開戦初日の夕刻。一度後退していたダークテリトリー軍は、再びお互いが視認できる距離にまで前進する。対する人界軍はその場から動かずに敵の行動を待ち受ける。いや、人界軍の何割かは行動を起こしていた。先程の会議で決まった別働隊だ。アリスを《光の巫女》と仮定し、護衛をつけてワールドエンドオルターを目指す。残る面々は、副騎士長として残る軍を纏めなければならないファナティオ。持ってきていた矢が初日で尽きてしまったために戦闘力が半減してしまったデュソルバード。アリスの弟子であるエルドリエ。そしてアリスの師にしてベルクーリと並び称されるレオンハルトだ。
レオンハルトが残ることに対してひと悶着あったことは言うまでもない。怒鳴るアリスをキリトとユージオが宥め、エルドリエがレオンハルトにその思惑を尋ねた。
『敵がどれだけ食いつくか分からない。戦力に偏りが出ないようにするためには俺が残るべきだ。拳闘士との戦い方を心得ている面子も少ないんだからな。それに、カーディナルを討ったジャックの狙いは俺だ。実力から考えて、今あいつが暗黒騎士団を率いている可能性が高い。俺が残ることでジャックも残る。そしてジャックが残れば暗黒騎士団も残る。ベクタの命令次第でもあるが、騎士団が残るのであれば別働隊の負担も減る。追われながら戦う負担を考えれば妥当だろ?』
理路整然とした理由だった。周りの騎士たちはその事に口出しすることもできず、ベルクーリも合理的判断だと押し黙った。しかし、そうであったとしてもアリスには納得できなかった。納得したくなかった。今のレオンハルトは生きる最大の意味を失っている。誰よりも《心意》を扱えていたレオンハルトは、今ではその影を見ることもできない。確かめたわけではない。それでもアリスにはそうなのだと確信が持てた。
単純な実力であればレオンハルトは間違いなく最強である。そしてそれを不動のものとしていたのは、まさに《心意》だった。しかし今ではそれがない。キリトのリベンジも簡単に成立するだろう。アリスもユージオも、今のレオンハルトになら勝てるだろう。そんな状態のレオンハルトを残したくなかった。ジャックに負けるのではないかと不安が広がる一方だ。
だが、結局この決定は覆らなかった。ベルクーリがレオンハルトに《心意の太刀》を放ち、それをレオンハルトが同様に《心意の太刀》で弾いたからだ。それを見せられてしまえば、アリスも押し黙るしかなかった。レオンハルトはたしかに戦えるだろう。だがそれは表面的な部分だけを見ればのこと。裏面は虚ろでしかない。それに気づけているのはアリスだけだ。だがアリスにはどうすることもできなかった。
「レオン。お願いだから無理しないで。後で必ず会いましょう?」
「分かってるって。こっちを片付ければそっちに合流するつもりだから。アリスも無理するなよ?」
「……うん」
「はぁ。そんなに俺のことが心配か? 俺は負けねぇぞ?」
「心配よ。だって分かるのだもの。レオンが前までと違うって。何かあったら……壊れてしまいそうで」
大丈夫だから心配するな。自分のことに集中しろ。そう伝えたかったレオンハルトだが、アリスには逆効果だった。レオンハルトの胸に手を当て、揺らぐ瞳でレオンハルトの瞳を見つめる。そんなアリスの言動に、レオンハルトは一瞬言葉を失う。自分でもはっきりと認識できていなかったことを言われたからだ。一度深呼吸し、右手でそっとアリスの頭を撫でる。それから、壊れ物を扱うように優しくアリスの頬に手を添える。アリスはその手に自分の手を重ね、愛しむように自らも頬を押し当てる。お互いに目を合わせ、少しも逸らそうとしない。
