いやメッチャ嬉しいんですけどちんちん回で爆増したので何かちんちんのおかげみたいな何かこう…ね!?何この、何?この感じ!?嬉しいけど!嬉しいんですけどね!?かつて無いペースで執筆が進む程度には嬉しいんだけどね!?いや、けどさ!分かるでしょこの感じ!?
本当にありがとうございます。更新をもってお礼とさせてください。
尚、今までの話を見返して「ちょ、よく見たらやたらカギカッコ多くね?てか七割カギカッコじゃね?」と思ったので今回意図的に地の文を増やしています。どちらが良いとかあればご意見ください。気分で書いてるので反映されない可能性もありますけど。
追記、透形ミリオではなく通形ミリオでした。恐らく辞書登録の際に間違って登録したものと思われます。全国一千万の通形ファンの皆様には誠に申し訳ないことをしました。そして報告してくださったユーニさん、ありがとうございました!
今回のあらすじ
世代では珍しい無個性で落ちこぼれ扱いをされる少年、緑谷出久はヒーローを目指して日々努力…してはいなかった。ヒーローになりたいとは言うもののその為に為すべき努力をせず、雲上の人間に憧れ夢を見る事に逃げて「目指すのは悪いことではない」等と言い訳を重ね、下を向いて生きてきた。そんな彼も中学二年生となり、義務教育の終わりが目に見えてくる。
夢を夢では終わらせることが出来ない。どのような人間であろうと、必ず夢と現実を選択する場面はやって来る。あと一年と半年ほど後に否応無く迫る『夢の終わり』を前にして緑谷は自身の生きる価値がじくじくと音を立てて腐り始めるのを感じていた。
一方その頃ッ!!無免ヒーロー時空の緑谷はッ!!健全にも年相応に『愛し合う男女が夜にやるあのアレ』に興味を持ってしまった発目明十四歳によってッ!!真っ昼間からベッドに引きずり込まれて腕を縛られたあげく服をひん剥かれていたッッ!!!!!
アンケートやってます。本編開始後のオールマイトと修行する一年に関することです。
日曜日。緑谷宅。
緑谷の母、主婦の引子は玄関先のポストに入っていたチラシを必要不必要に応じてより分けつつ、昼下がりのテレビを見ていた。
これは要る。これは要らない。これも要らない。これは要る。そうやって分けている時に目に入ったチラシと、たまたまテレビで放送していた内容が綺麗にダブった。
『という訳で! ○○神社の夏祭りにやって来ました!! いやぁ今年も盛り上がってますねえ!』
「折寺夏祭り……かぁ」
引子の手にしたそれは折寺にある大通りで催される夏祭りのチラシであった。
引子はふと考える。自分の息子は果たして夏祭りなどに行った事があるのだろうか? 齢四歳の頃から常に彼は修行の日々を送っている。それはもちろん自分から言い出したことではあるし、疲れきった姿は日常的でも辛そうにしている姿など見たことは無い。むしろ普通の中学生よりもよっぽど毎日を充実して過ごしているだろう。
引子は普段町中で見かけるような中学生よりも自分の息子が劣っている等とは全く考えていなかった。むしろ逆まである。自分の息子は親友達と切磋琢磨し夢に向かって進んでいる。それは素晴らしいことだ。だが、ソレとは別に、たまには修行の事も忘れて楽しく遊ぶのも悪くないのではないか? そう考えた引子は、チラシを持って息子の部屋へと階段を上る。
息子の部屋の前に来ると、息子の声とその幼馴染みであり彼女でもある少女の声も聞こえた。ソレを好都合と捉えた引子は何も考えずにドアを開けた。開けてしまった。
「出久ー、ちょっとコレ」
今まさに自分の息子が義娘に(性的に)食べられかけているとも知らずに。
「待って明ちゃん! ほんと待って! 下に母さん居る……か……ら……」
「ダイジョーブですって! ちょっとだけ! ちょっとだけですんで! て言うかバレても……あ、お義母さん。どうかしましたか?」
ベッドに手を縛られてさらに
「……終わったら声かけてねぇ~~……」
引子はそれだけを言って扉を閉めた。扉の向こうから上ずった助けを求める息子の声が聞こえるがきっと気のせいだ。
義娘のやけに興奮したような、しかしいつもの興奮とはまるで違う湿り気のようなものを帯びた声が聞こえる気もするが勘違いだろう。
