平行世界融合! 生き抜け、遊戯王(謎)ワールド! 作:手のひらをセットしてターンエンド
A:デュエルリンクス楽しいれす(^q^)
俺たちが指定されていた体育館に駆け込むと、既に大人数の生徒たちが集まっていた。
通常の学校における体育館の10倍はあろうかという広さを見て、先輩と俺は軽く引いた。十代はすげーすげーと喜んでいたが。
大きく円を描くように設置された、下を見下ろすような形になる沢山の座席には、子供から大人までの幅広い年齢の男女が座っている。体育館中心の床に白線で描かれた四角形を見るに、体育館というよりデュエル場として使われるのが主なのだろうか。ともすれば観客席となるであろう席は、既に人で埋め尽くされていて、少なくともここから見える範囲に空いている席は見当たらない。
ガヤガヤと人の話し声が収まっていないのを見るに、ギリッギリ入学式には間に合ったらしいが、座る席が分からないと立ちっぱなしになってしまう。
「えっと、どこに座ればいいんだ?」
「遊我、お前は知らないのかよ!」
「さすがにそんなことまでは知らないって。誰か学校関係者に聞ければいいけど……」
辺りを見回してそられしき人を探してみるが、教員やスタッフらしき大人は、皆慌ただしく動いていて声をかけ辛い。どうしたものか。
三人で逡巡していると、俺の目にある男性が目に入った。
背が高い上に細身のせいなのか、ちょっとひょろ長い印象を受けるその男性は、何故か一匹の猫を抱えて壁を背に立っていた。
後ろで束ねられた長めの黒髪を揺らしながら、ニコニコと集まった生徒達を眺めている。
俺の視線に気づいたのか、もしくは、席がわからんと慌てている騒がしい後ろの2人に気づいたのか、眼鏡をかけた細い糸目をこちらに向けて、彼は笑顔でこちらに向かってきた。
「今来たばかりですかにゃ?」
「え?」
「……『にゃ』……?」
「あぁ、これは私の口癖だから、気にしないでほしいにゃ。それで、生徒さんですにゃ? 席を探してますかにゃ?」
十代と克也先輩に怪訝な顔で見られたせいか、若干困った顔をしながらそう尋ねる男性。
「はい、そうです。俺は1年の八神
「じょ、城之内克也! 2年っす! 宜しくお願いします!」
「俺は遊城十代! あんた、先生なのか?」
「おい十代、先輩はともかく先生にくらい敬語を……」
「俺はともかく!?」
「はは、別に気にしなくていいにゃ。子供が元気な事に越したことはないですにゃ。私は大徳寺と言いますにゃ」
(……知ってる)
大らかさそうな和かい笑顔で自己紹介をする先生に対し、一人心の中で呟く。
「お察しの通り、この学校で教師を務めますにゃ。気軽に大徳寺先生と呼んでくれて構わないにゃ」
「先生、俺たち今来たばっかで自分の席が分からないんスよ……どうすればいいですか?」
「大丈夫ですにゃ。今回は学年順とか、名前順で決まった席に座るわけではありませんにゃ。自由に好きな席に座ってくださいにゃ」
「なんだそうなのか! じゃあ急いで空いてる席を――」
「……と言いたいんだけど、実はもう席がほぼ埋まっちゃてるにゃ。反対側まで行けばまだ空いてるとこもあるんだけどにゃ、あそこまで行ってると式が始まっちゃうにゃ」
申し訳なさそうに眉毛を下げて大徳寺先生がそう言うと、腕に抱かれた猫――恐らく名前はファラオ――がまるで謝るように顔を下げた。……偶然だよな?
