平行世界融合! 生き抜け、遊戯王(謎)ワールド! 作:手のひらをセットしてターンエンド
執筆中僕「何故誰もこの展開でやろうとしないんだ……ないなら俺がやってやらぁ!」
執筆後僕「……なるほど、畳める気がしないからだな」
長く続く桜並木の道路を、大勢の少年少女達が歩いてる。
友人と談笑しながら歩く者も居れば、夜更かしでもしたのか、大きなあくびをしたり目を擦りながら進む者、特に意味は無いが走って行く者、色々だ。
今日は4月2日。この日はとある『学校』の入学式である。
誰もが真新しい制服に身を包み、今日から始まる新生活に思いを馳せている。
そんな彼等の様子を、同じ制服を着て同じ方向へと進みながら見つめる俺。周りから見れば、一見他の連中と特に変わらない、普通の男子学生だろう。
しかし、彼等と俺は、圧倒的に違う部分がある。それは何か?
この問いに対して正確に答えることがでる者は、恐らく居ないだろう。居たらそいつは相当の不思議ちゃんの可能性がある。
その答えは……自分でも複雑怪奇極まりないと思うが、彼らと俺の違い、それは
驚くべき事に、俺は前世というものを覚えていた。それはもう、物心ついた3、4歳の頃から、死に至った18歳の冬の日まで、はっきりくっきりと。
死因はどこにでもあるような交通事故だ。わき見運転の車による信号無視。加えてスマホ弄りつつ横断歩道を渡ろうとした俺。事故加害者となってしまったであろうドライバーも、被害者となった俺自身も、危機感というものが無かったのだろう。常日頃、どこそこで子供が撥ねられたなどのニュースを見て、現実にそういった事が溢れてると解っていても、心の底では、遠い遠い国の関係のしようがない出来事としか思っていないのだ。自分がそれに関わるなど、まして当事者になるなど想像もしていない。
否、想像できないのだ。経験していないがゆえに。想像したとしても、所詮それは想像でしかない。時速50㎞の車にぶつかるとどれ程の痛みなのか。骨が折れる瞬間の感触がどんなものか。沢山の血が流れ出る感覚はどんなものか。現場に集まる人々に、遠巻きから見られるのはどんな気分か。死が訪れる瞬間とは……
この世の誰にも、自分が経験しえない事柄の想像など、できはしないのだろう。俺は死という概念を、死んで初めて理解した。
そして同時に、死後の世界があって神様がいて、生まれ変わらせられる事もあるなどという驚愕すぎる事実も、経験して初めて分かったのだった。
あの自称神様に邂逅して、自分が本当に死んだんだと言う事もショックだったが、『別の世界』に転生するという事態に発展したのは、今となっては心から喜ぶことができない。
そもそも俺が転生したこの世界、普通の世界ではない。所謂、異世界だ。俺が死ぬ前の元の世界において、ラノベやらで流行ってた異世界転生、まさにソレだ。別にその手の話が特別好きだったわけでもないが、いざその機会がわが身に訪れ、しかも『好きな世界に転生させてやる』なんて言われたもんだから、それはもう調子に乗った。恥ずかしげもなく。とにかく、俺はある大好きな作品の世界に行くことを神様に希望した。世代を超えて長く続いている作品で、既に何代も主人公が交代し、その都度全く違う新しいストーリーが展開されるといったタイプのものだったので、俺はしばらく、何作目の世界に行くか迷っていたが、最終的にひとつの世界に決めた。
これで俺も原作知識と現実世界の知識アドバンテージで最強ヒャッハー! な生活ができるぞぉ! ……などと、思っていた時期が俺にもありました。
「…………ハァ……」
この世界が孕んでいる未知の危険性について、俺はもう何度目になるかもわからないため息をついた。このまま何ごともなく平和に生きられればいいのに……と、恐らく叶わぬ願いであろう、これまた何度目になるかわからない願望を抱き始めた時だった。背後から走り寄ってくる足音に気付いたかと思えば、何者かに背中を思い切りはたかれた。
「ぐぇっ!?」
「なーに入学早々に辛気臭い顔してんだよ! そんなじゃ今日のデュエルの試験負けちまうぞー!」
「……十代、いつも言ってっけどさ、いきなり見えないとこから挨拶代わりのダイレクトアタックはやめろ! 心臓に悪いんだよ!」
「ははは、気にすんな気にすんな! 細かいこと気にしてっと、皺が増えるぜ~」
「お前は気にしなさすぎだけどな!!」
