ハンターさんオラリオへ   作:ガイジ・ジーガ

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続かない


ハンターさんオラリオへ

「………………」

 

ハンターである男は心底困り果てていた。ついさっきまで歴戦古龍三連続を撃破し、ジェスチャーの軽快なダンスをしていたら、いつの間にか見知らぬ洞窟にいるのだ。新大陸の新たなエリアならば嬉々として突っ込んでいくのだが、ここは新大陸ですらないかもしれない。理由としては何か雰囲気が明らかに違うからという、要は勘である。

 

マップを開くが、マッピングすらできない始末だった。モドリ玉使えば戻れるだろうかとも思ったが、そもそもキャンプ場があるかどうかすら不明で、メルノスが来てくれるかも怪しい。要は詰みである。

 

しかし男はこんな事で諦め切れるような人間ではない。そもそもこんなので諦めていたら、ゼノ・ジーヴァより強い歴戦ボルボロスなんて倒せない。とりあえず男は一度頷き、この謎の洞窟の出口を目指す事にした。

 

歩を進めながら周りを探索する。鉱脈があればピッケルで掘るのはハンターならば当たり前の事である。しかし、鉱脈らしき物もなければキノコもなく、環境生物もいなければ草一本もない。何ともまぁバゼルギウスよりも糞みたいな場所である、と男は思いながら舌打ちした。

 

しかし男はふと思い付く。もしかしたら破壊して新たな道が開かれるタイプのものではないかと。古代樹の濁流しかり、ネルギガンテの寝床しかり、破壊する事で新たな道が開かれるのだ。

 

そうと決まれば男の行動は早い。大タル爆弾を用意して壁に一直線である。脆そうな壁の付近に大タル爆弾を二つ設置して離れ、そこらに転がっている石ころをスリンガーへ装填する。あとは起爆させるだけである。男は腕を上げて構え、大タル爆弾に向けてスリンガーに装填した石ころを発射した。

 

大タル爆弾はある程度の刺激を受けると爆発するタイプの物である。しかし驚く事に、小型モンスターの攻撃ではいくらやったって爆発しないのだ。それなのにハンターの蹴りや石ころ当てただけで爆発するとは……。一体どのような原理なのだろうか?

 

爆発の衝撃によってひび割れた壁は崩壊し、中を晒した。ビンゴである。壁の中には見た事のない鉱石があったが、素材としては申し分ない頑丈さで、更には換金アイテムの黄金の欠片や塊がゴロゴロ出てきた。気分はウハウハである。イビルジョーを一方的に殴り続けて無傷で勝利した時くらいウハウハである。

 

男はポーチへと鉱石を全て入れ、再び出口を探索し始めた。途中、壁が割れてそこからおとぎ話で出てくるようなモンスターが出現した時はとても驚いた。ゴブリンやらミノタウロスやら、空想上のモンスターと戦える日が来ようとは夢にも思わなかった。まぁドスジャグラスより弱っちかったが、そもそも大きさも馬力も違うだろう。しかしながらゴブリンよ。石ころスリンガーごときで死ぬのは何とかならないか?そして剥ぎ取りで魔石という換金アイテムが出た瞬間、灰になって消滅してしまうのも何とかならないか?

 

そうこう色々と考えているうちに、見慣れない格好をした人間の集団に遭遇した。何故だかあの集団も足を止めて男を凝視する。

 

さて、ここで今更ながら男の格好を確認しよう。現在男はカスタム強化したウルズγシリーズを装備し、武器はヴァルハザクのハンマーの最終型の『デモナスの禍根』である。どっからどう見ても死神か何かにしか見えない。

 

「新種のモンスターか!?」

 

集団の一人が武器を構え、他の者達も武器を構えた。男も「えっ、どこどこ!?」と言わんばかりにキョロキョロするが、周りにモンスターらしきものは影も形もない。そこで男は気付く。「あれ?もしや私がモンスターに間違われているのでは?」と。全くもってその通りである。

 

男は自分がモンスターじゃない事を説明するために会話を試みた。

 

「■■■■■■?」

「な、何だ!?詠唱か!?」

 