いっそ戦いを捨ててもいいのかもしれない。レオンハルトを連れて逃げても。少しも離れたくない。そんな後ろ向きな想いを口にしたい。でもしてはいけない。これは仕舞っておかなければならない。アリスの心境を察したのか、そうでもないのか。レオンハルトはアリスの前髪をそっと横に流し、軽く唇を押し当てる。
「そろそろ時間だろ?」
「うん。……約束して? 絶対に追いついてくれるって」
「分かった。剣に誓う」
「それじゃあ、また」
「あぁ。また後でな」
──剣に誓う。騎士が誓うものであればそれは絶対のものだ。そしてレオンハルトの場合、そこにさらに強い意思が込められる。なぜなら、剣にもまたフィアの存在が宿っているのだから。フィアはレオンハルト自身に己の神聖術を、神器《月華の剣》にはさらなる力を与えた。つまり、剣に誓うということは、フィアに誓うということだ。絶対の意思が込められている。それが分かったアリスは、名残惜しそうにしつつもレオンハルトから離れ、相棒雨縁の背に乗る。
別働隊の出立の時だ。
騎士長ベルクーリの飛竜星咬を先頭に、アリス、シェータ、レンリの飛竜も続き、地上部隊もそれを追う。ベルクーリに気に入られているユージオは、ベルクーリの後ろに半強制で乗せられ、キリトはレンリの後ろに乗っている。これで敵がどれだけついてくるのか。そこは賭けであった。
そしてその賭けは崩壊する。
敵の暗黒呪術団の大規模術式によって。
「うおっ! なんだあの虫の数! 気持ち悪っ!」
「キリトさん、あれは敵の暗黒呪術団の仕業だと思うよ!」
「急速転回! アレから逃げるぞ!」
ベルクーリの言葉に従い、すぐさま飛竜たちを反転させて虫から逃げる。敵が放ったのは『死祖蟲』。対象の天命が尽きるまで貪り食うおぞましい技である。捕まるわけにはいかない。そして、それを看過できないレオンハルトが地上からそれを睨む。レオンハルトは隊から飛び出し、術式を唱えながら近づいていく。敵は空。己の身は地上。下から狙うしかない。
「要は蟲だろ。燃やせば死ぬ──っ!」
「へっ。お前が対処しようとすんのは予想してた。邪魔させてもらうぜ」
「ジャック、テメェ……。まさかカーディナルを討つとは思ってなかったぞ。シャスターみたいに和平の道を模索しないのか?」
神聖術の行使を中断し、抜刀してジャックと向き合う。世間話をするような軽さで話すが、お互いに一瞬たりとも気を抜かない。戦闘がすでに始まっているからだ。
「俺なりに模索して行動してんだよ」
「その結果がこれか」
「皇帝はこの世界のことを何一つ考えていない。自分の都合が終わればおさらばさ。じゃあその後はどうなる? 絶対的な強者が統べるのが俺達の掟だ。だがこの時代じゃ全員横並び。つまり、皇帝が消えた後に人界と向き合うためには誰かが上に立てるようになればいい」
「それがお前だと?」
「シャスターが死んでなかったらアイツだったさ!」
地を蹴り速攻で剣を振り下ろす。それをレオンハルトが受け止め、鍔迫り合いとなり、睨み合う。レオンハルトからすれば、ジャックらしくない行動だ。そしてジャックの胸中はまさに数多くの葛藤が生まれている。その鬱憤を晴らすようにジャックは剣を振り始める。
「アイツは俺よりも先を見れていた。視野が広かったよ! 認めてやるのは癪だったが、アイツが上に立つのが正しいことぐらい分かってた! だから俺はアイツの障害を払うように心に決めた! だが皇帝が出てきて全てが狂った! シャスターが死んで、己の利しか考えない奴らばっかが残った!」