太陽のような笑顔。というのはきっと、今のこいつのような顔のことを言うのだろう。俺の抗議を快活に笑い飛ばす、俺と同じ制服を着た彼は、名を遊城十代という。この世界に転生してからの、子供のころからの幼馴染だ。
ここまでを誰かが聞けば、この世界が何の世界かわかった……と思う人は沢山いるだろう。
すなわち―――『遊戯王デュエルモンスターズGX』だ! と。
日本で生まれた漫画作品、『遊戯王』。主人公武藤遊戯が、エジプトの遺跡から見つかった千年パズルを完成させたことで、もう一人の自分の魂を目覚めさせ、様々なゲームで悪人を負かしては罰ゲームを行って裁くという、連載初期当時の時代としては異色の作品。
遊戯が行うゲームも中で最もファンの注目を浴びたのが、マジック&ウィザーズという、トレーディングカードゲームだった。それまで多種多様のゲームで戦っていた登場人物達だったが、予想以上にこのゲームに人気が出たので、その内にこのM&Wを中心に物語が進行していった。
そしてこれがアニメ化する際に、最初からカード中心の話を展開する事で始まったのが、『遊戯王デュエルモンスターズ』だ。通称DM。または初代ともいう。作中でのゲームの名もデュエルモンスターズと改められたこれが、現実でのカードの本格的な商品化も相まって、日本どころか世界中で名が知れ渡り、今やアニメは6世代目に突入し、頻繁に世界大会は開かれ、強力なカードや希少なカードが株の如く高額で売買されたりと、その人気は留まるところを知らない……そんな作品が、遊戯王シリーズであり、俺の愛する作品だった。
今俺の隣で、デッキ構築に悩み過ぎて夜更かしただの、この間買ったパックに欲しかったカードが入ってたなど、楽しそうに話す遊城十代は、何を隠そう、アニメ遊戯王の2作目である『GX』の主人公だ。つまり主人公としては武藤遊戯の後釜、二代目だ。
GXはDMの年代から数年、あるいは十数年後が舞台の話で、十代がデュエルアカデミアというデュエリスト養成学校に入学し、様々な仲間に出会い、時に事件に巻き込まれながら成長していく、といったのがGXの主なストーリーである。
そして今日俺達が入学する学校、名前はやはりデュエルアカデミア。GXの舞台と同じ名だ。
だが、結論から言わせてもらうと、ここは『遊戯王GX』の世界ではない。いや、遊戯王である事は間違いないだろう。現にこの世界はデュエルが浸透していて、経済や政治までもがデュエルモンスターズと深く関わっていると言えば、もはや遊戯王以外のなにものでもない。
そう……遊戯王ではある。ただし、俺の知る『遊戯王シリーズの
「それでさー! その手に入ったカードをデッキに入れたんだけど、まだ試してなくって……て、聞いてるか?」
「あー、聞いてる聞いてる。デッキの試運転なら試験前に付き合ってやるよ。確か試験デュエルは入学式の少し後だった筈だしな」
「おっしゃ! 約束だぜ! じゃあどこかデュエルできそうな場所を探しとかないとなー」
俺がデュエルの約束をしてやると、十代は嬉しそうにキョロキョロと辺りを見回し、「あ、あそこの広場とか良さそうだぜ!」と早速、人の邪魔にならない場所に目星をつけ始める。
この男、遊戯王世界の主人公の器だけあって、デュエルをこれでもかと言うほど愛している。逆にデュエル以外の年頃の少年が興味を持ちそうな事に対しては少々熱意が薄い。精々ヒーロー番組とか位か。異性関係とかそれこそもう「恋愛? 何それ強いの?」レベルで関心の外だ。今でこそ俺の長年の『教育』によって多少マシにはなったが、それでもやっぱり「彼女にするならデュエルが強いやつだよな!」という程度の変化で、結局デュエル主義である。
なんかもうこいつ、デュエルによって生きている……いや、生かされているのではと思う今日この頃。デュエル関連のもの全部取り上げたりしたら死ぬんじゃなかろうか。餓死的な感じで。
「言っとくが、頭の中そればっかにすんなよ? 成績に影響するようなガッチガチの試験じゃないにしろ、試験は試験だ。デュエルだからって、羽目外しすぎて目つけられても知らないぞ?」
「それはお前もだろー? デュエルの時は人が変わったみたいにハイテンションになるし」
「うるせい!! 三度の飯よりデュエルが命のお前よりは幾らかはマシだ!」
「なんだよ! 飯も大好きだぞ俺は!」
