自由な整合騎士   作:粗茶Returnees

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ネット小説版のしか知らないですし、うろ覚えなので、書籍版で勉強しつつ頑張っていきます。
まぁ全体の前半弱は、オリジナル展開になるんですけどね。


1話

 

 レオンハルトとデュソルバートは、顔を合わせることが少ないため、自然と会話も少なくなる…なんてことにはならない。暇を嫌うレオンハルトが、無言の時間を耐え続けられるわけがないからだ。…一人の時は別として、だが。

 

 

「そういやデュソルバート、その子の名前何?」

 

「知る必要があるか?」

 

「なんとなくだが? 問題あるのか?」

 

「……我は知らん」

 

「そっか。それで金髪少女。名前は?」

 

「アリス・ツーベルクです」

 

「アリスね。なるほど…っと!」

 

「!? レオンハルト! なんのつもりだ!」

 

 

 デュソルバートが声を荒げたのも無理からぬことだ。なぜなら、レオンハルトがアリスを拘束している鎖を切断したからである。アリスは突如空中に身を投げ出させられることとなったのだが、そのことと拘束を解かれたことに混乱し目を白黒させていた。

 レオンハルトは元々デュソルバートより少し低い位置を飛竜に飛ばさせていた。だから飛竜の足に繋がれているアリスの鎖を簡単に斬ることができたのだ。そして落下し始めてすぐのアリスを受け止めることができ、アリスを天翔(てんか)の鞍に座らせた。

 

 

「怪我はないか?おーい……おいアリス!」

 

「はっ!…はい!」

 

「大丈夫か?」

 

「えと…はい。怪我はないです。……あの、これはいったい…」

 

「レオンハルト!!」

 

「そうカッカするなよデュソルバート。別に逃がすわけじゃないんだしよ」

 

 

 デュソルバートは怒りを顕にし、レオンハルトを射殺さんとばかりに睨んでいた。といってもデュソルバートは仮面を被っているため、眼光が鋭くなっているのがわかるといった具合だが。それに対してレオンハルトは、呆れたように肩をすかせていた。

 デュソルバートは真面目な性格をしており、堅物と言われるような人物だ。それに対してレオンハルトは、明らかに正反対な性格でたとえ団長のベルクーリからの司令であっても気が向かなければ断わる男だ。本来上位の者、団長であるベルクーリの指示を無視することなどできないのだが、ベルクーリ自身が命令することがほとんどないのだ。あくまで選択の意思を相手に与えるため、レオンハルトも断ることができるのだ。

 

 

「ならば何故罪人の鎖を解いた!」

 

「ん?ずっと鎖に繋がれてたらしんどいだろ」

 

「勝手なことを!今すぐ繋ぎ直せ。さもなくば」

 

 

 神器である《熾焔弓(しえんきゅう)》にデュソルバートが手をかけ、レオンハルトに狙いを定める。レオンハルトに狙いを定めているとはいえ、すぐ近くにいるアリスからすれば自分も狙われているも同然だ。

 しかし、そんな状況であってもレオンハルトは余裕を崩さなかった。アリスの前に立つように動き、不敵な笑みを返す。

 

 

この位置関係(・・・・・・)で始める気か?」

 

「!!…貴殿は初めから(・・・・)狙っていたのか」

 

「鎖で拘束するのも分からなくはないが、整合騎士なら取り逃がすことなんてないしな。ま、納得できないってんならおっ始めてもいいんだぜ?結果は見えてるがな」

 

「くっ…。……好きにしろ」

 

「どうも」

 

「ふんっ、貴殿がそこにいなければ話は別だったがな」

 

 

 神器を納めたデュソルバートは手綱を握り直し口を閉じた。手段はなんであれ任務は遂行する。レオンハルトがそういう騎士だと分かっているため、これ以上のやり取りは無駄だと判断したのだ。

 レオンハルトも天翔の背中に座り直し、手綱を握った。整合騎士同士が衝突するかもしれない、そんな空気に当てられていたアリスは、疲弊したように深く息を吐いた。

 

 

「悪いなアリス。しんどかったろ?」

 

「いえ…あの、本当によかったんですか?」

 

「なにが?」

 

「私の拘束を解いたことです」

 

「いいんだよ。逃げれるとも思ってないだろ?」

 

「それは……そうですけど」

 