そこで引子はハッと気がつき、もう一度息子の自室のドアを開ける。先程から数秒しか経っていないのに二枚あった義娘の装備が一枚だけになっていたが、今はそんな事は関係が無い。
「明ちゃん、ゴムは?」
「二箱あります!」
ババン! と効果音でもなりそうなほど絶好調顔の発目が何処からともなく色んな意味で描写しづらいパッケージを二箱取り出した。ソレを見た緑谷は驚愕の表情で、引子は諦めの表情で一瞬固まる。
再起動は、当事者でないからこそある程度発目のこじらせ度を正確に把握していた引子の方が早かった。
「……私買い物行ってくるわね……ごゆっくり~」
「待って母さん! 良いの!? ソレで良いの!? てか明ちゃんそれどうやって買ったんうわあ!?」
発目がさっきまで装着していた灰色を緑谷の顔の上に乗せた瞬間を見ない振りしてドアを閉め、階段を降り、祭りのチラシをリビングのテーブルに置いて、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して鞄に詰め、淡々とわずかな化粧をしてから鍵やら財布やらの入った鞄を持って外に出る。
サンサンと、午後とはいえまだ絶好調の日光を浴びた引子は一度深く深呼吸をしてから日傘を自転車に取り付けた。
「……夏ねえ」
引子は万感の思いでそう呟き、チラリと家の二階を見てから自転車を心なしゆっくり漕ぎ始めた。
地元のスーパー。タイムセール終わりの閑散とした時間。
「アッハハハ!! え!? ソレで!? そのまま放ってきたの!?」
「そーなのよ。どーせ何言っても止まる娘じゃないしねぇ」
「ナハハハハハ!!! アーハハハハハ!!! お腹痛ァ!」
スーパーで熾烈なタイムセールを制した引子はそのスーパーの片隅にある休憩コーナーで同じくセールを駆け抜けた爆豪の母、光己との雑談に興じていた。上記の台詞から分かる通り、雑談の内容は今をときめくブッ飛び天災少女、発目明についてである。
彼女の贔屓目に見て法律スレスレ、贔屓目無しなら法やら倫理やら道徳やらをまとめて彼方に放り投げているような行動の数々は常日頃から彼女らの格好の話題となっていたのだった。
「んーでも、出久君本当に大丈夫なの? 無理やりとかじゃないのそれ?」
まあ緑谷達の事を知らなければごく当然の疑問を光己は口に出すが、引子はそれを首を横に振って否定した。
「それはないわねぇ~。出久ならもしも寝込みを襲われたって明ちゃんくらいの女の子なら問題にもならない筈だし」
先程まで思案げだった光己の表情が「へぇー!」と意外性で輝く。過去自分が出したイタズラ心で何度か痛い目を見ている引子は苦笑しながら言葉を続けた。
「光己さんも一回熟睡してる勝己くんに何かイタズラしようとしてみたら良いわ。本当にパッと起きるのよ。どんなに素早く踏み込んでも触れもしないのよ? それに縄脱けくらいあの子なら絶対できるし」
「面白そうな事を聞いた! 今夜やってみるわ!」
「程々にね」
もしかしてとんでもない事を教えてしまったかもしれない。ごめんね勝己君……と心の中で謝り、引子は壁に掛けられた時計を見た。アレから一時間半。念のためにもう少し時間を潰した方が良いだろうか。
そう考えつつ引子は熱中症対策に持ってきていたペットボトルのお茶を少し口に含む。家で淹れたお茶でしか出ない、素朴な風味が鼻を抜けた。
「……まあ、出久はちょっと考えすぎなくらいに色々考えちゃう子だから。だからあの後もし本当に明ちゃんを受け入れたのなら……それは、今の事もこれからの事もずっと先の事も……考えて考えて、その末の事なの……たぶんね」
「……はーっ、信頼してるのねえ」
感心したようにため息を吐きながら自分もお茶を飲む光己をなんとなしに見ながら、でも、と引子はイタズラっぽく笑った。
「私の予想では多分まだ受け入れてないと思う。せめて身体が成長しきるまでは、とか負担が大きいことはしたくない、とか明ちゃんを受け入れたくない訳じゃなくて、とか必死に説明してるわ今頃」
「……わあ、自信満々。良く分かるわねえ」
光己の呆れ混じりの関心に、引子はにっこりと魅力的に笑った。
「親子ですから」
