平行世界融合! 生き抜け、遊戯王(謎)ワールド!   作:手のひらをセットしてターンエンド

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Q:年越すどころか春になって新元号発表までされて令和までカウントダウンって時まで何してたわけ?

A:リンクスで勝てない→それなりの額課金する→大爆死→それでも当たったカードでデッキ組むも勝てない→何もかも嫌になる(!?)→創作意欲減退→レガシーオブデュエリストなるゲームソフトの販売が近い事を知る→復活(今ここ)


第3話「龍VS悪魔・魂と魂」(前編)

 

  生徒達の興奮冷めやらぬ中、海馬瀬人とジャック・アトラスは、それぞれの立つ足場の上から互いに睨み合った。

  どちらも世界に名だたる強肩デュエリスト……奇しくも、両者ともにドラゴン族のモンスターをエースとし、そのプレイスタイルも、圧倒的なパワーで正面から叩きのめすのが主な戦術だ。

  それがこれから、公の場で初めてぶつかり合う。その光景を自分の眼で見られるのは非常に幸運なことだろう。

 

 

 

「……お互い決闘盤は持っているだろうが、せっかくだ。この場所専用のソリッドビジョンを搭載した、このデュエルリングで勝負を行う!」

 

「いいだろう。相手のホームグラウンドで勝利してこそ、真のキングのエンターテインメントだ!」

 

「ふぅん……いい度胸だ! ならばその手すりの青いボタンを押せ!」

 

「! これか」

 

 

 

  ジャックが足場の周囲に備えられた手すりに触れる。俺たちからは見えないが、何かスイッチがあったようだ。

  ブォン……という音と共に、ジャックの周囲の空中に、半透明の青白い何かが浮かび上がった。

 

 

「これは……!」

 

「それが我がKCが開発した……質量を伴うソリッドビジョンだ! デュエルにおいては安全面なども考慮し、まだそのようにカードを置くプレイテーブルのような物しか対応していないが、いずれはカードのモンスターにも質量システムを搭載する予定だ」

 

「質量を持ったソリッドビジョン……!?」

 

 

  さらっと爆弾発言をした社長に、ジャックだけでなくその場の誰もがどよめいた。

  それアーク次元の話じゃないのかよ……! 皆は期待してるようだけど、俺は不安なんだが! 安全面考慮してるとはいえ、破壊活動とかの悪用待った無しなのでは!?

 

 

「しつりょう……ってなんだ?」

 

「お前は本当にものを知らねーな! 質量ってのはだな……えっと……あれ、なんだっけ……?」

 

「簡単に言えば、実際に人が触れて、現実に存在している他の物体に影響を及ぼせる立体映像ってことですよ。良かったな十代。いつかE・HEROにおんぶとかして貰えるぞ」

 

「何でおんぶだよ!? でも、すげーなそれ! 俺のモンスターが触れたら……! まずフェザーマンに握手してもらおう!!」

 

「……純粋だなぁお前……」

 

 

  モンスターが完全実体化したらやりたい事が、ヒーローと握手かぁ……眩しいぜ……

  本当、俺や隣で「触れるって……つまり、そういう事でいいのか……!? そういう事だよなぁ!?」とか言いながらニヤついてる先輩とは違うね。俺たちはとっくに汚れちまってるよ……悲しい男の性とも言う。お前はそのままの綺麗な十代でいてくれ……闇落ちとかしないでよ本当。させる気も無いけど。

 

 

「その表示されたホログラムがそのままデュエルの盤面だ。そこにカードを置けば落ちること無くその場に留まる」

 

「なるほどな……まぁ、見た目が変わっただけだ。俺のデュエルでやる事は変わらん!」

 

 

  ジャックはそう言うと早速デッキを取り出し、右手側に表示されたデッキ置き場に設置する。あくまで空中に浮かぶ映像であるにも拘らず、社長の言う通りカードは落ちる事無く浮かんだままである。驚いたな、どういう技術なんだ……

 

  更に天井の四面ディスプレイに表示された、クローズアップされているジャックの手元を見て俺は唸った。

  普通デュエルの盤面と言ったら、カード置き場である長方形を、同じ方向に整列させた物の前にプレイヤーが位置するスタイルなのに対し、このホログラムは置き場所がプレイヤーの周囲を囲むような、楕円型に広がった盤面の中にプレイヤーがいると言ったデザインになっているのだ。

  まるでSFロボットアニメのコックピットの様だ。

  さっきは質量を持った映像とか危ねぇ、と思ったが……やばいカッコイイ。使いたい。

 

 

 

「準備はできたようだな……精々一瞬で散らぬよう必死で耐えて見せろ!」

 

「フン! 吠えていろ! 王者の進撃に耐えねばらんのは貴様の方だ!!」

 

「フフフ……!! 良かろう、では始めるぞ!! ルールは現時点での公式戦ルール!! 後のスケジュールも考慮し、制限時間は20分!! デュエル開始の宣言をしろ、鮫島!!」

 

 

 

  海馬社長の突然の指名に「わ、私が!?」と、たじろぎながらも嬉しそうに立ち上がってマイクを手にする鮫島校長。

 

 

「え、えぇとそれでは……皆さん! この素晴らしい日に、なんと素晴らしいデュエルが見られることでしょう! 私も胸がどきどきして――」

 

「前置きは要らんッ!! さっさとしろ鮫島ァ!!」

 