「お前の力ならそいつらも殺せるだろ?」
「皇帝の存在がなければな! 皇帝が絶対なんだよ。皇帝には逆らえない。そして皇帝に挑んだところで勝てない! シャスターが負けたんだからよ!」
「その思い込みが足を引っ張ってることぐらいお前にも分かるだろ。俺達の真髄にまで至ったお前なら!」
ジャックを押し返し、レオンハルトが攻勢に回る。会話中であろうと躊躇いなくジャックの首目掛けて剣を横に一閃する。それをすんでの所で剣を縦にしてジャックが防ぎ、そのままスライドさせながら近づきレオンハルトへと斬りかかる。斬りかかる際に自分の体を低く下げることでレオンハルトの剣をも避ける。それをレオンハルトは、ジャックの剣の腹を横から殴ることで軌道を逸らす。バックステップで距離を取ったところに、すぐさまジャックが距離を詰める。
「皇帝は消える前に誰か代表者を統治者として選ぶ。その時の考慮要素は単純な功だ。当然《光の巫女》を連れてきた奴が選ばれるが、そいつが死んでいたら次に功を立てていたになる。コソギもシボリもフルグルもシグロシグも死んだが、あいつらは自分達のことしか考えてないから論外だ! 残ってるリルピリンも人界への憎しみが強い! イスカーンはそんなことに興味を持ってない! そしてディーにも任せられない!」
「あの蟲を放ったやつか。あれだけの術式を放つためにはそれだけのリソースがいるはず。どうやって集めた?」
「オークを3000人焼いたんだよ! 皇帝の命令でな! ディーたちがあの術式を放てるようにするために! 分かるか? そんなことを平然とやってのける奴に、オークが焼かれるのを笑ってみてたようなあんな女に任せられない!! だから俺がやるしかないんだよ! 《光の巫女》を捉えるためにはそれなりにそっちの戦力を減らさないといけない。今はその段階ってだけの話だ!」
「ぐっ……こいつ……」
「ゴブリン、オーク、オーガ、ジャイアント。亜人種と呼ばれて蔑まれて満足な生活を送れないあいつら全種族のことを考えてる奴なんていねぇ! 考えてない奴に任せられねぇんだよ!!」
思いの丈を叫ぶ度にジャックの剣筋が鋭くなる。一撃一撃が重く、速く、鋭くなる。それは次第にレオンハルトを追い詰めていく。お互いに《武装完全支配術》も《記憶解放術》も使っていない。どちらも使おうと考えないのだ。目の前にいる相手には単純な剣のみで勝ちたい。常に負かされていたジャックは当然そう考え、それにレオンハルトも応えている。騎士として、なによりも宿敵として。
そんな二人の戦闘の中、頭上の遥か上を猛スピードで飛び抜ける飛竜がいた。アリスの飛竜である雨縁だ。そして当然のことながらその背にはアリスが乗っている。目指しているのはダークテリトリー軍だ。
レオンハルトが阻止しようとしていた暗黒呪術団の術式を防いだのは、一人の整合騎士だ。いや、正確にはその身を犠牲にして、である。
レオンハルトが駆け始めた時を同じくして、その者も隊から離れ、飛竜に乗って空を目指した。我が身を犠牲にしてでも守るべき存在がいるから。
鞭の神器を携え、隊を無視してでも駆けつけたものの名は、エルドリエ・シンセシス・サーティワン。アリスの弟子にして、騎士になってから最も日が浅い人物である。逃げるアリスたちとすれ違うように飛竜を飛ばせたエルドリエは、全ての蟲を引きつけるために《記憶解放術》を使用した。二体の巨大な蛇が現れ、蟲たちに襲いかかる。しかし、エルドリエもこれだけの術式にこれで勝てるとは思っていなかった。そもそも勝つ前提で出ていたわけでもない。