そこから二人の話題は爆豪に彼女ができない事に移り、今の女の子の男の趣味に移り、趣味の雑誌に移り、プランター園芸の難しさに移り、野菜の値段高騰に移り、何の前ぶれもなく全く一切なんの関係も無い全然別の話にブッ飛び、その内なんやかんやで冷凍食品も足の早いナマモノも買っていなかった二人が帰路についたのはさらに一時間と少しの後であった。
尚この日から爆豪は夜な夜な自分の母に寝込みをあの手この手で襲撃され、約半月の間眠れぬ夜を過ごすことになる。合掌。
緑谷宅。夕方。
「ただい──」
「遅かったね」
「───まー。ちょっと光己さんと話し込んじゃって」
リビングに引子が入ってすぐにソファに座った緑谷から恨みが籠った声を投げ掛けられるが、息をするように起こる騒動を経て原作よりも様々な面で鍛えられている引子は特に動揺もせずそれを受け流して台所に入った。
シンク越しにチラリと緑谷を見ると、先程は背もたれに隠れて見えなかったがその膝で発目が緑谷に頭を撫でられ、穏やかな寝息を立てている。何の邪気もないその寝顔を見て何となくクスリと笑った引子に気がつき緑谷は露骨に顔をしかめた。
「……さっきは酷いや。ていうか親のやることじゃないでしょ……アレは」
「どうせ手は出してないんでしょ?」
「どうせって何!? いやそんなの当たり前でしょ!?」
まだ身体も成長しきってないのに無理させられないよ! と明らかに中学二年生が言う台詞ではない事をブツブツ呟いている、完全に引子の予想通りな緑谷の態度に引子はついつい吹き出した。
「なッ、笑わないでよ! 本当に酷いな!?」
「アッハハ、ごめんなさいね……で、どうやってその子を止めたの?」
引子が何の気なしにそう聞くと緑谷の顔面が急速に赤く染まった。そしてえーだのうー、だのと言いづらそうにしているので引子はこれを言わせるのは酷かと判断し、「言わないで良いわよ」と言っておく。「何となく分かったし」とは言わない。
普通に考えれば親に幼馴染みとの性経験なんて話さないし聞かない。まあ当然の事だと言えた。
「……あーそうそう。出久、テーブルの上のチラシ! あなた普段修行ばっかりなんだからたまには仲間の皆で遊んできたらどう?」
引子はそう言ってエコバッグから取り出したほうれん草で机の上をピシッと差す。
「チラシ? ……あー、もしかして気遣わせちゃった? ありがとう母さん。皆に聞いてみるよ」
先程までの気まずい雰囲気をサッと取り払い、緑谷はそのチラシの写真を携帯でとってメッセージを送り始める。
この辺りの切り替えの早さはシュタインや発目といった並外れた才能の代わりに社会性を失った人間達と付き合ってきた成果である。
「来週の夏祭り、皆でどうかな……っと」
「!!!! 夏祭り!?」
「わあビックリしたぁ……明ちゃんおはよう。良く眠れた?」
緑谷の夏祭りというワードを聞いて即座にその膝から跳ね起きた発目は、跳ね起きたその体勢でピタリと止まり逆再生映像のようにスルスルと元の膝に戻っていった。そして緑谷の脚に顔をぐしぐしと猫のように擦り付けながらモゴモゴと話す。
「出久さん、私今度の夏祭り裏方として参加することになってるので出久さんもついてきてくれません?」
「うん……うん!?」
そして引子の気遣いは泡と消えた。
翌日。結田府中学校通学路。
多くの学生にとって夏休みとはすなわち『学校に来なくて良い期間』である。
休みなのだからそりゃあ当たり前であるが、しかしそうでない生徒も中にはいる。それは部活であったり、受験であったり、その他であったり、様々だ。
しかし、部活など知る限りは何もしていない、そしてまだ二年生なのだから中学にわざわざ来てまで勉強をすることはない……そういう人間も居るのかもしれないが決してそういう性格ではない……筈の。
「……心操? 何で制服?」
最近何だかちょっと気になる心操人使が制服で通学路を歩いていたら、そりゃー年頃の女の子である芦戸三奈としては気になってしまうわけで。
芦戸は素早く身体をチェックする。背中にいつも使っているリュック、手にはコンビニで買った冷たくて甘いスムージー。移動中なので片耳にだけ付けられたカナル型イヤホン。色がかわいくてお気に入り。そして──制服。
(よしオッケー! 尾行開始!)