「デュ、デュエル開始イィィ!!」

 

 

 

 

 

『デュエル!!』

 

 

 

  怒号にビビり気味の校長の宣言により、ついに戦いの火蓋が落とされた。

  同時に観客席の生徒達から、双方に対して熱烈な声援が飛び交う。……若干ジャック側に女性人気が多い気がするが。

  ソリッドビジョンの起動音が鳴り響き、両者に4000のライフポイントが割り振られた。

  システムにより先行が自動的に選択される。先に動く権利が与えられたのは……

 

 

 

 

「ふぅん、先行は俺のようだな……!」

 

「構わん。挑戦者には初動を譲るのがキングというものだからな!」

 

「ならばその初動で詰め(チェックメイト)にしてくれるわ!! 俺は手札から速攻魔法、《手札断殺》を発動! 互いのプレイヤーは手札を2枚捨て、2枚ドローする!」

 

「……2枚捨て、ドロー。フン、どうした。いきなり手札交換とは、そんなに手札が悪かったか?」

 

 

  カードをドローしつつ、ニヒルな笑みを浮かべ挑発するジャックに対し、これまた獰猛な笑みで返す社長。慣れた手つきでカードを捨ててドローすると、同じ高さにいる筈の相手を、遥か高みから見下ろすような視線を向けて言う。

 

 

「手札が悪いかだと? 逆だ間抜けめ。今の動きを止められぬ後攻に選ばれたことを悔いるがいい……!!」

 

「! 何だと?」

 

「この瞬間《手札断殺》により墓地に送られた《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》のモンスター効果発動!!」

 

 

  社長が宣言したカード名に一瞬ギョッとする俺。確かにこの世界はシンクロもエクシーズも存在するが、もう既に持っているとは……!

 

 

 

「《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》? 知らないカードだなぁ。遊我、聞いた事あるか?」

 

「……あれはレベル1のチューナーモンスターだ。チューナーってのはシンクロ召喚を行うのに絶対必要なカードなんだが……」

 

「シンクロ召喚に!? まさかあの野郎、もう自分もシンクロモンスターを持ってんのかよぉ!!」

 

 

  軽くチューナーの説明を入れながら十代にカードの説明をすれば、自分の知らないシンクロモンスターを手に入れているのかと先輩が焦りにも似た嫉妬の声を上げる。

 

 

「それはまだ分からないです。だけどあのカードは、シンクロに使えるだけじゃない……!」

 

 

 

  そう、あのカードの真価は墓地に送られてこそ発揮する!

 

 

 

「このカードが何らかの方法で墓地に送られた場合、俺はデッキから、このモンスターを手札に加える……!! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を手札に!!」

 

「何!? ブルーアイズ専用のサーチカードだと!?」

 

 

  ジャックがその効果内容に驚愕をあらわにするが、それは見ている生徒達も同じ様子。いきなり伝説のレアカードが手札に呼び込まれたとあって、期待値が一気に膨れ上がる。

 

 

 

「なんだそりゃあ!? どこから墓地に送られても効果が発動して、アレを持ってくるなんて……!?」

 

「それが《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》の強みですよ。手札から、フィールドから、デッキからでも、墓地にさえ行けばブルーアイズを呼び込める。チューナーだからシンクロ素材にしても発動するってわけだ……!」

 

「すっげぇ……!! もうすぐあのブルーアイズが見れんのか!!」

 

「……って、あれ? 何でお前、そんなに海馬のやろーのカードについて詳しいんだ? アイツのデュエルは知ってるけど、あんなカード初めて見たのによ」

 

「うっ!? い、いや、ほら。俺の家が家でしょう? 新しいカードに関しては結構耳が早いんですよ」

 

「あー、そういうことか。流石だなぁお前んとこの会社は」

 

 

  危ねぇ。興奮しすぎて前世の知識を披露してしまった……チューナっていうネオドミノ発祥のカードの上、実質海馬瀬人個人のみが使えるカードなんだから、今日初めてお披露目の可能性もあるのに……他の連中に聞かれてやしないだろうな。

 

 

「続けて手札から魔法カード発動!《トレード・イン》! 手札のレベル8モンスター1体を墓地へ送り、2枚ドローする!! ブルーアイズを墓地へ送りドロー!!」

 

 

 

  手札に加えたばかりの《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を即座に墓地へお送り、再び手札を交換する社長。その行動にブルーアイズの登場を心待ちにしていた生徒一同は肩透かしを食らったようだ。やっぱり手札が悪いのかと、がっかりした様子でいる。克也先輩にいたってはざまーみろと笑っていて、完全に手札事故を起こしていると考えているようだ。

  俺から言わすと、こうも手札を交換し続けられている時点で、事故を起こしてるどころか思いっきり回転してるんだが、そこが分からない辺り、やはり現時点での先輩のデュエルタクティクスはまだまだである。

 

 

  しかし、それは対戦相手のジャックには当てはまらない。ブルーアイズが捨てられた瞬間から既に苦々し気な表情で警戒している。

  そんなジャックの態度により一層笑みを深くし、海馬社長はついに本格的に動き出す。

 

 

  「ククク……ブルーアイズが墓地に行くことの恐ろしさを理解できていることは褒めてやろう……! 行くぞ!! 手札から魔法カード、《復活の福音》発動ッ!!」

 

