不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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はじめての予約投稿です


僅かな変化と戯れ

 王を殺してから数日後。俺はパプニカ各地に潜む残党狩り兼レオナ姫の捜索に勤しんでいたのだが……

 

 

「ひ、ひぃいい!? お、おたすけぇええ!」

 

 

 ……灯台下暗しで探索していなかった王城の牢獄で見つけた小太り中年のオッサンが、ものすごい命乞いをしてきた。

 そのオッサンの名はテムジン。なんでもレオナ姫暗殺を画作して失敗した元司教らしい。牢獄に入れられていて逃げることもできず、パプニカがどういった状況になっているかも把握できないまま魔王軍の影に怯えていた……といったことを聞いてもないのにベラベラ喋ってきた。

 

 

「わ、わ、ワシはこう見えても元々はパプニカ上層部に通じる身! ワシの持っている情報は役に立つぞ! だから頼む! 見逃してくれぇ!」

 

「……しっかりした作りの牢獄だったし、ただの詐欺師ってわけじゃなさそうだな……」

 

 少なくとも、犯罪者だとしてもケチな牢屋に入れるわけにはいかない程の身分ではあったらしい。だからといって全面的に信じるかと聞かれたら首を捻らざるを得ないが……

 

「そうだな、王は俺が殺したが、レオナ姫が見つかっていないんだ、潜伏先に心当たりは?」

「バルジ島じゃ! あそこは塔が一つあるだけの辺鄙な島であるが、だからこそ有事の際の避難先に指定されているのじゃ!」

 

 すげーなこいつ、ノンストップでレオナ姫の情報を売りやがった。しかも王が死んだと聞いても全く気にしていない。

 なんかここまでクズだといっそ清々しいな……

 

「そうか、じゃあその情報をマリンにカマかけて確認してみるか……もし嘘だったら……」

「マリンというと、三賢者の一人か!? あやつ捕虜になっておったのか! ええい、そのようなことはどうでもよい! とにかくワシを殺さんでくれぇ!」

「だぁうるせぇな! 情報が本当だったら、情報提供者として命だけは助けてやるよ!」

 

 俺の靴でも舐めんばかりにすり寄ってきたテムジンに、思わず安請け合いしてしまった……まぁ俺たちは食事が必要なくて物資は余りまくってるから、捕虜を増やすくらい問題はないだろうが。

 

「ほ、本当か!? い、言っておくが小娘はバルジ島にいる可能性が高いというだけで100%ではないぞ!? バルジ島の他の避難先候補もワシは知っておる! もしもいなかったらワシの情報を頼るがいい! だからどうか、どうか命だけは!」

 

 その後も助かりたい一心で俺にガンガン情報を売るテムジンをうるさいから一旦気絶させて背負い、俺は地底魔城に帰還する。パプニカ王城は立派な建物だが、戦闘の余波であちこち壊れているので拠点にはしていない。

 

「それにしても、思ってたより人間も内ゲバが好きなんだな……」

 

 テムジンから聞いた話では(聞いてもないのに一方的に話されたのを聞いたと表現するかは疑問符が浮くが)テムジンと共にレオナ姫暗殺を企んで投獄されたバロンという賢者が、俺たちのパプニカ侵略のどさくさに紛れて魔法を駆使して脱獄したらしい。ちなみにテムジンのことは助けなかったそうだ。

 

 そのバロンが、投獄された復讐として、レオナ姫を狙ってバルジ島に向かっているとのこと。

 

「一応ヒュンケルに報告しとくか……」

 

 信憑性としては怪しい部分もあるが、レオナ姫の足取りが一向に掴めていないのも事実。テムジンの言う通り、足がつかないように秘蔵の気球で孤島まで逃げたのだとしたら、一応説明はつく。

 

 

「お帰りなさいませ、カロン様……突然ですがこの後、お時間の方よろしいですかな?」

 

 俺が帰還すると、どこからか鈴の音色を鳴らしながらモルグが現れた。どうやら、俺が戻ってくるのを待っていたらしい。

 