「黒髪のがキリトで、薄茶色のがユージオだったな。どうやら3人で北の洞窟に行って、その時にダークテリトリーに指先が入ったみたいだが、その辺の話聞いてもいいか?」

 

「…はい」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「え?」

 

「話しやすい口調でいいぞ。砕けた言い方で」

 

「ええ!?」

 

 

 アリスは自分の耳を疑った。整合騎士というのは、天界から召喚された存在であり、人界を守る守護者だからだ。たとえ大貴族であったとしても会うことは無いに等しく、ましてやこうやって言葉を交わすこと自体、自分の身分からしても烏滸がましいことなのだ。

 

 

「そ、それは恐れ多いですし…、そもそも拘束されていないのも…」

 

「え、アリスって鎖で縛られるの好きなの?」

 

「そんなことないですよ!?」

 

「あー驚いた。とりあえず、俺が良いって言ってんだからいいんだよ。あ、他の奴らにはやめとけよ」

 

「ですから!そんな口調では話しません!」

 

「えぇー」

 

「…あなたはいったいなんなんですか」

 

「んー、1番自由な騎士、かな」

 

「貴殿の場合、自分勝手な騎士という方が適切であろう」

 

「はっはっは!たしかになー!」

 

「…否定せぬか」

 

「自覚はあるからな!」

 

 

 自分の背後にいる騎士レオンハルトの存在のせいで、アリスは自分の中にあった整合騎士のイメージが崩れかけていた。崩れずにすんでいるのは、隣のデュソルバートの存在のおかげだ。

 二人の会話から、どうやらレオンハルトだけがおかしいのだと分かったアリスは、二人の会話に耳を傾けつつ、今になって初めて周りの景色を認識した。鎖に縛られていた時は、禁忌を破ったこと、二人とも生まれ育った村とも別れたこと、そのショックがあったために上空からの景色を見る余裕なぞなかったのだ。

 

 

すごい

 

「気に入ったか?」

 

「え……あ、申し訳ありません!罪人なのに景色を楽しむなぞ…」

 

「気にすんなって!飛竜に乗るなんて体験、普通はできないんだからよ。1日はかかることだし、楽しんどけ。な、デュソルバート」

 

「…好きにするがいい。騎士レオンハルトが庇護する以上我からは何も言えんのでな」

 

「庇護ってつもりもねぇんだが…」

 

「どうだか…。あの異端者(・・・・・)を守っているではないか」

 

「…デュソルバート。言葉には気をつけろよ」

 

「ひっ!」

 

「…失礼した。閣下が認めている以上彼女もまた同士であったな」

 

「分かればいい」

 

 

 アリスには、その女性のことが誰だか分からないが、レオンハルトにとってその女性のことは地雷だとわかった。睨まれようが、弓を向けられようが、飄々としていたレオンハルトが、一瞬で怒りを顕にしたからだ。感情が消えた冷たく低い声に、纏っていた雰囲気も一変するほどだ。それに連動したかのように、飛竜の天翔まで吼えていた。

 その変化に怯えたアリスだったが、それに気づいたレオンハルトは謝りつつアリスの頭を撫でた。

 

 

「…わりぃな。怖がらせた」

 

「…い…いえ」

 

「で、えーっとなんだっけ?」

 

「その者の友人達との話であろう…」

 

「あぁそうだったな。デュソルバートも興味あんのか?」

 

「聞こえていただけだ」

 

「ま、そうだわな。この距離なら聞こえるのも当前か」

 

 

 その後、レオンハルトはアリスから今回の一件の一部始終を聞き出した。話をしているうちにアリスもレオンハルトにある程度心を開き、口調を変えることはなかったが、打ち解けたように話すようになった。公理教会があるセントラルカセドラルに着くまでの間、レオンハルトはルーリッド村のことを聞き、アリスも村を自慢するように話すのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

「あ〜着いたついた」

 

「では、最高司祭様へ送り届けるぞ」

 

「そうだな。…アリス、もしかして降りれないのか?」

 

「なっ!お、降りられます!」

 

「ほんとか〜?手伝ってやったほうがよさそうに見えるんだがな〜」

 

「なぜ煽る……」

 

「面白そうだから」

 

「す、少しお時間をいただきます。……えっと…こうで……きゃっ!」

 

「よっと。やっぱり駄目だったな?」

 

「い、今のは……そう!足が滑っただけです!」

 

「そうしといてやるよ」

 

「本当ですからね!」

 

「はいはい」

 

 

