自由な整合騎士   作:粗茶Returnees

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7話

『わぉ、すげー暴れてんな』

 

『あぁ……うぅぁ……』

 

『会話は……今の精神状態じゃ無理か』

 

『ああぁぁ!』

 

『あぶね! ……なんだ。そういうことか(・・・・・・・)。大丈夫だよ。敵対したくて来たわけじゃないから』

 

『うぅぅ!』

 

『だから、こんなのやめようぜ(泣かなくていいんだ)

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 神聖術はリソースを使うことで発動することができる。そして基本的に使用されるのは空間リソースだ。既にアリスとの戦闘で空間リソースは殆ど残っていない。

 しかしフィアは今も強力な神聖術を放ち続けている。その仕組みを理解しているのはフィア本人とレオンハルトとアドミニストレータだけだ。

 その仕組みを知っているからこそレオンハルトは急いでいた。焦りは失敗を誘発する。あくまで冷静に、しかし時間をかけないように。

 

 

「前より暴れちゃってるなー」

 

「だ……から……言ったで、しょ……! ……むりなら……わたしを──」

 

「馬鹿を言うな! なんでこう諦めるのが早いんだよ……。俺が助けるって言ったら助けるんだよ」

 

 

 時間をかけられない。

 そうだというのにレオンハルトはフィアになかなか近づくことができないでいた。元より神聖術でフィアに敵わないのだ。嵐の如く放たれ続ける数々の神聖術。先程の炎だけでなく、雷や暴風も飛び出してきており、レオンハルトはそれを防ぐだけで手一杯なのだ。

 神器の力を使ったところで焼け石に水。下手に使えばイタズラに天命を減らすだけとなってしまう。それ故にレオンハルトが狙うのは一瞬の隙だ。過去にフィアは止めた時のことをレオンハルトは鮮明に覚えている。

 

 この神聖術の嵐は、一瞬だけ隙が生まれるのだ。隙と言ってもその力が衰えるわけではない。一度だけ真っ直ぐと放たれ続けるこの神聖術が、対象を挟み打ちにするために左右から迫るようになるのだ。その際に生まれるフィアまでの一直線の道。それをレオンハルトは狙っている。

 本当に一度だけかどうかはレオンハルトも分からない。前回はその一度目でフィアに接近し、暴走を抑え込むことに成功したからだ。その瞬間を逃してもまたチャンスが来るかが分からない以上その一度切りと考えるしかない。

 

 

「もう……止めようとしなくていい……から! 前みたいな……ことに……ならないからぁ! ……だ、から……」

 

「それはやんないって言ってんだろ! チャンスが無いなら作るまでの話だ!」

 

「無理……よ。……近づききる……前に……レオンの天命が……尽きちゃう! だから……私を殺し、て!」 

 

「さっきから駄々っ子みたいに同じこと言いやがって……! 駄々をこねるなこのわからず屋がぁ!!」

 

 

 レオンハルトのその怒声に反応したのか、それともフィアの悲壮感に反応したのか。神聖術の勢いがさらに増してレオンハルトに放たれていく。

 レオンハルトが狙っていた隙が生まれるのか。生まれたら狙い通りに動いてフィアの暴走を抑え込むことができる。しかし、フィアが言ったことが本当なのであれば、レオンハルトの狙いは潰される。

 

 見極めなければならない。威力が増したがためにレオンハルトの力では完全に防ぐことができなくなってきている。天命が少しずつ削られ始めているため、タイムリミットがさらに早くなった。

 

 

(だったら最終手段は一つだけだな)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 レオンハルトとフィアの攻防の間にアリスとキリトはとうとう最上階まで至った。途中、逃亡する元老長チュデルキンを追いかけた先で、キリトの親友にして相棒であったユージオが整合騎士として立ち塞がった。

 

 短時間で《シンセサイズの秘儀》が終わったことに二人とも動揺したが、それはアドミニストレータが術式を組み直したこと、ユージオの心につけこんだことが可能としたのだ。

 しかし、まだ完成したものとは言えない術式だったからか、キリトとの戦闘中にユージオは正気に戻ることができた。キリトは再度ユージオと共に公理教会に立ち向かうつもりだった。だがキリトと戦った自分を責めたユージオは、キリトとアリスの足を青薔薇の剣で凍結させ一人で最上階へと向かったのだ。

 