「どうしたんだ急に? あ、そこのガイコツ兵、このオッサンを適当に牢屋にぶち込んどいてくれ」

 

 

 テムジンをその辺にいたガイコツ兵に預け、俺はモルグの話を聞く。

 

「実は、ヒュンケル様に大魔王バーン様からお呼びがかかったのですが……そのしばらく後に、ハドラー様から六団長集結の命が出されたのです」

「なに? 入れ違いになったってことか?」

 

 基本的には指示を出すのはハドラーだが、立場としては当然バーン様が上。なのでバーン様とハドラーは指揮系統に曖昧なところがある。

 

「これは悪魔の目玉で聞いたのですが……先日申し上げた、アバンの弟子……いえ、アバンの使徒の話は覚えておいでですか?」

「ああ、覚えてる」

 

 別にアバンの弟子でいいと思うんだけど、みんなカッコつけた言い回しが好きなのか、アバンの使徒と呼ぶ。

 

「そのアバンの使徒が、新しい勇者一行となり……小さき勇者ダイを中心として、獣王クロコダイン様を倒してしまったとのことです」

「なんだと!?」

 

 獣王クロコダイン。ヒュンケルも一目置く歴戦の武人であり、百獣魔団の団長だ。単純な腕力で言えばハドラーをも超え、鍛え上げられた逞しい肉体は生半可な攻撃を通さない。その強さは本物だ。だというのに、まさかクロコダインがやられるとは……アバンの使徒、そして勇者ダイ……油断できない相手のようだ。ハドラーはなぜアバンを殺す時に弟子も一緒に始末しなかったんだ。ひょっとして負けたのか? 

 

「これは憶測なのですが……アバンの使徒への対策にて、バーン様とハドラー様がすれ違いになったのでは……」

「……バーン様はヒュンケルを勇者討伐に任命し、ハドラーは六団長を揃えて相談しようとしたということか」

 

 まったく、報告、連絡、相談をしっかりしないからこういうことが起こる。

 

「そこでご相談……いえ、お願いがございます」

 

 モルグが佇まいを正して言う。

 

「ヒュンケル様は人間故に、魔王軍にて色々と敵の多いお方です……勇者ダイの件が片付くまで、カロン様にはしばらくパプニカ残党の処置を休止し、ヒュンケル様を支えて頂きたいのです」

 

「そんなの頼まれるまでもない……実を言うとさっきの捕虜から情報提供を受けてな、俺も完全ではないがレオナ姫の潜伏先の目途はついた。残党はやろうと思えばいつでも滅ぼせる」

 

 副団長として団長をサポートするのは当たり前だし、優先順位的に考えても、滅びかけのパプニカ残党とクロコダインを倒したアバンの使徒とではどちらが重要かなど分かり切っている。

 

「それを聞いて安心しましたぞ……それにしてもカロン様、捕虜と申されれば、近頃はあの賢者の女性の元へ行っていらっしゃらないのでは?」

 

 表情と雰囲気を和らげたモルグが、軽い世間話のノリで聞いてくる。確かにちょっと前まではマリンにちょっかいをかけて遊んで……もとい、軽い尋問をしていたが、最近はすっかりご無沙汰だ。

 

「どうせ口を割らない相手に尋問して仕方ない……実を言うと最近、女の趣味が変わってきてな」

「おや? カロン様はよく女性の賢者がお好きだと公言していらっしゃいましたが……それが変わったと?」

「ああ、なんとなく好みが変わったんだよな、最近好きなのは……」

 

 

 ★ ★ ★

 

「不死騎団団長ヒュンケル、アバンの使徒抹殺の命、確と承りました」

 

「うむ、ヒュンケルよ……余はそなたの人間への憎しみを高く評価している……アバン殺害はハドラーに命じたが、せめてその弟子はお前に討たせよう」

 

「ははぁ!」

 