 結局飛竜からちゃんと降りられなかった上に、レオンハルトにお姫様抱っこされているため、アリスは顔を真っ赤にしながらも抗議していた。レオンハルトはそれを軽く流し、デュソルバートはその様子に呆れて何も言わずに足を進めるのだった。

 

 

「ほほう、罪人をつれ、ぴぎゃっ!」

 

「元老長殿!?」

 

「あ…相変わらず、酷い仕打ちナノですよぅ」

 

「あん?いたのか?気づかなかった」

 

「なっ!あからさまな嘘をぉ…!……しかも!なぜ罪人を拘束して「うるせぇ」ぶにゃっ!」

 

「お前と話してても時間の無駄なんだよ」

 

「あ、あの、よろしいんですか?」

 

「気にするな。いつもの戯れだ」

 

「え…」

 

 

 レオンハルトは、「戯れではナイですよぅ!」なんて叫んでるチュデルキンを無視し、アリスの手を引いてさっさとその場を離れる。レオンハルトとチュデルキンは、酒を飲む時ならわりと仲良く喋るのだが、普段は絡みが鬱陶しいという理由で先程のようなことが度々起きるのだ。そのことはデュソルバートも知らなかったことであり、アリス同様驚いていた。なんせ、元老長を出会い頭に蹴飛ばし、踏みつけもしたのだから。当の実行犯は何事もなかったかのように振る舞っているが…。

 罪人となってセントラルカセドラルに連行される者は少ない。しかし、長い時を生きるレオンハルトからすれば、経験済みのことでありどこへ連れていけばいいのかも把握している。迷い無く先頭を歩きつつアリスの手を引き、その後ろをデュソルバートが付いていく。ある部屋にたどり着くとすぐにレオンハルトは扉をあけて中に入った。そこには、一人の女性がいた。

 

 

「よう、アドミニストレータ」

 

「レオンハルト!最高司祭様に無礼であろう!」

 

「構わないわ。今に始まったことではないもの」

 

「だってよ」

 

「…はぁ、貴殿は礼儀を学ぶべきだ」

 

「それは同感ね。さて、すぐに済ませましょうか。まずその罪人の子だけど」

 

「もう少し神聖術を学ばせる、だろ?期間は2年ってとこか」

 

「相変わらずね。分かってるならいいわ」

 

「俺が預かるからな」

 

「レオンハルト?何を考えている」

 

「別に。大した理由もないさ。…そうだな、強いて言うなら暇つぶし」

 

「いいでしょう。…妙な気は起こさないでちょうだいね?」

 

「わかってる。んじゃ、俺とアリスはこれで失礼するぞ。デュソルバートにも用があるんだろ?」

 

「ええ。本来ならあなたにも残ってもらわないと困るのだけどね」

 

「ははっ、それは契約(・・)に反するぞ?」

 

「わかってるわよ」

 

「さてと、またな(さよなら)デュソルバート」

(禁忌を犯した罪人を連れてきた以上デュソルバートは、ここの守護になる代わりに記憶が消える。ま、性根は変わんないだろうから、またつるむとしよう)

 

 

 レオンハルトは何が何やら、というふうに困惑しているアリスを連れて早々と部屋を出た。今から行われることは、レオンハルトからすれば度し難いことなのだが、最高司祭であるアドミニストレータと個別に行った取引の関係上黙認するしかないのだ。

 

 

「…?レオンハルト様?」

 

「…なんでもない。アリス、これからは一緒に生活することになる。というかほぼずっと行動を共にする。そうしないと他の騎士が煩いからな」

 

「わかりました。気を使ってもらわなくてもいいんですよ?本来のやり方よりも好待遇にしてもらえていることは、わかっていますから」

 

「聡い子だな」

 

「ありがとうございます」

 

 

 アリスを連れて部屋へと戻り、フィアの出迎えを受けた二人だが、レオンハルトの「子供ができた」という冗談を真に受けたフィアが、聞いた瞬間にレオンハルトに容赦なく神聖術を放つのだった。ちなみに、その時アリスはベルクーリに守ってもらったおかげで巻き添えをくらうことはなかった。




チュデルキンの話し方ってこんなんでしたっけ? ꒪⌓꒪)
さて、今回はわりとすぐにできましたが、次回はいつになるのやら……。

そして、1話目でさっそく評価いただけて嬉しいです!評価される事自体が喜びです!ありがとうございます!!

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