自由な整合騎士   作:粗茶Returnees

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 短め


2章:変わる世界
1話


「連行した奴らは?」

 

「地下牢に入れてます」

 

「起きてるか?」

 

「……会うつもりですか?」

 

「まぁな」

 

「はぁ。意識は奪ってません」

 

「そうか。ならよかった」

 

 

 アリスが罪人を連行してきたのは午前11時頃。アリスはそれを報告してから部屋へと戻ったのだが、レオンハルトが相変わらずなことに呆れていた。まさか逃走の手を貸すとも思えないが、何を話すつもりなのか疑問を抱いていた。当然レオンハルトがそれを教えるわけもなく、早速部屋を出ていった。

 

 

「あの人は何を考えているのだか……」

 

「ふふっ、レオンのことを考えても仕方ないわよ」

 

「フィア。……そうなのですが、少しぐらい思考を理解したいです」

 

「あらあら。それならもっとレオンのことを知るしかないわね。それはこれからということで、ひとまずご飯にしましょうか」

 

「レオンはいいのですか?」

 

「地下で食べてるだろうからいいのよ」

 

「……本当にあの人は」

 

 

☆☆☆

 

 

 フィアの予想通りレオンハルトは地下で食事を取っていた。予めこうなると予想していたフィアは弁当箱を用意し、三人分(・・・)の昼食をそこに入れた。さらに取り分けられるように小皿まで用意するという周到さだ。これには長い付き合いのレオンハルトも笑うしかなかった。

 

 

「ほらお前たちも食えよ。空腹で死ぬなんて洒落にならんだろ」

 

 

 檻を挟んで向かい側に座る罪人二人にレオンハルトはそう投げかけた。さすがに三人分の食事を一人で平らげることもできず、そもそも量が三人分を超えているのだ。フィアが育ち盛りの二人のことも考えて多めに作ったということだろう。敵であるはずの男から与えられる食事に当然警戒するが、何も仕掛けられていないことは既に目の前で実証済みだ。そして香ばしい匂いが漂う。これに耐えられなかったのは黒髪の少年だ。

 

 

「……!! うまっ! ユージオこれ滅茶苦茶うめぇぞ!!」

 

「ちょっキリト!?」

 

「ほら相棒が食ったんだ。お前も食ったらどうだ?」

 

「この量だ。ユージオも食わねぇと無くならねぇし、こんな美味いもん作ってくれた人に失礼だぞ」

 

「……わかったよ」

 

 

 黒髪の少年ことキリトに手渡されたものを一口齧った途端、ユージオは目を見開いた。今まで食べた中で最も美味しかったからだ。胃袋を掴まれたユージオもキリト同様に食事に積極的にありついた。二人が食事を取ったことに満足したレオンハルトは食事のペースを上げた。二人が予想以上に早く食べるからだ。

 

 

「ごっそさん!」

 

「ごちそうさまでした。これはあなたが?」

 

「んなわけねぇだろ。俺の相方が作ってくれたんだよ。ま、礼は後で代わりに伝えといてやる」

 

「……しかしいいのか? あんたは俺達の敵だろ?」

 

「いいんだよ。空腹で死なれても仕方ねぇしな」

 

 

 キリトもユージオも目の前にいる騎士の考えが全く読めなかった。そもそも深い意味がないから当然なのだが、敵陣の真っ只中にいる二人は一つ一つの行動に意味があるのではと疑ってしまうのだ。食事のために広げた風呂敷や小皿をしまったレオンハルト苦笑した。ユージオにとって怨敵である人物が目の前にいるというのに、当の本人が気づいていないのだから。

 

 

「あんたは整合騎士なんだよな?」

 

「おう。ユージオが気づいてないことに驚きだが」

 

「ユージオ? 会ったことがあるのか?」

 

「……そんなはずは……」

 

「あるだろう。思い出せよ8年前を(・・・・)

 

「8年前って……まさか……まさか……!」

 

「思い出したようで何よりだ。改めて自己紹介しようか。レオンハルト・シンセシス・スリー、お前の大切な幼馴染であるアリス・ツーベルクを連行した男だ」

 

 

 ユージオは今の状況を恨んだ。枷を嵌められ、そもそも愛剣が奪われているこの状況を。アリスを連行したのは正式にはデュソルバートだ。しかしレオンハルトも同行していた。当時レオンハルトに煽られたこともあり、ユージオはアリスの救出を強く望んだ。ここに至るまでの苦しみも超えてこられた。歯を食いしばるしかない。

 親友のそんな状態を見たキリトも察することができた。目の前の人物が親友にとってどういう存在か、そして間違いなく最大の壁となる人物であるということも。脱走を考えているキリトだが、それすらレオンハルトに見抜かれている気がして仕方なかった。たとえ脱走に成功しても整合騎士たちが待ち受けるだろうと気づいたのだ。

 

 

「レオンハルト、ますますあんたの言動がわかんなくなったよ」

 