「その返しはどうなんだお前。ってそうじゃない……俺のその悪癖については俺が一番自覚してる!これから俺は普通にデュエルする普通の決闘者になるんだ……あの癖は直すと決めた!」
「高校デビューってやつか?」
「……そういう風に言われるとなんかヤだな」
十代に注意するつもりが思わぬカウンターを喰らってしまった。こいつ、偶に人が気にしてる事サラッと言うとこがあるので油断ならない。
「よう! お前らー! 元気してたかー!」
「!」
不意に俺たちの背後から、聞きなれた声が聞こえてきた。振り返ればそこには、ヤンチャしていそうな金髪、それでいて人懐こそうな雰囲気をした、人情派不良少年な『先輩』が駆け寄ってくるとこだった。
「あ、おっす城之内! 今日から宜しくー!」
「だからお前は敬語使えって言ってんだろ十代ー!! 何度言えば分かんだ! 俺は2年!! お前1年!! 先輩だ、せ・ん・ぱ・い!! 」
「えー、いーじゃーん! 城之内は城之内だろー?」
「おん前はもう……!!」
「克也先輩、こいつにそういうのはまだ無理ですって。俺が子供の頃から教え込んで未だに理解してもらえないんだから……」
「うぅぅ……! お前だけが最後の良心だぁ……お前はちゃんと年上を敬う立派な後輩であれよぉ!」
「先輩、抱き着くのやめr……てください」
「……今一瞬命令形になりかけなかったか?」
「いいから離れてくださいよすげー迷惑です。そっち趣味の奴だとか思われたら訴えますからね」
「…………お前ら嫌い!! 可愛くねぇッ!!」
大げさなリアクションで道行く学生たちの注目を浴びるこの人は、城之内克也。俺たちの一応先輩にあたる人で、これから同じ学校で生活するのである。
何で入学初日の俺たちが先輩学生を知っているのかというと、去年開催されたデュエル大会で知り合ったからである。主に十代が先輩を気に入ってグイグイ行くもんで、ストッパーとして俺も……と言う感じで仲良くなったのだ。
そう、城之内克也先輩だ。あの城之内克也だ。あの城之内君である。大事なことなので何度でも言います。
遊戯王DMにおいて、主人公武藤遊戯の友人にして、ギャンブル系カードを巧みに操る、遊戯とは『親友』と書いてライバルと読むような関係のデュエリストだ。
物語序盤でのデュエルの腕は目も当てられないほどの素人っぷりで、ある登場人物からは凡骨デュエリストなんて呼ばれていたが、話が進むにつれてどんどん才能を開花させ、続編であるGX時代では伝説のデュエリストの内の1人として数えられるほどの実力者に成長したのだ。
さて、ここで、俺でなくとも遊戯王ファンなら、誰もが「アレ?」となる素朴な疑問が1つ浮上することだろう。
なんで、城之内克也が17歳で、遊城十代が16歳なのか、と。
本来十代が主人公のGXは、DMから何年もの月日が経っている。十代が16であるなら、克也先輩はとっくに成人してるどころか三十路に入っていてもおかしくない筈なのだ。しかし、目の前で十代とじゃれ合っているこの人は、明らかにDM時代の、それもまだデュエルがそれほど強くない頃の『城之内』だ。
なんでデュエルの腕がその程度だとわかるかって? この人と出会ったデュエルの大会、世界大会とかじゃなく、町内大会の小規模なものだったし……しかも負かしたの俺だし。ちなみに俺は決勝で十代に負けました。
と、それはともかく……要は本来の原作での歴史と一致しないという事だ。そして、この人がまだ17歳だという事は、当然それ以外のDMの登場人物であった初代主人公や、強靭・無敵・最強のライバルとか、オカルトデッキ使いにしてオカルトそのもののラスボスもバリバリ存在する可能性が非常に高いわけで……否、可能性が高いというか確実に居る。少なくとも『ライバル』に関しては、克也先輩と出会うよりもずっと前から、この世界で生きてる事を俺は知っている。
「ところでさー、このアカデミアの設立を企画した社長って、まだ城之内と同じ学年なんだろ? すっげーよなー!」
「あぁ? あー……海馬な、海馬瀬人。俺はアイツ大っ嫌いだけどな! 童実野中学で3年の時に同じクラスになってからあいつの事は知ってるけどよ、何かにつけてエラっそーな態度でそりゃあもうムカつくのなんの!!」
「え!? 城之内、あの海馬瀬人と知り合いだったのかよ!?」
「……同じ中学だったのか……」
