さて、あれから2日経ったが、昨日はガチで1日何もせずに非戦闘要員が逃げるのを待つ事になった。まぁヒュンケルが待つと言ったのだから待つに決まっていたのだが。
何はともあれ、今現在俺たち不死騎団は、大量のガイコツ兵士を率いてパプニカの都のすぐ近くまで来ていた。軍隊のお出迎えは今のところない。籠城戦でもするつもりなのだろうか。
「一気に王宮まで攻め入る。足の遅い別働隊には神殿や詰所といった別の場所を攻めさせるが、カロンは俺と共に来い」
「ああ、あくまでも本命は王ってことだな」
王さえ何とかすれば、国民は基本的に烏合の衆だ。逆に言えば王さえ生きていたら、国民は決して諦めないだろう。王を重点的に狙うというのは、非戦闘員を殺したがらないヒュンケルの心情と戦略的な合理性が合わさった稀有な例と言える。
「よし、進軍だ!」
「パプニカ王国は今日滅亡する!」
「ヒュンケル様とカロン様に続け──!」
一気にパプニカの都に攻め入り、中を蹂躙する。あ、いや別に率先して建物とか壊してるわけじゃないんだけど、武装集団が一斉にごった返したら、結構通った後は荒れるんだよね。
そうしてしばらく進んでいたら、兵士の一団と出くわした。
「パプニカのために──!」
「陛下のために──!」
「レオナ姫のために──!」
鬨の声をあげながら突進してくる兵士たち。てっきり市民の避難誘導で疲れ果てているかと思ったが、気力はかなり充実しているようだ。
「はぁああああ!」
「でぇえりゃあ!」
だが、相手が悪すぎた。ヒュンケルと俺が左右から同時に突進し、すれ違いざまに剣で切り付けまくる。それだけで兵士はほぼ全滅した。僅かに残った幸運な兵士たちも、ガイコツ兵に呑まれて見えなくなる。と、その時……
「ぱ、パプニカ王国、バンザ────イ!!」
ガイコツ兵士の群れに呑まれた兵士たちの中から一際大きい声が聞こえてきたかと思うと、ボン、という小さな破裂音がした。その直後、何かが放物線を描きながら空中へと登っていき……パン、と青い爆発が起こった。
「なんだ?」
「報告します! 敵兵の一人が、火薬玉を隠し持っており、メラで着火した模様!」
思わず漏れた俺の呟きに、ガイコツ兵士が報告する。なるほど、遠距離連絡手段として火薬玉による信号弾を使ったということか。魔族のように強力な魔力を持っていれば血文字やら水晶やら幻影やらで手軽に遠距離通信できるのだが、普通の人間や俺のように魔力のない魔物だとそうは行かない。
パプニカも色々考えて工夫を凝らしているということか。
「情報伝達か……だが、色による識別じゃあ大した情報は送れていないはずだ」
「ああ、どの道ここで止まるという選択肢はない……作戦を続行する!」
小細工を力で捻じ伏せられるのは強者の特権だな。
そうして、その後も俺たちは順調に進撃を続けていたのだが……
「妙だな……」
「ああ、やけに抵抗が弱い」
そう、パプニカの抵抗が想定よりもずっと弱いのだ。いや、厳密に言えばパプニカ兵個人個人の抵抗は相変わらず頑強だ。だが、組織的な行動としてはやけに散発的な抵抗しかして来ない。
その辺の家に潜んでいた少数の兵士が飛び出して来て俺たちに迫って来たり、バリケードを作って抵抗しているかと思えば、バリケードの中には小規模な兵士しかいなかったり……正規兵というより、まるでゲリラのような戦い方をする。
そしてどの兵士たちもやられ際に青い信号弾をあげて、パプニカ王国の名を叫びながら絶命していった。
「カロン、どう思う?」
「……戦力の低下からゲリラ戦をせざるを得なくなった……ってのは都合よく考えすぎだよな……罠、かもな」
よくある戦術としては、敵が陣中深くに誘い込まれてきた所を包囲して一網打尽……などが怪しいか。うちのお優しい団長様の意向によって、丸一日の準備期間があったのだから、罠なんていくらでも準備できただろう。
俺がジト目でヒュンケルを見ていることに気づいているのかいないのか……ヒュンケルは指示を飛ばす。
「多少進軍速度を落とし、警戒を密にして進むぞ」
「そうだな……王宮まで行けば、どのみち真実も分かるだろ」
不可解な抵抗を受けながら、俺たちは王宮の目の前にまで到達した。残りの三賢者、エイミとアポロすら姿を現さなかった。一体全体どうなってるんだ?