──師アリスを守る
ただそれだけなのだ。エルドリエが望んでいることは。
蟲たちはエルドリエが作り出した蛇に殺到し、それを貪り食う。蛇を食べられなかった蟲たちは、使用者であるエルドリエへと襲いかかる。
耳にしたくない異質な爆発音が起きた。
エルドリエの体が半分吹き飛んだ音だ。
「エルドリエ!」
落ちていくエルドリエをアリスが掴む。しかしエルドリエには上半身しか残っていなかった。半分は先程の蟲たちに食べられたのである。
「ア、リス……さま……ご無事で……」
「えぇ。ええ無事ですとも! あなたのおかげで! しかし……こんな……こんなことしなくても!」
「私は……昨日何もできません、でした。……師の期待に……応えられなかった。だから……汚名返上を……」
「生きてさえいれば……生きてさえいればそれでいいのです! だから生きなさい!」
無茶苦茶な命令だ。こうして未だにエルドリエと会話できているだけでも奇跡だというのに。そんなことはアリスもわかっている。わかっているが認められない。受け入れられないのだ。仲間の死を。弟子の死を。
「……私は業が深かった。……レオンハルトさまと、フィアさまと共にいるアリスさまを……あのお二人に見せる貴方の笑顔を……私は独占したかった……。おこがましいことだというのに……。貴方という存在を望んで……」
「それぐらいいくらでも叶えてやります! この戦争が終わればいくらでも! だから死なないで!」
「アリス……さま。……どうか、レオンハルトさまととも、に……」
「エルドリエ! エルドリエ!!」
それまで確かにあったエルドリエの体が光の粒子となる。それまであった重量が無くなる。エルドリエが使用していた神器のみが残り、アリスは大粒の涙を零しながらもそれを握りしめる。
「雨縁……ダークテリトリー軍の上まで飛んでいって。今すぐに!」
大切な弟子を失った。レオンハルトとフィアと過ごす日常の中に新たな刺激を与えてくれた弟子を。少し気障な話し方をして、おすすめのワインを何度も紹介して会話を望んできた男を。その悲しみにくれたかった。しかし、それよりも先にエルドリエの命を奪った者たちを許せないという怒りが勝った。
主人アリスの意思に応え、雨縁は最速で飛ぶ。エルドリエの飛竜もまたそれに追従する。彼もまた主人の死を許せないのだ。途中ジャックと交戦するレオンハルトの姿を視認するも、レオンハルトなら大丈夫だと信じて突き進ませる。
「見えた! 二人ともあの集団に目掛けて放ちなさい!」
術式の使用のためか、前に出てきていた暗黒呪術団目掛けて二頭の飛竜が炎を吐き出す。これまでで最も威力が高いものだった。それが止む瞬間に合わせ、アリスは怒りのままに神器を解放する。小さく分かれた《金木犀の剣》が残りの呪術士たちの天命を刈り取っていった。
(別働隊が敵を引きつけるためには、ハッタリであっても言うしかない)
「我が名はアリス! 《光の巫女》である!」
たった二言。たった二言であってもその効果は適面だった。どよめくダークテリトリー軍は、数秒かかってから上空にいる少女アリスが《光の巫女》であると飲み込んだ。湧き上がる《光の巫女》を求める声。まるで怨嗟のように。その様の不気味さにアリスは身震いするも、すぐさま飛竜を反転させてその場から離れた。
(レオンならもう勝ってるはず……!)