ここへ来て更なる本来の歴史との差異発覚。『城之内』と我らが社長が知り合うのは高校1年だったはず……いや、もはやこの程度は誤差の範囲内だな。いちいち気にしていたら埒が明かん。
海馬瀬人。
DM本編にて、主人公の遊戯と終始ライバル関係にあり、プライドを賭けた本気の勝負を幾度となく繰り広げた、最強決闘者の一角だ。
その色々な意味で強烈なキャラクターと、常に相手を全力で叩き潰す徹底したデュエルスタイルは、純粋なカッコよさとネタ的な要素も含めて、全遊戯王シリーズの中でも屈指の人気キャラクターだった。
高校生にして『海馬コーポレーション(通称KC)』の社長業を務めている、という点ではこの世界でも同じだが、『デュエリストを養成するためのデュエルの学校』を設立するのは、DM時代で起きる、色んな事件を乗り越えた後の、GX時代での話だった。これから俺たちが通うデュエルアカデミアは、去年社長に就任し、更に高校生になったばかりの海馬社長により、たった1年で開校までこぎ着けた、できたてほやほやの学校なのだ。若き新社長がテレビの会見でこの計画を発表した時、俺はもうこの世界で原作知識など通用しないことを改めて思い知った。
ところで、俺が居た元の世界の人は、「いやいや、たった1年以内で全く新しい教育システムの大規模な学校なんてできるわないやろ!」 と思うかもしれない。というか、海馬社長の発表を見た当時は俺もそう思った。
しかし、それを実現できてしまうところが、海馬瀬戸の、というより遊戯王シリーズの……否、この『どこでもないどこかの世界』の怖いところだ。
「あれ、言ってなかったけか。まぁ知り合いってほどじゃねぇよ。どうせ俺の事なんか、その他大勢の下々の人間としか思ってねぇだろうよ! あぁ思い出したら腹立ってきたぁ……!!」
「ここに居ない人の事でイライラしないでくださいよ……実際、海馬社長と克也先輩とじゃあ、色々と天地の差があるのは事実だし、怒ったところで何もできませんよ」
「お前は本当に当たり前のように毒を吐くよなぁ!? 俺、最近お前が敬語使ってるだけで俺の事まったく敬う気ないのわかって来たぞコラ!!」
「……すいません……そういう、つもりじゃ……俺は、先輩がもっと強くなれるように……厳しい事言わなきゃって……」
「! え、あ……そう、なのか。悪い……」
「ちなみに、城之内にどう強くなってほしいんだ?」
「分相応に生きるっていう強さを身に着けてほしい」
「どういう意味だこの野郎ッ!!」
一瞬、思考がいつもの「この世界に対する危機感」に浸かってしまいそうになったので、先輩をイジることで心の平穏を少しばかり取り戻すことにした。
一応言っておくと、別に克也先輩の事が嫌いなわけではない。寧ろ、俺の無礼とも取れる態度を、こうして拳で頭グリグリする程度で許してくれる気の良さもあるので、幼馴染の十代と同じくらいには大切に思っている。
本人に言う事は無いが、ぶっちゃけ割と尊敬もしている。元々原作の時点で性格が好きな登場人物だったし、この世界で出会ってからの出来事も含めれば、彼に好印象を抱かずにいるのは難しい。とある理由で、随分感謝してることもあるし。ぜってー言わないけど。
……いや、だってさ? 最初の頃に、こう、弄りとツッコミ、みたいな関係になるとさ? 改まって友情とか感謝の気持ちを伝えるのは、だいぶ気恥ずかしいというかだね? いや誰に言い訳してるんだ俺は。
「って、それより城之内!! 海馬瀬戸とデュエルしたことあるか!? やっぱ滅茶苦茶強いんだろ!?」
「お前はマジでデュエルが好きだよなぁ……俺もデュエルが好きな気持ちは誰にも負けねぇつもりだったけど、世界は狭かったぜ……」
「なーなー! 教えろよー! 使ってたか!? あの伝説のカード!!」
「だー! もーうるせー!! 俺はあのお坊ちゃんが嫌いなの! 好き好んでアイツの話なんかするか!」
「ぶうぅー!!」
「その辺にしとけって十代。思い出したくない記憶とかがあるんだよきっと……彼女が取られたとかさ……」
「勝手に人を恋の負け犬にするんじゃねえ!! 大体彼女なんて居たことも無いっつの!!」
「……あっ……」
思わず口元に手をやる俺。今の俺の言葉は彼の心の傷を抉ってしまった。例えるなら守備表示の【羊トークン】に【エネミー・コントローラー】を使ったうえでゴッドハンドインパンクトオオォ!! するような残酷さだ。きっと先輩の魂は今「イワーーーク!!」と叫んでいることだろう……!
