでではないが、晒した隙は余りあるほどに大きい。

 その隙を逃さず、カロンは一気に肉薄すると、諸刃の剣を振るう。

 体勢を立て直す暇も与えない、防御を度外視した猛攻。鎧の上からとは言え、無視できないダメージがラーハルトに蓄積していく。

 

「お、おいおい大丈夫かよあのラーハルトって奴!?」

 

「いや、一見カロンが押しているように見えるが、優勢なのはラーハルトの方だ」

 

 加勢に来た男が押されているのを見て、ヒムが慌てた声をあげるが……両者の実力をよく知っているヒュンケルは冷静だった。

 

「本来カロンはラーハルトのスピードに太刀打ちできない。長期戦向きのはずのカロンがここで一息に勝負を決めなければならないほど、追い詰められているとも言える」

 

 そんな中でも勝負を決め得る状況に持ち込めたのは流石だな、と続けるヒュンケルを、ヒムは不思議そうに見ていたが、すぐに両者の闘いへと目線を戻す。

 

 

 ヒュンケルの言うとおり、カロンはここで勝ちきれなければもう勝ち目はないことを悟っていたし、ラーハルトもここさえ凌げば勝てることを理解していた。

 

「……非礼を詫びよう。どうやらお前を侮っていたようだ」

 

 カロンの剣を喰らいながらも、どこか余裕のある態度を崩さずに、ラーハルトが言う。

 

「だからこそ惜しい……中途半端に操られた状態ではなく、全力のお前と戦えないことがな!」

 

 叫んだ直後、ラーハルトは離脱するのではなく……槍を短く持って即席の手槍とすると、正面からカロンと力比べをしかけた。

 

「なにっ!?」

 

 崩れたままの体勢。加えて槍のような長物は懐に飛び込まれると弱い。ましてや一度離脱して仕切り直しさえすれば確実に勝てる状況……そんな中での正面突破という全く予想していなかったラーハルトの行動に、カロンは気圧される。

 

「スピードだけが能だとでも思ったか!」

 

 

 図らずも、先ほどヒュンケルと力比べをした時と同じような状況になった。しかし今回鍔迫り合いを制したのは……カロンではなく、ラーハルトの方だった。

 

「アンデッドとは言え、これは耐えられまい!」

 

 逃げるのではなく、正面から打ち勝って距離を取ったラーハルトは、槍を片手で持ちながらクルクルと高速回転させ、必殺技の構えに移る。

 

「あの構えは……!」

 

「ハーケンディストール!!」

 

「ぐわあああああ!!」

 

 ラーハルトの必殺技を喰らったカロンは、灰をまき散らしながら絶叫をあげる。

 

 

「が、は……!」

 

 体のほとんどが灰になったが、その灰が集まってまた体になろうとしている。しかしながら、それも遅々として進まない。

 

「大した生命力だが……流石にすぐには復活できんようだな」

 

 槍を構えなおしたラーハルトが、再び穂先をカロンに向けるが……

 

「ラーハルト、そこから先は俺に任せてくれないか」

 

 そこに、這う這うの体で立ち上がったヒュンケルが立ち塞がる。

 

「……ヒュンケル」

 

 互いに鋭い目線で睨み合うヒュンケルとラーハルト。かつて激しくぶつかり合い、認め合った好敵手同士の邂逅において……先に口を開いたのはヒュンケルの方だった。

 

「ラーハルト、お前が生きていたとはな」

 

「その表現は違うな……俺は確かに一度死んだ。だがバラン様の体を流れる竜の血を授かり死の淵から蘇ることができたのだ」

 

 ラーハルトはそのまま、バランが竜騎衆3人の遺体にそれぞれ自分の血を与えたこと、しかし強靭な精神を持つラーハルトしか生き返らなかったことを語る。

 

「長い眠りから覚め、棺から目覚めたのはほんの数日前だ。危うく最後の戦いを寝過ごすところだった」

 

「すまん、お前が助けてくれなければ、俺は……」

 

「さっきも言ったが、貴様などを助けたつもりはないぞ、ヒュンケル」

 

 礼を言おうとしたヒュンケルをぴしゃりとはねのけるラーハルト。

 

「大方甘いお前のことだ、その敵兵を庇って傷つき、このアンデッドも殺す気もなしに戦って敗れたのだろう。

 戦闘のプロフェッショナルである戦士にあるまじき行い!! 敗れて当然だ!」

 

「こっ、この野郎!」

 

「そうかもしれん」

 

 厳しい言葉を続けるラーハルトにヒムが突っかかろうとするが、当のヒュンケルがラーハルトの言うことを認めた。

 

「冷徹に戦局だけを考え、ただマシーンのように敵を倒す……それが戦士というものなら、もうオレにはできない」

 

 ゆっくりとヒムやカロンへ視線を移したヒュンケルは、ラーハルトに視線を戻すと、毅然とした口調で続ける。

 

「たとえどんな状況であろうとも、俺にはヒムやカロンを見捨てることはできない」

 

