不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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その後、あの頃、そしてこれから

 王を殺した後、不死騎団はパプニカを占領した。王の尽力もあってパプニカには逃げ遅れた市民はおらず、敢えて逃げずに抵抗するような戦士が僅かにいるのみであった。そういう奴らにはガイコツ兵共をけしかけるそうだ。レオナ姫の一派は終ぞ見つからなかったが、そのうち見つかることだろう。

 

 

「……数奇な運命、ね……」

 

 そういった事後処理を尻目に、俺はパプニカの建物の残骸である瓦礫の山に腰掛けて、深く物思いに耽っていた。パプニカ王の最期の言葉が、頭から中々離れない。

 

 

 あの後、王を殺した俺は、まずヒュンケルに謝罪した。団長を差し置いて副団長の俺がいきなり王を殺してしまったからだ。まぁヒュンケルがそういう手柄やら首級やらに拘らない奴なのは分かっていたが、一種のケジメだ。

 王を殺した後の、ヒュンケルが俺を気遣っているような何とも言えない空気を切り替えたかったのもある。

 

 ヒュンケルは俺を一切咎めずに許すと、しばらく自由にしているように言った。まぁ、残党狩りは大して急ぐわけではない。そもそも人間の国を滅ぼすこと自体、別に早さを競っているわけでもない。結構自由気ままに戦争そっちのけで色々やってる軍団長とかもいるし。

 

 そんなこんなで俺は戦争の跡が色濃く残るパプニカを眺めながら、何をするでもなくボーっとしていた。

 

 ……やっぱり俺は、あの王の言葉の真意を知ってはいけないと思う。俺は人の骨がベース故に、人間ぶるのが好きなだけの魔物だ。数奇な運命がどうとか……そういうのを詳しく知ってしまうと、俺が俺でなくなってしまう気がする。というか普通に考えて、あの王の言葉は妄言の可能性だってある。

 

 そう、気にしないことが一番いい。頭では分かっているのに、気が付いたら色々ウジウジと考え込んでしまっている。

 

 

「……こんな風に悩んでるのを見たら、アイツはイラつくだろうな」

 

 

 瓦礫の上で寝転んで、目を閉じる。嫌なことを考えてしまうのから逃れるには、不貞寝が一番いい。少々危機感に乏しいかもしれないが、どうせパプニカの残党はこの辺にいないだろうし、いたとしても残党程度に俺は殺せない。

 

 ……頬を撫ぜる優しい風を感じながら、俺はゆっくりと眠りに落ちていく。世界一美しいと謳われたパプニカの街並みは崩壊しているが、皮肉にもそのおかげで大分風通しが良くなった。

 

 ああ、これは良い夢が見れそうだ……

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 どちらが不死騎団団長になるかを決める試合で、俺はヒュンケルに負けた。悔しさのような感情が全くないと言えば嘘になるが、アイツの方が強かったのだからしょうがない。別に不用品として『処理』されるわけでもないし、俺はあまり気にしていない。

 

 だが……

 

「テメェ……いくらバーン様のお気に入り相手とは言え、たかが人間に負けやがって……」

 

 同じ呪法生命体である氷炎将軍フレイザードはどうやら、俺以上に俺が人間のヒュンケルに負けたのがご立腹のようだ。まぁ俺は元が人の骨だからあまり人間が嫌いじゃないけど、フレイザードは人間全般を見下してるフシがあるしな。

 

「フレイザード……お前とはそこそこ話す仲だが、これに関してはとやかく言われる筋合いはないな」

「そこそこ話す仲ぁ?確かに不本意だが、同じ呪法生命体同士、俺はそこそこテメェを意識していた……」

 

 まぁ、多少の差異はあるが同じ境遇だしな。

 

「だが、だからこそ気に食わねぇ……同じであるはずのテメェの、その腑抜けさがな!」

「腑抜けだと?」

 

 俺は眉をひそめる。流石に正面から腑抜け呼ばわりされたら少々不愉快だ。

 

「テメェはなぜそんな風に納得してやがる……?不死騎団団長になる為に生み出されたテメェは、自分の存在意義を奪われたんだぞ?」

「別に……ヒュンケルの方が強かったってだけだ、そこに異論を挟むつもりはない」

 

 そもそも存在意義はまだある。副団長とかいうオマケみたいなものではあるが。

 

「気に食わねぇな、その腑抜けた態度……まるでクソ弱ぇ人間みてぇだ」

「……俺は元々のベースが人間だからな」

「屁理屈捏ねてんじゃねぇ!」

 

 そう言うと、フレイザードの炎の半身が燃え上がった。もっと怒らせてしまったようだ。

 

 

「ケッ、俺はこの後軍団長としてバーン様に謁見する……テメェは指を咥えて見てやがるんだな!」

 

 怒ったと思ったら、捨て台詞を吐いてズカズカと去っていった。ったく、なんだったんだか。

 