「その『悪いこと聞いちゃった』みたいな顔やめろ!! あーーあーー彼女欲しいなぁ……!!」
「まぁ、それは同意するけども」
「……お前、彼女いねーの?」
「イコール」
「? イコール? ってなんだよ」
十代が首を傾げて俺に聞くと、その隣で先輩がジトりと目を細めて一言……
「……年齢?」
「YES」
「いない歴が?」
「Exactly(そのとおりでございます)」
「お前もいたこと無いんじゃねぇかよ!!」
「これから作るんだし! 今まで本気出してなかっただけだし! この大規模の学校なら出会いの一つや二つ……!!」
「……ただしイケメンに――」
「あぁわかった。この話はやめよう。ハイ、やめやめ」
既に解りきっているこの世の真理をわざわざ口にした先輩の暴挙に対し、俺は両手を上げて話題をエンドフェイズにスキップする。
別にいーし、俺には愛するカード達がいるもんね……彼女とかディスアドだしね……大体ここはデュエルを学ぶとこだぞ。異性に現抜かしててどうすんだ! 俺は孤高の強デュエリストになる!!
自からの発言で自爆して項垂れている先輩と、その哀れな姿に同情して苦笑している十代を後目に、俺は一人悲しい決意をするのだった。目指せ独身貴族! ……あれ、おかしいな、視界が滲んでいくぞ?
2人の悲しい男が放つ陰な空気を感じたのか、十代が話題を振って来た。
「え、えっと、それより! この間のインダストリアル・イリュージョン社の発表見たか? 楽しみだよなー!」
それを聞いた先輩は、暗い表情を消すと喜々として話に食いついた。デュエルの話題で機嫌が直る辺り、この人も十代ほどでないにしろ、生粋のデュエリストだなぁと感じる。
「あぁ! 俺もテレビで見たぜ! 『ネオ・ドミノシティ』で開発されたのと、『ハートランドシティ』で開発された新しい召喚方を使うカードの話だろ?」
「そうそう! 今まではそれぞれの街でしか手に入らなかったけど、いよいよ正式に世界中で流通するようになったんだってさ!」
「ルールも全部統合されるんだよな。どっちも融合デッキを使うらしくて、融合デッキ自体……エクストラデッキ、だっけ? 名前が変わったんだろ?」
「なーんかかっこいいよな! 生贄召喚も、リリースとアドバンス召喚に変わってさ! そして新しいカードのデザイン! ドミノシティのが白で、ハートランドのが黒!」
「そう来たかって感じだよなぁ! 確か、シンクロ召喚と……なんだっけ?」
「エクスタシー召喚じゃなかったっけ? こっちはレベルの代わりにランクがどうとかって聞いたけど、何の違いがあるんだろうな?」
「……エクシーズ召喚、な。レベルではないランクになるって事は、レベルに関連する効果を持ったカードの効果を受けつけないとかの特徴があるんだよ」
十代の何やら危ない間違え方を訂正しつつエクシーズについて軽く教えてやると、2人は「ふーん」とか「へー」とか言ってうんうん頷いていた。……その顔、絶対わかってないだろお前ら。
それはそうと、今の会話で俺は再び胃が痛くなってきた。出てきた単語が、俺がよく知るもので、尚且つ、本来であれば同時に聞くべき内容ではないからだ。
『ネオ・ドミノシティ』で生まれた『シンクロ召喚』
『ハートランドシティ』で生まれた『エクシーズ召喚』
それぞれが、遊戯王3作目の『遊戯王5D's』と、4作目の『遊戯王ZEXAL』の要素なのだ……
『5D's』とは、DMの主人公の遊戯が存在していた時代から、数十年の時が経った近未来都市の『ネオ・ドミノシティ』が舞台の作品だ。