  「ッ……やはり来るか!!」

 

  「これにより、俺の墓地のレベル7か、レベル8のドラゴンを蘇らせる!! 出でよ……原点にして最強の、美しき我が僕よッ!!」

 

 

 

 

  その瞬間、会場全体の人間が、直前までの己の考えを改めた。彼はかの伝説を召喚するのに、時間をかけようとしたわけでもなく、まして諦めたわけでも全くなかった事を。

 

 

 

 

  「降臨せよ!! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》ッッ!!!」

 

 

 

 

 

  海馬瀬人が声高にその名を叫べば、神々しい光が天から降り注ぎ、フィールドに一つの大きな魔法陣を描き出した。

  そこから即座に飛び出してきたのは、目にした者全を魅了する、美しい白。煌めく一対の翼が雄大に羽ばたき、フィールドを駆け巡るように宙を舞ってから、ついに彼の傍に降り立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  咆哮が響いた。

 

 

 

 

 

 

  聞いただけでその純粋な力に平伏したくなるような、余りに猛々しい雄たけび。

  それを眼前で聞いてながら、海馬瀬人は平然と立ち続ける。

  ……いや、平然としているんじゃない。最も信頼する最強の僕を呼び出し、その力で目の前の敵を打ち倒す事に、彼は今、史上の喜びを噛みしめている。

 

 

 

 

 

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)】☆8

 

 ATK:3000

 

 

 

 

 

「……出やがった……《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》……1ターン目から……!!」

 

「あれが……伝説のモンスター……世界に4枚しかない超レアカード!!」

 

「っ……!!」

 

 

  十代と先輩が、それぞれの感情を胸に、その光景から目を離せないでいる。俺自身、初めて生で見る本物の伝説に、言葉が出せない。

  会場もまた静寂で包まれていたが、それはほんの一瞬の事だった。

 

 

 

「う、う、ううおおおおおお!!!」

 

「すげええぇーーー!! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》!! 本物だぁっ!!」

 

「なんて、綺麗……!!」

 

「これが、海馬瀬人のエースモンスター……!!」

 

 

 

  生徒達が興奮で沸き立つ中、それらには全く目も向けず、海馬瀬人ははジャック・アトラスを見つめていた。

 

 

 

「ククク、どうした。ブルーアイズの姿を見て、恐れのあまり声も出ないか?」

 

「……フン、馬鹿を言うな。攻撃力3000……確かに上級モンスターとしては最強格のステータスだが、所詮は通常モンスター! 何の耐性も持たないバニラカードなど、俺のターンで簡単に破壊してくれる!」

 

「俺のブルーアイズを倒す? ふぅん、面白い……これを見てもまだそんな寝言が言えるなら、やって見せるがいい!!」

 

「!!」

 

「俺はまだ通常の召喚を行っていない……《マンジュ・ゴッド》を召喚!!」

 

 

  海馬社長が手札から1枚のカードをモンスターゾーンに叩きつけるに配置すると、ブルーアイズの隣に、全身から無数の腕がところ狭しと生えている仏像のようなモンスターが出現する。

 

 

 

 

【マンジュ・ゴッド】☆4

 

 ATK:1400

 

 

 

 

「《マンジュ・ゴッド》だと!? 召喚時に儀式モンスターか儀式魔法手札に加えるモンスター……!」

 

「知っているならば話は早い……《マンジュ・ゴッド》の召喚に成功した事で、俺はデッキから儀式魔法を手札に加える!」

 

 

  社長の声に応るように、マンジュ・ゴッドがその万の腕の内の一つを掲げた。掲げた先から光が迸ると、光は社長のデッキに吸い込まれ、そこから一枚のカードを手札に運び出す。

 

 

 

「俺が加えたのは……《白竜降臨》!!」

 

 

 

  社長が見せつけたカードの名を聞いて、この先の展開が読めた俺は思わず声を上げる。

 

 

「まさか、このまま2体目も行く気か!!」

 

「2体目? 何の事だよ」

 

「あぁ、あの儀式魔法で呼べるモンスターは―――」

 

「《白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)》……だろ?」

 

「! 先輩、知ってるんですか?」

 

「昔アイツとデュエルした時に見たんだよ……畜生、嫌な事思い出すぜ……!」

 

「えぇ!? やっぱりデュエルした事あったんじゃんか城之内!! 何で教えてくれなかったんだよー!?」

 

「うっせぇ!! 負けたデュエルの話なんかしたいわけねーだろーが!!」

 

「ですよねー」

 

 

  思わぬ切っ掛けから先輩の昔話を聞き出そうとする十代と、それを嫌がる先輩とでやかましくなりそうだったので、デュエルの続きを見逃すぞと十代に言うと、十代は即座に黙って椅子に座り直した。

 

 

 

「そして《白竜降臨》を発動! これにより、俺はレベル合計が4以上になるように、手札か場のモンスターをリリースして、手札の儀式モンスターの儀式召喚を執り行う!! 場のレベル4《マンジュ・ゴッド》をリリースして、出でよ! 《白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)》!!」

 

 

 マンジュ・ゴッドの姿が光に包まれて消えると、それと入れ替わるようにして、ブルーアイズと比べると小さめな、しかしそれとよく似た姿の白い竜と、それに跨った純白の鎧に身を包んだ騎士が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)】☆4

 

 ATK:1400

 

 

 

 

 