「お?」

 

「あんたなら俺の考えも見透かしてるんだろうさ。ならなぜ俺達に食事を与えた?」

 

「キリト……?」

 

「ユージオを煽ってるのもそうだ。まるでそれを望んでる(・・・・・・・)ように思えるぜ?」

 

「くくっ。それは残念ながら外れだな。……知ってるか? 人界と暗黒界を阻む東の大門の残りの天命を」

 

「大門の……天命?」

 

「……まさか」

 

「一年も持たないさ。この状況で混乱を望んでどうする。そんなことにカマかけてる余裕はない。整合騎士の絶対数は少ない。だが向こうは年中戦ってるような奴らばかりだ。それなりに戦える奴が圧倒数存在する。真っ当に戦ったらまぁ勝てない。だからユージオに教えてやったのも手向けってだけだ」

 

 

 レオンハルトが語ったことは事実だ。現状でダークテリトリー軍と戦っても勝ち目などない。なぜなら大将首を取ったら終わりとならないからだ。衝撃の事実を聞いたことでユージオの思考は麻痺してしまった。突然知らされた人界の終わり、たとえアリスを助けたところでさらなる壁が立ちはだかるのだから。

 しかしキリトはまだなんとか思考することができた。この世界の住人ではないことが幸いしたのだ。レオンハルトが語っていることは事実だ。それはキリトも信じられる。ユージオに会いに来たのも本人が語ったとおりなのだろう。だが、キリトは他にも理由があるのではないかと疑っているのだ。

 

 

「レオンハルト、あんたの本当の目的はなんだ」

 

「目的、ね。気まぐれってのが理由の大半なんだが、……まぁ罪人がどんなのか見てみたかったっていう興味だな」

 

「興味……?」

 

「ま、そのへんは教えても理解できないだろうから教えねぇよ。じゃあな。次会うときはお前たちがこっち側(・・・・)に立ってるだろうよ」

 

「待て! ……ユージオ? おいユージオ! ……なに……した

 

「意識奪っただけだ。つってももう聞こえてないか」

 

 

 意識を失った二人を見下ろし、レオンハルトはその場を後にした。話してみてユージオが心優しい少年だということがレオンハルトもわかった。そして、このような少年が禁忌目録を破ることができると思えなかった。当時の状況からすれば破ってもおかしくはないが、8年前のままであればそれでも無理だったであろう。だが実際には禁忌目録を破った。それだけ影響を与えたのは隣りにいるキリトだろう。だからこそレオンハルトにとってそれだけ影響を与えられるキリトが興味深かったのだ。

 

 

「ただいま〜」

 

「おかえりなさい」

 

「弁当ありがとう。美味かったし、好評だったぞ」

 

「それならよかった♪」

 

「……あの二人にも与えたのですか?」

 

「そうだな」

 

 

 再度アリスはレオンハルトに呆れた。まさか興味本位で罪人に会いに行くだけでなく、食事まで与えるとは思っていなかったからだ。そして驚くべきことは、フィアがそれを見越して三人分の料理を作っていたということ。この二人の絆の強さ、阿吽の呼吸は他の誰も追い越せないものだ。

 

 

「さてさて、アリスはあの二人をどう思った?」

 

「どう、とは?」

 

「感じたままを言ってくれたらいい」

 

「そうですね……。禁忌目録を破るような人物には思えなかった、というのが本音ですね。それと、あの二人は脱走(・・)を企てると思います」

 

「同意見だな。どうやって檻を破るかは知らんが」

 

「なので一晩だけエルドリエに監視をさせようと思っています」

 

「そうか。んじゃ俺はエルドリエのとこにでも行ってくるかな」

 

 

 帰ってきてすぐさま出ていこうとするレオンハルトの首元をフィアががっしりと掴んだ。恐る恐る振り返ると笑顔でレオンハルトを見つめるフィアがおり、アリスは己の個室へと逃げ込んだ。フィアの説教が始まると悟ったからだ。

 

 

「なぜそうやって出ていこうとするのかしら?」

 

「いや、まぁ……エルドリエの様子を見ときたいし」

 

「それは今すぐ行く必要がないわよね? どうせ意識を奪って帰ってきたのでしょう? 脱走は夜中になるはずよ。エルドリエに会いに行くのなら晩御飯の後、それまではここにいること。いいわね?」

 

「……はい」

 

「そもそもあなたは──」

 

 

 アリスの予想通りフィアの説教が始まった。矛盾点無く正論をぶつけていくフィアにレオンハルトは何も言い返すこともできなかった。そもそも言い返そうとすら本人は考えていないのだが、本心を隠さずにぶつけてくるフィアにレオンハルトはただ謝るしかない。守りたい存在を不安にさせてしまっていると自覚しているから。

 その様子を扉を少し開けて伺っているアリスは、ここのヒエラルキーを改めて理解するのだった。


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