発展した煌びやかな都会のネオ・ドミノシティとは対照的に、ゴミと瓦礫とスラム街しかない、『サテライト』と呼ばれる隔絶された街に住んでいる主人公、不動遊星を中心に展開される、明るい出だしのGXと対照的にダークなイメージで始まった5D's。
バイクに乗りながらデュエルするという斬新すぎる設定に、作品の雰囲気もあって最初は視聴者の誰もが困惑していたが、段々とその熱いストーリーとスピード感のある演出に魅せられ、最終的に高い評価を受けたこの作品。舞台は今しがた述べたように、遊戯が居た時代から数十年も経過し、科学技術も発達した近未来だ。遊戯やその仲間たちの居る、DMの舞台『童実野町』が発展してできたものである。
俺の知る原作通りの歴史ならば、の話だが。
ここではもはや、何もかもが違った。
この世界では、現在から15年前、どういうわけだかKC社により童実野町で大々的な都市開発が行われることになり、当初の予定では町全体がネオ・ドミノシティとして生まれ変わる予定だった。しかし、そのあまりにも急速かつ大胆な、異常な進化とも言える開発計画に、多くの住民が反対した。それを受けたKCは予定を変更し、町の半分は以前のまま残す事にし、結果、町の中でドミノシティに変化したのは中心地だけとなり、その周囲を本来の童実野町が囲っているような形になったのだ。
……なったのだが、それ自体は10年前のこと。たった5年で町の中に新しく未来都市を創ってしまったのも驚くが、これ以上に驚くべきはその後だった。町全体の半分の敷地を使い中心地に街を創った後、KCはシティから四方へ向けて、それぞれ専用の道路を開発した。童実野町の『外』へ向けて。つまり、ネオ・ドミノシティとなった街の中心から手を伸ばし、童実野町以外の別の土地を開発対象にし、合併させてしまうことにしたのだ。「お前らの町変えなきゃええんやろ?」という理論でとばっちりを受けた他の街は、あれよあれよという内に変わっていき、ドミノシティの一部となった。そもそも四方の道路を開発すること自体これまた反対されたが、そこはKC社。様々な手段を使いこれを強行。
結局童実野町は大きな4つの道路に分断され、その上ドミノシティと化した別の街に囲まれるような状態になっているのが現在である。
ちなみに、その童実野町出身の克也先輩にどう思ってるのか聞いたところ、「あんまり重く考えたことねーな。むしろシティに行ってみたいんだけど、資金がなぁ……」と言っていた。
初めてこのネオ・ドミノシティの開発の事実を知ったのは随分前だが、当時はかなり困惑した。
自分の幼馴染は遊城十代という、デュエルとヒーローが大好きなGXの主人公だと確信していたから、何でもう5D'sの要素が出てくるのか意味が解らなかった。
ただ、DMから5D'sは時代が違うだけの同じ世界観だったので、DMの登場人物たちが若いままいる時点で、薄々嫌な予感はしていた。
しかし、後で存在を知ったハートランドシティというZEXAL要素に関しては、本当に予想してなかった。 ZEXALからの作品は、それまでの5D'sまでとは違い過去作との関連が薄いため、世界観を共有していない全くの別世界が舞台であるという説が有力だった。故にこれが絡んでくる可能性を勝手に捨てていたのだが、自分はとんだロマンチストであった。
『遊戯王ZEXAL』においてハートランドシティは、主人公、九十九遊馬が住む近未来都市だった。街の中心に『ハートランド』という遊園地があり、ハートのシンボルが特徴的な高い建物が、中心にそびえ立っているのが印象的な街だ。
