だって私キリトよりエギル派なので。あの渋いオッチャン大好き。絶対奥様一筋のお方だよ。渋い人って憧れる。だからベルクーリも好き。
95階に辿り着いた二人を待ち受けているのは、最強の騎士に並び称される男。甲冑をつけていた他の整合騎士たちとは違い、キリトやユージオのようにただの服を着ている。自信の現れか性格なのか。
カーディナルが名指しで警戒しろと言った人物。
アリスの話を聞く限りでは警戒するような人格ではない人物。
そんなレオンハルトを前に、キリトは聞きたいことがあった。しかし、今話を切り出すべきは自分ではないと分かっている。隣にいるアリスが話を切り出すべきなのだ。
アリスは一歩前に歩み出て二人と目を合わせた。封印を壊したためにその右目は眼帯に覆われているが、それでも澄んだ瞳は二人を捉えている。
「レオン……あなたには聞きたいことがたくさんあります」
「だろうな。キリトから聞いたことでいろいろと引っかかるものがあるんだろ? 好きなだけ聞いてくれていい。だがその前に言いたいことがあるんだが、いいか?」
「……はい」
「無事でいてくれてよかった」
「!! ……ご心配をおかけしました」
レオンハルトとフィアは心底安心したようで、いつもの柔らかい表情になった。それだけ大切に思われていると分かると、アリスも調子が狂ってしまう。これから対峙しようとしている相手から言われたのだから。しかし、心配をかけたという事実は変わらない。そのことをアリスも素直に謝った。
今度はフィアがアリスの目のことを指摘した。やはりフィアもレオンハルトも封印のことは知っていたのだ。よく突破できたと褒められ、状況が状況であるのだがアリスは褒められたことを照れくさそうに笑った。
これがこの三人の形なのだろうとキリトは思い、たしかに家族の形だと思ったが、本題に切り出すべきではないかと思っていた。この空気を壊していいのかと躊躇うキリトに気づいたレオンハルトは、自らアリスに問うことで話を進める。それを受けてアリスも話を戻した。
「……まずはガーゴイルについてなのですが」
「知ってる。作ったのはアドミニストレータだし、普段は動くこともないから放置してた」
「では整合騎士が元々人間だということは?」
「もちろん知ってる。俺は他の騎士と違って整合騎士になってから一度も記憶を失ってないからな」
「……では、私をシンセサイズしたのは……レオン……なのですか? 私から記憶を奪って……騎士に仕立て上げたのはあなたなのですか!?」
アリスも薄々この質問の答えについては感づいていた。しかし、否定してほしかった。自分を鍛え上げ、ずっと側で守ってくれて、今まで育ててくれた目の前の男が、自分の記憶を奪った人物ではないと。そんなことをする人ではないのだと。
しかし、その思いは叶わなかった。
「ああそうだ」
レオンハルトが認めたからだ。
「なぜ……ですか……なぜレオンが! あなたはそんなことをする人ではないはずです!」
アリスはそのことが受け入れられなかった。ずっと一緒だった人物が自分の大切な記憶を奪ったなど、とても信じられなかった。レオンハルトという人物がどういう人なのかしっているから。
だがレオンハルトはアリスを突き放すように言ってのけた。
──「必要なことだから」と。
禁忌目録を犯した者、四帝国統一大会を優勝した者。その者たちを連行し、シンセサイズして騎士とする。そのことに例外など存在しないのだ。アリスの側に居続けたのも、アリスのズバ抜けた才能と潜在能力を見抜いたからなのだと言い切った。
尊敬していた師に裏切られたような気持ちになったアリスは、ショックでその場に崩れ落ちた。いつもならフィアが駆けつけてくれる。しかしフィアは一歩も動かなかった。そのこともある種アリスへの追い打ちとなる。
そんなアリスに代わって前に出たのはキリトだ。キリトは今のやり取りについて追求したいところを抑えている。他所の家庭事情に首を突っ込むべきではなく、そもそも詳しいことを知らないのだから。