この服装ならまるで怪しいところが無い。もし心操に見つかっても行き先が同じなのだから問題ない。ただ学校に行くと言えば良いのだ。もし彼が全く違う場所に行くとしたら、その時はその時だ。
(完璧な理論! 私天才!)
とか芦戸が思っている間も心操は待ってはくれない。芦戸の存在を認識していないのだから至極当然の事だが、それに気がついた芦戸はやや急ぎぎみに彼を追いかける……が、差が縮まらない。それほど脚の長さに差は無いのだが、元から心操はこれ程までに早歩きだったろうか? と芦戸は疑問に思いつつ必死に足音を消してターゲットを追いかける。追いかけて追いかけて、追い付けなくて、ついには見失って───
「はっ……はっ……はっ……アレ?」
───気が付けば、よく分からない裏路地に入り込んでいた。
雨ざらしでボロボロになった洗濯機、異臭を放つ黒いゴミ袋、打ち捨てられたボロボロの傘とカビの生えた鞄。壁全体を覆うコケ。上から煙草の吸い殻がポトリと落ちてきて、驚いて上を見ると誰かが「チッ」と舌打ちをして勢い良く窓を閉めた。
ヤバい。ここはなんかヤバい。絶対ダメな場所だ。芦戸は普通に恐怖を感じ、脚を震わせた。
「やば……迷った?」
「そういうこったァなあ」
ていうかここどこ……と途方にくれた芦戸の真後ろから、急にしわがれた老人の声が聞こえてギョッとした彼女は勢い良く振り向く。その視界の先には……
「ニャー」
「…………猫」
ボロボロの洗濯機に座った猫が居た。そしてその猫は自分の顔をくしくしと前足で拭いながら、
「で、おめさんはこんなとこまで何しに来た?」
「ねね猫が喋ったあああああ!?」
思い切り顔の作画が変わるほどに驚いた芦戸の頭部に、猫が座っていた洗濯機の影から出てきた簡易変声マスクを装着した心操がチョップをかます。その間に猫はどこかへと去っていった。
「ってありゃ? 心操じゃん。何してんの?」
「俺の台詞だろ。お前何で俺を尾行してたの?」
マスクを取り外しながらの心操の一言にガキ、と芦戸は一瞬固まるが、素早く体勢を建て直す。何と言っても彼女はこういう時のために回答を用意しているのだから。
「ほ! ほら私もさ! 私も学校行く途中なんだよね! 心操を追っかけてた訳じゃなくて!」
「そうか。じゃあこっから一人で学校まで行けるな。なら俺はこれで」
「待って待って待ってごめんなさいごめんなさい謝るから置いていかないで!?」
三分後。
表通りに出て一息ついた後、改めて心操はもう一度芦戸に向かい脳天チョップを放った。
「っ痛ぅ……!」
「お前何なの? 何してんの? 本当にあそこで俺に撒かれて一人になったらどうするつもりだったの」
心操からの容赦ない口撃が芦戸のメンタルをぞふりと抉る。実際問題あの路地裏から表通りに出るまでの複雑怪奇な道のりを半分も覚えられなかった芦戸はただ縮こまって「ごめんなさい……」と謝るのみだ。しかしその必死の姿勢が功を奏し、毒気を抜かれた心操はガリガリと頭を掻いて自分も頭を下げた。
「……つっても、おまえがどこまでも着いてくるからムキになった俺も悪いか……悪かったな芦戸。もっと早くまるで尾行できてない現実を教えてやるべきだった」
「くっ……謝られてるのにそこはかとなくバカにされてる……!」
わしわしと癖っ毛を抱えてムギー! と全身で怒りを伝える芦戸を見て少し笑む心操だが、ふと腕時計をみて顔を少し焦らせる。
「……やばい、芦戸なんかに時間取られてる場合じゃないんだった」
「『なんか』ってどういうこと!? ……あ、そっか、学校に用事なんだよね? ごめん、早く行った方が良いよね」
(同じピンクでも何なんだこの聞き分けの良さの違いは)等と失礼な事を考えながら心操と芦戸は少し急ぎ足で学校へと向かう。その間に心操は芦戸がなぜ夏休みに学校などへ行くのかと訪ねた。
「私? 私はダンスの練習しようと思って。ほら、やっぱり市民体育館とか町のダンスルームとか借りたらお金かかるじゃん? 校舎裏ならタダだし。心操は?」