そしてこの世界では、今では当たり前のようにそう呼ばれているが、始めからハートランドという名前ではなかった。元々は『
そしてその理由が、エクシーズ召喚だった。
詳しく話すと長くなるのでざっくり説明すると、エクシーズ召喚という新システムを考えた心町が、それをI2社に持ち込んだところ見事採用され、エクシーズ関連のカードの販売を一手に担う権利を与えられたのだ。
新しい召喚法という事で、誰もがこれを求めて心町に集まったことで町が活性化し、瞬く間に人口が増加、今のハートランドシティの姿になったという。
ちなみに、エクシーズが発表され、ありきたりな町がハートランドシティへと変貌を始めた頃に、ネオ・ドミノシティで新たに開発されたのがシンクロ召喚である。
……改めてこの世界の歴史を振り返ると、いかに原作遊戯王の世界から逸脱しているかがわかるな。
「いいよなー都会のデュエリスト達はさ。 くうぅ~、早くシンクロやエクシーズを見てみたいぜ!」
「でもよ十代、お前【融合デッキ】使いだろ? それも種類が沢山あるヒーローデッキ。いっつも『融合デッキが15枚制限は枠足りねぇよぉ!』 とか嘆いてたのに、新しい召喚モンスター使う余裕あんのか?」
「自分で使わなくても相手が使って来ればそれでいいの! だってきっとどれも強いカードだろ!? そんなの持ってる奴とデュエルしたら、きっと盛り上がるぜ~!」
「ぶれねぇなぁお前……まぁ、俺も見たい気持ちはすっげぇあるけどよ」
「あー、今すぐにでも皆に行き渡らねーかなー! そしたら片っ端から俺のヒーローデッキで戦うのに!」
「……この辺でシンクロ・エクシーズが浸透するのはもうちょっと先だと思うけど、戦うだけなら、もう今日にでも叶うと思うぞ」
「え!? なんで!?」
「お前、当てでもあるのかよ!?」
俺の言葉に十代と先輩は目を輝かせて詰め寄ってくる。こやつら、自分たちが通う学校の説明もまともに覚えとらんのか……
「忘れたのか? この学校は今年開校の、学校という一つの街みたいなもんだ。下は小学校高学年、上は大学相当までの生徒が、それぞれの校舎で一般の学問と合わせてデュエルの教育を受けるんだ。見ろよ、この辺あちこちデカイ建物が建ってるだろ?」
「……それが?」
「こんな沢山の校舎、この街の入学希望者だけで使うわけないだろ? ここは世界初のデュエリスト養成学校だ。全ての街、いや、世界中から人が集まるんだよ。勿論教師のデュエリストもな」
「あっ……ネオ・ドミノシティからも、ハートランドシティからも人が来るって事か!」
「そういう事です。っていうか、案内パンフレットにそういう事も含めて書いてあったでしょう? ちゃんと見たんですか?」
「……あんない」
「ぱんふれっと……?」
「……存在を知りもしなかった、と」
思わず呆れた表情を浮かべてしまう俺に、2人はごまかすように笑うのだった。「HAHAHAHA!」じゃねぇよ。
……そう、この学校。全ての街からあらゆる学年のデュエリスト志望の生徒がやってくる。
計画発表が去年だったのに、なんでこの規模の建物を建築できたのかとか、そもそもどうして入学希望者がここまで沢山集められたのかとか、色々信じがたいことは多々あるが、俺はそんなことよりも注意しなければない事がある。
要はこの学校、俺が知っていた『本来の遊戯王の世界』では、決して出会う事のなかったはずの人物達が、一処に集まってくる可能性が十二分にあるのだ。現にDM登場人物の克也先輩、GX主人公の十代が出会っている。
それが何を意味するかなんて……嫌な想像しか浮かんでこんでしょうよ……!