「パイプ椅子ならいくらでもあるから、この辺りの人が通るのに邪魔にならない場所に置いて座って貰えると助かるにゃ。すぐそこに幾つか置いてあるにゃ」
「それで構いません。遅れてきた俺たちが悪いんですし」
「パイプ椅子ってことは、好きなとこに座れるって事だろ? 運がいいぜ! 入学式で何するかわかんねーけど、真ん中がよく見える場所に行こうぜ!」
「その発想は無かった」
どこまでも前向きな考え方……と言うより多分素でそう思っているのだろう十代は、壁に立てかけてあるパイプ椅子をひとつ抱え、ベストポジションを確保すべくいそいそと歩き出した。
「いいか十代、邪魔にならないとこ、だぞ!」
「わかってるって! んー、ここだと遠いな……もうちょっと前の方行ってもいいかな!」
「……先輩、俺たちも行きましょう。十代を放っておくと何が起こるかわからないですし」
「だな。あ、教えてくれてありがとう先生! これからお世話になりまーす!」
「はーい、転ばないように気を付けてにゃー」
終始笑顔で俺たちの対応をしてくれた先生は、こちらに手を振ってからどこかへと去っていった。
その背中を見やりつつ、十代に続いてパイプ椅子を抱えるていと、克也先輩が話しかけてくる。
「なんか、いい感じの先生だったな! 軽い悪戯も笑って許してくれそうな感じっつーか」
「……悪戯する予定があるんですか?」
「ちげーよ!! ものの例えだ! 優しそうだよなって話だよ!」
「……まぁ、そうですね」
「ここの先生たちが、皆あーゆー感じならいいなぁ」
俺は先輩の話をぼんやりと聞いていた。克也先輩は、大徳寺先生に対しいい印象を受けたようだ。ろくにお礼も言わず行ってしまった十代も、恐らくはそう感じているだろう。初対面の大人でありながらタメ口で話したのも、なんとなくそういう雰囲気を先生に抱いたからかもしれない。
しかし、それが全てではないはずだ。俺が知っていた大徳寺という人間と、今出会った優しい先生の経歴が同じなら、警戒しなくてはならないだろう。
◇
俺と先輩が十代を見つけると、十代は自分の隣に座るよう促してきたのだが、それは観客席最前列の階段部分だった。
何しれっと邪魔になる場所に座ってんだと先輩がツッコんだが、十代はそれに対し、必要な時に椅子を畳んでどけばいいだろ? と返す。それにしても最前列は露骨すぎだろうと言いたくなったが、もう予定の8時は数分過ぎた。致し方なく、俺たちは十代の傍に椅子を立てて座る。
周囲の「何なの、この人たち……」的な視線が突き刺さるのに耐えていると、十数人の大人を引き連れて、髪の薄い、というか完全に無毛のおじさんが、体育館中心にやってきた。
俺はこの人の事も知っている。どうやらここでも役割は同じらしい。
彼はふくよかなお腹を揺らしつつ、用意されていたマイクに手を取り、わざとらしく「オホン」と咳をしてから語り始めた。
「えー、ただ今より、入学式を始めさせていただきます。私はこの学校の校長を務めさせていただく、鮫島と申します」
当たり障りのない出だしから始まった、校長先生のありがたい演説が始まるのを予期してか、早くも克也先輩はうんざりしたような顔をしている。
「まずは、この度我が校への入学をご決断してくださった新入生徒の皆さんに、感謝と歓迎の言葉を送りたい。ありがとう! そしてようこそ! 我が校、デュエルアカデミアへ! 本校は世界初の、デュエリストを養成するための教育委機関であります。ここにいる皆さんは、既に十分に理解していることだとは思いますが、ここで最も重点的に学ぶのは、デュエルモンスターズです。このカードゲームが誕生したのは、今から大よそ15年ほど前……調度、今のネオ・ドミノシティの開発が決まった頃と同じです。当時はまだカードゲームという物自体が、子供の玩具としてしか認識されておりませんでしたが、次第にその奥の深い本質が認められていくにつれ、今ではこのような学校が成立する程にまで大きく発展しました。思えば私がデュエルモンスターズに出会ったのは――――」
鮫島校長の話は、デュエルモンスターズの歴史から自身の思い出話にシフトし始めた。なかなかに長話になりそうだな、と、俺自身も少々不安を覚え始めた。が、そうは言ってもまだ始まってから1分も経過していない。今この場で早々に居眠りなど始めたら、それこそ色んな方面から注目されるだろう。
だから……
「早速船漕いでんじゃねーよ……!! 起きろ十代……!!」
「……んんん、むにゃ……」
「『むにゃ』じゃねえ……!!」
十代が早くも夢の世界に旅立ってしまった。しかも最前列でだ。他の生徒たちからは白い目で見られているし、前方の教師陣にも今にも気づかれるだろう。先輩は先輩で眠りこそしないが堂々とでかいあくびをしている。駄目だこいつら……早くなんとかしないと……
「――――その時初めて組んだデッキでのデュエルは、散々なものでした。対戦相手にこっぴどく負けてしまいましてねぇ。既にいい大人だった私ですが、年甲斐もなく悔しく思ったのを今でも……」
当の話をしている鮫島校長は、語りに夢中でこちらに気づいてはないらしい。今の内にせめて十代だけでも目を覚まさせねぇと……! 学校って変なところで連帯責任とか問われる事あるからね……『後で職員室に来なさい』とか校内放送されるのは嫌だ!
