不死騎団の副団長   作:ハルホープ

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驚くべきことに、日間ランキング70位、ルーキー日間ランキング40位、週間「その他原作」ランキング50位になってました。
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エースなき戦場

「おい、この食料は俺のものだぞ!」

「うるせぇ!俺は今日何も食べてないんだ!分かったら寄こせ」

「俺だって一日中島の周りを見回ってたんだぞ!そんな横暴が通るか!」

「お、おい、落ち着けよお前ら……」

 

 バルジ島……パプニカ王族の生き残りであるレオナ姫の一派は、この中央の塔以外何もない島に潜伏し、魔王軍不死騎団へ反撃する機会を伺っていた。

 

 だが、国を追われ、いつ終わるとも分からぬ潜伏生活は、兵士たちの心を着実に蝕んでいた。今も、少しの食料を巡って兵士2人が争っていた。周囲の兵士は止めようとするが、一向に争いが鎮まる気配はない。

 その時、途方に暮れる兵士たちの合間からスッと出てきた少女が、兵士2人が取り合っていた食料を奪い取って地面にぶちまけた。野菜がぐちゃぐちゃに飛び散り、パンは埃まみれになり、とても人が口に入れられるようなものではなくなってしまった。

 

「あぁ!?貴様なにをしやがる……ひ、姫様!?」

 

 

 突然の暴挙に声を荒げようとした兵士だが、少女の顔を見て固まった。なぜならその少女とは、レオナ姫その人であったからだ。

 

「何をなさるのです!姫、貴重な残り少ない食料を……」

「いくら大事なものでも、争いの種になるならいらないわ」

 

 

 未練がましく文句を言い出した兵士をバッサリと一言で切り捨てるレオナ。それを受けて押し黙る兵士。

 

「みんな、私たちがこうして身を隠し、反撃の準備を整えているのは、魔王軍の悪事を挫くためなのよ?それなのに、私自身が自分の欲望の為に、他人を傷つけたりしてどうするの!?それじゃ魔王軍と変わらないじゃない!」

 

 周囲の兵士たちに言い聞かせるように、毅然とした口調で告げるレオナ姫。

 

「魔物と同じ道を歩むくらいなら、人間として飢えて死にましょう!」

 

 14歳とは思えぬ、その堂々とした態度に、周囲の兵士たちは感嘆する。それと同時に、くだらない喧嘩をして和を乱してしまった自分たちを深く恥じた。

 

「面目ない……姫とてろくに食事を取っておられないのに……」

「陛下が行方不明になられ、姫様とて心細い思いをしておいででしょうに……申し訳なございません」

「もういいのよ」

 

 

 気落ちした様子で謝罪する兵士たちを笑顔で許すレオナ。自分たちの置かれている状況が芳しくないことは理解しているが、だからこそ彼女は殊更に明るく振る舞った。

 

「とにかくみんな、最後のひと踏ん張りをしましょう!きっと勇者が助けに来てくれるわよ!」

「姫様がいつも話されている少年ですね、確か名前は、ダイ……」

「そう!ちょっと背が低いのが難点だけど、それなりに勇者してるし、結構頼りになるはずよ」

「希望の救世主にしては酷い言われようですな!ハハハハ!」

 

 勇者ダイ。以前、レオナ姫が王族の儀式を行う為に赴いたデルムリン島にいた少年である。司教テムジンと賢者バロンの裏切りによって暗殺されかけたレオナ姫を救った、命の恩人である。

 魔王復活後はパプニカ王家の依頼で島を訪れた15年前の勇者アバンに鍛えられ、伝え聞く話ではロモス王国を襲っていた魔王軍を仲間と共に追い返したらしい。

 レオナはダイならば、この絶望的な世界を救う希望の光になってくれると信じていた。

 

 

「しかし、本当に来るのでしょうか?そんな少年が……」

「来ると信じよう、姫様が信じるものは我々も信じるのだ」

 

 兵士たち、特にデルムリン島の件に関わっていない兵士たちの中には勇者ダイに懐疑的な者もいた。しかしそれでも、何の希望もないのに比べれば大違いである。信じて生きてさえいれば、いつかはチャンスが巡ってくるのだから……。

 

「残念だが、その希望は空振りだな!」

「!?」

 

 その時、突如として響いた声に、兵士たちは警戒する。声のした方に目を向けた兵士たちだが……その先にいた人物を見て驚愕する。

 

「お、お前は……!?」

 

 

 そう、突如現れた謎の男の正体とは……!