「ナイト・オブ……ホワイトドラゴン……! まさかそいつも……!!」

 

「その通りだ! 俺は《白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)》をリリースして、効果発動!! 場のこのモンスターをリリースすることで、デッキに眠る《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を、特殊召喚する!!」

 

 

  白騎士がその手の剣を天に掲げる。天井に光の玉が現れると、騎士を乗せた白竜は光に向かって飛んでいき、その姿が光に消える。

  直後、玉は轟音を発して光の柱となってフィールドに降り注ぎ、純白の旋風を巻き起こす。光の竜巻が晴れれば、そこには2体目の最強ドラゴンがいた。

 

 

 

 

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)(2)】☆8

 

 ATK:3000

 

 

 

「これで、2体目だ……! 《白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)》の効果を使用した場合、そのターンブルーアイズは攻撃宣言を行う事ができんが、そもそも攻撃ができん先行においては無意味なデメリットだ」

 

「……!」

 

 

  2体のブルーアイズの咆哮が鳴り響くが、それを掻き消さんばかりの歓声が巻き起こる。

 

 

「凄い……! 一度に2体も最上級ドラゴンを……!」

 

「ブルーアイズが2体並ぶなんて、俺まだテレビでしか見たことなかったよ!!」

 

「それも先行1ターンでだぜ!?」

 

「海馬瀬人……流石にこんな学校を作ろうとするだけあるよな……!!」

 

 

  誰もが社長のデュエルを称賛し、憧れの眼差しでその姿を見つめる。先ほどの手札事故だと馬鹿にしていた先輩は何処へやら、射抜くほどの熱い視線で、海馬瀬人という男のデュエルを睨みつける。十代はもう言わずもがなだ。

 

 

 

  しかし、それと同時に、俺たちはこうも考えている。

 

 

 

  2体召喚したのなら、もしやひょっとして、残りも1体も出るのでは、と。

 

 

 

 

「1体も2体も大して変わらん! 全て俺のエースで破壊してくれる!!」

 

「フハハハハ!! 誰が2体と言った? 俺の全力はこんなものではないわッ!!」

 

「!!」

 

「俺はカードを1枚場に伏せ、ターンを終了する! 同時にこのエンドフェイズ、墓地の《太古の白石(ホワイトオブエンシェント)》の効果が発動する!!」

 

 

 新たなカード名を聞いて、俺はまたも勢いで思った事をそのまま口にしてしまう。

 

 

 

「《太古の白石(ホワイトオブエンシェント)》!? 最初の《手札断殺》で《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》と墓地に送ったのはそれか!!」

 

「こ、今度はどんなカードなんだよ!?」

 

「あれもレベル1のチューナーだが、《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》と同じようにどこから墓地へ行っても効果が発動する! 《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》と違って、発動タイミングはそのターンのエンドフェイズと遅めだけど……その分発動する効果は白石の上位互換だ!」

 

「上位互換……!? どういう事だよ!」

 

「デッキから手札に呼び込めるのもいいけど、手札じゃなくて場に直接出せたら強いでしょう? そういうことです……!」

 

「!! おいおいおい、それってつまり……!?」

 

 

 

  天井のディスプレイには、海馬社長のやろうとしている事を早くも理解し驚愕しているジャックと、心底楽しそうに口元を歪めて笑う社長が映しだされていた。

 

 

 

「このカードが墓地へ送られたターンの終わりに……デッキから、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を!! 特殊召喚するうぅッ!!」

 

 

  社長の言葉が終わりきるより早く、フィールドに大きな亀裂が走り、そこから白の光が漏れ出る。ベキベキと音を立てて現れたのは、白く輝く卵のような物体。更にその卵にも罅が入り、フィールドの亀裂から漏れ出ていたものよりもずっと強烈な光が発生し、誰もがとっさに目を覆う。

 

  何かの産声が聞こえてから目を開ければ、そこには既に、3体の白龍が悠然と佇んでいた。

 

 

 

 

 

「3体の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)――――ここに召喚ッ!!!」

 

 

 

 

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)

 

 ATK:3000

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)(2)】

 

 ATK:3000

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)(3)】

 

 ATK:3000

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

  本当の大歓声、とは、こういう状況の事を言うんだなと、俺はぼんやりと考えながら、目の前の光景に心を奪われていた。

  こっちの世界に来てから、ソリッドビジョンには慣れているつもりだった。前世で様々なソリティア的デッキ運用を見てきた手前、今更どんなモンスターがどれだけ展開されても、そこまで感動は無いだろうとも思っていた。

 

 

 

 

 

  とんだ間違いだった。

 

 

 

 

  カードに目を向けつつ、相対する敵から注意を削ぐ事は無く、己の心から信頼し、魂を込めて作り上げたデッキのカードを、その手で引き、呼び出し、仕掛ける。

  やっている事はいたってシンプルなのに、たったそれだけの事が、今の自分にはとてもできそうにないと感じた。

  海馬瀬人が、目の前で猛る3頭の龍に心を躍らせながらも、決してそれで満足しているわけでも、この状況に慢心しているわけでもない事が、何故だか分かった。

 

 

  信頼。それは、互いが互いを信じること。一方的では成立しないそれを、カードという物言わぬ道具相手に、彼は成立させている。

  そしてカードを信頼しているからこそ、彼はカードの信頼を裏切るような事をするわけにいかないのだ。慢心の末の無様な敗北はあってはならないと、これだけの力を顕現させておいて、決してそれに胡坐をかく事など無く。

