自由な整合騎士   作:粗茶Returnees

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 長らくお待たせしました。待ってる人はいないか。
 とりあえず更新です。


9話

 

 特にこれといった変化のない生活。己を磨き、時に果ての山脈にてダークテリトリー軍と戦う。そんな日々の繰り返しの中でも時たまイベントが発生する。そのためレオンハルトはアリスとフィアを連れて飛竜の寝床へと来ていた。

 

 

「レオン、今日はなぜここへ?」

 

「アリスにも飛竜が必要だろ? 今日がその日(・・・)だから連れてきたんだよ」

 

「その日、というのは?」

 

「孵化ね」

 

「正解」

 

 

 含みのある言い方をされて分からなかったアリスに代わってフィアが答えを言い当てた。それを聞いたレオンハルトは満足気に頷く。整合騎士の相棒である飛竜はすべてこの塔の中で誕生し育つ。無論本来の居場所はこのセントラル=カセドラルではない。100年以上前に飛竜の故郷から数頭を捕まえて運んだのだ。誕生した頃から育てれば飛竜は当然懐く。しかし、育っている状態の飛竜は一筋縄ではいかない。レオンハルトやベルクーリといった最古参の面々は飛竜を手懐けるのに時間を要したのだ。

 

 

「飛竜の孵化に立ち会えるのですか?」

 

「あ〜、……微妙だな。もしかしたらもう孵化してるかも」

 

「え」

 

「それはついてからのお楽しみかしらね」

 

「楽しみが残ってるかは別として、な」

 

 

 飛竜の数も整合騎士と同様に決して多くはない。そのため飛竜が卵からかえる瞬間を見守ることもそうそうないのだ。レオンハルトは任務に就くことが少なく、フィアも塔からは出られない。それは時間を持て余すということである。そのために飛竜が孵化する瞬間を二人は誰よりも多く見てきた。それでも数はしれているため飛竜の孵化は二人にとっても新鮮なものだ。

 

 

「一番奥だっけ?」

 

「そうね。……たぶんあの子の最後の子供になるでしょうね」

 

「え……」

 

「……まぁそうなるか。飛竜の中では体が弱い方だしな」

 

 

 レオンハルトやベルクーリの相棒である飛竜がいるように、飛竜という存在は長寿だ。その寿命の長さが関係しているのかは不明だが、飛竜の故郷にいるものたちを合わせても総数は決して多くはない。卵を産むこともなかなかないのである。今回孵化する卵を産んだ飛竜もまた人から見れば長寿だ。しかし飛竜の中では体が弱く、もう卵を産むことはできない。あと数年の命であろう。

 その予測まではアリスに話さず他の飛竜たちに言葉を投げかけ、頭撫でながら奥へと進んでいく。そこには母竜と二つの卵があった。どうやらこの母竜は双子を産んだようだ。この母竜と最も仲がいいフィアが最初に近づきスキンシップを取る。母竜もフィアに会えたことで気を良くし、優しく鳴いてフィアに頭を擦り付ける。

 

 

「フィアと仲がいいんですね」

 

「まぁな。というかほとんどの飛竜はフィアと仲がいいぞ」

 

「あー、天翔もそうですもんね」

 

「……そうだな。この竜は誰の竜でもないんだよ。体が弱いのもあるが、相棒がいなくて外に出られない。ここまで仲がいいのもそこがフィアと似てるからだろうな」

 

「それもあるんでしょうけど、あの様子からして二人の心が通じ合ってるのもありそうですね」

 

 

 目を細めてフィアに甘える飛竜。それを楽しそうに受け入れるフィア。誰がどう見ても間違いなく心を通わせていると思うだろう。実際にフィアはこの母竜の意思を汲み取ることができ、母竜もまたフィアの心情を察することができる。

 ひと通りじゃれ合うと母竜はフィアをある方向へと促した。そこには今日の目的があった。どうやらまだ孵化していないようだった。フィアが母竜に話を通すことでレオンハルトとアリスも近づくことが許される。レオンハルトは嫌われているというわけではないが、子供の誕生はデリケートなものであるため遠慮していたのだ。

 

 

「これが……飛竜の卵」

 

「撫でてみる?」

 

「いいのですか?」

 

「この子が許してくれたらね」

 

「ある意味試験だな」

 

 

 アリスが後ろを振り返ると母竜がすでに頭を近づけていた。驚いたアリスはその場に固まり、母竜にされるがままになっていた。しばらくアリスの匂いを嗅いだあとジッと顔を見つめる。アリスも母竜を見つめ返した。最後にもう一度だけアリスに触れた母竜は、小さく鳴いた。

 

 

「どうやら認められたようね」

 

「そうなのですか?」

 

「えぇ。機嫌がいいもの」

 

「一安心だな。……どうやらこれから孵化するようだな」

 

 

 レオンハルトのその言葉にフィアとアリスはすぐさま卵に視線を戻した。レオンハルトは少し離れ母竜の側に立った。卵の殻は硬く、幼竜たちは懸命に壊そうと卵の中で暴れる。卵が揺れるためにそれは外から見ていても分かり、孵化を初めて見るアリスは小さな声で応援していた。