俺が必死に十代の顔を抓ったり足を蹴ったりして居た時だった。
「――――ですが、その悔しいと思う心こそが、デュエリストを成長させるのに必要な――――」
『時間だ鮫島。終わりにしろ』
突然、館内全体のスピーカー越しに男性の声が響き渡った。
尊大な印象を受けるその声が聞こえると、その場にいたほぼ全ての生徒達がざわつき始めた。
かくいう俺も実は心臓が一瞬跳ねた。まさか、ここに来てるのか!!
「なっ、ですがまだ話し始めたばかりで……」
『歳寄りの無駄な長話に付き合うつもりなど、少なくともこの俺には無い。さっさと切り上げて下がれ』
「そ、そんなぁ……オホン、という事ですので、とにかく! 皆さん、入学おめでとう! この学び舎で仲間と共に切磋琢磨し、立派にデュエリストを目指してください!」
がっかりした様子の校長は、無理やり話を終わらせて、肩を落としながらその場を後にした。しかし、そんな校長の様子を気にしていたのはどうやら俺ぐらいのようで、ざわつきはどんどん強くなっていく。
隣の克也先輩を見ると、長話から即解放されたにも拘らず、その表情は先ほどよりも更にうんざりとしたものに変わっていた。まぁ、彼の場合はそうだろう。この声の主とは中学時代からの犬猿の仲らしいし。
「……俺、奥の方に席変えようかな……」
「却って目立つでしょ。諦めてここに居た方が無難ですよ」
「何であのヤローがここに居んだよォ……!」
「そりゃまぁ、オーナーだし、来ててもおかしくはないですよ。ほれ、十代! いい加減起きろ! いいところだぞ今!」
「んえ……何……? もう終わったか……?」
――――ガコンッ!
唐突に、大きな音を立てて全ての明かりが消えた。いつの間にか、窓も全てカーテンがかかっていたのか、外の明かりも無く、体育館内は完ほぼ闇と化した。しかしそれは一瞬の事で、先ほどまで校長が立っていた場所にだけスポットライトが当てられる。
その光景にざわつきはいよいよどよめきに変わり、生徒達の興奮はピークへと達しそうだ。
ライトが当たられていた一部の床が、駆動音と共に左右に開き始め、それと同時に下から人影が迫りあがって来る。更には天井から、大きな画面が四方に向けて設置された大型装置が降りてきた。映像が表示され、上がって来た人物の顔をはっきりと映し出す。
――――ワアアアアァァアァァーーーー!!!!