 

 

(いや、ひょっとすると、力に慢心する事なくカードを信じているからこそ、この状況を作り出せたのかもしれないな……)

 

 

 

  前世で生きていた頃ではとても考えないような事を自然と感じる俺は、気づかぬ内に大分遊戯王ワールドに染まっていたようだ。

  今はもう、カードを捌くその動きすら、俺には一つの武芸のように見えた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「さて、ジャック・アトラス……先ほどもキングは自分ひとりだとほざいていたが、この布陣を前に、貴様は何ができる?」

 

「……っ……」

 

「ククク、震えているぞ? 確かに貴様の言うように、1体や2体ならどうにかできたかもしれんが……3体全てを退けて、王の称号を守り切る事が果たして貴様に可能かどうか……じっくり確かめさせてもらおう……! 俺のエンドフェイズはまだ終わっていない! 最後にこいつを手札から発動する! 速攻魔法《超再生能力》!!」

 

「!? これだけの展開をしておいて、まだ手札補充を……!!」

 

「このターン、俺がフィールドと手札からリリース、及び手札から捨てたドラゴン族1体につき、カードを1枚ドローする!!」

 

 

 

  ここへ来て《超再生能力》とは……全てのプレイングに一切の無駄が無い。海馬社長は、本当の本当に一切の加減なく、ジャックを全力で叩き潰し、キングの称号を破壊するつもりだ。

 

 

 

「海馬のヤロー、これで何枚ドローできるんだ!? 最初に《手札断殺》で捨てたので2枚と、えぇっと……!?」

 

「それに加えて《トレード・イン》でブルーアイズを1枚、更に儀式召喚した《白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)》も、自身の効果でリリースされてるから、合計4体です……!」

 

「4枚ドロー!? って事は、結局海馬瀬人の手札は、最初の時から1枚しか減ってないじゃんか!? すげぇ……マジですげぇぜー!!」

 

 

  十代がいつにも増してハイになっているが、俺にはそれを咎める事はできない。俺も正直衝動に駆られて叫びたい気持ちがあるし、他の連中も十代並みに社長のタクティクスに興奮しっぱなしなのだから。

  しかし一方で、この圧倒的な布陣を前にして、肩を震わせているジャック・アトラスを心配する声も聞こえる。

  社長に憧れ応援するものがいるように、ジャックを応援している者もいるわけで、そんなキングのファン達からすれば、呼び出された先で余興と称して一方的なデュエルをされてしまうのではと思えば、面白くは無いし不安にもなるだろう。

 

 

 

  だが彼等は安心していい。

 

  あそこに立つ男が、俺の知るジャック・アトラスと同じ本質を持っているならば……あの震えは焦りだとか、恐怖だとかによるものではない筈だから……!

 

 

 

 

「俺は手札から捨てた《太古の白石(ホワイトオブエンシェント)》、《伝説の白石(ホワイトオブレジェンド)》、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》、そしてフィールドからリリースした《白竜の聖騎士(ナイトオブホワイトドラゴン)》の計4体分……4枚のカードをデッキからドロー! ……精々あがいて俺にかすり傷の一つでも負わせてみるがいい! その震える体でカードを引く度胸があればだがなぁ!!」

 

「……俺のターン、ドロー……!!」

 

 

  ジャックは俯き気味のままカードをドローする。天井のディスプレイでもその目元は隠れて伺う事ができない。

 

  すると……

 

 

 

 

「っ……負けないでアトラス様ーー!!」

 

「諦めちゃダメーー!! 頑張ってーー!!」

 

「キングのお前がこんな所で泥つけるなよぉ!! 勝てぇ!! ジャックーー!!」

 

 

 

『ジャック!! ジャック!! ジャック!! ジャック!!』

 

 

 

  次々に彼のファン達が、憧れのキングに激励の言葉を投げかける。あれだけの美しいともいえる海馬社長のプレイングを見せられなお、押されているジャックの勝利を願うあたり、彼のキングとしてのカリスマ性やエンターテイナーとしての才能が伺える。

 

  しかし、不安交じりのジャックコールが鳴り響く中、俺は見逃していなかった。前髪に隠れて見えなかった目の代わりに……不敵にほくそ笑むその口元を……!

 

 

 

 

 

「……ク、ククク……フフフハハハ……!!」

 

「……ふぅん、震えに続いて、敗北の未来を察して笑うしかなくなったか」

 

 

 

  思わずと言った様子で笑い声が漏れ出たジャックに対し、社長が見下したようにものを言う。

  どこか大げさっぽく落胆したような態度の社長の言葉を聞いたジャックは……

 

 

 

 

「――――ハァーーーッハッハッハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

 

 

 

  声を上げて盛大に笑い出した。

 

 

 

 

  何事かと見守るファン達の視線を受けながら、ジャックはその顔に狂暴なまでの笑顔を広げて一喝する。

 

 

 

「海馬瀬人! 心にも思っていない事をベラベラと口にするな!! 俺を焚き付けたいなどと思っているならばいらぬ世話というもの!!」

 

「!」

 

「これだけの純粋なパワーに満ち溢れた敵とのデュエル!! 何と久しい事か!! 貴様の挑発に乗るまでも無い……! 俺の心は、お前という本物の強者を相手に、かつてない程に燃え盛っているわ!! この震えは武者震いというものだ!! これほど心沸き立つ敵と出会っておいて、何も感じずして何がキング!! 何がエンターテイナー!! 貴様がここまで最初から楽しませてくれるというのなら、俺はそれを上回る熱量で全てを魅了し、貴様の全てを、焼き尽くすだけだッ!!」

 

「……ならば見せてみろ……貴様の、魂のデュエルをッ!!」

 

「言われるまでも無い!! 諸君!! 俺の心配をしていたのならばそれは無用だ!! キングは決して、ファンの期待を裏切らん!! 期待を超える形で叶えるからこそのキングなのだ!! 即ち――――」

 

 

 

 

 

 

 ――――キングは一人!! この俺だッッ!!

