「うりゃああぁぁぁぁ!!!」
「ぬおおおぉぉぉぉぉ!!!」
押しては押し返され、押しては押し返されを繰り返す腕相撲。ヘスティアとガレスは互角の戦いを繰り広げていた。土台となっているタルが心配かと思われるが、そこはモンハン世界製の代物なので安心してほしい。
さて、何故このような事になっているかと言うと、あの後も懲りずにロキがヘスティアに突っ掛かってはK.O.されたのだが、流石に何度も来られるとヘスティアが根負けし、ある程度の事は話すという事で同じ席で食べる事となった。尚その時ドスの効いた声で「バラしたら……分かるね?」とロキの首を鷲掴みしながら言い、ロキも青褪めながら何度も頷いた。後に「あそこまで命の危険を感じたのは初めてでした」とロキは語る。
そんでもってヘスティアはある程度の事を嘘を交えてロキに話した。ブニの故郷がオラリオからとんでもなく遠い場所にあり、正直オラリオばっかり目が行く自分達では絶対に知り得ない秘境の地である。この衣装や彼の装備はその土地の人々が作った独自の物であり、オラリオには存在しない代物だと。だいたい合ってる。
「それだけかい!他にもっとあるやろ!」と突っ込むロキに、ヘスティアは「もっと知りたいならそれ相応の対価を渡すんだね」と酒を呷った。流石にロキも飛び掛かっても返り討ちにされるのを学習したのか「おんどれぇ…ドチビのくせにナメ腐ってからにぃ…!」と歯をギリィする事しかできない。
とはいえ相応の対価と言って、現在欲しい物が全く無いヘスティア。資金はヘファイストスから等価交換で貰っているし、拠点である廃教会はブニと二人で修復可能だし、何ならモンハン世界の植物を育てるために改造もするつもりだ。手伝ってくれたら教えるよと思ったが、何も知らない第三者を交えて作業すれば、どんなトラブルを起きるか分からない。つまるところ、ロキが何を対価に出そうと無意味なのだ。
『うーん……』
流石に何も教えないというのは後が面倒そうだし、何か妥協点を考えるべきかな。そう思ったヘスティアは席を立つと、ポーチから明らかに入らない大きさのタルを取り出し、床に置いた。当然それを見ていた全員が驚愕し、一部の者は口の中に含んでいたものを吹き出した。バッチィ。
『そ、そのポーチ何やねんドチビィ!』
『それを知りたいんだろう?だから、僕からちょっとだけサービスをしてあげようと思ってね』
腕をぐるんぐるん回してタルへと肘を置く。
『腕相撲で僕に勝ったら、聞きたい事を教えてあげようじゃないか』
てな訳で、ロキはガレスに向かって勝てば秘蔵の神酒を報酬に出すとGOサインを出し、ガレスもまた秘蔵の神酒は飲みたいので、まぁ手加減すれば良いじゃろと了承してヘスティアと腕相撲をする事にした。そして結果はご覧の通り、互角となったのだ。
(こ、この女神凄まじい力じゃ!まさか怪力を司る女神がおったとは…!)
ヘスティアは炉、暖炉、家庭、家族、国家の正しい秩序を司る女神であって、断じて怪力を司る女神ではない。しかしガレスと力勝負できてる時点で勘違いされてもおかしくはない。恐るべしモンハン世界のハンター。
「ロキ……お前良くあんなのに喧嘩売って無事だったな……」
「メッチャ手加減されてたのは良ぉ分かったわ。うん。……え、ヘスティアあいつホンマに何があったん…?」
ドン引きするベートに、ロキは困惑する事しかできなかった。ヘスティアがこうなった原因を知っているであろうブニに視線を向ければ、そこでは自身の故郷について団員達に話しをしている姿があった。
「そのブキのナも……【瞬間レイトウ本マグロ】」
「仲間の危機に駆け付けた凄くカッコいい場面なのに武器のせいで凄くカッコ悪い…!」
「そもそもどうして凍らせた魚を武器に…!?」
「生魚の双剣とかビールジョッキの双剣とか焼いた肉のハンマーとか……イロモノしかいない…!」
「しかも全員パンイチのゴリマッチョ…!」
「ちなみに……キュウジョされたヒトは……トラウマとなった」
「「「「でしょうね……」」」」
ロキは頭を抱えた。こいつの故郷マトモな奴はおらんのか、と。
「どっっっせぇぇぇえええいぃっ!!!」
「うおおおおおお!?」
「へ?ぶべら!?」
突然の雄叫びにロキが腕相撲している二人に顔を向ければ、ガレスの背中を目前まで迫っていた。当然ロキに回避できる筈もなく、そのままガレスのクッション代わりとなった。
「よっ…よっしゃぁぁ…!」
ガレスとの腕相撲を制した右腕を突き上げた。その腕はぷるぷる震えており、ヘスティア自身も汗をボタボタ垂れ流している。
「っかぁ〜〜〜!まさか儂が力勝負で負けるとは思わんかったわい。……ん?ロキ、儂の下で何をしておるんじゃ?」
「お…お前がウチに……飛んで来たんやろ…はよ退けや…!」
「おお、すまんすまん」
よっこいしょとガレスが立ち上がり、ロキは負傷しつつも休憩しているヘスティアの横に座った。
「……なんだいロキ、約束は約束だから何も言わないぞ」
「分ぁっとるわ……。でもこれだけは聞かせろや」
「内容によるよ」
「一々言わんでええ!」
ロキは一度エールを呷ってからヘスティアに聞いた。
「……お前の眷属の故郷は、楽しいんか?」
ヘスティアは少しキョトンとした表情をしたあと、にんまりと笑う。
「もちろん楽しいとも!」