これはどういう事だろうか?あちらの言っている事は分かるのに、こちらの言語はあちらには通用しないらしい。共通語の筈なのだが……。

 

と、そうこう考えていると、一人が矢を放っていた。しかも見事に顔面直撃ルートである。回避、否、死…!まさかゼノ・ジーヴァ以下であろう連中に冥土送りされる日が来ようとは。男はハンターとなった日から死ぬ事は覚悟していた。故に恐怖はほとんどなかった。あるとすれば受付嬢の食費は誰が払っているのだろうという疑問のみである。いや、これは未練であって恐怖ではなかった。

 

カツン…

 

「なっ!?」

「…………?」

 

顔には当たった。しかし、矢は刺さる事なく鎧に弾かれてしまった。

 

これまたどういう事だろうか?いくらウルズγが頑強であろうと、矢ならぶっ刺さるものなのだが。男は落ちた矢を拾い上げ、驚愕した。

 

「えっ、何これちっちゃ!?」と。

 

こんなのではモスやケルビどころかランゴスタを狩るのにも時間がかかってしまうし、ドスジャグラスを狩る事などもはや絶望的である。いくら防具を一切装備しない変態ハンター達でも、武器くらいはちゃんとしている。

 

あの人間達はモンスターをナメているのだろうか?いくら貧困地域でもハンターナイフやボーンククリ、弓くらいはあるものである。というかなければモンスターに狩られる。それ以下の装備となると、かなりのものだ。というかハンターが一人もいない場所など聞いた事もない。

 

そう思考している間に、いつの間にか三人が武器を振りかぶって目の前にいた。今度こそまずいと思い、少しでも生存率を上げるために両腕を盾代わりにした。

 

ガギャンッ!

 

しかし結果はご覧の通り、相手が弾かれるだけでこちらは無傷である。ハンターナイフ以下とは恐れ入った。

 

「くそっ!ダメだ!全然効かねぇ!」

「ここは下がって報告に戻りましょう!」

 

そう言って退却する集団。報告に戻るという事は、少なくとも彼らの集落に行くという事だ。これは追跡して誤解を解かなくては。男は強走薬を飲み干し、その効果でスタミナが減少しにくくなり、長距離を走る事が可能になる。さぁ、追いかけっこの時間だ。

 

「追ってきたぞ!」

「何かもう逃がしてたまるかと言わんばかりの気迫が!」

「■■■■■■!(話を聞けい!)」

 

 

 

***

 

 

 

見失ってしまった。しかしながらようやく出口に辿り着けた。が、更に悩ましい事態が彼を襲った。全く持って知らない街である。しかもここまで活気のある街は見た事がない。せいぜいが村の祭りに他の村の者が来て賑わう程度である。今男は適当な場所に腰かけ、両手を組んで肘を膝に乗せて頭をがっくしと下げている。どんよりとしたオーラは酷いものである。

 

「おい、あれってモンスターじゃないのか?」

「いや、モンスターがダンジョンの外に出る訳ないだろ。趣味の悪い冒険者だろ」

 

趣味が悪いとは中々言ってくれるな貴様。八つ当たりでハンマーでホームランかましてやってもいいんだぞ?

 

男はそう思いながらも動く事はなかった。ただただがっくしと項垂れているだけである。これからどうすればいいのだろうか?生肉があるから当分は食料に困らないが、寝床がない。ハンター故に野宿には慣れているが、街中でそれは色んな意味でキツい。宿を探さねばなるまい。しかしこちらの言葉は通じないがために、多分無理だ。本当にどうしたものか。こんがり肉うめぇ。

 

「鎧の上から食ってる!?」

「どうなってんだ!?どうやってんだ!?」

 

これくらいハンターなら普通である。というか、これができなければハンターになれやしない。

 

しかしこれから本当にどうすべきだろうか。こんがり肉をたいらげた男は立ち上がり、とりあえず適当に歩く事にした。適当に歩けばイベントでも発生するだろうと思ったからだ。

 

 

 

***

 

 

 

「頼む!僕のファミリアに入ってくれ!」

 

無駄に胸の大きな少女がそう言う。どうしてこうなった。




続かぬ!

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