 反逆者が死んでないと知ったチュデルキンは、トドメを刺すべくアドミニストレータの部屋から飛び出していった。ユージオはキリトたちなら大丈夫だろうと信じ、実際にチュデルキンは返り討ちにあって逃亡してきた。

 その間にアドミニストレータに短剣を刺そうとしたユージオの目論見は失敗した。逃亡してきたチュデルキンはそのことを察し憤ったが、キリトとアリスが最上階に辿り着いたことですぐにユージオに攻撃を加えられなかった。

 

 

「勝手に一人でやるなよユージオ」

 

「キリト……ごめん」

 

「黒髪の坊やが二人目ってことかしら。ところでアリスちゃんまでこんなところに来てどうしたの?」

 

「最高司祭様。人界の守護者たる騎士団は本日たった二人の反逆者によって半壊しました」

 

「あらそう。……アリスちゃんもそちら側についたってことかしら。可哀想なアリスちゃん。すぐに記憶を消してあげるわね」

 

「!」

 

 

 アドミニストレータが100年以上に渡って人員を増やしていった騎士団がたった二人に負けた。そうだというのにアドミニストレータ本人は、まったくそのことを気にしなかった。そして封印を破ったアリスの記憶を消すことで、再度都合の良い傀儡にしようというのだ。

 

 

「……いずれダークテリトリー軍との戦争が始まります。我らは一人一人が一騎当千の騎士。ですが敵の数は膨大です。勝ち目は薄いでしょう。これもあなたが人界を閉ざした怠慢によるものです!」

 

「キィィーー! うるさいうるさいウルサーイ! 30号! なんですかさっきから聞いていれば最高司祭猊下に向かってぇ!」

 

「あなたが黙りなさいチュデルキン。あなた逃げてきたじゃない」

 

「はぅあ!?」

 

「でも聞いてて気持ちのいい話ではないことは事実ね。チュデルキン、あなたの手で三人を捕らえなさい」

 

「お、おお、おお! まさかこの小生めに名誉挽回の機会を! 承知いたしました! そ、そそ、それで猊下。一つお願いが、ご、ございましてですな。小生めが罪人を捉えた暁には一晩お供させていただきたく存じまするぅ!」

 

 

 あまりにも己の欲に従ったストレートな発言に、この場にいる全員が引いた。その視線、願いをぶつけられたアドミニストレータも当然気持ち悪がったが、その願いを聞き届けるという嘘をついた。その嘘に気づかなかったチュデルキンはやる気を出し、両手両足の指、計20箇所を起点として神聖術を発動した。

 巨大な氷塊を作り出し、それを放ったのだが、その氷塊はアリスの《完全武装支配術》によって防がれ、粉々にされるのだった。

 

 

「アリスちゃんの武器と相性が悪いことしてどうするのよ」

 

「なんと! 猊下から助言をいただけるとは! もう我輩は間違えませぬぞ!」

 

「これは……」

 

 

 チュデルキンが次に作り出したのは炎の巨人だった。アリスの神器は金木犀を元にしたものだ。元が植物であるために火属性とは相性が悪い。だが神器であることも事実。そう簡単に押し切られることはない。

 

 

「……キリト。10秒は何としても時間を作ります。お前はその10秒で術者であるチュデルキンを倒しなさい」

 

「10……秒。……いや、やるしかないか!」

 

 

 迫り来る炎をアリスが防ぐ。小さな破片となって自在に飛び回る己の武器を一箇所に集め、盾を作り出したのだ。アリスが決死に作り出した僅かな時間。その時間を無駄にしないためにキリトは武器を構える。届くはずのない距離で構えを取ったが、キリトは知っている。この世界では"想いの強さ"によって本来以上の力を出せることを。アリスが《完全武装支配術》によって炎を防ぎ、ユージオが神聖術によってチュデルキンの意識をキリトから逸らさせる。

 

 二人が決死の思いで作り出した時間をキリトが無に返すことはない。己が極限の状態にまで精神を研ぎ澄まさせていた"SAO"時代。その当時を想起し、遠く離れているチュデルキン目がけてソードスキルを放つ。

 

 決して届かない。そう決めつけていたチュデルキンがキリトに斬られたのも必然なのかもしれない。他者を見下し、人の強さを理解しようとしない者に《心意》のことなど理解できるはずがないのだから。さらにアリスの実力を見誤っていたことも要因となる。