遂に完全な歓声となった生徒達のそれは、会場全体を揺らすかのような勢いになっていたが、それでもなお目立とうとするかのように上がり続ける足場に立っていた男が、手にしたマイクに向かって語りだした。
「諸君ッ!! よくぞこの学舎の門を叩いた!! 俺がこのデュエル・アカデミアの最高責任者にして、最強の決闘者……海馬瀬戸だ!!」
背後に「ドン☆」とかの擬音が浮かんできそうなド派手な自己紹介をかました海馬社長を目にした十代は、椅子から立ってはしゃいでいる。対してその社長と同級生の克也先輩は心底不愉快そうな表情を濃くしていった。ドンマイ。
俺? 俺はテンション上がってるよ。だってあの社長だよ? 遠巻きに見てる分には面白いしかっこいいから好きなのだ。お近づきにはなりたくないけどね。
床と天井の間の中心辺りでやっと停止した足場の上で、海馬社長は冷たげな、それでいて灼熱の炎を思わせるような光を宿らせた瞳で、ぐるりと観客席の生徒達を一瞥してから語りだす。
「俺はどこぞの老人と違い、長話をする気もなければまして無駄な話もする気はない。よって単刀直入に、ここに居る諸君らに尋ねる」
海馬社長の言葉に、騒ぎ立っていた者たちがすぐに静けさを取り戻し、その声に耳を傾ける。
やはり、海馬瀬戸と言う男は良くも悪くも凄い人物だ。尊大でありながらどこか人を引き付けるカリスマ性を持っている。だからこそ大企業の社長も務まるのかもしれない。
「諸君らは、何のためにここへやってきた?」
その言葉に俺達は怪訝な表情を浮かべた。デュエルの学校に来てんだから、デュエルの勉強をするためだろう、と言いたいところだが、恐らく彼が聞きたいのはそういう事ではないだろう。
このデュエルアカデミア、デュエルを学ぶと一言にいっても、その方向性は多岐に渡る。
単純にプロのデュエリストを目指し、プロで食べていく事を想定した教育も受けられれば、カードのデザイン、つまりデュエルモンスターズの制作に携わる側を目指すためのプログラム、はたまたこの学校の先生のような、デュエルを教える教師を目指すこともできる。そのため入学する際に、何を目指しているかや、何を一番伸ばしたいかなども面接試験で問われている。
尤も、今あげたような具体的な将来を見据えた目的が無くとも、この学校は生徒を受け入れるらしい。現に俺や十代は特別デュエルを何に生かしたいというような事は言っていない。ただ強くなりたいとか、デュエルが好きだから、といった動機でもいいのだ。
だからこそ、彼の真意が読めない。それぞれの理由はわかっているはず。つまりそれを承知の上でこの質問を投げかけている。
「これだけの人数だ。理由もまた千差万別だろう。思い描いている未来のビジョンがある者にせよ無い者にせよ、何らかの理由で、この……世界初の決闘者養成学校へ来たはずだ」
お喋りをする者も、軽口を叩く者も居ない。全ての生徒が、海馬瀬戸の一語一句に集中していた。
「デュエルのプロを目指す者……デュエルを創る事を目指す者……デュエルを教える事を目指す者、デュエルで強さを求める者、楽しいからデュエルする者……他にも様々だ。これらはそれぞれ違う道だが、1つだけ共通していることがある。それは何か……」
そこまで言って海馬社長は、視線を動かし何かを探し始めた。やがて人差し指を立てて、どこかを指差さした。
「そこの小僧、答えてみろ。胸に金のペンダントを下げた貴様だ」
彼そう言うか言わないかという位の速さで、社長を照らしているものとは別のスポットライトが観客席を照らしだす。どうやら質問する相手を探していたらしい。選ばれたのは俺たちのいる場所とは反対の、向こう側の席に居る一人の生徒。画面にも大きく映し出されたその姿を見て、俺は思わず声を上げそうになった。
『え゛……も、もしかして俺……!? うわっ、映っちゃってるよ!?』
「そう言っている。答えろ。今俺が言ったお前たちの異なる目的の中、共通している事は何だ?」
『え、ええっと、共通してる事……えっと、えっと~……何だっけ、プロを目指すのと、デュエルを創るの……教えるのと……!?』