「ダンスねぇ……俺は戦闘訓練だよ。友達に体捌きとか駆け引きを教えがてら」
戦闘訓練、と聞いた芦戸の目がキラリと光った。
「戦闘訓練!? てことは……心操ってヒーロー志望!? どこどこ、どこの高校行くの!?」
「一応雄英考えてる」
心操がそう言った瞬間、芦戸の瞳がキラリと光る。コレはヤバい、と心操はとっさに思い話題転換を考えるがそんな事が出来る訳もない。
ちなみに何がヤバいのか。それは……
「私も! 私も雄英志望なの! 凄いね心操!」
「……あー、まあ」
「その戦闘訓練、私も混ぜて! ダンスならまたいつでも出来るし!」
「……良いケド」
こうなる事が予想できるからだ。心操は深い溜め息を吐いた。
結田府中学校体育館裏。昼前。
「おう心操! おまえが遅れるなんて珍しいな! 何かあった……ん? 誰その子」
「俺のクラスメートの芦戸。来てる途中でバッタリ会ってな。こいつもヒーロー志望らしいんだ。訓練混ぜてやって良いか?」
「おう! いいぞ! 俺あ切島鋭児郎! よろしくな芦戸!」
「芦戸三奈だよ! よろしくー!」
漢気に生きる漢切島にそんな事を期待しても無駄なのは分かっていたが、ちょっとくらい拒否して欲しかった。と思ってしまう心操。
何を隠そう彼は結構芦戸が苦手なのだ。嫌いという訳ではないのだが、彼女の割とぐいぐい来る強引な態度は過去幾度となく辛酸を飲まされてきた
つまり心操にとって芦戸は攻撃力の低い代わりに防御力が高い発目、といった認識なのだ。かなり失礼なので芦戸に謝った方が良いだろう。
まあしかし混ぜるといってもこの夏休み中ずっと定期的にやってきた切島との訓練は内容をそう変える必要もない。と言うより変えるほどの内容が無い。訓練と言っても、コスチューム申請が要らない程度の簡易的なコスチュームを着けた心操と硬化した切島で組手を行い気になった点があれば互いに指摘する、というだけの物だ。そこに芦戸を加えるだけ。
心操は背負っていた大きなリュックから籠手と脚絆と簡易変声マスクを取り出し装着しながら芦戸に声をかける。
「じゃあとりあえず芦戸は見ててくれ。今の動きは何、とかここはこうすれば、とかは後で言って」
「はーい!」
そう言って腕に装着した発目謹製の軽量仕込み籠手をキチリと鳴らす心操。切島は上の制服を全て脱いで肌を晒し、ヘアバンドで黒髪を全て上に纏めて硬化させた手刀をカンカンと打ち鳴らす。
「今日こそ一本入れさせてもらうからな!」
「初めて一ヶ月で一本取られてちゃ俺の立つ瀬が無いだろ。悪いけどまたの機会にしてくれ」
「……上等! 行くぜええええ!!!」
ダッ、と全身のバネを使い全速で心操へと突撃する切島。同時に全身を硬くし、一つの砲弾となった彼は勢い良く振りかぶる。
「学習能力無しか」
とそこで心操がカウンターで顔面にどさくさで掴んでいた砂をぶちまけ、それに切島が怯んだ所で脚を払い強かに尻を打たせた。
「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙! ゙! ゙! ゙! ゙! ゙! ゙」
「お前さあ……いい加減突撃やめないか?」
尻を押さえて呻く切島と立ったまま呆れたように話す心操。ブルブル震えつつ立ち上がった切島は、「ふん゛っ゛!!」と気合いを入れてファイティングポーズを取った。
「最初からそうしろって」
「突撃がなきゃ漢じゃねえ! っら!」
「漢を何だと思ってんの……っと」
切島の放つ右ストレートをスルリとかわす心操。そのまま同じように拳を返すが片手で流され、その頬を掠めるに終わる。ならばと再び脚払いを仕掛けるが切島も同じタイミングでローキックを放ち相殺。しかし、そこから心操は切島が脚を引く前に爪先でふくらはぎを引っかけて思い切り脚を振り上げた。そして意図しない形で足が上に向かってしまった切島は当然バランスを崩す。