 

 

「割れるかしら」

 

「割れないこともあるのですか?」

 

「基本的にはないわよ。でもそういう子がいないわけじゃない」

 

「その場合は手伝うのですか?」

 

「そうね。でもそれは危険を伴うわ。外からの方が割りにくいし、力加減を間違えると飛竜を傷つけてしまうから」

 

「ま、自力で出てきてくれるのが一番ってわけだ」

 

 

 レオンハルトの言葉通り、飛竜が中から自力で出てくることが望ましい。それを誰よりも知っているのが母竜であり、だからこそ動かずに見守っているだけなのだ。期待と不安。その二つに挟まれたアリスの手をそっとフィアの手が包む。アリスは視線を卵から動かさなかったが、しっかりとフィアの手を握り返した。

 幼竜の奮戦を見守ること数分。1頭だけ先に卵からでることに成功した。可愛らしく欠伸をしてから周りを見渡し、母竜を見つけると挨拶代わりに精一杯咆えた。成長した飛竜たちに比べると可愛いらしいのもので、母竜もそれに合わせて優しく咆え返す。

 1頭は無事に産まれた。その子は雄の飛竜だ。その子はもう一度周りを見渡し、隣の卵を見つける。きょうだいだと分かったのか、殻に近づいて応援し始めた。

 

 

「きょうだい愛ね」

 

「産まれてすぐに分かるんだから凄いよな」

 

「人はそうはいかないものね。……双子はそうでもないんだっけ?」

 

「さぁな」

 

 

 まだ殻を破れない飛竜を見守りつつ雑談を始めた二人をよそに、アリスは懸命に心の中で応援した。2頭とも無事に誕生してほしい。そう願っているからだ。レオンハルトとフィアもそれを願っているが、アリスは今回が初めてということもあり、二人よりも思い入れが強いのだ。先に出てきた幼竜や母竜も応援する。

 その思いが届いたのか、1頭目に遅れること10分。ようやく2頭目の飛竜も殻を破ることができた。今度は雌の飛竜だった。その飛竜をアリスはそっと撫でた。産まれてきてくれたことに感謝して。

 

 

「兄妹竜か。先に産まれてるからこっちのが兄だな」

 

「名前も決めないといけないわね」

 

「"滝刳(たきぐり)"」

 

「早いわね」

 

「考えてたから。そっちの子はアリスが決めたらいい」

 

「え……」

 

「その子をアリスの飛竜にしよう。この子は次の騎士の飛竜だな」

 

 

 言葉は通じていないはずだが、アリスに撫でられていた飛竜はアリスの手に体を擦り付け始めた。どうやら雌竜もアリスを気に入ったようだ。

 飛竜には逃げ出さないように拘束術式をかける。そうすると決められた主だけが飛竜に命令でき、飛竜は主に従う。フィアと母竜や天翔のような関係を例外とすると、それは全飛竜にかけられている。そのため滝刳と雌竜にもその術式はかけないといけない。ひとまず滝刳には逃げ出さないようにするための簡素的な術式を施し、雌竜にはアリスを主とするものをレオンハルトが施す。

 

 

「……この子たちはまだ産まれたばかりです」

 

「そうだな。だがこれはやらないといけない。そういう決まりだ」

 

「……そう、ですよね」

 

「嫌なら後で解除でもしたらいい。飛竜がいなくならずに自分の言うことを聞いてくれるって確証があるならな」

 

「天翔は外してるものね」

 

 

 実際に拘束術式を外しているのは天翔だけであり、それを知っているのもこの場にいる面々だけだ。そして天翔の拘束術式が外されているのも、レオンハルトが規則に縛られないことと、絆の強さが関係している。ベルクーリの飛竜である星咬も逃げ出さないだろうが、ベルクーリ自身が規則を破らないため術式がかけられているままなのだ。

 

 

「とりあえずこの竜たちはしばらく母竜に任せるぞ。世話はアリスがしたらいいし、そっちの子の名前も決めてやれよ」

 

「はい」

 

「それじゃあ上に戻りましょうか。ファナティオが待ってるわ」

 

「副騎士長殿がですか?」

 

「珍しいな。……あ」

 

「なにを企んだのかしらこの人は……。後から合流してね」

 

「見抜いてるだろ……。んじゃ後でな」

 

 

 先に出ていったレオンハルトを見送り、アリスは幼竜たちと触れ合い始めた。どうやら早速愛着が生まれたらしい。フィアと母竜はそれを温かく見守りつつ、挨拶を済ませる。それが終わるとフィアはアリスの肩をたたいて移動を促した。アリスは名残惜しそうに幼竜たちに挨拶を済ませ、フィアと共に上階へと移動した。

 

 

「副騎士長殿はどのような用件があるのでしょうか」

 

「固くならないでいいわよ。ただのお茶会だから」

 

「お茶会……ですか? 副騎士長殿と?」

 

「ふふふっ、不思議に思うのも仕方ないけど、あの人は堅物じゃないのよ?」

 

 

 フィアにそう言われてもアリスは信じられなかった。ファナティオとはすでに顔を合わせているが、甲冑と兜を常につけており、口調も固かったからだ。ある意味騎士団長とは対象的と言える。それがアリスが副騎士長であるファナティオに抱いているイメージだった。