『もう遊馬……! しゃきっとしなさいよ……!?』
『だ、だってよぉ! いきなりこんな事聞かれても……! 教えてくれよ小鳥ぃ!』
『こら私を巻き込むなぁ!? 遊馬が聞かれたんでしょう!』
画面には、テンパって幼馴染に助けを求める4代目主人公、九十九遊馬と、話を振られて同じくテンパっている様子の4代目ヒロイン、観月小鳥が映っていた。
うん、予想はしてたよ……多分来てるんだろうなって思ったよ……アストラルはもう居るのかい? できれば俺達の周りでナンバーズ騒動はやめてね……
「難しく考えるな。貴様のような凡人でも少し考えれば解ることだ」
『いやでも、えっと、んんん~~!?』
『……もーほんっとに馬鹿っ……!』
未だ答えがピンと来ない少年と、それに呆れた様子の少女による漫才じみた応報に、他の生徒や先生までもが笑いをこぼしていた。
ウンウン呻っている九十九遊馬の隣で恥ずかしそうにうつむく美少女観月小鳥。
うーん、なんというか、アレだな。
「……爆発しろッ……」
「ん? 遊我、何か言ったか?」
「なんでもない」
畜生うらやまけしからん……俺も可愛い女の子の幼馴染に恵まれたかった……俺の幼馴染枠はデュエル馬鹿の男だもんな……
それはともかく、この質問の答えは、社長が言う通り難しく考える必要はないだろう。答えは社長がさっきから何度も口にしている。
『あーもう! こうなりゃやけ! かっとビングだオレーー!! 共通しているもの、それは……「デュエル」だ!!』
『ちょ、ちょっと! そんな当たり前の事なわけ……』
「その通り、デュエルだ。今ここにいる諸君らの異なる目的……それら全てには、当然ながらデュエルが関わる」
諦めず挑戦する心で見事正解を勝ち取って喜ぶ遊馬と、意外と単純な答えに拍子抜けしている小鳥が映っていた画面は、再び海馬社長の顔に切り替わった。話が再開されることを理解して、皆の間に再び静寂が訪れる。
「そして、デュエルとは勝者と敗者を決するゲーム……『
一言発するごとに強まる社長の語りに、俺を含め生徒達の間に緊張が走る。あの克也先輩までもが、憎き同級生を真剣な眼差しで見つめている。
「故に、俺はここではっきりと伝えておく……『少しくらいデュエルが弱くてもいい』、『そこまで強くなれなくてもいい』などと思っている者が居るならば、即刻この場から立ち去れ!」
吐いて捨てるように放たれたその言葉に、人気の高い有名人の登場に浮ついていた誰もが、頭から冷水をぶっかけられたかのように凍り付いた。
「デュエルとは戦いだ!! そして人生もまた戦い!! 戦場において……自身が弱くても良い、強さが無くとも良いなどと考えるのは、戦うことを放棄した、敗者にも満たない逃走者だけだ!!」
俺の額を汗が伝う。館内は熱くはない。ただ、俺の体の内のどこかで、炎が揺らめているような感覚を覚えた。
「プロデュエリストのような、デュエルの勝敗が直接その後を左右するものに限らず、それがどんな夢、未来であっても、戦わずして己が未来を切り開く事は無いと知れ!!」
周りの人や風景が、白にかき消されていくように錯覚する。俺は今、一人の絶対的な強者しか見えていない。
「この世界で生きる以上、常に人は戦わねばらぬのだ!! どんなに小さな願いでも、それを手にするための刃を磨く事を怠る者に、明日を手にする力は永遠に備わらんッ!! 『勝ちたいと願うプライド』こそが、人間を成長させ、新たなステージへ進化させる、だ!! 誇りを失った人間など、既に死んでいるも同然!!」
手のひらの痛みに気づいてその手を見やると、知らず内に拳を握っていた。感覚が麻痺して、握りしめたままうまく動かない指を少しだけ開くと、爪が食い込んだ後がばっちり残っている。
俺は半ば傷になりかけのそれを見た後で、再び拳を強く握りしめた。
「このデュエル・アカデミアという戦場に足を踏み入れるのであれば、勝利への渇望を絶やすことなく、戦い続けろ!! それができぬ者は、容易く淘汰され、瞬く間に明日の光を失うだろう!! 故に尋ねた……諸君らに、勝つ意思があるのか! 本物の