 

 

 

 

 

 

  自らを支えるファンに対し、目の前の倒すべき強者に対し、そして何よりきっと、自分自身に対して、高らかに宣言されたその言葉は、ファンの不安を拭うどころか、より一層その心を強固に掴んで離さない、ジャック・アトラスという男のカリスマ性として響き渡った。

  先ほどまでと違い、不安の代わりに絶対的な信頼と憧憬の宿ったジャックコールが絶え間なく続く。

  ジャックの存在を今日初めて知った十代でさえ、たった今まで社長のデュエルに魅せられていた事も忘れ、感動のあまりジャックコールに参加している。先輩は元より知っていた事もあってか同じくジャックコール。俺? 俺はどっちにも勝ってほしいから片方を応援する事はないよ。

  ……はっちゃけてるところを見られるのが恥ずかしいという部分もある事は密に、密に……

 

 

  ファンの想いを一身に受け、改めて相対する海馬瀬人を睨みつけると、ジャックは流れるような手つきで1枚のカードを手札から引き抜いた。

 

 

 

「相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚することができる! 《バイス・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚!!」

 

 

  現れたのは、鋭く尖った爪が生えた大きな手足と、緑の翼膜の翼と2本の角を持つ、筋肉が発達した紫のドラゴン。

 牙をむき出しにしたドラゴンが、片足を一歩前に踏み出し両手を広げて唸る。

 

 

「この方法で特殊召喚された《バイス・ドラゴン》の攻守は半減する! 続けて通常召喚! 現れろ! チューナーモンスター、《フレア・リゾネーター》!!」

 

 

  キーン……と何かを鳴らす音が聞こえれば、音叉を両手に携えた、どこか可愛らしい小さな悪魔が炎と共に飛び出してくる。その背中では炎が燃えていて、仮面の奥にはまん丸の赤い目と、三日月のように弧を描いて笑う口元だけが浮かぶ闇が広がっていた。

 

 

 

 

【バイス・ドラゴン】☆5

 

 DEF:2400 → 1200

 

【フレア・リゾネーター】☆3

 

 ATK:300

 

 

 

 

 

 

「出た!! 《バイス・ドラゴン》とリゾネーターコンボだ!!」

 

「来るぞ! ジャックの切り札が!!」

 

 

 

  ファンには見慣れた光景なのだろう。ジャックコールが更に勢いを増す。モンスターとチューナーが揃う事が、ジャック・アトラスのデュエルに置いての、必勝パターンである事を良く知っているのだ。

  対してチューナーモンスターなど噂でしか知らないシティ外からの出身の生徒は、ステータスを下げてまで上級モンスターを召喚する事に何の意味があるのかわかっていない様子だ。

 

 

「おいおい! チューナーってのが今一まだ分かんねぇけど、あんな攻撃力のモンスターを攻撃表示で出していいのか!?」

 

「なー遊我! ジャックは何を狙ってるんだ!?」

 

 

 

  十代も先輩も、ジャックが何かをやろうとしてる事は分かっても、内容が想像できないようで俺に質問してきた。

 

 

 

「その質問には、とりあえずこれから起こることを見てから答えるさ! 見てろよ……お前が見たがってたものの片方が拝めるぜ、十代!」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、チューナーを出してきたか……レベル合計は8……!」

 

「その目にしかと焼き付けろ!! 俺の魂をッ!! レベル5、《バイス・ドラゴン》に、レベル3の《フレア・リゾネーター》をチューニング!!」

 

 

  ジャックの言葉に反応したように、《バイス・ドラゴン》がその翼を翻し宙を舞うと、《フレア・リゾネーター》が音叉を鳴らしてその後に続いた。すると《バイス・ドラゴン》の姿が、その輪郭だけを残して半透明になり、5つの光の粒子、否、星と化す。それと同時に、ひときわ大きく音叉を鳴らしたリゾネーターが、3つのリングに姿を変える。

 

 

 

 

 

 

「――――王者の鼓動、今ここに列を成す――――」

 

 

 

 

 

  3つの輪の中心に、5つ星が一列に並ぶ中、ジャックの力強い口上が始まった。

 

 

 

 

 

「――――天地鳴動の力を見るがいい――――」

 

 

 

 

 

  言葉が続くにつれて、輪と星はその輝きを加速度的に強めていく。やがて光は最高潮に達し、その時を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンクロ召喚ッ!! 我が魂……《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