 大魔王バーンに呼び出されたヒュンケルは、小さき勇者ダイをはじめとするアバンの使徒抹殺の命令を受けていた。アバンをこの手で殺すことができなかったヒュンケルだが、彼の者の遺した弟子を潰すことができる……ヒュンケルはそのことに、暗い喜びを覚えていた。

 

「うむ、してヒュンケルよ……カロンの様子はどうか?」

「……カロン、ですか?」

「どんな些細なことでもよい……何か変化はあったか?」

 

 カロンのことを突然聞かれたヒュンケルは訝しげな表情をする。今までバーンがカロンを気にすることはなかったからだ。

 

 ヒュンケルにとってカロンは、人間故に侮られることの多い自分を色々とサポートしてくれる上、自分に近しい実力を持つ信頼できる副官だ。故にあの時の様子は心配しており、創造主であるバーンにも報告していたのだが……その際も特にこれといった感情はバーンから感じられなかった。それが一体どういう風の吹き回しかと、ヒュンケルは探りを入れる。

 

「先日申し上げた、パプニカ王殺害の際の様子以外で……ですか?」

「うむ、お主は生真面目故に、あまり些細なことは戯言と報告したがらないだろうが……」

「いえ……」

 

 この突然の質問は、何かあの時のことと関係があるのだろうか。流石に突然我が父バルトスのように父性に目覚めたわけではないだろうが……と考えながらも、ヒュンケルは最近のカロンの言動や行動を思い返す。

 

「……これは真に些細なことですが……カロンは女の趣味が変わったと申しておりました……以前は賢者でしたが、今は……」

 

 カロンの現在の趣味を報告するヒュンケル。それを聞いたバーンは、満足そうな笑い声を出す。

 

「クックック……そうか……ご苦労だった、下がってよい」

「……は!」

 

 腑に落ちない何かを感じながらも、ヒュンケルはその場を辞する。カロンのことも気にはなるが、今のヒュンケルは、アバンの使徒との戦いに心の多くを向けていた。故にここでバーンの真意を深く問い質すような真似はしなかった。

 

「ふむ……」

 

 ヒュンケルが去った後、バーンはチェスの一人遊びを始めた。以前は指す相手が大勢いたが、今となってはただ手慰みに自分で両の駒を動かすだけだ。機会があればこのチェスの駒は誰かに譲ろうと考えている。

 

「カロンくんも可哀想に、自分が玩具であることに気づいてないなんて」

「キャハハ! マヌケマヌケ!」

「…………」

「キル、それにミストか」

 

 突然現れた側近2人(使い魔を含めれば3名)にも動じることなく、バーンは手を動かす。白のナイトが、黒のポーンを打ち倒す。

 

「今のタイミングで女の子の趣味が変わるかー、バーン様の読み通りのタイミングだったってことですか?」

「うむ……ヒュンケルのあの憎しみに満ちた瞳には叶わぬが、あやつも中々面白い男よ」

「バーン様は相変わらず、お戯れがお好きですねー」

 

 突出し過ぎた白のナイトは、黒のビショップの急襲を受けて敗れる。

 

「退屈は魔族をも殺すぞ……特に余のように永遠に近い時を生きる者にとっては、戯れこそが正道」

「あー、あの鍛冶屋さんも言ってましたね、魔族の人生は密度が薄いだの退屈過ぎるだの……ピロロ、なんて名前だったっけ?」

「ロン・ベルクだよ! ロン・ベルク!」

「…………キル」

 

 ミストバーンがバーン直々の勧誘を蹴ったロン・ベルクを嫌っている事を知っていて、わざと話題に出すキルバーン。普段はほとんど口を開かないミストバーンが、僅かに苛立った声を出す。

 

「アバンの弟子が想定以上にやるのも面白い……しばらくはハドラーの手並みを拝見するとしよう

「うーん、何だか頼りないんだよなぁ、ハドラーくんって」

「…………」

 

 強大な魔の者たちにとっては、地上に生きる人間はおろか……人間と戦うモンスターたちすら、戯れの一つに過ぎなかった……

 

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