首をかしげながらも、俺たちは王宮へ入る。中は藻抜けの殻だった。兵士が襲ってくることもない。
これはいよいよどういうことかと突き進んでいるうちに、ある一室……謁見の間へと辿り着いた。扉の向こうにはようやくというべきか、人の気配がする。だが、その数は多くはない。
「……ここからは俺とカロンで行く。あまり大勢と押し掛けるのは王族に無礼だ」
騎士道精神を発揮させたヒュンケルがそう言う。まぁ、扉の向こうの気配は明らかに兵士が大勢ひしめき合っているようなものではないし、俺も反対しなかった。
仮に兵士が大勢いても、どんな巧妙な罠があったとしても、俺とヒュンケルなら簡単に切り抜けられる自信はあったが。
「行くぞ、カロン」
「あぁ、ヒュンケル」
重厚で豪奢な扉を開けて、俺たちは王の間に入った。
「逃げてなかったのか、てっきり尻尾を巻いて逃げたんだと思ってたが」
「……そなたらが、不死騎団か……」
謁見の間の玉座には、パプニカ王が悠然と座っていた。その周囲には、重装備をした歩兵が10人ほど控えている。
「人間と見紛う魔物というのは本当だったのだな……報告によれば一人とのことだったが……」
「……俺は、不死騎団団長ヒュンケル……アバンを、正義を憎む『人間』だ」
王の疑問に、ヒュンケルが無表情で返す。
「なんと、なぜ……いや、事ここに至っては、理由など聞くのは無意味というものか……」
まぁデリケートな部分だからな、ヒュンケルだって自分の出生を言いふらしたくはないだろう。それに王の言う通り、今さら理由なんて関係ない。俺たちはただ殺すだけだ。
「……パプニカ王、なぜ逃げなかった?」
ヒュンケルが聞く。問答無用で殺さないのは騎士道か。騎士物語の騎士って敵の王にも礼節を弁えるし。
「私は王だ……臣民たちが過不足なく他国へ渡れるように差配しなければならなかった。逃げるわけにはいかなかったのだよ」
「ご立派だが、王だからこそ生き延びる責任があるんじゃないか?」
俺はそこで話に入る。指導者ならば、全体の為に少数を切り捨てる決断だってしなければならないだろう。王さえ生きていれば反抗の意思を失わないような連中の存在を考えると、こいつは何を犠牲にしてでも真っ先に逃げるべきだったんじゃないか?
「一理あるな……だが、生き延びる責任があるのは、私ではない……」
「……なに?」
「……私の妻は産後が悪く、レオナを産んだしばらく後に病死した。それからは王として、父親として、母親のいない寂しさを感じさせないように目一杯の愛情を注いできたつもりだ。
王族としても立派に成長しており、あの子はやがては偉大な指導者になるだろう。これは決して、親の贔屓目だけではないはずだ」
なんだ? なに急に親馬鹿っぷりを発揮してるんだ……? いや、待てよ……
「まさか……!?」
「うむ、そのまさかよ……私はレオナを、そして一人でも多くの臣民を逃がすことに全力をあげた! 魔王軍は手強い……今の我々には勝機はない……だから私は未来に賭けたのだ! レオナと、あの子の信じた小さき子が、やがて立派に成長し、今日という日を生き延びたパプニカ臣民たちと協力して、国を再興し……お主らを打ち倒してくれることを信じて!」
「……申し訳ない、貴方を過小評価していた……その威風堂々たる姿、敵ながら天晴れと言うほかない」
ヒュンケルは心から感服したように頭を下げる。俺も柄にもなく感嘆してしまった。レオナ姫さえ生きていれば、いつか魔王軍に反攻し、パプニカを取り返してくれる。民が一人でも多く生きていてくれれば、その際に国に帰ってきて復興してくれる……希望的観測と言ってしまえばそれまでだが、俺はその心意気を否定することができなかった。
「こちらこそ敵ながら礼を言う、そなたらが一日待っていてくれたおかげで、たくさんの臣民を事前に避難させられた……昨日逃げられなかった者や最後まで誘導をしていたレオナも、死兵が命を賭して稼いだ時間で既に避難は完了した」
てっきり罠でもあるのかと思ったら、ゲリラ連中は少しでも時間を稼ごうとしていただけで、信号弾も敵の接近を知らせていただけだったってことか……