  眩く輝いた光は、その輝きを『熱』に変え、灼熱の炎と共に爆音を鳴らして地に降り立った。

  火炎の中から姿を現したのは、黒を基調とした赤、というより、紅、真紅というべき色のドラゴンだった。

  しかしそれは海馬瀬人のブルーアイズと比べると、同じドラゴン族かと疑いたくなるほどの姿だ。

  翼が発達している代わりに、短く小さな腕を持つブルーアイズとは違い、腕も手足も長く、太く、胸板は筋肉ではっきりと分かれている。人間のそれと酷似した形状の筋骨隆々の肉体から連なる頭部からは、3本の山羊のものに似た角が鋭く生えており、翼は全体的に刺々しく、死神的な印象を受ける。

 

 

 

 

「…………悪魔、か……?」

 

 

 

 

  そんな誰かの呟きが聞こえた。

 

 

  そう、悪魔。それはまるで、ドラゴンという名の悪魔だ。

 

  光を象徴とするような、白く美しい龍が《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》ならば……これは地獄の業火から生まれ出た、獄炎を従える赤黒い炎の化身。

 

  ドラゴンというにはあまりに、悪魔じみたモンスター。それがジャック・アトラスの魂のカード、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》だった。

 

 

 

 

 

 

【レッド・デーモンズ・ドラゴン】☆8

 

 ATK:3000

 

 

 

 

 

「来たー!! レッド・デーモンズだぁ!!」

 

「そのまま一気に決めちゃえーー!!」

 

「キャー―!! アトラス様ーー!!」

 

 

 

  その禍々しい姿と初めて見るシンクロに驚きを隠せない者たちをよそに、ファンの声量が増大する。

  そんな中で俺は、十代と先輩による質問攻めに遭っていた。

 

 

 

「すげえぇぇぇ!! 何かよくわかんないけどすげぇぇ!! すげぇけどわかんないから教えてくれ遊我!!」

 

「どういう事なんだよ!? あのチューナーってのがやっぱ何か意味があったのか!? どういう条件で召喚できたんだよあれ!!」

 

「それとあのドラゴンの能力は!? どうせ知ってるだろ遊我は!? 教えてくれよーー!!」

 

「やめ、おい、揺さぶるなコラ、落ち着け!!」

 

 

  説明してほしいならその手を離せよお前ら! 締まる締まる!?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「見たか!! これが俺たちの、ネオ・ドミノシティで誕生した力!! シンクロ召喚!! そしてその数多のシンクロモンスターの中で頂点に君臨するのが、この《レッド・デーモンズ・ドラゴン》だ!!」

 

「フッフフフ……! 出たな……レッド・デーモンズ! 最初のターンからシンクロ召喚を決めてくるのは、流石シティのキングと誉めてやろう……!」

 

「言った筈だ。貴様が最初から楽しませてくれるのなら、俺もそれを超えるもので魅了すると!」

 

「面白い……だがこれだけではまだ、俺のデュエルを超えたとはとても言えぬぞ?」

 

 

  依然として、攻撃力3000もの龍が3体、海馬社長を守るように立ち塞がっている。

  6つの青い瞳がレッド・デーモンズを睨めば、炎のような黄色く光る眼で、真紅の龍も睨み返す。

 

 

 

「フン、ならばこのターンで全てのブルーアイズを退かしてみせれば、超えたと判断しても構わんな?」

 

「……やれるものならばな!」

 

 

  それぞれのドラゴンが牽制し合えば、その主たる決闘者たちも、視線で火花を散らした。

 

 

 

 

 

  ……そして、俺は興奮した二人のアホによって視界に火花が飛んでいた。

 

 

 

「シンクロ召喚って結局どういうものなんだ!? 簡潔に説明しろおい! 俺にも分かり易く!!」

 

「っていうか、同じ攻撃力3000じゃ相打ちしても1体しか倒せないぜ!? どうするつもりなんだよ遊我!?」

 

「ぬあああぁーー!! シンクロ召喚はチューナーっつー種類のモンスターとそれ以外のモンスターのレベルの合計が召喚したいシンクロ体のレベルと同じになるように場から墓地に送ってEXデッキから出せる召喚法!! 攻撃力3000でどうするつもりかは見てりゃすぐに分かるから黙れそして俺をは・な・せ!!」

 

 

  無理やり二人を引きはがして何とか息を整える。この二人、最近俺をデュエルに関する歩く百科事典だとでも思っていう節がある。シンクロもエクシーズも見てやっている内に覚えるし、デュエルの展開なんてそれこそ俺に聞くなよ! 本人に聞いてくれ!

 

  俺たちがバカをやっている間も、2人のデュエルは続いてく。

 

 

 

 

「ならば惜しみなく行くぞ!! 墓地の《フレア・リゾネーター》の効果により、このカードを素材としてシンクロ召喚したモンスターの攻撃力を、300ポイントアップさせる!!」

 

「チッ……ブルーアイズを超えたか!」

 

「更に手札から魔法カード、《カード・フリッパー》を発動! 手札1枚を捨てる事で、貴様の場のモンスター全ての表示形式を変更する!」

 

「何!?」

 

 

  カード発動と共に、ブルーアイズ達の頭上にシルクハットを被った奇術師が現れる。その指に垂れ下がる10本の糸がブルーアイズに絡みつき、奇術師が少し指を動かせば、3体の白龍は自らの意思に反して防御態勢を取らされた。

 

 

 

「ぐッ、守備表示にされたという事は、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の特殊能力が……!!」

 