俺の予感が当たるとするなら、古代3000年のエジプトのファラオの魂やそれにまつわる3体の神のカード、三幻神を巡っての争いが起こる傍らで、その神のカードに匹敵する三幻魔を狙う悪の集団による事件が起きたり、異世界に学校ごと転移したり、そうかと思えば赤き龍と邪神の5000年周期の戦いに巻き込まれたり、後に未来を救うために今の人間を滅ぼそうとする未来人が襲来したり、その陰で世界を作り出したという一枚のカードを巡って別世界バリアンの住人と命がけのデュエルを繰り広げたり、はたまた洗脳されたり……
ダメだ、やっぱり生き残れる気がしない……そもそも、全ての世代においてデュエルに負けると命やら魂やらを失ったり、カードに封印されたりなんてことが日常茶飯事な作品だったのに、それが一度に4つも混ぜこぜになったら一体何が起きるのか予想がつかなすぎんるだよ!!
いやだぞ、俺は死にたくない! これで何かに巻き込まれて死んだら、何のために生まれ変わったのかまるで意味がわからんぞ!?
「はぁ……」
ため息をつきつつ、俺は隣の2人へ目を向ける。デュエルの話に花を咲かせている十代と克也先輩は、これからこの世界で起こるかもしれない事件の事や、自分たちが命を賭けた殺し合いのデュエルをする事になるかもしれないなど、微塵も想像していないだろう。
もっとも彼等は強い。天性のデュエルの才能を持つ十代は勿論、今は頼りない腕の克也先輩も、ここぞという場面での運の強さは今の段階でも目にする事はある。これから成長すれば、あっという間に俺なんか追い抜かれることだろう。
なら俺は?
カードの知識や、この世界でありがちな低ステータスのカードへの偏見等が無いとはいえ、それでも彼等のような、デュエルの神様に愛されているような強さはない。
もし命のやり取りが発生する勝負で負ければ……待っているのは、あの時経験した、死の感覚。
だが逆に言えば、デュエルで負けさえしなければ、なんとかなるという事でもある。
俺は、正直この世界が怖い。またあの冷たい感覚を味わう事になるのではと思うと、何かに心臓が握りしめられているような錯覚を覚える。だけどそれと同時に、この世界で出会えた仲間と、その絆を繋いでくれたデュエル自体は、かけがえのない宝だとも思っているのだ。
「…………」
やるしかない。幸い、これから行くのはデュエルを教えてくれる学校だ。そのレベルがいか程のものかはわからないが、盗める技術はなんでも盗んで、何が何でも強くなってやる。
誰かを守れるような、なんてかっこいい事は言えないが、それでも。
「……十代、先輩」
「ん?」
「どうした?」
「……俺は、もっと強くなる。このアカデミアで……今よりもっと、ずっと強くなりたい。だから、2人に頼る事が多くなると思う。力、貸してくれ」
この2人に、迷惑をかけなくて済む程度に、自分の身ぐらいは守れるように、強くならなくちゃいけない。
「……へへ! いつだって頼れよ! お前とデュエルするのは楽しいからな!」
「何だよ改まって。お前が俺にまでそんな事いうなんて、明日は雪でも降るのかぁ?」
にかっ! と笑ってそういう十代と、茶化すようでいて満更でもなさそうな先輩に、俺は心の中でだけ礼を言う。
そうだ、迷ってなんて居られない。本当にこの世界に存在するかどうかもわからないが、それでも、敵がいることは覚悟してなければならない。俺が死んだら、きっと彼等の事だ、悲しんでくれるに違いない。涙を流させてしまうに違いない。
それは駄目だ。この2人は、笑ってデュエルしてるのが、一番似合っているのだから。
「……あれ? なんか周りに人がいないぞ」
「? そういえばそうだな。残ってる奴もいるけど、皆走ってるな」
「……! 先輩時計! 時計見せて!!」
「え? 今は……7時57分だぞ?」
「ごじゅっ!? 入学式は8時に第一体育館なんですよ!? 何で俺たちこんな時間までまだ道路にいるんだ!!」
「げぇ!? マジか!?」
「駄弁りながならノロノロ歩いてたせいか!?」
「初日に遅刻とか目立つから嫌だ! 俺はもう先行きますからね、んじゃ!!」
俺は2人を置き去りに、デュエルディスクで若干重くなった鞄を背負い直して桜の花びらが散らばったピンクの道路を走り抜ける。
「あぁ!? 置いてくなよ『遊我』ー!!」
「てめーこら抜け駆けかよぉ!?」
後ろで慌てて後を追いかけてくる2人を無視し、俺はただ、前だけを見て走り続けたのだった。
更新速度は遅い模様
タッグフォース新作が出たら本気出す