「ウオォッ!? 危なっ」
「……っら!」
その時にはもう脚を元の位置に戻している心操は、切島のがら空きになっている鳩尾に突き蹴りを放った。硬化している肉体と脚絆の軽金属が当たり甲高い金属音を出す。そして個性があるからと手加減もされず思い切り蹴り飛ばされた切島は再び尻を地面に強かに激突させた。
「っごおおおおおまた尻……っ……!! くそぉ……まだ十秒経ってねえのに……やっぱ心操超強ぇ……!」
「完全に経験値の差だな。俺が修行初めて一ヶ月の時は……殴られてゲロ吐くのが仕事だったな。切島は素質あると思うぞ」
ちなみに経験の差で言えば七、八年の差がある緑谷や爆豪を普段は相手にしているので修行初めて一ヶ月どころか頻度は減ったものの未だにゲロゲロ吐かされる立場に彼は居るのだが、別に言う必要もないので特にそれに言及する事はなかった。心操に自分の恥態をわざわざ晒す趣味はないのだ。そしてそんな事を知りもしない切島は「お、マジでか! ありがとな!」と輝く笑顔で差し伸べられた心操の手を取った。まあ切島の性格なら心操のそれを知っても態度は変えないであろうが。
そして、その一連の動きを見ていた芦戸はというと。
「……っはー、すっごい……」
ぽかん、と完全に呆気に取られていた。
そのまま二度、三度、四度と切島が心操に一発も入れること無く良いように転がされるのを見ながら芦戸は自然と身体をうずかせる。倒れ付した切島に硬化が通用しない関節技を決めながらその様子を見ていた心操はここまで見せつけて怖がらないなら、と芦戸に声をかけた。
「芦戸、次やるか?」
「あいだだだだいだいだギブギブギブ! ギブって!」
「やる!!!!」
「聞いてる!? いだだだ!」
待望の順番がやって来てピョン、と跳ねるようにその場に立った芦戸だが、あることを思い出して少し顔が曇る。
「あ……でも、アタシの個性……あんまり人に向けたら駄目なんだよね。危ないから」
「……どんな個性?」
ほんの少し、芦戸にも切島にも気づけない程度だが、『危険な個性』と聞いた心操の雰囲気がほんの微かに尖る。だがそんな些細な変化に気がつけるほど彼を知らない芦戸は、自分の個性を心操に明かす。
「私の個性『酸』でさー、服とかフツーに溶けちゃうんだよね。だからヒーロー科行きたくても個性練習もマトモにできなくてさー」
「あー、確かに酸はキツいわな。ウヒー、心操にゃ敵わねえし芦戸とは相性悪いし……もしかして俺この中で一番弱いんじゃ……」
「あ、言えてる! 私の個性ならこの中じゃもしかして最強かも! んで切島が一番弱っちい!」
「絶対そうだよ!」「絶対!? いや! やってみなくちゃわかんねえって! やらない内から諦めるのは漢のすることじゃねえ!」と言い合い笑い合う二人を、少し遠いものを見る目で一瞬だけ見つめた心操は発目を散々にせっついたあげくチョコアイス三日分を代金にむしり取られた上で取り外しやすく改良してもらった籠手をワンタッチで地面に落とす。カラン、という音に二人がふと心操の方を向いた。
心操は何も言わずに手足の防具を取り外し、天才フランケン・シュタイン謹製の超頑丈な制服とマスクのみを身に付けた状態でニヤリと笑った。
「まー二人とも『超』弱い初心者だからな。防具も要らないだろ。せっかく二人居るんだからハンデとして二人同時に来いよ」
あまりにも見え見えであからさまな挑発。これでここに居るのが緑谷であれば「あはは、嘗められてるなー」等と歯牙にもかけず、シュタインならば頭部の螺子を回しつつ「おや、互いの実力差も理解できないんですか? はぁー全く、アホですねェー」と挑発を返していただろう。爆豪なら全ての怒りゲージを音速でぶち抜き感情でどうこうなる地点を千分の一秒で通過、顔面からは全ての感情が消え去りあらゆる手段で眼前の敵を冷徹に滅殺するキリングマシーンと化しているだろう。一人だけ何か違くね?