 

 

「レオナ姫……貴様から受けた屈辱……今ここで晴らさせてもらう!」

 

 裏切りの賢者、バロンであった。

 

「裏切り者のバロン!貴様、生きていたのか!」

「おのれ!レオナ姫には指一本触れさせはせんぞ!」

 

「フハハハハハ!愚かなり!我が魔法を喰らえ!イオラーー!」

 

「うわああああ!!」

「ぎゃあああああ!」

 

 先ほどまでいがみ合っていた兵士2人が同時に飛びかかるが、イオラを受けた2人は吹き飛ばされてしまう。

 

「ククク……レオナ姫、貴様の首を持ち帰れば、魔王軍も助命くらいは聞き届けてくれよう……」

 

「バロン……!」

 

 じりじりとレオナに近づいていくバロン。その時!

 

「そこまでだ、バロン!」

「みんな下がって!賢者には賢者よ!」

 

 

 騒ぎを聞いて駆けつけた、三賢者の2人……エイミとアポロが現れた!

 

 

「げ、げげぇ!?エイミ!?アポロ!?なぜ貴様たちが!?三賢者は捕虜になったという噂は嘘だったのか!?」

 

 所詮賢者の卵に過ぎないレオナ姫や雑兵程度ならばいくらでも蹂躙できる自信のあったバロンだが、同じ賢者が相手ではそうもいかない。

 

 

「……姉さんが捕虜になってしまったのは事実よ」

「バロン、貴様はもう少し思慮深い男だと思っていたのだがな」

 

 つまり、バロンは多少尾ひれのついた噂を丸っきり信じて、レオナ姫への復讐を胸にバルジ島まで来たのである。

 

「ま、待て!早まるな!話し合おう!そ、そうだ、マリンはどうせもう死んでいるだろう?私が三賢者に入ってやる!そうすれば魔王軍にも渡り合えるぞ?過去のことは水に流し、今は人間同士力を合わせようではないか!」

 

「何を都合の良いことを!」

「待って、アポロ」

「ひ、姫様!?危険です!」

 

 アポロとエイミの静止を振り切り、レオナは一歩前に進み出て、まっすぐにバロンを見据えた。

 

「我が魔法の師、バロン……野心に狂う前の貴方は、理想的な賢者でした……」

「そうだ!私は三賢者を差し置いて、姫の魔法の教育係に抜擢されたのだ!陛下は分かっていらっしゃったのだ、私の能力を!」

「バロン……私は心から反省し、贖罪に励んでいるならば、過去の罪を問うことはしません」

「姫様!」

 

 咎めるようなアポロの声。手を上げてそれを制すると、レオナは言葉を続けた。

 

 

「しかし貴方からは、何も感じません……後悔も誠実さも、何も……過去の忠誠に免じて、この場は不問とします……即刻立ち去りなさい!」

 

 凛とした口調で、強く言い放つレオナ姫。それを受けたバロンは、一歩、二歩と後ずさり……

 

「ふん!所詮は道理の分からぬ小娘か!メラゾーマ!!」

 

 会話の間、後ろに隠した右手に溜めていた魔力で、強力な炎系呪文を放つ!

 

「フバーハ!」

 

 すぐにレオナの前に飛び出したアポロが、フバーハでメラゾーマを無効化する。その隙にバロンは回れ右し、全速力で逃げ出した。

 

「クハハハ!さらばだレオナ姫よ!こうなれば、あのダイとかいうガキを探し出して、レオナ姫の分まで復讐してくれ……」

 

 

 高笑いをあげながら逃げようとしていたバロンに……どこからか飛んできた矢が突き刺さる。

 

「……はへ?」

 

 間抜けにも漏れた声は誰のものだったか分からない……ただ確かなことは、その後に大量の矢が降り注ぎ……バロンはハリネズミのようになり、息絶えたということだ。

 

「て、敵襲ーー!」

 

 ★ ★ ★

 

「ふむ、カロン様の情報通りでしたな」

 