それは、これから健全な学校生活を送るべき生徒達に投げかけるには、あまりに苛烈で無常な言葉にも思われる。
ともすれば反感さえ抱かせかねない海馬瀬戸のその言葉に、俺は不思議と、不快感を一切感じなかった。代わりに抱くのは、痛いくらいの、胸の疼き。灯された小さな火が、燃え盛って出口を求めてるかのように、体の中で何かが滾っている。
「……ではもう一度言う! この中にまだ、負けても、強さを得られずとも構わないと考える逃走者は、背を向けてここから出ていけ!!」
静まりかえる体育館。
誰もが言葉を発さず、その場を動かない。
ただ言葉が出ず、動けないから動かない人も、中にはいるかもしれない。
でも俺は違う。
何も言わない。動かない。
口に出す必要が無いから。背を向ける理由が無いから。
それはきっと、十代も、先輩も同じだろう。わざわざその顔を見ずとも、様子を伺わなくとも、近くに居るだけでその闘志が沸き立っているのが伝わってくる。海馬瀬戸の事を嫌っている先輩に限らず、今この場に居るほとんど誰もが、彼のナイフの様な鋭い視線から目を逸らさず、睨み返しているのだろう。
しばしの沈黙が続いた後、社長は満足げに口角を釣り上げると、その純白のコートを翻し、広げた右手のひらを突き出し、叫ぶように言った。
「ふぅん、ならば突き進め!! そして証明してみせろ!! 自分がこの世界に生きる、決闘者である事を!! 諸君らにその意思が存在する限り、このデュエルアカデミアはいつでも助力を惜しまん!!」
突き出された右手は、やがて天を突きあげるように掲げられてから、何かを掴み取るように、力強く握りしめられた。それはまるで、既に多くを手にしている海馬瀬戸と言う男が、それでもなお先を欲し、戦い続ける事への意思表示のようにも見えた。
「戦いに戦いを重ね!! 勝利と敗北を積み上げ!! 己が欲する未来を掴み取るがいいッ!! この先の新時代を創り上げるのは、お前たちだぁ!! ワアァーーハハハハハハァァーーー!!」
その特徴的な高笑いが響き渡れば、それに続いて生徒達の、荒々しい咆哮にも似た、轟音のような大歓声が体育館を揺るがすのだった。
俺は歓声こそ上げなかったが、興奮しているのか鼓動が早く感じる。ここにじっとしているのがじれったい感じだ。
十代は立ち上がって聞いた事もないような雄たけびを上げているし、先輩は未だに社長を睨みつけている。ただ、その目に宿る感情は、忌み嫌う人間をやっかむようなものではないように見える。きっと、「必ずいつかてめーを超えてやる!」、なんて決意をしているのだろう。険しい道になるだろうが、先輩ならいつか成し遂げるだろう。
やがて歓声に大きな拍手が混ざり始めた辺りで、長く続いていた社長の高笑いも落ち着き、再びマイクで話始める。
「静粛に! 諸君らの覚悟が確認できたところで、今日からこのデュエル・アカデミアの生徒となる諸君のために、この俺が一つ余興を用意した」
やっと落ち着きを取り戻したところへ、更にまだサプライズがあると聞き、再びざわつき出す生徒一同。
目をキラキラさせて期待に胸を膨らます十代と違い、克也先輩は微妙な表情だ。
「余興だぁ? 何を始めようってんだ海馬の奴……」
「何すんのかなぁ! 海馬瀬戸の映画とかかな!?」
「んなわけあるか! もしそうだったら俺は寝る!!」
「俺、それはそれでちょっと興味あるな……」
「マジかよ遊我!? 正気か!?」
十代の発想にちょっと興味を示しただけなのに、先輩に正気を疑われた。真に遺憾である。
「では、その余興に必要不可欠な、今日のために招待した特別ゲストを紹介しよう!」
パチンッ! と、海馬社長がその長い指で音を鳴らすと、新しいスポットライトが、社長が出てきた床の隣を照らす。直後に先ほどと同じように床が開いた。
ゲストと聞いて、海馬瀬戸に続いてまだ有名人が来るのかと、皆の期待のボルテージが上がっていく。
(この状況で行う『余興』、そしてあの海馬社長が呼ぶ位だもんな。結構名の知れているデュエリストなんじゃないかと予想するが……誰だ?)