「……むっ」
「いやいや……まあ初心者だろうけどな……そんなに言われんのは……」
ただこの場にいる二人は多少優秀なごく普通の中学生。理不尽を不条理で塗り潰される生活で培われる感情を激しく動かされない術も、挑発を挑発とも感じないような圧倒的実力も、昂った感情全てを戦闘力に直結させる極めて特殊な精神構造も持ち合わせていない。だから彼らは普通に怒り、普通に冷静さを欠いた。
「ッヌオオオオオ!」
ダッ、と心操に駆け寄った切島は硬化を使わずに拳を繰り出す。が、心操は余裕をもってそれを回避、反対に自分の側に腕をさらに引っ張り込み、大きくバランスを崩させる。そして再び、今度は思い切り勢いを付けた脚払い。
「ヌオオオオオ!!!!!?」
「えっちょっわあ!?」
日の当たりにくい校舎裏で思い切り地面を払うようにした影響で心操を中心として砂が辺りに飛び、一瞬怯む芦戸。
空中で半回転し頭からひっくり返ってしまった切島を放ってそちらに駆け寄ると、心操は及び腰になった芦戸の目前でパンッ! と強烈に両手の平を撃ち合わせた。俗に言う『猫だまし』である。それで元々後ろに重心がいっていた芦戸は至極簡単にバランスを崩し、トスンと尻餅をつく。
「っとまあこんな──」
「おいっ!!! そこで何やっとるかぁ!」
心操が少し得意気にパンパン、と手を払っていると、そんな怒り狂った中年男性の声が聞こえた。その声に驚いた芦戸と切島は即座にその場から起き上がる。
「えっ!? スンマセ……あ」
「わぁ!? 何々……っ」
そして、その体勢で固まる。周囲には自分達以外に誰もおらず……ただ二人の前で心操がマスクを外した。
「……制圧完了……っとまあ個性がどういった物かに関わらず、人間の二人や三人ならこうやって体術で圧倒できる。勿論相手の個性の如何で状況は変わるし、今回は二人とも俺に遠慮して個性使ってなかったしな。対ヴィラン戦だとまあこうはいかないだろうけど……」
と言って心操が個性を解除した瞬間、二人がワッと走り寄って心操を囲んだ。
「心操! 今の何だ!? 身体が動かなくなったぞ!? 今のが洗脳!? お前の個性!? スゲエ!」
「凄いよ心操ー! キュッて切島避けてバアって投げ飛ばしてそれでパン! って! 私触られてないのに体勢崩された! ビックリしたー! アレって私が酸使うから触らないようにってことだよね!? 凄いよ凄い! 最後の怒鳴り声もそのマスクだよね!? 全然心操の声に聞こえなかった!」
正直なところ、心操はある程度の覚悟を決めて組手の最後に個性を使った。
───かつて、小学生になりたての頃に心操は大勢のクラスメートが見る前で個性を使った事があった。クラス内での口論が加速して、一触即発の雰囲気だった時だ。
今となっては最早何がきっかけだったのかは分からない。だがその時、何かが切っ掛けでクラスは大喧嘩となった。取っ組み合い、引っ掻き、泣き、喚き、転け、のし掛かり、とんでもない混乱が起きた。そしてその時、心操はほぼ無意識に声に『個性』を発動させてしまった。
「みんなっ! やめろよ!!!!」
効果は劇的だった。その場の争いを止めたという意味でも、その後周囲の心操の扱いが変化したという意味でも。
心操は小学校で『怪物』となった。
……そんな
故に心操は個性を使う時、初めてそれをかける人間には『怪物扱いされる』ととりあえず覚悟を決める。それは己の心を守るためであり、心無い軽蔑と恐怖の視線から素早く目を反らす為でもある。
……そして今までその行為が無駄だった事は無かった。心操に個性を使われた人間は例外無く彼を嫌悪し、そして彼に恐怖した。程度の差はあれどそこに違いは無かった。
