決意を新たにした白羽の耳に素っ気のない電子音が入ってきた。音源はサイドテーブルの上。そこには複数の携帯電話が充電器のスタンドにセットさせている。
他人名義の足の付かない携帯電話を用意するのは仕事をする上での常套手段のひとつだ。この聖杯戦争に際して彼女は、プライベート用とは別に使い捨て用に幾つかの端末を用意していた。デフォルト設定の電子音を鳴らしているのはその内の一つになる。
二つ折りの背面に油性マーカーで『3』と番号の書かれた携帯電話をスタンドから引き抜いて、畳まれた本体を開いて画面を見る。表示された番号は知己のものだ。
「はい。ええ――そう、分かった。ご苦労さま。じゃあ」
一分に満たない通話を終えると、今度は壁に張り出された冬木市の大きな地図に視線を向ける。地図には幾つもの書き込みがあり、白羽がすでに何組かの陣営の動きを掴んでいるらしいのは端で見ているアーチャーにも察せられる。
思考することしばし、一分ほど地図とにらめっこして動きを止めていた白羽は、首を回して横にいたアーチャーに顔を向けた。
「アーチャー、早速だけど仕事よ」
「召喚早々にお仕事か。うちのマスターは中々に好戦的だこと。で、相手は?」
「こいつ。推測だけどキャスタークラスのサーヴァントらしい」
アーチャーの問いに白羽はテーブルの上にあった資料の中から一枚の写真を抜き出して彼に渡した。
映っているのは遠くから撮影したと分かる不鮮明な画像。画素数の少ないデジタルカメラで撮影したものをプリントアウトしたもので、撮影者の技量の低さもたたって今一つ画像の人物が分かりにくい。
でも特徴的なローブ姿や相手の性別、大まかな体格ぐらいは判別できるので問題はなかった。
「さっき情報提供者からの連絡があって判明したけど、どうやらマスターとサーヴァントが仲違いを起こしたみたい。サーヴァントが円蔵山の方向に向っているところまでは分かっている。アーチャー、先回りして仕留めて」
白羽は命令を端的に伝えて、冊子型の地図を渡す。アーチャーは地図を受け取り、壁に貼られた地図と見比べる。
やがて納得したのか大きく一つ頷いた。
「了解。元よりサーヴァントの相手をするのはオレの役目、命令には従いますよ。んで、その間にマスターは?」
「こちらも敵マスターを抹殺する」
アーチャーが地図を見ている間に白羽は素早く戦闘の用意をしていた。
今ベッドにあるブレイザーとP90はすでに照準は調整し終えている。今回想定されるのは屋内戦、だからP90と予備弾倉を複数手に取った。さらに冬木のあちこちに武器弾薬を収めた倉庫を用意しているので予備の武器調達には全く問題ない。近場の武器庫の中身を思い浮かべつつ、白羽は服装を整えて戦闘に意識を向けた。
持っていく武器はコンデンターとP90にナイフ。後は武器庫から調達する。
相手は外来とはいえ魔術師、その拠点を攻めるには白羽の装備はあまりにも軽装過ぎる。アーチャーが心なしか心配するような視線を投げてきているのに気付いた彼女だったが、結局声をかけることなく用意を済ませた。
サーヴァントの召喚で魔力はいつもの半分で魔術戦になると不利だが、そこは相手の土俵に立たなければ良いだけだ。白羽には物理的な攻撃手段に事欠かない。何より敵を抹殺する好機を逃したくない。せっかく敵が隙を見せたのだつけ込まない手はなかった。
第一、準備と言うならば何年も前に済ませている。外来のマスターが泊まりそうな宿泊施設には魔術、科学両方の罠が白羽によって仕込まれている。使い魔と同時に街中に設置された防犯カメラも彼女の手中にあった。
修行と仕事の合間を縫い、折りを見ては冬木の街中に仕込みを作って十年。この冬木は白羽にとって最高の戦場に仕上がっている。
「こちらは敵のマスターを狩り、そちらはサーヴァントを仕留める。シンプルな方針でしょう」
「確かに。んじゃ、命令が下ったのでぼちぼち行ってきますわ」
「確実に仕留めること。そのための方法、手段は任せる」
「了解了解」
白羽のオーダーにアーチャーは軽く頷き霊体化、その気配は急速にホテルから離れていく。彼の様子を最後まで観察して、当面は問題なしと判断した。
召喚される英霊にも聖杯に託す願いがあるという。そのためにはマスターである魔術師の指示に従うし、令呪などの
アーチャーを見送ると、白羽も早速行動に移る。穿いているカーゴパンツのポケットからデミオのキーを出し、ホテルの鍵とまとめて手に握って外へ。
まず向う場所は近場にある貸倉庫。そこで武装を整えて敵の拠点を叩きに行く。
Re:Fate/stay night ――出撃 了