 アリスは誰にも気づかれないように注意しながら前もって神聖術を行使していた。それを部屋の壁に沿って走らせ、チュデルキンの背後に回していた。キリトの攻撃に合わせて神聖術を放ち、チュデルキンをキリトの方へと飛ばす。キリトの剣撃は見事にチュデルキンを貫いた。

 

 他者を理解する気がないのはアドミニストレータも同じだった。曲がりなりにもアドミニストレータのために戦い、そして敗北したチュデルキンを雑に扱い部屋の端へと吹き飛ばしたのだから。

 

 

「……ところで本当にレオンハルトを突破できたのかしら? それだけの力が本当にあるのならもっと簡単に勝ってたと思うのだけど?」

 

「……勝てなかったさ」

 

「……フィアの様子が急変しました。強力な神聖術を無意識で放つようになってしまい、レオンがそれを抑えています」

 

「あぁなるほど。……ふふっ、死ななければいいわね(・・・・・・・・・・)

 

「レオンが死ぬなんてありえません」

 

「あら知らないのね。私が言ってるのはフィアの方よ(・・・・・・)

 

「…………ぇ?」

 

「どういうことだ」

 

 

 レオンハルトならともかく、フィアに会ったことがないユージオは会話についていくことができなかった。とりあえずフィアという人物が危険な状態なのだということしかわからないでいた。

 一方で会ったことがあるキリトや何年も共に過ごしたアリスは、その言葉の衝撃が大きかった。常識的に考えて神聖術の使用で命を落とすことはありえないからだ。

 そんな反応を見てアリスが何も知らないのだと確信したアドミニストレータは、愉快そうに口を歪めてその理由を教えることにした。

 

 

「神聖術はリソースを使う。それはフィアも同じ。だけどフィアは別の手段も持っている。リソースは空間だけでなくていいのだもの」

 

「空間じゃなくて……まさか!」

 

「黒髪の坊やは頭の回転が早いのね。アリスちゃんの方は今頭が働いてないだけかもしれないけど。そう、フィアは天命を使って神聖術を扱うこともできる。そしてあの子は元々攻撃性が高い存在よ。暴走状態に入ったのなら己の制御なんて効かない。根底にある衝動に抗えずイタズラに天命を削りながら神聖術を無差別に放ち続けるだけよ! ふふっ、ふふふ! あっははははは! レオンハルトは間に合うのかしらねぇ?」

 

「……そん、な……フィア……が……?」

 

「! アリスしっかりしろ! レオンは任せろって言ったんだ! アリスが信じなくてどうする!」

 

「……そう……ですね」

 

 

 アリスも分かっている。信じている。レオンハルトがフィアを助けられると。死なせるなんてことはしないと。しかし暴走状態に入ったのは間違いなくアリスとの戦闘があったからだ。アリスは、フィアの暴走という引き金を引いたも同然なのだ。

 

 

「わたしが……あんなことに、拘らなければ……!」

 

 

 膝をつき項垂れるアリスに、キリトもユージオもかける言葉が見つからなかった。しかし、それでもここに来た目的を果たさなければならない。二人はアリスの前に立ち、改めてアドミニストレータと対峙するように向き合った。

 

 

☆☆☆

 

 

「は、ははっ……なんとかなるもん、だな〜。……強制転移されたと思ったら全方位爆撃された時は死ぬかと思ったけど」

 

「……ばか……レオンは本当に馬鹿よ」

 

「へいへい。……でも、なんとかなってよかった」

 

「そう、ね。……ありがとうレオン。……でもごめんなさい。私のせいであなたの天命が……」

 

「減っただけで生きてるから大丈夫だって」

 

「ギリギリじゃない!」

 

 

 うまく力が入らないフィアは、休憩がてらレオンハルトにもたれ掛かる。レオンハルトもそれを受け止め、確かに助けられたのだと実感する。

 一切傷がないフィアとは違い、レオンハルトはところどころ焼け跡や切り傷など、様々な傷ができていた。天命もあと一撃何かを受けたら尽きてしまうほど減っているのだが、助けられたことに安堵しており回復するのを後回しにしている。

 

 レオンハルトが取った手段は至ってシンプルなものだ。

 

 彼は前回のように道ができると踏んでいたものの、実際にはそうならなかった。天命が削られ始めたこともあり、それを待つことをやめたのだ。己の左右に"心意の盾"を展開し、正面に神器を構えて攻撃を可能な限り防ぎ、一気に駆け抜ける。