「……どうやら、お前にバラン様やディーノ様の運命を託したのは、オレの間違いだったようだ」

 

 ラーハルトは「カロンの直線上にいるヒュンケル」ではなく「ヒュンケル」へ改めて槍を構えて狙いを定める。

 

「かつての部下の不始末を自分で付けるわけでもなく、どこまでも救おうとするなど、とても戦士とは言えん」

 

「……いっそ、俺ごとヒュンケルを介錯するか?」

 

 それまで黙っていたカロンが、おもむろに口を開いた。

 

「そんな感じの事言い出しそうに見えるぜ……ついでに言うと、言うだけで実際に友人やそのツレに手を出すタイプには見えない」

 

「……ふん、この期に及んで軽口か……くだらん」

 

 カロンの軽口を受けたラーハルトは、言葉とは裏腹に穏やかな表情を浮かべた後……カロンとヒュンケルに背を向ける。

 

「戦士ヒュンケルは死んだ、そこで倒れているアンデッドや敵兵との情に絆されてな。ならば、鎧の魔槍を俺が持っていても、誰も文句は言うまい?」

 

「ああ……死体はもう、鎧を使わんからな」

 

「……さらばだ強敵よ。お前は敵を倒すのではなく、仲間を救う方が似合う。戦い続けるには……お前の心は、優しすぎた」

 

 そう言い残すと、ラーハルトは身を翻して走り出し、ダイの……主バランの元へと走る。

 

「素直じゃない奴だな、アイツ……」

 

「そうかぁ? 俺にはただのいけ好かない魔族にしか見えなかったがなぁ」

 

「ふ、あれが奴なりの思いやりなのさ」

 

 ラーハルトが去った後、3人の間に和やかな空気が流れるが……やがてカロンがヒュンケルに向き合う。

 

「ヒュンケル、どうするつもりだ? 俺は放っておけば、回復してからまたお前たちに襲い掛かるぞ」

 

「単純な話だ。俺の光の闘気を使う」

 

 そう言うとヒュンケルは、バーンパレスへ突入する直前の出来事……ミストバーンによって暗黒闘気を体に入れられたが、光の闘気と暗黒闘気を体内で戦わせることで急速に光の闘気を成長させ、完全に暗黒闘気を抑え込んだ事を話す。

 

「俺の光の闘気は暗黒闘気の塊を抑え込んだが、あれはそう簡単にできることではない。普通なら流し込まれた闘気に負ける」

 

「つまり、ミストバーンがお前にやろうとした事を、お前が俺にやるってわけか……皮肉だな」

 

「ラーハルトとの戦いで弱った今ならば、上手く行けばお前を蝕む呪いを解き……悪くすればお前が消え、ただの灰になるだろう」

 

「生きるか死ぬか、か……なんだ、別に今までの戦いと変わらないな」

 

 近くに散らばっているオリハルコンの破片の中から器として使えそうな物を見繕ったヒュンケルは、即席の器に自らの光の闘気を流し込む。

 

「ミストバーンほど器用に、飲料のように闘気を扱えるかは分からなかったが……」

 

 ヒュンケルは器に入れた自らの光の闘気を眺めた後、ワインのように一口飲み込んだ。

 

「この分なら問題はなさそうだ」

 

 毒味と言わんばかりに闘気を飲み込んだヒュンケルは、そのまま器をカロンへと渡す。

 

「まるで、義兄弟の契りだな」

 

 同じ器に注がれた酒を、2人が交互に飲む……どこかの文化では義兄弟や義理の親子の誓いで似たようなことをやるらしい、とカロンは知識を教える。

 

「ふ、今さらだな。俺たちは……ずっと仲間で、義兄弟のようなものだった」

 

「ああ、だから、お前を信じてるよ」

 

 互いにニヒルに笑った後……カロンは器に残った光の闘気を、一気に呷って飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、あれは……!?」

 

「ヒュンケル、か……!?」

 

 地上での戦いが片付いた後、バーンパレスに突入したクロコダインたちが見たのは、壁に背中を預けるヒュンケルと……その横で俯きながら座るヒムであった。

 

「お、お前は親衛騎団の……!? ヒュンケルは、ヒュンケルはどうした!?」

 

「うるせぇなっ!」

 

「っ!?」

 

 ヒュンケルの容態を尋ねたクロコダインが怯む。それは大声を出されたからではなく……顔をあげたヒムが、泣いていたからだ。

 

「静かにしろよ。今こいつは初めて安らかに睡ってるんだ。

 きっと生まれて初めて、闘いも宿命も忘れて……傷ついた心と体を癒やしてるんだよ」

 

 

 安らかな顔で眠るヒュンケル。それは、それなりに長い付き合いのクロコダインも、見たことがないような表情であった。

 

「なぁ……ヒュンケル……!」

 

 

 

 そして、ヒュンケルの周りには……灰が彼に寄り添うように、風に舞っていた。

 

 

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