「エイミとアポロも、本当ならば不死騎士団と戦い、マリンを取り返したかっただろうに、レオナのそばについてくれた……私には過ぎた家臣だよ」
しんみりとした口調でそう言うパプニカ王。アポロとエイミは元気なようだ。
「だから私は、少しでも将来、彼らが楽になるよう……今ここで死力を尽くす!」
王がそう叫んだ瞬間、彼の横に控えていた重装備をした10人のパプニカ兵士が前に出て、俺たちに武器を向ける。
「私の死に付き添ってくれるという酔狂な者達だ……せめてお主らどちらかだけでも、道連れにさせてもらおう!」
半数ずつに分かれて、俺とヒュンケルに向かってくる重装歩兵たち。
「受けて立とう……」
「だが、道連れになるつもりはないぜ」
俺たちも剣を構え、それぞれ歩兵たちに突っ込んでいく。
「はぁああ!」
盾を構えて突っ込んで来た歩兵を切り裂く。あと4人。だが、盾ごと切り裂く為に大振りにならざるを得ず、その隙に他の歩兵に斬られてしまった。
「ぐぅ! 流石だ、俺が人間だったら今ので死んでたぜ!」
返す刀で俺を斬ってきた兵士の首を切り落とす。あと3人。
「……? その太刀筋……イオラ!」
王の援護魔法が飛んできたが、近くにいた兵士を蹴り飛ばして盾にする。怯んだ隙にそいつを鎧ごと切り裂いた。あと2人。
「がぁああああ!」
兵士の一人が特攻し、自分から剣に貫かれに来た。だが、こいつはとち狂ったわけではない。自らを貫いている刀を身体全体で抑え、剣を封じるのが目的だった。
「はぁあああ!」
その隙に残った一人が槍で俺を突いてきたが……俺は剣を持っていない方の手で穂先を掴んで止めた。
「なに!?」
「……俺は剣が得意だが、槍だって使えないわけじゃないんだぜ!」
無理矢理槍を奪い取った俺は、クルリと手の中で槍を回転させると、そのまま兵士の心臓を刺した。あと1人。いや……
「立ち往生、か」
俺の剣を身体を張って封じ込めていた兵士は無理が祟ったのか、立ったまま死んでいた。
ふと横を見れば、ヒュンケルも既に5人の兵士を殺していた。つーかよく見たらアムドしてないよあいつ。絶対負けない鎧で勝負するのはフェアじゃないとでも思ったのかね。
「お主……何者だ!? その太刀筋はどこで覚えた!?」
その時、王が俺に向けて血相を変えて叫んだ。なんだ? なぜここで俺の戦い方なんてのの話になる? 生まれた時には覚えてたから、どこでも何もないんだが……
「冥途の土産に教えてやるよ、俺の名はカロンだ」
「そういうことを聞いているのでは……カロン、カロンだと? そしてその太刀筋……ま、まさかお前は……!?」
何か重大なことに気付いたようなパプニカ王。何となく、本当に何となくだが、俺はその先を聞いてはいけない気がした。だから、だから俺は────
────王の左胸、その心臓に、諸刃の剣を突き立ててやった。
「が、がは……! あ、哀れな……お主は、自らの数奇な運命に気づいていないのか……?」
「……そういうさも意味深ですよみたいなセリフ、俺は好かんぜ」
……俺に数奇な運命? バーン様によって作られただけの命である俺に? そういうのは伝説の勇者とかが感じるべきもので、俺とは縁がないもののはずだ。俺はただ命じられるまま戦うだけのケチな魔物だ。
「ぐ、ぐぶ……! れ、お……な……あぁ、瞼の裏に、浮かぶようだ……おま、えと……ダイ、という、少年、が……魔王軍を、倒す、その、光景……が……」
最期に愛娘の名を呼んだ王は、ゆっくりと地に崩れ落ち……やがて、事切れた。
……想定よりもずっと簡単に王を殺した。その分、姫をはじめ取り逃した人間も多いが、それはこれからゆっくりと狩っていけばいい。
この結果は客観的に見れば大勝利と言える。普通ならば、諸手をあげて大喜びするところなのだろう。
『あ、哀れな……お主は、自らの数奇な運命に気づいていないのか……?』
だというのに俺は、喜びもせず、ただそこに突っ立っていた。王の遺した謎めいた言葉が、文字通り骨身に染みていて……心の中にいつまでもいつまでも、こびりついていたからだ。
……所詮人間ぶってるだけの骨魔物に、心なんてものがあるのかは分からないが。
決戦ではなく──
決戦ではなく罫線
決戦ではなく継戦
パプニカ王の考えをダジャレにしたのが今回のタイトルです。