「レオンハルト、あんたはいったい何を考えてるんだ?」
「レオンでいいぞ。キリトって呼ぶから」
「……調子狂うな。……わかった、レオンって呼ばせてもらうよ」
「うん。で、何を考えているかだっけ? 究極的には
「考えて……いない?」
レオンハルトのその発言は、キリトだけでなく落ち込んでいるアリスにとっても信じられないものだった。少なくとも今回の件に関しては裏で何かしら動いているからだ。
そうだというのに、レオンハルトは何も考えていないと言い切った。そしてそれはキリトを混乱させるための嘘ではなく本心だった。それが分かるからこそますますレオンハルトのことが分からなくなる。
「質問はそれだけか? ……あーそうだ。相棒のことを知りたかったら下に行くといい。90階に行けば分かるぞ」
「……とりあえず今は下に行かせてもらうよ。続きはその後だ」
「好きにしたらいい。降りる奴を止めたりはしないから」
「アリスも行ってきなさい。ベルクーリがいるから」
「小父さまが……? 分かりました……」
まだ完全には立ち直れていないアリスだが、歩くことはできる。キリトと共に階段を降りていき、90階に着く。大浴場となっているこの場でなぜユージオのことが分かるのか、その疑問は扉を開ければすぐに分かった。
湯気が溢れ出て来るはずが、中から流れ出てきたのは正反対の冷気だ。息が白くなるほど温度が下がっており、冷気のその中心地に行くとフィアが言ったとおりベルクーリがいた。
──石化した状態で
浴槽であったこの場所は氷で覆われており、その氷がユージオの剣によるものだとキリトは瞬時に理解した。しかし石化するような能力は備わっていない。つまりベルクーリを石化させたのは他の人物によるものである。
「……元老長ですね。こういう神聖術を特別に扱えることは耳にしてます。……しかし、小父さまがこのような仕打ちを受ける謂れはありません! こんなことなど……!」
アリスの瞳から零れ落ちた涙がベルクーリにあたる。その事自体に意味はないはずだが、ベルクーリは一時的に力技で一部の石化を解除した。
その口から放たれた言葉の中には、右目のことも含まれていた。ベルクーリも知っていたのだ。知っていてもベルクーリには突破できなかった。また、ユージオのことも語られた。ベルクーリを破ったユージオが元老長に連行され、ベルクーリは石化されたのだと。
「……嬢ちゃん。レオンと対立するのは辛いだろう。アイツならこのタイミングでそっち側になってもおかしくないって思うだろう。……だがな、アイツにも譲れないものがあるんだ。細けーことは最高司祭様と当人しか知らないが、アイツはある意味縛られてる。……超えていけ。誰よりも先を見据えていたところで、誰よりも道を閉ざされているレオンに光を見せてやれ。嬢ちゃんならできる」
「! ……はい。必ず!」
「ボウズ。……はっ、ヒョロいくせに良い目をしてやがるな。……嬢ちゃんのことを頼む」
「ああ」
それを最後にベルクーリはまた石化されていく。それをアリスもキリトも止めることができず、決意を新たにしてから大浴場を後にした。
詳しいことは何もわからない。だがレオンハルトは自由に見えて誰よりも縛られているということは分かった。いったいアドミニストレータとの間に何があったのか。それを知る術はアドミニストレータかレオンハルトに聞くしかない。だが簡単にできることではない。
「戻ってきたか。……ベルクーリに励まされたようだな、もう迷いはないか? アリス」
「……はい。ですがやはり聞きたいことが残ってます」
「俺とアドミニストレータの間で何があったかは教えてやんねぇぞ。まぁ俺に勝てば話は別だが」
「分かりやすいですね。……ですが、それとは別で一つだけ」
「うん?」
「レオンは私のことをどう思っているのですか? 本当の気持ちを教えてください」
「うんうん……んん?? え、何この展開」
「あらあら、アリスも春が来たのかしら」
アリスは二人がなんでそんなことを言ってるのか分からなかったが、自分の発言を思い返して気づいた。これではまるでレオンハルトに気があると言っているようなものだと。