途中で見かけたレオンハルトは、カーディナルを討つほどの実力を持つジャックと交戦していた。レオンハルトは誰よりも強い。それは騎士たちの共通認識であった。レオンハルト本人はベルクーリに勝てないと言っていたが、ベルクーリもまたレオンハルトに勝てないと言っている。キリトにもアドミニストレータにも勝った。そんな師なら。そう信じレオンハルトを雨縁の背に乗せて一緒に逃げる算段をつける。
「いた!」
まだ影が小さいが、たしかに見える二つの影。レオンハルトとジャックの物であることは明白だ。
「雨縁! レオンを連れて逃げるから高度を下げて!」
主人の命に従い高度を下げる。次第にはっきりと見えるようになる二人の姿。たとえ決着がついていなくても連れて行く。アリスはそう決意していた。しかしその目に映る光景は信じられないものだった。
レオンハルトの体をジャックの剣が貫いていた。
「ぇ……」
ジャックが剣を引き抜くことで溢れだす鮮血。崩れ落ちるレオンハルトの体。フィアを取り込んだことで増大しているレオンハルトの天命はまだ尽きない。そしてそれを見逃すほどジャックは甘くない。
振り上げられる剣
「いや」
それが首に目掛けて振り下ろされていく
「いやぁぁぁ!!」
振り下ろされる剣がレオンハルトの首をはねる──ことはなかった。
その寸前にジャックに目掛けて炎が迫っていたからだ。ジャックはそれを避けるために後ろへと大きく飛び下がる。それを放ったのはアリスの飛竜である雨縁だった。アリスは雨縁に何度も礼を言い、レオンハルトの下へと駆けつける。
「レオンしっかりして! レオン!」
「アリス……か。わりぃ、しくじった……」
「いいの。生きててくれればそれで! だから、逃げよ? 一緒に──」
「悪いがそれは見逃せないね」
その声にアリスの体が跳ねる。後ろを振り向けばそこにはレオンハルトを斬ったジャックが立っており、アリスの首に剣を据えていた。ジャックもまた腹部から血を流しているが、レオンハルトほど重症ではないらしい。
「……お願い。レオンを見逃して!」
「そんなに大切か?
「大切……。だってレオンが好きなんだもの」
「……そうかよ。だがな? そいつは空虚だぞ? 何も持っちゃいない。剣に込められてるものが何一つ存在しない薄っぺらい存在だ。分かるか? つまりはお前が大切に思っていても、
「っ! ……それでも……それでも私にとってレオンは大切な人だから。だからレオンを見逃して、その代わり私を皇帝ベクタに差し出せばいい」
「は? まさかお前」
「私が《光の巫女》だから」
その言葉を聞いてジャックは目を見開いた。本当にアリスが《光の巫女》である確証はない。しかし、アリスが初日にやってのけたことを考えればその可能性を否定できない。一度目を瞑ってからジャックは剣を納めた。アリスの言葉を信じ、レオンハルトを見逃すということだ。
「救われたな愚か者。お前をこれだけ想うこの子に感謝するんだな」
「ゴフッ……アリ、ス……」
「ごめんね、レオン。私が約束破っちゃったね。でも、レオンには生きてほしいから。……さよなら、レオン。ずっとずっと大好きだよ」
笑顔でそう言いながらもその目からは涙が零れ落ちる。
(ルーリッド村で過ごした日々、セントラル=カセドラルで過ごした日々。どれも大切な記憶。私は幸せに生きられた。叶わなかったけど、恋もした。もう十分だ)
未練を切るようにレオンハルトから目をそらし、ジャックの後をついていく。二頭の飛竜はそれを認められず今にも炎を吐き出そうとしているが、アリスがいるために何もできずにいる。
『こんな結末でいいのか?』
──ジャックはバケモンだな。勝てる奴がいねぇよ
『強さの極意を捨てといて言うことじゃないな』
──生きる意味を持ってない俺には仕方ないさ
『アリスを見捨てるのか? フィアになんて言われたよ』
──この世界のことも外の事情もどうでもいい
『正直に言えよ。いい加減前を見ろ』
──フィアを裏切りたくない
『頑固者め』
──うるさい。……だがな
『お?』
──アリスにあんなことさせて「はい終わり」は情けないな
「待てよジャック」
「あぁ? テメェにはもう興味ね──! ガハッ!」
「レ……オン……?」
ジャックが後ろを振り向いた瞬間。その顔にレオンハルトの拳が叩き込まれる。数メル飛ばされてからジャックの体が地面に叩きつけられる。
殴ったのと反対の手でアリスの肩を掴み、自分の方へと引きつけてレオンハルトは立つ。傷口が塞がったわけではないが、止血はされている。
「ごめんな、アリス。いろいろと振り回して。ちったぁ生きる意味ができたよ」
「レオン……レオン!!」
「ははっ、泣き虫め。って俺のせいか」
アリスが尊敬し、惹かれたレオンハルトに僅かに近づいた姿がそこにあった。