 パプニカから鹵獲した船を中心に編成された船団……その指揮を執るモルグは、船の上で一人呟いた。

 レオナ姫の一派はバルジ島に潜伏していること、そしてレオナ姫に恨みを持つ賢者がその島へ向かっていること、その賢者が休憩を挟みつつバルジ島へ向かった際のおおよその到着時間……カロンがテムジンから聞き出した情報は、嘘偽りのないものであった。

 

 情報が正確だったが故に、モルグは最高のタイミングで奇襲をすることができた。バルジの大渦を迂回して島に接近しなければならない故に、本来ならば奇襲など不可能であるにもかかわらず、だ。もちろん、正確な情報を的確に運用したのはモルグ自身の力量であるが。

 

「ヒュンケル様とカロン様は勇者への対策を練っておられる……ここは我々だけでパプニカ残党を処理しなければなりますまい」

 

「者ども続けー!ヒュンケル様とカロン様だけが不死騎団でないということを、人間共に知らしめるのだー!」

 

 

 後方で指揮を執るモルグとは別の、前線指揮官とでも言うべきガイコツ兵士たちが、一斉にバルジ島へと雪崩れ込んでいく。

 

 本来ならば同士討ちを避ける為に弓兵たちの攻撃を止めさせるべきだが……アンデットモンスターたちは人間と違い、弓が刺さった程度では死なない。

 

 

「可哀想ですが、これも戦争……このままパプニカ残党を圧倒し、目的を果たさせていただきます」

 

 

 ★ ★ ★

 

「ええい、警備は何をしていたのだ!バルジの大渦を迂回して接近して来た船にも気づかんとは!」

「そ、そうは言っても、一度はレオナ姫を暗殺一歩手前まで追い込んだというあのバロンが攻めて来たとあっては、外の警戒などしている暇は……!」

 

 裏切りの賢者、バロンの襲撃で周囲の警戒が疎かになったタイミングでの、不死騎団軍の襲来……否が応でも関与を疑ってしまうが、聞くべき相手はもうこの世にいない。

 

「姫様!バルジ島はもうダメです!せめて姫様だけでも、お逃げください!」

「我々はここで、時間を稼ぎます!お早く!」

「そんな、みんなも……っ!いえ、ごめんなさい……私だけでも、生き残る義務が……っ!」

 

 思わず気心の知れた家臣たちを引き留めようとしたレオナだが、自らの責任を思い出し、血が滲むほど強く唇を噛み締める。

 

「姫様さえ生きていらっしゃれば、我々は敗北しておりません!」

「……みんな、ごめんなさい……っ!」

 

 

 僅かな供回りと共に気球に乗り込み、バルジ島からの脱出を図るレオナ姫。エイミとアポロをはじめとする忠義の士たちは、決死の覚悟で不死騎団の足止めを行う。

 

 

 だが、おかしい。レオナ姫の気球がバルジ島を出発した辺りで、ガイコツ兵士たちはゆっくりと後退していった。まるで、もうここには用がないかのように……

 

「っ!しまった!姫様が危ない!」

「どういうこと、アポロ?」

 

「奴らの狙いは姫様だ!このバルジ島を知っているということは、他の潜伏候補を知っていたとしても不思議ではない!」

「まさか……魔王軍の狙いは最初から、私たちに姫様をごく少数で脱出させることだったとでも言うの!?」

 

 

 レオナ姫は勇者ダイこそが人類の希望だと言うが、パプニカの人民にとっては、レオナ姫こそが最後の希望である。もしも彼女の身に何かあれば、各地で抵抗を続けているパプニカ残党たちは、たちどころに活動を止めてしまうだろう。

 

「何としてでも、姫様には逃げて頂かなくては……!」

「でも、信号弾では『予め指定された潜伏候補先以外に逃げろ』なんて複雑な命令は飛ばせないわ!」

「ぐ、おのれ……!マリンだけでなく、姫様までも守れないとは……!クソ、クソォオオオオ!!」

 

 アポロの慟哭も虚しく、レオナ姫が気球で逃げた先には不死騎団の別働隊が待ち構えており、レオナ姫は虜囚の身となった。

 

 

 

 

 そして、レオナ姫が処刑されたという発表が、パプニカ中を駆け回った。




ランキングに載ったこのタイミングで、サブキャラメインの話を持ってくる迷采配
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