 

 その後、俺は六団長たちが顔合わせを済ませ、ヒュンケルが出てくるのを謁見室の前で待っていた。だが、ヒュンケルよりも先に出てきた人物……フレイザードの姿を見て驚愕する。フレイザードは、その氷の半身がドロドロに溶けていた。

 

 「フレイザード!?お前、それ……!」

 

「ククク……バーン様への忠誠心を示すため、業火の中のメダルを取りに行ったのさ……ケケ、あのバランやクロコダインでさえ躊躇した炎の中に、俺は真っ先に飛び込んでやったのよ」

 

「馬鹿な……お前は半分氷だろ?なんて無茶を……そこまでする必要はなかっただろ?」

 

 半分の炎にとっては業火など何でもないかもしれないが、半分の氷にとってそれは致命的だ。無茶どころか、自殺行為に近い。いくらバーン様への忠誠を示す為とは言え、異常だ。

 

「俺の人格には歴史がねぇ……」

「なに?」

 

 俺が驚愕している様子を見て、フレイザードは語りだす。

 

「生み出されてから一年も経ってない『俺』という存在を証明できるのは、とてつもない手柄だけだ!だから俺はこの半身が消え去ろうと、手柄を手に入れられるなら構わねぇ!」

 

「……馬鹿が……長く生きて人格の歴史を刻もうとは思わないのか?生きてりゃ存在の証明なんていくらでも……」

 

「ケッ!テメェみてぇな腑抜けには分かんねぇだろうがなぁ!勝利の瞬間の快感だけが!仲間の羨望の眼差しだけが!このオレの心を満たしてくれるんだよ!安全な場所で死なねぇように、大した手柄もなく長く生きても……俺は『俺』を証明できねぇ!」

 

 一方的に言葉を叩き付けると、フレイザードはそのまま去っていった。俺はその背中に、何も言うことができなかった。生き急ぐかのようなフレイザードの激烈さ。アイツは百年や千年生きるよりも、一年で死のうと未来永劫消え去らない栄光を求めている。

 

 なまじ不死であるが故に、俺は空っぽの目をした髑髏のように、無感動に生きてきた。でももし、もしも俺もあんな風に……一瞬でも、閃光のように耀き、その光が瞼の裏に残り続けるような生き方ができたら……

 

 

「……羨ましいよ、フレイザード……俺もあんたみたいに、炎のような激情を持てれば……」

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「……あー、良い夢というより、懐かしい夢を見たな……」

 

 俺はゆっくりと身体を起こす。いつの間にか随分暗くなっている。

 

「流石にそろそろヒュンケルに顔見せるか……」

 

 一眠りしたら、気持ちの整理もついた。王の言葉はただの死に際の妄言と思うことにする。分からない事を気にしてもしょうがないからな。

 

 俺は占拠したパプニカ城へ赴き、ヒュンケルを探し出した。

 

「カロン、もういいのか?」

「ああ、手間をかけたな」

 

 俺を気遣うヒュンケル。こいつはこう見えて感情の機微に敏い。俺がパプニカ王の言葉を気にしていたことも、今は既に気にしていないことも、話さずとも察しているようだ。

 

「で、何か状況に変化は?」

「パプニカ王殺害の連絡を悪魔の目玉で行ったのだが……その時に、ある情報を聞いた」

「ある情報?」

「……ハドラーがアバンを葬ったらしい」

「そうか……」

 

 

 そう話すヒュンケルの表情はやはり複雑で、悲しんでいるようにも見える。俺がそのことについて言及すべきか迷っているうちに、ヒュンケルは話を進めた。

 

「憎きアバンめは死んだが、モルグから少々気になる噂を聞いた……アバンの弟子が生きているという噂だ」

「なに?」

 

 モルグは各地の情報に詳しく、噂を集めてくることがある。その内容は往々にして正しい。しかし、アバンの弟子か……ヒュンケルはアバンを弟子作りに現を抜かす阿呆と言っていたが、弟子一号のこいつの強さを考えると馬鹿にできないんだよな。

 

「ハドラーは弟子を殺さなかったってことか?なぜだ?」

「さぁ、な……殺す価値もない木偶だったか、そもそも卒業していてアバンのそばにいなかったのか……」

「……アバンから受けたダメージのせいで殺せなかったとかもあり得るかもな」

 

 

 その後も推測を重ねたが、結局のところ、現状では真実は分からないという当たり前な結論に行き着いた。

 

「……考えても詮無きことだ……だがもし、その弟子が魔王軍に牙を剝く存在であれば……」

 

 ――――そいつらだけでも、この手にかけたいものだな。

 

 ヒュンケルのその言葉を聞いた時、俺は……何の根拠もないが、なんとなくこう思った。

 

 

 これから、俺の魔物としての生は加速していくことになると……

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