俺のその疑問の答えは、ゆっくりとその正体を現した。
その人物が何者か理解して、俺は本日2度目の衝撃を受ける。
社長と違って内側は青紫だが、基本カラーが同じ白のコートを羽織ったガタイの良い高身長。
首には黒のチョーカーとシルバーのネックレスをつけている。
細長く伸びばしたもみあげのセットが特徴的なその髪は、輝くような金色だ。
そして、どこか海馬社長にも似たプライドの高そうな切れ長の目。
……はは、成程、確かに有名人だ。それも超が付くほどの。
この世界に住む誰もが、一度はその名を耳にしたことだろう。
2年前にネオ・ドミノシティで開催される大会で優勝してから、公式戦では今日までただの一度も敗北していない、事実上の『シティ最強デュエリスト』だ。
その名も……
「――――キングは一人!! この俺、ジャック・アトラスだ!!」
彼が人差し指を頭上に掲げて声高に宣言すれば、再びつんざくような歓声が響き渡る。今回は女性の黄色い悲鳴じみたものが多いような気もするが。
「ま、マジかよ……!! 本物のジャックじゃねーか!!」
「ジャック・アトラス……? って、誰なんだ?」
「……お前知らないのか十代。テレビとか見てるか?」
「お前デュエル馬鹿の割にそういう情報には疎いな! あのネオ・ドミノシティで2年間王座を守ってる、世界全体でも最強格デュエリストだって言われてんだぞ!!」
「そ、そうなのか!?」
ジャック・アトラス……遊戯王3作目、5D'sにてライバルキャラとして登場した人物。原作では登場初期と後期とで、性格が孤高のキングからシリアスもギャグも両方こなす元キングと化した人。ネタ的にも純粋なカッコよさ的にも人気があるという点で、やはり海馬瀬戸と似た部分が大いにある。
尤もそれは原作での彼の話なので、こっちではずっと孤高のキングのままかもしれないし、原作知識だけでここ居る彼を判断する事はできない。
こっちでは2年前に突如シティで名を上げ始め、あっという間にシティでの全ての大会で優勝と言う結果を残し、最終的にシティ内でのみ行われている『特殊なデュエル』でも最強の位置に君臨し、今も挑戦者に対しその実力を振るっている。
「では早速、貴様には今からデュエルをしてもらうぞ、『キング』よ」
「フン、年上を呼びつけておいて、労いの一言も無く貴様呼ばわりとはな。態度のでかい男だ」
「ふぅん……そんなものを求める位なら、強者とのデュエルを望むのが貴様の在り方だと思っていたがな」
「……冗談だ。あの海馬瀬戸が俺を指名してきたのだからな。出向かぬ理由もない」
周囲の生徒は、あの海馬とジャックが会話しているという事で興奮気味のようだ。
俺はと言うと彼等とはちょっと違う理由で二人の会話に興奮している。
あの社長と元キン――こっちじゃ元じゃないか――が喋ってるだけで、この世界に来たのもの存外悪くないのではとか錯覚してしまう程には、夢の競演にゾクゾクしていた。
「それで、俺は誰とデュエルすればいい。新入生徒全員を揉んでやれと言われても、加減はできんぞ?」
「そんなつまらん事はさせん。今ここにいる連中は、所詮まだ弱小デュエリストだ。いきなり貴様レベルの者を相手どっても、一瞬で地に伏すのが落ちだ。何より、貴様自身そんな事はやりたくもないだろう? 望むは自身と同等、否、それ以上の敵との全てを賭けた全力の勝負のはずだ」
ジャックの問いに、一瞬生徒達がキングとデュエルできるのかと期待したようだが、社長にばっさりと否定されて肩を落としていた。
……十代、落ち込むな。多分もっと面白いもの見れるから。
「ほう……ならば、そんなレベルの決闘者が相手をしてくれる……というわけか?」
一方社長の答えにジャックはニヤリと獰猛な笑みを浮かべて言う。
もうこれ誰が相手が確信しているよね。俺も確信してる。
「当然だ……貴様など所詮、シティという井の中に住む蛙でしかないことを、この俺が思い知らせてくれるわ!!」
「! 言ってくれるな……! 安い挑発だが乗ってやろうではないか!! そんなに見たいというなら見せてやろう! 大いなる我が力を!!」
再び会場全体が震えた。皆もはや声を上げるだけでなく、体が動くほどに興奮を隠せなくなってしまったようだ。
「あのヤローが……ジャックと戦うってのか!?」
「うおおおおぉ!! どっちが勝つんだぁ!? 無茶苦茶わくわくするぜー!! なぁ、遊我はどっちが勝つと思う!?」
「さぁな……! こればっかりは誰にも予想つかないだろ……!!」
ここに来た当初の誰もが、全く想定していなかった、最強対最強の一戦。
余興と言うにはあまりに贅沢すぎる戦いが、今、幕を開ける……!
最初のデュエルは主人公のデュエルかと思った?
残念! ライバル対決でした!
肝心のデュエルパートは次回に持ち越しだけど、なるべく早く上げたいなぁ(願望)