「ほう、事前に調べてあったか。流石に世界に名をはせるKCの社長ともなれば慎重だな! バトルフェイズに突入する!!」

 

 

  主から戦闘開始の合図がなされ、待ってましたとばかりにレッド・デーモンズが唸り声を上げた。

 

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の攻撃!! 『アブソリュート・パワーフォース』ッ!!」

 

 

 

  レッド・デーモンズがその手のひらを眼前で握りしめ、ギチギチと音を鳴らす。その内側から赤色が迸り、指の間から漏れ出てくるのが炎である事を俺たちが認識したのは、レッド・デーモンズがその燃え盛る手のひらを、一体のブルーアイズに叩きつた後だった。

  灼熱を伴う掌底を受け、たまらず悲鳴を上げるブルーアイズを前に、海馬社長がその目に怒りを宿す。

 

 

 

「この瞬間《レッド・デーモンズ・ドラゴン》のモンスター効果発動! 相手フィールド上に存在する全ての守備表示モンスターを、破壊する!! 『デモン・メテオ』ッ!!」

 

 

  力なく地に伏したブルーアイズを後目に、レッド・デーモンズが残りの2体に目を向けた。

  食いしばったその歯牙の中からまたも炎が溢れだす。それが大きく開かれた途端、放たれるのは広範囲に渡って焼き尽くす劫火の息吹。

 

 

「させるかぁ!! 俺はこの瞬間墓地の《復活の福音》の第二の効果を発動するぅ!!」

 

「何!? さっき使った魔法カード!? 墓地で発動する効果が残っていたか……!!」

 

「自分フィールド上のドラゴン族モンスターが戦闘・効果によって破壊される場合、代わりに墓地のこのカードゲームから除外し、ドラゴンを破壊から守る!!」

 

 

  炎が轟音を鳴らしてブルーアイズ達を灰と化すべく迫りくるその最中に、海馬社長は効果の発動を宣言した。炎は3体の内2体のブルーアイズに届く事なく、見えない障壁に阻まれるように2体の正面で塞き止められた。

 

 

「この効果はモンスター1体を対象とするものではない! 一度に複数のドラゴンが破壊される場合、その全てを防ぐことができる!!」

 

「チッ……流石に一度に全てを退けるというのは、貴様相手には難しいか……! だが、攻撃したブルーアイズには消えてもらう! 守備力2500のブルーアイズは、戦闘を行った時点で破壊が確定している!!」

 

 

  障壁に守られるブルーアイズとは逆に、跳ね除けられた炎までを身に受け爆炎に沈む攻撃を受けたブルーアイズ。カードが破壊された時の、ガラスが砕け散るような特有の効果音が鳴り、その存在の消滅を知らせる。

 

 

「くっ、許せ、ブルーアイズよ……今は墓地で羽根を休めろ……!」

 

「2体は仕留めそこなったが……それらの表示形式を元に戻したところで、攻撃力は3000。《フレア・リゾネーター》の能力を得てパワーアップした《レッド・デーモンズ・ドラゴン》には敵わん! 俺はカードを2枚伏せてターンエンド!!」

 

 

 

 

 

 

  ここまで、たったの2ターン。時間にして僅か3分程度。

 

 

  にも拘らずこの攻防、この盛り上がり、この高揚感……

 

 

 

 

 

  魂を賭けた本気の決闘(デュエル)というものが、こうも素晴らしいものなのかと、俺は体も心も震えっぱなしだった。

  もし仮に俺が、同じデッキ、同じ場所で、同じプレイングをしたとしても、こうはならない確信があった。

 

  強くなりたいとは思う。いずれ起こりうる脅威から身をも守る事のできる力が、最低でも必要だ。

  しかしそれは、今の彼等がしているようなようなデュエルに成りえるのだろうか。俺の目指す強さとは、どこに向かうものなのだろう。

 

  ……っと、いかんいかん。思考が変な方にシフトしてたな。

  彼らは彼ら、俺は俺だ。やりたい事、やれたらいいなと思う事。それらはやらなきゃいけない(・・・・・・・・・)事とは別の事だ。

  俺は俺のやるべきことのために、力をつける。

  今は純粋に、この最高のエンターテイメントを楽しめばいい。

 

 

  「スゲー……!! スッゲーよ!! いきなりブルーアイズを全滅させようとするジャックもスゲーし、それを防ぐ海馬瀬人もスゲー!!」

 

  「あー、海馬がスゲーかはともかく……ジャックが凄いのは認める!! 行けジャックー!! 海馬のヤローなんぞボコボコにしちまえーー!!」

 

  「それ、私怨入ってません?」

 

 

 

  楽しい時間は過ぎていくが、まだまだ勝負は始まったばかり……本番はこれからだ。

 

  会場は、これから学び舎として使われる一部とは思えないほど、歓喜と熱気に溢れていた。

 

 

 




信じられるか……? まだ2ターンしか進んでないんだぜ……これで……


ひっさびさに戻って来た作者です。
地の文ありでデュエルを書くのがここまで難しいとは思わなんだ。
何処を削ればいいのかわからんむ!

それはそうとリンクスで財布にダイレクトアタックを喰らってマインドクラッシュ食らった初期海馬みたいな状態から回復したので、これからは真面目に更新するぞ!
できれば週一位でやりたいけど多分無理だから10日に一回位だと思って待ってて

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