周りが早芸かと思うぐらい一瞬で顔を真っ赤にしたアリスは慌てて発言の訂正をするが、二人からのからかいが止まることはなかった。どうにかできないかとキリトに視線を向けるも、キリトは気まずそうに視線を逸した。
「まぁアリスが聞きたいことの真意は分かるよ。……今のアリスが信じてくれるかは知らないが、アリスのことは大切な家族だと思ってる。できれば手を貸してあげたいぐらいだ。……けど俺はそんなことできないからさ。だから俺を越えていけよ。示してみせろ」
──この先を切り開けていけることを
──そして、もう独り立ちできるってことを
「はい!」
神器《月影剣》をレオンハルトは構える。それに続いてキリトも抜刀するが、アリスは剣を抜かなかった。それは戦わないということではない。アリスがレオンハルトの相手をしないということだ。
アリスが戦おうとしているのは、もう一人の師であるフィアだ。この場を借りて神聖術でフィアと戦う。それがアリスの考えだった。
その意思を汲み取ったフィアは、レオンハルトから離れてお互いの戦闘に影響が出ないようにする。キリト対レオンハルト、アリス対フィア。一対一という構図が出来上がった。
「んじゃまぁ見させてもらおうか。ファナティオさえ超えてきたその実力を」
「挑ませてもらうぜ。そしてあんたが知ってることを全て話してもらう!」
床を蹴り上げ、肉薄して剣を振るう。レオンハルトが上段から振り下ろす剣を、キリトは剣を横薙ぎにして防ぐ。キリトは左から右へと振った剣をすぐさま折り返す。それをレオンハルトは剣を左手に持って防ぎ、間髪入れずにキリトを蹴り飛ばす。キリトが咄嗟に後方に飛んだことでダメージが減るも、追撃するために距離を詰めて刺突を放つ。キリトはそれを剣で防ぐも体勢が整いきっていなかったために再度後方へと飛ばされる。
「なんだしょぼいな。相棒がいないとこの程度なのか?」
「いっつつっ……。言ってろ!」
悠然と歩いて距離を縮めるレオンハルトに対し、キリトは剣を構える。キリトの目は死ぬどころか活力を増し、強者に挑むことをたのしんでいるようだった。そんなキリトの黒い剣が淡いライトエフェクトに包まれ始める。ソードスキルを使う印だ。
初撃の出だしとなる体勢に入れば発動するのがソードスキルであり、発動すれば技が終わるまで自動で体が動くようになっている。しかしそれに頼っているだけでなく、そこに自分の意思を加え、自ら動くことでさらなる威力を発揮する。何度もソードスキルを使ってきたキリトにはそれが馴染みきっている。
キリトが放ったのは、片手剣用スキルの一つ"ヴォーパルストライク"。爆発的な飛び出しで瞬時に敵に接近し、勢いのままに斬りかかるという単純だが強力な突撃技だ。シンプルだが、だからこそ威力が大きくキリトがよく使うスキルの一つだ。
いきなりそんな速度で突っ込んでくるとはレオンハルトも思っていなかったのか、明らかに防御が間に合わない。
(よし!)
奇襲は成功した。
そう確信したキリトだったが、キリトの剣はレオンハルトに届かなかった。目にも止まらなぬ速度で防御を間に合わせたのではない。横で戦っているフィアから援護が入ったわけでもない。
突如地面から現れた枝がキリトの剣と体に絡みつき、完全にキリトの勢いを止めたのだ。ツタのようなその見た目からは想像もできない力強さ。キリトは一切の身動きを取れなくなってしまった。
「お前がそうやって切り札を使ってくるのなら俺もそれに応えるさ」
「これがレオンの《完全武装支配術》……!」
「便利なもんだぜ? さてさて、様子見はもういいだろう。だいたい分かったし。んじゃま、死ぬなよ?」
ちゃんと描けていなかったので、この場で補足説明しますと
レオンハルトの神器は植物が元ですが、キリトの剣のように元が木(アレは大樹だけど)というわけではありません。薔薇とかタンポポとかチューリップとか、そっち系の植物です。
今までちゃんと描けておらず、申し訳ありません!