 しかしフィアはファナティオの本来の姿を知っている。ファナティオがなぜ常に甲冑と兜をつけるようになったのかも、その前もフィアは知っていた。そしてファナティオもまたフィアと二人の時は本来の姿を見せていた。

 

 

「ここよ」

 

「副騎士長殿のお部屋……」

 

「じゃあないんだけどね。ファナティオの部屋でもよかったんだけど、今日は違うのよ」

 

「そうなのですか」

 

「ファナティオ入るわよ」

 

『どうぞ』

 

 

 許可を取ってから中に入ると、そこには華やかな空間が広がっていた。豊かな緑が部屋を囲い、さらに彩るように10数種類の花々が咲き誇っていた。そんな部屋の真ん中に机と椅子が用意されており、副騎士長のファナティオが座って待っていた。様になっているその光景にアリスはたじろいだが、フィアに手を引かれることで席につくことができた。

 

 

「せっかくいい場所なのに、その格好(甲冑)はいただけないわね」

 

「むっ。これは失礼した」

 

「あとその口調も」

 

「フィア、これはだな──」

 

「ふふっ、冗談よ。口調はあなたのやりたいようにしたらいいわ」

 

「フィアは相変わらずだな」

 

 

 どうやらフィアがファナティオを軽くからかうことは珍しくないらしい。アリスからすれば恐れ多いことではあるが、フィアにとっては友人との会話に過ぎない。ファナティオが甲冑を外し、二人の紅茶を注ぐ。一口飲んだところで早速女子トークが始まり、普段のファナティオのイメージと違うことにアリスは軽くショックを受けた。

 

 

「ところでフィア。今日はレオンハルトと一緒ではなかったのか?」

 

「どこかに消えたわ。もうそろそろ来るでしょうけど」

 

『なぜ私がこれに付き合わねばならんのだ!』

 

『いいだろ別に〜。暇してそうだったしよ』

 

『貴殿と一緒にするな!』

 

「ほらね」

 

「よく分かるものだ」

 

 

 遠慮なく扉を開けて入ってきたレオンハルトに連れて来られたのは、上位騎士の一人、デュソルバート・シンセシス・セブン。レオンハルトと対象的な性格であるが、付き合いの長さのせいかなんだかんだで付き合わされる羽目に合う人物だ。デュソルバートは面倒だと判断すればすぐに退席しようと考えていた。しかし、先に入室している面々に副騎士長がいるとなれば話は別だ。堅い人物であるデュソルバートは、上司である副騎士長より先にここを退室することが無礼だと受け止める。それ故に最後までレオンハルトに付き合うことが確定したのだ。

 

 

「デュソルバートを呼んだのね」

 

「まぁな。レンリでもよかったけど、あいつファナティオがいると固まって喋らなくなるからさ」

 

「私は何だと思われているのだ……」

 

「いやいや。ベルクーリ相手でもそうだから、単純に上司に弱いんだろ」

 

「それはそれでどうかと思うのだけど、そこは本人の問題ね」

 

 

 整合騎士の一人であるレンリの話になっているが、この場にも固まって一言も話せていない人物がいる。そう、アリスだ。アリスはデュソルバート程ではないにしても堅い人物だ。上位騎士であるデュソルバート、副騎士長のファナティオ、この二人がいるだけでもアリスのキャパシティを超えていたのだ。

 

 

「なぁに固まってんだよアリス」

 

「いや……あの……」

 

「そんなに緊張してたら楽しめないわよ?」

 

「……はい」

 

「だめだこりゃ。……あ、そうだアリス。飛竜の名前は決まったのか?」

 

「飛竜?」

 

 

 レオンハルトが飛竜の話を出したことでファナティオとデュソルバートも意識を向けた。飛竜が整合騎士の相棒であるだけあって、二人も興味を持つ話題なのだ。フィアが二人に今日誕生した飛竜の話をし、アリスの飛竜となる雌竜の名前をアリスに決めさせることも話した。

 

 

「ふむ、名付け親となるのか」

 

「はい」

 

「貴殿が育てる飛竜だ。貴殿の想いを込めてやるといい」

 

「お、デュソルバートが良い事言った」

 

「いちいちからかわないと気がすまないのか?」

 

「レオンハルトのそれは今に始まったことではないだろう。……アリス、そなたの子だと思って考えると名前も決めやすいだろう」

 

「私の、子。……分かりました。ありがとうございます」

 

「……子、ね

 

 

 『子』という単語に反応したフィアのことをレオンハルトは見逃さなかった。隣に座り合っていることもあり、誰にも気づかれないようにそっとフィアの手に己の手を重ねる。フィアもまたレオンハルトの手を握り返す。二人が急に黙ると怪しまれるため、レオンハルトが三人との会話を続けた。

 そうやって話に花を咲かせていると、とうとうアリスが飛竜の名前を決めることができた。四人の視線がアリスへと集まり、アリスは一度深呼吸してからその名前を公表した。

 

 

「あの子の名前は『雨縁(あまより)』にします」

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