「……お前ら、俺が怖くないのか? 何でそんなに簡単に俺に話しかけられるんだよ」
心操にとってそれは当然の疑問。しかしそれを聞かれた二人はわあわあ騒ぐのを止め、互いに不思議そうに顔を見合わせた。
「何でって……なあ」
「うん。心操怖がる理由なんて無いし」
その分かるんだか分からないんだか分からない言い方に若干の苛立ちを感じつつ心操は己を貶める言葉を重ねる。なぜそんなに自己否定をするのか自分でも理解しないままに。
「……あるだろ、怖がる理由。他人の動きを完全にコントロールできる個性だぞ? 俺なら絶対近づかない」
「……? でも心操悪いことに使わないじゃん。私が付きまとうのもめんどくさそうにするけどそれ使って無理矢理どうにかしようとした事無いし」
「危険な個性なんてその辺にいくらでもあるだろ。そんなに気にすること無いって!」
かつての昔、幼い頃に心操は自らを理解できる人間など何処にもいないと諦めた。しかし小学校五年生で非凡すぎる三人と出会い、その小学生らしい幼稚な思い込みは叩き壊された。
そして今……今、自らをあの三人が認めたのはあの三人の非凡さあってこそ、という心操の大きな大きな思い込みが、優秀であるが特異ではないこの二人によって再び壊されようとしていた。
「……ああああっ! もう! 何悩んでんのか知らないけどそんな辛気くさい顔するのナシ! 笑うのだーっ! ね!」
「おお! そうだぜ! とりあえず身体動かそう! んで飯食おう! 奢るぜ!」
言いたいことはあった。感謝も嫌味も疑問も一気に湧き出てきた。
この二人に言いたいことがたくさんあった。たくさんあって、ありすぎて……忘れてしまった。
「……そうだな。続けよう」
「おーっ!」
「オッシャア!」
心操人使は学外にしか友人のいない結田府中のはみ出し者だ。
「切島、芦戸」
「ん? なになに?」
「おう! 何だ?」
彼ら二人には自分の言った言葉が心操にどれ程の影響を与えたか、一生かけても分からない。どれだけ高く見積もろうとも精々が『危険な個性』止まりの彼等には『忌避される個性』を持って産まれた人間の感情など察することも出来ない。
「受験まで大体後一年半、俺は全力で行くから──お前らも着いてこいよ」
「っははは! ナニソレ! うん、よろしく心操!」
「ッたり前だ! その頃にはマジでお前から一本取ってやるかんな!」
今日の訓練が終わって家に帰ったら、心操は真っ先に一番最初に友人になってくれた彼に今日の報告をしようと考えた。
かつて心操人使は学外にしか友人のいない結田府中のはみ出し者『だった』。
今は違う。
「よっし、じゃあ一人づつローテで行こう」
「わーい!」
「ッシャ! とりあえず目標は二十秒持たせる事だな!」
心操人使は多少周りとの折り合いが悪いものの泣くし笑うし友達も居る、ごく平凡な中学生だ。
発目の下着
一枚五百円の量産品のため微妙にサイズが合っていない。四セットの下着をタンスから適当に取って使っているため上下が同じ色の日は少ないという。
尚一年後に物干し棹に吊るしていた緑谷のパンツを興味本意で履いてみてその解放感ある着心地に驚愕、以降パンツに関しては種類が男物のトランクスに変わる。ブラジャーに関しては見かねた引子が婦人服売り場で適当に見繕ったものを着け始める。本人いわく「これもショージキ窮屈なんですけど無いと本当に痛いんですよね。だから仕方なくです」との事。
…こんなマジでどうしようもない女の子の設定にする必要あった?