 申し訳程度に神聖術を防ぎながら駆け抜けてフィアの下へとたどり着くとフィアを枝で拘束した。暴走して神聖術が放たれているとはいえ、発動するための回路自体は存在する。例えるなら脳の指示を体の末端にまで届ける神経のようなもの。その回路を阻害することでそれ以上神聖術が放たれないようにしたのだ。

 回路が阻害されたことでフィアの意思が体に届くようになり、時間はかかったものの暴走が止まることはできた。阻害は完全にできるものではないため、それまでの間に時折神聖術が放たれレオンハルトの天命を削り続けていたのだ。

 

 要は力技でレオンハルトは止めたのである。

 

 

「レオン、天命を回復させなきゃ」

 

「あとでいいよ」

 

「ううん。今じゃないと駄目」

 

「フィア?」

 

「そうしないとアリスが死んじゃうから(・・・・・・・・・・・)

 

「……つまりアドミニストレータと戦えと? フィアも分かってるだろ? 俺達はアイツに絶対に逆らえないって(命を握られてるって)

 

 

 まだ体に力が入らずともアリスたちの様子をフィアは見ることができた。だからこのままではいけないと、レオンハルトも参戦すべきだと言ったのだ。

 だが、そうしたくてもそうできないのだ。レオンハルトがアドミニストレータと結んだ《契約》がそれを邪魔となるから。

 

 アドミニストレータは暴走していた時のフィアを見て、脅威だと判断した。当然そんな脅威を野放しにしたくはなかったが、レオンハルトの邪魔だてもありフィアを殺すことができなかった。

 決して逆らわないこと、そして()を具現化し差し出すこと。それを条件に殺さないことを決めたのだ。

 

 フィアが塔の外に自由に出ては反逆の意思があるのか判断がつきづらい。だからフィアは基本的に外にでることができないのだ。そんなアドミニストレータにレオンハルトが提示したのが、『自由』と『明確に逆らわない限り殺さない』というものだ。逆らったら死ぬが、勝手に殺されないようにと決めたのだ。フィアは自由の対象にならなかったが、殺される心配を無くすことには成功した。

 それが取り決めた契約の大まかな内容だ。実際にはより細かに決めているが、それは今は関係ないことである。

 

 

「歯向かったらどうなるか分かってるだろ?」

 

「でも対象者がいなければ関係ない(・・・・・・・・・・・・・)でしょ?」

 

「待て……何を言っている! アイツラなら勝てるさ! アリスも俺達が鍛えたんだぞ! ユージオは捨て身とはいえベルクーリに勝った! キリトだって強い剣士だ!」

 

「それでも勝てないのよ。私達はアリスと親しくなりすぎたのだから」

 

「どういうことだよ……!」

 

「あの子が戦いに行く時、常にあなたが付き添っていた。わかる? 何かあってもレオンが助けてくれる。そんな思いができてしまったのよ……。そして今はそんな状況じゃない。アドミニストレータなら私達が逆らえないことを伝える。アリスは強くても心はまだ弱いのよ」

 

 

 話が分からないわけじゃない。納得できてしまう。だが、レオンハルトにはそれが信じられなかった。自分の弟子の心がまだ強くなっていなかったなんて。

 そんなレオンハルトにフィアは現実を見せた。フィアが見ていたアリスたちの様子をレオンハルトにも見えるようにしたのだ。そうされてしまえば嫌でも理解できてしまう。今のアリスの目に恐怖が滲み出ていることが、その状態では戦えないということが。

 

 アリスたちの前に立ちはだかるのは、アドミニストレータだけではなかった。二人はその名称を知らないが、アドミニストレータがソードゴーレムと呼ぶ存在がその猛威を振るっていたのだ。そんな敵に手も足も出ない三人の元へ駆けつけたのがカーディナルだったが、突如その様子が見られなくなった。

 

 

「……アドミニストレータ、まさか繋がりを切ったのね」

 

「繋がりを? どういうことだ」

 

「アドミニストレータが解除するまであの部屋には行けないし、あの部屋からも出られないのよ。……繋がりが切れたところで魂に関しては変わりないけど」

 

「……ならどうしようもないだろ。幸いカーディナルがあそこに行った。それなら勝機はある」

 

「いいえないわ。だってあの大きな化物。()なんだもの」

 

「……そういうことか。けど、結局何もできないだろ。俺達には」

 

 

 カーディナルは人を殺すことができない。そうなってしまっている。だからソードゴーレムを倒すことはできない。しかしレオンハルトたちはあの部屋に向かうことができない。キリトたち三人に任せるしかないが、アリスは戦える状態ではない。それでも手段はあるのだとフィアはレオンハルトに言い聞かせた。

 

 

「あの部屋に行くための術式ならある。それに私のことを気にしなかったらいいのよ」

 

「馬鹿なことを言うな!! 俺がそんなことを認めるわけがないだろ!!」

 

「聞いてレオン。レオンが神器で私を刺して。取り込んでくれたらいいのよ。そうしたらアドミニストレータが持ってる魂も関係ないから」

 

「! ……ふざけるな、ふざけるなよ! 何も変わらない! フィアを殺してることと変わらないじゃないか!」

 

「私を取り込めばレオンハルトの天命は回復する。神器も本来の形に戻る(本当の力を出せる)! あの部屋にも行けてアリスを守れる!」

 

「……嫌だ……そんなの絶対に受け入れない!」

 

「この分らず屋! アリスがどうなってもいいの!?」

 

「!! ……それでも……俺はフィアを殺したくない……!! 取り込んだらもう戻れないんだから(・・・・・・・・・・)!!」

 

 

 レオンハルトはフィアの体を強く抱きしめた。手放したくないと、失いたくないのだと強い思いを込めて。それはフィアにも嫌というほど伝わった。だからフィアもレオンハルトの背に腕を回した。

 

 レオンハルトはそれでフィアが諦めたのだと思った。安心してしまった。

 

 

 だがそうではなかった。

 

 

 

 フィアが腕を回したのはレオンの意識を逸らすためだ。

 

 

 

 枝を操りレオンハルトの神器を動かしたフィアは、己の背中から刺した。そうした時にやっとレオンハルトがその自体に気づいたが、神器を抜こうにも神器は頑として動かなかった。何本もの枝が位置を固定しているからだ。

 

 

「離れろ。離れろよ! ……くそっ、なんで言うことを聞かない!」

 

「ふ、ふふっ……わたし……もある意味……持ち主……だもの」

 

「ふざけるなよフィア。何か他に手があるはずだろ!」

 

「これが……最善よ。……レオン……ごめんなさい」

 

「謝るなら、んっ!!」

 

 

 レオンハルトは言葉を続けられなかった。口をフィアの口で塞がれたからだ。100年以上共に生き、アリスに早く結婚しろと言われる二人だが、キスをしたことなど一度もなかった。それはフィアが自由になった時にと決めていたからだ。

 

 フィアの体が光り始める。神器と一体化し始める兆しだ。

 

 

「……ふざける、なよ……なんで……!」

 

「レオン……あなたと共に生きれて……幸せだったわ。……ここ数年はアリスっていう娘もいてくれた」

 

「これからだってあるだろ! アドミニストレータが負けたら自由になれる。もうそれが目の前まで来てるのに!」

 

「でもそれは勝てたらの話……。あの子たちの……あの状態を見る限り……それは叶わない。……だから、…………レオンが未来を掴みとって? あなたは生きて…………アリスと、共に」

 

「フィアもそこにいなくてどうする! アリスと約束したんだぞ!? キリトとユージオも混ぜて五人で茶を楽しもうって!」

 

「……あら、そうだった……のね……。それは…………ごめんなさい。……レオン。あなたの事が……ずっと好きだった。あなたを、愛して……あなたに愛されて…………

 

 

 

──本当に幸せだったわ」

 

 

 

「ッ────!!」

 

 

 霧散する光が神器へと集まる──それはフィアの体が神器へと吸収されることを表している。

 

 抱きしめていた体はそこにはなく、感じていた温もり(生命)もそこにはない。

 

 言葉にならない慟哭が響き渡る。

 

 だがそれに反応できるものは──もういない。

 

 

 

『ねぇフィア』

 

『どうしたのアリス?』

 

『フィアはどうしてレオンハルトと結婚しないの? / フィアはなぜレオンハルトと結婚しないのですか?』

 

『結婚ね〜。婚約はしてるのよ?』

 

『ええ!? / 本当ですか!?』

 

『えぇ。私が自由に外に出られるようになったら結婚しようって』

 

『じゃあその時は私がお祝いの言葉言うね! / その時は私が祝辞を述べますね』

 

 

──アリス。ごめんなさい。二つも約束破っちゃったわ

 

 

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